説明

アリール複素環誘導体及び農園芸用殺菌剤

【課題】
工業的に有利に合成でき、効果が確実で、安全に使用できる農園芸用殺菌剤の有効成分となりうるアリール複素環誘導体及びその塩、並びにこれらの化合物を有効成分とする農園芸用殺菌剤を提供する。
【解決手段】
式(1)で示されるアリ−ル複素環誘導体又はその塩、及びこれらの1種又は2種以上を有効成分として含有する農園芸用殺菌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なアリール複素環誘導体又はその塩、及びこれらを有効成分として含有する農園芸用殺菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
農園芸作物の栽培に当り、作物の病害に対して多数の防除薬剤が使用されているが、その防除効力が不十分であったり、薬剤耐性の病原菌の出現によりその使用が制限されたり、また植物体に薬害や汚染を生じたり、あるいは人畜魚類に対する毒性や環境への影響の観点から、必ずしも満足すべき防除薬とは言い難いものが少なくない。従って、かかる欠点の少ない安全に使用できる薬剤の出現が強く要請されている。
【0003】
本発明に関連して、特許文献1等には、下記式で示される化合物が殺菌活性を有する旨が開示されているが、RとRが一緒になって環を形成している化合物は記載されていない。
【0004】
【化1】

【0005】
(式中、A’は−NHNH−等を、G’は酸素原子等を、X、Yはハロゲン原子等を、R、Rはアルキル基等を、Rはアルキル基、アルコキシ基等を、Q’はヘテロ環基等を、m’は0〜4の整数を、n’は0〜5の整数をそれぞれ表す。)
【特許文献1】WO2005/051932号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、工業的に有利に合成でき、効果が確実で、安全に使用できる農園芸用殺菌剤の有効成分となりうるアリール複素環誘導体及びその塩、並びにこれらの化合物を有効成分とする農園芸用殺菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は第1に、式(1)
【0008】
【化2】

【0009】
〔式中、Rは、C1−6アルキル基またはC1−6アルコキシ基を表す。
は、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−6ヒドロキシアルキル基、C1−6アルキルオキシC1−6アルキル基、またはC1−6アルキルカルボニルオキシC1−6アルキル基を表す。
mは0〜4の整数を表す。mが2以上のとき、R同士は同一であっても相異なっていてもよい。
は、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−6ヒドロキシアルキル基、C1−6アルキルオキシC1−6アルキル基、またはC1−6アルキルカルボニルオキシC1−6アルキル基を表す。
nは0〜5の整数を表す。nが2以上のとき、R同士は同一であっても相異なっていてもよい。
Gは酸素原子または硫黄原子を表す。
Aは、下記の式(2)〜(4)で表されるいずれかの基を表す。
【0010】
【化3】

【0011】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C1−6アルキルカルボニル基、またはC1−6ハロアルキルカルボニル基を表す。
、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、またはC1−6アルキル基を表す。
kは1〜4の整数を表す。kが2以上のとき、式:−C(R)(R)−で表される基同士は同一であっても相異なっていてもよい。)
Qは、下記の式(5)〜(9)で表されるいずれかの基を表す。
【0012】
【化4】

【0013】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、またはC1−6アルキルカルボニル基を表し、Eは酸素原子または硫黄原子を表し、gは0〜3の整数を表す。)〕で示されるアリール複素環誘導体及びその塩を提供する。
本発明は第2に、前記式(1)で示されるアリール複素環誘導体若しくはその塩の1種または2種以上を有効成分として含有する農園芸用殺菌剤を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有用植物の病害防除に対して優れた防除効力を有する、新規なアリール複素環誘導体またはその塩、及びこれらの1種または2種以上を有効成分として含有する農園芸用殺菌剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
1)アリール複素環誘導体及びその塩
本発明の第1は、前記式(1)で表されるアリール複素環誘導体(以下、「アリール複素環誘導体(1)」ということがある。)、及びその塩である。
【0016】
前記式(1)中、Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等のC1−6アルキル基;又は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基等のC1−6アルコキシ基を表す。
【0017】
は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等のC1−6アルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のC1−6アルコキシ基;ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基等のC1−6ヒドロキシアルキル基;メトキシメチル基、エトキシメチル基、1−メトキシエチル基、2−メトキシエチル基等のC1−6アルキルオキシC1−6アルキル基;又は、アセトキシメチル基、プロポキシメチル基、1−アセトキシエチル基、2−アセトキシエチル基等のC1−6アルキルカルボニルオキシC1−6アルキル基;を表す。
【0018】
mは0〜4の整数を表す。mが2以上のとき、R同士は同一であっても相異なっていてもよい。
【0019】
は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等のC1−6アルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のC1−6アルコキシ基;ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基等のC1−6ヒドロキシアルキル基;メトキシメチル基、エトキシメチル基、1−メトキシエチル基、2−メトキシエチル基等のC1−6アルキルオキシC1−6アルキル基;又は、アセトキシメチル基、プロポキシメチル基、1−アセトキシエチル基、2−アセトキシエチル基等のC1−6アルキルカルボニルオキシC1−6アルキル基;を表す。
【0020】
nは0〜5の整数を表す。nが2以上のとき、R同士は同一であっても相異なっていてもよい。
Gは酸素原子または硫黄原子を表す。
【0021】
Aは、前記式(2)〜(4)で表されるいずれかの基を表す。
式(2)、(3)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等のC1−6アルキル基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基等のC1−6アルキルカルボニル基;又は、ジフルオロアセチル基、トリフルオロアセチル基等のC1−6ハロアルキルカルボニル基;を表す。
【0022】
前記式(2)中、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子;又は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等のC1−6アルキル基;を表す。
【0023】
kは1〜4の整数を表す。kが2以上のとき、式:−C(R)(R)−で表される基同士はそれぞれ同一であっても相異なっていてもよい。
【0024】
Qは、前記式(5)〜(9)で表されるいずれかの基を表す。
式(5)〜(9)中、Rは、水素原子;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等のC1−6アルキル基;又は、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基等のC1−6アルキルカルボニル基;を表す。
Eは酸素原子又は硫黄原子を表す。
また、gは0〜3の整数を表す。
【0025】
アリール複素環誘導体(1)は、以下に述べる製造方法により製造することができる。アリール複素環誘導体(1)の製造方法は、アリール複素環誘導体(1)を製造することができるものであればよく、これらに限定されるものではない。
【0026】
(製造方法1)
アリ−ル複素環誘導体(1)のうち、式(1−1)で示される化合物は、下記に示すように、式(I)で示される化合物と式(II)で示される化合物とを、所望により塩基の存在下に反応させることにより製造することができる。
【0027】
【化5】

【0028】
(式中、R1、R2、R、R9、A、G、m、nは前記と同じ意味を表す。Yは、ハロゲン原子等の脱離基を表す。)
【0029】
前記式(II)で示される化合物の使用量は、前記式(I)で示される化合物に対し、通常0.5〜5倍モル、好ましくは0.7〜2倍モルである。
【0030】
この反応に用いる塩基としては、特に制限されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基;ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、4−ジメチルアミノピリジン、N−メチルピロリジン、N−メチルモルホリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の有機塩基;等が挙げられる。
塩基の使用量は、式(I)で示される化合物に対し、通常、1〜10倍モル、好ましくは1〜3倍モルである。
【0031】
この反応は溶媒存在下または無溶媒で行うことができる。
用いる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオンニトリル等のニトリル系溶媒;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;水;及び、これらの溶媒の二種以上からなる混合溶媒;が挙げられる。
【0032】
反応温度は、通常、−78℃〜+200℃、好適には−20℃〜+100℃の範囲である。
反応時間は反応試剤の種類や反応規模等にも依存するが、通常、30分から100時間である。
【0033】
前記式(II)で示される化合物は、例えば、下記に示すように、式(III)で示される化合物にハロゲン化剤を作用させることにより製造することができる。
【0034】
【化6】

【0035】
(式中、R、R9、nは前記と同じ意味を表す。Y’はハロゲン原子を表す。)
用いるハロゲン化剤としては、特に限定されず、例えば、塩化チオニル、臭化チオニル、塩化スルフリル、塩素、臭素等が挙げられる。
【0036】
前記式(III)で示される化合物は、例えば、下記に示すように、式(IV)で示される化合物と式(V)で示される化合物とを、所望により塩基の存在下に反応させることにより、製造することができる。
【0037】
【化7】

【0038】
(式中、R、R9、nは前記と同じ意味を表す。Lはハロゲン原子等の脱離基を表す。)
【0039】
式(V)で示される化合物の使用量は、式(IV)で示される化合物に対し、通常1〜5倍モルの範囲、好ましくは1〜2倍モルである。
【0040】
この反応に用いる塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム,水素化ナトリウム等の無機塩基;ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、4−ジメチルアミノピリジン、N−メチルピロリジン、N−メチルモルホリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の有機塩基;等が挙げられる。
塩基の使用量は、前記式(IV)で示される化合物に対し、通常1〜10倍モル、好ましくは1〜5倍モルである。
【0041】
この反応は溶媒存在下または無溶媒で行うことができる。
用いる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオンニトリル等のニトリル系溶媒;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;水;及び、これら二種以上からなる混合溶媒;が挙げられる。
【0042】
反応温度は、通常、−78℃〜+200℃、好適には−20℃〜+100℃の範囲である。
反応時間は反応試剤の種類や反応規模等にも依存するが、通常、30分から100時間である。
【0043】
(製造方法2)
前記式(1)で示されるアリ−ル複素環誘導体のうち、式(1−2)で示される化合物は、下記に示すように、式(VI)で示される化合物を、所望により塩基又は酸の存在下に閉環させることにより、製造することができる。
【0044】
【化8】

【0045】
(式中、R1、R2、R、A、G、m、nは前記と同じ意味を表す。)
反応に用いる塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基;ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、4−ジメチルアミノピリジン、N−メチルピロリジン、N−メチルモルホリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の有機塩基;等が挙げられる。
塩基の使用量は、式(VI)で示される化合物に対し、通常0.01〜10倍モル、好ましくは0.1〜3倍モルである。
【0046】
用いる酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸;トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸;等が挙げられる。
酸の使用量は、式(VI)で示される化合物に対し、通常0.01〜10倍モル、好ましくは0.1〜3倍モルである。
【0047】
この反応は溶媒存在下または無溶媒で行うことができる。
使用できる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトニトリル、プロピオンニトリル等のニトリル系溶媒、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、水及び、これらの溶媒の2種以上からなる混合溶媒;が挙げられる。
【0048】
反応温度は、−78℃〜+200℃、好適には−20℃〜+100℃の範囲である。
反応時間は反応試剤の種類や反応規模等にも依存するが、通常、30分から100時間である。
【0049】
式(VI)で示される化合物は、例えば、下記に示すように、式(VII)で示される化合物と式(VIII)で示される化合物とを、所望により塩基あるいは脱水剤存在下に反応させることにより、製造することができる。
【0050】
【化9】

【0051】
(式中、R1、R2、R、A、G、m、nは前記と同じ意味を表す。Xは、水酸基またはハロゲン原子等の脱離基を表す。)
式(VIII)で示される化合物の使用量は、式(VII)で示される化合物に対し、通常1〜5倍モルの範囲であり、好適には1〜2倍モルである。
【0052】
この反応に用いる塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基;ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、4−ジメチルアミノピリジン、N−メチルピロリジン、N−メチルモルホリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の有機塩基;等が挙げられる。
塩基の使用量は式(VII)で示される化合物に対し、通常1〜10倍モル、好ましくは1〜3倍モルである。
【0053】
脱水剤としては、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩等のカルボジイミド類等が挙げられる。
また、脱水剤を用いる反応方法として、光延反応法(例えば、J.Chem.Soc.,Perkin Trans I.,1708(1976)参照)を採用することもできる。
【0054】
この反応は溶媒存在下または無溶媒で行うことができる。
用いる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒;アセトニトリル、プロピオンニトリル等のニトリル系溶媒;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;水;及び、これらの溶媒の二種以上からなる混合溶媒;が挙げられる。
【0055】
反応温度は、−78℃〜+200℃、好適には−20℃〜+100℃の範囲である。
反応時間は反応試剤の種類や反応規模等にも依存するが、通常、30分から100時間である。
【0056】
式(VIII)で示される中間体化合物は、下記に示すように、式(IX)で示される化合物を、公知の加水分解方法、例えば、硫酸等の酸の存在下に加水分解する方法により製造することができる。
【0057】
【化10】

【0058】
(式中、R、nは前記と同じ意味を表す。)
式(IX)で示される化合物は、例えば、下記に示すように、式(X)で示される化合物と式(V)で示される化合物とを、所望により塩基の存在下に反応させることにより製造することができる。
【0059】
【化11】

【0060】
(式中、R、n、Lは前記と同じ意味を表す。)
式(V)で示される化合物の使用量は、式(X)で示される化合物に対し、通常1〜5倍モルの範囲であり、好適には1〜2倍モルである。
【0061】
反応に用いる塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム,水素化ナトリウム等の無機塩基;ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、4−ジメチルアミノピリジン、N−メチルピロリジン、N−メチルモルホリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の有機塩基;等が挙げられる。
塩基の使用量は、式(X)で示される化合物に対し、通常1〜10倍モル、好ましくは1〜5倍モルである。
【0062】
この反応は溶媒存在下または無溶媒で行うことができる。
使用できる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオンニトリル等のニトリル系溶媒;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;水;及び、これらの溶媒の二種以上からなる混合溶媒;が挙げられる。
【0063】
反応温度は、−78℃〜+200℃、好適には−20℃〜+100℃の範囲である。
反応時間は反応試剤の種類や反応規模等にも依存するが、通常、30分から100時間である。
【0064】
アリール複素環誘導体(1)の塩としては、農園芸学的に許容される塩であれば特に制限されない。例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸の塩;酢酸塩、乳酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩等の有機酸の塩;等が挙げられる。これらの塩は、アリール複素環誘導体(1)と対応する酸とから、従来公知の方法により製造することができる。
【0065】
いずれの反応においても、反応終了後、有機合成化学における通常の分離・精製手段により、目的物を単離することができる。
目的物の構造は、NMRスペクトル、IRスペクトル、マススペクトル等の測定、元素分析等の公知の分析手段により、同定・確認することができる。
【0066】
以上のようにして得られる本発明化合物(アリール複素環誘導体(1)またはその塩)は、広範囲の種類の糸状菌、例えば、卵菌類(Oomycetes)、子のう(嚢)菌類(Ascomycetes),不完全菌類(Deuteromycetes),担子菌類(Basidiomycetes)に属する菌に対し優れた殺菌力を有する。従って、本発明化合物を有効成分とする組成物は、花卉、芝、牧草を含む農園芸作物の栽培に際し発生する種々の病害の防除に、種子処理、茎葉散布、土壌施用または水面施用等により使用することができる。
【0067】
本発明化合物が有効な病害としては、例えば、次のものが挙げられる。
テンサイ 褐斑病(Cercospora beticola)
ラッカセイ 褐斑病(Mycosphaerella arachidis)
黒渋病(Mycosphaerella berkeleyi)
キュウリ うどんこ病(Sphaerotheca fuliginea)
つる枯病(Mycosphaerella melonis)
菌核病(Sclerotinia sclerotiorum)
灰色かび病(Botrytis cinerea)
黒星病(Cladosporium cucumerinum)
トマト 灰色かび病(Botrytis cinerea)
葉かび病(Cladosporium fulvum)
ナス 灰色かび病(Botrytis cinerea)
黒枯病(Corynespora melongenae)
うどんこ病(Erysiphe cichoracearum)
イチゴ 灰色かび病(Botrytis cinerea)
うどんこ病(Sohaerotheca humuli)
タマネギ 灰色腐敗病(Botrytis allii)
灰色かび病(Botrytis cinerea)
インゲン 菌核病(Sclerotinia sclerotiorum)
灰色かび病(Botrytis cinerea)
りんご うどんこ病(Podosphaera leucotricha)
黒星病(Venturia inaequalis)
モニリア病(Monilinia mali)
カキ うどんこ病(Phyllactinia kakicola)
炭そ病(Gloeosporium kaki)
角斑落葉病(Cercospora kaki)
【0068】
モモ・オウトウ 灰星病(Monilinia fructicola)
ブドウ 灰色かび病(Botrytis cinerea)
うどんこ病(Uncinula necator)
晩腐病(Glomerella cingulata)
ナシ 黒星病(Venturia nashicola)
赤星病(Gymnosporangium asiaticum)
黒斑病(Alternaria kikuchiana)
チャ 輪斑病(Pestalotia theae)
炭そ病(Colletotrichum theae−sinensis)
カンキツ そうか病(Elsinoe fawcetti)
青かび病(Penicillium italicum)
緑かび病(Penicillium digitatum)
灰色かび病(Botrytis cinerea)
オオムギ うどんこ病(Erysiphe graminis f.sp.hordei)
裸黒穂病(Ustilago nuda)
コムギの赤かび病(Gibberella zeae)
赤さび病(Puccinia recondita)
斑点病(Cochliobolus sativus)
眼紋病(Pseudocercosporella herpotrichoides)
ふ枯病(Leptosphaeria nodorum)
うどんこ病(Erysiphe graminis f.sp.tritici)
紅色雪腐病(Micronectriella nivalis)
【0069】
イネ いもち病(Pyricularia oryzae)
紋枯病(Rhizoctonia solani)
馬鹿苗病(Gibberella fujikuroi)
ごま葉枯病(Cochliobolus niyabeanus)
タバコ 菌核病(Sclerotinia sclerotiorum)
うどんこ病(Erysiphe cichoracearum)
チューリップ 灰色かび病(Botrytis cinerea)
ベントグラス 雪腐大粒菌核病(Sclerotinia borealis)
オーチャードグラス うどんこ病(Erysiphe graminis)
ダイズ 紫斑病(Cercospora kikuchii)
ジャガイモ・トマト 疫病(Phytophthora infestans)
キュウリ べと病(Pseudoperonospora cubensis)
ブドウ べと病(Plasmopara viticola)
等の防除に使用することができる。
【0070】
また、近年種々の病原菌においてベンズイミダゾール系殺菌剤やジカルボキシイミド系殺菌剤等に対する耐性が発達し、それらの薬剤の効力不足を生じており、耐性菌にも有効な薬剤が望まれている。本発明化合物は、それら薬剤に対し感受性の病原菌のみならず、耐性菌にも優れた殺菌効果を有する薬剤である。
【0071】
例えば、チオファネートメチル、ベノミル、カルベンダジム等のベンズイミダゾール系殺菌剤に耐性を示す灰色かび病菌(Botrytis cinerea)やテンサイ褐斑病菌(Cercospora beticola)、リンゴ黒星病菌(Venturia inaequalis)、ナシ黒星病菌(Venturia nashicola)に対しても感受性菌と同様に本発明化合物は有効である。
【0072】
さらに、ジカルボキシイミド系殺菌剤(例えば、ビンクロゾリン、プロシミドン、イプロジオン)に耐性を示す灰色かび病菌(Botrytis cinerea)に対しても感受性菌と同様に本発明化合物は有効である。
【0073】
適用がより好ましい病害としては、テンサイの褐斑病、コムギのうどんこ病、イネのいもち病、リンゴ黒星病、キュウリの灰色かび病、ラッカセイの褐斑病等が挙げられる。
【0074】
また本発明化合物は薬害が少なく、魚類や温血動物への毒性が低く、安全性の高い薬剤である。
【0075】
2)農園芸用殺菌剤
本発明の農園芸用殺菌剤は、本発明化合物の一種または二種以上を有効成分として含有することを特徴とする。
【0076】
本発明の農園芸用殺菌剤は、本発明化合物の一種または二種以上を他成分を加えず純粋な形で含有するものであっても、また農薬として使用する目的で一般の農薬のとり得る形態、即ち、水和剤、粒剤、粉剤、乳剤、水溶剤、懸濁剤、顆粒水和剤等の形態であってもよい。
【0077】
農薬製剤中に添加することのできる添加剤及び担体としては、固型剤を目的とする場合は、大豆粉、小麦粉等の植物性粉末、珪藻土、燐灰石、石こう、タルク、ベントナイト、パイロフィライト、クレー等の鉱物性微粉末、安息香酸ソーダ、尿素、芒硝等の有機及び無機化合物が挙げられる。
【0078】
また、液体の剤型を目的とする場合は、ケロシン、キシレン及び石油系の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アルコール、アセトン、トリクロルエチレン、メチルイソブチルケトン、鉱物油、植物油、水等を溶剤として使用することができる。
【0079】
さらに、これらの製剤において均一かつ安定な形態をとるために、必要に応じ界面活性剤を添加することもできる。
添加することができる界面活性剤としては特に限定はないが、例えば、ポリオキシエチレンが付加したアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンが付加したアルキルエーテル、ポリオキシエチレンが付加した高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンが付加したソルビタン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンが付加したトリスチリルフェニルエーテル等の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンが付加したアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩のホルムアルデヒド縮合物、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0080】
このようにして得られた水和剤、乳剤、フロアブル剤,水溶剤,顆粒水和剤は水で所定の濃度に希釈して、溶解液、懸濁液あるいは乳濁液として、粉剤や粒剤はそのまま植物に散布する方法で使用される。
【0081】
本発明の農園芸用殺菌剤中に含まれる有効成分の量は、特に限定されないが、組成物(製剤)全体に対して好ましくは0.01〜90重量%、より好ましくは0.05〜85重量%である。
【0082】
製剤化された本発明の殺菌剤組成物は、そのままで、或いは水等で希釈して、植物体、種子、水面または土壌に施用される。施用量は、気象条件、製剤形態、施用時期、施用方法、施用場所、防除対象病害、対象作物等により異なるが、通常1ヘクタール当たり有効成分化合物量にして1〜1,000g、好ましくは10〜100gである。
【0083】
水和剤、乳剤、懸濁剤、水溶剤、顆粒水和剤等を水で希釈して施用する場合、その施用濃度は1〜1000ppm、好ましくは10〜250ppmであり、粒剤、粉剤等の場合は、希釈することなくそのまま施用する。
【0084】
なお、本発明化合物は単独でも十分有効であることは言うまでもないが、各種の殺菌剤や殺虫・殺ダニ剤または共力剤の1種または2種以上と混合して使用することもできる。これらの殺菌剤や殺虫・殺ダニ剤、共力剤は、本発明の農園芸用殺菌剤に含有させることができるし、本発明の農園芸用殺菌剤を施用する際に混合して使用することもできる(いわゆるタンクミックス)。
【0085】
本発明化合物と混合して使用できる殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、植物生長調節剤の代表例を以下に示す。
【0086】
殺菌剤:
キャプタン、フォルペット、チウラム、ジラム、ジネブ、マンネブ、マンコゼブ、プロピネブ、ポリカーバメート、クロロタロニン、キントーゼン、キャプタホル、イプロジオン、プロサイミドン、フルオロイミド、メプロニル、フルトラニル、ペンシクロン、オキシカルボキシン、ホセチルアルミニウム、プロパモカーブ、トリアジメホン、トリアジメノール、プロピコナゾール、ジクロブトラゾール、ビテルタノール、ヘキサコナゾール、マイクロブタニル、フルシラゾール、エタコナゾール、フルオトリマゾール、フルトリアフェン、ペンコナゾール、ジニコナゾール、サイプロコナゾーズ、フェナリモール、トリフルミゾール、プロクロラズ、イマザリル、ペフラゾエート、トリデモルフ、フェンプロピモルフ、トリホリン、ブチオベート、ピリフェノックス、アニラジン、ポリオキシン、メタラキシル、オキサジキシル、フララキシル、イソプロチオラン、プロベナゾール、ピロールニトリン、ブラストサイジンS、カスガマイシン、バリダマイシン、硫酸ジヒドロストレプトマイシン、ベノミル、カルベンダジム、チオファネートメチル、ヒメキサゾール、塩基性塩化銅、塩基性硫酸銅、フェンチンアセテート、水酸化トリフェニル錫、ジエトフェンカルブ、キノメチオナート、ビナパクリル、レシチン、重曹、ジチアノン、ジノカップ、フェナミノスルフ、ジクロメジン、グアザチン、ドジン、IBP、エディフェンホス、メパニピリム、フェルムゾン、トリクラミド、メタスルホカルブ、フルアジナム、エトキノラック、ジメトモルフ、ピロキロン、テクロフタラム、フサライド、フェナジンオキシド、チアベンダゾール、トリシクラゾール、ビンクロゾリン、シモキサニル、シクロブタニル、グアザチン、プロパモカルブ塩酸塩、オキソリニック酸、シフルフェナミド、イミノクタジン、クレソキシムメチル、トリアジン、フェンヘキサミド、シアゾファミド、シプロジニル、プロチオコナゾール、フェンブコナゾール、トリフロキシストロビン、アゾキシストロビン、ヘキサコナゾール、イミベンコナゾール、テブコナゾール、ジフェノコナゾール、キノメチオナート、カルプロパミド。
【0087】
殺虫・殺ダニ剤:
有機燐及びカーバメート系殺虫剤:
フェンチオン、フェニトロチオン、ダイアジノン、クロルピリホス、ESP、バミドチオン、フェントエート、ジメトエート、ホルモチオン、マラソン、トリクロルホン、チオメトン、ホスメット、ジクロルボス、アセフェート、EPBP、メチルパラチオン、オキシジメトンメチル、エチオン、サリチオン、シアノホス、イソキサチオン、ピリダフェンチオン、ホサロン、メチダチオン、スルプロホス、クロルフェンビンホス、テトラクロルビンホス、ジメチルビンホス、プロパホス、イソフェンホス、エチルチオメトン、プロフェノホス、ピラクロホス、モノクロトホス、アジンホスメチル、アルディカルブ、メソミル、チオジカルブ、カルボフラン、カルボスルファン、ベンフラカルブ、フラチオカルブ、プロポキスル、BPMC、MTMC、MIPC、カルバリル、ピリミカーブ、エチオフェンカルブ、フェノキシカルブ、カルタップ、チオシクラム、ベンスルタップ等。
【0088】
ピレスロイド系殺虫剤:
ペルメトリン、シペルメトリン、デルタメスリン、フェンバレレート、フェンプロパトリン、ピレトリン、アレスリン、テトラメスリン、レスメトリン、ジメスリン、プロパスリン、フェノトリン、プロトリン、フルバリネート、シフルトリン、シハロトリン、フルシトリネート、エトフェンプロックス、シクロプロトリン、トラロメトリン、シラフルオフェン、アクリナトリン等。
【0089】
ベンゾイルウレア系その他の殺虫剤:
ジフルベンズロン、クロルフルアズロン、ヘキサフルムロン、トリフルムロン、フルフェノクスロン、フルシクロクスロン、ブプロフェジン、ピリプロキシフェン、メトプレン、ベンゾエピン、ジアフェンチウロン、イミダクロプリド、フィプロニル、硫酸ニコチン、ロテノン、メタアルデヒド、アセタミプリド、クロルフェナピル、ニテンピラム、チアクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム、ジノテフラン、インドキサカルブ、ピメトロジン、スピノサド、エマメクチン、ピリダリル、テブフェノジド、クロマフェノジド、メトキシフェノジド、トルフェンピラド、機械油、BTや昆虫病原ウイルス等の微生物農薬等。
【0090】
殺線虫剤:
フェナミホス、ホスチアゼート、カズサホス等。
殺ダニ剤:
クロルベンジレート、フェニソブロモレート、ジコホル、アミトラズ、BPPS、ベンゾメート、ヘキシチアゾクス、酸化フェンブタスズ、ポリナクチン、キノメチオネート、CPCBS、テトラジホン、アベルメクチン、ミルベメクチン、クロフェンテジン、シヘキサチン、ピリダベン、フェンピロキシメート、テブフェンピラド、ピリミジフェン、フェノチオカルブ、ジエノクロル、フルアクリピリム、アセキノシル、ビフェナゼート、エトキサゾール、スピロディクロフェン、フェナザキン等。
【0091】
植物生長調節剤:
ジベレリン類(例えばジベレリンA3、ジベレリンA4、ジベレリンA7)IAA、NAA。
【実施例】
【0092】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0093】
(実施例1)N’−(2−クロロ−5−{4−[1−(2−フルオロフェニル)シクロプロピル]チアゾール−2−イル}フェニル)ヒドラジンカルボン酸メチルの製造
(1)1−[1−(2−フルオロフェニル)シクロプロピル]エタノンの製造
【0094】
【化12】

【0095】
1−(2−フルオロフェニル)プロパン−2−オン5.0g(32.9mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド50mlに溶解させた。0℃で60%油性水素化ナトリウム1.58g(39.5mmol)を加えた後、1,2−ジブロモエタン7.4g(39.4mmol)を添加し、同温度で1時間攪拌した。室温まで昇温した後,反応混合物に60%油性水素化ナトリウム1.58g(39.5mmol)をさらに加えた。室温で2時間攪拌した後、反応混合物を0℃に冷却し、1,2−ジブロモエタン3.1g(16.5mmol)を添加し、室温まで昇温し1時間攪拌した。反応混合物を氷水にあけ、酢酸エチルにて抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥、ろ別後、ろ液から溶媒を減圧留去した。得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ベンゼン−酢酸エチル=19:1(体積比))にて精製して、目的とする1−[1−(2−フルオロフェニル)シクロプロピル]エタノン2.5gを得た。収率43%
【0096】
(2)N’−(2−クロロ−5−{4−[1−(2−フルオロフェニル)シクロプロピル]チアゾール−2−イル}フェニル)ヒドラジンカルボン酸メチルの製造
【0097】
【化13】

【0098】
上記で得た1−[1−(2−フルオロフェニル)シクロプロピル]エタノン0.32g(1.8mmol)をベンゼン5mlに溶解させた溶液に、臭素0.30g(1.9mmol)のベンゼン(3ml)溶液を加え、40℃にて2時間熟成した。反応液を濃縮することにより、2−ブロモ−1−[1−(2−フルオロフェニル)シクロプロピル]エタノンの粗生成物を得た。得られた2−ブロモ−1−[1−(2−フルオロフェニル)シクロプロピル]エタノンの粗生成物をメタノール10mlに溶解させた溶液に、N’−(2−クロロ−5−チオカルバモイルフェニル)ヒドラジンカルボン酸メチル0.33g(1.4mmol)を加え、1時間還流した。反応混合物を氷水にあけ、酢酸エチルにて抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥、ろ別後、ろ液から溶媒を減圧留去した。得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ベンゼン−酢酸エチル=19:1(体積比))にて精製して、目的とするN’−(2−クロロ−5−{4−[1−(2−フルオロフェニル)シクロプロピル]チアゾール−2−イル}フェニル)ヒドラジンカルボン酸メチル0.18gを得た。収率34%
実施例1と同様にして製造される化合物を第1表及び第2表に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
上記第1表及び第2表中、化合物番号40、54、59の化合物のH−NMRスペクトルデータを以下に示す。
【0102】
*1 化合物番号(40)のH−NMR(CDCl,TMS,δppm);
7.6−7.0(m,7H),6.7(br,1H),6.40(s,1H),6.3(br,1H),3.78(s,3H),1.75(dd,2H),1.30(dd,2H)
【0103】
*2 化合物番号(54)のH−NMR(CDCl,TMS,δppm);
7.7−7.2(m,7H),7.0(br,1H),6.44(s,1H),6.3(br,1H),3.77(s,3H),1.82(dd,2H),1.37(dd,2H)
【0104】
*3 化合物番号(59)のH−NMR(CDCl,TMS,δppm);
7.6−7.0(m,7H),6.7(br,1H),6.41(s,1H),6.3(br,1H),3.77(s,3H),2.36(s,3H),1.64(dd,2H),1.29(dd,2H)
【0105】
次に、本発明の殺菌殺虫剤組成物の実施例を若干示す。各種添加物及びその添加割合は、以下の実施例に限定されるべきものではなく、広範囲に変化させることが可能である。製剤実施例中の部は重量部を示す。
【0106】
(製剤実施例1) 水和剤
本発明化合物 40部
クレー 48部
ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩 4部
リグニンスルホン酸ナトリウム塩 8部
以上を均一に混合して微細に粉砕して、有効成分40%の水和剤を得た。
【0107】
(製剤実施例2) 乳剤
本発明化合物 10部
ソルベッソ200 53部
シクロヘキサノン 26部
ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム塩 1部
ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル 10部
以上を混合溶解して、有効成分10%の乳剤を得た。
【0108】
(製剤実施例3) 粉剤
本発明化合物 10部
クレー 90部
以上を均一に混合、微細に粉砕して、有効成分10%の粉剤を得た。
【0109】
(製剤実施例4) 粒剤
本発明化合物 5部
クレー 73部
ベントナイト 20部
ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩 1部
リン酸カリウム 1部
以上をよく粉砕混合し、水を加えてよく練り合せた後、造粒乾燥して有効成分5%の粒剤を得た。
【0110】
(製剤実施例5) 懸濁剤
本発明化合物 10部
ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル 4部
ポリカルボン酸ナトリウム塩 2部
グリセリン 10部
キサンタンガム 0.2部
水 73.8部
以上を混合し、粒度が3ミクロン以下になるまで湿式粉砕して、有効成分10%の懸濁剤を得た。
【0111】
(製剤実施例6) 顆粒水和剤
本発明化合物 40部
クレー 36部
塩化カリウム 10部
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩 1部
リグニンスルホン酸ナトリウム塩 8部
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩の
ホルムアルデヒド縮合物 5部
以上を均一に混合して微細に粉砕後,適量の水を加えてから練り込んで粘土状にした。粘土状物を造粒した後乾燥し、有効成分40%の顆粒水和剤を得た。
【0112】
次に、本発明化合物が各種植物病害防除剤及び殺虫剤の有効成分として有用であることを試験例で示す。なお、以下において、化合物番号は第1表及び第2表中の化合物番号に対応している。
【0113】
(試験例1) リンゴ黒星病防除試験
素焼きポットで栽培したリンゴ幼苗(品種「国光」、3〜4葉期)に、本発明化合物の乳剤を有効成分100ppmの濃度で散布した。室温で自然乾燥した後、リンゴ黒星病菌(Venturia inaequalis)の分生胞子を接種し、明暗を12時間毎にくりかえす20℃、高湿度の室内に2週間保持した。葉上の病斑出現状態を無処理と比較調査し、防除効果を求めた結果、化合物番号:13、40、41、44、54、55、56、58、59の化合物が75%以上の優れた防除価を示した。
【0114】
(試験例2) コムギうどんこ病防除試験
素焼きポットで栽培したコムギ幼苗(品種「チホク」、1.0〜1.2葉期)に本発明化合物の水和剤を100ppmの濃度で散布した。葉を風乾させた後、コムギうどんこ病菌(Erysiphe graminis f.sp.tritici)の分生胞子を振り払い接種し、22〜25℃の温室で7日間保持した。葉上の病斑出現状態を無処理と比較調査し、防除効果を求めた。その結果、化合物番号:13、40、41、44、54、55、56、58、59の化合物が75%以上の優れた防除価を示した。
【0115】
(試験例3) トマト疫病防除試験
素焼きポットで栽培したトマト幼苗(品種「レジナ」、4〜5葉期)に、本発明化合物の乳剤を有効成分100ppmの濃度で散布した。散布後、室温で自然乾燥し、トマト疫病菌(Phytophthora infestans)の遊走子嚢懸濁液を噴霧接種し、明暗を12時間毎に繰り返す高湿度の恒温室(20℃)に4日間保持した。葉上の病斑出現状態を無処理と比較調査し、防除効果を求めた。その結果、化合物番号:13、40、41、44、54、55、56、58、59の化合物が75%以上の優れた防除価を示した。
【0116】
(試験例4) コムギ赤さび病防除試験
素焼きポットで栽培したコムギ幼苗(品種「農林61号」、1.0〜1.2葉期)に本発明化合物の水和剤を100ppmの濃度で散布した。葉を風乾させた後、コムギ赤さび病菌(Puccinia recondita)の夏胞子を振り払い接種し、22〜25℃の温室で10日間保持した。葉上の病斑出現状態を無処理と比較調査し、防除効果を求めた。その結果、化合物番号:13、40、41、44、54、55、56、58、59の化合物が75%以上の優れた防除価を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

〔式中、RはC1−6アルキル基、またはC1−6アルコキシ基を表す。
はハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−6ヒドロキシアルキル基、C1−6アルキルオキシC1−6アルキル基、またはC1−6アルキルカルボニルオキシC1−6アルキル基を表す。
mは0〜4の整数を表す。mが2以上のとき、R同士は同一であっても相異なっていてもよい。
は、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−6ヒドロキシアルキル基、C1−6アルキルオキシC1−6アルキル基、またはC1−6アルキルカルボニルオキシC1−6アルキル基を表す。
nは0〜5の整数を表す。nが2以上のとき、R同士は同一であっても相異なっていてもよい。
Gは酸素原子または硫黄原子を表す。
Aは、式(2)、(3)、または(4)で表されるいずれかの基を表す。
【化2】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C1−6アルキルカルボニル基、またはC1−6ハロアルキルカルボニル基を表す。
、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、またはC1−6アルキル基を表す。
kは1〜4の整数を表す。kが2以上のとき、式:−C(R)(R)−で表される基同士は同一であっても相異なっていてもよい。)
Qは、式(5)、(6)、(7)、(8)または(9)で表されるいずれかの基を表す。
【化3】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、またはC1−6アルキルカルボニル基を表す。Eは酸素原子または硫黄原子を表す。gは0〜3の整数を表す。)〕
で示されるアリール複素環誘導体またはその塩。
【請求項2】
前記式(1)で示されるアリール複素環誘導体若しくはその塩の1種または2種以上を有効成分として含有する農園芸用殺菌剤。


【公開番号】特開2008−290945(P2008−290945A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259176(P2005−259176)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】