説明

アミノオキシ化合物の製造方法

【課題】環境負荷が少なく且つ工業的に有利な方法で、アミノオキシ化合物を高収率で製造でき、光学純度が高い光学活性なアミノオキシ化合物も製造できる方法の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるニトロソ化合物と、下記一般式(2)で表されるスズエノラート化合物とを、下記一般式(3)で表されるピラジン誘導体と銀化合物との錯体の存在下で反応させることを特徴とする下記一般式(4)で表されるアミノオキシ化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトロソ化合物への位置選択的で、エナンチオ選択的にもなり得る求核付加反応により、アミノオキシ化合物を選択的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生理活性物質の多くはその分子内にヘテロ原子、とりわけ窒素原子や酸素原子を含んでおり、医薬、農薬、工業薬品等の技術分野において、有用な種々の化合物を合成するため、窒素原子や酸素原子を分子内に導入する新しい有機合成反応の開発が活発に行われている。求電子的アミノ化反応及びヒドロキシ化反応は発展期を迎え、特に、求核付加反応の求電子剤の中でも、−C(=O)−結合を有するカルボニル化合物や−C(=N−)−結合を有するイミン類については、特徴的な新反応が数多く見出されている。しかしながら、−N(=O)−結合に対する求核付加反応についての報告は少ない。
また、本発明者らは、先に、ニトロソ化合物と、下記一般式(I)で表されるシリルエノールエーテル化合物とを、フッ化銀・2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(2,2’−bis(diphenylphosphino)−1,1’−binaphthyl,BINAP)等のルイス酸触媒の存在下で反応させ、アミノオキシ化合物を製造する方法を提案している(特許文献1参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
(式中、R’は、置換基を有していてもよい炭素数1〜6の非環状炭化水素基、又は炭素数3〜6の環状炭化水素基を表し、R’は、水素原子又はメチル基を表し、R’は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6の非環状炭化水素基、又は炭素数3〜6の環状炭化水素基を表し、R’とR’とは結合して炭素数5〜8の環を形成してもよく、R’、R’、R’は、独立して、炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0005】
また、ニトロソ化合物と、エノラート化合物とを、キラルルイス酸を含有する触媒の存在下で反応させ、光学活性なアミノオキシ化合物を製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−313158号公報
【特許文献2】特開2004−115446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法では、光学活性なアミノオキシ化合物を製造することができず、特許文献2に記載の方法では、多量のスズ化合物の使用が環境上の問題になる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、環境負荷が少なく且つ工業的に有利な方法で、アミノオキシ化合物を高収率で製造でき、光学純度が高い光学活性なアミノオキシ化合物も製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記事情に鑑み、ニトロソ化合物への位置選択的かつエナンチオ選択的求核付加反応により、ニトロソ化合物からアミノオキシ化合物を選択的に製造する方法を検討する過程で、ルイス酸触媒として、特定のピラジン誘導体と銀化合物との錯体を使用することにより、アミノオキシ化合物が選択的に得られること、特定のニトロソ化合物及びエノラート化合物を含む溶媒中に、アルコール、触媒量のスズ化合物、特定のピラジン誘導体及び銀化合物を存在させて反応を行うと、触媒量のスズ化合物がサイクル的に機能してスズエノラート化合物を得る反応を経由し、一つの反応容器中で中間体等の取り出しを行うことなく、特に光学活性なアミノオキシ化合物を一気に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるニトロソ化合物と、下記一般式(2)で表されるスズエノラート化合物とを、下記一般式(3)で表されるピラジン誘導体と銀化合物との錯体の存在下で反応させることを特徴とする下記一般式(4)で表されるアミノオキシ化合物の製造方法を提供する。
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、Rは置換基を有していても良いアリール基又はアルキル基を示す。)
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、R、R及びRは、互いに独立して水素原子、あるいは置換基を有していても良い非環状炭化水素基、環状炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基を示し、RとRとは相互に結合して環を形成していても良い。Zはスズ原子に結合し得る基を表し、tはZによって決定される正の整数を表す。)
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、R及びRは、互いに独立して置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基を示し、ただし、R及びRは同一ではない。Rは一価の基を示す。nは0〜4の整数を示す。nが2〜4の整数である場合、複数のRは互いに同一でも異なっていても良い。)
【0015】
【化5】

(式中、Rは置換基を有していても良いアリール基又はアルキル基を示す。R、R及びRは、互いに独立して水素原子、あるいは置換基を有していても良い非環状炭化水素基、環状炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基を示し、RとRとは相互に結合して環を形成していても良い。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、環境負荷が少なく且つ工業的に有利な方法で、アミノオキシ化合物が高収率で得られる。また、光学純度が高い光学活性なアミノオキシ化合物を高収率で得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
下記一般式(1)で表されるニトロソ化合物(以下、ニトロソ化合物(1)と略記することがある)は、顕著に求電子性が高いニトロソ基を有し、前記一般式(2)で表されるスズエノラート化合物(以下、スズエノラート化合物(2)と略記することがある)は、ニトロソ化合物(1)に対して求核付加反応する。
【0018】
【化6】

【0019】
(式中、Rは置換基を有していても良いアリール基又はアルキル基を示す。)
【0020】
一般式(1)中、Rは置換基を有していても良いアリール基又はアルキル基を示す。
におけるアリール基は、フェニル基、1−ナフチル基又は2−ナフチル基であることが好ましく、フェニル基であることがより好ましい。
がアリール基であるニトロソ化合物としては、特に好ましいものとして、ニトロソベンゼンが例示できる。
におけるアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良いが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、分岐鎖状であることが特に好ましい。また、該アルキル基の炭素数は、3〜10であることが好ましく、4〜7であることがより好ましい。
がアルキル基であるニトロソ化合物としては、ニトロソ基がアルキル基の第三級炭素原子に結合しているものが好ましく、具体的には、2−ニトロソイソブタン、2−ニトロソ−2−メチルペンタン等が例示できる。
【0021】
のアリール基又はアルキル基が有する置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等のアラルキルオキシ基;エテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基等のアルケニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子等が例示できる。なお、本発明において「置換基を有する」とは、水素原子の一部又は全部が置換基で置換されていることを示す。
【0022】
が有する置換基の数は、Rの種類に応じて特に限定されないが、0〜2であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。
が複数の置換基を有する場合、これら置換基は互いに同一でも異なっていても良い。
における置換基の位置は特に限定されないが、ニトロソ基に対してパラ位であることが好ましい。
【0023】
が前記置換基を有するアリール基であるニトロソ化合物(1)としては、具体的には、o−ニトロソトルエン、m−ニトロソトルエン、p−ニトロソトルエン、3,5−ジメチルニトロソベンゼン、o−ニトロソエチルベンゼン、o−ニトロソスチレン、o−ニトロソアニソール、m−ニトロソアニソール、p−ニトロソアニソール、o−ニトロソフェネトール、m−ニトロソフェネトール、p−ニトロソフェネトール、p−フルオロニトロソベンゼン、p−クロロニトロソベンゼン、p−ブロモニトロソベンゼン等が例示できる。
【0024】
本発明において、Rは、前記置換基を有していても良いアリール基であることが特に好ましい。
【0025】
スズエノラート化合物(2)は、下記一般式(2)で表される。
【0026】
【化7】

【0027】
(式中、R、R及びRは、互いに独立して水素原子、あるいは置換基を有していても良い非環状炭化水素基、環状炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基を示し、RとRとは相互に結合して環を形成していても良い。Zはスズ原子に結合し得る基を表し、tはZによって決定される正の整数を表す。)
【0028】
一般式(2)中、R、R及びRは、互いに独立して水素原子、あるいは置換基を有していても良い非環状炭化水素基、環状炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基を示す。
〜Rにおける非環状炭化水素基は、飽和及び不飽和のいずれでも良いが、飽和であることが好ましい。また、炭素数は1〜12であることが好ましく、1〜6であることがより好ましい。具体的には、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が例示でき、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の直鎖状のアルキル基がより好ましい。
【0029】
〜Rにおける環状炭化水素基は、飽和及び不飽和のいずれでも良いが、飽和であることが好ましい。また、単環構造及び多環構造のいずれでも良いが、単環構造であることが好ましい。炭素数は3〜8であることが好ましく、3〜6であることがより好ましい。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の脂環式炭化水素基;フェニル基等の芳香族炭化水素基が例示できる。
【0030】
〜Rにおけるアルコキシ基は、飽和及び不飽和のいずれでも良いが、飽和であることが好ましい。また、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良いが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。炭素数は3〜8であることが好ましく、3〜6であることがより好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が例示できる。
【0031】
〜Rにおけるアリールオキシ基及びアラルキルオキシ基は、単環構造及び多環構造のいずれを有していても良いが、単環構造を有していることが好ましく、具体的には、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等が例示できる。
【0032】
一般式(2)中、RとRとは相互に結合して環を形成していても良い。形成される環は、炭素数が3〜8であることが好ましく、5〜7であることがより好ましい。
【0033】
〜Rの少なくとも一つの基が非環状炭化水素基、環状炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基である場合、当該基は置換基を有していても良い。この時の置換基は特に限定されないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;シクロプロピル基、シクロヘキシル基等の脂肪族環状炭化水素基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,4−キシル基、2,4,6−メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、ベンジル基、フェネチル基等の芳香族炭化水素基を含む環状炭化水素基が例示できる。
【0034】
一般式(2)中、Zはスズ原子に結合し得る基を表し、触媒として使用される前記一般式(3)で表されるピラジン誘導体(以下、ピラジン誘導体(3)と略記することがある)と銀化合物との錯体との組合せに応じて適宜選択される。Zは、スズ原子に結合し得る原子でも良いし、複数個の原子からなる基でも良い。
tはZによって決定される正の整数を表し、例えば、Zが一価である場合には、通常3である。また、tが2以上である場合、t個のZは、互いに同一でも異なっていても良い。
【0035】
Zの好ましいものとして具体的には、アルキル基、アリール基、アラルキル基が例示でき、なかでもアルキル基がより好ましい。
Zにおけるアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良く、好ましいものとして具体的には、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が例示できる。なかでも、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が例示でき、なかでもn−ブチル基が特に好ましい。
Zにおけるアリール基は、単環構造及び多環構造のいずれでも良く、好ましいものとして具体的には、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が例示できる。
Zにおけるアラルキル基の好ましいものとしては、ベンジル基、フェネチル基等が例示できる。
【0036】
スズエノラート化合物(2)は、下記のようなケト−エノール互変異性体である。
【0037】
【化8】

【0038】
(式中、R、R、R、Z及びtは前記と同じである。)
【0039】
また、RとRとが相互に結合して環を形成する場合のスズエノラート化合物(2)としては、1位の炭素に不飽和結合を有するエノール型と1位にオキソ基を有するケト型との互変異性体となるものであれば、特に限定されない。形成する環の好ましいものとしては、スズエノラート化合物(2)がエノール型である場合において、1−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基、1−シクロヘプテニル基、ビシクロ[2.2.1]−1−ヘプテニル基、ビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテニル基等が例示できる。
【0040】
とRとが相互に結合して環を形成している場合、かかる環における置換基は、環を形成しない場合の前記置換基と同様である。そして、置換基が環状である場合、該環状の置換基は、RとRとが相互に結合して形成している環に縮合していても良く、このような縮合環の好ましいものとして、ベンゼン環が例示できる。
【0041】
〜Rが有する置換基の数は、R〜Rの種類に応じて特に限定されないが、0であることが好ましい。
【0042】
スズエノラート化合物(2)の好ましいものとして、具体的には、エノール型として、1−トリメチルスズオキシ−1−(n−ブチル)エチレン、1−トリメチルスズオキシ−1−(n−ブチル)−2−メチルエチレン、1−トリメチルスズオキシ−1−(n−ペンチル)エチレン、1−トリメチルスズオキシ−1−(n−ペンチル)−2−メチルエチレン、1−トリメチルスズ−1−(n−ヘキシル)エチレン、1−トリメチルスズオキシ−1−(n−ヘキシル)−2−メチルエチレン、1−トリメチルスズオキシ−1−シクロペンチルエチレン、1−トリメチルスズオキシ−1−シクロペンチル−2−メチルエチレン、1−トリメチルスズオキシ−1−シクロヘキシルエチレン、1−トリメチルスズオキシ−1−シクロヘキシル−2−メチルエチレン、1−トリメチルスズオキシ−1−フェニルエチレン、1−トリメチルスズオキシ−1−フェニル−2−メチルエチレン、1−トリメチルスズオキシ−1−シクロペンテン、1−トリメチルスズオキシ−2−メチル−1−シクロペンテン、1−トリメチルスズオキシ−1−インデン、1−トリメチルスズオキシ−2−メチル−1−インデン、1−トリメチルスズオキシ−1−シクロヘキセン、1−トリメチルスズオキシ−2−フェニル−1−シクロヘキセン、1−トリメチルスズオキシ−2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン、1−トリメチルスズオキシ−2−フェニル−1−シクロヘプテン等が例示できる。
【0043】
本発明においては、スズエノラート化合物(2)として、RとRとが相互に結合して環を形成しているものが特に好ましい。
【0044】
ニトロソ化合物(1)と、スズエノラート化合物(2)とは、ピラジン誘導体(3)と銀化合物との錯体の存在下で反応させる。かかる錯体はキラルルイス酸触媒として作用する。
【0045】
【化9】

【0046】
(式中、R及びRは、互いに独立して置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基を示し、ただし、R及びRは同一ではない。Rは一価の基を示す。nは0〜4の整数を示す。nが2〜4の整数である場合、複数のRは互いに同一でも異なっていても良い。)
【0047】
一般式(3)中、R及びRは、互いに独立して置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基を示す。
及びRにおけるアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良い。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等が例示できる。これらの中でも前記アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、炭素数は1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。
【0048】
及びRは、一つ以上の置換基を有していても良く、該置換基の数は特に限定されない。該置換基としては、Rのアリール基又はアルキル基が有する置換基と同様のものが例示できる。
【0049】
及びRは同一ではない。ここで、「同一ではない」とは、単に炭素数が異なる場合だけでなく、同一炭素数でも異性体であれば良いことを示す。これは、一般式(3)で表されるピラジン誘導体を、不斉合成触媒用金属錯体の配位子として使用するためである。
【0050】
上記のような観点から、ピラジン誘導体(3)においては、高度な不斉空間が形成されていることが好ましく、そのためには、R及びRの間には、大きな立体障害性の差があることが好ましい。すなわち、R及びRのいずれか一方は、立体障害性が大きいバルキーな基であり、且つ他方は立体障害性が小さい基であることが好ましい。より具体的には、R及びRは、同一炭素数の異性体同士であっても良いが、互いに炭素数が異なるもの同士であることが好ましい。そして、R及びRの炭素数の差は大きいほど好ましく、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。
【0051】
立体障害性を大きくするために、一方のアルキル基は、非環式のアルキル基である場合、二級アルキル基又は三級アルキル基であることが好ましく、三級アルキル基であることがより好ましい。また、これら非環式のアルキル基以外に、脂環式のアルキル基も好ましいものとして例示できる。これらのなかでも、立体障害性が大きい特に好ましいアルキル基としては、tert−ブチル基、アダマンチル基が例示できる。
一方、立体障害性を小さくするために、他方のアルキル基は、メチル基であることが特に好ましいが、立体障害性が大きいアルキル基の種類に応じて、適宜選択すれば良い。
及びRの組み合わせで、特に好ましいものとしては、tert−ブチル基及びメチル基の組み合わせ、アダマンチル基及びメチル基の組み合わせ等が例示できる。
【0052】
一般式(3)中、Rは一価の基を示し、具体的には、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、保護基を有するアミノ基又はニトロ基等が例示できる。
【0053】
におけるアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良い。
直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である場合は、炭素数が1〜10であることが好ましく、より好ましいものとして、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が例示できる。
環状のアルキル基である場合は、単環構造及び多環構造のいずれでも良く、炭素数が3〜10であることが好ましく、より好ましいものとして、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、アダマンチル基等が例示できる。
【0054】
におけるハロゲン化アルキル基としては、Rにおける前記アルキル基の一つ以上の水素原子がハロゲン原子で置換されたものが例示できる。ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が例示できる。
ハロゲン原子で置換される水素原子の数は特に限定されず、一つでも良いし、複数でも良く、全ての水素原子がハロゲン原子で置換されていても良い。複数の水素原子がハロゲン原子で置換されている場合、これら複数のハロゲン原子は、全て同一でも良いし、一部又は全てが異なっていても良い。
【0055】
におけるアルコキシ基としては、Rにおける前記アルキル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
におけるハロゲン原子は、前記ハロゲン化アルキル基におけるハロゲン原子と同様である。
におけるアミノ基が有する保護基は、特に限定されず、公知のものから適宜選択できる。
【0056】
一般式(3)中、nは0〜4の整数を示す。本発明においては、nが0であることが好ましい。nが2〜4の整数である場合、複数のRは互いに同一でも異なっていても良い。また、nが1〜4の整数である場合、Rの結合位置は特に限定されない。
【0057】
ピラジン誘導体(3)は、公知の方法で製造できるし、市販品を使用しても良い。例えば、製造方法の一例としては、特開2007−56007号公報に記載の方法が挙げられる。また、(R,R)−2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン等は、市販品が入手できる。
【0058】
ピラジン誘導体(3)と錯体を形成させる前記銀化合物は、特に限定されないが、好ましいものとして、トリフルオロメタンスルホン酸(トリフラート)の銀塩(AgOSOCF(AgOTf))、四フッ化ホウ酸銀(AgBF)、六フッ化アンチモン酸の銀塩(AgSbF)、六フッ化リン酸銀(AgPF)、チオフラートの銀塩(AgNTf)等の銀フッ化物;過塩素酸銀;酢酸銀等が例示でき、なかでも酢酸銀が特に好ましい。
【0059】
ピラジン誘導体(3)と銀化合物との錯体は、ピラジン誘導体(3)と銀化合物とを混合することで形成させることができる。本発明においては、予め前記錯体を形成させてから、オキシアミノ化合物を得る反応系にこれを添加して、反応させても良いし、前記ピラジン誘導体及び銀化合物を、オキシアミノ化合物を得る反応系に個別に添加して、前記錯体を反応系中で形成させて反応させても良い。
【0060】
本発明においては、反応を促進する目的で、触媒量のスズ化合物を反応時に使用しても良い。前記スズ化合物としては、一般式「Z’Sn(OR(式中、Z’はスズ原子に結合し得る一価の基を示し、Rはアルキル基を示す。)」で表されるスズアルコキシドが好ましい。
【0061】
式中、Z’はスズ原子に結合し得る一価の基を示し、スズ原子に結合し得る原子でも良いし、複数個の原子からなる基でも良い。なかでも、アルキル基、アリール基又はアラルキル基であることが好ましい。
Z’におけるアルキル基、アリール基、アラルキル基は、一般式(2)中のZにおけるアルキル基、アリール基、アラルキル基と同様である。
【0062】
式中、Rは、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良いが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が例示できる。
【0063】
前記スズアルコキシドとしては、ジ(n−ブチル)ジメトキシスズ((CH(CHSn(OCH)が特に好ましい。
【0064】
本発明において、反応時に使用する溶媒は、原料の種類に応じて適宜選択すれば良いが、各原料を溶解できる溶媒が好ましい。通常は、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒が好ましい。
【0065】
本発明においては、ニトロソ化合物(1)と、スズエノラート化合物(2)とを、前記ピラジン誘導体(3)と銀化合物との錯体の存在下で反応させることにより、目的物である下記一般式(4)で表されるアミノオキシ化合物(以下、アミノオキシ化合物(4)と略記することがある)を製造できる。
【0066】
【化10】

【0067】
(式中、Rは置換基を有していても良いアリール基又はアルキル基を示す。R、R及びRは、互いに独立して水素原子、あるいは置換基を有していても良い非環状炭化水素基、環状炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基を示し、RとRとは相互に結合して環を形成していても良い。)
【0068】
式中、R、R、R及びRは、前記と同じである。
【0069】
さらに、スズエノラート化合物(2)を、反応系へ添加する代わりに、アルコールを含む反応系中で、下記一般式(5)で表されるエノラート化合物(以下、エノラート化合物(5)と略記することがある)及び触媒量のスズ化合物から、スズエノラート化合物(2)を生成させ、これを直ちにニトロソ化合物(1)と反応させることでも、目的とするアミノオキシ化合物(4)を製造できる。例えば、アルコール、ニトロソ化合物(1)、ピラジン誘導体(3)及び銀化合物の存在下で、エノラート化合物(5)と触媒量のスズ化合物とを反応させ、スズエノラート化合物(2)を経由させることで、アミノオキシ化合物(4)が得られる。この方法では、スズエノラート化合物(2)をはじめとする各種中間体を取り出すことなく、一つの容器中で反応を完結できる(以下、一貫法と略記する)。また、スズ化合物の使用量は触媒量で良く、環境面での負荷を低減できる点で特に優れる。これらについては、後ほど詳述する。
【0070】
【化11】

【0071】
(式中、R、R及びRは、互いに独立して水素原子、あるいは置換基を有していても良い非環状炭化水素基、環状炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基を示し、RとRとは相互に結合して環を形成していても良い。)
【0072】
一般式(5)中、R、R及びRは、前記と同じである。
【0073】
前記方法で使用するアルコールは、一価アルコール及び多価アルコールのいずれでも良いが、一価のアルコールで十分であり、好ましいものとしてメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールが例示でき、なかでもメタノールが特に好ましい。
また、前記方法で使用するスズ化合物は、スズアルコキシドを例示した前記スズ化合物と同様である。
【0074】
スズエノラート化合物(2)の使用量は、ニトロソ化合物(1)1モルに対して、0.5〜3モルであることが好ましく、0.7〜1.5モルであることがより好ましい。
ピラジン誘導体(3)と、前記銀化合物中の銀原子の、使用量の比率(モル比)は、前記ピラジン誘導体:前記銀原子で7:3〜3:7であることが好ましく、6:4〜4:6であることがより好ましく、5:5であることが最も好ましい。
また、ピラジン誘導体(3)と銀化合物との錯体の使用量は、ニトロソ化合物(1)に対して、1〜30モル%であることが好ましく、5〜15モル%であることがより好ましい。
【0075】
一方、スズエノラート化合物(2)を添加する代わりに、エノラート化合物(5)及び触媒量のスズ化合物を使用する場合には、エノラート化合物(5)の使用量は、ニトロソ化合物(1)1モルに対して、0.5〜3モルであることが好ましく、0.7〜1.5モルであることがより好ましい。
また、スズ化合物の使用量は、ニトロソ化合物(1)に対して、1〜50モル%であることが好ましく、2〜30モル%であることがより好ましい。
さらに、アルコールの使用量は、該アルコール中の水酸基のモル数が、ニトロソ化合物(1)1モルに対して、10〜60モルとなる量であることが好ましく、20〜40モルとなる量であることが好ましい。
【0076】
反応温度は、使用する各原料の種類等によって適宜調整すれば良いが、通常は、−110〜−30℃であることが好ましく、−100〜−60℃であることがより好ましい。
反応時間は、使用する各原料の種類や反応温度等によって適宜調整すれば良いが、通常は、0.2〜15時間であることが好ましく、0.4〜8時間であることがより好ましい。
【0077】
本発明で使用する、ピラジン誘導体(3)と銀化合物との錯体は、キラル酸触媒なので、上記のような好ましい条件で反応を行うことにより、アミノオキシ化合物(4)として、下記一般式(4’)で表される光学活性体(以下、光学活性アミノオキシ化合物(4’)と言うことがある)が、高収率且つ高い光学純度で得られる。一般式(4’)は、R及びRが結合している炭素原子について、光学活性であることを示す。
【0078】
【化12】

【0079】
(式中、Rは置換基を有していても良いアリール基又はアルキル基を示す。R、R及びRは、互いに独立して水素原子、あるいは置換基を有していても良い非環状炭化水素基、環状炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基を示し、RとRとは相互に結合して環を形成していても良い。)
【0080】
式中、R、R、R及びRは、前記と同じである。
【0081】
光学活性アミノオキシ化合物(4’)としては、光学純度(%ee)が、好ましくは85%ee以上、より好ましくは88%ee以上のものが得られ、例えば、ニトロソベンゼンを使用した場合など、原料に応じてより適した条件で反応させることにより、95%ee以上のものを安定して製造することもできる。
【0082】
本発明においては、反応終了後、適宜必要に応じて、抽出、晶析、蒸留、カラムクロマトグラフィー又は分取HPLC等の常用の手段を単独で、又は複数組み合わせて適用し、所望の精製を行っても良い。これにより、目的物の純度又は光学純度をさらに向上させることができる。
【0083】
本発明においては、アミノオキシ化合物(4)は、以下のような反応経路で生成すると考えられる。ここでは、スズエノラート化合物(2)を添加する代わりに、エノラート化合物(5)及びスズ化合物を使用し、スズ化合物としてジ(n−ブチル)ジメトキシスズを、アルコールとしてメタノールを、銀化合物として酢酸銀を、それぞれ使用した場合について説明する。ただし、ここに示したもの以外の原料を使用した場合も、同様に反応が進行すると考えられる。
【0084】
まず、エノラート化合物(5)とスズ化合物(7)が反応して、スズエノラート化合物(2)が生成する。次いで、スズエノラート化合物(2)が、ピラジン誘導体(3)と銀化合物(6)との錯体の存在下で、ニトロソ化合物(1)に対して求核付加反応することにより、中間体(8)が生成する。この時、前記錯体がキラル酸触媒として作用するので、適当な反応条件を選択することにより、中間体(8)は、ニトロソ化合物(1)が付加した炭素原子(R及びRが結合している炭素原子)について、光学活性となる。そして、ピラジン誘導体(3)を使用することで、中間体(8)は光学純度が極めて高いものとなる。前記錯体は、中間体(8)の生成に伴い、再生される。次いで、メタノールの作用により、中間体(8)のニトロソ基由来の窒素原子とスズ原子との間の結合が切断されて、目的物であるアミノオキシ化合物(4)(光学活性アミノオキシ化合物(4’))が生成すると共に、スズ化合物(7)が再生される。以下、この経路で反応が繰り返されることにより、アミノオキシ化合物(4)(光学活性アミノオキシ化合物(4’))が高収率で得られる。
このように、本発明によれば、途中で各種中間体を取り出すことなく、一つの容器中で反応を完結させることで、簡単な操作で目的物が得られる。この時、スズ化合物(7)の使用量は触媒量で良く、環境への付加を軽減できる。また、ピラジン誘導体(3)と銀化合物(6)との錯体を使用することで、目的物を光学純度が高い光学活性体として得られる。さらに、中性に近い穏やかな条件で反応が進行するので、副反応を抑制でき、目的物を高収率で得られる。
なお、ここでは、エノラート化合物(5)及びスズ化合物(7)を使用した場合について説明したが、これらを使用せずに、スズエノラート化合物(2)を添加して反応させた場合にも、エノラート化合物(5)及びスズ化合物(7)からスズエノラート化合物(2)を形成する経路を経なくなること以外は、上記と同様に反応が進行する。
【0085】
【化13】

【0086】
本発明によれば、環境負荷が少なく且つ工業的に有利な方法で、アミノオキシ化合物(4)が高収率で得られ、光学純度が高い光学活性アミノオキシ化合物(4’)も得られる。これら化合物は、特に生理活性物質や機能性材料の合成中間体として有用である。
【実施例】
【0087】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
以下に示す実施例、参考例、比較例では、ホスフィン配位子として、以下のキラルなホスフィン配位子(化合物(3a)、化合物(9a)〜(9e))を使用した。これらのうち、化合物(3a)が、一般式(3)で表されるピラジン誘導体に該当する。なお、下記式中、「t−Bu」はtert−ブチル基を、「Ph」はフェニル基をそれぞれ示す。また、これらホスフィン配位子としては、具体的には、以下のものを使用した。
化合物(3a):日本化学工業社製
化合物(9a):関東化学社製、化合物(9b):アヅマックス社製、化合物(9c):高砂香料工業社製、化合物(9d):東京化成工業社製、化合物(9e):Sigma−Aldrich社製
【0088】
【化14】

【0089】
[実施例1、参考例1〜3、比較例1〜2]
一般式(1)で表されるニトロソ化合物としてニトロソベンゼン(下記化合物(1a))、一般式(5)で表されるエノラート化合物として下記化合物(5a)、スズ化合物としてジ(n−ブチル)ジメトキシスズ、アルコールとしてメタノール、銀化合物として酢酸銀をそれぞれ使用し、表1に示すホスフィン配位子を使用して、一貫法により、アミノオキシ化合物を製造した。より具体的には、以下の通りである。
アルゴン置換したシュレンク管に酢酸銀(AgOAc、8.4mg、化合物(1a)に対して10モル%)、表1に示すホスフィン配位子(化合物(1a)に対して10モル%)、トルエン2mlを加え、遮光して室温で攪拌し、ホスフィン配位子の銀錯体を含むトルエン溶液を調製した。
別のアルゴン置換したシュレンク管に、化合物(5a)(121.8mg、化合物(1a)に対して2倍モル量)、化合物(1a)(53.6mg)、トルエン2mlを加え、この溶液を−78℃で冷却した。先に調製したホスフィン配位子の銀錯体を含むトルエン溶液を−78℃に冷却後、ジ(n−ブチル)ジメトキシスズ(15.99mg、化合物(1a)に対して20モル%)、メタノール(0.48g、化合物(1a)に対して30倍モル量)を加え、5分間攪拌した。ここに化合物(5a)と化合物(1a)を含むトルエン溶液を、ステンレスカニュラチューブを通してゆっくり滴下した。−78℃で攪拌後、表1に示す反応時間で反応を行った。
反応終了後、飽和食塩水、メタノール、フッ化カリウムを加えて反応を停止させた。次いで、シリカゲルクロマトグラフィーにより、反応生成物を精製して目的物である化合物(4a)を取り出した。なお、反応では目的物以外に、化合物(A)が生成していた。化合物(4a)の収率、化合物(4a)及び化合物(A)の生成比率、これら化合物の光学純度(%ee)をそれぞれ表1に示す。なお、化合物(4a)及び化合物(A)の生成比率は、各々の重さを計算することにより求めた。
【0090】
【化15】

【0091】
【表1】

【0092】
[実施例2〜7]
一般式(1)で表されるニトロソ化合物として下記化合物(1b)(式中、Xは水素原子又は臭素原子を示す。)を使用し、その他の反応条件を表2に示す条件としたこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。なお、表2中、化合物(3a)、酢酸銀(AgOAc)及びジ(n−ブチル)ジメトキシスズ(n−BuSn(OMe))の使用量は、化合物(1b)に対する使用量をそれぞれ示す。
反応終了後、飽和食塩水を加えて反応を停止させた。次いで、シリカゲルクロマトグラフィーにより、反応生成物を精製して目的物である化合物(4b)を取り出した。なお、反応では目的物以外に、化合物(B)が生成していた。化合物(4b)の収率、化合物(4b)及び化合物(B)の生成比率、これら化合物の光学純度(%ee)をそれぞれ表3に示す。なお、化合物(4b)及び化合物(B)の生成比率は、実施例1の場合と同様に求めた。
【0093】
【化16】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
[実施例8]
一般式(5)で表されるエノラート化合物として下記化合物(5b)を化合物(1a)に対して2倍モル量、化合物(3a)を化合物(1a)に対して5モル%、酢酸銀を化合物(1a)に対して5モル%、ジ(n−ブチル)ジメトキシスズを化合物(1a)に対して10モル%それぞれ使用し、−78℃で3時間反応を行ったこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。
反応終了後、飽和食塩水を加えて反応を停止させた。次いで、シリカゲルクロマトグラフィーにより、反応生成物を精製して目的物である化合物(4c)を取り出した。なお、反応では目的物以外に、化合物(C)が生成していた。化合物(4c)の収率、化合物(4c)及び化合物(C)の生成比率、これら化合物の光学純度(%ee)をそれぞれ表4に示す。なお、化合物(4c)及び化合物(C)の生成比率は、実施例1の場合と同様に求めた。
【0097】
【化17】

【0098】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、光学活性体の製造に利用可能であり、生理活性物質や機能性材料等の合成中間体の製造に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるニトロソ化合物と、下記一般式(2)で表されるスズエノラート化合物とを、下記一般式(3)で表されるピラジン誘導体と銀化合物との錯体の存在下で反応させることを特徴とする下記一般式(4)で表されるアミノオキシ化合物の製造方法。
【化1】

(式中、Rは置換基を有していても良いアリール基又はアルキル基を示す。)
【化2】

(式中、R、R及びRは、互いに独立して水素原子、あるいは置換基を有していても良い非環状炭化水素基、環状炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基を示し、RとRとは相互に結合して環を形成していても良い。Zはスズ原子に結合し得る基を表し、tはZによって決定される正の整数を表す。)
【化3】

(式中、R及びRは、互いに独立して置換基を有していても良い炭素数1〜10のアルキル基を示し、ただし、R及びRは同一ではない。Rは一価の基を示す。nは0〜4の整数を示す。nが2〜4の整数である場合、複数のRは互いに同一でも異なっていても良い。)
【化4】

(式中、Rは置換基を有していても良いアリール基又はアルキル基を示す。R、R及びRは、互いに独立して水素原子、あるいは置換基を有していても良い非環状炭化水素基、環状炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基を示し、RとRとは相互に結合して環を形成していても良い。)
【請求項2】
アルコール、前記一般式(1)で表されるニトロソ化合物、前記一般式(3)で表されるピラジン誘導体及び銀化合物の存在下で、下記一般式(5)で表されるエノラート化合物と触媒量のスズ化合物とを反応させ、前記一般式(2)で表されるスズエノラート化合物を経由させて、前記一般式(4)で表されるアミノオキシ化合物を得ることを特徴とする請求項1記載のアミノオキシ化合物の製造方法。
【化5】

(式中、R、R及びRは、互いに独立して水素原子、あるいは置換基を有していても良い非環状炭化水素基、環状炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基を示し、RとRとは相互に結合して環を形成していても良い。)
【請求項3】
前記アルコールがメタノールであることを特徴とする請求項2記載のアミノオキシ化合物の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)で表されるニトロソ化合物が、置換基を有していても良いニトロソベンゼンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のアミノオキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(2)で表されるスズエノラート化合物が、RとRとが相互に結合して環を形成している化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のアミノオキシ化合物の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(3)で表されるピラジン誘導体が、Rがt−ブチル基又はアダマンチル基であり、Rがメチル基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のアミノオキシ化合物の製造方法。
【請求項7】
前記一般式(4)で表されるアミノオキシ化合物が、下記一般式(4’)で表される光学活性体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のアミノオキシ化合物の製造方法。
【化6】

(式中、Rは置換基を有していても良いアリール基又はアルキル基を示す。R、R及びRは、互いに独立して水素原子、あるいは置換基を有していても良い非環状炭化水素基、環状炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基を示し、RとRとは相互に結合して環を形成していても良い。)

【公開番号】特開2010−189319(P2010−189319A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35686(P2009−35686)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】