説明

アミノシランおよび多シリル官能シランの混合物を利用する金属処理方法

【課題】金属基材に長期耐食性を付与する方法を提供すること。
【解決手段】下記の工程:
(a)金属基材を用意する工程、および
(b)金属基材を、1種類または2種類以上の加水分解された、または少なくとも部分的に加水分解されたアミノシラン、1種類または2種類以上の加水分解された、または部分的に加水分解された多シリル官能シランおよび溶剤を含有する溶液と接触させた後、溶剤をほぼ完全に除去することにより、金属基材に長期コーティングを施す工程
を含んで成るように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属処理方法に関する。特に、本発明は金属の耐食性を向上させる方法に関する。この方法は、処理後に塗装するか、金属にゴムを接着したり、金属と金属を接着したりする作業が行なわれる場合に有用である。この方法は1種類または2種類以上のアミノシランと1種類または2種類以上の多シリル官能シランとの混合物を含有する溶液を金属基材に塗布することによって、耐食コーティングを形成する。この方法は、冷間圧延された鋼、亜鉛、鉄、アルミニウムおよびアルミニウム合金の表面に使用するのに特に好適である。
【背景技術】
【0002】
多くの金属は、種々の形の腐蝕、特に、種々のタイプの錆形成を伴う風化現象を起こす。この種の腐蝕は上記金属基材自体およびこれを材料とする製品の品質に重大な影響を及ぼす。金属基材から腐蝕した部分を頻繁に除去するという解決策もあるが、この方法は手間とコストが掛かり、しかも金属の所期状態を損なう恐れがある。さらにまた、ペイント、接着剤、ゴムのようなポリマー・コーティングを金属基材に塗布する場合、この金属基材の腐蝕に伴って、ポリマー・コーティングと金属基材との間の接着を損なう恐れがある。コーティング層と金属基材の間の接着が損なわれると、これも金属の腐蝕を招く原因となり得る。
【0003】
例えば亜鉛鋼板のような金属被覆鋼板は、自動車、建設、機械など多様な産業に利用されている。多くの場合、製品の耐久性と美観を達成するため、亜鉛鋼板に塗装を施すか、さもなければポリマー層で被覆する。ところが、亜鉛鋼板、特に溶融メッキ亜鉛鋼板の場合、貯蔵や出荷の過程において、”白錆”が発生することが多い。(”貯蔵しみ”とも呼ばれる)白錆の典型的な原因は、亜鉛鋼板の表面に発生する凝縮水分が亜鉛コーティングと反応することにある。白錆は外観を損ねるだけでなく、塗装やポリマー被覆のような、以後の処理を有効化できる亜鉛鋼板の性能をも損ねる。従って、このようなコーティングに先立って、亜鉛鋼板の亜鉛面を事前処理することにより、既に発生している白錆を除去し、ポリマー層の下に再び発生するのを防止しなければならない。出荷や貯蔵中における白錆の形成を防止すると共に、ポリマー・コーティング(例えば、ペイント)の下に白錆が形成されるのを防止するため、種々の方法が採用されている。
【0004】
溶融メッキ亜鉛鋼板の貯蔵および出荷中における白錆形成防止は、鋼板表面をクロム酸防食することによって達成できる。このようなクロム酸塩コーティングは耐白錆形成効果を有するものの、クロムは毒性が高く、環境保護の観点から望ましくない。
【0005】
ペイントの接着性を、したがって防食効果を向上させるため、クロム酸塩リンスと燐酸塩化成コーティングを併用することも公知である。クロム酸塩リンスが燐酸塩コーティングの細孔を塞ぐことによって耐食性および接着性を高めると考えられる。しかし、この場合にも、クロム酸塩の併用を避けることが極めて望ましい。ただし、クロム酸塩抜きの燐酸塩化成コーティングでは、効果を期待できない。
【0006】
金属の機械的性能を向上させるために使用される合金元素(例えば、銅、マグネシウムおよび亜鉛)が耐食性を低下させるから、アルミニウム合金は特に腐蝕し易い。
【0007】
近年、クロム酸塩の使用を避ける種々の技術が提案されている。これらの技術は、無機珪酸塩および金属塩から成る、鋼板をコーティングするのに必要な量の水性アルカリ溶液を用意し、次いで、珪酸塩コーティングを有機官能シランで処理するステップを含む(特許文献1)。
【0008】
特許文献2は、一時的な防食効果を得るため、低濃度の有機官能シランおよび架橋剤を含有する水溶液による金属板の処理を教示している。架橋剤は有機官能シランを架橋することによって、稠密なシロキサン・フィルムを形成する。シランと架橋剤の比は20:1〜2:1の範囲である。
【0009】
特許文献3は、別々に塗布する2種類の処理溶液を使用する防食方法を開示している。第1溶液は多シリル官能シラン架橋剤を使用し、第2溶液は有機官能シランを使用する。
【0010】
特許文献4は、シロキサンを含有する不溶性複合層を形成するため、溶解珪酸塩またはアルミン酸塩、有機官能シランおよび架橋剤を含有するアルカリ溶液による金属板の洗浄処理を教示している。
【0011】
特許文献5は、1種類または2種類以上の加水分解されたビニル・シランを含有する溶液を金属板に塗布することによる金属板の防食方法に係る。この方法は、ビニルの反応性度が金属表面とペイント・コーティングとの接着を促進するから、亜鉛鋼板の塗装に先立つ予備処理として特に有用である。但し、ビニル・シランは金属表面に特にすぐれた接着性を有するわけではなく、その点が短所である。
【0012】
特許文献6は、公知のシラン・カップリング剤およびビス(トリアルコキシ)有機化合物から成る混合物を部分的に加水分解して得られる生成物としての、カップリング剤およびプリマー剤を開示している。
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,108,793号明細書
【特許文献2】米国特許第5,292,549号明細書
【特許文献3】国際出願公開第98/30735号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5,433,976号明細書
【特許文献5】国際出願公開第98/19798号パンフレット
【特許文献6】米国再発行特許第34,675号明細書(米国特許第4,689,085号の再発行特許)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、金属基材に長期耐食性を付与する方法を提供することを目的とする。
【0015】
本発明は、実質的には単一の処理ステップで、金属基材に長期耐食性を付与するコーティング方法を提供することをも目的とする。
【0016】
本発明は、金属基材に耐食コーティングを施すための、しかも、塗装に先立って除去する必要のない処理溶液を提供することをも目的とする。
【0017】
本発明は、ゴム・金属間の接合を促進する処理コーティングおよび溶液を提供することをも目的とする。
【0018】
本発明は、接着剤使用による金属どうしの接合を促進する処理溶液を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明はその一側面として、
(a)金属基材を用意し、
(b)金属基材を、1種類または2種類以上の加水分解された、または少なくとも部分的に加水分解されたアミノシラン、1種類または2種類以上の加水分解された、または部分的に加水分解された多シリル官能シランおよび溶剤を含有する溶液と接触させた後、溶剤をほぼ完全に除去することにより、金属基材に長期コーティングを施す
ステップから成る、金属基材の耐食性を向上させる方法を提供することによって上記目的を達成する。
【0020】
好ましくは、金属基材を
−鋼;
−亜鉛、亜鉛合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金のうちのいずれかの金属で被覆された鋼;
−鉄;
−亜鉛および亜鉛合金;
−アルミニウム;
および
−アルミニウム合金
からなる群から選択する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本出願人は、金属、特に冷間圧延鋼、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金のうちのいずれかの金属で被覆された鋼、アルミニウムおよびアルミニウム合金自体、および鉄の耐食性を、1種類または2種類以上の加水分解された、または部分的に加水分解されたアミノシランを含有する処理溶液を前記金属に塗布することにより向上させることができることを見出した。この場合、処理溶液は2種類または3種類の3置換されたシリル基を有する1種類または2種類以上の多シリル官能シランを付加的に含有しており、多シリル官能シランは少なくとも部分的に加水分解されている。処理溶液は、硬化すると長期間耐食コーティングを形成する。
【0022】
長期間耐食性のためのコーティングは、驚くべきことに、クロム酸塩を基剤とした処理よりも優れており、クロムの処分問題を回避する。加えて、このコーティングはペイント、ゴム、接着剤または他のポリマー層に対する金属基材の優れた接着性を提供する。
【0023】
上述のような、本発明の処理方法の防食特性に加えて、本出願人はさらに、上述のコーティングが接着剤を使用したゴムと金属との結合、および、金属と金属との結合の促進に特に有用性を発揮することを見出した。
【0024】
本発明の処理方法は、特に冷間圧延された鋼、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金のうちのいずれかの金属で被覆された鋼、アルミニウムおよびアルミニウム合金自体、および鉄を含むあらゆる金属基材に用いられてもよい。本発明の方法は、1種類または2種類以上の加水分解された、または部分的に加水分解されたアミノシランを含有する処理溶液を前記金属に塗布することにより効力を発揮する。この場合、処理溶液は2種類または3種類の3置換されたシリル基を有する1種類または2種類以上の多シリル官能シランを付加的に含有しており、多シリル官能シランは少なくとも部分的に加水分解されている。
【0025】
明細書中に使用されているように、「置換された」脂肪族基または芳香族基とは、炭素主鎖が主鎖内に位置するヘテロ原子、ヘテロ原子、または炭素主鎖に結合した基を含むヘテロ原子を有していてよい脂肪族基または芳香族基を意味する。
【0026】
本発明において採用することができるアミノシランはそれぞれ単一の3置換されたシリル基を有している。この場合置換基は、アルコキシ、アシロキシおよびアリロキシから成る群から個別に選択される。従って、本発明に用いることができるアミノシランは一般構造式を有していてよい。
【0027】
【化1】

【0028】
Rは水素、C−C24アルキル、好ましくはC−Cアルキル、C−C24アシル、好ましくはC‐Cアシルから成る群から選択され、Rどうしは同じでも異なっていてもよい。各Rは好ましくは、水素、エチル、メチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、ter−ブチルおよびアセチルから成る群から個別に選択される。
【0029】
Xは、置換または非置換脂肪族基、オレフィン基または芳香族基から成る群から選択される基である。好ましくはXは、結合標、C−Cアルキレン、C−Cアルケニレン、少なくとも1個のアミノ基で置換されたC−Cアルキレン、少なくとも1個のアミノ基で置換されたC−Cアルケニレン、アリーレンおよびアルキルアリーレンから成る群から選択される。
【0030】
は、水素、C−Cアルキル、C−Cアルケニル、少なくとも1個のアミノ基で置換されたC−Cアルキル、少なくとも1個のアミノ基で置換されたC−Cアルケニル、アリーレンおよびアルキルアリーレンから成る群から個別に選択される基である。好ましくは、Rは、水素、エチル、メチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、ter−ブチルおよびアセチルから成る群から個別に選択される。
【0031】
本発明の方法に採用される特に好ましいアミノシランは、γ−アミノプロピルトリエトキシシランである。このγ−アミノプロピルトリエトキシシランを以後γ−APSと呼ぶ。γ−APSは次の構造式を有している:
【0032】
【化2】

【0033】
2種類以上の多シリル官能シランが処理溶液に採用されてよい。その、または、それぞれの多シリル官能シランは少なくとも2つの3置換されたシリル基を有する。置換基はアルコキシおよびアシロキシから成る群から個別に選択される。好ましくは本発明の多シリル官能シランは次の一般構造式を有する。
【0034】
【化3】

【0035】
この場合Zは結合基、脂肪族基または芳香族基から成る群から選択される。Rはアルキル基またはアシル基であり、nは2または3である。
【0036】
は水素、C−C24アルキル、好ましくはC−Cアルキル、C−C24アシル、好ましくはC−Cアシルから成る群から選択され、Rどうしは同じか、または異なっていてよい。好ましくは各Rは、水素、エチル、メチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、ter−ブチルおよびアセチルから成る群から個別に選択される。
【0037】
好ましくはZは結合基、C−Cアルキレン、C−Cアルケニレン、少なくとも1個のアミノ基で置換されたC1−Cアルキレン、少なくとも1個のアミノ基で置換されたC−Cアルケニレン、アリーレンおよびアルキルアリーレンから成る群から選択される。Zが結合基の場合、多官能シランは、互いに直接的に結合された2個の3置換されたシリル基を有する。
【0038】
好ましい多シリル官能シランは、1,2−ビス−(トリエトキシシリル)エタンであり、以後BTSEと呼び、次の構造式を有する。
【0039】
【化4】

【0040】
他の好適な多官能シランは、1,2−ビス−(トリメトキシシリル)エタン(TMSE)および(1,6−ビス−(トリメトキシシリル)ヘキサンを含む)1,6−ビス−(トリアルコキシシリル)ヘキサン、
1,2−ビス−(トリエトキシシリル)エチレン
1,4−ビス−(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン
およびビス−(トリメトキシシリルプロピル)アミンを含む。
【0041】
上述のアミノシランおよび多官能シランは少なくとも部分的に、好ましくは完全に加水分解されるので、シランは金属表面に結合する。加水分解中、アルキル基またはアシル基(すなわち「R」分および「R」分)が水素原子と置き換えられる。明細書中に使用したように、「部分的に加水分解されている」とは単に、シランのアルキル基またはアシル基の一部だけが水素原子と置き換えられていることを意味している。シランは好ましくは、各分子における少なくとも2つのアルキル基またはアシル基が水素原子と置き換えられる範囲に加水分解されるべきである。シランの加水分解はシランに水を混合するだけで達成することができ、任意には、この水は溶解性を構造させるために、アルコールのような溶剤を含んでもよい。
【0042】
本発明の1つの重要な利点は、珪酸塩層、アルミン酸塩または他のコーティングを真下に施す必要なしに、処理溶液を金属面上に直接的に塗布することができることである。別の重要な利点は、1ステップ処理がユーザにとって有益かつ便利であることである。
【0043】
金属基材処理に続いて、金属基材を接着剤またはゴムのようなポリマーで塗装またはコーティングしなければならない場合に特に適している。このことは1回または2回以上のシラン処理の後に、有利には前記シラン処理の硬化後に行われてよい。
【0044】
溶液のpHも、加水分解を向上させるために、好ましくは約7を下回るように維持され、最も好ましくは約3〜約6の間で維持される。このpHは例えば酢酸、蓚酸、蟻酸およびプロピオン酸を添加することにより調整されてよい。pHが約7を上回ることを許される場合には、加水分解された多官能シランが凝縮反応を介して重合開始することがある。このことが発生するのが許される場合には、シランは金属表面に強くは結合されないので、耐食性は著しく減じられる。
【0045】
溶液中のBTSEのような多シリル官能シランの濃度は約0.01%〜約10%、好ましくは0.1%を上回る濃度であるべきである。さらに好ましい濃度は、約0.4%〜約3%であり、最も好ましくは約2%である。
【0046】
溶液中のアミノシランの濃度は約0.01%〜約10%であるべきである。さらに好ましい濃度は、約0.2%〜約2%であり、最も好ましくは約1%である。
【0047】
アミノシランと多シリル官能シランとの比は長期間耐食性を提供する本発明の効力にとって重要である。明細書中に使用した「長期間」とは、米国特許第5,292,549号明細書に開示されたような、「一時的な防食」コーティングに対する語である。この米国特許第5,292,549号明細書においては、「燐酸塩化成コーティングまたは塗料でシートをコーティングする前に、アルカリ溶液中で金属コーティングされた鋼板を洗浄することによってシクロヘキサン・フィルムを除去することができる。」と主張されている。耐食に関連して、「長期間」とは洗い落とされないようにまたは除去されないように抵抗するコーティングを意味する。本発明は金属表面において優れた特性を示し、アルカリ溶液による除去に対して抵抗する。このような側面は、本発明のコーティングを除去しようと試みる例9において詳しく述べるように、アルカリリンス溶液を使用することにより評価することができる。本発明で用いられるアミノシランと多シリル官能シランとの比は、4:1〜1:8、好ましくは2:1〜1:4の範囲内にあり、最も好ましい比は1:2よりも大きい。
【0048】
さらに大きな濃度を有する濃縮溶液は、金属上により厚いフィルムを提供する。このことにはコストが大きく費やされる。加えて、より厚いフィルムはしばしば脆弱である。フィルムの厚さは一般的に0.05〜0.2μmの範囲内にある。
【0049】
留意すべきなのは、ここで論じ、主張したシランの濃度は全て、採用された加水分解されていない(つまり加水分解前の)多シリル官能シランの量と、処理溶液成分(つまりシラン、水、任意の溶剤およびpHを調整する酸)の総容積との比に関連して測定されることである。加えて、多様なシランを任意にこの処理溶液中に採用することができるので、濃度は、添加される加水分解されていない多シリル官能シランの総量にも関連する。
【0050】
溶液温度は特に規定されてはいない。0℃を下回る温度で満足すべきである。溶液を加熱する必要はないが、処理中の処理浴のためには15℃〜60℃の温度が申し分ない温度である。これよりも高い温度はシランの重合を引き起こすおそれがあり(すなわち浴の寿命を短くするおそれがある)、有益ではない。
【0051】
いくつかのシランの水中の溶解性は制限されることがあるので、シラン溶解性を向上させるために、処理溶液は任意に1つまたは2つ以上のアルコールのような溶剤を含んでよい。アルコールはさらに処理溶液の安定性ならびに金属基材の湿潤性をも向上させる。アルコールまたはアセトンのような他の非水性溶剤も、水と接触すると腐食し易い(例えばCRSを含む所定の合金のガルバニック腐食)金属基材に特に利用できる。具体的に好ましいアルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールおよびそれらの異性体を含む。使用される量は、処理溶液中の特定の多シリル官能シランの溶解性に関連し、従って、本発明の処理溶液中の水に対するアルコールの濃度範囲は1:99〜99:1の比率にある(容積比)。シランの少なくとも十分な加水分解を可能にするために十分な水がなければならない。従って95部のアルコール毎に少なくとも5部の水が採用されるのが好ましい。しかしながらシランが水溶性の場合には、アルコールは全体的に省略されてよい。アルコールが採用される場合には,メタノールおよびエタノールが好ましいアルコールである。
【0052】
処理溶液の調製自体は簡単である。加水分解されていないアミノシランが、所望の濃度を得るために水で希釈することにより、予備加水分解される。pHは上述のような酸を使用して調整されてよい。BTSEが同様の方法を用いて予備加水分解され、これらの溶液が混合され、pHが酸を用いて調整される。要求されたような溶解性または安定性を助成するためにアルコールが任意に採用されてよい。実際には浴に、本発明に用いられたシランが補充される。これらのシランは、水で希釈可能な濃縮物として、予備加水分解され予混合された状態で供給されてよい。
【0053】
処理しようとする金属基材は好ましくは、本発明の上述の処理剤を塗布する前に(従来の公知技術により)溶剤洗浄および/またはアルカリ洗浄される。次いで処理溶液は、金属を溶液中に浸漬(「リンシング」とも呼ぶ)するか、金属表面上に溶液をスプレーするか、または、金属基材上に処理溶液をワイピングまたは刷毛塗りすることによって、洗浄された金属に塗布されてよい。現実に、表面上にほぼ平らなフィルムを残すどの方法も効果的に採用されてよい。好ましい浸漬塗布方法が採用される場合、一般的にこの方法は、生じるフィルム厚に影響を与えないので、浸漬期間は特に規定されていない。浸漬時間は約2秒〜約50分であり、金属の完全なコーティングを保証するのに好ましくは、0.5分〜2分である。
【0054】
金属がペイントのようなポリマーでコーティングできない場合、特にアルミニウムおよびアルミニウム合金の場合、シラン・コーティングは有利には、上述の塗布プロセスに続いて硬化されるべきである。硬化は加水分解されたシラノール基を重合する。この金属は温風乾燥または自然乾燥させられてよい。
【0055】
シラン処理コーティングは約40℃〜180℃の温度で硬化されてよい。硬化時間は重大なものではないが、硬化温度に関連する。物品を出来る限り短い時間で乾燥させるだけで十分である。温度が低いと乾燥時間が過度に長くなる。硬化後、第2の処理溶液が塗布されるか、または、第1の処理溶液が再塗装されてよく、所望の場合には硬化されてよい。
【0056】
硬化時間は0.5分〜1時間であってよいが、しかし、好ましくは約0.5分〜約3分の硬化期間が用いられる。場合によっては硬化は十分な時間にわたって室温でさえ行われる。金属基材は直ちに塗装されてよいが、しかしこのことは重要ではない。
【実施例】
【0057】
下記の例は、本発明の方法を採用することによって得られたいくつかの優れた結果および意外な結果を明らかにしている。標準的な予備処理、対照予備処理、および、本発明の効力の評価に用いられるテストは以下の通りである:
【0058】
テスト:
加速腐食テストは、アルミニウムに対するBS6496酢酸塩スプレー、亜鉛に対する酢酸塩スプレー、鋼および亜鉛に対するASTM B117中性塩であった。これらの方法を両方とも1000時間テストに用いた。
【0059】
短時間テストを選択プロセスのスピードアップのために導入し、塩スプレー方法に対する一連のテスト基材における結果に密接な相関関係があることが判った。この短時間テストは傷つけられたパネルを2wt%の塩化ナトリウム溶液中に55℃、pH±0.25で5日間浸漬し、ペイント結合解離の大きさを試験する。
【0060】
ペイント接着をBS3900パートE3および変更を加えたカッピング法に従って逆衝撃を用いて評価した。この場合ペイント・フィルムが金属基板に対して、1.5mmの間隔を置いた直交線から成る格子パターンの一貫した傷をつけられて、ペイントの100個の個別の正方形が形成される。続いてBS3900パートE4に従って、一定の深さまでカッピングを行う。カッピング後、接着テープが貼られて、金属歪みにより生じたペイント剥離の度合いを求める。その損失を剥離された正方形の数(=格子パターンのパーセント)として表す。
【0061】
さらに、粉末コーティングペイントを有するアルミニウムパネルをBS6496に従って圧力クッカーテストする。
【0062】
濃縮物:
予備処理化学薬品は通常、検量線用溶液を形成するために水で希釈された濃縮物として供給される。2つの濃縮溶液が、安定した貯蔵特性を示すように調製されている。
【0063】
1)4vol.%BTSE + 2vol.%APS(エタノール中) +水
2)8vol.%BTSE + 4vol.%APS(エタノール中) +水
【0064】
20vol.%BTSE + 10vol.%APSは使用できないことが判った。それというのは溶液が-4日後にゲル化するからである。このゲルは水と攪拌すると分散して均一な透明な溶液を形成するが、ゲルとしての濃縮物の供給はほとんどの末端ユーザにとっては実際的ではない。
【0065】
処理溶液の産業規模例を以下に詳しく述べる。
【0066】
組成成分:
(a) BTSE 94.8kg
(b) APS 46.5kg
(c) 氷酢酸 12.6kg
(d) 工業用メタノール変性エタノール 38.8kg
(e) 脱塩水 807.3kg
【0067】
1. BTSEと(d)とを混合することによりBTSEを予備加水分解する。続いて146.5kgの脱塩水と0.3kgの氷酢酸とを攪拌しながら添加する。IMSの損失を抑制するために蓋をした容器内で溶液を攪拌する。攪拌が停止可能なときに20〜25℃で、6時間の攪拌のあと溶液は透明になり、単相になる。発生する完全な加水分解にかかる時間は、BTSE中の異性体の比に応じて変化させることができ、こうして完全な加水分解が保証される。この予混合物を好ましくは3日間貯蔵する。
【0068】
2. 400kgの脱塩水を主混合用容器にAPSと一緒に攪拌しながら加える。
【0069】
3. 30分後、11.8kgの氷酢酸を`2’に攪拌しながら添加する。必要ならばさらに氷酢酸を加えてもよいが、pHは7.0〜7.5の範囲内にある。
【0070】
4. 260.8kgの脱塩水を別個の容器に加え、`1’からの加水分解物を攪拌しながら添加する。
【0071】
5. `4’を溶液`3’に攪拌しながら添加する。これにより、約6.3のpHを有する透明な溶液が生産される。
【0072】
6. 十分な量の残りの氷酢酸を`5’に添加し、pHを6.0〜6.1の範囲内にする。
【0073】
清浄後、金属を水で完全に洗浄しなければならない。シラン処理溶液にクリーナを導入すると、その化学的なバランスが損なわれるおそれがあり、その結果、シランが過度に使用されることがある。好ましくは脱塩水をシラン処理の直前にリンス中に用いて、検量線用溶液の寿命を長くする。
【0074】
タンクの作業容積を決定し、脱塩水で70%になるまで充填すべきである。
【0075】
シラン処理溶液を1000リットルの検量線用溶液当たり200リットルの比率で添加し、溶液を作業容積にもたらすのに必要とされる残りの脱塩水と溶液とを完全に混合する。溶液のpHをチェックしてそれが範囲内にあることを確かめてよい。
【0076】
特に好ましい塗布タイプはスプレーおよび浸漬である。両タイプのシラン塗布に続いて、余剰の溶液を流下するに任せる流下時間が続く。その結果、薄いコーティングが生じる。この薄いコーティングにより、傷つきにくいコーティングが得られ、エッジの見映えもよくなり、処理組成物成分の使用量が減じられる。次いで流下させられた処理溶液を好ましくは処理浴に戻す。こうして廃液が減じられ、組成物成分の過度の損失が防止される。コイルコーティング塗布にはスクィージまたはケミカルコータ塗布技術が好ましい。
【0077】
これらのコーティングのための硬化時間は特に重要ではなく、上述のように、硬化温度に関連する。硬化時間は、経済的な理由から短いほうが好ましいが、5時間程度でよい。
【0078】
処理タンクは一般的にコンスタントに使用され再利用可能であるので、溶液に最適な結果をもたらすために、BTSE/APSの濃度を維持するのが通常である。処理溶液の濃度をコントロールするために標準的な滴定処置が用いられるべきである。
【0079】
このような処理の例を以下に詳しく説明する。
【0080】
1) 上述のように生産されたほぼ50mlのBTSE/APS溶液を得る。
【0081】
2) 20mlの浴をピペットでフラスコ内に入れ、5〜10滴の指示溶液(BDH`4.5’インジケータ)を添加する。
【0082】
3) 溶液の色が青から灰色に変わるまで0.1Nの硫酸で滴定する。硫酸のml数を「A」として記録する。
【0083】
4) BTSE/APS溶液の濃度を測定するために次の等式を使用する。
【0084】
BTSE/APS濃度(% v/v)=2.2 x A
pHが頻繁にまたは規則的に監視されることも重要である。
【0085】
検量線用溶液のpHはpHメータを使用して測定されてよい。このpHは一般的には4.0〜6.5の範囲内に維持されるべきであるが、鋼を処理する場合には、pHは好ましくは5.8〜6.5の範囲内に維持される。
【0086】
サイクル疲労テスト:
典型的なサイクル疲労テストは、8Hzの周波数で+/−1200Nの繰り返し力を加えて500,000サイクル行われる。全ての実施態様は、欠損なしにこのテストに合格した。
【0087】
例1:電気塗装
6”x 4”テストパネルを、Pyroclean(商標)1055(珪酸塩系マルチメタルクリナー)を使用して、55℃で3.5分間スプレー洗浄した。次いで、シラン予備処理評価の基準とすべく、下記のようにパネルを処理した:
鋼:周囲温度で30秒間2g/lのParcolene Xでコンディショニングし、50℃で3分間 Bonderite (商標)26SP(3陽イオン燐酸亜鉛)に浸漬することによって、2.1g/m2の微結晶性燐酸亜鉛コーティングを得た。Parcolene (商標)86(クロムIII溶液)1.5g/lで後リンス処理した後、リンシングおよび乾燥処理した。
【0088】
亜鉛: (電気メッキ(EZ)および溶融電気メッキ(HDG)−上記と同じ処理条件を採用した。表1に示すシラン混合物は下記の通りである:
(1)2容積%BTSE+1容積%γ−APS
【0089】
【表1】

【0090】
例2:粉末コート・ペイント
鋼:クリーナ−コータを使用して、金属表面を洗浄すると同時に燐酸処理した。60℃で3分間、パネルにPyrene(商標)2−68をスプレーすることによって、1.1g/m2の燐酸鉄コーティングを得た。このコーティングに、5g/lのPyrene Eco Seal(商標)800による後リンス処理を施した。
【0091】
亜鉛(EZおよびHDG):上記のような、但し、亜鉛およびアルミニウムように調合したクリーナ−コータを使用した。60℃で3分間、パネルにPyrene(商標)2−69をスプレーすることによって鋼表面に0.65g/m2のコーティングを形成した。燐酸塩コーティングを、5g/lのPyrene Eco Seal(商標)800で後リンス処理した。
【0092】
アルミニウム:亜鉛に対する処理と同じ処理を施した。
【0093】
表2は粉末コーティングした鋼、溶融電気メッキした鋼およびアルミニウムに対する1000時間塩スプレー・テストの結果を示す。表2に示すシラン混合物は下記の通り:(1)2容積%BTSE+1容積%γ−APS。
【0094】
表2粉末コート鋼、溶融電気メッキ鋼およびアルミニウムに対する1000時間塩スプレー・テスト
【0095】
【表2】

【0096】
表3は粉末コート・フィルムの接着テストの結果を示す。表3に示すシラン混合物は下記の通り:(1)2容積%BTSE+1容積%γ−APS
【0097】
表3粉末コート・フィルムの接着テスト
【0098】
【表3】

【0099】
表4は亜鉛に対して、異なるBTSE/APS比で実施した120時間高温塩浸透の結果を示す。
【0100】
表4亜鉛に対する120時間高温塩浸透
【0101】
【表4】

【0102】
例3:シラン予備処理
シラン溶液(2容積%BTSE+1容積APSおよび(2容積%BTSE+0.5容積%γ−APS)を下記のように調製した:
【0103】
BTSE3容積部を4容積部脱イオン水および17容積部工業用メチルアルコールと混合した。この混合物を7日間放置した。使用に先立ち、5容積%の水を加えて混合し、24時間放置することにより、γ−APSを加水分解した。この溶液を脱イオン水で希釈することにより、0.5および1容積%γ−APSを得、酢酸でpHを6に調整した。次いで、中和されたγ−APSに充分に加水分解されたBTSEを添加して2%BTSEを得た。
【0104】
鋼に対する予備処理として利用する場合、シラン溶液のpHが錆を発生されることで、鋼のグレードおよび/または仕上がりに悪影響を及ぼす可能性のあることが判明した。発明者の所見によれば、pH6溶液の使用が無難である。金属基材にシランを塗布する際、さらに低いpHでも許容されるが、作業し易いという点で、亜鉛やアルミニウムにもpH6を採用した。
【0105】
基材を30秒間溶液に浸漬し、短時間にわたって余剰分を流下させた後、85℃でオーブン乾燥した。
【0106】
電気塗装パネルを厚さ30μmの層でコーティングすると同時に、粉末コートされる成分に60〜90μmのペイント・フィルムを施した。次いで、このパネルを加速腐蝕テストおよびペイント・フィルム接着テストした。
【0107】
例4:3種類の基材に対するコイル・コーティング処理
ACT CRS,Baycoat Hot Dipped Galvanized Steel(HDG)およびGalvalume(商標)パネルを使用して、γ−APS/BTSE処理を行なった。CRSに関してはB1000 P60 DIWを、HDGおよびGalvalumeに関してはBaycoat生産ラインにおけるChromateトリートメントを、それぞれ対照パネルとして使用した。Galvalumeパネルには下塗剤(m856−016)と上塗剤(22−20752)を塗布し;HDGパネルには、Lilly Industries社製の下塗剤(PMY0154)と上塗剤(SPG0068)を塗布し;CRSパネルにはSpecialty Coating Company製の80G Newell White Polyester(408−1−w976)を塗布した。これらはすべてポリエステル系ペイントである。
【0108】
表5は、下記組成物に関する腐蝕テスト結果(塩スプレー・テスト結果(mm)(ポリエステル・コイル・ペイント)を示す。
【0109】
1.γ−APS 0.5容積%+BTSE2容積%、pH=5
2.γ−APS 1容積%+BTSE 2容積%、pH=5
3.γ−APS 2容積%+BTSE 0.5容積%、pH=5
4.対照処理剤
【0110】
表5塩スプレー・テスト結果(mm)
【0111】
【表5】

【0112】
例5:CRSに対する処理
ACT冷間圧延鋼パネルに使用した処理剤は2−6%γ−APS,0.5−2%BTSE,0.01−0.1%酢酸、5−15%アルコールおよび80−90%脱イオン水から成る溶液であった。シラン処理パネルおよび燐酸亜鉛/クロム処理パネル(ACTから購入)に対する上塗剤として、River Valleyペイント(ポリエステル系)を使用した。塩スプレー・チェンバ内で216時間にわたってパネルをテストした。表6はテスト結果を示す。
【0113】
表6River Valleyで塗装されたCRSパネルの塩スプレー・テスト結果
【0114】
【表6】

【0115】
例6
アルミニウム合金のグレード5251テストパネルを、γ−APS/BTSEを使用して下記のように処理した:
【0116】
1.Pyroclean 630(25g/l、70℃、5分間)でアルミニウム板を浸漬洗浄した。(Pyrolean(商標)630は珪酸処理されたアルカリ性、非食刻性クリーナ)。
【0117】
2.アルミニウム板を冷水洗浄した。
【0118】
注:BTSEは、使用に先立って下記のように加水分解処理した:−
BTSE3容積部を、脱イオン水4容積部および工業用メチルアルコール17容積部と混合した。この混合物を、7日間放置した。
【0119】
3.γ−APSは、使用に先立って5容積%の水を加え、混合し、24時間放置することによって加水分解処理した。次いで、この溶液を脱イオン水で希釈することにより、0.5および1容積%のγ−APSを得、酢酸でpHを6に調整した。次いで、充分に加水分解されたBTSEと中性γ−APSに添加して2%BTSEを得た。洗浄され、リンスされたアルミニウム板をこのBTSE/γ−APS溶液に30秒間浸漬した。
【0120】
4.次いで、パネルを80℃で乾燥させた。
【0121】
対照として5251パネルをクロム酸塩予備処理剤で、下記のように処理した:
【0122】
1. パイロクリーン(pyroclean)71(25g/l、70℃、5分間)で浸漬清浄する。(パイロクリーン71は非珪酸塩アルカリの非食刻性クリーナである。
【0123】
2. 冷水で洗浄する。
【0124】
3. Aluma Etch 701(40g/l Aluma Etch(商標)添加剤、50℃、2分間)中に浸漬する。
【0125】
4. 冷水で洗浄する。
【0126】
5. 10% v/v硝酸中に浸漬する(スマットをエッチングにより除去するため)。
【0127】
6. 冷水で洗浄する。
【0128】
7. Bonderite711(商標)(15g/l、40℃、4分間、コーティング重量0.74g/m2)中に浸漬する(Bonderite711は上塗りに適した黄色のクロム酸塩化成コーティングを与える)。
【0129】
8. 冷水で洗浄する。
【0130】
9. 脱塩水で洗浄する。
【0131】
10.圧縮空気粒で乾燥させる。
【0132】
クロム酸塩およびシランで処理された両パネルが次のペイントで塗装される。
【0133】
(a) (ポリウレタンと考えられる)2パック液状ペイント。このペイントは、6部のペイントと1部の硬化剤とを混合することにより調製され、50μmのペイント・フィルム厚を生産するために120℃で3分間炉加熱された、建築用アルミニウム業界内で使用される。
【0134】
(b) ポリエステル粉末コーティング・ペイント。このペイントは、60μmの最小ペイント・フィルム厚を形成するために200℃の金属温度で10分間炉加熱される。
【0135】
これらのパネルは100時間、BS6496酢酸塩スプレーを受ける。2パック液状ペイントで塗装されたパネルは、4mmの逆衝撃、3mmおよび7mmのエリクセン圧痕/1.5mmのクロスハッチ接着テストを受ける。これらのテストの結果をそれぞれ表7および表8に示す。
【0136】
表71000時間酢酸塩スプレーテスト
【0137】
【表7】

【0138】
表8逆衝撃および3mm・7mmエリクセン圧痕/1.5mmクロスハッチ接着テスト
【0139】
【表8】

【0140】
例7:コイルアルミニウムのための予備処理
アルミニウム(合金等級3005および3105)テストパネルが次のように加工された。
【0141】
1.パイロクリーン630(25g/l、70℃、5分間)中に浸漬する。
【0142】
2.冷水で洗浄する。
【0143】
3.シラン溶液中に10秒間浸漬し、ゴムスクィージローラを通過させて、過剰の液体を除去し、80℃で炉乾燥させる。
【0144】
使用されたシラン溶液は次の通りである:
BTSE 2% + γ−APS 1%、 pH4.9
BTSE 2% + γ−APS 0.5%、 pH5.0
【0145】
対照として、3005および3105テストパネルは清浄化され上述のように洗浄され、以下のようにクロム・コーティング・リンス・プロセスでコーティングされた。Accomet C(商標)(Albright and Wilsonにより提供された、リンスプロセスを含まないクロム)が12.5% v/vに希釈され、パネル上に注がれ、次いでこれらのパネルは過剰の液体を除去するために回転させられ、105℃で乾燥させられた。パネル上のクロムコーティング重量は45mg Cr/m2であった。
【0146】
パネルはBollig and Kemperによって提供されたPolycoat ポリエステル・ペイントで塗装された。パネルは243℃のピーク金属温度で40秒間硬化された。乾燥したペイント・フィルム厚は17μmであった。
【0147】
パネルは1000時間、BS6494酢酸塩スプレーおよびT曲げ接着テスト(ECCA−T20(1992)仕様に従う)を施された。その結果を表9および表10に示す。
【0148】
表91000時間酢酸塩スプレー
【0149】
【表9】

【0150】
表10T曲げ
【0151】
【表10】

【0152】
例8:ゴム結合
現在実地においては、金属とゴムとの結合は、自動車業界においてショックアブソーバおよび防振マウントのために用いられているように、金属部品を燐酸塩処理し、次いで下塗りコーティングを塗布し、続いて上塗りコーティングにゴムを結合することにより行われる。種々の製造業者から供給された加工部品から本出願人は、金属表面にシランを塗布し、続いて上塗りコーティング(下塗りコーティングではない)塗布することが、現行システムに等しい強度および耐久性を有する金属・ゴム結合を形成することを確証した。
【0153】
金属部分は2つの異なるシラン混合物(2% BTSE + 0.5% APS pH5.5、 2% BTSE + 1% APS pH5.5)中で、双方とも環境周囲において30秒処理され、続いて100℃で乾燥させられ、サイクル疲労試験を施されて、合成物構造の強度および疲労モードが測定される。
【0154】
最終的な強度測定値:
2% BTSE + 0.5% APS 7834N
2% BTSE + 1.0% APS 8635N
【0155】
全ての場合において欠損はゴム内に生じたものであり、金属・ゴム界面に生じたものではない。現在実地においては3500Nよりも高い値が要求されている。
【0156】
例9:長期間耐食性の評価
テスト基剤として、CRS,HDG70Gおよびアルミニウム3003を選択した。CRSとHDGのためのクリーナとして、Parker338に類似のアルカリ性クリーナであるBrent Chem クリーン1111(AC1111)を選択した。基剤を、140°Fで2分間、AC1111(15g/l)中でリンスした。AC1111のような,強力且つ抑制不能なアルカリ性クリーナはアルミニウムを損傷させ、溶解するから、アルミニウム3003の洗浄にはAC1220を選択した。AC1220は、130°F、5容積%で使用した。例3において調製されたようなAPS/BTSE溶液で基剤を処理し、次いで、220°Fで30分間硬化させた。分子構造および組成を分析する最も強力な手段の1つとして、赤外線分光分析が採用されている。シロキサン基がIRスペクトルのほぼ1000cm−1において特有の吸収能を有することは公知である。そこで、アルカリ洗浄の前後にAPS/BTSEによって金属表面に形成されたフィルムの特性を分析するのにNicolet AVATAR−360FTIRを使用した。IRスペクトルを採集した後、これらの基材を上記クリーナで洗浄した。再度IRスペクトルを採集した。同じ処理剤、同じ基材について、洗浄前後のスペクトルを比較した。洗浄後にシロキサン基の吸収が観察されなければ、シロキサン・フィルムが除去されたことが示唆される。
【0157】
評価結果:
アルカリ性クリーナはCRSおよびHDGからシロキサン・フィルムを除去できず、珪酸塩クリーナもアルミニウムからシロキサン・フィルムを除去できないことが、スペクトルによって示唆された。結果を表11に示す。
【0158】
表11IRスペクトルに現れるシロキサンの吸収能
【0159】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の耐食性を向上させる方法であって、
(a)金属基材を用意し、
(b)金属基材を、1種類または2種類以上の加水分解された、または少なくとも部分的に加水分解されたアミノシラン、1種類または2種類以上の加水分解された、または部分的に加水分解された多シリル官能シランおよび溶剤を含有する溶液と接触させた後、溶剤をほぼ完全に除去することにより、金属基材に長期コーティングを施す
ステップから成ることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
金属基材が、
−鋼;
−亜鉛、亜鉛合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金のうちのいずれかの金属で被覆された鋼;
−鉄;
−亜鉛および亜鉛合金;
−アルミニウム;
および
−アルミニウム合金
からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ステップ(b)に続き、約40℃〜約180℃の温度で前記コーティングを硬化させるステップをも含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
1種類または2種類以上の加水分解された、または部分的に加水分解されたアミノシランおよび1種類または2種類以上の加水分解された、または部分的に加水分解された多シリル官能シランを含有する第2処理溶液を、前記金属基材に塗布するステップをも含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
1種類または2種類以上の加水分解された、または部分的に加水分解された有機官能シランを含有する第2処理溶液を塗布するステップをも含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
アミノシランが構造式
【化1】

を有し、上記式において、
Rが水素、C−C24アルキル、C−C24アシルから成る群から選択され、Rどうしが同じでも異なっていてもよく;
Xが置換または非置換C−C24脂肪族基またはC−C24芳香族基であり;
各Rが個別に、水素、置換または非置換C‐C24脂肪族基、C−C24オレフィン基またはC−C24芳香族基から成る群から選択される、
請求項1記載の方法。
【請求項7】
各Rが好ましくは、水素、エチル、メチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、ter−ブチルおよびアセチルから成る群から個別に選択されるC−CアルキルまたはC‐Cアシル基である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
Xが結合基、C−Cアルキレン、C−Cアルケニレン、少なくとも1個のアミノ基で置換されたC−Cアルキレン、少なくとも1個のアミノ基で置換されたC−Cアルケニレン、アリーレンおよびアルキルアリーレンから成る群から選択される、請求項6記載の方法。
【請求項9】
各Rが、水素、C−Cアルキル、C−Cアルケニル、少なくとも1個のアミノ基で置換されたC−Cアルキル、少なくとも1個のアミノ基で置換されたC−Cアルケニル、アリーレンおよびアルキルアリーレンから成る群から個別に選択される、請求項6記載の方法。
【請求項10】
各Rが、水素、エチル、メチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、ter−ブチルおよびアセチルから成る群から個別に選択される、請求項6記載の方法。
【請求項11】
多シリル官能シランが一般構造式
【化2】

を有し、上記式において、
Zは結合基、C−Cアルキレン、C−Cアルケニレン、少なくとも1個のアミノ基で置換されたC1−Cアルキレン、少なくとも1個のアミノ基で置換されたC−Cアルケニレン、アリーレンおよびアルキルアリーレンから成る群から選択され;
が水素、C−C24アルキルおよびC−C24アシルから成る群から選択され、Rどうしが同じでも異なってもいてもよく;
nが2または3である、
請求項1記載の方法。
【請求項12】
が水素、C−CアルキルおよびC−Cアシルから成る群から選択され、Rどうしが同じか、または異なる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
各Rが、水素、エチル、メチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、ter−ブチルおよびアセチルから成る群から個別に選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
アミノシランがγ−アミノプロピルトリエトキシシランである、請求項1記載の方法。
【請求項15】
多官能シランが1,2−ビス−(トリエトキシシリル)エタンである、請求項1記載の方法。
【請求項16】
溶液が酸をも含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
酸が酢酸、蓚酸、蟻酸およびプロピオン酸から成る群から選択される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
溶剤が有機溶剤である、請求項1記載の方法。
【請求項19】
溶剤がアルコールである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
溶剤が水である、請求項1記載の方法。
【請求項21】
シラン・コーティングの表面にポリマー・コーティングを塗布する、請求項1記載の方法。
【請求項22】
ポリマー・コーティングを、ペイント、ゴムおよび接着剤から成る群から選択し、好ましくは、このポリマー・コーティングをシラン・コーティングに接着する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
溶液中における多シリル官能シランの濃度が、約0.1%〜約10%、好ましくは約0・4%〜約3%、さらに好ましくは2%以上である、請求項1記載の方法。
【請求項24】
溶液中におけるアミノシランの濃度が、約0.1%〜約10%、好ましくは約0.2%〜約2%、さらに好ましくは約1%以下である、請求項1記載の方法。
【請求項25】
アミノシランと多シリル官能シランの比が、4:1−1:8、好ましくは2:1−1:4、さらに好ましくは1:2より大きい、請求項1記載の方法。
【請求項26】
容器、好ましくは浴中に存在する処理溶液に金属基材を浸漬する、請求項1記載の方法。
【請求項27】
処理溶液中への金属基材浸漬時間が、約2秒〜約50分、好ましくは約0.5分〜約2分である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
余剰処理溶液を、金属基材から流下するに任せて容器に戻す、請求項26記載の方法。
【請求項29】
ほぼ均質の処理溶液を維持するため、浴に処理溶液を補給する、請求項26記載の方法。
【請求項30】
金属基材の長期耐食性の向上を目的とする、1種類または2種類以上の加水分解された、または部分的に加水分解されたアミノシラン、1種類または2種類以上の加水分解された、または部分的に加水分解された多シリル官能シランおよび溶剤を含有する溶液の使用。
【請求項31】
少なくとも1種類のアミノシランおよび少なくとも1種類の多シリル官能シランを含み、アミノシランと多シリル官能シランが4:1−1:8、好ましくは2:1〜1:4、さらに好ましくは1:2より大きいことを特徴とする組成物。

【公開番号】特開2007−291531(P2007−291531A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200848(P2007−200848)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【分割の表示】特願2000−597373(P2000−597373)の分割
【原出願日】平成12年2月4日(2000.2.4)
【出願人】(500118458)チェメタル パブリック リミティド カンパニー (4)
【Fターム(参考)】