説明

アミン化合物及び有機発光素子

【課題】極めて高い発光効率を実現し、且つ高寿命の光出力を有する有機発光素子を得られるアミン化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式[1]で示されるアミン化合物。


(Ar1からAr8は、アリール基、複素環基を表す。R1からR6は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等を表す。Xは、ビフェニレン基、フルオレニレン基等を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミン化合物及びこれを用いた有機発光素子、詳しくは有機化合物からなる薄膜に電界を印加することにより光を放出する素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極間に蛍光性有機化合物または燐光性有機化合物を含む薄膜を挟持させて、各電極からホール(正孔)および電子を注入する。そして、蛍光性化合物または燐光性化合物の励起子を生成させ、この励起子が基底状態にもどる際に放射される光利用する素子である。
【0003】
有機発光素子における最近の進歩は著しく、低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性等の特徴を有し、薄型、軽量の発光デバイス化が可能であることから、広汎な用途への可能性が示唆されている。
【0004】
アミノ化合物の有機発光素子材料およびそれを用いた有機発光素子の例として、特許文献1には、ジアミノ縮合芳香環誘導体を用いた有機発光素子が開示されている。また他の例として、特許文献2、3には、ジアミノフルオレン誘導体を用いた有機発光素子が、特許文献4、5には、ジアミノ化合物を用いた有機発光素子が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第2851185号公報
【特許文献2】特許第3508984号公報
【特許文献3】特開2000−016973号公報
【特許文献4】特開平10−251633号公報
【特許文献5】特開2001−39933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現状では更なる高輝度の光出力あるいは高変換効率が望まれている。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、極めて高い発光効率を実現し、且つ高寿命の光出力を有する有機発光素子を得られるアミン化合物及びその様な有機発光素子を提供することを目的とする。さらには製造が容易でかつ比較的安価に作成可能な有機発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明のアミン化合物は、下記一般式[1]で示されることを特徴とする。
【0010】
【化1】

【0011】
(一般式[1]において、Ar1からAr8は、それぞれ独立に置換あるいは未置換のアリール基、または置換あるいは未置換の複素環基を表し、同じであっても異なっていてもよい。また、Ar1及びAr2、Ar3及びAr4、Ar5及びAr6、あるいはAr7及びAr8は、互いに結合し環を形成していてもよい。
【0012】
1からR6は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、複素環基を表し、同じであっても異なっていてもよい。また、前記R1からR6を表すアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、複素環基は置換基を有していても良い。
【0013】
Xは、置換もしくは未置換のビフェニレン基、フルオレニレン基、あるいは置換もしくは未置換の2価の複素環基を表す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明のアミン化合物を用いた有機発光素子は、低い印加電圧で高効率な発光を与える。また、特に優れた耐久性も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0016】
本発明のアミン化合物は、主にホール輸送層用材料としてあるいはホール注入層材料として使用できる。その中で、ホール輸送層用として使用する場合、電子ブロッキング層としての目的で使用でき、高発光効率、高寿命素子を得ることができ、更に特に高寿命素子に効果があることを特徴とする。
【0017】
本発明のアミン化合物は、ホール輸送層の電子ブロッキング性を向上させる目的で、つまり、ホール輸送層の電子親和力の絶対値を発光層の電子親和力の絶対値より十分小さくすることを考慮し、分子設計を行った。詳しくは、分子骨格全体の共役の伸張を抑制するため、両サイドの二つのアミノ基同士をフェニル基上にメタ配位させ、バンドギャップを大きくしている。さらに、テトラアミン体とすることでイオン化ポテンシャルも大きくし、電子親和力の絶対値を小さくする分子設計を施している。また、イオン化ポテンシャルを大きくする分子設計であるため、陽極からのホール注入性の向上が期待される。
【0018】
さらに、Ar1からAr8といった各アミノ基上の置換基を変換することによりバンドギャップやイオン化ポテンシャル、電子親和力を適宜調節出来る。そのため、発光層に蛍光材料を用いた場合や燐光材料を用いた場合において、青・緑・赤各色の発光層に対して適切なイオン化ポテンシャル、電子親和力を有したホール輸送層への変換も可能である。
【0019】
また、Ar1からAr8の少なくとも一つにフルオレン誘導基を導入した場合はキャリア輸送性向上や、高Tg化できる。さらに熱安定性の良い材料を得ることができるため、長寿命化も期待される。
【0020】
また本発明のアミン化合物はテトラアミン体であるため、適当な溶媒に溶解しやすく塗布法により均一な薄膜を形成しやすく、さらなる長寿命化も期待される。
【0021】
また、本発明のアミン化合物は、高色純度の青色発光層材料として用いることも出来る。
【0022】
本発明は、以上のような考察のもとに分子設計し、なされたものである。
【0023】
上記一般式[1]における置換基の具体例を以下に示す。
【0024】
一般式[1]のAr1からAr8及びR1からR6が表すアリール基としては、以下に示すものが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
フェニル基、ナフチル基、ペンタレニル基、インデニル基、アズレニル基、アントリル基、ピレニル基、インダセニル基、アセナフテニル基、フェナントリル基、フェナレニル基、フルオランテニル基、アセフェナントリル基、アセアントリル基、トリフェニレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、ペリレニル基、ペンタセニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基など
【0025】
一般式[1]のAr1からAr8及びR1からR6が表す複素環基としては、以下に示すものが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、ターチエニル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントロリル基、ジベンゾチオフェニル基など
【0026】
一般式[1]のR1からR6が表すハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。
【0027】
一般式[1]のR1からR6が表すアルキル基としては、以下に示すものが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリブチル基、セカンダリブチル基、オクチル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基など
【0028】
一般式[1]のR1からR6が表すアルコキシ基としては、上記置換あるいは未置換のアルキル基を有するアルキルオキシ基、上記置換あるいは未置換のアリール基、複素環基を有するアリールオキシ基が挙げられる。例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、2−エチル−オクチルオキシ基、フェノキシ基、4−ターシャルブチルフェノキシ基、ベンジルオキシ基、チエニルオキシ基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0029】
一般式[1]のR1からR6が表すアミノ基(−NR’R“)としては、R’およびR”が、水素原子、上記置換または未置換のアルキル基、アリール基、複素環基、アラルキル基で表されるものが挙げられる。
【0030】
具体的には、例えば以下に示すものが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
アミノ基、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−メチル−N−エチルアミノ基、N−ベンジルアミノ基、N−メチル−N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N−フェニル−N−トリルアミノ基、N,N−ジトリルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジアニソリルアミノ基、N−メシチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジメシチルアミノ基、N−フェニル−N−(4−ターシャリブチルフェニル)アミノ基、N−フェニル−N−(4−トリフルオロメチルフェニル)アミノ基など
【0031】
一般式[1]のAr1からAr8及びR1からR6を表す基が有してもよい置換基としては、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基などのアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基などの複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基などのアミノ基、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、フェノキシル基などのアルコキシル基、シアノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子などが挙げられる。
【0032】
一般式[1]のXが表す二価の複素環基としては、以下に示すものが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
ジベンゾフラニレン、ジベンゾチオフェニレン、フリレン基、ピロリレン基、ピリジレン基、ターピリジレン基、チエニレン基、ターチエニレン基、オキサゾリレン基、チアゾリレン基、カルバゾリレン等
【0033】
一般式[1]のXが有してもよい置換基としては、以下に示すものが挙げられる。
メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基などのアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基などの複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基などのアミノ基、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、フェノキシル基などのアルコキシル基、シアノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子など
【0034】
なお、上記置換基において水素原子は、重水素原子で置き換えられてもよい。
【0035】
次に、本発明のアミノ化合物についてその代表例を例示化合物として挙げるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0036】
【化2】

【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
【化6】

【0041】
【化7】

【0042】
本発明のアミノ化合物は、例えば、以下の合成法で得ることができるが、これに限定されるものではない。
【0043】
ハロゲン原子を有するベンゼン誘導体へのアミノ基の導入は、例えばパラジウム触媒アミノ化反応により行うことが出来る。アリール誘導体同士のカップリング反応は、例えば、ハロゲン化アリールとアリールボラン酸またはボラン酸エステルのパラジウム触媒を用いたsuzuki coupling法(例えばChem.Rev.1995,95,2457−2483)、ニッケル触媒を用いたYamamoto法(例えばBull.Chem.Soc.Jpn.51,2091,1978)などにより行うことが出来る。
【0044】
本発明のアミン化合物は、従来の化合物に比べホール輸送性、発光性および耐久性の優れた化合物である。また、有機発光素子の有機化合物を含む層、特にホール輸送層またはホール注入層および発光層として有用であり、また真空蒸着法や溶液塗布法などによって形成した層は結晶化などが起こりにくく経時安定性に優れている。
【0045】
次に、本発明の有機発光素子について詳細に説明する。
【0046】
本発明の有機発光素子は、陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に狭持された一または複数の有機化合物を含む層を少なくとも有する有機発光素子である。そして、有機化合物を含む層の少なくとも一層、好ましくは、ホール輸送層あるいはホール注入層、発光層が、上記本発明のアミン化合物を少なくとも1種類含有する。
【0047】
図1乃至5に本発明の有機発光素子の好ましい例を示す。
【0048】
図1は、本発明の有機発光素子の一例を示す断面図である。図1は、基板1上に、陽極2、発光層3及び陰極4を順次設けた構成のものである。ここで使用する発光素子は、それ自体でホール輸送能、エレクトロン輸送能及び発光性の性能を単一で有している化合物を用いる場合や、それぞれの特性を有する化合物を混ぜて使う場合に有用である。
【0049】
図2は、本発明の有機発光素子における他の例を示す断面図である。図2は、基板1上に、陽極2、ホール輸送層5、電子輸送層6及び陰極4を順次設けた構成のものである。この場合は、発光物質としてホール輸送性かあるいは電子輸送性のいずれか、あるいは両方の機能を有している材料を用い、発光性の無い単なるホール輸送物質あるいは電子輸送物質と組み合わせて用いる場合に有用である。また、この場合、発光層は、ホール輸送層5あるいは電子輸送層6の何れかから成る。
【0050】
図3は、本発明の有機発光素子における他の例を示す断面図である。図3は、基板1上に、陽極2、ホール輸送層5、発光層3,電子輸送層6及び陰極4を順次設けた構成のものである。これは、キャリヤ輸送と発光の機能を分離したものである。即ちホール輸送性、電子輸送性、発光性の各特性を有した化合物と適時組み合わせて用いることができる。その結果、極めて材料選択の自由度が増すとともに、発光波長を異にする種々の化合物が使用できるため、発光色相の多様化が可能になる。さらに、中央の発光層3に各キャリヤあるいは励起子を有効に閉じこめて、発光効率の向上を図ることも可能になる。
【0051】
図4は、本発明の有機発光素子における他の例を示す断面図である。図4は、図3に対して、ホール注入層7を陽極2側に挿入した構成であり、陽極2とホール輸送層5の密着性改善あるいはホールの注入性改善に効果があり、低電圧化に効果的である。
【0052】
図5は本発明の有機発光素子における他の例を示す断面図である。図5は、図3に対してホールあるいは励起子(エキシトン)が陰極4側に抜けることを阻害する層(ホール/エキシトンブロッキング層8)を、発光層3、電子輸送層6間に挿入した構成である。イオン化ポテンシャルの非常に高い化合物をホール/エキシトンブロッキング層8として用いる事により、発光効率の向上に効果的な構成である。
【0053】
ただし、図1乃至5はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明の有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、ホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる2層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0054】
本発明の有機発光素子は、好ましくはホール輸送層の構成成分として、本発明のアミン化合物を用いる。そして必要に応じてこれまで知られている低分子系およびポリマー系のホール輸送性化合物、発光性化合物あるいは電子輸送性化合物などを一緒に使用することもできる。
【0055】
本発明のアミン化合物を含有する層およびその他の有機化合物からなる層は、一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマにより薄膜を形成する。あるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。特に塗布法で成膜する場合は、適当な結着樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0056】
上記結着樹脂としては、広範囲な結着性樹脂より選択でき、例えば以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリスルホン樹脂、尿素樹脂等
【0057】
また、これらは単独または共重合体ポリマーとして1種または2種以上混合してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0058】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体を挙げることが出来る。あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO),酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレンスルフィド等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は単独で用いるか、あるいは複数併用することもできる。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成をとることもできる。
【0059】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、ルテニウム、チタニウム、マンガン、イットリウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属単体を挙げることが出来る。あるいはリチウム−インジウム、ナトリウム−カリウム、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム、マグネシウム−インジウム等、これらの合金として用いることができる。また、酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で用いるか、あるいは複数併用することもできる。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成をとることもできる。
【0060】
また陽極および陰極は、少なくとも何れか一方が透明または半透明であることが望ましい。
【0061】
本発明で用いる基板としては、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜などを用いて発色光をコントロールする事も可能である。また、基板上に薄膜トランジスタ(TFT)を作成し、それに接続して素子を作成することも可能である。
【0062】
また、素子の光取り出し方向に関しては、ボトムエミッション構成(基板側から光を取り出す構成)および、トップエミッション構成(基板の反対側から光を取り出す構成)のいずれも可能である。
【0063】
なお、作成した素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッ素樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属などをカバーし、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
【0064】
本発明で規定しているイオン化ポテンシャルとは、化合物のHOMO(最高被占分子軌道)レベルにある電子を真空準位に放出するのに必要なエネルギーで定義される。一方、電子親和力は、真空準位にある電子が物質のLUMO(最低空分子軌道)レベルに落ちて安定化するエネルギーで定義される。
【0065】
イオン化ポテンシャルは、UPS(紫外光電子分光法)や低エネルギー電子分光装置(測定器名:AC−1、AC−2、AC−3、理研機器製)で直接測定することが出来る。また、サイクリックボルタンメトリ法による酸化電位の測定などからも求めることができる。本発明では、イオン化ポテンシャルの値を理研機器製AC−1により測定した値とした。
【0066】
電子親和力は、下記式で定義される。
(電子親和力)=(イオン化ポテンシャル)−(バンドギャップ)
【0067】
バンドギャップの測定は、例えば、有機化合物をガラス上に50nm程度の厚みに蒸着し、この蒸着膜の吸収スペクトルを測定し、その吸収端の波長Y(nm)をX(eV)に換算して(換算式はX=1240/Y)求められる。
【0068】
なお、電子親和力はサイクリックボルタンメントリ法による還元電位の測定からも求めることが出来る。
【0069】
本発明では光吸収によるバンドギャップ測定値と上記イオン化ポテンシャルから算出する方法を採用した。吸収スペクトルの測定には、分光光度計U−3010(日立分光製)を用いた。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
<実施例1(例示化合物5の合成)>
a)中間体化合物[1−3](5−ブロモ−N1,N3−ビス(9,9−ジメチル−フルオレニル)−N1,N3−ジフェニルベンゼン−1,3−ジアミン)の合成
【0072】
【化8】

【0073】
300ml三ツ口フラスコを用意した。そこに化合物[1−1](1,3,5−トリブロモベンゼン)、5.0g(15.9mmol)を入れた。また化合物[1−2](N−フェニル−N−(9,9−ジメチル−フルオレニル)アミノ基)、8.2g(31.7mmol)、ナトリウムターシャリブトキシド3.04g(31.7mmol)を入れた。さらにトルエン200mlを入れ、窒素雰囲気中、室温で攪拌下、トリターシャリブチルフォスフィン1.1g(4.77mmol)を添加した。次いでパラジウムジベンジリデンアセトン0.91g(31.7mmol)を添加した。80度に昇温し2時間攪拌した。反応後有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(ヘプタン+トルエン混合展開溶媒)で精製し、化合物1−3(白色結晶)3.68g(収率32.0%)を得た。
【0074】
b)例示化合物5の合成
【0075】
【化9】

【0076】
200ml三ツ口フラスコを用意した。化合物[1−4]1.2g(2.69mmol)をその中に入れた。さらに化合物[1−3]3.89g(5.38mmol)をその中に入れた。さらにトルエン100mlおよびエタノール50mlを入れ、窒素雰囲気中、室温で攪拌下、炭酸カルシウム1g/水20mlの水溶液を滴下した。次いでテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.31g(0.27mmol)を添加した。80度に昇温し6時間攪拌した。反応後有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(ヘキサン+トルエン混合展開溶媒)で精製し、例示化合物5(白色結晶)2.15g(収率54%)を得た。
【0077】
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの化合物のM+である1478.7を確認した。DSC(示差走査熱量測定)により、Tgは174℃であることを確認した。イオン化ポテンシャルおよび電子親和力はそれぞれ、5.30eV、2.22eVであり、バンドギャップは3.08eVであることを確認した。
【0078】
<実施例2(例示化合物41の合成)>
【0079】
【化10】

【0080】
200ml三ツ口フラスコを用意した。その中に化合物[1−5]0.4g(1.65mmol)を入れた。更に、化合物[1−3]2.4g(3.3mmol)を入れた。更にトルエン100mlおよびエタノール50mlを入れ、窒素雰囲気中、室温で攪拌下、炭酸カルシウム1g/水20mlの水溶液を滴下した。次いでテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.38g(0.33mmol)を添加した。80度に昇温し6時間攪拌した。反応後有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(ヘキサン+トルエン混合展開溶媒)で精製し、例示化合物41(白色結晶)1.45g(収率61%)を得た。
【0081】
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの化合物のM+である1438.7を確認した。DSC(示差走査熱量測定)により、Tgは171℃であることを確認した。イオン化ポテンシャルおよび電子親和力はそれぞれ、5.30eV、2.20eVであり、バンドギャップは3.10eVであることを確認した。
【0082】
<実施例3>
図3に示す構造の有機発光素子を以下に示す方法で作成した。
【0083】
基板1としてのガラス基板上に、陽極2としての酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて120nmの膜厚で成膜したものを透明導電性支持基板として用いた。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄したものを透明導電性支持基板として使用した。
【0084】
ホール輸送層材料として例示化合物5を用いて、濃度が0.1wt%となるようにクロロホルム溶液を調整した。
【0085】
この溶液を上記のITO電極上に滴下し、最初に500RPMの回転で10秒、次に1000RPMの回転で1分間スピンコートを行い膜形成した。この後10分間、80℃の真空オーブンで乾燥し、薄膜中の溶剤を完全に除去した。形成されたホール輸送層5の厚みは11nmであった。
【0086】
次に、ホール輸送層5の上に、以下に示す化合物2−1と、化合物3−1を共蒸着(重量比90:10)して20nmの発光層3を設けた。蒸着時の真空度は1.0×10-4Pa、成膜速度は0.1nm/secの条件で成膜した。
【0087】
【化11】

【0088】
更に電子輸送層6としてバソフェナントロリン(BPhen)を真空蒸着法にて40nmの膜厚に形成した。蒸着時の真空度は1.0×10-4Pa、成膜速度は0.2乃至0.3nm/secの条件であった。
【0089】
次に、アルミニウム−リチウム合金(リチウム濃度1原子%)からなる蒸着材料を用いて、先ほどの有機層の上に、真空蒸着法により厚さ0.5nmの金属層膜を形成した。更に真空蒸着法により厚さ150nmのアルミニウム膜を設け、アルミニウム−リチウム合金膜を電子注入電極(陰極4)とする有機発光素子を作成した。蒸着時の真空度は1.0×10-4Pa、成膜速度は1.0乃至1.2nm/secの条件で成膜した。
【0090】
得られた有機EL素子は、水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、アクリル樹脂系接着材で封止した。
【0091】
この様にして得られた素子に、ITO電極(陽極2)を正極、Al電極(陰極4)を負極にして、4.0Vの印加電圧で、発光輝度480cd/m2の青色発光が観測された。
【0092】
さらに、窒素雰囲気下で電流密度を30mA/cm2に保ち100時間電圧を印加したところ、初期輝度に対する100時間後の輝度劣化は小さかった。
【0093】
<実施例4>
例示化合物5に代えて、例示化合物41を用いた他は実施例3と同様に素子を作成し評価を行った結果、4.0Vの印加電圧で、発光輝度520cd/m2の青色発光が観測された。
【0094】
さらに、窒素雰囲気下で保ち100時間電圧を印加したところ、初期輝度に対する100時間後の輝度劣化は小さかった
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明における有機発光素子の一例を示す断面図である。
【図2】本発明における有機発光素子の他の例を示す断面図である。
【図3】本発明における有機発光素子の他の例を示す断面図である。
【図4】本発明における有機発光素子の他の例を示す断面図である。
【図5】本発明における有機発光素子の他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0096】
1 基板
2 陽極
3 発光層
4 陰極
5 ホール輸送層
6 電子輸送層
7 ホール注入層
8 ホール/エキシトンブロッキング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されることを特徴とするアミン化合物。
【化1】

(一般式[1]において、Ar1からAr8は、それぞれ独立に置換あるいは未置換のアリール基、または置換あるいは未置換の複素環基を表し、同じであっても異なっていてもよい。また、Ar1及びAr2、Ar3及びAr4、Ar5及びAr6、あるいはAr7及びAr8は、互いに結合し環を形成していてもよい。
1からR6は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、複素環基を表し、同じであっても異なっていてもよい。また、前記R1からR6を表すアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、複素環基は置換基を有していても良い。
Xは、置換もしくは未置換のビフェニレン基、フルオレニレン基、あるいは置換もしくは未置換の2価の複素環基を表す。)
【請求項2】
前記Ar1からAr8のうち、少なくとも一つがフルオレニル基であることを特徴とする請求項1に記載のアミン化合物。
【請求項3】
陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に狭持された有機化合物を含む一または複数の層を少なくとも有する有機発光素子において、前記有機化合物を含む層の少なくとも一層が、請求項1または2に記載のアミン化合物を少なくとも1種類含有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
前記アミン化合物を少なくとも1種類含有する層が、ホール輸送層あるいはホール注入層であることを特徴とする請求項3に記載の有機発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−133213(P2008−133213A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320084(P2006−320084)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】