説明

アリルエーテルの製造方法

【課題】反応効率の高い新規アリルエーテル製造方法の提供。
【解決手段】以下の:
遷移金属触媒、錯化剤、及び3級アミン化合物の存在下、ヒドロキシル基を含有する化合物とカルボン酸アリルエステル化合物とを反応させる工程、
を含むアリルエーテルの製造方法。前記反応工程においては、好ましくは、反応系中に水を存在させて、有機相と水相が二相分離した状態で反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリルエーテルの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、触媒の存在下、カルボン酸アリルエステル化合物とヒドロキシル基を含有する化合物とを反応させることによる、原料化合物とは異なる新たなアリルエーテル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリル化合物を原料として、遷移金属化合物を触媒として用いて反応を行なうことにより、様々な種類の新たなアリル化合物を合成しうることが知られている。
【0003】
アリル化合物の合成反応の詳細に関しては、以下の非特許文献1に総説的にまとめて記載されており、アリルクロライド、酢酸アリル、アリルエーテル、プロピレンのようなアリル基含有化合物から誘導される遷移金属π−アリル錯体と、カルボン酸、フェノール、アルコール、1級アミン、2級アミン、チオール、マロン酸エステルのような活性水素含有化合物の種類とを、選択することで、活性水素含有化合物がアリル化された形の様々な生成物を得ることができる。中でも、活性水素含有化合物がアルコール類やフェノール類である場合には、それぞれアリルアルキルエーテルやアリルフェニルエーテルが生成され、合成化学的に有用な素反応の一つとなっている。
【0004】
しかしながら、π−アリル錯体と活性水素含有化合物との反応例としてカルボン酸アニオンの場合(例えば、プロピレンと酢酸との反応)は、一般的によく知られているものの、他の基質との反応例(フェノールやアルコールから導かれるフェノラートアニオン、アルコラートアニオンの場合)は、反応性の低さのため、あまり利用されていない。
【0005】
例えば、フェノール類との反応例としては、以下の非特許文献2に記載されているように、トリフェニルホスファイト等のトリアリール型の単座のホスファイト配位子を持つパラジウム触媒系によるアリルフェニルエーテル類の合成例が知られているが、活性としては十分とはいえない。
【0006】
また、以下の特許文献1には、特殊な多座ホスファイト化合物を用いて、フェノール類やアルコール類のような酸素求核剤と反応させる例も知られているが、特殊な配位子を必要とする上に、反応活性も十分ではない。
【0007】
以下の特許文献2には、パラジウム又はプラチナ触媒及び有機リン化合物の存在下でアリルアルコールと多価フェノールとを反応させることが開示されているが、収量が低く、且つ触媒効率が十分ではない。
【0008】
以下の特許文献3には、モリブデン、タングステン又はVIII族金属、及びトリフェニルホスフィンの存在下、フェノール、チオフェノール、及びアリールアミンを、炭酸アリルと反応させてアリルエーテルを生成することが開示されているが、工業的に高価な炭酸アリルを使用する必要がある。
【0009】
以下の非特許文献3には、酢酸アリルを基質に用いた場合に、室温−24時間でパラジウム触媒及びアルミナ/KF支持体の存在下で、フェノールと反応させフェニルアリルエーテルが得られること(収率84%)が開示されているが、触媒活性の点で十分ではない。
【0010】
カルボン酸アリルをアリル化剤に用いた場合には、特に副生するカルボン酸が反応性の高い活性水素を有する化合物であるため、アルコール類やフェノール類、アミン類を基質に用いて、高い転化率を得ることは難しかった。この問題を回避するために、以下の特許文献4では、大過剰の炭酸アルカリ金属塩を用いて、生成する酢酸を酢酸塩として系外に出すことにより高転化率を得ているが、このような系では酢酸を回収することが困難になるばかりでなく、使用したアルカリ金属の生成物への混入が避けられず、特に電気絶縁用途に使用する場合に問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−107339号公報
【特許文献2】特開平5−306246号公報
【特許文献3】米国特許第4507492号公報
【特許文献4】特表平10−511721号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「Palladium Reagents and Catalysts−Innovations in Organic Synthesis」John Wiley & Sons社出版
【非特許文献2】Organometallics,1995,14,p4585
【非特許文献3】J.Organometallic Chem.,Vol.326,C23−C24(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、反応効率の高いアリルエーテルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討し、実験を重ねた結果、工業的にプロピレンとカルボン酸を反応させて容易に得ることができるカルボン酸アリルエステルをアリル化剤に用いてフェノール、アルコールのような活性水素を有する化合物と反応させることにより効率よくアリルエーテルを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0015】
[1]以下の:
遷移金属触媒、錯化剤、及び3級アミン化合物の存在下、ヒドロキシル基を含有する化合物とカルボン酸アリルエステル化合物とを反応させる工程、
を含むアリルエーテルの製造方法。
[2]前記反応工程において、反応系中に水を存在させて、有機相と水相とが二相分離した状態で、反応させる、前記[1]に記載のアリルエーテルの製造方法。
【0016】
[3]前記3級アミン化合物の3級アミン基の濃度が、前記ヒドロキシル基を含有する化合物のヒドロキシル基を基準として、0.1〜20モル当量の範囲内にある、前記[1]又は[2]に記載のアリルエーテルの製造方法。
【0017】
[4]前記3級アミン化合物の3級アミン基の濃度が、前記ヒドロキシル基を含有する化合物のヒドロキシル基を基準として、1〜10モル当量の範囲内にある、前記[3]に記載のアリルエーテルの製造方法。
【0018】
[5]前記カルボン酸アリルエステル化合物のアリル基の濃度が、前記ヒドロキシル基を含有する化合物のヒドロキシル基を基準として、0.8〜50モル当量の範囲内にある、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のアリルエーテルの製造方法。
【0019】
[6]前記カルボン酸アリルエステル化合物のアリル基の濃度が、前記ヒドロキシル基を含有する化合物のヒドロキシル基を基準として、1〜5モル当量の範囲内にある、前記[5]に記載のアリルエーテルの製造方法。
【0020】
[7]前記遷移金属触媒が、白金族の金属触媒である、前記[1]〜[6]のいずれかに記載のアリルエーテルの製造方法。
【0021】
[8]前記遷移金属触媒が、担体に担持されているものである、前記[1]〜[7]のいずれかに記載のアリルエーテルの製造方法。
【0022】
[9]前記遷移金属触媒が活性炭に対して0.1〜20質量%のパラジウムを担持した触媒である、前記[8]に記載のアリルエーテルの製造方法。
【0023】
[10]前記錯化剤が、有機モノホスフィン、有機ジホスフィン、及び有機亜リン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記[1]〜[9]のいずれかに記載のアリルエーテルの製造方法。
【0024】
[11]前記錯化剤がトリフェニルホスフィン及びトリエチルホスファイトから成る群から選ばれる少なくとも1種である、前記[10]に記載のアリルエーテルの製造方法。
【0025】
[12]前記ヒドロキシル基を含有する化合物が、ビスフェノールA、ビスフェノールF、p,p’-ビフェノール、3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4'-ジオール、フェノール−ノボラック、クレゾール−ノボラック、炭化水素−ノボラック及びトリスフェノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記[1]〜[11]のいずれかに記載のアリルエーテルの製造方法。
【0026】
[13]前記カルボン酸アリルエステル化合物が、酢酸アリルである、前記[1]〜[12]のいずれかに記載のアリルエーテルの製造方法。
【0027】
[14]前記カルボン酸アリルエステル化合物が、二価の芳香族カルボン酸ジアリルエステルである、前記[1]〜[12]のいずれかに記載のアリルエーテルの製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明のアリルエーテルの製造方法によれば、工業的に入手容易なカルボン酸アリルエステルを用い、アルカリ金属やハロゲンを使用せずに、工業的に重要な中間体であるポリアリルエーテルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のアリルエーテルの製造方法について詳細に説明する。
本発明のアリルエーテルの製造方法は、遷移金属触媒、錯化剤、及び3級アミン化合物の存在下、ヒドロキシル基を含有する化合物とカルボン酸アリルエステル化合物とを反応させることを特徴とする。本発明のアリルエーテルの製造方法においては、好ましくは、反応系中に水を存在させて有機相と水相が二相分離した状態で、反応させる。
【0030】
本発明で用いるカルボン酸アリルエステル化合物は、酢酸アリルやプロピオン酸アリル、安息香酸アリル、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリルのようなカルボン酸のアリルエステルである。これらの中でも酢酸アリル、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリルが好ましい。二価の芳香族カルボン酸ジアリルエステルであるフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリルを用いると、生成したジカルボン酸が固形になり、逆反応が起こりにくいので反応速度も早く、しかも副反応物が濾過により回収し易い点で、好ましい。また、工業的には酢酸アリルが、安価に得られるため、最も好ましい。
【0031】
これらのカルボン酸アリルエステル化合物のアリル基の濃度は、フェノール、アルコール含有化合物のようなヒドロキシル基含有化合物中に含まれるヒドロキシル基を基準として、好ましくは0.5〜500モル当量、より好ましくは0.8〜50モル当量、さらに好ましくは1〜5モル当量である。1モル当量より大きい比率では、溶媒と兼用とすることもできる。500モル当量を超えると、反応速度が遅くなり余剰のカルボン酸アリルを回収、循環使用するためのエネルギーコストがかかり、好ましくなく、一方、0.5モル当量未満であると、所望の生成物への転化率が非常に低く、未反応のヒドロキシル基含有化合物を回収する必要があるため、好ましくない。
【0032】
本発明に用いられるヒドロキシル基を含有する化合物は、1分子当たり少なくとも1個のヒドロキシル基を含有する。また、この後に種々の誘導体への展開を考えれば、1分子当たり複数個のヒドロキシル基を含有したほうが好ましい。このようなヒドロキシル基を含有する化合物の例としては、モノ−、ジ−又は多官能脂肪族、脂環族又は芳香族ヒドロキシル基含有化合物の1種、このような化合物のあらゆる組合せが挙げられる。
【0033】
ヒドロキシル基を含有する化合物は、好ましくは脂肪族、脂環式又は芳香族化合物であり、これらの中でも芳香族ヒドロキシル基含有化合物が好ましく、例えばフェノール、クレゾール、カテコール、レゾルシノール、ビスフェノールA(p,p’−イソプロピリデンジフェノール)、ビスフェノールF(p,p’−メチレンジフェノール)、ビスフェノールK(p,p’−ジフェノールカルボニル)、ジヒドロキシメチルスチルベン、ジヒドロキシビフェニル、テトラメチルジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、メタン型トリスフェノール類、トリスフェノール類、フェノール−アルデヒドノボラック樹脂、アルキル置換フェノール−アルデヒドノボラック樹脂、ポリにビニルフェノールのいずれか1種又はそれらのあらゆる組合せが挙げられる。特に好ましい芳香族ヒドロキシル基含有化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、p,p’-ビフェノール、3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4'-ジオール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、フェノール−ノボラック、クレゾール−ノボラック、炭化水素−ノボラック、トリスフェノール、フェノール−ホルムアルデヒドノボラック樹脂、クレゾール−ホルムアルデヒドノボラック樹脂が挙げられる。
【0034】
脂肪族ヒドロキシル基を含有する化合物としては、1級のヒドロキシル基を含有する化合物が好ましく、例えばn-プロパノール、n-ブタノール、n-ヘキサノール、n-オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペタエリスリトール、ソルビトール、平均分子量が106〜50,000、好ましくは106〜5,000、さらに好ましくは106〜2,500のポリオキシアルキレングリコール、ポリグリセリン、アリルアルコール、メタリルアルコール、ベンジルアルコール、それらのあらゆる組合せが挙げられる。
【0035】
脂環式ヒドロキシル基含有化合物としては、例えばシクロペンタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、5−ノルボルネン−2−メタノール、ジヒドロキシシクロヘキサン、ノルボルナンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジシクロペンタジエンジオール、ビニルシクロヘキセン誘導ジオール、トリシクロデカンジメタノール、それらのあらゆる組合せが挙げられる。
【0036】
反応促進剤である3級アミン化合物としては、トリメチルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、N-ブチルジメチルアミン、N,N-ジメチルイソプロピルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリ-n-ペンチルアミン、トリイソアミルアミン、N,N-ジメチル-n-オクチルアミン、トリ-n-オクチルアミン、トリ-(2-エチルヘキシル)アミン、N-エチルジイソプロピルアミンなどが挙げられる。これらの中でも反応活性、精製工程での分離のし易さの観点から、沸点が50℃〜200℃の範囲の3級アミンが好ましく、このようなものとしてはN,N-ジエチルメチルアミン、N-ブチルジメチルアミン、N,N-ジメチルイソプロピルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミンが挙げられる。
【0037】
3級アミン化合物の3級アミン基の濃度は、前記ヒドロキシル基を含有する化合物のヒドロキシル基を基準として、好ましくは0.1〜20モル当量、より好ましくは0.5〜10モル当量、さらに好ましくは1〜10モル当量の範囲である。使用量があまりに少ないと反応速度が遅くなるし、あまりに多すぎても基質濃度が低くなるために、反応速度はやはり遅くなる。
【0038】
本発明のアリルエーテル化合物の製造方法は、遷移金属触媒の存在下で実行する。好適な触媒は、例えばロジウム、ルテニウム、レニウム、パラジウム、イリジウム、タングステン、モリブデン、クロム、コバルト、白金、ニッケル、銅、オスミウム、鉄を、遊離金属又は錯体として非酸化状態で、あるいはそれらの塩、例えばカルボン酸塩、ハロゲン化物、酸化物、硝酸塩又は硫酸塩として酸化状態で含有する。より好ましい触媒は、白金族のもので、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、又はオスニウムを含有する。最も好ましい触媒は、パラジウム触媒である。
【0039】
これらの遷移金属触媒の形態は、酢酸塩、塩化物、硝酸塩又は硫酸塩のような塩か又は炭素、木炭、活性炭、シリカ、アルミナ、オルガノゾルゲル、ゼオライト、クレー等の担体に担持して用いることができる。特に反応液との分離を考えると、遷移金属触媒は、担体に担持した形態で用いることが好ましい。最も好ましくは、遷移金属触媒が活性炭に対して0.1〜20質量%のパラジウムを担持した触媒である。
【0040】
触媒の使用量としては、ヒドロキシル基を含有する化合物中に含まれるヒドロキシル基1当量当たり、金属原子として1/1,000,000〜1/10、好ましくは1/10,000〜1/50、さらに好ましくは1/5,000〜1/100の比率である。
【0041】
触媒を担持して、不均一触媒として用いる場合、反応は、必要に応じて、固定床で又は液体反応混合物中に懸濁されて、実行することができる。
【0042】
錯化剤は、好ましくは金属触媒の活性を安定化し、且つ増強するための配位子として作用させるために用いる。反応混合物に添加する前に錯化剤で触媒を錯化するか、又は触媒及び錯化剤を別々に反応混合物に添加することにより触媒錯体をその場(in situ)で生成し得る。
【0043】
好適な錯化剤としては、例えば有機モノホスフィン、有機ジホスフィン、有機亜リン酸エステル、有機スチビン、オキシム、有機アルシン、ジアミン、ジカルボニル化合物が挙げられる。特に適切な錯化剤としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリ-(o,m,p-)トリルホスフィン、トリス-p-メトキシフェニルホスフィン、トリシクロへキシルホスフィン、トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィノスチレン、及びその重合体、トリフェニルホスファイト、トリエチルホスファイト、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルホスフィノエタンが挙げられる。より好ましい錯化剤としては、トリ-(o,m,p-)トリルホスフィン、トリフェニルホスフィン及びジフェニルホスフィノエタンが挙げられ、その中でもトリフェニルホスフィン及び/又はトリエチルホスファイトが最も好ましい。トリエチルホスファイトは反応系から蒸留により留去可能である点でも好ましい。また、水溶性錯化剤、例えばスルホン化トリフェニルホスフィンも用いることができ、この種の配位子は水溶性で有機生成物層から容易に洗出/分離されるという利点を有する。
【0044】
錯化剤は、遷移金属触媒1モルに対して、好ましくは0.1〜1000倍モル、より好ましくは1〜100倍モル、さらに好ましくは2〜50倍モルで用いる。
【0045】
反応温度としては、好ましくは0℃〜200℃、より好ましくは25℃〜150℃の温度で、さらに好ましくは50℃〜110℃の範囲で実施する。反応温度が高いと特に芳香族のヒドロキシ化合物の場合には、クライゼン転移等の副反応が起こり易くなるし、反応温度が低いと反応速度が遅くなる。反応系の沸点以上で反応を行う場合には、オートクレーブのような密閉容器で反応を行うこともできる。
【0046】
反応雰囲気としては、大気雰囲気でも反応を実施することができるが、遷移金属触媒を使用するために発火の恐れもあるため、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で行うことが望ましい。
【0047】
本発明のアリルエーテルの製造方法においては、反応系は水を含まない単層系でも反応は進行するが、水相及び有機相を含有する二相系で行うことが好ましい。特に原料のヒドロキシル基含有化合物の水への溶解度が低い場合には、副生物の酢酸を水層に抽出できるので、水相を存在させることの効果は大きい。有機相としては、原料のフェノールと、アルコール含有化合物とカルボン酸アリル化合物と、必要に応じて溶媒とを用いる。好ましくは、混合物を激しく攪拌して水相と有機相とを互いに密接に接触させる。水相対有機相の質量比は、好ましくは9:1〜1:9である。
【0048】
本発明の方法において粘度調整等のために用いることができ溶媒としては、例えば酸素含有炭化水素(例えば2級、3級アルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、エステル、ケトン)が挙げられる。その他の溶媒としては、ニトロアルカン、シアノアルカン、アルキルスルホキシド、アミド、芳香族又は脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素が挙げられ、これらを1種又は2種以上組合せて使用してもよい。
【0049】
特に適切な溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、テトラヒドロフラン、イソプロパノール、t−ブタノール、t−アミルアルコール、グライム、それらのあらゆる組合せが挙げられる。これらの中でより好ましい溶媒は、イソプロパノール、t−ブタノール、t−アミルアルコール、アセトニトリル、トルエン、1,2−ジクロロエタンであり、これらを1種又は2種以上組合せて使用してもよい。
【0050】
溶媒は、ヒドロキシル基を含有する化合物の質量を基準にして、好ましくは0.5〜100質量部、より好ましくは1〜20質量部、さらに好ましくは2〜10質量部の範囲である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ制限されるものではない。
【0052】
(実施例1)
200mlのナス型フラスコに、ビスフェノール−A(三井化学(株)製)10.0g(43.8mmol)、50%含水5%-Pd/C-STDタイプ(エヌ・イーケムキャット(株)製)0.093g(0.0438mmol)、トリフェニルホスフィン(北興化学(株)製)0.110g(0.438mmol)、トリエチルアミン(和光純薬(株)製)35.46g(0.35mol)、酢酸アリル(昭和電工(株)製)9.65g(96,4mmol)、及び純水23.7gを入れ、ジムロート冷却管を付け、窒素雰囲気中、85℃で4時間反応させた。反応後、反応液を一部サンプリングし、内標としてアジピン酸ジメチルを用いて、以下の条件でガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビスフェノール−Aの転化率は94.1%、ビスフェノール−Aモノアリルエーテルの収率は56.4%、ビスフェノール−Aジアリルエーテルの収率は38.1%であった。結果を以下の表1に示す。
【0053】
ガススクロ装置:Agilent Technologies 社製 6850GC
カラム:HP-1(膜厚0.25μm×内径320μm×30m)
検出器:水素炎イオン化検出器
注入口温度:300℃
カラム温度:60℃(3min保持)→昇温速度20℃/min→300℃(2min保持)
検出器温度:300℃
サンプル注入量:1.0μL
スプリット比:30.0:1
【0054】
(比較例1)
実施例1におけるトリエチルアミンを仕込まなかった以外は、実施例1と同様に反応を行った。結果を以下の表1に示す。
【0055】
(比較例2)
実施例1における水を仕込まなかった以外は、実施例1と同様に反応を行った。結果を以下の表1に示す。
【0056】
(比較例3)
実施例1における水の代わりにイソプロピルアルコールを仕込んだ以外は、実施例1と同様に反応を行った。結果を以下の表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例2)
200mlのナス型フラスコに、ビスフェノール−A(三井化学(株)製)10.0g(43.8mmol)、50%含水5%-Pd/C-STDタイプ(エヌ・イーケムキャット(株)製)0.093g(0.0438mmol)、トリフェニルホスフィン(北興化学(株)製)0.110g(0.438mmol)、トリエチルアミン(和光純薬(株)製)17.75g(0.175mol)、酢酸アリル(昭和電工(株)製)9.65g(96,4mmol)、及び純水23.7gを入れ、ジムロート冷却管を付け、窒素雰囲気中、85℃で4時間反応させた。反応後、実施例1と同様に分析した。結果を以下の表2に示す。
【0059】
(実施例3〜6)
実施例2における酢酸アリルの代わりに、以下の表2に示すジカルボン酸ジアリル化合物をアリルエステルとして等モルになるように仕込んだ以外は、実施例2と同様に反応を行った。結果を以下の表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
(実施例7〜9)
実施例2におけるトリフェニルホスフィンの代わりに、以下の表3に示す化合物を仕込んだ以外は、実施例2と同様に反応させた。結果を以下の表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
(実施例10〜12)
実施例1における純水23.7gの代わりに、以下の表4に示す溶媒・濃度で仕込んだ以外は、実施例1と同様に反応させた。結果を以下の表4に示す。
【0064】
【表4】

溶媒濃度単位:質量%
トルエン−純水=トルエン:純水を1:1の質量比で仕込んだ(実施例12では、総溶媒濃度が46%なので、トルエンと純粋は23%ずつであった)。
【0065】
(実施例13)
実施例1におけるトリエチルアミンの代わりに、ジメチル-n-オクチルアミンを仕込んだ以外は、実施例1と同様に反応させた。結果を以下の表5に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
(実施例14〜15)
実施例2におけるビスフェノール−Aの代わりに、表6に示すジフェノール化合物を仕込んだ以外は、実施例2と同様に反応させた。結果を以下の表6に示す。
【0068】
【表6】

【0069】
(実施例16)
200mlのナス型フラスコに、クレゾールノボラック樹脂CRG-951(昭和高分子(株)製)10.0g、50%含水5%-Pd/C-STDタイプ(エヌ・イーケムキャット(株)製)0.180g(0.0424mmol)、トリフェニルホスフィン(北興化学(株)製)0.222g(0.847mmol)、トリエチルアミン(和光純薬(株)製)17.15g(0.169mol)、酢酸アリル(昭和電工(株)製)9.33g(93.2mmol)、及び純水15.8gを入れ、窒素雰囲気中、85℃で4時間反応させた。反応後、一部サンプリングし、酢酸エチルで希釈後、純水で洗浄液が中性になるまで洗浄後、酢酸エチルを留去し、JIS K0070に準拠して水酸基価を求め水酸基当量(水酸基当量=56100/水酸基価)を算出した。水酸基当量が原料の118から1753まで増加しており、アリルエーテル化されていた。
【0070】
(実施例17)
200mlのナス型フラスコに、メタン型トリスフェノール類NCR-231(昭和高分子(株)製)10.0g、50%含水5%-Pd/C-STDタイプ(エヌ・イーケムキャット(株)製)0.201g(0.0472mmol)、トリフェニルホスフィン(北興化学(株)製)0.247g(0.943mmol)、トリエチルアミン(和光純薬(株)製)19.1g(0.189mol)、酢酸アリル(昭和電工(株)製)10.4g(0.104mol)、及び純水17.1gを入れ、窒素雰囲気中、85℃で4時間反応させた。反応後、一部サンプリングし、酢酸エチルで希釈後、純水で洗浄液が中性になるまで洗浄後、酢酸エチルを留去し、実施例16と同様に水酸基当量を測定した。水酸基当量が原料の106から1305まで増加しており、アリルエーテル化されていた。
【0071】
(実施例18)
東京理化機械のパーソナル有機合成装置(ケミステーション) PPS-5511を用いて、フェノール1.00g(10.6mmol)、5%-Pd/C STDタイプ(エヌ・イーケムキャット(株)製)0.0226g(0.0106mmol)、トリフェニルホスフィン(北興化学(株)製)0.0279g(0.106mmol)、トリエチルアミン(和光純薬(株)製)2.150g(21.3mmol)、酢酸アリル(昭和電工(株)製)1.170g(11.7mmol)、及び純水0.486gを入れ、ジムロート冷却管を付け、窒素雰囲気中、加熱装置を105℃にセットして4時間反応させた。反応後、反応液を一部サンプリングし、内標としてアジピン酸ジメチルを用いて、実施例1と同様の条件でガスクロマトグラフィーにより分析したところ、フェノールの転化率は42.3%、フェニルアリルエーテルの収率は41.9%、選択率は99.1%であった。
【0072】
(実施例19)
実施例18のトリフェニルホスフィンの代わりに、表7に示す有機リン化合物(トリエチルホスファイト(城北化学工業(株)製))を用いた以外、同様な反応を行った。結果を以下の表7に示す。
【0073】
(実施例20)
純水を使用しない以外、実施例19と同様な反応を行った。フェノールの転化率は45.3%であり、アリルフェニルエーテルの収率は43.0%、選択率は94.9%であった。
【0074】
(実施例21)
実施例18のフェノールの代わりに、ベンジルアルコールを用いた以外、同様な反応を行った。結果を以下の表7に示す。
【0075】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の:
遷移金属触媒、錯化剤、及び3級アミン化合物の存在下、ヒドロキシル基を含有する化合物とカルボン酸アリルエステル化合物とを反応させる工程、
を含むアリルエーテルの製造方法。
【請求項2】
前記反応工程において、反応系中に水を存在させて、有機相と水相とが二相分離した状態で、反応させる、請求項1に記載のアリルエーテルの製造方法。
【請求項3】
前記3級アミン化合物の3級アミン基の濃度が、前記ヒドロキシル基を含有する化合物のヒドロキシル基を基準として、0.1〜20モル当量の範囲内にある、請求項1又は2に記載のアリルエーテルの製造方法。
【請求項4】
前記3級アミン化合物の3級アミン基の濃度が、前記ヒドロキシル基を含有する化合物のヒドロキシル基を基準として、1〜10モル当量の範囲内にある、請求項3に記載のアリルエーテルの製造方法。
【請求項5】
前記カルボン酸アリルエステル化合物のアリル基の濃度が、前記ヒドロキシル基を含有する化合物のヒドロキシル基を基準として、0.8〜50モル当量の範囲内にある、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアリルエーテルの製造方法。
【請求項6】
前記カルボン酸アリルエステル化合物のアリル基の濃度が、前記ヒドロキシル基を含有する化合物のヒドロキシル基を基準として、1〜5モル当量の範囲内にある、請求項5に記載のアリルエーテルの製造方法。
【請求項7】
前記遷移金属触媒が、白金族の金属触媒である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のアリルエーテルの製造方法。
【請求項8】
前記遷移金属触媒が、担体に担持されているものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のアリルエーテルの製造方法。
【請求項9】
前記遷移金属触媒が活性炭に対して0.1〜20質量%のパラジウムを担持した触媒である、請求項8に記載のアリルエーテルの製造方法。
【請求項10】
前記錯化剤が、有機モノホスフィン、有機ジホスフィン、及び有機亜リン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のアリルエーテルの製造方法。
【請求項11】
前記錯化剤がトリフェニルホスフィン及びトリエチルホスファイトから成る群から選ばれる少なくとも1種である、請求項10に記載のアリルエーテルの製造方法。
【請求項12】
前記ヒドロキシル基を含有する化合物が、ビスフェノールA、ビスフェノールF、p,p’-ビフェノール、3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4'-ジオール、フェノール−ノボラック、クレゾール−ノボラック、炭化水素−ノボラック及びトリスフェノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜11のいずれか1項に記載のアリルエーテルの製造方法。
【請求項13】
前記カルボン酸アリルエステル化合物が、酢酸アリルである、請求項1〜12のいずれか1項に記載のアリルエーテルの製造方法。
【請求項14】
前記カルボン酸アリルエステル化合物が、二価の芳香族カルボン酸ジアリルエステルである、請求項1〜12のいずれか1項に記載のアリルエーテルの製造方法。

【公開番号】特開2011−26253(P2011−26253A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174605(P2009−174605)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】