説明

アリル化合物の異性化方法

【課題】触媒を用いるアリル化合物の異性化方法において、触媒劣化を抑え、少量の触媒使用量で高い収率で異性体を得ることを可能とする工業的に有利なアリル化合物の異性化方法を提供する。
【解決手段】触媒の存在下、原料アリル化合物に対応するアリル化合物に異性化する方法であって、触媒による異性化の前に原料アリル化合物の含有液を有機リン化合物と接触させることを特徴とする異性化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリル化合物の異性化方法に関し、より詳細には、異性化により、3,4−ジアセトキシアリル化合物から、対応する化合物である1,4−ジアセトキシアリル化合物を生成させることを特徴とする異性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリル化合物は有機合成化学の重要な出発物質であり、様々な反応により目的生成物へ変換されているが、特にジアセトキシアリル化合物は特徴有る骨格を有することから様々な物質への変換が可能な化合物であるだけでなく、加水分解によりジオール類製造が可能な重要中間体である。そのため、各種ジアセトキシアリル化合物の製造プロセスの開発が行われてきた。例えば、ロジウム固体触媒を用いたブタジエンのジアセトキシ化反応によるジアセトキシアリル化合物の製造法が報告されている(特許文献1)。ジアセトキシアリル化合物を製造するための共役ジエン類のジアセトキシ化反応は、固体触媒の存在下、収率良く進行することが多いが、アセトキシ基が付与する位置を完全に制御できないのが現状である。特に1,4−ブタンジオールの原料となる1,4−ジアセトキシ−2−ブテン製造反応では、1,4−ブタンジオールへと変換できない3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが副生してしまう。そのため1,4−ブタンジオール製造プロセスにおいて、原料であるブタジエンのコストを押し上げていた。
【0003】
そのため、この副生する3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを異性化して1,4−ジアセトキシ−2−ブテンなど1,4−ジアセトキシアリル化合物を生成する方法が開発されてきた。例えば、ホスファイト配位子を有するパラジウム錯体触媒を用いて、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンから1,4−ジアセトキシ−2−ブテンへの異性化反応が報告されている(特許文献2)。また、パラジウム錯体触媒とホスファイト配位子に加えて、更にホスホニウム化合物を添加することで、より活性の高い異性化触媒が報告されている(特許文献3)。しかしながら、これらジアセトキシアリル化合物の異性化方法では触媒の劣化が著しく、多量の触媒を用いる必要があった。
【0004】
この触媒劣化の原因として、ジアセトキシアリル化合物中に含有される触媒劣化成分が考えられ、その触媒劣化成分を、固体塩基を用いて除去する方法が報告されている(特許文献4)。しかしながら、この方法では、固体塩基が触媒劣化成分以外にも幾つかの酸性成分を吸着してしまうことから多量の固体塩基を必要とするため、工業的に有利で、効率よく触媒劣化成分を除去、あるいは無害化できる方法が求められてきた。
【特許文献1】特開平11−71327号公報
【特許文献2】特開2002−105025号公報
【特許文献3】特開2004−115506号公報
【特許文献4】特開2006−282564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、触媒を用いるアリル化合物の異性化方法において、触媒劣化を抑え、少量の触媒使用量で高い収率で異性体を得ることを可能とする工業的に有利なアリル化合物の異性化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ジアセトキシアリル化合物液中に含まれる異性化触媒の劣化を著しく促進する成分がリン化合物により除去可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明の要旨は下記[1]〜[13]に存する。
[1]原料のアリル化合物を含有する液をリン化合物と接触させた後、触媒の存在下で前記アリル化合物を異性化することを特徴とする異性化方法。
[2]前記リン化合物が有機リン化合物であることを特徴とする上記[1]に記載の異性化方法。
[3]前記有機リン化合物が有機ホスフィン類であることを特徴とする上記[2]に記載の異性化方法。
[4]前記有機ホスフィン類が2つ以上のアリール基を有することを特徴とする上記[3]に記載の異性化方法。
[5] 前記有機ホスフィン類がトリフェニルホスフィンであることを特徴とする上記[3]又は[4]に記載の異性化方法。
[6]前記アリル化合物の含有液と接触させるリン化合物の量が、アリル化合物に対して0.0001〜10重量%の範囲内である上記[1]〜[5]のいずれかに記載の異性化方法。
[7]前記アリル化合物の含有液とリン化合物との接触が60℃以上で行われる上記[1]〜[6]のいずれかに記載の異性化方法。
[8]更に、共役ジエン類のジアセトキシ化反応により前記アリル化合物の含有液を得る工程を有することを特徴とする上記[1]〜[7]のいずれかに記載の異性化方法。
[9]前記触媒が液相均一系パラジウム触媒であり、少なくとも一つのP−O結合を有するリン配位子を含有する触媒であることを特徴とする上記[1]〜[8]のいずれかに記載の異性化方法。
[10] 前記P−O結合を有するリン配位子が、2座のホスファイト類であることを特徴とする上記[9]に記載の異性化方法。
[11]前記P−O結合を有するリン配位子が、2座のホスフォラアミダイト類であることを特徴とする上記[9]に記載の異性化方法。
[12] 前記アリル化合物が3,4−ジアセトキシアリル化合物であり、異性化によって前記アリル化合物に対応する化合物である1,4−ジアセトキシアリル化合物を生成することを特徴とする上記[1]〜[11]のいずれかに記載の異性化方法。
[13] [1]〜[12]のいずれかに記載の異性化方法を用いて、アリル化合物から、対応する異性化されたアリル化合物を製造するアリル化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、触媒を用いるジアセトキシアリル化合物の異性化において、少量の触媒の使用で、高収率で異性体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、これらの内容に特定されない。
なお、本発明におけるアリル化合物とは、アリル基を有する化合物、及びアリル基を有する化合物から触媒を用いる異性化によって生成される化合物のことであり、その物質中のアリル位にアセトキシ基、ハロゲン、カルボン酸などの脱離基を有するもの全てを対象とし、特に限定されるものではない。例えば、3,4−ジアセトキシアリル化合物を異性化して得られる化合物を、本発明では、1,4−ジアセトキシアリル化合物とする。また、本発明における異性化方法は、アリル基を有する化合物が異性化によって生成する化合物を、アリル基を有する化合物へ変換する方法も含まれる。
以下の実施態様においては、アリル化合物である3,4−ジアセトキシアリル化合物を異性化によって、対応するアリル化合物である1,4−ジアセトキシアリル化合物を生成する場合を例に説明する。
本発明の「3,4−ジアセトキシアリル化合物を1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化する方法」は、原料である3,4−ジアセトキシアリル化合物を触媒により1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化する方法において、原料の3,4−ジアセトキシアリル化合物を含有する液(以下、3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液と呼ぶ)をリン化合物と接触させた後、触媒の存在下で原料の3,4−ジアセトキシアリル化合物を異性化することを特徴とする。リン化合物を3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液と接触させることで、異性化触媒の劣化を著しく促進する成分がリン化合物により除去可能である。固体塩基に比べ、リン化合物では、プロセスの運転中にその添加量を変化させることが容易であるため、異性化により生成する1,4−ジアセトキシアリル化合物の量を監視しながら、必要最低限の添加量で触媒劣化を抑制することが可能である。また、固体塩基のように、予めプロセス運転開始以前に、所定量の固体塩基を充填させる必要が無いので、使用する量も少なくて済む。
【0009】
「3,4−ジアセトキシアリル化合物を触媒により1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化する方法」とは、例えば「3,4−ジアセトキシアリル化合物を触媒と接触させて1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化して、1,4−ジアセトキシアリル化合物を得る方法」や、「3,4−ジアセトキシアリル化合物と1,4−ジアセトキシアリル化合物の混合物を触媒と接触させて混合物中の3,4−ジアセトキシアリル化合物を1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化し、1,4−ジアセトキシアリル化合物の濃度を上げる方法」、あるいは「3,4−ジアセトキシアリル化合物と1,4−ジアセトキシアリル化合物の混合物を触媒と接触させて混合物中の1,4−ジアセトキシアリル化合物を3,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化し、3,4−ジアセトキシアリル化合物の濃度を上げる方法」が挙げられる。
【0010】
本発明における3,4−ジアセトキシアリル化合物(「3,4−ジアセトキシアリル化合物と1,4−ジアセトキシアリル化合物の混合物」を含む)は、特に限定されないが、触媒の存在下、共役ジエン類のジアセトキシ化反応などにより製造可能である。
ジアセトキシアリル化合物を製造する共役ジエン類のジアセトキシ化反応は様々な方法で実施できる。最も一般的には、パラジウム系触媒の存在下、ブタジエン、酢酸及び酸素を反応させてジアセトキシアリル化合物である1,4−ジアセトキシ−2−ブテン及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを得ることができる。また、それらジアセトキシアリル化合物の加水分解物である1−ヒドロキシ−4−アセトキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテンなども併せて生成する。
【0011】
本発明で使用可能な共役ジエン類として例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘプタジエン、1,3−シクロオクタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエンなどが挙げられ、好ましくはブタジエン、イソプレン、1,3−シクロヘキサジエン、1,3−シクロペンタジエンであり、特に好ましくはブタジエン、イソプレンである。ブタジエン、イソプレンのような炭素数の少ない共役ジエン類が、最も高い反応活性を示すことが好ましい理由である。共役ジエン類のジアセトキシ化反応に用いる触媒として、共役ジエン類をジアセトキシアリル化合物に変換する能力を有する触媒であれば何でも使用できるが、好ましくは第8〜10族遷移金属を含有する固体触媒であり、特に好ましくはパラジウム固体触媒である。パラジウム固体触媒は、パラジウム金属またはその塩からなり、助触媒としてビスマス、セレン、アンチモン、テルル、銅などの金属またはその塩の使用が好ましく、特に好ましくはテルルである。パラジウムとテルルの組み合わせが好ましい理由は、触媒活性の高さ、及び得られるジアセトキシアリル化合物の選択率の高さである。そのため、パラジウム及びテルルを活性成分として担持する固体触媒であることが好ましい。該パラジウム固体触媒は、特に限定されないが、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、活性炭、グラファイトなどの担体に担持させて使用することが好ましく、特に好ましくは強度的に優れているシリカである。担体の物性として多孔質が好ましく、特にその平均細孔直径が1〜100nmである多孔質が好ましく、5〜80nmである多孔質がより好ましい。担体付触媒の場合、触媒全体に対する触媒金属の割合は通常0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、また、触媒全体に対する他の助触媒金属の割合は0.01〜30重量%、より好ましくは0.1〜10重量%の範囲で選定される。この値が小さすぎると、触媒活性の低下によるコスト競争力が低下し、またこの値が大きすぎると、触媒コストの甚大化による競争力が低下してしまう。
【0012】
ジアセトキシ化反応は空気、または酸素富化された空気、窒素など不活性ガスで希釈された空気または酸素、あるいは酸素雰囲気下で行なうことが好ましく、酸素濃度は1〜100vol%の範囲で差し支えなく、より好ましくは2〜50vol%であり、特に好ましくは3〜40vol%である。酸素濃度が高くなるほど、反応速度が上がり、効率よく生成物を得ることができる。一方で、酸素濃度が低くなるほど、爆発、火災などのプロセスの危険性が少なくなる。
ジアセトキシ化反応は気相、液相のいずれでも行なうことができる。反応温度は0〜300℃の範囲であり、好ましくは10〜250℃、より好ましくは30〜200℃の範囲である。反応温度が高くなるほど、反応速度が上がり、効率よく生成物を得ることができる。一方で、反応温度が低くなるほど、爆発、火災などのプロセスの危険性が少なくなる。反応圧力は大気圧〜50MPaの範囲が好ましく、より好ましくは大気圧〜30MPa、特に好ましくは1〜20MPaである。
【0013】
ジアセトキシ化反応を液相にて行なう場合には、反応に使用する溶媒は反応原料を溶解するものであれば特に制限は無いが、水、または酢酸等のカルボン酸、あるいはブタジエンなど反応原料となる共役ジエン類そのもの、若しくは生成物であるジアセトキシアリル化合物そのものが好ましい。また、溶媒として、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、トリグライムなどのエーテル類;酢酸エチル、酪酸ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;1,4−ブタンジオールなどのアルコール類なども使用可能である。
原料となる共役ジエン類と触媒との重量比は1〜100000000の範囲が好ましく、より好ましくは10〜50000000の範囲であり、特に好ましくは100〜20000000である。重量比が小さくなるほど、反応速度が高くなり、短時間で反応が進みやすい。また、重量比が大きくなるほど、触媒コストが少なくてすむ。
【0014】
また、本発明における「3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液」とは、3,4−ジアセトキシアリル化合物、又は3,4−ジアセトキシアリル化合物と1,4−ジアセトキシアリル化合物の混合物を含む液であれば、特に限定されない。例えば、(1)3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液をリン化合物と接触させる前に、上記触媒による共役ジエン類をジアセトキシ化反応させる工程を設け、そこから得られた反応生成物流そのもの、(2)該反応生成物流から副生物として生成されるジアセトキシアリル化合物よりも軽沸点の化合物(以下、ジアセトキシアリル化合物よりも軽沸点の化合物を、軽沸点化合物類と略する)の一部あるいは全量を蒸留などにより除去したもの、(3)該反応生成物流から副生物として生成される3,4−ジアセトキシアリル化合物よりも高沸点の化合物(以下、3,4−ジアセトキシアリル化合物よりも高沸点の化合物を、高沸点化合物類と略する)の一部あるいは全量を蒸留などにより除去したもの、(4)該反応生成物流から副生物の軽沸点化合物類及び副生物の高沸点化合物類の双方を一部あるいは全量を蒸留などにより除去したもの、のいずれかを、「3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液」とするのが好ましい。中でも、(1)触媒による共役ジエン類のジアセトキシ化反応により得られた反応生成物流そのものを、「3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液」とするのが特に好ましい。「3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液」が上記触媒による共役ジエン類のジアセトキシ化反応により得られた反応生成物流に由来するものである場合は、該含有液中に対応する1,4−ジアセトキシアリル化合物が存在している。また「3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液」は、3,4−ジアセトキシアリル化合物の加水分解物である3,4−ヒドロキシアセトキシアリル化合物、及び/又は3,4−ジヒドロキシアリル化合物を含んでいてもよく、更に1,4−ジアセトキシアリル化合物の加水分解物である1,4−ヒドロキシアセトキシアリル化合物、及び/又は1,4−ジヒドロキシアリル化合物を含んでいてもよい。
【0015】
本発明で使用する「3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液」は、3,4−ジアセトキシアリル化合物、及び1,4−ジアセトキシアリル化合物、低沸点化合物類、及び高沸点化合物類を含有する液を蒸留塔に導入し、塔底より高沸点化合物類、および1,4−ジアセトキシアリル化合物を含有する液を抜き出し、塔上部より3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液を留出させて得ることができる。この際、3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液は塔頂から軽沸点化合物類とともに抜き出すことも可能であり、また3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液を側流から抜き出して、塔頂から軽沸点化合物類を留出させてもよい。なお、このとき、高沸点化合物類のほぼ全量は塔底より抜き出されるが、3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液と共に少量の高沸点化合物類が塔上部、または側流から抜き出される。
【0016】
尚、該蒸留塔の圧力は任意に設定することができるが、蒸留塔のリボイラーに使うエネルギーコストの観点から、塔底温度を低くするために、塔頂圧力を1〜760mmHgとすることが好ましい。また、より好ましくは塔頂圧力が5〜200mmHgであり、特に好ましくは10〜100mmHgの範囲である。この塔頂圧力が低すぎると、圧力を保つために多大なコストが必要となり、さらに蒸留塔そのものが大きなものとなり、プロセスの建設コストが増大してしまう。また、塔頂圧力が高すぎる場合には、蒸留塔の塔底温度が高くなり、蒸気コストが増大してしまう。塔頂温度は通常0〜200℃以下であり、好ましくは20〜160℃、より好ましくは40〜140℃の範囲である。塔頂温度が低すぎると冷却器など特殊な装置が必要となりコスト悪化となる。また温度が高すぎると、塔底温度もより高い温度となるために、蒸気コストが増大してしまう。還流比は1〜100で差し支えなく、好ましくは1〜10である。還流比が小さすぎると、分離能の悪化を引き起こし、還流比が高すぎると必要な熱量が増大し、コスト悪化原因となる。塔頂の留出量は、蒸留塔へ導入した3,4−ジアセトキシアリル化合物、及び1,4−ジアセトキシアリル化合物、及び低沸点化合物類、高沸点化合物類を含有する液のうち、3,4−ジアセトキシアリル化合物と軽沸点化合物類の合計量を留出させることが望ましい。また側流から3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液を留出させ、塔頂から軽沸点化合物類を留出させる場合には、導入液中の3,4−ジアセトキシアリル化合物の含有量分を側流から、導入液中の軽沸点化合物類の含有量分を塔頂から、それぞれ留出させることが好ましい。蒸留塔物質収支は、蒸留塔の塔底から高沸点化合物類、および1,4−ジアセトキシアリル化合物を含有する液を抜き出し、塔頂から軽沸点化合物類を含む3,4−ジアセトキシアリル化合物を留出させる場合で、単位時間あたりの導入流量の重量を100とした場合、単位時間あたりの塔頂留出流量が1〜50、好ましくは5〜30である。その際の塔底からの単位時間あたりの高沸点化合物類および1,4−ジアセトキシアリル化合物を含有する液の抜き出し量は50〜99が好ましく、より好ましくは70〜95である。また蒸留塔の塔底から高沸点化合物類および1,4−ジアセトキシアリル化合物を含有する液を抜き出し、塔頂から軽沸点化合物類を留出させ、側流から3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液を留出させる場合においては、単位時間あたりの導入流量の重量を100とした場合、単位時間あたりの塔頂留出流量が0.1〜30であり、好ましくは1〜20である。また側流からの3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液の留出量は0.9〜50が好ましく、より好ましくは2〜30である。また塔底からの高沸点化合物類および1,4−ジアセトキシアリル化合物を含有する液の単位時間あたりの抜き出し量は20〜99が好ましく、より好ましくは50〜97である。
【0017】
前述の塔頂から得られる軽沸点化合物類を含む3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液は蒸留により軽沸点化合物類を除去した後、異性化反応に供給することも可能である。この場合、軽沸点化合物類の分離蒸留塔にて塔頂から軽沸点化合物類を留出させ、側流を含む塔底部より3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液を抜き出すことができる。
尚、該蒸留塔の圧力は任意に設定することができるが、蒸留塔のリボイラーに使うエネルギーコストの観点から、塔底温度を低くするために、塔頂圧力を1〜760mmHgとすることが好ましい。また、より好ましくは塔頂圧力が5〜400mmHgであり、特に好ましくは10〜200mmHgの範囲である。この塔頂圧力が低すぎると、圧力を保つために多大なコストが必要となり、さらに蒸留塔そのものが大きなものとなり、プロセスの建設コストが増大してしまう。また、塔頂圧力が高すぎる場合には、蒸留塔の塔底温度が高くなり、蒸気コストが増大してしまう。
塔頂温度は通常0〜200℃であり、好ましくは20〜160℃、より好ましくは40〜140℃の範囲である。塔頂温度が低すぎると冷却器など特殊な装置が必要となりコスト悪化となる。また温度が高すぎると、塔底温度もより高い温度となるために、蒸気コストが増大してしまう。還流比は1〜100で差し支えなく、好ましくは1〜10である。還流比が小さすぎると、分離能の悪化を引き起こし、還流比が高すぎると必要な熱量が増大し、コスト悪化原因となる。塔頂の留出量は、蒸留塔へ導入した3,4−ジアセトキシアリル化合物、及び低沸点化合物類を含有する液のうち、軽沸点化合物類の合計量を留出させることが望ましい。蒸留塔物質収支は、蒸留塔の側流を含む塔底部から3,4−ジアセトキシアリル化合物を含有する液を抜き出し、塔頂から軽沸点化合物類を留出させる場合で、単位時間あたりの導入流量重量を100とした場合、単位時間あたりの塔頂留出流量が1〜50、好ましくは5〜45である。その際の側流を含む塔底部からの単位時間あたりの3,4−ジアセトキシアリル化合物を含有する液の抜き出し量は50〜99が好ましく、より好ましくは55〜95である。
【0018】
本発明では3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液をリン化合物と接触させることを特徴とするが、触媒による共役ジエン類のジアセトキシ化反応工程から得られた反応生成物流を「3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液」とする場合には、該反応生成物流を蒸留分離に供する前に、リン化合物と接触させても、共役ジエンのアセトキシ化反応後の反応生成物流を蒸留分離したのち、塔頂から留出させた3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液を接触させても、側流から留出させた3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液を接触させてもよい。接触させる液量が少なく、少ないリン化合物の量で効果を発揮することができることから、塔頂から留出させた該液、または側流から留出させた該液にリン化合物を接触させることが好ましい。
【0019】
使用できる蒸留塔の種類としては、充填塔、棚段塔などが挙げられるが、棚段塔が好ましい。3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液と1,4−ジアセトキシアリル化合物含有液を分離するには、蒸留塔理論段を3段以上、特に10〜50段とするのが好ましい。50段を越える蒸留塔は、蒸留塔建設の経済性、運転難易度、及び安全管理のためには好ましくない。また段数が小さすぎると分離が困難となる。
【0020】
本発明の異性化反応に用いる3,4−ジアセトキシアリル化合物とは、具体的には3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2,3−ジメチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロヘキセン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロペンテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロヘプテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロオクテンが好ましく、より好ましくは3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロヘキセン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロペンテンであり、特に好ましくは1,4−ブタンジオールの中間体である1,4−ジアセトキシ−2−ブテンへと転換できる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンである。また、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解物である3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテンなどの異性化反応においても、本発明の異性化方法は適用可能である。
【0021】
また本発明で3,4−ジアセトキシアリル化合物の異性化により得られる1,4−ジアセトキシアリル化合物は、異性化前の3,4−ジアセトキシアリル化合物に対応する異性体である。異性体である1,4−ジアセトキシアリル化合物としては、具体的には、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−メチル−2−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2、3−ジメチル−2−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−シクロヘキセン、1,4−ジアセトキシ−2−シクロペンテン、1,4−ジアセトキシ−2−シクロヘプテン、1,4−ジアセトキシ−2−シクロオクテンが好ましく、1,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−メチル−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−3−メチル−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−1−シクロヘキセン、1,4−ジアセトキシ−1−シクロペンテンであり、特に好ましくは1,4−ブタンジオールの中間体である1,4−ジアセトキシ−1−ブテンである。
【0022】
本発明では3,4−ジアセトキシアリル化合物の異性化反応を行う際に、種々の溶媒を使用することが可能である。溶媒は特に限定されないが、具体的には蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのカルボン酸類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールなどのアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリグライムジメチルエーテルなどのエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの炭化水素類などの有機溶媒が使用可能である。好ましくは蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのカルボン酸類であり、特に好ましくはアセトキシ基の異性化速度を向上する酢酸である。酢酸が溶媒として好ましいのは、異性化速度の向上に寄与する、反応液中のアセトキシ基濃度、すなわち酢酸濃度が高くなるからである。
【0023】
溶媒の添加量はジアセトキシアリル化合物に対して重量%で0〜10000wt%が好ましく、より好ましくは0.05〜500wt%であり、特に好ましくは1〜200wt%である。溶媒の添加量が少ないほど、反応器の容量が少なくてすみ、添加量が多いほど、触媒劣化の速度が低くなる傾向がある。
【0024】
本発明で3,4−ジアセトキシアリル化合物の異性化に使用される触媒は3,4−ジアセトキシアリル化合物を1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化する能力を有していれば特に限定されるものではないが、液相均一系錯体触媒であり、好ましくは第8〜10族遷移金属の均一系錯体触媒であり、特に好ましくはアセトキシ異性化速度に特に高い活性を示す液相均一系パラジウム錯体触媒である。
【0025】
該液相均一系錯体触媒は種々の遷移金属から調製することが可能であるが、具体的には酢酸塩、アセチルアセトネート化合物、塩化物、臭化物、ヨウ素化物、硫酸塩、硝酸塩、有機塩、無機塩、オレフィン配位化合物、一酸化炭素配位化合物、ホスフィン配位化合物、ホスファイト配位化合物などが挙げられる。
【0026】
液相均一系錯体触媒として、好ましくはパラジウム金属、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、ジクロロシクロオクタジエンパラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトネート、酢酸ニッケル、ジシクロオクタジエンニッケル、酢酸プラチナ、ジシクロオクタジエンプラチナなどであり、特に好ましくは安価なパラジウム源である酢酸パラジウム、塩化パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウムである。本発明に於いては上述した金属化合物の形態には特に限定されず、活性な錯体触媒が単量体、2量体、及び/または多量体であってもよい。
また本発明において、該液相均一錯体触媒の配位子としてはリン化合物を用いることができる。例えば、ホスフィン類、ホスファイト類、ホスホナイト類、ホスフィナイト類、ホスフォラアミダイト類など、リン配位子であれば特に限定されずに使用することが可能である。これらの配位子は単座であっても、多座であっても良い。配位子として好ましくはP−O結合を有するリン化合物であり、特にホスファイト類、ホスフォラアミダイト類であり、特に2座のホスファイト類、ホスフォラアミダイト類が好ましい。理由として、π−アリル中間体を経由する異性化反応では、電子密度の低い配位子が反応速度向上を促進するので、電子密度の低いP−O結合を有するリン化合物が好ましい。なお、本発明では、通常1種類の配位子を用いるが、2種以上のリン配位子を併用することもできる。また必要に応じ、本発明の効果を著しく阻害しない範囲で、他の配位子を併用してもよい。
【0027】
本発明でP−O結合を有するリン化合物を配位子として使用する場合は、下記一般式(1)〜(5)及び式(6−1)〜(6−7)で示される化合物が挙げられる。なお、本発明では、通常1種類の配位子を用いるが、2種以上のリン配位子を併用することもできる。また必要に応じ、本発明の効果を著しく阻害しない範囲で、他の配位子を併用してもよい。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
上記式(1)〜(5)において、X〜X’’’は(X1)〜(X5)のいずれかから選ばれ、Y〜Y’’’ は(Y1)〜(Y5)のいずれかから任意に選ぶことができる。
上記の(X1)〜(X5)、(Y1)〜(Y5)及び(6−1)〜(6−7)において、R、R’、及びR〜R54は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、又はアリール基を表し、更に置換基を有していても良い。R、R’、及びR〜R54としてアルキル基の場合、又はアルキル骨格を有する置換基(アルキルアリーロキシ基中のアルキル基等)の場合には、その炭素数は通常1〜20であり、好ましくは1〜14である。具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等である。また、アルキル基又はアルキル骨格部分は更に置換基を有していてもよく、置換基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリ‐ル基、アミノ基、シアノ基、炭素数2〜10のエステル基、ヒドロキシ基、及びハロゲン原子が挙げられる。
また、R、R’、及びR〜R54としてアリール基の場合、又はアリール骨格を有する置換基の場合には、その炭素数は通常6〜20であり、好ましくは6〜14である。アリール基又はアリール骨格部分は更に置換基を有していても良い。前記置換基として、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数6〜20のアルキルアリール基、炭素数6〜20のアルキルアリーロキシ基、炭素数6〜20のアリールアルキル基、炭素数6〜20のアリールアルコキシ基、シアノ基、エステル基、ヒドロキシ基およびハロゲン原子が挙げられる。
【0031】
R、R’、及びR〜R54がアリール基である場合の具体例としてフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3‐ジメチルフェニル基、2,4‐ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2‐t‐ブチルフェニル基、2,4−ジ−t−ブチルフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,3−ジクロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、4−ニトロフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基、及び下記の基(C−1)〜(C−8)が挙げられる。
【0032】
【化3】

【0033】
式(1)〜(5)、及び(Y1)〜(Y5)において、A〜A’’、及びA〜Aはそれぞれ独立して置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していても良い炭素数6〜30のアリーレン基、又はAr−(Q−Arなる真中に二価の連結基を有していても良いジアリーレン基(但しAr及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していても良い炭素数6〜18のアリーレン基を表す)を表す。
【0034】
式(6−1)〜(6−7)において、T〜Tはそれぞれ独立して、炭素原子、アルカンテトライル基、ベンゼンテトライル基、又はT−(Q−Tで表される置換基を有していても良い四価の基であり、T及びTはそれぞれ独立してそれぞれ独立し
て、炭素数1〜10のアルカントリイル基、及び炭素数6〜15のベンゼントリイル基から選ばれる置換基を有していても良い三価の基を表す。Q及びQはそれぞれ独立して、−CR5556−、−O−、−S−、−CO−を表し、nは0又は1であり、R55及びR56は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基であり、置換基を有していても良い。
【0035】
またA〜A’’、及びA〜Aがアルキレン基の場合、例えばテトラメチルエチレン基、ジメチルプロピレン基等が挙げられる。また、A〜A’’、及びA〜Aが置換基を有しても良いアルキレン基の場合には、置換基として炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。またA〜A’’、及びA〜Aが置換基を有していても良いアリーレン基の場合には、例えばフェニレン基やナフチレン基等が挙げられ、置換基として炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。
【0036】
更に、A〜A’’、及びA〜AがAr‐(Q‐Arなる真中に二価の連結基を有していても良いジアリ‐レン基の場合、Ar及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していても良い炭素数6〜18のアリーレン基であり、該アリーレン基の炭素数は6〜24、更には6〜16が好ましい。好ましい置換基の具体例として、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。
【0037】
またA〜A’’、及びA〜Aの具体例として、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−CH(CH)−CH(CH)−、−CH(CH)CHCH(CH)−、−C(CH−C(CH−、−C(CH−CH−C(CH−、及び下記の基(A−1)〜(A−48)が挙げられる。
【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
【化6】

【0041】
【化7】

【0042】
本発明の配位子を表す式(1)〜(5)及び式(6−1)〜(6−7)の化合物の好ましい具体例として、下記の単座配位子(L−1)〜(L−16)及び多座配位子(L−17)〜(L−44)を例示することができ、特に好ましい具体例として、(L−17)〜(L−36)を例示することができる。
【0043】
【化8】

【0044】
【化9】

【0045】
【化10】

【0046】
【化11】

【0047】
【化12】

【0048】
【化13】

【0049】
【化14】

【0050】
ホスファイト類、ホスフォラアミダイト類の具体例の中で好ましくは、L20〜L44であり、特に好ましくはL21〜L30である。これらが好ましい理由としては、配位子の熱安定性が比較的高く、触媒活性種の失活による消失が比較的少ないためと考えられる。
【0051】
本発明でジアセトキシアリル化合物の異性化に使用される均一系錯体触媒の量は、3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液中の金属量で換算して、3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液に対して0.001〜1000wtppmが好ましく、より好ましくは0.01〜100wtppmであり、特に好ましくは0.1〜10wtppmである。触媒の量が多くなるほど、反応速度が高くなり反応器の大きさを小さくすることができ、設備コストを削減できる。また、触媒の量が少なくなるほど、配位子コストを低減することが出来る。
【0052】
また配位子の量は配位子中のリン原子のモル比が錯体触媒中の遷移金属に対して0.1〜1000が好ましく、より好ましくは1〜100であり、特に好ましくは1〜10である。配位子の量が多くなるほど、反応速度が上昇する。一方、配位子の量が少ないほど、触媒コストを低減することができる。
該異性化反応を行う際の反応温度は40〜200℃が好ましく、より好ましくは80〜180℃であり、特に好ましくは100〜160℃である。反応温度が高くなるほど、反応速度が上昇し、反応器が小さくてすむため、設備コストを低減できる。一方で反応温度が低いほど、触媒劣化の進行が遅くなるため、触媒コストを低減できる。
【0053】
また上記の触媒配位子以外にも反応器内で助触媒として別のリン化合物を併用することで触媒の安定性、または反応の速度を向上することが出来る。ここで使用するリン化合物はリン原子に3つの置換基が結合したものであれば特に限定されるものではない。例えば、トリフェニルホスフィン、トリ(2−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(4−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(2−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(4−メトキシフェニル)ホスフィンなどのトリアリールホスフィン類;ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルエチルホスフィン、ジフェニルプロピルホスフィンなどのジアリールアルキルホスフィン類;ジメチルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィンなどのジアルキルアリールホスフィン類;トリオクチルホスフィン、トリブチルホスフィンなどのトリアルキルホスフィン類が好ましく、更に好ましくはトリフェニルホスフィン、トリ(2−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(4−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(2−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(4−メトキシフェニル)ホスフィンなどのトリアリールホスフィン類であり、特に好ましくはトリフェニルホスフィンである。
【0054】
これら配位子以外の助触媒である別のリン化合物の量はリン化合物中のリン原子のモル比が、錯体触媒中の遷移金属量に対して1〜10000が好ましく、より好ましくは10〜2000であり、特に好ましくは50〜500である。リン化合物の量が少なすぎると反応速度が低下し、多すぎるとコストが増大してしまう。これらの範囲であれば、併用するリン化合物を単一で用いても、あるいは複数のリン化合物を混合して用いても差し支えない。
【0055】
本発明における異性化反応に使用する反応器は、通常の液相反応に使用する形式のものであれば差し支えない。好ましくは、管型反応器、槽型反応器であり、これらは単一、あるいは多段で使用することができる。特に槽型反応器、ならびに多段の槽型反応器が好ましく、開孔トレイを設置した多段槽型反応器が好ましい。
【0056】
本発明においては、3,4−ジアセトキシアリル化合物を触媒により1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化する前に、前述した3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液をリン化合物と接触させることを必須とする。リン化合物の中でも、好ましくは有機リン化合物であり、その有機リン化合物の中でも、さらに好ましくは有機ホスファイト類、有機ホスフォラアミダイト類、有機ホスフィン類であり、特に好ましくは、有機ホスフィン類である。この有機ホスフィン類とは、単座、2座、3座以上の有機ホスフィンの使用が可能であり、好ましくはアリール基を2つ以上含む単座の有機ホスフィンである。これらは特に限定されるものではなく、市販品を使用することができる。具体的に、好ましくは、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリペンチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリヘプチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリシクロヘプチルホスフィンなどのアルキルホスフィン;またはトリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルエチルホスフィン、ジフェニルブチルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、トリス(トリル)ホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンなどのフェニルホスフィンであり、更に好ましくはフェニルホスフィンであり、そのなかでも特に好ましくは、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルエチルホスフィン、ジフェニルブチルホスフィン、トリス(トリル)ホスフィンであり、最も好ましくはトリフェニルホスフィンである。なお、本発明では、通常1種類のリン化合物を用いるが、2種以上のリン化合物を併用することもできる。また必要に応じ、本発明の効果を著しく阻害しない範囲で、他の化合物を併用してもよい。
【0057】
3,4−ジアセトキシアリル化合物を触媒により1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化する前に、前述したリン化合物と接触させる際の温度は、通常、60℃以上であり、好ましくは、80℃以上、特に好ましくは、100℃以上であり、一方、通常、リン化合物と接触させる温度は200℃以下であり、好ましくは180℃以下、特に好ましくは160℃以下である。温度が高いほど、リン化合物による触媒劣化成分の抑制効果が高い。また、温度が低いほど、該リン化合物を加熱するためのエネルギーコストを低減できる。
【0058】
また、接触時間は1分〜100時間が好ましく、より好ましくは10分〜10時間であり、特に好ましくは30分〜5時間である。接触時間が長くなるほど、触媒劣化成分の除去を十分に行うことが出来る。また接触時間を短くするほど、プロセスの運転効率が高くなる。
またリン化合物は3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液に対して0.00001〜10重量%の範囲で使用することが可能であり、より好ましくは0.0001〜1重量%であり、特に好ましくは0.001〜0.1重量%である。リン化合物の接触量が多いほど、十分な触媒劣化成分の除去効果を得ることができる。一方、リン化合物の使用量が少なければ、リン化合物のコストが削減できる。
【0059】
本発明において、3,4−ジアセトキシアリル化合物を触媒により1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化する前に、3,4−ジアセトキシアリル化合物とリン化合物を接触させる方法としては、特に限定されないが、通常、(1)3,4−ジアセトキシアリル化合物とリン化合物とを容器に入れ、攪拌、混合する方法、(2)リン化合物を含む3,4−ジアセトキシアリル化合物溶液を別途調製し、3,4−ジアセトキシアリル化合物と、リン化合物を含む3,4−ジアセトキシアリル化合物溶液とを容器に入れ、攪拌、混合する方法や、あるいは(3)3,4−ジアセトキシアリル化合物とリン化合物を含む3,4−ジアセトキシアリル化合物溶液とを、流れとしてそれぞれの配管を1つの配管に統合して接触させ混合するなどが挙げられる。尚、接触後に加熱して前述の所望の温度、時間を掛けて混合することも可能である。生産性の観点から連続プロセスが好ましいため、接触させる方法としては、上記(3)3,4−ジアセトキシアリル化合物と、リン化合物を含む3,4−ジアセトキシアリル化合物溶液とを、流れとしてそれぞれのライン(配管)を1つのライン(配管)に統合して接触させ混合するのがよい。
【0060】
リン化合物と3,4−ジアセトキシアリル化合物の接触方法は回分、連続のいずれでも差し支えないが、運転の簡便さから連続流通式が特に好ましい。該リン化合物は、異性化反応以前に蒸留により分離し、リサイクル使用することも可能であるが、エネルギー効率の観点から、異性化反応終了後に、触媒成分と同様に生成した1,4−ジアセトキシアリル化合物から蒸留などにより分離することが望ましい。ここで分離したリン化合物はリサイクルすることも可能であるが、通常は廃液としてプロセス系外へと排出される。
【0061】
本発明において、異性化反応で得られた反応液には、反応生成物である1,4−ジアセトキシアリル化合物の他に、未反応の3,4−ジアセトキシアリル化合物が存在しており、該反応液から蒸留などにより3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液を分離することができる。その際の蒸留塔の圧力は任意に設定することができるが、塔底温度を低くするために、塔頂圧力を1〜760mmHgとすることが好ましい。また、より好ましくは塔頂圧力が5〜200mmHgであり、特に好ましくは10〜100mmHgの範囲である。この塔頂圧力が低すぎると、圧力を保つために多大なコストが必要となり、さらに蒸留塔そのものが大きなものとなり、プロセスの建設コストが増大してしまう。また、塔頂圧力が高すぎる場合には、蒸留塔の塔底温度が高くなり、蒸気コストが増大してしまう。塔頂温度は通常0〜200℃以下であり、好ましくは20〜160℃、より好ましくは40〜140℃の範囲である。塔頂温度が低すぎると冷却器など特殊な装置が必要となりコスト悪化となる。また温度が高すぎると、塔底温度もより高い温度となるために、蒸気コストが増大してしまう。還流比は1〜100で差し支えなく、好ましくは1〜10である。還流比が小さすぎると、分離能の悪化を引き起こし、還流比が高すぎると必要な熱量が増大し、コスト悪化原因となる。塔頂の留出量は、蒸留塔へ導入した3,4−ジアセトキシアリル化合物、及び1,4−ジアセトキシアリル化合物、及び低沸点化合物類、高沸点化合物類を含有する液のうち、3,4−ジアセトキシアリル化合物と軽沸点化合物類の合計量を留出させることが望ましい。また側流から3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液を留出させ、塔頂から軽沸点化合物類を留出させる場合には、導入液中の3,4−ジアセトキシアリル化合物の含有量分を側流から、塔頂から導入液中の軽沸点化合物類の含有量分を塔頂から、それぞれ留出させることが好ましい。
【0062】
蒸留分離により得られた3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液は異性化反応器に導入することで、未反応の3,4−ジアセトキシアリル化合物を1,4−ジアセトキシアリル化合物へ異性化することができる。この反応器へ再循環する3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液は、蒸留分離により得られた時点での温度、あるいは異性化反応器内温度を保持することが好ましいが、再循環時の温度、圧力などに関わらず、異性化反応条件で1,4−ジアセトキシアリル化合物へ異性化することができる。また、この際の異性化反応条件は前述と同じ条件で構わない。
【0063】
異性化反応により得られた1,4−ジアセトキシアリル化合物は、そのまま、あるいは更なる蒸留などによる精製を経た後、遷移金属触媒存在下、水素化され置換基を有しても良い1,4−ジアセトキシブタン化合物へと変換される。ここで使用する遷移金属触媒は通常の市販の水素化触媒で差し支えないが、好ましくはパラジウムまたはルテニウムなどの貴金属を含有する触媒、あるいはニッケル触媒である。これら水素化触媒の存在下、40〜180℃の温度範囲で、水素と1,4−ジアセトキシアリル化合物含有液とを接触させ、常圧〜15MPaの圧力範囲条件で水素化は実施することができる。反応温度が高すぎると触媒劣化が迅速に進行してしまい、反応温度が低すぎると反応速度が低下してしまう。圧力が低すぎると反応速度が低下してしまい、圧力が高すぎると高価な反応器が必要となってしまう。
【0064】
水素化反応により得られた1,4−ジアセトキシブタン化合物は、酸触媒あるいは塩基性物質により水の存在下で、加水分解され1,4−ブタンジオールなどのジオール類へと変換される。触媒としては、好ましくは固体酸触媒であり、特に陽イオン交換樹脂を使用するのが、加水分解速度が速く、しかもテトラヒドロフランのような副生物が少ないので好適である。具体的には、スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体を母体とするスルホン酸型強酸性陽イオン交換樹脂であり、ゲル型でもポーラス型のいずれでも差し支えない。反応は通常30〜110℃、好ましくは40〜90℃の温度条件にて実施する。温度が低すぎると加水分解速度が低下し、高価で長大な反応器が必要となる。温度が高すぎるとテトラヒドロフランなど副生物が増加して、1,4−ブタンジオールの収率が低下してしまう。水の量は、1,4−ジアセトキシブタン1モルに対し、通常2〜100モル、好ましくは4〜50モルの範囲の量を使用する。水の量が少なすぎると反応速度が低下し高価で長大な反応器が必要となる。また水の量が多すぎると、加水分解後に1,4−ブタンジオールから水を除去する際に多量のエネルギーが必要とされるために、エネルギーコストが増大してしまう。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの分析は内部標準法によるガスクロマトグラフィーにより行った。内部標準物質としてドデカンを使用した。
【0066】
参考例1:ブタジエンのアセトキシ化反応工程
Pd−Te触媒1kgの存在下に、ブタジエン0.21kg/hr、酢酸2.94kg/hr、6vol%酸素/94vol%窒素混合ガス0.34kg/hrを、反応器内に流通させ、80℃、6MPaの条件でアセトキシ化反応させて、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンが81重量%、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが9重量%、3−ヒドロキ
シ−4−アセトキシ−1−ブテンが2重量%、酢酸3重量%、その他軽沸点化合物類が3
重量%、高沸点化合物類が2重量%を含む混合液を得た。
【0067】
参考例2:3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液の分離
参考例1で得た混合液11Lから3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を連続蒸留により分離した。尚、蒸留には20段のオルダーショウ蒸留塔を使用した。塔頂圧力は20mmHg、還流比は3、塔頂温度は95℃、塔底温度は151℃の温度範囲において保持し、150cc/hrの流量で塔底から10段の位置に連続導入し、塔頂部から27cc/hrで連続留出を行い、塔底から123cc/hrで連続抜き出しを行なった。本連続蒸留により、塔底から1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを含有する液を缶出液として得、塔頂から3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を留出液として得た。得られた3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液は、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが45重量%、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテンが11重量%、酢酸が22重量%、その他3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも沸点の低い成分が20重量%、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも沸点の高い成分が2重量%を含む混合液であった。また、該3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液の1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの含有量は1重量%以下であった。
【0068】
参考例3:3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液の精製蒸留
参考例2で得た3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液1Lから連続蒸留により軽沸点化合物類の大部分を分離した。尚、蒸留には40段のオルダーショウ蒸留塔を使用した。塔頂圧力は100mmHg、還流比は1、塔頂温度は95℃、塔底温度は148℃の温度において保持し、100cc/hrの流量で塔底から20段の位置に連続導入し、塔頂部から41cc/hrで連続留出を行い、塔底から59cc/hrで連続抜き出しを行なった。本連続蒸留により、塔頂から軽沸点化合物類を留出液として得た。該留出中には酢酸が59重量%、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが1.6重量%(蒸留塔に導入する3,4−ジアセトキシアリル化合物量の1.5重量%に相当)、その他、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも沸点の低い成分39.4重量%含まれていた。また塔底からの抜き出した液中には3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが72重量%、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテンが18重量%、その他軽沸点化合物類が6重量%、高沸点化合物類4重量%を含む3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を得た。
【0069】
参考例4:触媒調製
窒素ガス雰囲気下、ガラス製シュレンク内で酢酸パラジウム10.5mg、前記L21で表されるホスファイト配位子96.3mg、トリフェニルホスフィン49.8mgを参考例3で得た3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液41.3g中に添加した。この混合液を80℃で1時間加熱し、完全に溶解させ触媒液を得た。
【0070】
参考例5:触媒調製
窒素ガス雰囲気下、ガラス製シュレンク内で酢酸パラジウム5.9mg、前記L29で表される配位子56.9mg、トリフェニルホスフィン30.3mgをトルエン13.99中に添加した。この混合液を120℃で20分間加熱し、完全に溶解させ触媒液を得た。
【0071】
参考例6:触媒調製
窒素ガス雰囲気下、ガラス製シュレンク内で酢酸パラジウム5.5mg、前記L30で表される配位子43.0mg、トリフェニルホスフィン25.8mgをトルエン12.19g中に添加した。この混合液を120℃で20分間加熱し、完全に溶解させ触媒液を得た。
【0072】
実施例1
上記の参考例3「3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液の精製蒸留」で得た3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液(3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが72重量%、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテンが18重量%、その他3,4−ジアセトキ
シ−1−ブテンよりも沸点の低い成分が6重量%、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも沸点の高い成分が4重量%を含む精製3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)1.5ccに、トリフェニルホスフィン0.166mg(3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに対して0.0073重量%)をトリフェニルホスフィン濃度0.86%の酢酸溶液18μLとして添加した後、150℃の温度で3時間攪拌を行なった。
次に、酢酸1.5ccをシュレンク内に添加して混合し、オイルバスで130℃に昇温した。そこに参考例4で調製した触媒液を、窒素雰囲気下で26μL添加し、130℃で加熱攪拌を3時間行なった(反応液中のパラジウム濃度1.0wtppm)。異性化反応後の液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は45:55であった。尚、ドデカンを内部標準物質として使用した。結果を表1に示す。
【0073】
実施例2
実施例1において、トリフェニルホスフィンの添加量を0.332mg(3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに対して0.0147重量%)に変えた以外は、実施例1と同様に実施した。異性化反応後の液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は44:56であった。尚、ドデカンを内部標準として使用した。結果を表1に示す。
【0074】
実施例3
実施例1において、トリフェニルホスフィンを添加した後の攪拌を、150℃の温度で1時間行った以外は、実施例1と同様に実施した。
異性化反応後の液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は44:56であった。尚、ドデカンを内部標準として使用した。結果を表1に示す。
【0075】
実施例4
実施例1において、トリフェニルホスフィン0.166mg(3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに対して0.0073重量%)を添加した後、30℃の温度で、5分間の攪拌した以外は、実施例1と同様に実施した。反応後の液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は40:60であった。尚、ドデカンを内部標準として使用した。結果を表1に示す。
実施例5
実施例1において、トリフェニルホスフィンをトリフェニルホスファイトとして、トリフェニルホスファイトの添加量を0.166mg(3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに対して0.0073重量%)に変更した以外は実施例1と同様に実施した。異性化反応後の液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は36:64であった。尚、ドデカンを内部標準として使用した。結果を表1に示す。
【0076】
実施例6
上記の参考例3「3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液の精製蒸留」で得た3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液(3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが72重量%、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテンが18重量%、その他3,4−ジアセトキ
シ−1−ブテンよりも沸点の低い成分が6重量%、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも沸点の高い成分が4重量%を含む精製3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)2.94ccに、トリフェニルホスフィン0.15mg(3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに対して0.0050重量%)をトリフェニルホスフィン濃度0.86%の酢酸溶液8μLとして添加した後、150℃の温度で3時間攪拌を行なった。
【0077】
次に、酢酸0.06ccをシュレンク内に添加して混合し、オイルバスで130℃に昇温した。そこに参考例5で調製した触媒液を、窒素雰囲気下で18μL添加し、130℃で加熱攪拌を3時間行なった(反応液中のパラジウム濃度1.0wtppm)。異性化反応後の液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は49:53であった。尚、ドデカンを内部標準物質として使用した。結果を表2に示す。
【0078】
実施例7
上記の参考例3「3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液の精製蒸留」で得た3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液(3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが72重量%、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテンが18重量%、その他3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも沸点の低い成分が6重量%、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも沸点の高い成分が4重量%を含む精製3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)2.94ccに、トリフェニルホスフィン0.15mg(3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに対して0.0050重量%)をトリフェニルホスフィン濃度0.86%の酢酸溶液8μLとして添加した後、150℃の温度で3時間攪拌を行なった。
【0079】
次に、酢酸0.06ccをシュレンク内に添加して混合し、オイルバスで130℃に昇温した。そこに参考例6で調製した触媒液を、窒素雰囲気下で18μL添加し、130℃で加熱攪拌を4時間行なった(反応液中のパラジウム濃度1.0wtppm)。異性化反応後の液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は52:48であった。尚、ドデカンを内部標準物質として使用した。結果を表2に示す。
【0080】
比較例1
実施例1において、トリフェニルホスフィンの代わりに陰イオン交換樹脂(ダイヤイオン、WA20)を7.8mg(3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに対して0.50重量%、トリフェニルホスフィン0.02重量%相当のアミン交換容量)を添加した後、30℃の温度で、1時間の攪拌した以外は同様に行った。反応後の液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は30:70であった。尚、ドデカンを内部標準として使用した。結果を表1に示す。
【0081】
比較例2
実施例1において、トリフェニルホスフィンの代わりに陰イオン交換樹脂(ダイヤイオン、WA20)を38.9mg(3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに対して2.5重量%、トリフェニルホスフィン0.1重量%相当のアミン交換容量)を添加した後、30℃の温度で、1時間の攪拌した以外は同様に行った。反応後の液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は33:67であった。尚、ドデカンを内部標準として使用した。結果を表1に示す。
【0082】
比較例3
上記の参考例3「3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液の精製蒸留」で得た3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液(3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが72重量%、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテンが18重量%、その他3,4−ジアセトキ
シ−1−ブテンよりも沸点の低い成分が6重量%、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも沸点の高い成分が4重量%を含む精製3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)3.0ccに酢酸0.06ccをシュレンク内に添加して混合し、オイルバスで130℃に昇温した。そこに参考例5で調製した触媒液を、窒素雰囲気下で18μL添加し、130℃で加熱攪拌を3時間行なった(反応液中のパラジウム濃度1.0wtppm)。異性化反応後の液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は44:56であった。尚、ドデカンを内部標準物質として使用した。結果を表2に示す。
【0083】
比較例4
上記の参考例3「3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液の精製蒸留」で得た3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液(3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが72重量%、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテンが18重量%、その他3,4−ジアセトキ
シ−1−ブテンよりも沸点の低い成分が6重量%、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも沸点の高い成分が4重量%を含む精製3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)3.0ccに酢酸0.06ccをシュレンク内に添加して混合し、オイルバスで130℃に昇温した。そこに参考例6で調製した触媒液を、窒素雰囲気下で18μL添加し、130℃で加熱攪拌を3時間行なった(反応液中のパラジウム濃度1.0wtppm)。異性化反応後の液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は40:60であった。尚、ドデカンを内部標準物質として使用した。結果を表2に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
以上の結果から、実施例と比較例を対比すると、添加剤の実添加重量に対しても、リンおよび窒素原子の交換容量に対しても、実施例での異性化反応成績が向上することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料のアリル化合物を含有する液をリン化合物と接触させた後、触媒の存在下で前記アリル化合物を異性化することを特徴とする異性化方法。
【請求項2】
前記リン化合物が有機リン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の異性化方法。
【請求項3】
前記有機リン化合物が有機ホスフィン類であることを特徴とする請求項2に記載の異性化方法。
【請求項4】
前記有機ホスフィン類が2つ以上のアリール基を有することを特徴とする請求項3に記載の異性化方法。
【請求項5】
前記有機ホスフィン類がトリフェニルホスフィンであることを特徴とする請求項3又は4に記載の異性化方法。
【請求項6】
前記アリル化合物の含有液と接触させるリン化合物の量が、アリル化合物に対して0.0001〜10重量%の範囲内である請求項1〜5のいずれかに記載の異性化方法。
【請求項7】
前記アリル化合物含有液とリン化合物との接触が60℃以上で行われる請求項1〜6のいずれかに記載の異性化方法。
【請求項8】
更に、共役ジエン類のジアセトキシ化反応により前記アリル化合物の含有液を得る工程を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の異性化方法。
【請求項9】
前記触媒が液相均一系パラジウム触媒であり、少なくとも一つのP−O結合を有するリン配位子を含有する触媒であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の異性化方法。
【請求項10】
前記P−O結合を有するリン配位子が、2座のホスファイト類であることを特徴とする請求項9に記載の異性化方法。
【請求項11】
前記P−O結合を有するリン配位子が、2座のホスフォラアミダイト類であることを特徴とする請求項9に記載の異性化方法。
【請求項12】
前記アリル化合物が3,4−ジアセトキシアリル化合物であり、異性化によって前記アリル化合物に対応する化合物である1,4−ジアセトキシアリル化合物を生成することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の異性化方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の異性化方法を用いて、アリル化合物から、対応する異性化されたアリル化合物を生成するアリル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−308497(P2008−308497A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129353(P2008−129353)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】