説明

アミノ酸培地を含有するプレート及びアミノ酸培地を含有するプレートを用いたスクリーニング方法

本発明は、アミノ酸の生理活性及び/又は薬理活性を効率的にスクリーニングするための物及びスクリーニング方法を提供する。具体的には、収容部に、アミノ酸を全く含有しない培地、全種類のアミノ酸を含有する培地、1種類のアミノ酸のみを含有する培地、1種類のアミノ酸グループのみを含有する培地、全種類のアミノ酸から1種類のアミノ酸のみを除外したアミノ酸を含有する培地、全種類のアミノ酸から1種類のアミノ酸グループのみを除外したアミノ酸を含有する培地、のいずれか2つ以上の培地を配置したことを特徴とするアミノ酸の生理活性及び/又は薬理活性のスクリーニング用のプレート、及び該プレートを用いるアミノ酸又はアミノ酸グループの生理活性及び/又は薬理活性のスクリーニング方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、アミノ酸の生理活性及び/又は薬理活性をスクリーニングするためのプレート、及び該プレートを用いるアミノ酸の生理活性及び/又は薬理活性のスクリーニング法に関する。
【背景技術】
アミノ酸は、永く、生体にとっては蛋白質合成や生体アミンをはじめとする代謝物合成の基質としての栄養効果のみが知られてきたが、近年、ある種のアミノ酸の中には栄養源としての作用以外に、ある種の生理活性ないし薬理学的効果を有することが見出された。例えば、グルタミン酸とグリシンはそれぞれ特異的な受容体を介して神経細胞やその他の細胞に興奮性あるいは抑制性の刺激を誘導する(例えば、Nature Reviews Neuroscience,3;748−755(2002)、TiPS,23;519−527(2002))。また、ロイシンをはじめとする分岐鎖アミノ酸は蛋白質合成における翻訳開始促進シグナルにおいて中心を担うmTORの活性化をする(JBC,273;14484−14494(1998))。さらにイソロイシンは抗菌ペプチドを誘導し自然免疫を活性化することが知られるなどの報告がなされている(PNAS,97;12723−12728(2000))。
したがって、各種のアミノ酸について、生理機能との関連、新たな生理活性や特定疾患の病理との関連、あるいは、種々の生理活性物質との相互作用などを解明することは、ただ単に、アミノ酸の生理機能を明らかにするに止まらず、特定疾患の病理解明や診断、あるいは、新たな医薬品の開発や治療方法の開発につながり得る点で極めて重要である。
しかし、アミノ酸の潜在的な生理活性の分析・試験は、通常の細胞培養用培地に栄養素として含まれるアミノ酸濃度を変更させた特殊な培地を必要とするため、従来から、それぞれのアミノ酸について個別に行わなければならず、例えば、ある種の生理活性と特定アミノ酸との関連を検討するには、蛋白質を構成するアミノ酸の場合、全種類のアミノ酸につき20回の実験を重ねなければならないなど、時間的、労力的に多大な負担を伴うのが実情であった。したがって、アミノ酸の生理活性などを効率的に検索する方法が求められている。
【発明の開示】
本発明が解決しようとする課題は、アミノ酸又はアミノ酸グループの生理活性や薬理活性をスクリーニングするためのプレートの提供、及び該プレートの利用によりアミノ酸又はアミノ酸グループの生理活性や薬理活性を効率的にスクリーニングする方法を提供することにある。
本発明者は、最大20種類というアミノ酸について、その生理活性や薬理作用を効率的にスクリーニングするためには、プレートの利用が有効であることを見出し、さらに、該プレートの構成につき鋭意研究の結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
(1)プレートの収容部に、アミノ酸を全く含有しない培地、全種類のアミノ酸を含有する培地、1種類のアミノ酸のみを含有する培地、1種類のアミノ酸グループのみを含有する培地、全種類のアミノ酸から1種類のアミノ酸のみを除外したアミノ酸を含有する培地、全種類のアミノ酸から1種類のアミノ酸グループのみを除外したアミノ酸を含有する培地、のいずれか2つ以上の培地を配置したことを特徴とするプレート。
(2)培地の1つがアミノ酸を全く含有しない培地であることを特徴とする(1)に記載のプレート。
(3)培地の1つが全アミノ酸を含有する培地であることを特徴とする(1)に記載のプレート。
(4)アミノ酸を全く含有しない培地、全種類のアミノ酸を含有する培地、1種類のアミノ酸のみを含有する培地、1種類のアミノ酸グループのみを含有する培地、全種類のアミノ酸から1種類のアミノ酸のみを除外したアミノ酸を含有する培地、全アミノ酸から1種類のアミノ酸グループを除外したアミノ酸のみを含有する培地、の全てを配置したことを特徴とする(1)に記載のプレート。
(5)1種類のアミノ酸のみを含有する培地が、全種類のアミノ酸について存在することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1に記載のプレート。
(6)1種類のアミノ酸のみを含有する培地が、アミノ酸濃度の異なる2つの培地として存在することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1に記載のプレート。
(7)全種類のアミノ酸から1種類のアミノ酸を除外したアミノ酸を含有する培地が、全種類のアミノ酸について存在することを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1に記載のプレート。
(8)アミノ酸グループが、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、S含有アミノ酸、酸性アミノ酸の側鎖アミド体(NH2−AA)の各グループから選ばれることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1に記載のプレート。
(9)1種類のアミノ酸グループのみを含有する培地が、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、硫黄含有アミノ酸、酸性アミノ酸の側鎖アミド含有アミノ酸の全種類のアミノ酸グループについて存在することを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1に記載のプレート。
(10)全種類のアミノ酸から1種類のアミノ酸グループのみを除外したアミノ酸を含有する培地が、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、硫黄含有アミノ酸、酸性アミノ酸の側鎖アミド含有アミノ酸の全種類のアミノ酸グループについて存在することを特徴とする(1)〜(9)のいずれか1に記載のプレート。
(11)(1)〜(10)のいずれか1に記載のプレートを用いて、アミノ酸又はアミノ酸グループの生理活性及び/又は薬理活性をスクリーニングする方法。
(12)(1)〜(10)のいずれか1に記載のプレートを用いてアミノ酸又はアミノ酸グループの生理活性及び/又は薬理活性をスクリーニングし、得られたデータを解析して、生理活性及び/又は薬理活性に関与するアミノ酸又はアミノ酸グループを特定する方法。
(13)(1)〜(10)のいずれか1に記載のプレートの1ないし複数種を組み合わせたキット。
(14)(1)〜(10)のいずれか1に記載のプレートの1ないし複数種と、培地溶解用の滅菌水、緩衝液、又は重曹水を組み合わせたキット。
本発明のプレートを用いれば、アミノ酸又はアミノ酸グループの生理活性あるいは薬理作用を極めて効率的にスクリーニングすることができる。
すなわち、検体として、生体各種組織や細胞あるいは体液などを用いることによってさまざまな生理機能と関連する特定アミノ酸又はアミノ酸グループの検索を、また、特定疾患に罹患した患者の組織や体液を用いることによって、該疾患と関連する特定アミノ酸又はアミノ酸グループの検索を、天然あるいは合成の生理活性物質あるいは薬理活性物質を用いることによって、該生理活性あるいは薬理活性物質の代謝・吸収と関連し、その主作用を増減させあるいは副作用を増減させるなどの作用を有する特定アミノ酸の検索などを、最大20種類のアミノ酸につき一挙に実施することできるため、極めて効率的にスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1のプレートにおける培地の配置を示す。
図2−1は、実施例1のプレートを用いた肝細胞癌H4IIE細胞におけるmTOR活性化の測定結果を示す(2A〜11A及び1H〜11H)。
図2−2は、実施例1のプレートを用いた肝細胞癌H4IIE細胞におけるmTOR活性化の測定結果を示す(2B〜11C)。
図2−3は、実施例1のプレートを用いた肝細胞癌H4IIE細胞におけるmTOR活性化の測定結果を示す(2D〜11E)。
図2−4は、実施例1のプレートを用いた肝細胞癌H4IIE細胞におけるmTOR活性化の測定結果を示す(2F〜11G)。
発明の詳細な説明
(プレート)
本発明のプレートで用いるアミノ酸含有の培地を「アミノ酸培地」という。
本発明におけるプレートとは、2種類以上の培地が配置できる容器のセットをいい、2種類以上の培地が配置できるものであればどのような形態でもよく、例えば、チューブ状又は皿状の収容部を有する独立型の容器のセット、あるいはこれらの形状の収容部を一体に連設したプレート等が挙げられる。その中でも、複数の収容部を1枚のプレート上に配置した形状のマルチウェルプレートが好ましく、例えば、コーニング・コースター社(米国)製の、6ウェルプレート、12ウェルプレート、24ウェルプレート、48ウェルプレート、96ウェルプレートなどがとくに好ましい。多種類の培地が配置できるという点から、96ウェルプレート若しくはそれ以上のウェル数を有するプレートがより好ましい。
(培地)
培地とは、生物の細胞、組織、器官、細胞や組織のホモジネートなどをガラス器やプラスチック器内で増殖、発育、生存、又は維持させるために与える水、pH調整成分、栄養成分、支持体などをいい、例えば、哺乳動物の細胞、組織のホモジネート、ウシ胎仔血清などによって構成される天然培地、又は合成培地、あるいはpH緩衝液などが挙げられる。また、培地のタイプとしては、固形、半固形、液体のいずれでもよく、水分を添加することにより目的の培地が得られるものでもよく、凍結乾燥された培地でもよい。凍結乾燥された培地の場合、それを再構成する培地溶解剤として、滅菌水、10mM HEPESなどの緩衝液、重曹溶液などをキットとしてもよい。検体の種類、スクリーニングの目的によって適宜のものを用いることができる。
そのなかでも、例えば、DMEM培地(インビトロジェン社(米国)、カタログ番号#31600)などの合成培地が、各種配合のアミノ酸培地の調製に有利で簡便であるため好ましく、該培地の構成成分を適宜に調製して、種々の培地を調製することができる。該培地における糖、ミネラル、ビタミンなどの非アミノ酸組成のみからなるものをゼロ(Zero)培地といい、これに、全アミノ酸を加えたものをフル(Full)培地という。ゼロ培地とフル培地に、各種のアミノ酸あるいはアミノ酸グループを添加あるいは除去することによって、各ウェルに配置する培地を調製する。
非アミノ酸培地とは、アミノ酸を全く含有していない培地をいう。
全アミノ酸を含有する培地とは、上記培地において、20種類のアミノ酸全てを含有している培地をいう。
1種類のアミノ酸のみを含有する培地とは、上記培地において、20種類のアミノ酸のうち1種類のアミノ酸のみを含有している培地をいう。
1種類のアミノ酸グループのみを含有する培地とは、上記培地において、20種類のアミノ酸のうち、1種類のアミノ酸グループのみを含有している培地をいう。
全アミノ酸から1種類のアミノ酸のみを除外したアミノ酸を含有する培地とは、上記培地において、20種類のアミノ酸のうち、1種類のアミノ酸のみを除外した残り19種類のアミノ酸を含有している培地をいう。
全アミノ酸から1種類のアミノ酸グループのみを除外したアミノ酸を含有する培地とは、上記培地において、20種類のアミノ酸のうち、1種類のアミノ酸グループを除外した残りのアミノ酸を含有している培地をいう。
(アミノ酸)
本発明において、アミノ酸とは、蛋白質を構成する、グリシン(「Gly」という。以下、同様)、アラニン(Ala)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、グルタミン酸(Glu)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン(Gln)、アスパラギン(Asn)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)、ヒスチジン(His)、プロリン(Pro)の20種類のα−アミノ酸のほか、その他分子中にアミノ基とカルボキシル基を有する化合物、アミノ酸誘導体、生体内アミノ酸代謝物などをいう。アミノ酸は、D体、L体、DL体のいずれでもよいが、L体が好ましい。プレートに配置する「全種類のアミノ酸」とは、上記アミノ酸のうち20種類のα−アミノ酸であることが好ましいが、必要に応じてそれ以外のアミノ酸を含有してもよい。
アミノ酸グループとは、共通の性質を有する2種類以上のアミノ酸を含むグループを意味し、目的に応じて任意の組み合わせによるグループを構成することが可能である。例えば、分岐鎖アミノ酸[BCAA](Val、Leu、Ile)、芳香族アミノ酸[AAA](Tyr、Phe、Trp)、酸性アミノ酸[aAA](Asp、Glu)、塩基性アミノ酸[bAA](Arg、Lys、His)、必須アミノ酸[eAA](Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Thr、Trp、Val、His)、非必須アミノ酸[neAA](Gly、Ala、Ser、Cys、Gln、Asn、Glu、Asp、Tyr、Arg、Pro)、硫黄含有アミノ酸[S−AA](Cys、Met)、酸性アミノ酸の側鎖アミド含有アミノ酸[NH2−AA](Asn、Gln)などのグループ分けが挙げられる。
また、1種類アミノ酸または1種類のアミノ酸グループをそれぞれ対応するアミノ酸の構造誘導体であるN−アルキルアミノ酸、N−アシルアミノ酸、Z−アミノ酸またはC末アミドアミノ酸に置換してもよい。
培地中のアミノ酸濃度は、任意であり、スクリーニング系で必要とされる濃度を設定すればよい。例えば、DMEMに添加されているアミノ酸濃度と同程度の濃度を設定してもよく、1種類のアミノ酸のみを含有する培地の場合は、反応結果の識別性を高めるために、濃度を高めに設定することが好ましい。例えば、DMEM培地で設定されている濃度の4倍から10倍程度の濃度を設定するのが好ましく、より好ましくは、4倍から10倍程度の濃度範囲で2つの濃度を設定するのがよい。
(アミノ酸培地の配置)
プレートにおけるアミノ酸培地の配置は、前記したアミノ酸を含む培地の少なくとも2つを別々のウェルに配置すればよく、そのうち1種類をコントロールとして、アミノ酸を全く含有しない培地又は全アミノ酸を含有する培地とするのが好ましい。
より好ましくは、先に例示した培地の全てを1枚のプレートに配置する。
全ての培地を配置したプレートを用いることによって、20種類の個別アミノ酸、あるいはアミノ酸グループの、検体に対する反応性を一挙に検索することができる。
あるいは、第1段階として全配置のプレートを用い、第2、第3段階として、検体に対して何らかの反応性のみられたアミノ酸及び/又はアミノ酸グループにつき、さらに濃度変化を付した培地、フル培地から当該アミノ酸及び/又はアミノ酸グループを抜いた培地などを配置したプレートを用いることによって、絞り検索を行うことができる。
アミノ酸培地が液状あるいは半固形状(ペースト状)である場合には、凍結乾燥などによって固形化することができる。
(検体・スクリーニング系)
本発明のプレートによって、スクリーニングできる検体としては、各種生体組織や体液、天然あるいは合成によって得られる生理活性物質などいずれでもよく、例えば、臟器組織、細胞、細胞抽出物、血液、尿を使用することによりさまざまな生理機能と関連する特定アミノ酸の検索を、また、特定疾患に罹患した患者の組織や体液を用いることにより、該特定疾患の病理に係わる特定アミノ酸の検索を、さらには、天然又は合成による生理活性物質を用いることにより、該生理活性物質の代謝、主作用の増減、副作用の増減などに係わる特定アミノ酸の検索などを、極めて効率的に行うことができる。
すなわち、例えばラット肝細胞癌株H4IIE細胞を用いて栄養飢餓時からのmTOR信号伝達の活性化に対する各種アミノ酸の効果を検討するために、プレートによって構成されるそれぞれの培地を用いてmTORの標的のひとつであるp70 S6キナーゼのリン酸化程度を測定することによって調べることができる。また、基本的に培養細胞を用いて行うことができる全ての生物活性の測定におけるアミノ酸の薬理作用を詳細に調べることができる。培養細胞を用いて行うことができる全ての生物活性とは、細胞増殖、細胞障害、細胞死、サイトカイン・ケミカルメディエーター・酵素・接着因子などの物質生産能や分泌能、細胞運動能、細胞接着性、生理活性物質の膜透過性などの生物反応を含む。
(スクリーニング方法)
本発明のスクリーニング方法は、本発明のプレートに配置したアミノ酸培地上に、適宜に調製した所望の検体を含む溶液あるいは懸濁液を注加し、通常の方法で培養する。ついで、得られた培養物を、検体の種類やスクリーニング目的に応じて、ELISA法、RIA法、ウェスタンプロッテング法、免疫沈降法、呈色反応、成分分析、あるいは生体組織を用いるVitro試験や実験動物を用いたVivo試験などによってスクリーニングにかけ、検体と特定アミノ酸又はアミノ酸グループとの関連を検索する。
得られたデータの解析によって、特定の生理活性や薬理活性に関与するアミノ酸又はアミノ酸グループを検出することが可能である。すなわち、全種類のアミノ酸を含む培地において発揮される生物活性を100%とした時の、各プレートを構成する培地についての各々の活性を比較検討することにより、ある種のアミノ酸又はアミノ酸グループが特定の生理活性を発揮することが明らかとなる。
(キット)
本発明のアミノ酸培地を配置したプレートは、各ウエルにアミノ酸培地を配置した後、シールして製品とする。
プレートに配置したアミノ酸培地の種類、数などに応じて多種類のプレートが調製可能であり、これらを適宜に組み合わせ、また、固体培地の場合にはその溶解用の滅菌水、緩衝液、又は重曹水と組み合わせ、さらに、予備的な1〜20種のアミノ酸などと任意に組み合わせてキットとすることができる。
【実施例】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
[実施例1]
(プレートの作成)
プレートを構成する培地は、アミノ酸以外の組成はDMEM培地(インビトロジェン社、カタログ番号#31600)を基準として、各種のアミノ酸は、図1に示すように96穴プレート上に配置した。作製したプレートに含まれる各種のアミノ酸濃度を、アミノ酸分析装置(日立L8800型)を用いて生体分析法により測定し、その結果を、表1に示した。








表中、数値の単位はmg/lを示す。
図1において、96穴マルチウェルプレートのウェル2A及び3Bに全アミノ酸を含有するFull培地を、4A〜11AにFull培地からそれぞれ、分岐鎖アミノ酸[BCAA]、芳香族アミノ酸[AAA]、酸性アミノ酸[aAA]、塩基性アミノ酸[bAA]、必須アミノ酸[eAA]、非必須アミノ酸[neAA]、硫黄含有アミノ酸[S−AA]、酸性アミノ酸の側鎖アミド含有アミノ酸[NH2−AA]を抜いた培地を、2B〜11Cに、Full培地からそれぞれ、Gly、Ala、Ser、Thr、Cys、Met、Gln、Asn、Glu、Asp、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Proを抜いた培地を、2D〜11Eに、Gly、Ala、Ser、Thr、Cys、Met、Gln、Asn、Glu、Asp、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Proの各アミノ酸のみをFull培地の4倍量含む培地を、2F〜11Gに、上記と同じ各アミノ酸のみをFull培地の10倍量含む培地を、2H〜9Hに、それぞれ、BCAA、AAA、aAA、bAA、eAA、neAA、S−AA、NH2−AAのみを含む培地を、10H〜11HにZero培地を配置する。
[実施例2]
(プレートを用いた肝細胞癌H4IIE細胞におけるmTOR活性化の測定)
H4IIEは10%FBS、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycinを含むDMEM培地にて37℃、5%CO incubatorで培養し、プレートのサンプルで評価を行う前日に、血清を含まない培地に置換後一晩培養した。翌日PBS(−)にて2回洗浄後、アミノ酸不含DMEM培地(Zero培地)に置換して2時間37℃、5%COにて保温後、実施例1のプレートのそれぞれの培地に置換した後、37℃にて30分間さらに保温した。その後、PBS(−)にて2回洗浄し、氷上にてlysis buffer(50mM Tris−HCl(pH8.0),0.1% Triton X−100,120mM NaCl,20mM NaF,2mM NaVO,20mM β−glycerophosphate,0.5mM DTT,protease inhibitor cocktail(Roche Biochemicals))100μlを添加し、5分間室温で振動させて細胞を溶解させた後、さらに氷上にて15−30分静置した。2500rpmにて10分遠心した上清を細胞溶解液として、S6キナーゼのリン酸化をELISA法にて測定した。抗S6キナーゼ抗体(ケミコン社)はcoating buffer(0.1M NaHCO(pH9.6))にて1μg/mlに希釈し、50μl/wellでELISA plate(96穴、COSTAR)に分注し、一晩4℃にて静置させた。翌日TBS−T(20mM Tris−HCl(pH7.6),150mM NaCl,0.1% Tween−20)にて1回洗浄した後、blocking buffer(5% skimmilk/TBS)100μlを添加し、0.5−1時間静置させた。TBS−Tにて1回洗浄した後、細胞溶解液40μlを添加し、さらにリン酸化S6 kinase抗体希釈液(終濃度1:300希釈)を20μl添加し、2時間静置させた。TBS−Tにて3回洗浄した後、200ng/ml Eu−labelled抗マウスIgG2a抗体を50μl添加し、1時間静置させた。TBS−Tにて5回洗浄した後、Enhancement solutionを100μl加えてARVOにてEuの時間分解蛍光を測定した。全種類のアミノ酸を含む培地を用いたときのS6キナーゼのリン酸化程度を100としたときの、プレートの各々の活性をプロットし、図2に示した。この結果は既に報告のある米澤らの結果(FEBS Letters,447;303−306(1999))とほぼ同様の傾向を示した。すなわち、肝細胞癌においては、Leuを代表とする分岐鎖アミノ酸やMetがmTORの活性化に重要な役割を果たし、このことから肝機能を維持または向上させるための用途として有用である可能性を示している。さらに、肝細胞以外の種々の細胞において、こうした細胞活性の指標を測定することにより特定のアミノ酸の医薬品や健康食品などへの有用な新規用途を見出すことができると考えられ、このことからプレートの有用性は明白である。
【産業上の利用可能性】
本発明のプレートを用いることによって、従来、アミノ酸ごとに、逐一アミノ酸培地を取り替えながら実施していたスクリーニングを、一挙に極めて効率的に実施することが可能となった。したがって、本発明は、アミノ酸又はアミノ酸グループの生理活性や薬理活性のスクリーニングを画期的に省力化させた点で、極めて有用である。
本出願は、2003年11月13日に日本で出願された特願2003−384264を基礎としており、その内容は本明細書中に援用される。
【図1】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレートの各収容部に、アミノ酸を全く含有しない培地、全種類のアミノ酸を含有する培地、1種類のアミノ酸のみを含有する培地、1種類のアミノ酸グループのみを含有する培地、全種類のアミノ酸から1種類のアミノ酸のみを除外したアミノ酸を含有する培地、全種類のアミノ酸から1種類のアミノ酸グループのみを除外したアミノ酸を含有する培地、のいずれか2つ以上の培地を配置したことを特徴とするプレート。
【請求項2】
培地の1つがアミノ酸を全く含有しない培地であることを特徴とする請求項1に記載のプレート。
【請求項3】
培地の1つが全アミノ酸を含有する培地であることを特徴とする請求項1に記載のプレート。
【請求項4】
アミノ酸を全く含有しない培地、全種類のアミノ酸を含有する培地、1種類のアミノ酸のみを含有する培地、1種類のアミノ酸グループのみを含有する培地、全種類のアミノ酸から1種類のアミノ酸のみを除外したアミノ酸を含有する培地、全アミノ酸から1種類のアミノ酸グループを除外したアミノ酸のみを含有する培地、の全てを配置したことを特徴とする請求項1に記載のプレート。
【請求項5】
1種類のアミノ酸のみを含有する培地が、全種類のアミノ酸について存在することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプレート。
【請求項6】
1種類のアミノ酸のみを含有する培地が、アミノ酸濃度の異なる2つの培地として存在することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプレート。
【請求項7】
全種類のアミノ酸から1種類のアミノ酸を除外したアミノ酸を含有する培地が、全種類のアミノ酸について存在することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のプレート。
【請求項8】
アミノ酸グループが、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、S含有アミノ酸、酸性アミノ酸の側鎖アミド含有アミノ酸の各グループから選ばれることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のプレート。
【請求項9】
1種類のアミノ酸グループのみを含有する培地が、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、S含有アミノ酸、酸性アミノ酸の側鎖アミド含有アミノ酸の全種類のアミノ酸グループについて存在することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のプレート。
【請求項10】
全種類のアミノ酸から1種類のアミノ酸グループのみを除外したアミノ酸を含有する培地が、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、S含有アミノ酸、酸性アミノ酸の側鎖アミド含有アミノ酸の全種類のアミノ酸グループについて存在することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のプレート。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のプレートを用いて、アミノ酸又はアミノ酸グループの生理活性及び/又は薬理活性をスクリーニングする方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のプレートを用いてアミノ酸又はアミノ酸グループの生理活性及び/又は薬理活性をスクリーニングし、得られたデータを解析して、生理活性及び/又は薬理活性に関与するアミノ酸又はアミノ酸グループを特定する方法。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のプレートの1ないし複数種を組み合わせたキット。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のプレートの1ないし複数種と、培地溶解用の滅菌水、緩衝液、又は重曹水を組み合わせたキット。

【国際公開番号】WO2005/047454
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【発行日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515503(P2005−515503)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017211
【国際出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】