説明

アミノ化フラーレン

【課題】工業的に容易に合成できるとともに、アルコールへの高い溶解性を有し、付加基の数が少なくフラーレンの特性を損なわず、生理活性物質、電子伝導材料、樹脂添加剤等の種々の用途に好適に用いられるアミノ化フラーレンを提供する。
【解決手段】1つ以上の分岐を有する炭素鎖を含むエステル基と2個の窒素原子を含む環状アミノ基を構成する一方の窒素原子とをアルキレン鎖を介して結合させ、当該環状アミノ基を構成する他方の窒素原子と、フラーレンとを直接結合させることにより、工業的に容易に合成できるとともに、アルコールへの高い溶解性を有し、付加基の数が少なくフラーレンの特性を損なわず、生理活性物質、電子伝導材料、樹脂添加剤等の種々の用途に好適に用いられるアミノ化フラーレンを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体に関する。詳しくは、本発明は、特定の構造を有するアミノ化フラーレンに関する。
【0002】
1990年にフラーレンC60の大量製造法が開発されて以来、数多くのフラーレン誘導体が開発され、その多様な機能が明らかにされてきた。それに伴い、フラーレン誘導体を用いた電子伝導材料、半導体、生理活性物質等の各種用途開発が進められている。
【0003】
適用分野によってフラーレン誘導体に要求される物性はそれぞれ大きく異なるが、中でも、塗布による薄膜形成、樹脂への均一な分散等を目的として、種々の溶媒にフラーレン誘導体を溶解させることが強く求められており、各種溶媒への高い溶解性を有するフラーレン誘導体の開発が精力的に行われている。
【0004】
特に電子伝導材料用途においては、フラーレン誘導体の溶液をスピンコート等の手法により塗布し、フラーレン誘導体を含む薄膜として用いることがあり、溶媒に高い溶解性を示すフラーレン誘導体が求められている。例えば、特許文献1には、特定の構造を有するフラーレン誘導体がエステル溶媒に高い溶解性を示すことが記載されている。具体的には、かさ高いエステル置換基を有する有機基をフラーレンに付加することで、フラーレン誘導体のエステル溶媒への高い溶解性を達成している。
【0005】
また、フラーレンは、通常、活性酸素を除去する性質を有するため、生理活性物質用途への応用が期待されている。この用途においても、通常、フラーレン誘導体は溶媒に溶解して用いられるため、水、アルコール等の極性溶媒への高い溶解性が求められるが、毒性の少ない水、アルコール等に高濃度で溶解する公知のフラーレン誘導体は多くない。
【0006】
水溶性を有するフラーレン誘導体の例として、非特許文献1には、ヒドロキシル基が最大40個付加した水酸化フラーレンが記載されている。このフラーレン誘導体は、水に対して最大で58.9g/Lの高い溶解性を示し、さらに、その構造が不明ではあるが、200g/L以上の高い水溶性を示すフラーレン誘導体も記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、フラーレンにアミノ基が付加したアミノ化フラーレンが報告されている。この文献においては、アミノ化フラーレンであるテトラアミノフラーレンエポキシドを、工業的に可能な1段階の反応で、高収率かつ高選択的に製造することができる技術が開示されている。
【0008】
さらに、公知のアミノ化フラーレンがメタノールに溶解性を示さないことを利用して、アミノ化フラーレンの製造時に、晶析用の貧溶媒としてメタノールが用いられることもある。
【0009】
【特許文献1】特開2006−56878号公報
【特許文献2】特開2006−199674号公報
【非特許文献1】第30回記念フラーレン・ナノチューブ総合シンポジウム講演要旨集p.149
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のフラーレン誘導体は、エステル溶媒に高い溶解性を示すものの、当該フラーレン誘導体を工業的に製造するためには、その製造工程においてGrignard試薬と銅化合物とから調製される不安定な有機銅試薬を用いたり、付加工程、脱保護工程、エステル化工程等の多段工程を経るため、製造コスト高及び製造時間の長時間化となったりする等、工業的に製造するためには多くの課題があった。
【0011】
また、非特許文献1に記載の水酸化フラーレンのように、多くの付加基がフラーレンに付加することで高い溶解性を達成したフラーレン誘導体は、フラーレンの共役が狭くなるため、フラーレンの特性が大きく損なわれている可能性がある。さらに、水酸化フラーレンは、水酸化フラーレン分子ごとに上記付加基の量が異なっていたり、その構造の特定が困難であったりする等の多くの課題を有していた。
【0012】
さらに、特許文献2に記載のアミノ化フラーレンを本発明者らが合成し、それらのアミノ化フラーレンのメタノールへの溶解性を確認したところ、いずれもメタノールに溶解性を示さなかった(具体的には、メタノール1mLに対して、アミノ化フラーレンが0.1mg以下可溶)。従って、公知のアミノ化フラーレンは、メタノール等のアルコールに溶解性を示さないという課題も有していた。
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、工業的に容易に合成できるとともに、アルコールへの高い溶解性を有し、付加基の数が少なくフラーレンの特性を損なわず、生理活性物質、電子伝導材料、樹脂添加剤等の種々の用途に好適に用いられるアミノ化フラーレンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、1つ以上の分岐を有する炭素鎖を含むエステル基と2個の窒素原子を含む環状アミノ基を構成する一方の窒素原子とをアルキレン鎖を介して結合させ、当該環状アミノ基を構成する他方の窒素原子と、フラーレンとを直接結合させることにより、工業的に容易に合成できるとともに、アルコールへの高い溶解性を有し、付加基の数が少なくフラーレンの特性を損なわず、生理活性物質、電子伝導材料、樹脂添加剤等の種々の用途に好適に用いられるアミノ化フラーレンを提供することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
即ち、本発明の要旨は、下記式(1)で表される構造の置換又は無置換の環状2級アミノ基が、フラーレンに直接結合していることを特徴とする、アミノ化フラーレンに存する(請求項1)。
【化1】

(式(1)中、m及びnは、それぞれ独立に、1以上4以下の整数を表す。また、Eは、1つ以上の分岐を有する炭素鎖を含むエステル基を表す。)
【0016】
この時、前記エステル基が、下記式(2)、(3)及び(4)からなる群より選ばれる1種以上の構造のエステル基であることが好ましい(請求項2)。
【化2】

【化3】

【化4】

(式(2)〜(4)中、R1は、それぞれ独立に、炭素数4以上10以下のアルキル基を表す。さらに、R1は、それぞれ独立に、1つ以上の分岐を有する。)
【0017】
また、前記R1が、t−ブチル基及び/又はネオペンチル基であることが好ましい(請求項3)。
【0018】
また、前記式(1)中、nが2であることが好ましい(請求項4)。
【0019】
また、前記式(1)中、mが1であることが好ましい(請求項5)。
【0020】
また、テトラアミノC60−モノエポキシドであることが好ましい(請求項6)。
【0021】
前記テトラアミノC60−モノエポキシドが、そのフラーレン上に下記式(5)で表される部分構造を有することが好ましい(請求項7)。
【化5】

(式(5)中、NR2は、それぞれ独立して、上記式(1)で表される構造の置換又は無置換の環状2級アミノ基を表す。また、式(5)中、細線で表される炭素−炭素結合は、フラーレンを形成する炭素骨格が有する炭素−炭素結合を表す。)
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、工業的に容易に合成できるとともに、アルコールへの高い溶解性を有し、付加基の数が少なくフラーレンの特性を損なわず、生理活性物質、電子伝導材料、樹脂添加剤等の種々の用途に好適に用いられるアミノ化フラーレンを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0024】
本明細書において、特に指定の無い限り、有機化合物が有する、例えば光学異性体、位置異性体、幾何異性体等の異性体の種類に特に制限はない。例えば、キシレンには、その異性体として、オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレン等があるが、単に「キシレン」と記載する場合、キシレンはこれらの異性体のいずれでも良い。また、用いる有機化合物は、2種以上の異性体を任意の比率及び組み合わせで含んでも良い。
【0025】
[1.アミノ化フラーレン]
本発明のアミノ化フラーレンは、下記式(1)で表される構造の置換又は無置換の環状2級アミノ基が、フラーレンに直接結合しているものである。
【0026】
【化6】

(式(1)中、m及びnは、それぞれ独立に、1以上4以下の整数を表す。また、Eは、1つ以上の分岐を有する炭素鎖を含むエステル基を表す。)
【0027】
(フラーレン)
「フラーレン」とは、炭素原子が球状又はラグビーボール状に配置して形成される、閉殻構造を有する炭素クラスターである。フラーレンの炭素数は、通常60以上、通常120以下である。
【0028】
フラーレンの具体例としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスター等が挙げられる。なお、以下の説明においては、炭素数i(iは任意の自然数を表わす。)のフラーレンを適宜、式「Ci」で表わす。
【0029】
本発明のアミノ化フラーレンが有するフラーレンとしては、例えば、上記の具体例が挙げられるが、中でも原料として入手し易いという観点から、C60が好ましい。なお、フラーレンは、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0030】
(環状2級アミノ基)
環状2級アミノ基は、上記式(1)で表されるものであり、2個の窒素原子及び(n+2)個の炭素原子からなる環状アミノ基(以下、適宜「環状2級アミノ骨格」と言う。)の1個の窒素原子に、1つ以上の分岐を有する炭素鎖を含むエステル基が炭素数mの炭素鎖を介して結合しているものである。
【0031】
(環状2級アミノ骨格)
上記式(1)中、nは炭素鎖の炭素数を表す。nの好ましい範囲としては、通常1以上、また、その上限は、通常4以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。中でも、nは2であることが特に好ましい。炭素数が多すぎる場合、極性が低くなりアルコールへの溶解性が低くなる可能性がある。
【0032】
環状2級アミノ骨格の具体例としては、N−イミダゾリジノ基、N−ピペラジノ基、N−ホモピペラジノ基等が挙げられる。中でも、環状2級アミノ骨格を生成する原料の入手の容易さの観点から、N−ピペラジノ基、N−ホモピペラジノ基が好ましく、N−ピペラジノ基がより好ましい。なお、環状2級アミノ骨格は、1種を単独で用いても良く、2種を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0033】
また、環状2級アミノ骨格は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環状2級アミノ骨格が有する水素原子が置換基に置換されていても良い。有していても良い置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシチオ基等が挙げられる。置換基は、1種を単独で置換しても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで置換しても良い。
【0034】
置換基の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常9g/モル以上、好ましくは15g/モル以上であり、また、その上限は、通常200g/モル以下、好ましくは150g/モル以下、より好ましくは100g/モル以下である。分子量が大きすぎる場合、単位重量あたりのフラーレンの割合が相対的に低下する結果、フラーレンの特性が十分発現しない可能性がある。
【0035】
さらに、置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環を有していても良い。
【0036】
また、置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、飽和結合だけではなく、不飽和結合を有していても良い。不飽和結合は、二重結合でも良く、三重結合でも良い。また、二重結合と三重結合とを任意の比率及び組み合わせで有していても良い。
【0037】
(1つ以上の分岐を有する炭素鎖を含むエステル基)
上記式(1)中、Eは1つ以上の分岐を有する炭素鎖を含むエステル基(以下、適宜「分岐含有エステル基」と言う。)を表し、炭素数mの炭素鎖を介して環状2級アミノ骨格に結合している。分岐含有エステル基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、その構造は任意であるが、通常、エステル基と、1つ以上の分岐を有する任意の炭素鎖を有する基(以下、適宜「R1」と言う。)とが結合してなる。従って、分岐含有エステル基としては、下記式(2)、(3)及び(4)からなる群より選ばれる1種以上の構造のエステル基が好ましい。これらの中でも、下記式(3)で表される構造のエステル基が特に好ましい。なお、分岐含有エステル基は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【化7】

【化8】

【化9】

【0038】
1が有する炭素数は、上記式(2)〜(4)においてそれぞれ独立に、通常4以上であり、また、その上限は、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。炭素数が多すぎる場合、フラーレンに対する環状2級アミノ基の分子量が大きくなる結果、フラーレンの性質が不十分となる可能性がある。
【0039】
また、R1は、1つ以上の分岐を有する。R1が有する分岐の数は、上記式(2)〜(4)においてそれぞれ独立に、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。また、本発明における分岐は、第3級炭素原子に由来する分岐であっても第4級炭素原子に由来する分岐であってもよいが、中でも、第4級炭素原子に由来するものが好ましい。
【0040】
さらに、R1における分岐の位置としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、出来るだけ炭素鎖の末端側に存在することが好ましい。具体的には、R1における最も長い炭素鎖を主鎖とし、その末端側から数えて(即ち最末端の炭素原子を1位としたときに)、上記式(2)〜(4)においてそれぞれ独立に、通常3位の位置よりも末端側、好ましくは2位にあることが好ましい。分岐の位置が上記範囲よりエステル基側に存在する場合、アミノ化フラーレンのアルコールへの溶解性が十分ではなくなる可能性がある。なお、分岐の位置は、1箇所のみであっても良く、2箇所以上であっても良い。
【0041】
1は、本発明の効果を著しく損なわない限り、飽和結合だけではなく、不飽和結合を有していても良い。不飽和結合は、二重結合でも良く、三重結合でも良い。また、二重結合と三重結合とを任意の比率及び組み合わせで有していても良い。
【0042】
さらに、R1の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常43g/モル以上、好ましくは57g/モル以上、より好ましくは71g/モル以上であり、また、その上限は、通常500g/モル以下、好ましくは300g/モル以下、より好ましくは150g/モル以下である。分子量が小さすぎる場合、分岐構造を構成できない可能性があり、分子量が大きすぎる場合、R1を構成する炭素数が増えることになるため、単位重量あたりのフラーレンの割合が相対的に低下する結果、フラーレンの特性が十分発現しない可能性がある。
【0043】
そして、R1は、鎖状であっても良く、環状であっても良いが、中でも、鎖状であることが好ましい。
【0044】
また、R1は、炭化水素基であることが好ましい。さらに、炭化水素基の中でも、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられるが、芳香族炭化水素基とフラーレンとが相互作用する結果、本発明のアミノ化フラーレンの十分な溶解性が発現しない可能性があるので、中でも脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。さらに、脂肪族炭化水素基の中でも、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられるが、中でもアルキル基であることが特に好ましい。
【0045】
以上の観点から、式(2)〜(4)中、R1は、それぞれ独立に、炭素数4以上10以下のアルキル基であることが好ましい。この時、R1は、式(2)〜(4)においてそれぞれ独立に、1つ以上の分岐を有する。
【0046】
1の具体例としては、t−ブチル基、ネオペンチル基、2−(t−ブチル)エチル基、3−(t-ブチル)プロピル基、4,4−ジメチルシクロヘキシル基、1−メチル−1−シクロヘキシル基、2,2,3−(トリメチル)−1−n−プロピル基等が挙げられる。中でも、R1はt−ブチル基、ネオペンチル基が好ましい。
【0047】
また、R1は、本発明の効果を著しく損なわない限り、置換基を有していても良い。置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシチオ基等が挙げられる。置換基は、1種を単独で置換しても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで置換しても良い。
【0048】
置換基の分子量としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常9g/モル以上、好ましくは15g/モル以上であり、より好ましくは29g/モル以上であり、また、その上限は、通常80g/モル以下、好ましくは60g/モル以下、より好ましくは50g/モル以下である。分子量が小さすぎる場合、その効果が十分ではないとなる可能性があり、分子量が大きすぎる場合、R1の分子量が増えることになるため、単位重量あたりのフラーレンの割合が相対的に低下する結果、フラーレンの特性が十分発現しない可能性がある。
【0049】
さらに、置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環を有していても良い。
【0050】
また、置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、飽和結合だけではなく、不飽和結合を有していても良い。不飽和結合は、二重結合でも良く、三重結合でも良い。また、二重結合と三重結合とを任意の比率及び組み合わせで有していても良い。
【0051】
また、これらの置換基が更に一以上の置換基によって多重に置換されていてもよい。置換しうる置換基としては、例えば、上記のR1に置換しうる置換基等が挙げられる。
【0052】
(炭素数mの炭素鎖)
環状2級アミノ骨格と分岐含有エステル基とは、炭素数mの炭素鎖を介して結合している。
【0053】
上記式(1)中、mは炭素鎖が有する炭素数を表す。mは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1以上、また、その上限は、通常4以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。中でも、mは1であることが好ましい。mの値が0である場合、アミノ化フラーレンのアルコールに対する溶解性が不十分となり、大きすぎる場合、環状2級アミノ骨格の極性が低下し、本発明のアミノ化フラーレンの十分な溶解性が発現しない可能性がある。
【0054】
環状2級アミノ骨格と分岐含有エステル基とは、炭素数mの炭素鎖を介して結合しているので、通常、両者は当該炭素鎖を含む連結基により結合される。炭素鎖を含む連結基の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常14g/モル以上であり、また、その上限は、通常56g/モル以下、好ましくは42g/モル以下、より好ましくは28g/モル以下である。分子量が大きすぎる場合、環状2級アミノ骨格の極性が低下し、アミノ化フラーレンの十分な溶解性が発現しない可能性がある。なお、連結基は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0055】
また、炭素鎖を含む連結基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、飽和結合だけではなく、不飽和結合を有していても良い。不飽和結合は、二重結合でも良く、三重結合でも良い。また、二重結合と三重結合とを任意の比率及び組み合わせで有していても良い。
【0056】
炭素鎖を含む連結基としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意であるが、中でも、アルキレン基が好ましい。アルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、1,3−プロピレン基等が挙げられる。中でも、炭素鎖を含む連結基としては、メチレン基が好ましい。
【0057】
また、炭素鎖を含む連結基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、置換基で置換されていても良い。置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシチオ基等が挙げられる。置換基は、1種を単独で置換しても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで置換しても良い。
【0058】
置換基の分子量としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常15g/モル以上、好ましくは29g/モル以上、より好ましくは57g/モル以上であり、また、その上限は、通常200g/モル以下、好ましくは100g/モル以下、より好ましくは71g/モル以下である。分子量が小さすぎる場合、その効果が十分ではない可能性があり、分子量が大きすぎる場合、R1の分子量が増えることになるため、単位重量あたりのフラーレンの割合が相対的に低下する結果、フラーレンの特性が十分発現しない可能性がある。
【0059】
さらに、置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環を有していても良い。
【0060】
また、置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、飽和結合だけではなく、不飽和結合を有していても良い。不飽和結合は、二重結合でも良く、三重結合でも良い。また、二重結合と三重結合とを任意の比率及び組み合わせで有していても良い。
【0061】
(環状2級アミノ基の具体的な構造)
本発明のアミノ化フラーレンにおいて、環状2級アミノ基の構造の具体例としては、下記の構造を有するものが挙げられる。
【0062】
【化10】

(なお、上記構造式中、「tBu」はt−ブチル基を、「Me」はメチル基を表す。)
【0063】
(フラーレンと環状2級アミノ基との結合の好ましい態様)
本発明のアミノ化フラーレンにおいては、上記の環状2級アミノ基が有する窒素原子とフラーレンとが、直接結合する。1つのフラーレンに結合する環状2級アミノ基の数は、通常1以上、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、また、その上限は、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。環状2級アミノ基の数が少なすぎる場合、アミノ化フラーレンのアルコールへの溶解性が低くなる可能性があり、多すぎる場合、フラーレンの共役が狭くなり、フラーレンの有益な性質が損なわれる可能性がある。
【0064】
また、本発明のアミノ化フラーレンにおいては、上記の環状2級アミノ基以外に、他の原子及び/又は官能基がフラーレンに結合していても良い。環状2級アミノ基がフラーレンに奇数個結合する場合、通常は、他の原子及び/又は官能基もフラーレンに結合し、結合量の総和が偶数個となる。一方、エステル置換環状2級アミノ基がフラーレンに偶数個結合する場合であっても、他の原子及び/又は官能基がフラーレンに結合しても良い。なお、他の原子及び/又は官能基としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば、水素原子、ヒドロキシル基、2価の酸素原子等が挙げられる。他の原子及び/又は官能基は、1種が単独でフラーレンに結合しても良く、2種以上が任意の比率及び組み合わせでフラーレンに結合しても良い。
【0065】
なお、本発明のアミノ化フラーレンにおいては、1種の環状2級アミノ基が単独でフラーレンに結合しても良く、2種以上の環状2級アミノ基が任意の比率及び組み合わせでフラーレンに結合しても良い。
【0066】
フラーレンと環状2級アミノ基との結合の好ましい態様としては、フラーレンC60に上記の環状2級アミノ基が4つ結合し、さらに、2価の酸素原子が結合したテトラアミノC60−モノエポキシド、又はフラーレンC60に上記の環状2級アミノ基が4つ結合したテトラアミノC60が挙げられ、特に好ましくは、公知の製造方法で選択的に合成できるテトラアミノC60−モノエポキシドである。
【0067】
テトラアミノC60−モノエポキシドの中でも、そのフラーレン上に下記式(5)で表される部分構造を有するテトラアミノC60−モノエポキシドが、公知の製造方法で選択的に合成できるため、特に好ましい
【化11】

(式(5)中、NR2は、それぞれ独立して、上記の環状2級アミノ基を表す。また、式(5)中、細線で表される炭素−炭素結合は、フラーレンを形成する炭素骨格が有する炭素−炭素結合を表す。)
【0068】
上記式(5)の部分構造を有するアミノ化フラーレンの具体例としては、以下の構造を有するものが挙げられる。
【0069】
【化12】

(なお、構造式中、「tBu」は、t−ブチル基を表す。)
【0070】
本発明のアミノ化フラーレンとしては、上記の構造を有するものが好ましい。
【0071】
[2.アミノ化フラーレンの製造方法]
本発明のアミノ化フラーレンは、公知の任意の製造方法により、適切な材料から製造することが出来る。例えば、本発明のアミノ化フラーレンは、特開2002−88075号公報、又は特開2006−199674号公報に記載の方法に従って、可視光又はヒドロペルオキシド存在下、フラーレンとアミノ化フラーレンの原料となる環状2級アミノ基を有するアミン(以下、適宜「環状2級アミン」と言う。)とを反応させることにより製造することが出来る。具体的には、例えば、過酸化水素等の無機ヒドロペルオキシド又はクメンヒドロペルオキシド等の有機ヒドロペルオキシドの存在下でフラーレンと環状2級アミンとを反応させたり、酸素分子の存在下でヒドロペルオキシドを生成させた後、フラーレンと環状2級アミンとを反応させたりすることが挙げられる。中でも、工業的な製造方法という観点から、有機ヒドロペルオキシドの存在下でフラーレンと環状2級アミンとを反応させることが好ましい。
【0072】
以下、有機ヒドロペルオキシドの存在下でフラーレンと環状2級アミンとを反応させ、本発明のアミノ化フラーレンを製造する方法(以下、適宜「本発明の製造方法」と言う。)を説明する。ただし、以下に記載する内容は本発明のアミノ化フラーレンの製造方法の一例であり、本発明のアミノ化フラーレンの製造方法としては、以下に記載する内容に限定されるものではない。
【0073】
本発明の製造方法においては、副反応を抑える観点から、フラーレンを溶媒に溶解し、さらに上記の環状2級アミンを混合した後、有機ヒドロペルオキシドを混合することにより、本発明のアミノ化フラーレンを製造する。
【0074】
(フラーレン)
フラーレンとしては、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、任意のものを用いることができる。中でも、上記の[1.アミノ化フラーレン]で説明したフラーレンを用いることが好ましい。なお、フラーレンは、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0075】
(環状2級アミン)
環状2級アミンは、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、任意であり、上記の環状2級アミノ基をフラーレンに結合させることが出来るものを任意に用いることが出来る。その例としては、上記の環状2級アミノ基の結合手に水素原子が結合した構造のものが挙げられる。環状2級アミンは、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0076】
環状2級アミンは、通常、窒素原子を2個有する環状アミン(即ち、NH基を環上に2個有する環状アミン)の窒素原子をアルキル化することにより合成することができる。具体的には、例えば、上記環状アミンとハロゲン化アルキルとを反応させることにより、環状2級アミンを合成することが出来る。以下、上記環状アミンとハロゲン化アルキルとを反応させることにより、環状2級アミンを合成する方法について詳細に説明するが、環状2級アミンを合成する方法としては、以下の内容に限定されるものではない。
【0077】
環状アミンは、窒素原子を2個有し、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意である。環状アミンが有する炭素数としては、通常、上記の環状2級アミノ骨格が有する炭素数と同様である。
【0078】
また、環状アミンの分子量は、通常72以上、好ましくは86以上、また、その上限は、通常200以下、好ましくは150以下、より好ましくは120以下である。分子量が大きすぎる場合、入手が困難となる可能性がある。
【0079】
環状アミンの具体例としては、ピペラジン、ホモピペラジン、イミダゾリジン等が挙げられる。中でも、ピペラジン、ホモピペラジンが好ましく、ピペラジンがより好ましい。
【0080】
なお、環状アミンは、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、置換基で置換されていても良い。置換されていても良い置換基としては、例えば、上記の環状2級アミノ骨格に置換していても良い置換基が挙げられる。
【0081】
ハロゲン化アルキルは、通常、上記の分岐含有エステル基が結合した炭素鎖にハロゲン原子が結合しているものである。ハロゲン原子の具体例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、中でも塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、臭素原子がより好ましい。
【0082】
ハロゲン化アルキルの具体例としては、α−ブロモ酢酸−t−ブチル、α−ブロモ酢酸ネオペンチル、α−クロロ酢酸−t−ブチル、β−ブロモプロピオン酸−t−ブチル等が挙げられ、中でもα−ブロモ酢酸−t−ブチル、α−ブロモ酢酸ネオペンチルが反応性の観点から好ましく、α−ブロモ酢酸−t−ブチルが入手の容易さからより好ましい。
【0083】
上記の環状アミンと上記のハロゲン化アルキルとを用いて環状2級アミンを合成する際、通常、環状アミンが有する窒素原子のうちの1個の窒素原子に、上記の炭素鎖を含む連結基が結合した環状アミンのモノアルキル化体と、2個の窒素原子に、上記の炭素鎖を含む連結基が結合した環状アミンのジアルキル化体との混合物が得られる。本発明の製造方法においては、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、当該混合物からモノアルキル化体を分離精製して環状2級アミンとして用いても良いし、当該混合物を環状2級アミンとして用いても良い。
【0084】
上記の混合物に含まれるモノアルキル化体の量は、合成で用いる環状アミンとハロゲン化アルキルとの比率及び反応条件等により異なるが、通常10モル%以上、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、また、その上限は、通常99モル%以下、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。モノアルキル化体の量が少なすぎる場合、フラーレンへの付加反応の際に多量の試薬を用いる必要があるため、反応後にジアルキル体を除去するために多大な労力が必要となる可能性があり、多すぎる場合、モノアルキル化体の合成及び分離に多大な労力が必要となる可能性がある。
【0085】
上記の内容以外の環状2級アミンを合成する際の原料、反応条件、反応装置等は、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、任意に決定できる。
【0086】
(有機ヒドロペルオキシド)
有機ヒドロペルオキシドとしては、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意のものを用いることが出来るが、下記式(6)の構造を有する、過酸化水素に含まれる水素原子1原子を有機基R3で置換した化合物を用いることが好ましい。なお、有機ヒドロペルオキシドは、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。また、例えば、後述するクメンヒドロペルオキシドとクメンとのように、有機ヒドロペルオキシドと有機ヒドロペルオキシドの製造原料(以下、適宜「有機ヒドロペルオキシド前駆体」と言う。)とを組み合わせて用いても良い。
【0087】
【化13】

(式(6)中、R3は任意の有機基を表す。)
【0088】
式(6)中、R3は、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、任意の有機基を表す。中でも、R3は、炭化水素基であることが好ましく、第3級炭素原子を有する炭化水素基であることがより好ましい。R3が有する炭素数は、通常1以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、また、その上限は、通常15以下、好ましくは12以下、より好ましくは10以下である。R3が有する炭素数が多すぎる場合、単位重量あたりのヒドロペルオキシド部分が少なくなり、有機ヒドロペルオキシドの使用量が多くなるとともに多量の副生物が発生する可能性がある。
【0089】
3の分子量としては、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意であるが、通常50g/モル以上、好ましくは80g/モル以上、より好ましくは100g/モル以上であり、また、その上限は、通常500g/モル以下、好ましくは400g/モル以下、より好ましくは300g/モル以下である。分子量が大きすぎる場合、単位重量あたりのヒドロペルオキシド部分が少なくなり、有機ヒドロペルオキシドの使用量が多くなるとともに多量の副生物が発生する可能性がある。
【0090】
さらに、R3は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環を有していても良い。
【0091】
3の具体例としては、t−ブチル基、ネオペンチル基、t−へキシル基、クミル基等が挙げられる。中でも、安定性と取り扱いの容易さの観点から、t−ブチル基、ネオペンチル基、t−へキシル基、クミル基が好ましく、さらに工業的な入手の容易さの観点から、t−ブチル基、クミル基がより好ましい。
【0092】
また、R3は、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、置換基を有していても良い。有していても良い置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基等が挙げられる。置換基は、1種を単独で置換しても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで置換しても良い。
【0093】
置換基の分子量としては、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意であるが、通常15g/モル以上、好ましくは50g/モル以上であり、また、その上限は、通常200g/モル以下、好ましくは150g/モル以下である。分子量が大きすぎる場合、単位重量あたりのヒドロペルオキシド部分が少なくなり、有機ヒドロペルオキシドの使用量が多くなるとともに、多量の副生物が発生する可能性がある。
【0094】
さらに、置換基は、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、環を有していても良い。
【0095】
また、これらの置換基が更に一以上の置換基によって多重に置換されていてもよい。置換しうる置換基としては、上記のR3に置換しうる置換基が挙げられる。
【0096】
有機ヒドロペルオキシドは、例えば、R3が第3級炭素原子を有する炭化水素基の場合、通常、公知の任意の製造方法により、以下の式(7)の構造を有する化合物と酸素原子とから製造することができる。
【0097】
【化14】

【0098】
例えば、R3がクミル基であるクメンヒドロペルオキシドは、通常、公知の任意の製造方法により、クメンと酸素原子とから製造することが出来る。なお、製造したクメンヒドロペルオキシド中には、後述するフラーレンのアミノ化反応を著しく妨げない限り、通常5重量%、好ましくは7重量%以上、より好ましくは10重量%以上、また、その上限は、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下の未反応のクメンを含んでいても良い。未反応のクメンの量が少なすぎる場合、クメンヒドロペルオキシドとクメンとの混合物が不安定になり、取り扱い時に爆発する等の可能性があり、多すぎる場合、反応後の廃棄物が多くなる可能性がある。
【0099】
(その他の成分)
本発明の製造方法において、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、上記のフラーレン、環状2級アミン及び有機ヒドロペルオキシド以外の成分(以下、適宜「その他の成分」と言う。)が反応系に含まれていても良い。含んでいても良い成分としては、例えば、アルカン、トリエチルアミン等の3級アミン、ピリジン、t−ブタノール等の3級アルコール、又はそれらの誘導体等が挙げられる。その他の成分は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0100】
(溶媒)
フラーレン、環状2級アミン、有機ヒドロペルオキシド及び必要に応じて用いられるその他の成分は、通常は溶媒に溶解して反応させる。溶媒の種類と使用量とは、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、任意である。ただし、通常は、フラーレン、環状2級アミン及び有機ヒドロペルオキシドが溶解する溶媒を用いる。なお、溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0101】
溶媒の種類としては、フラーレンに対する高い溶解性の観点から、芳香族炭化水素溶媒、芳香族ハロゲン化炭化水素溶媒等の芳香族性を有する溶媒(以下、適宜「芳香族溶媒」と言う。)が好ましい。
【0102】
芳香族炭化水素溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン又はそれらの誘導体等が挙げられる。
【0103】
芳香族ハロゲン化炭化水素溶媒の具体例としては、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン又はそれらの誘導体等が挙げられる。
【0104】
溶媒として芳香族溶媒を用いる場合、反応速度の大幅な速度の向上の観点から、芳香族溶媒に極性溶媒を混合した混合溶媒として用いることが好ましい。
【0105】
ここで、本発明の製造方法における極性溶媒とは、極性の大きい溶媒のことである。具体的には、溶媒の極性を表す比誘電率εrの値が、通常25以上、好ましくは30以上、より好ましくは35以上、また、その上限は、通常200以下の溶媒である。比誘電率εrの値は、例えば、Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry 2nd Ed. 1990、VCH p.59に記載されており、化合物に固有の値である。
【0106】
誘電率は、電束密度Dとそれによって与えられる電場Eとの比(D/E)であり、物質内で電荷とそれによって与えられる力との関係を示す係数である。各物質は固有の誘電率を有し、この値は、外部から電場を与えた時に物質中の原子又は分子がどのように応答するか(即ち、誘電分極の仕方)によって決定される。そして、ε0を真空の誘電率(8.854×10-12F/m)とすると、ε/ε0を比誘電率と言い、εrで表す。各種極性有機溶媒の比誘電率εrは、以下の通りである(Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry 2nd Ed. 1990、VCH,p.408−p.410の「TableA−1」より抜粋。)。
【0107】
N−メチルホルムアミド 182.4
N,N−ジメチルホルムアミド 36.71
N,N−ジメチルアセトアミド 37.78
N−メチルピロリドン 32.2
ジメチルスルホキシド 46.45
スルホラン 43.3
N,N’−ジメチルプロピレンウレア 36.12
ヘキサメチルホスホリックトリアミド 29.6
【0108】
混合する極性溶媒の具体例としては、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等のスルホキシド類;ジメチルスルホン、スルホラン等のスルホン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、ホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;N,N’−ジメチルプロピレンウレア等のウレア類;ヘキサメチルホスホラミド等のリン酸アミド類;ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の亜リン酸アミド類等が挙げられる。中でも、極性溶媒の混合による効果の大きさの観点から、スルホキシド類、アミド類が好ましく、工業的な入手の容易さの観点から、中でも、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドがより好ましい。
【0109】
混合する極性溶媒の量としては、極性溶媒の種類によって異なるため一概には言えないが、通常、芳香族溶媒に対して、好ましくは1体積%以上、より好ましくは5体積%以上、特に好ましくは10体積%以上、また、その上限は、好ましくは99体積%以下、より好ましくは50体積%以下、特に好ましくは40体積%以下であることが望ましい。極性溶媒の量が少なすぎる場合、極性溶媒の混合の効果が十分に得られない可能性があり、多すぎる場合、混合溶媒中の芳香族溶媒の濃度が低くなり、フラーレン、反応中間体等の溶媒への溶解性が低下する可能性がある。
【0110】
また、極性溶媒は、上記の濃度で芳香族溶媒と混合した時に、芳香族溶媒と極性溶媒とが均一に混合するものを用いることが好ましい。
【0111】
(各成分の使用量)
フラーレン、環状2級アミン及び有機ヒドロペルオキシドの使用量としては、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、それぞれ任意である。また、溶媒の使用量、その他の成分の使用量も、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、任意である。
【0112】
中でも、フラーレンの使用量は、溶媒の種類によって異なるため一概には言えないが、溶媒1mLに対して、通常4mg以上、好ましくは5mg以上、より好ましくは6mg以上、また、その上限は、通常20mg以下、好ましくは18mg以下、より好ましくは16mg以下が望ましい。フラーレンの使用量が少なすぎる場合、多量の溶媒を使うため生産性が低下する可能性があり、多すぎる場合、副反応が顕著になる可能性がある。
【0113】
環状2級アミンの使用量は、フラーレン1モルに対して、通常4倍モル以上、好ましくは4.5倍モル以上、より好ましくは5倍モル以上、また、その上限は、通常16倍モル以下、好ましくは12倍モル以下、より好ましくは10倍モル以下である。環状2級アミンの使用量が少なすぎる場合、反応速度が遅くなる可能性があり、多すぎる場合、コスト高となる可能性がある。
【0114】
さらに、有機ヒドロペルオキシドの使用量は、フラーレン1モルに対して、通常3倍モル以上、好ましくは3.2倍モル以上、より好ましくは3.5倍モル以上、また、その上限は、通常6倍モル以下、好ましくは5倍モル以下、より好ましくは4.5倍モル以下である。有機ヒドロペルオキシドの使用量が少なすぎる場合、反応が遅くなる可能性があり、多すぎる場合、副反応が顕著になるとともに過剰の有機ヒドロペルオキシドが残存し、爆発などの可能性がある。
【0115】
さらに、その他の成分の使用量としては、その他の成分の種類によって異なるため一概には言えないが、溶媒1mLに対して、通常1mg以上、好ましくは3mg以上、より好ましくは5mg以上、また、その上限は、通常100mg以下、好ましくは50mg以下、より好ましくは10mg以下が望ましい。その他の成分の使用量が少なすぎる場合、その他の成分の効果が十分に発揮されない可能性があり、多すぎる場合、副反応が顕著となる可能性がある。
【0116】
(反応条件)
有機ヒドロペルオキシドを用いる製造方法においては、通常、光を照射しなくても反応が進行するため、反応系に積極的に光を照射しなくてもよい。従って、本発明のアミノ化フラーレンの製造方法においては、光の照射の有無は特に限定されない。具体的には、ガラス等の光透過性材料で作られた反応容器を用いて反応を行っても、金属等の光を透過しにくい材料で作られた反応容器を用いて反応を行ってもよい。
【0117】
反応温度としては、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意であるが、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、また、その上限は、通常50℃以下、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下である。反応温度が低すぎる場合、反応が遅くなる可能性があり、高すぎる場合、副反応が顕著になる可能性がある。
【0118】
また、反応時間は、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意であるが、通常1時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上、また、その上限は、通常数日以下、好ましくは3日以下、より好ましくは2日以下である。反応時間が長すぎる場合、工業的な生産効率が低下する可能性がある。
【0119】
また、反応雰囲気は、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意であるが、通常、不活性ガス下で行う。不活性ガスの具体例としては、窒素、アルゴン等が挙げられる。不活性ガスは、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0120】
また、フラーレン、環状2級アミン、有機ヒドロペルオキシド及び必要に応じて用いられるその他の成分の混合の順序も、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、任意である。中でも、副反応を抑える観点から、フラーレンを溶媒に溶解し、さらに上記の環状2級アミンを混合した後、有機ヒドロペルオキシドを混合することにより、本発明のアミノ化フラーレンを製造することが好ましい。この際、有機ヒドロキシペルオキシドが化学的に不安定な化合物である場合、有機ヒドロキシペルオキシドが分解しないように反応系内に供給することが好ましい。
【0121】
製造された本発明のアミノ化フラーレンは、公知の任意の方法でその生成を確認することが出来るが、例えば、オクタデシルシリカゲル(ODS)カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に反応液を供することにより確認できる。また、例えば、1
H−NMRによっても、本発明のアミノ化フラーレンの存在を確認することが出来る。
【0122】
(アミノ化フラーレンの単離)
本発明のアミノ化フラーレンは、公知の任意の方法を用いて、反応後の反応液から単離することが出来る。中でも、以下に記載する手順で単離することが好ましい。ただし、以下に記載する内容は、単離する手段の一例であり、単離する手段は以下の内容に限定されるものではない。
【0123】
先ず、反応液を水で洗浄することで、通常、極性溶媒等の極性化合物等が除去される。洗浄後の溶液を濃縮して貧溶媒を加えることで晶析を行い、通常、本発明のアミノ化フラーレンを粉体として得ることが出来る。
【0124】
ここで、濃縮の方法としては、例えば、減圧条件でロータリーエバポレーターを用いることが出来る。また、晶析に用いる貧溶媒としては、例えば、水;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル溶媒;等が挙げられる。貧溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。また、貧溶媒の使用量等の他の条件は、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意である。
【0125】
以上の手順により単離した場合、収率は、使用したエステル置換環状2級アミンの種類にもよるが、通常50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、また、その上限は、通常99%以下、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。収率が低すぎる場合、コスト高となる可能性がある。
【0126】
[3.本発明のアミノ化フラーレンの好適な利用分野]
本発明のアミノ化フラーレンは、アルコールに高い溶解性を示す。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール等が挙げられ、中でも低級アルコールが好ましく、その中でもメタノール、エタノールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。高い溶解性の具体的な数値範囲としては、親水性有機溶媒として好適に用いられるメタノールに対し、本発明のアミノ化フラーレンは、通常1重量%以上、好ましく1.2重量%以上、より好ましくは2重量%以上、また、その上限は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2.5重量%以下の濃度で均一に溶解する。そのため、アルコールに本発明のアミノ化フラーレンを溶解させた溶液を、スピンコート等により基板上に塗布して薄膜として用いる電子伝導材料用途に好適に用いられるほか、化粧品、医薬品、生体材料等の生理活性物質、樹脂添加剤等の用途にも好適に用いることが出来る。
【0127】
また、本発明のアミノ化フラーレンは、溶解温度等の条件にもよるが、エステル溶媒にも高い溶解性を示す。具体的には、電子材料用途に好適に用いられるプロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート溶液に対し、本発明のアミノ化フラーレンは、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、また、その上限は、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下の濃度で均一に溶解する。そのため、エステル溶媒に高濃度に溶解させた溶液を、スピンコート等により基板上に塗布して薄膜として用いる電子伝導材料用途にも好適に用いることが出来る。
【0128】
本発明のアミノ化フラーレンは、前述した用途に用いることができる。以下に、いくつかの用途の例に関してより具体的に説明するが、本発明のアミノ化フラーレンの機能が発揮できる用途に関しては、以下の記載に限定されるものではない。
【0129】
[フォトレジスト用途]
従来、フォトレジストは、被膜形成成分として(メタ)アクリル系、ポリヒドロキシスチレン系またはノボラック系の樹脂等の樹脂成分と、露光により酸を発生する酸発生剤、感光剤等とを組み合わせた組成物が広く用いられている。本発明のアミノ化フラーレンは、通常、フォトレジストに使用される溶媒への溶解度が高いことにより、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度でフォトレジストに複合化が可能である。また、アミノ化フラーレン単独でもレジスト膜を形成することが可能である。
このように本発明のアミノ化フラーレンをフォトレジストの分野に用いた場合、フラーレン骨格を有する事により、超芳香族分子としての高耐熱性、高エッチング耐性を有し、エッジラフネスの低減が可能であり、高解像度のフォトレジストの再現ができる。また、本発明のアミノ化フラーレンを用いて形成した膜は、反射防止膜としての機能も有することより、多層膜の一層として、特に反射防止膜や塗布型のマスク材(ハードマスク)としても優れた機能を発揮することが期待される。さらに、この膜を加熱すること等によって得られるフラーレン膜もしくはフラーレン含有膜も、反射防止膜としての機能も有することより、多層膜の一層として、特に反射防止膜や塗布型のマスク材(ハードマスク)としても優れた機能を発揮することが期待される。
【0130】
[半導体製造用途]
半導体製造等の分野では、例えば500μm以下の微細パターンを生産効率良く形成する方法としてナノインプリント法が検討されている。ナノインプリント法とは、微細パターンを有するモールドのパターンを転写層に転写する微細パターンの形成方法である。
このようなナノインプリント法としては、例えば、熱可塑性重合体からなる転写層を加熱して軟化させる工程と、転写層とモールドとを圧着してモールドのパターンを転写層に形成する工程と、モールドを転写層から離脱させる工程とを順次行なう方法;硬化性単量体からなる転写層をモールドに接触させる工程と、硬化性単量体を硬化させる工程と、硬化性単量体の硬化物からモールドを離脱させる工程とを順次行なう方法;などが知られている。本発明のアミノ化フラーレンは、通常、上記の熱可塑性重合体、硬化性物質等に使用される溶媒への溶解度が高いことにより、特殊な溶媒を用いることなく、上記熱可塑性重合体に高濃度で充填することが可能である。
【0131】
このように本発明のアミノ化フラーレンをナノインプリント法に用いた場合、溶媒に対する本発明のアミノ化フラーレンの溶解性が高いことから、本発明のアミノ化フラーレンの熱可塑性重合体中での凝集が抑制され、分子状分散となる。このため、高解像度を実現することが可能である。さらに、この材料を加熱すること等によって得られるフラーレン分散材料も同様に用いることができ、高解像度を実現することが可能である。さらに、本発明のアミノ化フラーレン又は本発明の溶液をナノインプリント法に用いることにより、転写層の機械的強度、耐熱性及びエッチング耐性を向上させることが可能であることから、従来のナノインプリント材料の特性を大幅に改善することが可能となる。
【0132】
[低誘電率絶縁材料用途]
近年、コンピュータの中央処理装置(CPU)用回路基盤には、樹脂薄膜を層間絶縁膜とする高密度かつ微細な多層配線に適した樹脂薄膜配線が適用されるようになってきた。将来のより高速な処理能力を有するコンピュータを実現するには、高密度かつ繊細な多層配線を活かし、かつ信号の高速伝播に適した低誘電率絶縁材料の開発が求められている。本発明のアミノ化フラーレンは、通常、上記用途に使用される溶媒への溶解度が高いことより、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度で他の材料と複合化することが可能である。また、アミノ化フラーレン単独で成膜することも可能である。この際、本発明のアミノ化フラーレンは、フラーレン構造が本質的に有する高抵抗、低誘電率の性質を保持しており、複合化して用いる際にはフィラーとしての機械的強度の向上効果を有することができ、これにより、従来無かった優れた性能の低誘電率の層間絶縁膜の実現が可能となる。さらに、この複合材料もしくはアミノ化フラーレンの膜を加熱すること等によって得られるフラーレン含有材料もしくはフラーレン膜も同様に用いることができ、従来無かった優れた性能の低誘電率の層間絶縁膜の実現が可能となる。
【0133】
[太陽電池用途]
有機太陽電池は、シリコン系の無機太陽電池と比較して、優位な点が多数あるものの、エネルギー変換効率が低く、実用レベルに十分には達していない。この点を克服するためのものとして、最近、電子供与体である導電性高分子と、電子受容体であるフラーレン並びにフラーレン誘導体とを混合した活性層を有するバルクヘテロ接合型有機太陽電池が提案されている。このバルクヘテロ接合型有機太陽電池では、導電性高分子とフラーレン誘導体それぞれが分子レベルで混じり合い、その結果非常に大きな界面を作り出すことに成功し、変換効率の大幅な向上が実現されている。
本発明のアミノ化フラーレンは、上記用途で使用される溶媒への溶解度が高いため、p型半導体と効率的なバルクへテロ接合構造を構成することが容易である。また、本発明のアミノ化フラーレンは、本質的にn型半導体としてのフラーレンの性質を有している。従って、本発明のアミノ化フラーレンを用いることで、極めて高性能な有機太陽電池の実現が可能となる。また、バルクへテロ構造を形成した後に加熱等によりアミノ化フラーレンをフラーレンへと変換して用いてもよい。さらにこの高溶解性を利用し、導電性高分子等の電子供与体層との層分離制御や誘導体分子の整列配向性・細密充填性などのモルフォロジー制御を可能にし、これにより特性の向上が実現できる上、デバイス設計において高い柔軟性を与える。また、製造上も通常の印刷法やインクジェットによる印刷、更にはスプレー法等により、低コストで容易に大面積化を実現する事が可能である。
【0134】
[半導体用途]
光センサー、整流素子等への応用が期待できる電界効果トランジスタの有機材料として、フラーレン及びフラーレン誘導体を使用することが研究されている。一般的に、フラーレン及びフラーレン誘導体を半導体に用いて電界効果トランジスタを作製した場合、当該電界効果トランジスタはn型のトランジスタとして機能することが知られている。
本発明のアミノ化フラーレンは、上記用途で使用される溶媒への溶解度が高いことにより、塗布による成膜が容易であり、また、n型半導体としてのフラーレンの本質的な性質は保持している。これにより、本発明のアミノ化フラーレンは、低コスト、高性能な有機半導体として利用されることが期待できる。また、塗布した後に加熱等によりアミノ化フラーレンをフラーレンへと変換して用いてもよい。
【0135】
[原料中間体としての用途]
本発明のアミノ化フラーレンを出発原料として、環状2級アミノ基上のエステル基を反応により変換する工程を経て、新たな機能を有するフラーレン誘導体を製造することができる。以下、その変換方法に関して代表例を記すが、以下の例に限定されるものではない。
(1)本発明のアミノ化フラーレンをアルカリと反応させて、加水分解する。
(2)本発明のアミノ化フラーレンをエステルまたはアルコールと反応させてエステル交換する。
(3)本発明のアミノ化フラーレンを還元剤と反応させて還元する。
【実施例】
【0136】
以下、実施例を示して本発明を更に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。なお、以下の記載において、tBuは、t−ブチル基を表す。
【0137】
[実施例1]
[アミンの合成]
エタノール80mLにピペラジン(8.0g、93ミリモル)を溶かし入れ、均一溶液とした。ここにα−ブロモ酢酸−t−ブチル(5.2g、27ミリモル)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、23時間攪拌し、イオン交換水(150mL)を入れ、そのまま減圧濃縮を行った。溶媒であるエタノールを蒸発させた後、残った水溶液にイオン交換水(150mL)を加え、酸性ではないことを確認後、ジクロロメタン(300mL)で抽出した。抽出した溶液を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮し、t−ブトキシカルボニルメチルピペラジンと、副生成物であるジ(t−ブトキシカルボニルメチル)ピペラジンとの混合物4.66gを得た。
【0138】
[アミノ化フラーレンの合成]
窒素ガス雰囲気下、フラーレンC60(1.0g、1.39ミリモル)をパラキシレン(20mL)に溶解し、10分攪拌後、ジメチルスルホキシド(5mL)を加え、1時間攪拌した。t−ブトキシカルボニルメチルピペラジンを含む上記の混合物(2.3g、t−ブトキシカルボニルメチルピペラジンの含有量は、内在比から計算して11.1ミリモル)を5mLのパラキシレンとともに混合した後、純度84%のクメンヒドロペルオキシド(880mg、4.86ミリモル)を5mLのパラキシレンとともに混合した。室温で攪拌を行ったところ、47時間後に原料C60の消失を確認した。パラキシレン(100mL)を加え、有機相をイオン交換水(100mL)とアセトニトリル(20mL)との混合液で1回洗浄後、0.5規定の塩酸(100mL)とアセトニトリル(20mL)との混合液で洗浄し、さらにイオン交換水(100mL)とアセトニトリル(20mL)との混合液で1回洗浄した。硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、ろ過し、約5mLまで濃縮した。攪拌しながらアセトニトリル200mLを混合して得られた沈殿をろ別し、アセトニトリルで洗浄後、室温で3時間減圧乾燥することにより、下記式(8)で表される構造のアミノ化フラーレン(テトラ(t−ブトキシカルボニルメチルピペラジノ)C60−モノエポキシド)2.02gを得た(4重付加体換算で収率95%)。また、トルエン/メタノール混合溶媒を溶離液とする、ODSカラムを用いたHPLCによる分析の結果、生成物の純度は46%であった。
【0139】
【化15】

【0140】
得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、10gのメタノール溶液としたところ、均一に溶解した。また、2gのメタノール溶液としたところ均一には溶解せず、そのスラリーを0.45μmのフィルターでろ過してそのろ液をHPLCで定量したところ、2.5重量%の濃度であった。この溶液は空気下室温で7日間放置したのちでも、均一に溶解した状態を保持した。また、得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート溶液(以下、適宜「PGMEA」と言う。)を加えて2.0gとしたところ、均一に溶解した。この溶液は空気下室温で30日放置したのちでも、均一に溶解した状態を保持した。
【0141】
[実施例2]
[アミンの合成]
エタノール80mLにホモピペラジン(5.0g、50ミリモル)を溶かし入れ、均一溶液とした。ここにα−ブロモ酢酸−t−ブチル(2.4g、12ミリモル)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、23時間攪拌し、イオン交換水(150mL)を入れ、そのまま減圧濃縮を行った。溶媒であるエタノールを蒸発させた後、残った水溶液にイオン交換水(150mL)を加え、酸性ではないことを確認後、ジクロロメタン(300mL)で抽出した。抽出した溶液を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮し、t−ブトキシカルボニルメチルホモピペラジンと、副生成物であるジ(t−ブトキシカルボニルメチル)ホモピペラジンとの混合物2.57gを得た。
【0142】
[アミノ化フラーレンの合成]
窒素ガス雰囲気下、フラーレンC60(1.0g、1.39ミリモル)をパラキシレン(20mL)に溶解し、10分攪拌後、ジメチルスルホキシド(50mL)を加え、1時間攪拌した。t−ブトキシカルボニルメチルホモピペラジンを含む上記の混合物(2.4g、t−ブトキシカルボニルメチルホモピペラジンの含有量は、内在比から計算して11.1ミリモル)をパラキシレンとともに混合した後、純度84%のクメンヒドロペルオキシド(880mg、4.86ミリモル)を20mLのパラキシレンとともに混合した。室温で攪拌を行ったところ、21時間後に原料C60の消失を確認した。有機相をイオン交換水(200mL)とアセトニトリル(40mL)との混合液で1回洗浄後、0.5規定の塩酸(200mL)とアセトニトリル(40mL)との混合液で洗浄し、さらにイオン交換水(200mL)とアセトニトリル(40mL)との混合液で1回洗浄した。硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、ろ過し、約5mLまで濃縮した。攪拌しながらアセトニトリル200mLを混合して得られた沈殿をろ別し、アセトニトリルで洗浄後、室温で3時間減圧乾燥することにより、下記式(9)で表される構造のアミノ化フラーレン(テトラ(t−ブトキシカルボニルメチルホモピペラジノ)C60−モノエポキシド)2.29gを得た(4重付加体換算で収率104%)。また、トルエン/メタノール混合溶媒を溶離液とする、ODSカラムを用いたHPLCによる分析の結果、生成物の純度は76%であった。
【0143】
【化16】

【0144】
得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、10gのメタノール溶液としたところ、均一に溶解した。また、2gのメタノール溶液としたところ均一には溶解せず、そのスラリーを0.45μmのフィルターでろ過してそのろ液をHPLCで定量したところ、2.5重量%の濃度であった。この溶液は空気下室温で7日間放置したのちでも、均一に溶解した状態を保持した。また、得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、PGMEAを加えて2.0gとしたところ、均一に溶解した。この溶液は空気下室温で30日放置したのちでも、均一に溶解した状態を保持した。
【0145】
[比較例1]
特開2006−199674号公報に記載の方法に従って、下記式(10)で表される構造のアミノ化フラーレン(テトラ(t−ブトキシカルボニルメチルホモピペラジノ)C60−モノエポキシド)を合成した。得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、PGMEAを加えて2.0gとしたところ、均一に溶解した。この溶液は空気下室温で30日放置したのちでも、均一に溶解した状態を保持した。一方、得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、10gのメタノール溶液としたところ、溶解しなかった。このスラリーを0.45μmのフィルターでろ過したところ、ろ液は無色であることから、ろ液にアミノ化フラーレンは溶解していないことが確認された。また、そのろ液をHPLCで定量したところ、テトラ(t−ブトキシカルボニルメチルホモピペラジノ)C60−モノエポキシドは検出されず、ろ液にアミノ化フラーレンは溶解していないことが確認された。
【0146】
【化17】

【0147】
[比較例2]
特開2006−199674号公報に記載の方法に従って、下記式(11)で表される構造のアミノ化フラーレン(テトラ(4−(2−ヒドロキシエチル)ピペリジノ)C60−モノエポキシド)を合成した。得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、10gのメタノール溶液としたところ、分子内にヒドロキシル基を保有しているにも関わらず溶解しなかった。このスラリーを0.45μmのフィルターでろ過したところ、ろ液は無色であることから、ろ液にアミノ化フラーレンは溶解していないことが確認された。また、アミノ化フラーレン100mgを量りとり、PGMEAを加えて10gとしたところ、溶解しなかった。このスラリーを0.45μmのフィルターでろ過したところ、ろ液は無色であることから、ろ液にアミノ化フラーレンは溶解していないことが確認された。また、上記2種類のろ液を、それぞれHPLCで定量したところ、いずれもテトラ(4−(2−ヒドロキシエチル)ピペリジノ)C60−モノエポキシドは観測されず、いずれのろ液にもアミノ化フラーレンは溶解していないことが確認された。
【0148】
【化18】

【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明のアミノ化フラーレンは、アルコールに高い溶解性を示す。従って、アルコールに本発明のアミノ化フラーレンを溶解させた溶液を、スピンコート等により基板上に塗布して薄膜として用いる電子伝導材料用途等に好適に用いられるほか、化粧品、医薬品、生体材料等の生理活性物質、樹脂添加剤等の用途にも好適に用いることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造の置換又は無置換の環状2級アミノ基が、フラーレンに直接結合している
ことを特徴とする、アミノ化フラーレン。
【化1】

(式(1)中、m及びnは、それぞれ独立に、1以上4以下の整数を表す。また、Eは、1つ以上の分岐を有する炭素鎖を含むエステル基を表す。)
【請求項2】
該エステル基が、下記式(2)、(3)及び(4)からなる群より選ばれる1種以上の構造のエステル基である
ことを特徴とする、請求項1に記載のアミノ化フラーレン。
【化2】

【化3】

【化4】

(式(2)〜(4)中、R1は、それぞれ独立に、炭素数4以上10以下のアルキル基を表す。さらに、R1は、それぞれ独立に、1つ以上の分岐を有する。)
【請求項3】
該R1が、t−ブチル基及び/又はネオペンチル基である
ことを特徴とする、請求項2に記載のアミノ化フラーレン。
【請求項4】
該式(1)中、nが2である
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアミノ化フラーレン。
【請求項5】
該式(1)中、mが1である
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアミノ化フラーレン。
【請求項6】
テトラアミノC60−モノエポキシドである
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアミノ化フラーレン。
【請求項7】
該テトラアミノC60−モノエポキシドが、そのフラーレン上に下記式(5)で表される部分構造を有する
ことを特徴する、請求項6に記載のアミノ化フラーレン。
【化5】

(式(5)中、NR2は、それぞれ独立して、上記式(1)で表される構造の置換又は無置換の環状2級アミノ基を表す。また、式(5)中、細線で表される炭素−炭素結合は、フラーレンを形成する炭素骨格が有する炭素−炭素結合を表す。)

【公開番号】特開2009−167165(P2009−167165A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224609(P2008−224609)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】