説明

アミン液の再生方法および装置

【課題】 アルカリなど不純物となる物質を添加することなく、アミンの損失を少なくし、熱安定性酸イオンを効率よく除去してアミン液を高度に精製し、再生することができるアミン液の再生方法および装置を提案する。
【解決手段】 吸収塔1で酸性ガスをアミン液に吸収させ、再生塔2で1次再生して熱分解性酸成分を放出させたリーンアミン液を2次再生する電気透析装置10として、陰極11および陽極12間に配置されたバイポーラ膜13およびアニオン交換膜14間にアミン精製室15を形成し、アニオン交換膜14の陽極12側に酸濃縮室16を形成し、アミン精製室15へ被処理アミン液を導入し、アミン精製室15の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行い、アミン精製室15から精製アミン液を取出し、酸濃縮室16から酸濃縮液を取出すことによりアミン液を再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸成分を吸収したアミン液の再生方法および装置に関し、特に炭酸ガス、硫化水素、その他の酸成分を吸収したアミン液から、イオン交換膜を用いる電気透析により、熱安定性酸成分を効率的に除去し、アミン液を再生する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油精製その他のプロセスでは、炭酸ガス、硫化水素、その他の酸成分を含む酸性ガスが発生する。このような酸性ガスは、ガス精製工程として、吸収塔においてアルカーノアミン等のアミン液(リーンアミン)と接触させることにより酸成分を吸収除去し、精製ガスは次工程へ送る。酸成分を吸収したアミン液(リッチアミン)はアミン再生塔へ送られ、加熱により熱分解性のアミン塩を分解、ストリッピングにより気散性の酸成分を放出させてアミンを1次再生する。再生されたアミン液(リーンアミン)は酸成分吸収塔へ戻され、酸成分の吸収除去に利用される。
【0003】
ボイラの煙道ガス等の石炭、石油、燃料ガスなどを燃焼させた燃焼ガスのような炭酸ガス、SOx、NOxおよび他の酸成分を含む酸性ガスが発生するが、このような酸性ガスから炭酸ガスを除去する系でも、上記と同様のアミン液による吸収で処理することが試みられている。
【0004】
これらの酸性ガスに含まれる酸成分は、炭酸ガス、硫化水素のような気散性酸成分が主成分であるが、この他にSOx、NOx、硫化カルボニル、シアン化水素、蟻酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、その他の無機酸等の非気散性酸成分が微量に含まれる。これらの酸性ガスに含まれるすべての酸成分が、吸収塔においてアミン液に吸収されアミン塩となる。この内、硫化水素、炭酸ガスなどの気散性酸成分が吸収されて形成される熱分解性アミン塩は、再生塔での加熱で熱分解され、ストリッピングで炭酸ガス、硫化水素ガスなどとして排出され、アミンが1次再生される。ところがSOx、NOx、蟻酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、その他の無機酸等の非気散性酸成分と結合したアミン塩は、アミン再生塔での加熱では分解せず、アミン液から分離できないので、熱安定性アミン塩(Heat Stable Amines Salt:以下、HSASと略記する場合がある)と称され、アミン液に蓄積する。このようなHSASが蓄積するとアミン液の吸収効率が低下するほか、2〜3重量%になると装置の腐食や発泡の原因となることから、アミン液からHSASを除去することが望まれている。
【0005】
このようなアミン液からHSASを除去するために、イオン交換膜を用いる電気透析によりアミン液からHSASを除去する方法が試みられている。一般的な電気透析法では、陰極、陽極間に配置されたカチオン交換膜とアニオン交換膜間の被処理液室に被処理アミン液を導入して、陰極、陽極間に通電することにより、解離したイオンをカチオン交換膜およびアニオン交換膜を透過させ分離する。ところがアミン塩を含むアミン液を電気透析して解離したイオンを透過させると、被処理アミン液中には解離しないアミンが残ることになる。この解離しないアミンは導電率が低いため通電できなくなり、電気透析ができなくなる。
【0006】
このような問題点を解決する方法として、特許文献1(特公平6−43378号)には、アミン液中にアルカリ金属水酸化物を添加して電気透析することにより、導電率を下げることなくアミン液からHSASを除去する方法が提案されている。この方法では、HSASから熱安定性陰イオンを解離し、そして遊離塩基の形のアミンおよびアミン以外のカ
チオンと結びついた熱安定性塩、具体的には硫化ナトリウム塩を作らせるために、アルカリ金属の水酸化物、例えば水酸化ナトリウムをアミン液に添加する。次にこの塩をカチオン交換膜とアニオン交換膜間に導入し、電気透析によって分離する。アルカリ金属の添加で非解離となったアミンはカチオン交換膜およびアニオン交換膜を透過せず、解離した他のイオンが透析により除去されるため精製アミンとなる。
【0007】
しかしこの特許文献1の方法における問題点は、アミン液にアルカリ金属水酸化物を添加することである。添加したアルカリ金属水酸化物が電気透析で脱イオンされなかった場合、硫化ナトリウムなどのアミンではない塩類が増加し、腐食や塩分の析出などの問題を引き起こす懸念がある。また電気透析処理において過剰な処理を行った場合はアミンまでもがイオン交換膜を透過し、有効成分であるアミンが失われて、損失となるなどの問題点がある。
【0008】
これを改善する方法として、特許文献2(特開平7−299332号(特許第2779758号))には、アルカリ金属水酸化物を被処理アミン液に添加しない方法が提案されている。この方法は、陰極、陽極間に配置されたカチオン交換膜とアニオン交換膜の組合せにおいて、陰極、カチオン交換膜間にさらにカチオン交換膜とアニオン交換膜を配置し、その間に形成した還流室に熱分解性アミン塩を含むアミン液を還流して電気透析を行う方法である。
【0009】
この方法では、陽極室側の還流室に還流させた熱分解性酸イオンを、アニオン交換膜を通して生成物室へ移動させ、供給室側からカチオン交換膜を通してアミンを生成物室へ移動させ、供給室中の熱安定性酸イオンはアニオン交換膜を介して酸室へ移動させている。しかしこの特許文献2の方法では、熱安定性酸イオンの移動を効率化するために熱分解性酸イオン導入するので、電気透析セルが増加して構造が複雑になり、装置コストがアップする。またセル数が増加するため、操作電圧が上昇、運転コストも高価になるなどの問題があった。
【0010】
ところでイオン交換膜には、カチオン交換膜とアニオン交換膜を積層したバイポーラ膜が開発されており、特許文献3(特開2009−241024号)には、不純物を含有する薬品から不純物を除去して高純度の薬品を得るための電気脱イオン装置として、バイポーラ膜とアニオン交換膜を用いる装置が提案されている。ここでは装置は陰極と陽極との間に、バイポーラ膜とアニオン交換膜とを交互に配列することにより区画されてなる濃縮室と処理室とを備え、処理室に不純物を含有する薬品を通液することにより、不純物のみを濃縮室に移動させ、高純度の薬品を得る方法が提案されている。
【0011】
しかし特許文献3では、水酸化ナトリウム水溶液から不純物としてのホウ酸イオンを除去して高純度の水酸化ナトリウム水溶液を得るための方法が具体化されており、他の方法特に被処理物および不純物の組成、イオン性等の異なるアミン液の精製への適用可能性を示唆していない。酸性ガスを吸収したアミン液の精製において、アルカリ添加や熱分解性酸イオンなど電解質を添加しないで電気透析すると、脱塩室の導電率が低下するため、電流が流れにくくなり、電圧が上昇して、運転費用が高くなるという問題点があるが、これを解決することは示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平6−43378号公報
【特許文献2】特開平7−299332号(特許第2779758号)公報
【特許文献3】特開2009−241024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、前記のような従来の問題点を解決するため、アルカリなど不純物となる物質を添加することなく、アミンの損失を少なくし、熱安定性酸イオンを効率よく除去してアミン液を高度に精製し、再生することができるアミン液の再生方法および装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は次のアミン液の再生方法および装置である。
(1) 陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜間にアミン精製室を形成し、
アニオン交換膜の陽極側に酸濃縮室を形成し、
アミン精製室へ被処理アミン液を導入し、
アミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行い、
アミン精製室から精製アミン液を取出し、
酸濃縮室から酸濃縮液を取出すことを特徴とするアミン液の再生方法。
(2) アミン精製室から酸濃縮室へ移行して除去される熱安定性酸成分の除去率を10〜50%に制御することにより、アミン精製室に熱分解性アミン塩を残留させる上記(1)記載の方法。
(3) 酸濃縮室に酸捕捉液を導入する上記(1)または(2)記載の方法。
(4) 酸濃縮室の酸捕捉液がpHが10を越えないように制御する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜と、
バイポーラ膜およびアニオン交換膜間に形成されたアミン精製室と、
アミン精製室へ被処理アミン液を導入する被処理アミン液導入路と、
アミン精製室から精製アミン液を取出す精製アミン液取出路と、
アニオン交換膜の陽極側に形成された酸濃縮室と、
酸濃縮室から酸濃縮液を取出す酸濃縮液取出路と、
アミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行う制御機構と
を含むことを特徴とするアミン液の再生装置。
(6) 酸濃縮室に酸捕捉液を導入する酸捕捉液導入路を含む上記(5)記載の装置。
(7) 制御機構がアミン精製室から酸濃縮室へ移行して除去される熱安定性酸イオンの除去率を10〜50%に制御するものである上記(5)または(6)記載の装置。
【0015】
本発明において、再生の対象となる被処理アミン液は、炭酸ガス、硫化水素、SOx、NOx、その他の酸成分を含むアミン液である。このようなアミン液としては、前記石油精製その他のプロセスで発生する炭酸ガス、硫化水素、その他の酸成分を含む酸性ガス、あるいはボイラの煙道ガス等の石炭、石油、燃料ガスなどを燃焼させた燃焼ガスのような炭酸ガス、SOx、NOxおよび他の酸成分を含む酸性ガスを、吸収塔においてアルカーノアミン等のアミン液(リーンアミン)と接触させ、これにより酸成分を吸収したアミン液(リッチアミン)を、アミン再生塔で加熱により熱分解性のアミン塩を分解、ストリッピングにより気散性の酸成分を放出させてアミンを1次再生したアミン液(リーンアミン)があげられる。
【0016】
被処理アミン液の主成分であるアミンは、酸性ガスの吸収に用いられるアルカノールアミンが一般的であるが、その他のアミンを含んでいてもよい。アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、ジグリコールアミン(DGA)およびメチルジエタノールアミン(M
DEA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)等が一般に用いられるが、他のアミン例えばヒンダードアミンのようなアミンであってもよい。これらのアミン液は通常15〜55重量%の水溶液とされている。
【0017】
被処理アミン液は、このようなアミン液に酸性ガスを吸収させたリッチアミン液を熱分解、ストリッピングにより1次再生したアミン液(リーンアミン)であり、酸性ガスの種類、組成、吸収条件、1次再生の条件等により異なるが、一般的には炭酸ガス、硫化水素等の熱分解により気散して放出される熱分解性アミン塩を構成する熱分解性酸成分を5〜50重量%、SOx、NOx、蟻酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸等の熱安定性アミン塩(HSAS)を構成する熱安定性酸成分を0.3〜3重量%含むものが本発明の処理に適している。
【0018】
本発明ではこのような被処理アミン液を電気透析により処理してアミン液の再生を行うが、アミン塩を構成する酸成分を高除去率で除去すると導電率が下がり、電圧が上昇するため、電気透析が行えなくなる。これを避けるために従来法では、アルカリ添加や熱分解性酸イオンなど電解質を添加していたが、これらの添加を避けるために本発明では、被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行う。被処理アミン液に含まれる炭酸ガス、硫化水素等の熱分解性酸成分は、1次再生において熱分解により除去されるので、吸収工程に循環してもあまり問題はない。むしろ電気透析はコストがかかるので、電気透析で除去しないで循環するほうがコスト的には有利である。
【0019】
被処理アミン液に含まれるHSASを構成する熱安定性酸成分のうち、SOx、NOxのような強酸性成分は腐食性が高いので、可能な限り除去するのが好ましいが、蟻酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸等の弱酸性成分は濃縮されると害を及ぼすので、除去されるが、多少のものは循環してもよい。弱酸性の熱分解性酸成分、弱酸性の熱安定性酸成分、強酸性の熱安定性酸成分の順に含まれる量は少なくなるが、解離度は高く成るので、上記と逆の順序で電気透析により易除去される量は多くなる。このため熱安定性酸イオンの除去率が低い状態で電気透析を終えると、無害の弱酸性の熱分解性酸成分を残留させて電流効率を高く維持することができ、しかも有害な強酸性の熱安定性酸成分の除去率を高くすることができる。
【0020】
本発明で用いるアミン液の再生装置は、陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜と、バイポーラ膜およびアニオン交換膜間に形成されたアミン精製室と、アミン精製室へ被処理アミン液を導入する被処理アミン液導入路と、アミン精製室から精製アミン液を取出す精製アミン液取出路と、アニオン交換膜の陽極側に形成された酸濃縮室と、酸濃縮室から酸濃縮液を取出す酸濃縮液取出路と、アミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行う制御機構とを含む電気透析装置から構成される。酸濃縮室には、酸捕捉液を導入する酸捕捉液導入路を連絡することができる。また陰極のバイポーラ膜側には、陰極室を構成することができる。
【0021】
アニオン交換膜は電気透析によりアニオンを選択的に透過させ、カチオンの透過を阻止する透過膜であり、従来から電気透析に用いられているアニオン交換膜を用いることができる。アニオン交換膜としては、アニオン交換容量は0.2〜2meq/g、好ましくは0.4〜2meq/g、膜厚は10〜2000μm、好ましくは20〜300μmのものが好適である。
【0022】
バイポーラ膜は前記特許文献3や特公昭32−3962号、特公昭34−3961号等に記載されているもので、カチオン交換膜とアニオン交換膜が積層された複合膜であり、中間にカチオン交換基とアニオン交換基を有する樹脂部などが介在するものもある。カチオン交換膜はカチオンを選択的に透過させ、アニオンの透過を阻止するので、バイポーラ
膜は外部からのカチオンとアニオンの通過を阻止するが、内部で水の電解によって発生する水素イオンや水酸イオンなどは、それぞれの極性に応じて透過する。バイポーラ膜としては、アニオン交換容量は0.1〜1.5meq/g、好ましくは0.3〜1meq/g、カチオン交換容量は0.4〜2meq/g、好ましくは0.8〜1.5meq/g、膜厚は40〜3000μm、好ましくは100〜1000μmのものが好適である。
【0023】
各透過膜の大きさは、処理目的、装置の規模等によって任意に決められるが、一般的には100〜2000mm角、好ましくは300〜1000mm角、膜間隔は一般的には0.3mm〜30mm、好ましくは0.5mm〜5mm、透析時の電流密度は0.5〜20A/dm、好ましくは2〜10A/dmとするのが好ましい。上記のバイポーラ膜およびアニオン交換膜、ならびにこれらにより形成されるアミン精製室および酸濃縮室の構成は、陰極および陽極間に1組だけ設けてもよいが、複数組を直列または並列に設けてもよい。陰極および陽極はそれぞれ陰極室および陽極室に設けられるが、陽極に隣接する酸濃縮室は陽極室を兼ねる。
【0024】
上記の装置によるアミン液の再生方法は、被処理アミン液導入路からアミン精製室へ被処理アミン液を導入し、制御機構によりアミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように制御して電気透析を行い、アミン精製室から精製アミン液取出路を通して精製アミン液を取出し、酸濃縮室から酸濃縮液取出路を通して酸濃縮液を取出すことによりアミン液の再生を行う。
【0025】
アミン精製室内の被処理アミン液中の解離したアニオン、すなわち酸成分は、電気透析により陽極側に引かれるため、アニオン交換膜を通して酸濃縮室に透過する。被処理アミン液中の解離したカチオン、すなわちアミンは陰極側に引かれるが、バイポーラ膜により阻止されるためアミン精製室内に留まる。このためアミンは移行することなく、アミン精製室内に留まった状態で精製されるので、アミンの損失は少ない。
【0026】
一方、解離したアニオンすなわち酸成分は酸濃縮室に透過するが、このとき移行する各酸成分の量は、アミン液中の解離した各酸成分の割合に比例する。一般に強酸性の酸ほど解離度が高いので、強酸性の熱安定性酸成分は含まれる量は少ないが、多くが解離して透過する。弱酸性の熱安定性酸成分はこれに続き、弱酸性の熱分解性酸成分は、含まれる量は多いが、解離および透過する量は少なくなる。このため強酸性の熱安定性酸成分が移行を終わっても、弱酸性の熱分解性酸成分が残留するような条件で電気透析を行うと、導電率を低下させることなく、効率よく電気透析を行って、除去する必要のある強酸性および弱酸性の熱安定性酸成分を除去することができる。ここでアミン精製室に残留させる熱分解性酸成分の残留率は、被処理アミン液として導入される熱分解性酸成分の80%以上、好ましくは90%以上である。
【0027】
アミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行うためには、アミン液中の弱酸性の熱分解性酸成分の解離および透析が進行する前にアミン精製室から精製アミン液を取出すように、制御機構を構成することができる。制御機構の構成としては、酸成分の含量や除去率等から予め設定した設定値に基づいて、アミン精製室へ導入する被処理アミン液量および/またはアミン精製室から取出す精製アミン液量を制御する構成、あるいは酸濃縮室に移行した酸成分の量や電圧などを検出して導入する被処理アミン液量および/または取出す精製アミン液量を制御する構成などがあげられる。
【0028】
酸成分の除去率としては、各酸成分の除去率を検出してもよいが、熱安定性酸成分の除去率を検出して制御するのが好ましい。熱安定性酸成分の除去率の検出は容易であり、また熱安定性酸成分の除去率と残留熱分解性酸成分との間には相関性があるので、制御は容易である。アミン精製室から酸濃縮室へ移行して除去される熱安定性酸成分の除去率を1
0〜50%、好ましくは20〜40%に制御することにより、アミン精製室に残留する熱分解性アミン塩の残留率を80%以上、好ましくは90%以上にすることができ、HSASに対しての電流効率を25〜35%に維持することができる。
【0029】
熱安定性酸成分の除去率(%)は次の(1)式で示され、熱分解性酸成分の残留率(%)は次の(2)式で示される。
熱安定性酸成分の除去率(%)=〔(酸濃縮液中の熱安定性酸成分濃度)×(酸濃縮液排出量)〕/〔(導入する被処理アミン液中の熱安定性酸成分濃度)×(被処理アミン液導入量)〕×100 ・・・(1)
熱分解性酸成分の残留率(%)=〔(精製アミン液中の熱分解性酸成分濃度)×(精製アミン液排出量)〕/〔(導入する被処理アミン液中の熱分解性酸成分濃度)×(被処理アミン液導入量)〕×100・・・(2)
【0030】
酸濃縮室に酸捕捉液導入路を通して酸捕捉液を導入することにより、アミン精製室から移行する酸成分を捕捉して酸を濃縮し、酸濃縮液を生成する。この酸濃縮液は酸濃縮液取出路から取出される。酸捕捉液としては、透過する酸を捕捉して濃縮できるものであればよいが、アルカリ液を用いることにより、アミン精製室から移行する酸成分を中和することができ、これにより装置の腐食、損傷等を防止し、排液処理を容易にすることができる。アルカリとしては、酸性ガスの吸収に用いるアミンでもよいが、アルカリ金属の水酸化物、炭酸または重炭酸塩が好ましく、特に水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物が好ましい。酸濃縮室内の酸捕捉液は循環することができるが、pH1〜10にすると、熱分解性酸成分の透過が少なくなるので好ましい。特にpH7〜10にすると、熱分解性酸成分の透過が少なくなるとともに、廃液処理が容易になるので好ましい。
【0031】
本発明では、バイポーラ膜とアニオン交換膜を用いることにより、リーンアミン液から熱安定性酸イオンを除去するに当たり、簡単な構造、方法で、アミン液にアルカリ金属水酸化物などを添加することなく、またアミンを移動させないで、熱安定性酸イオンを酸濃縮室に移動させて除去することができる。
【0032】
熱安定性酸イオンの移動量を制限することにより、無駄な熱分解性酸イオンの移動を削減でき、またフリーのアミン濃度を高め過ぎないことにより電圧上昇を回避でき、これにより運転費用の削減が図られる。また酸濃縮室側においてアルカリ金属水酸化物溶液を用いてpH調整することにより、酸濃縮室からの排出水のpH調整が容易となり、その後の生物処理などの排水処理が容易になる。このための方法としては、酸濃縮室側の循環水槽あるいはその出入口配管にpHモニター、アルカリ注入ポンプなどを設けて、酸濃縮室側流出排水のpHを制御することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明では、陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜間にアミン精製室を形成し、アニオン交換膜の陽極側に酸濃縮室を形成し、アミン精製室へ被処理アミン液を導入し、アミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行い、アミン精製室から精製アミン液を取出すようにしたので、アルカリなど不純物となる物質を添加することなく、アミンの損失を少なくして、熱安定性酸イオンを効率よく除去してアミン液を高度に精製し、再生することができるなどの効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施形態のアミン液の再生方法および装置を示すフロー図である。
【図2】実施例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図1により説明する。図1において、1はガス処理工程を構成する吸収塔、2は再生塔であり、流路L1、L2により、ポンプP1、P2および熱交換器3、冷却器4を介して連絡している。吸収塔1および再生塔2は内部に充填層5、6を備え、気−液接触により吸収および1次再生を行うように構成されている。吸収塔1には流路L3、L4が連絡している。流路L3は石油精製プロセスやボイラ等からプロセスガスや煙道ガス等の酸成分を含む酸性ガスを、脱塵、脱硝、脱硫装置等の前処理装置を経由して吸収塔1に導入するようにされており、また流路L4はプロセスや煙突等に導かれるが、詳細な図示は省略されている。
【0036】
吸収塔1では、流路L3から入る酸成分を含む酸性ガスを充填層5において、流路L1から入るリーンアミン液と接触させ、これにより酸成分を吸収除去して処理ガスを流路L4から系外へ排出し、生成するリッチアミン液を流路L2から再生塔2へ送るように構成されている。再生塔2では、流路L5からリーンアミン液をリボイラ7へ送って蒸気加熱することにより、流路L2から入るリッチアミン液を熱分解して蒸気ストリッピングし、炭酸ガスや硫化水素等気散性酸成分のアミン塩のような熱分解性のアミン塩を分解して気散性酸成分を放出し、アミンを1次再生してリーンアミン液を生成する。リーンアミン液は流路L1から吸収塔1に循環し、蒸気はコンデンサ8で凝縮し、凝縮水は流路L6から再生塔2へ還流し、気散したガスはは流路L7から排出されるように構成されている。
【0037】
10は電気透析装置であって、陰極11および陽極12間に配置されたバイポーラ膜13およびアニオン交換膜14と、バイポーラ膜13およびアニオン交換膜14間に形成されたアミン精製室15と、アミン精製室15へ被処理アミン液を導入する被処理アミン液導入路L11と、アミン精製室15から精製アミン液を取出す精製アミン液取出路L12と、アニオン交換膜14の陽極12側に形成された酸濃縮室16と、酸濃縮室16から酸濃縮液を取出す酸濃縮液取出路L13と、アミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行う制御機構17とを含む。酸濃縮室16には酸捕捉液を導入する酸捕捉液導入路L14が連絡している。陰極11のバイポーラ膜13側には、陰極室18が構成されている。
【0038】
バイポーラ膜13は、陰極11側にカチオン交換膜13C、陽極12側にアニオン交換膜13Aが積層された構造になっている。被処理アミン液導入路L11は流路L1から分岐し、ポンプP3によりリーンアミン液を電気透析装置10のアミン精製室15へ導き、精製アミン液取出路L12は電気透析装置10のアミン精製室15から2次再生された精製アミン液を流路L1に導くように連絡している。酸濃縮室16は陽極室を兼ねており、陽極室液としての酸濃縮液をポンプP7により循環する循環路L15に、ポンプP5を有する酸濃縮液取出路L13およびポンプP6を有する酸捕捉液導入路L14が連絡している。陰極室18には、陰極室液をポンプP8により循環する循環路L16が連絡している。ポンプP3〜P8は制御機構17で制御される。
【0039】
上記の構成において、ガス処理工程では、吸収工程として流路L3を通して酸性ガスを吸収塔1へ導入し、充填層5において流路L1から入るリーンアミン液と接触させ、これにより炭酸ガス、硫化水素、SOx、NOxおよび他の酸成分を吸収除去して処理ガスを流路L4から系外へ排出し、生成するリッチアミン液を流路L2から再生塔2へ送る。ここでは熱分解性のアミン塩を形成する炭酸ガス、硫化水素その他の気散性のガスも、HSASを形成するSOx、NOx、ギ酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、無機酸等の非気散性のガスも吸収され、熱分解性のアミン塩および熱安定性アミン塩を形成する。
【0040】
1次再生工程では、再生塔2においてリボイラ7により発生する蒸気を導入して加熱することにより、流路L2から入るリッチアミン液を蒸気ストリッピングし、炭酸ガスおよび硫化水素のアミン塩のような熱分解性のアミン塩を分解して気散性の酸成分を放出し、アミンを1次再生してリーンアミン液を生成し、リーンアミン液を流路L1から、熱交換器3で熱交換し、冷却器4でさらに冷却して吸収塔1に循環する。熱分解により分解し分離した炭酸ガス、硫化水素その他の気散性の酸性ガスは流路L7から系外へ排出され、炭酸ガスは回収される。ここではアミン液中の炭酸ガス、硫化水素等の気散性ガスの完全な除去はできず、一部の気散性ガスはアミン液中に残留する。またSOx、NOx、ギ酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、その他の無機酸等の非気散性の酸成分のアミン塩のようなHSASは分解されず、アミン液中に蓄積する。
【0041】
2次再生工程では、流路L1から循環するリーンアミン液の一部を被処理アミン液導入路L11から分流し、電気透析装置10へ送り、2次再生を行う。このとき被処理アミン液導入路L11から、ポンプP3によりアミン精製室15へ被処理アミン液としてのリーンアミン液を導入し、制御機構17によりアミン精製室15の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように制御して電気透析を行う。アミン精製室15から精製アミン液取出路L12を通して、ポンプP4により精製アミン液を取出し、酸濃縮室16からポンプP5により酸濃縮液取出路L13を通して酸濃縮液を取出すことによりアミン液の再生を行う。
【0042】
アミン精製室15内の被処理アミン液中の解離したアニオン、すなわち酸成分(X)は、電気透析により陽極12側に引かれるため、アニオン交換膜14を通して酸濃縮室16に透過する。被処理アミン液中の解離したカチオン、すなわちアミン(RN)は陰極11側に引かれるが、バイポーラ膜13により阻止されるためアミン精製室15内に留まる。このためアミンは移行することなく、アミン精製室15内に留まった状態で精製されるので、アミンの損失は少ない。バイポーラ膜13内では水の電解により水素イオン(H)と水酸イオン(OH)が生成するが、水素イオン(H)は陰極室18に移行して水素ガス(H)が発生する。水酸イオン(OH)はアミン精製室15へ移行する。酸濃縮室(陽極室)16では水の電解により、水素イオン(H)と酸素ガス(O)が発生する。
【0043】
解離したアニオンすなわち酸成分(X)は酸濃縮室16に透過するが、このとき移行する各酸成分(X)の量は、アミン液中の解離した各酸成分の割合に比例する。一般に強酸性ほど解離度が高いので、SOx、NOxのような強酸性の熱安定性酸成分は含まれる量は少ないが、多くが解離して透過する。蟻酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸等の弱酸性の熱安定性酸成分はこれに続く。炭酸ガス、硫化水素等の弱酸性の熱分解性酸成分は、含まれる量は多いが、解離および透過する量は少なくなる。このため強酸性の熱安定性酸成分が移行を終わっても、弱酸性の熱分解性酸成分が残留するような条件で電気透析を行うと、導電率を低下させることなく、効率よく電気透析を行って、除去する必要のある強酸性および弱酸性の熱安定性酸成分を除去することができる。
【0044】
アミン精製室15の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行うためには、アミン液中の弱酸性の熱分解性酸成分の解離および透析が進行する前にアミン精製室15から精製アミン液を取出すように、制御機構17を構成することができる。制御機構17の構成としては、酸成分の含量や移行率等から予め設定した設定値に基づいて、アミン精製室15へ導入する被処理アミン液量および/またはアミン精製室15から取出す精製アミン液量をポンプP3、P4により制御する構成、あるいは酸濃縮室16に移行した酸成分の量や、陰極11、陽極12間の電圧などを検出して導入する被処理アミン液量および/または取出す精製アミン液量を制御する構成などがあげられる。
【0045】
酸成分を移行させて除去する除去率としては、各酸成分の除去率を検出してもよいが、熱安定性酸成分の除去率を検出して制御するのが好ましい。熱安定性酸成分の除去率の検出は容易であり、また熱安定性酸成分の除去率と残留熱分解性酸成分との間には相関性があるので、制御は容易である。アミン精製室から酸濃縮室へ移行させて除去することによる熱安定性酸成分の除去率を10〜50%、好ましくは20〜40%に制御することにより、アミン精製室に熱分解性アミン塩を80%以上、好ましくは90%以上残留させることができ、HSASに対しての電流効率を25〜35%に維持することができる。
【0046】
酸濃縮室16に酸捕捉液導入路L14を通して酸捕捉液を導入することにより、アミン精製室15から移行する酸成分を捕捉して酸を濃縮し、酸濃縮液を生成する。この酸濃縮液は酸濃縮液取出路L13から取出される。酸捕捉液としては、透過する酸を捕捉して濃縮できるものであればよいが、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物のようなアルカリ液を用いることにより、アミン精製室15から移行する酸成分を中和することができ、これにより装置の腐食、損傷等を防止し、排液処理を容易にすることができる。酸濃縮室16内の酸捕捉液はポンプP7により、循環路L15を通して循環することにより、液の攪拌とガスの除去を行うことができる。pH10以下、特にpH6〜10にすると、熱分解性酸成分の透過が少なくなる。陰極室18には0.1〜4Nのアルカリ金属水酸化物等のアルカリを陰極液として入れ、ポンプP8により、循環路L16を通して循環することにより、液の攪拌とガスの除去を行うことができる。
【0047】
上記のバイポーラ膜13およびアニオン交換膜14、ならびにこれらにより形成されるアミン精製室15および酸濃縮室16の構成は、陰極11および陽極12間に1組だけ設けた例を示したが、複数組を直列または並列に設けてもよい。複数組を並列に設ける場合、陰極11および陽極12は両端に設けられる。そして陰極11側には陰極室18が設けられるが、陽極12に隣接する酸濃縮室16は陽極室を兼ねることになる。
【0048】
上記のアミン液の再生方法および装置では、アミン液へアルカリ金属塩を添加しないので、アミン液へのアルカリ金属塩の混入がなく、腐食や析出の懸念がなくなる。またアミンの移動がないため、系外への流出による損失がなくなる。そして電気透析装置の構成が陽極室、陰極室以外には、アミン精製室、酸濃縮室の2室(の繰り返し)となるため装置構成が簡単となり、装置コストが安価になるとともに、セル数が減るため操作電圧の低下により運転費が軽減する。
【0049】
さらにアミン精製室15の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように制御して電気透析を行うので、熱分解性アミン塩を構成する気散性酸成分の移動で消費される余計な電流を流さずに済み、運転コストが安価になる。またアミン精製室15内の気散性酸成分濃度が高く保たれるため、アミン精製室15の電気抵抗が高くならず、電圧が低く保持されるので、運転コストが安価となる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例、比較例について説明する。各例における%は特に指示しない限り重量%であり、また分析法は以下の通りである。
〔アミン濃度〕:OH形強塩基性アニオン交換樹脂に通液、フリーのアミン形にした後、0.1N−HCl溶液で滴定した。
〔全酸濃度〕:H形強酸性カチオン樹脂に通液してフリーの酸にし、曝気しないで、PP指示薬を用い0.1N−NaOH溶液で中和滴定した。
〔HSAS濃度〕:H形強酸性カチオン樹脂に通液してフリーの酸にし、曝気して熱分解性酸を放散させた後、MB指示薬を用い0.1N−NaOH溶液で中和滴定した。
〔熱分解性酸濃度〕:(全酸濃度)−(HSAS濃度)
【0051】
〔実施例1〕:
図1に示す電気透析装置10において、陰極11にステンレス鋼、陽極12に白金メッキしたチタンを用いた。バイポーラ膜13にはアストム社製ネオセプタBP−1E(商品名)を、アニオン交換膜14には同社のネオセプタAHA(商品名)を用いた。各室には厚さ1mmのメッシュスぺーサを入れて流路を確保した。各電極およびイオン交換膜の有効面積は100cm(5cm×20cm)とした。
【0052】
この電気透析セルに、酸性ガスを吸収し蒸気ストリッピングで1次再生したメチルジエタノールアミン(アミン濃度38%、熱分解性酸濃度1.5%、HSAS濃度1.5%)の模擬溶液を1mL/minで通液、電流2Aで通電したところ、HSAS濃度が低下したアミン(アミン濃度38%、熱分解性酸濃度1.2%、HSAS濃度1.1%)が得られた。このときの電圧は3.4Vであり、移動した熱分解性酸イオンと熱安定性酸イオンの比はモル比で約0.2:0.8であった。前記の模擬液は、試薬メチルジエタノールアミンを水で希釈し、試薬の酢酸を添加し、硫化水素ガスを吹き込んで調整したものである。
【0053】
上記の条件で電解時間を延長し、HSAS除去率を変化させたところ、熱分解性酸の除去率、ならびにHSAS除去のための電流効率も変化した。その結果を図2に示す。図2より、HSAS除去率を上げると、熱分解性酸の除去率が高くなり、電流効率が低下する。そして熱安定性酸成分の除去率を10〜50%、好ましくは20〜40%に制御することにより、アミン精製室に残留させる熱分解性アミン塩の残留率を80%以上、好ましくは90%以上にすることができ、HSASに対しての電流効率を25〜35%に維持することができることが分かる。
【0054】
〔実施例2〕:
熱分解性酸を50%以上除去した例として、実施例1と同じ装置およびアミン液を用いて、熱分解性酸イオンが60%以上移動するように、電解セルへの通液量を少なくし、0.2mL/minとした。この時の電解セルの電圧は4.5Vとなり、実施例1より高い電圧となった。また、この時移動した熱分解性酸イオンと熱安定性酸イオンの比率は、モル比で0.33:0.67であった。これらのことから、実施例1に比較して、実施例2は電圧が高く、熱分解性酸イオンの移動に多くの電流が費消されることから非効率的であると判断される。熱分解性酸の除去率とHSASの除去量当たりの電流量を表1に示す。表1より、熱分解性酸の除去率が高くなると、HSAS除去量当たりの電気量が増加していることが分かる。
【0055】
【表1】

【0056】
〔比較例1、2〕:
特許文献1の例として、実施例1で用いた図1の電気透析装置10のバイポーラ膜13
をカチオン交換膜に変えた装置を用いた。比較例1では、実施例1と同条件で電気透析し(NaOH添加なし)、比較例2では、アミン液にHSASの当量の20%のNaOHを添加した他は実施例1と同条件で電気透析した(NaOH添加あり)。結果を実施例1の結果とともに表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2より、比較例1、2では高価なアミンが流出しており、カチオン交換膜の利用は適切ではないことが分かる。比較例1において、NaOHを添加しないと、酸濃縮室が酸性となり、アミンが電気だけでなく酸で引張られるため、アミンリークが多くなると考えられる。一方比較例2において、NaOHを添加すると、電気透析によるNa除去が不十分な場合にはアミン液にNaが混入し、Na塩析出や腐食の懸念がある。また過剰になると、NaOHを添加しない場合と同じ不具合が起こることが分かる。
【0059】
〔比較例3〕:
特許文献2の例として、比較例1で用いた装置(図1の電気透析装置10のバイポーラ膜13をカチオン交換膜に変えた装置)の陰極とカチオン交換膜間に、さらにカチオン交換膜とアニオン交換膜を配置して、その間に還流室を形成した装置を用いた。その還流室に熱分解性酸のアミン塩溶液を導入し、比較例1と同様にして電気透析を行った。その結果、電圧は4.2Vとなり、実施例1の3.4Vより高くなり、セル数が多くなったため、操作電圧が高くなったことが分かる。
【0060】
〔実施例3〕:
図1の酸濃縮室16へアルカリ添加した例として、酸捕捉液導入路L14から酸捕捉液としてNaOHを添加して、酸濃縮液のpHを変化させ、実施例1と同じ試験条件(同電流、同流量)で電気透析を行った。pH2.1における熱分解性酸成分の酸濃縮室16への移行量を1としたとき、各pHにおける熱分解性酸成分の移行量比を表3に示す。表3より、酸濃縮室16内のpHが高いほど、熱分解性酸成分の移行量が多くなり、アルカリが無駄に消費され、pH10以下が好ましいことが分かる。
【0061】
【表3】

【0062】
以上の結果より、本発明では、電解セル構造が簡単であり、安価に提供でき、熱分解性酸の移動を極力抑えることにより、電流効率が良くなり、運転費用も安価となることが分かる。また酸濃縮室を弱アルカリ性に制御することで、熱分解性酸の移行を抑えることができ、これによりアルカリ消費量が削減でき、かつ廃水処理がやりやすくなることが分か
る。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、酸成分を吸収したアミン液の再生方法および装置、特に炭酸ガス、硫化水素、その他の酸成分を吸収したアミン液から、イオン交換膜を用いて熱安定性酸成分を効率的に除去し、アミン液を再生する方法および装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1: 吸収塔、2: 再生塔、3: 熱交換器、4: 冷却器、5,6: 充填層、7: リボイラ、8: コンデンサ、10: 電気透析装置、11: 陰極、12: 陽極、13: バイポーラ膜、13C: カチオン交換膜、13A: アニオン交換膜、14: アニオン交換膜、15: アミン精製室、16: 酸濃縮室、17: 制御機構、18: 陰極室、L1〜L6: 流路、L11: 被処理アミン液導入路、L12: 精製アミン液取出路、L13: 酸濃縮液取出路、L14: 酸捕捉液導入路、L15,L16: 循環路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜間にアミン精製室を形成し、
アニオン交換膜の陽極側に酸濃縮室を形成し、
アミン精製室へ被処理アミン液を導入し、
アミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行い、
アミン精製室から精製アミン液を取出し、
酸濃縮室から酸濃縮液を取出すことを特徴とするアミン液の再生方法。
【請求項2】
アミン精製室から酸濃縮室へ移行して除去される熱安定性酸成分の除去率を10〜50%に制御することにより、アミン精製室に熱分解性アミン塩を残留させる請求項1記載の方法。
【請求項3】
酸濃縮室に酸捕捉液を導入する請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
酸濃縮室の酸捕捉液がpHが10を越えないように制御する請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜と、
バイポーラ膜およびアニオン交換膜間に形成されたアミン精製室と、
アミン精製室へ被処理アミン液を導入する被処理アミン液導入路と、
アミン精製室から精製アミン液を取出す精製アミン液取出路と、
アニオン交換膜の陽極側に形成された酸濃縮室と、
酸濃縮室から酸濃縮液を取出す酸濃縮液取出路と、
アミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行う制御機構と
を含むことを特徴とするアミン液の再生装置。
【請求項6】
酸濃縮室に酸捕捉液を導入する酸捕捉液導入路を含む請求項5記載の装置。
【請求項7】
制御機構がアミン精製室から酸濃縮室へ移行して除去される熱安定性酸イオンの除去率を10〜50%に制御するものである請求項5または6記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−130879(P2012−130879A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286094(P2010−286094)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】