説明

アリル化合物誘導体の製造方法

【課題】アリル化合物誘導体、特に3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを異性化反応させ、対応する異性化化合物を効率良く製造する方法の提供。
【解決手段】周期表第8〜10族遷移金属の遷移金属錯体を含む触媒、並びに水及び/又はアルコールの存在下、アリル化合物誘導体を異性化反応させ、対応する異性化化合物を製造する方法において、該遷移金属錯体が下記一般式(a)で示される配位子を有することを特徴とする異性化化合物の製造方法。


[式中、Ra〜Rd、R1〜R4は、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基から選ばれ、また、RaとRb、RcとRd、R1〜R4は互いに連結して環を形成してもよく、形成された環は置換基を有していてもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基質としてのアリル化合物誘導体から異性化反応により異性化された他のアリル化合物誘導体を製造する方法に係わる。詳しくは、アリル化合物誘導体としての3,4−ジアセトキシ−1−ブテンからアリル転移により1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを製造する方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
アリル化合物誘導体の一つである1,4−ジアセトキシ−2−ブテンは、ポリエステルやテトラヒドロフランの原料として需要の高い1,4−ブタンジオールの中間体である。この1,4−ジアセトキシ−2−ブテンは、例えばパラジウム触媒を用いたブタジエンの酸化ジアセトキシ化反応により製造され、このジアセトキシ化反応により得られた1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを水素化、次いで加水分解することにより1,4−ブタンジオールへと変換する技術が確立されている。しかしながら、ブタジエンのような共役ジエン類のジアセトキシ化反応は、アセトキシ基が付加する位置の選択率を完全に制御することが困難であり、1,4−ブタンジオールへ直接変換できない3,4−ジアセトキシ−1−ブテン等の異性体が副生する。そのため、該3,4−ジアセトキシ−1一ブテンのような副生化合物を、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンのような主目的アリル化合物誘導体へと異性化する技術の工業的確立が強く望まれている。
【0003】
一方、既にアリル化合物の異性化反応技術の開発がなされてきており、例えば、特開2002−121171号公報では少なくとも1つのリン−窒素結合を有するリン化合物を含む触媒を用いて異性化反応が達成されている。また、WO2004/078766号公報では、ホスフォラアミグイト配位子を有する遷移金属触媒がアリル置換反応において有効であることが報告されている。しかしながら、パラジウムなどの高価な遷移金属触媒を用いる反応を工業的に実施する場合、使用する触媒金属量の低減化がプロセス競争力の向上のために必要であるため、安定した触媒活性の向上を達成することができれば、より安価な触媒反応プロセスが可能となる。そこで、触媒活性効率に優れたアリル化合物誘導体の異性化反応、特にブタジエンの酸化ジアセトキシ化反応において副生する3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの工業的に有効な異性化方法の開発が求められていた。
【特許文献1】特開2002−121171号公報
【特許文献2】WO2004/078766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、より高い異性化収率を達成できる工業的に有利なアリル化合物誘導体の異性化、特にブタジエンの酸化ジアセトキシ化反応において得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの異性化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、アリル化合物誘導体、特にブタジエンの酸化ジアセトキシ化反応において得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの異性化反応における、遷移金属錯体触媒の挙動について鋭意検討した結果、特定の構造を有する配位子を有する遷移金属錯体触媒は、反応系において安定性に優れ、高活性であることを見出し、本発明に達した。
【0006】
即ち、本発明の要旨は以下の1〜9項に存する。
1:周期表第8族〜第10族遷移金属の遷移金属錯体を少なくとも1種含む触媒、並びに水及び/又はアルコールの存在下、下記一般式(1)で示されるアリル化合物誘導体を異性化反応させ下記一般式(2)で示される異性化化合物を製造する方法において、該遷移金属錯体が下記一般式(a)で示される配位子を有することを特徴とする異性化化合物の製造方法。
【0007】
【化1】

【0008】
[一般式(1)中、RA〜REは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、RAとREが連結して環を形成してもよく、これらの基及び環は更に置換基を有していてもよい。Xは
電子吸引基を表し、上記一般式(2)中、RA〜RE及びXは、上記一般式(1)におけ
るRA〜RE及びXと同義である。但し、上記一般式(1)で表されるアリル化合物誘導体と上記一般式(2)で表される異性化化合物とは、同一の化合物を表さない。)
【0009】
【化2】

【0010】
[一般式(a)中、Ra〜Rdは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。また、RaとRb、及びRcとRdは互いに連結してそれらの結合炭素を含む芳香環を形成してもよく、形成された芳香環は更に置換基を有していてもよい。R1〜R4は、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。また、R1〜R4は連結して環を形成してもよく、形成された環は更に置換基を有していてもよい。]
【0011】
2:水及び/又はアルコールが、一般式(1)で示されるアリル化合物誘導体に対し1重量%〜40重量%存在することを特徴とする1項に記載の製造方法。
3:一般式(a)中、RaとRb、RcとRdとがそれぞれ互いに連結して形成する芳香環が、ベンゼン環又はナフタレン環であることを特徴とする1又は2項に記載の製造方法。
4:一般式(a)中、R1及びR2の少なくともいずれか一方が、またR3及びR4の少なくともいずれか一方が置換基を有していてもよいアリール基であることを特徴とする1〜3項のいずれかに記載の製造方法。
【0012】
5:該アリール基がフェニル基又はナフチル基であることを特徴とする4項に記載の製造方法。
6:第8族〜第10族の遷移金属がパラジウム及び/又は白金であることを特徴とする1〜5項のいずれかに記載の製造方法。
7:一般式(1)で示されるアリール化合物誘導体が、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンであり、一般式(2)で示される異性化化合物が1,4−ジアセトキシ−2−ブテンであることを特徴とする1〜6項のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
8:3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが、ブタジエンの酸化ジアセトキシ化反応生成物から得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを主成分とする含有液であることを特徴とする7項に記載の製造方法。
【0014】
9:パラジウム含有固体触媒を用いたブタジエンの酸化ジアセトキシ化反応生成物から、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを主成分とする含有液を取得し、該含有液を請求項1に記載の遷移金属錯体を含む触媒、並びに水及び/又はアルコールの存在下異性化反応させ、異性化反応生成物から1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを分離し、未反応3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを含有する異性化反応生成物を異性化反応に戻すことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明方法では、効率良くアリル化合物誘導体、特に3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを1,4−ジアセトキシ−2−ブテンに異性化することが出来るので工業的に有用な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明方法に原料として使用されるアリル化合物誘導体は上記一般式(1)で示され、異性化反応により製造される異性化化合物は、上記一般式(2)で示される。
一般式(1)及び一般式(2)において、RA〜REは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、RAとREが連結して環を形成してもよく、これらの基及び環は更に置換基を有していてもよい。但し、一般式(1)と一般式(2)で表される化合物は、同一の化合物を表さない。
【0017】
A〜REにおけるアルキル基及びアルキル骨格を有する置換基(アルコキシ基、アシル基、アシロキシ基、アルキルチオ基)のアルキル骨格部分は、その炭素数が通常1〜20であり、好ましくは1〜14である。アルキル基(以下、アルキル骨格部分を含む)として具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。また、アルキル基が有し得る置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基等の炭素数1〜10のアシロキシ基、アミノ基、シアノ基、炭素数2〜10のエステル基、ヒドロキシ基及びハロゲン原子が挙げられる。
【0018】
また、RA〜REにおけるアリール基及びアリール骨格を有する置換基(アリ−ロキシ基、アリールチオ基)のアリール骨格部分は、その炭素数が通常6〜20であり、好ましくは6〜14である。アリール基(以下、アリール骨格部分を含む)の具体例としては、フェニル基及びナフチル基が挙げられる。アリール基が有し得る置換基としては、水素原子、炭素数1〜14のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数6〜20のアルキルアリール基、炭素数6〜20のアルキルアリーロキシ基、炭素数6〜20のアリールアルキル基、炭素数6〜20のアリールアルコキシ基、シアノ基、エステル基、ヒドロキシ基およびハロゲン原子等が挙げられ、具体例は上記アルキル基の置換基と同じである。
【0019】
Xは電子吸引基を表し、具体例としてはアセトキシ基、プロピオニルオキシ基等のアシ
ロキシ基、ヒドロキシ基、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子が挙げられ、アシロキシ基が好ましい。
【0020】
本発明方法で原料として使用される一般式(1)で示されるアリル化合物誘導体の具体例としては、例えば、酢酸クロチル、クロチルフェニルエーテル、クロチルアルコール、クロチルジメチルアミン、塩化クロチル、ブタジエンモノオキシド、2−アセトキシ−5−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3−へキセン、酢酸−1−フェニル−1−ブテン−3−イル、酢酸−1−シクロへキシル−2−ブテン、1,3−ジフェニル−3−ジベンジルアミノ−1−プロペン、1−(4−ブロモフェニル)−3−ブロモ−1−プロペン、酢酸−2−へキセニル、2−ドデセニルアルコール、蟻酸ゲラニル、酢酸ゲラニル、酢酸−3−フェニル−2−プロペン、9−フェノキシ−7−ノネン−3−オン酸メチル、酢酸−3−ブテン−2−イル、イソブチル酸−2,4−ヘキサジエニル、酢酸プレニル、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2−メチル−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−3−メチル−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2,3−ジメチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロへキセン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロペンテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロへプテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロオクテン、マロン酸ジアリルエステル、テレフタル酸ジアリルエステル、フタル酸ジアリルエステルなどを挙げることができる。
【0021】
上記アリル化合物誘導体を異性化反応させ、対応する一般式(2)で表される異性化化合物を生成する。
【0022】
上記のアリル化合物誘導体のうち、好ましい化合物は上記一般式(1)におけるRA〜REが、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、及び炭素数6〜30のアリール基から選ばれ、Xがアセトキシ基及びヒドロキシ基から選ばれる基であるアリル化合物誘導体である。より好ましい原料アリル化合物誘導体の具体例としては、例えば、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2−メチル−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−3−メチル−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブテン等が挙げられる。
【0023】
上記の好適な原料アリル化合物誘導体の異性化反応により生成する上記一般式(2)で表される異性化化合物としては、例えば、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−メチル−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−メチル−2−ブテン、1,4−ジアセトキシ−3−メチル−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブテン等が挙げられる。特に好ましい一般式(1)で表される原料アリル化合物誘導体としては、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテンが挙げられ、これに対応する一般式(2)で表される異性化化合物としては、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテンが挙げられる。
【0024】
本発明において使用される特に好ましい原料アリル化合物誘導体である3,4−ジアセトキシ−1−ブテン類は共役ジエン類の酸化ジアセトキシ化反応などにより1,4−ジアセトキシ−2−ブテンとともに得られる化合物である。
共役ジエン類の酸化ジアセトキシ反応により3,4−ジアセトキシ−1−ブテン類及び/又は1,4−ジアセトキシ−2−ブテン類を製造する方法は公知であり、最も一般的には、パラジウム系触媒の存在下、ブタジエン、酢酸及び酸素を反応させて1,4−ジアセトキシ−2−ブテン及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを製造するが、その際これらのジアセトキシブテン類の加水分解物である1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテンなども併せて生成される。
【0025】
該ジアセトキシ化反応で使用される好適な共役ジエン類としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−シクロヘキサジエン、1,3−ジクロペンタジエンが挙げられ、特に好ましくはブタジエン、イソプレンである。共役ジエン類のジアセトキシ化反応に用いる触媒としては、通常、周期表第8〜10族遷移金属を含有する固体触媒であり、特に好ましくはパラジウム固体触媒である。
【0026】
パラジウム固体触媒は、パラジウム金属またはその塩と助触媒としてのビスマス、セレン、アンチモン、テルル、及び銅、好ましくはテルルの金属またはその塩から調製されるパラジウム及びテルルを活性成分として担持する固体触媒であることが好ましい。該パラジウム固体触媒の担体としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、活性炭、グラファイト、好ましくはシリカが使用される。
【0027】
本ジアセトキシ化反応は酸素雰囲気下で行われ、気相、液相のいずれでも行なうことができる。反応温度は0℃〜300℃、好ましくは10℃〜200℃、反応圧力は大気圧〜50MP a、好ましくは大気圧〜30MP a、特に好ましくは1MP a〜20MP aである。ジアセトキシ化反応を液相にて行なう場合には、反応に使用する溶媒は反応原料を溶解するものであれば特に制限は無いが、水、または酢酸等のカルボン酸、あるいはブタジエンなど反応原料となる共役ジエン類そのもの、あるいは1,4−ジアセトキ−2−ブテン等のアセトキシ化生成物、更にはn−ヘキサン、n−へブタン、n−オクタンなどの炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、トリグライムなどのエーテル類、酢酸エチル、酪酸n一ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、1,4−ブタンジオールなどのアルコール類なども使用可能である。
【0028】
1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを上記の如き酸化アセトキシ化反応により製造した場合、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの副生が避けられないが、アセトキシ化反応生成物から副生3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを主成分として含有する留分を取得し、該留分を本発明方法により異性化反応を行えば、効果的に1,4−ジアセトキシ−2−ブテンに変換することが出来る。従って、本発明方法は、ブタジエン類の酸化的ジアセトキシ化反応から1,4−ブタンジオールを一貫して製造するプロセスにおいて、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの選択率を改善し、1,4−ブタンジオールの一貫収率を向上させるための有効な方法である。
【0029】
本発明において原料として用いる「3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを主成分とする含有液」とは、上記ブタジエンのジアセトキシ化反応後の反応液そのもの、あるいは酢酸、水などの3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも軽沸点の副生物の少なくとも一部を蒸留などにより除去したもの、あるいは3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも高沸点の副生物の一部あるいは全量を蒸留などにより除去したもの、更には軽沸点の副生物及び高沸点副生物の双方を一部あるいは全量を除去したもの等が含まれる。通常、この「主成分としての3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液」は、対応する1,4−ジアセトキシ−2−ブテンも含有するが、その他に、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解物である3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテン及び/又は3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、更に1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの加水分解物である1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、及び/又は1,4−ジヒドロキシ−2−ブテンを含んでいても差し支えない。
【0030】
本発明で使用する「3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを主成分とする含有液」は通常、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、並びにそれらよりも軽沸点の成分及び高沸点の成分を含有する液を蒸留塔に導入し、塔底より高沸点の成分を含む1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を抜き出し、塔上部より3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を留出させて得ることができる。この際、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液は塔頂から軽沸点成分とともに抜き出すことも可能であり、また3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を側流から抜き出して、塔頂から軽沸点成分を留出させても差し支えない。なお、本発明における「塔上部」とは、蒸留塔の中段より上を意味し、塔頂抜き出しであっても、上部側流抜きであっても構わない。また、軽沸点成分を第2塔で更に分離しても差し支えない。
【0031】
3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を得るための蒸留塔における蒸留条件は任意に設定することができるが、通常、塔頂圧力は5〜200mmHg、好ましくは10〜100mmHgの範囲であり、塔頂温度は通常0℃〜200℃、好ましくは20℃〜160℃、より好ましくは40℃〜140℃である。また、還流比は、通常1〜100で差し支えなく、好ましくは1〜10である。
蒸留塔としては充填塔、棚段塔のいずれもが使用できるが、多段蒸留が好ましい。
【0032】
本発明の異性化反応に使用する触媒は、周期表第8族〜第10族遷移金属の遷移金属錯体を少なくとも1種含む触媒であり、第8〜10族の遷移金属と、上記一般式(a)で示されるP−O結合及びP−N結合を有し、且つN原子の2個の置換基が3級炭素原子により結合する配位子とからなる遷移金属錯体を含有する触媒である。本発明触媒は、その配位子におけるN原子構造、即ちN原子に結合する置換基が嵩高い立体構造を有することにより、異性化反応において原料のアリル化合物誘導体等に付随して導入される、水やアルコール等に対しても耐性を有する高活性の触媒である。それ故に、特にブタジエンの酸化ジアセトキシ化反応生成物から得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを主成分とする含有液のように、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解物である3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテン及び/又は3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、更に1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの加水分解物である1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、及び/又は1,4−ジヒドロキシ−2−ブテンなどを含む液の異性化反応に対し高い触媒活性を示し、効率良く反応を行うことができる。
【0033】
第8〜10族の遷移金属としては、好ましくはルテニウム、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金が挙げられ、特に好ましくはパラジウムである。該遷移金属は金属又は金属化合物として供給されるが、その金属化合物としては、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ハライド塩、有機塩、無機塩、アセチルアセトナト化合物、アルケン配位化合物、アミン配位化合物、ピリジン配位化合物、一酸化炭素配位化合物、ホスフィン配位化合物、ホスファイト配位化合物等が挙げられる。
【0034】
パラジウムは、具体的にはパラジウム金属、パラジウム化合物としては、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、ジクロロシクロオクダジエンパラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(ジベンジリアセトン)パラジウム、カリウムテトラクロロバラグト、ナトリウムテトラクロロバラグト、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、その他、カルボキシレート化合物、オレフィン含有化合物、有機ホスフィン含有化合物、アリルパラジウムクロリド二量体等が挙げられる。これらのうち、価格及び取り扱いにおいて酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムが好ましく、酢酸パラジウムが特に好ましい。
【0035】
本発明方法における遷移金属錯体が有する配位子は、P−O結合及びP−N結合を有し、且つN原子の2個の置換基が3級炭素原子により結合する下記一般式(a)で示される化合物である。
【0036】
【化3】

【0037】
[式(a)中、Ra〜Rdは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。また、RaとRb、及びRcとRdは互いに連結してそれらの結合炭素を含む芳香環を形成してもよく、形成された環は更に置換基を有していてもよい。
1〜R4は、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。また、R1〜R4は連結して環を形成してもよく、形成された環は更に置換基を有していてもよい。]
【0038】
a〜Rd及びR1〜R4におけるアルキル基及びアルキル骨格を有する置換基(アルコキシ基、アシル基、アシロキシ基、アルキルチオ基)のアルキル骨格部分は、その炭素数が通常1〜20であり、好ましくは1〜14である。アルキル基(以下、アルキル骨格部分を含む)として具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。また、アルキル基が有し得る置換基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、アミノ基、シアノ基、炭素数2〜10のエステル基、ヒドロキシ基及びハロゲン原子が挙げられる。
【0039】
また、Ra〜Rd及びR1〜R4におけるアリール基及びアリール骨格を有する置換基(アリ−ロキシ基、アリールチオ基)のアリール骨格部分は、その炭素数が通常6〜20であり、好ましくは6〜14である。アリール基(以下、アリール骨格部分を含む)の具体例としては、フェニル基及びナフチル基が挙げられ、フェニル基が好ましい。アリール基が有し得る置換基としては、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数6〜20のアルキルアリール基、炭素数6〜20のアルキルアリーロキシ基、炭素数6〜20のアリールアルキル基、炭素数6〜20のアリールアルコキシ基、シアノ基、エステル基、ヒドロキシ基およびハロゲン原子等が挙げられる。
【0040】
アリール基の具体例としては、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2−t−ブチルフェニル基、2,4−ジ−t−ブチルフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,3−ジクロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、4−ニトロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、ペンタフルオロエチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、及び下記の(C−1)〜(C−8)が挙げられる。
【0041】
【化4】

【0042】
また、RaとRb、及びRcとRdが互いに連結してそれらの結合炭素を含む芳香環を形成する場合、形成された環の炭素数は、通常6〜18、好ましくは6〜10,特に好ましくは6であり、該芳香環が更に置換基を有する場合、炭素数は6〜24,好ましくは6〜16である。芳香環として具体的には、ベンゼン環及びナフタレン環が好ましい。該芳香環が有し得る置換基としては、具体的には、上記アルキル基の有し得る置換基と同様の炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0043】
また、R1〜R4のいずれか2つの基、例えばR1とR2、R2とR3、R3とR4等が連結して形成し得る環としては、例えば、シクロヘキシル、シクロペンチル、シクロブチル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、フェニル、ナフチルが挙げられ、これらの中、好ましくはシクロヘキシル、シクロペンチル、シクロヘプチル、シクロオクチル、フェニル、ナフチル等が挙げられ、特にシクロヘキシル、フェニルが好ましい。
【0044】
上記一般式(a)においてリン原子に結合する2個の酸素原子と結合する部位の具体例としては、下記(A−1)〜(A―18)が挙げられる。
【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
本発明方法において、配位子の添加量は、配位子中のリン原子のモル比が遷移金属錯体中の遷移金属に対して0.1〜1000が好ましく、より好ましくは1〜100であり、1〜10が特に好ましい。また、配位子として一種又は複数種の配位子を用いてもよい。遷移金属錯体の調製方法は、特に制限されず、例えば遷移金属化合物と配位子化合物を所望の割合で溶媒中、加温することにより反応させて得られる触媒含有液を使用することが出来る。
本発明方法において、上述の遷移金属錯体を触媒として使用する際の形態は特に制限されず、単量体、二量体及び/又は多量体であってもかまわない。
【0048】
遷移金属錯体の使用量は、反応原料である式(1)で示される不飽和化合物、即ちアリル化合物誘導体に対して0.001重量ppm〜1000重量ppmであり、好ましくは0.001〜100重量ppm、特に好ましくは0.01〜100重量ppmの範囲である。金属濃度が高すぎると、触媒コストが増大してしまい、金属濃度が低すぎると反応速度が低く長大な反応器が必要となってしまう。
【0049】
本発明における異性化反応を実施する温度は、原料不飽和化合物(アリル化合物誘導体)の種類により異なるが、通常20〜200℃であり、好ましくは80〜180℃、特に好ましくは100℃〜160℃である。反応温度が高すぎると、遷移金属錯体触媒のメタル化による劣化が進行し、活性の消失が起こり、また反応温度が低すぎた場合には、反応速度が低下し、長大な反応器が必要となってしまう。
【0050】
本発明における異性化反応を実施する圧力は、通常1気圧であるが、減圧下又は加圧下であっても構わない。反応圧力が低すぎると反応温度の低下に伴い触媒活性が低下し、反応圧力が高すぎると反応器コストが増大してしまう。
【0051】
本発明におけるアリル化合物誘導体の異性化反応は、通常液相中で行われ、該異性化反応は溶媒の存在下、又は非存在下のいずれでも実施可能である。溶媒を使用する場合、好ましい溶媒として、触媒及び原料化合物を溶解するものであれば使用可能であり特に限定はされない。溶媒の具体例としては、ジグライム、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジアリルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸n−ブチル、γ−ブチロラクトン、ジ(n−オクチル)フタレイト等のエステル類、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−へプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素類、異性化反応で生成する副生物そのもの、または原料であるアリル化合物誘導体そのもの、生成物であるアリル化合物そのもの、原料アリル化合物の脱離基に由来する化合物等が挙げられる。特に好ましい溶媒として、原料であるアリル化合物そのもの、生成物であるアリル化合物そのもの等が挙げられる。
【0052】
溶媒の使用量は特に限定されないが、本発明の異性化反応は主に分子内反応で進行するため、従来と比較してより少ない溶媒量で行うことが望ましい。通常、原料であるアリル化合物誘導体の合計重量に対して0〜10重量倍以下、好ましくは0〜5重量倍以下、最も好ましくは0〜1重量倍以下である。溶媒量が多すぎる場合には反応速度が低下する。
【0053】
本発明方法における異性化反応は、水及び/又はアルコールの存在下行われる。アルコールとしては、炭素数1〜20の脂肪族アルコールであり、具体的には、メタノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等の1価アルコール、エチレングリコール、1,4−ブチレングリコール等の2価アルコール類が挙げられる。また、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテン、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン等の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンや1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの加水分解物であるヒドロキシ化合物もアルコールとして用いることが出来る。
【0054】
水及び/又はアルコールの量は、アルコールの種類によってもことなるが、通常、原料の一般式(1)で示されるアリル化合物誘導体に対し1重量%以上、好ましくは2重量%以上であり、40重量%以下、好ましくは20重量%以下である。水及び/又はアルコールの量が少なすぎると分子間反応が起こらず、反応速度が低下し、多すぎると配位子の分解をもたらすので好ましくない。水及び/又はアルコールが、原料アリル化合物誘導体の製造工程等に由来して存する場合、その量は蒸留・精製等により上記範囲内に調整するのが望ましい。
【0055】
本発明を実施する際の反応方式として、撹拌型の完全混合反応器やプラグフロー型の反応器を用いて、連続方式、半連続方式または回分方式のいずれでも行うことができる。反応器内の気相部は、溶媒、原料化合物、反応生成物、反応副生物、触媒分解物等に由来する蒸気以外は、アルゴンや窒素等の不活性ガスで形成されていることが望ましい。特に空気の漏れ込み等による酸素の混入が触媒劣化、即ちリン化合物の酸化消失の原因となるため、その量を極力低減させることが望ましい。
【0056】
また、異性化反応により得られた一般式(2)で示される生成物(アリル化合物)と触媒の分離は、慣用の液体触媒再循環プロセスで用いられるあらゆる分離操作を採用することができ、具体的には、単蒸留、減圧蒸留、薄膜蒸留、水蒸気蒸留等の蒸留操作のほか、気液分離、蒸発(エバポレーション)、ガスストリッピング、ガス吸収及び抽出等の分離操作が挙げられる。各分離操作は、各々独立の工程で行ってもよく、2つ以上の成分の分離を同時に行ってもよい。原料アリル化合物やリン化合物は、同様の分離方法で回収し、再び反応器にリサイクルすることも可能である。
【0057】
原料化合物として、ブタジエンの酸化ジアセトキシ化反応生成物からの3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を用いた場合、異性化後の反応液は溶媒を蒸留などで除去した後、更に3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液と1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液とに分離する。得られた3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液はそのまま、あるいは更に蒸留などで精製した後、異性化反応器へとリサイクル使用することが望ましい。また分離して得られた1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液は、そのまま、あるいは更なる蒸留などによる精製を経た後、遷移金属触媒(水素化触媒)存在下、水素化され置換基を有しても良い1,4−ジアセトキブタン化合物へと変換される。
【0058】
ここで使用する遷移金属触媒は通常の市販の水素化触媒で差し支えないが、好ましくはパラジウムまたはルテニウムなどの貴金属を含有する触媒、あるいはニッケル触媒である。水素化反応は、これら水素化触媒の存在下、40〜180℃の温度範囲で、水素と1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液とを接触させ、常圧〜15MP aの圧力範囲条件で実施することができる。反応温度が高すぎると触媒劣化が迅速に進行してしまい、温度が低すぎると反応速度が低下してしまう。圧力が低すぎると反応速度が低下してしまい、圧力が高すぎると高価な反応器が必要となってしまう。
【0059】
上記、水素化反応により得られた1,4−ジアセトキシブタン化合物は、酸触媒あるいは塩基性物質により水存在下で、加水分解され1,4−ブタンジオールなどのジオール類へと変換される。酸触媒としては、好ましくは固体酸触媒であり、特に陽イオン交換樹脂を触媒として使用するのが、加水分解速度が速く、しかもテトラヒドロフランのような副生物が少ないため好適である。具体的には、スチレンとジビニルベンゼンとの架橋共重合体を母体とするスルホン酸型強酸性陽イオン交換樹脂であり、ゲル型でもポーラス型のいずれでも差し支えない。加水分解反応は通常30〜110℃、好ましくは40〜90℃の温度条件にて実施する。温度が低すぎると加水分解速度が低下し、高価で長大な反応器が必要となる。温度が高すぎるとテトラヒドロフランなど副生物が増加して、1,4−ブタンジオールの収率が低下してしまう。水の量は、1,4−ジアセトキシブタン1モルに対し、通常2〜100モル、好ましくは4〜50モルの範囲の量を使用する。水の量が少なすぎると反応速度が低下し高価で長大な反応器が必要となる。また水の量が多すぎると、加水分解後に1,4−ブタンジオールから水を除去する際に多量のエネルギーが必要とされるために、エネルギーコストが増大してしまう。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの分析は内部標準法によるガスクロマトグラフィーにより行った。その際、内部標準としてn−ドデカンを使用した。
【0061】
参考例1
P d−T e触媒の存在下に、ブタジエン、酢酸、及び6%酸素/94%窒素混合ガスを流通させ、80℃、6MP aの条件でアセトキシ化反応させて、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンが80重量%、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが9重量%、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン及び4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテンが計2重量%、酢酸4重量%、その他3,4−ジアセトキシ−1一ブテンよりも軽沸分3重量%、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも高沸分2重量%を含む混合液を得た。
【0062】
この混合液5.0kgを回分蒸留にかけ、塔頂部から3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を、塔底から1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を抜き出した。尚、蒸留は40段のオルグーショウ蒸留塔を使用した。また塔頂圧力は20mmHg、還流比は3、塔頂温度は98〜104℃、塔底温度は140〜160℃の温度範囲において塔頂から500gの留出液(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液)が得られた。本留出液中の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの含有量は75重量%であり、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有量は1重量%以下であった。また、本留出液中には、水0.5重量%が含有されていた。
【0063】
比較例1
窒素ガス雰囲気下、9ccのガラス製フラスコに2.2mgの酢酸パラジウム、下記式で表される配位子40mg、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン(アルドリッチ社製)1.0ccを加え、蓋をした後、120℃で4時間加熱攪拌を行った。その結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比は43:57であり、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの収率は43%であった。
【0064】
【化7】

【0065】
実施例1
比較例1において、脱塩水10μlを加えた以外は同じ条件で、120℃で4時間加熱攪拌を行った。その結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比は49:51であり、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの収率は49%であった。
【0066】
実施例2
比較例1において、1,4−ブテン−2−オールを50μl加えた以外は同じ条件で、120℃で4時間加熱攪拌を行った。その結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比は46:54であり、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの収率は46%であった。
【0067】
実施例3
比較例1において、参考例1で得られた3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液1.0ccを用いた以外は同じ条件で、120℃で4時間加熱攪拌を行った。その結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比は54:46であり、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの収率は54%であった。
【0068】
参考例2
窒素ガス雰囲気下、9ccのガラス製フラスコに2.2mgの酢酸パラジウム、下記式で表される配位子28.8mg、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン(アルドリッチ社製)1.0ccを加え、蓋をした後、120℃で4時間加熱攪拌を行った。その結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比は61:39であり、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの収率は61%であった。
【0069】
【化8】

【0070】
比較例2
参考例2において、脱塩水10μlを加えた以外は同じ条件で、120℃で4時間加熱攪拌を行った。その結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比は9:91であり、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの収率は9%であった。
【0071】
比較例3
参考例2において、1,4−ブテン−2−オールを50μl加えた以外は同じ条件で、120℃で4時間加熱攪拌を行った。その結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比は10:90であり、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの収率は10%であった。
【0072】
比較例4
参考例2において、参考例1で得られた3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液1.0ccを用いた以外は同じ条件で、120℃で4時間加熱攪拌を行った。その結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比は10:90であり、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの収率は10%であった。
【0073】
参考例3
窒素ガス雰囲気下、9ccのガラス製フラスコに2.2mgの酢酸パラジウム、下記式で表される配位子27mg、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン(アルドリッチ社製)1.0ccを加え、蓋をした後、120℃で4時間加熱攪拌を行った。その結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比は51:49であり、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの収率は51%であった。
【0074】
【化9】

【0075】
比較例5
参考例3において、参考例1で得られた3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液1.0ccを用いた以外は同じ条件で、120℃で4時間加熱攪拌を行った。その結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比は22:78であり、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの収率は22%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表第8族〜第10族遷移金属の遷移金属錯体を少なくとも1種含む触媒、並びに水及び/又はアルコールの存在下、下記一般式(1)で示されるアリル化合物誘導体を異性化反応させ下記一般式(2)で示される異性化化合物を製造する方法において、該遷移金属錯体が下記一般式(a)で示される配位子を有することを特徴とする異性化化合物の製造方法。
【化1】

[一般式(1)中、RA〜REは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。Xは電子吸引基を表し、上記一般式(2)中、RA〜RE及びXは、上記一般式(1)におけるRA〜RE及びXと同義である。但し、上記一般
式(1)で表されるアリル化合物誘導体と上記一般式(2)で表される異性化化合物とは、同一の化合物を表さない。)
【化2】

[一般式(a)中、Ra〜Rdは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。また、RaとRb、及びRcとRdは互いに連結してそれらの結合炭素を含む芳香環を形成してもよく、形成された芳香環は更に置換基を有していてもよい。R1〜R4は、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。また、R1〜R4は連結して環を形成してもよく、形成された環は更に置換基を有していてもよい。]
【請求項2】
水及び/又はアルコールが、一般式(1)で示されるアリル化合物誘導体に対し1重量 %〜40重量%存在することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
一般式(a)中、RaとRb、RcとRdとがそれぞれ互いに連結して形成する芳香環が、ベンゼン環又はナフタレン環であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(a)中、R1及びR2の少なくともいずれか一方が、またR3及びR4の少なくともいずれか一方が置換基を有していてもよいアリール基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
該アリール基がフェニル基又はナフチル基であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
第8族〜第10族の遷移金属がパラジウム及び/又は白金であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
一般式(1)で示されるアリル化合物誘導体が、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンであり、一般式(2)で示される異性化化合物が1,4−ジアセトキシ−2−ブテンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが、ブタジエンの酸化ジアセトキシ化反応生成物から得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを主成分とする含有液であることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
パラジウム含有固体触媒を用いたブタジエンの酸化ジアセトキシ化反応生成物から、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを主成分とする含有液を取得し、該含有液を請求項1に記載の遷移金属錯体を含む触媒、並びに水及び/又はアルコールの存在下異性化反応させ、異性化反応生成物から1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを分離し、未反応3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを含有する異性化反応生成物を異性化反応に戻すことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−19009(P2009−19009A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182845(P2007−182845)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】