説明

アルカノールアミドの製造方法

【課題】 色相良好で副生するアルコール含有量が少ないアルカノールアミドを簡便な操作で効率的に製造する方法を提供することである。
【解決手段】 脂肪酸アルカノールアミドの製造方法は、脂肪酸とアルカノールアミンとを反応させる工程Aと、前記工程Aに引き続き、脂肪酸エステルと前記アルカノールアミンとを反応させる工程Bとを含み、前記脂肪酸のモル数をx(モル)、前記脂肪酸エステルに含まれるエステル基のモル数をy(モル)、前記アルカノールアミンのモル数をz(モル)としたときに、x<zおよびy<zを満足する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカノールアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカノールアミド、特に脂肪酸アルカノールアミドは、液体洗浄剤用の洗浄力向上剤、起泡剤、泡安定剤等として多く用いられている。また、アルカノールアミドに酸化エチレンおよび/または酸化プロピレンを付加重合して得られる非イオン系界面活性剤は、他の界面活性剤や無機ビルダーとの相溶性に優れ、洗浄性、分散性、粘度の改良、高生分解性、低毒性等の性質を有しており、液体洗浄剤や化粧品原料等に用いられる。
アルカノールアミドの製造方法としては、たとえば、以下に示す方法1)〜4)が公知である。
【0003】
1)脂肪酸エステルとアルカノールアミンとをアルカリ触媒の存在下で反応させて脂肪酸アルカノールアミドを製造する方法(特許文献1)。
2)脂肪酸と、それに対して大過剰量のアルカノールアミンとを無溶媒で反応させて直接脂肪酸アルカノールアミドを製造する方法(非特許文献1)。
【0004】
3)脂肪酸とアルカノールアミンを反応させてアミドエステルを生成させ、その後アルカリ触媒を均一に溶解又は分散させたアルカノールアミンを添加してアルカノールアミドを製造する方法(特許文献2)。
4)酸価が0.5以下である天然油脂とアルカノールアミンとをアルカリ触媒の存在下で反応させて脂肪酸アルカノールアミドを製造する方法(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、方法1)では、高価な脂肪酸エステルを原料としており価格的に不利な上、副生成物としてアミドエステルが多量に生成するなどの欠点がある。このアミドエステルは水溶解性が低いため、濁りの原因となる。
方法2)では、アルカノールアミンを過剰に使用するため、着色し易く、得られる脂肪酸アルカノールアミドの純度が低くなるという欠点がある。
【0006】
方法3)では、アミドエステル化終了後にアルカリ触媒を投入する際に、残存脂肪酸とアルカリ触媒との反応により石鹸が生成するため、残存脂肪酸に対して過剰のアルカリ触媒を使用しなければならないという欠点がある。また、このようにアルカリ触媒が多くなると純度、色相、臭い等が悪くなるという欠点がある。
方法4)では、安価な天然油脂を使用しているが、反応でグリセリン等のアルコールが多量に副生するため、その除去が必要という欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第2844609号明細書
【特許文献2】特開昭53−44513号公報
【特許文献3】特開2003−231668号公報
【非特許文献1】油化学、第24巻、第12号、869〜873、1975
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、色相良好で副生するアルコール含有量が少ないアルカノールアミドを簡便な操作で効率的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、脂肪酸とアルカノールアミンとのアミド化反応(工程A)を行った後、引き続き、脂肪酸エステルと工程Aで残存したアルカノールアミンとのアミド化反応(工程B)を行うことにより、上記課題を達成できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明にかかる脂肪酸アルカノールアミドの製造方法は、脂肪酸とアルカノールアミンとを反応させる工程Aと、前記工程Aに引き続き、脂肪酸エステルと前記アルカノールアミンとを反応させる工程Bとを含む製造方法である。ここで、前記脂肪酸のモル数をx(モル)、前記脂肪酸エステルに含まれるエステル基のモル数をy(モル)、前記アルカノールアミンのモル数をz(モル)としたときに、x<zおよびy<zを満足する。
【0010】
この製造方法において、以下に示す(1)〜(7)の少なくとも1つの要件をさらに満足すると好ましい。
(1)0.88≦(x+y)/z≦1.07である。
(2)0.73≦x/z≦0.97である。
(3)0.03≦y/z≦0.27である。
(4)前記脂肪酸が下記一般式(1)で示される脂肪酸であり、前記脂肪酸エステルが、下記一般式(2)および/または一般式(3)で示される脂肪酸エステルであり、前記アルカノールアミンが下記一般式(4)および/または一般式(5)で示されるアルカノールアミンである。
【0011】
【化1】

【0012】
(但し、Rは、炭素数1〜29のアルキル基、炭素数3〜29のアルケニル基、炭素数1〜29のヒドキシアルキル基、または、炭素数3〜29のヒドキシアルケニル基である。)
【0013】
【化2】

【0014】
(但し、Rは、炭素数1〜29のアルキル基、炭素数3〜29のアルケニル基、炭素数1〜29のヒドキシアルキル基、または、炭素数3〜29のヒドキシアルケニル基である。Rは炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0015】
【化3】

【0016】
(但し、R、RおよびRは、炭素数1〜29のアルキル基、炭素数3〜29のアルケニル基、炭素数1〜29のヒドキシアルキル基、または、炭素数3〜29のヒドキシアルケニル基である。R、RおよびRは、互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。)
【0017】
【化4】

【0018】
(但し、R水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。Rは、炭素数1〜4のアルキレン基である。)
【0019】
【化5】

【0020】
(但し、RおよびRは、炭素数1〜4のアルキレン基である。RおよびRは、互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。)
(5)前記工程Aおよび/または工程Bを還元剤の存在下で行う。
【0021】
(6)前記工程Aをアルカノールアミンに脂肪酸を添加して行う。ここで、前記脂肪酸の添加時間が1時間以内であるとさらに好ましい。
(7)前記工程Bをアルカノールアミンに脂肪酸エステルを添加して行う。
本発明にかかる脂肪酸アルカノールアミドは、上記製造方法により製造され、色相がハーゼン単位色数(APHA)で200以下の範囲にある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、色相良好で副生するアルコール含有量が少ないアルカノールアミドを簡便な操作で効率的に製造することができる。特に、脂肪酸エステルとして油脂を用いた場合、副生するアルコールであるグリセリンの含有量が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔原料の説明〕
脂肪酸としては、特に限定はなく、アルカノールアミドの製造に用いられる公知なものであればよく、脂肪酸の構造は直鎖または分岐鎖のいずれでもよい。また、脂肪酸は、植物油または動物油から由来する天然脂肪酸や半合成脂肪酸、合成脂肪酸であってもよい。
脂肪酸の炭素数についても特に限定はないが、好ましくは2〜30、さらに好ましくは4〜26、特に好ましくは6〜22である。
【0024】
上記脂肪酸としては、たとえば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、ノナデカン酸、ベヘニン酸、エルカ酸、12−ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、リシノレイン酸等が挙げられる。これらの脂肪酸は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
脂肪酸は、また、ヤシ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、パーム核油脂肪酸、大豆油脂肪酸、あまに油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、鯨油脂肪酸、牛脂脂肪酸等の植物油または動物油から由来する脂肪酸またはこれらの混合脂肪酸等であってもよい。
【0025】
脂肪酸を化学式で示すと、たとえば、下記一般式(1)で示される脂肪酸等を挙げることができる。
【0026】
【化6】

【0027】
(但し、Rは、炭素数1〜29のアルキル基、炭素数3〜29のアルケニル基、炭素数1〜29のヒドキシアルキル基、または、炭素数3〜29のヒドキシアルケニル基である。)
脂肪酸エステルは、上記で説明した脂肪酸とアルコールとが反応して得られ、化学構造(−COO−)を有する化合物である。脂肪酸エステルは、1種または2種以上の混合物であってもよい。
アルコールとしては、特に限定はなく、その構造は直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、また、1価アルコール、多価アルコールのいずれでもよい。
【0028】
アルコールの炭素数についても特に限定はないが、好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜3である。
アルコールとしては、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール等の1価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ブチレングリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール;ペンタエリスリトール等の4価アルコール;ソルビトール等の6価アルコール等が挙げられる。これらのアルコールは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0029】
アルコールが多価アルコールの場合、その沸点が170℃を超えるので、工程Bの反応で副生したアルコールはアルカノールアミド中に残留して純度を低下させる要因となる。さらに、アルカノールアミドの融点が高く、常温で固体であるときは、1)得られるアルカノールアミドを冷却しても固化しなかったり、2)固化しても軟らかくて解砕ができず、フレークにならなかったり、3)アルカノールアミドのフレークが得られたとしても、保管中にフレーク同士が固着してブロック状になるブロッキングが発生したりする等のハンドリング上の問題が発生することがある。このような理由から、脂肪酸エステルは分子内に1つ以上の水酸基が残留した部分エステル化されたものを使用することはできるが、完全にエステル化されたものであると、エステルの使用量が少なくて済み、工程Bの反応において副生するアルコールの量が少なくなるので好ましい。したがって、アルコールが3価アルコールであるグリセリンである場合、脂肪酸エステルが、モノグリセライドまたはジグリセライドでもよいが、アルコールの水酸基が完全にエステル化されたトリグリセライド(油脂)が、グリセリンの副生量を少なくするため、好ましい。
脂肪酸エステルを化学式で示すと、たとえば、下記一般式(2)や一般式(3)で示される脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0030】
【化7】

【0031】
(但し、Rは、炭素数1〜29のアルキル基、炭素数3〜29のアルケニル基、炭素数1〜29のヒドキシアルキル基、または、炭素数3〜29のヒドキシアルケニル基である。Rは炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0032】
【化8】

【0033】
(但し、R、RおよびRは、炭素数1〜29のアルキル基、炭素数3〜29のアルケニル基、炭素数1〜29のヒドキシアルキル基、または、炭素数3〜29のヒドキシアルケニル基である。R、RおよびRは、互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。)
〜Rの炭素数は、好ましくは3〜25、さらに好ましくは5〜21である。
【0034】
〜Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘプチル基、ノニル基、ウンデシル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、ヘンイコシル基、トリコシル基、ペンタコシル基、ヘプタコシル基、ノナコシル基、2−エチルペンチル基等のアルキル基;プロピレン基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、ノネニル基、ウンデセニル基、トリデセニル基、ペンタデセニル基、ヘプタデセニル基、ヘプタデカジエニル基、ノナデセニル基、ヘンイコセニル基、トリコセニル基、ペンタコセニル基、ヘプタコセニル基、ノナコセニル基等のアルケニル基;11−ヒドロキシヘプタデシル基等のヒドロキシアルキル基;11−ヒドロキシヘプタデセニル基、11−ヒドロキシヘプタデカジエニル基等のヒドロキシアルケニル基等が挙げられる。
Rの炭素数としては、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2である。Rとしては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0035】
アルカノールアミンは、アルカノールアミドの製造に用いられるものであれば特に限定はない。アルカノールアミンは、通常、モノアルカノールアミンおよび/またはジアルカノールアミンである。
アルカノールアミンとしては、たとえば、モノエタノールアミン、モノメタノールアミン、n−プロパノールアミン、イソプロパノールアミン、n−ブタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルイソプロパノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−メチル−n−プロパノールアミン、N−エチル−n−ブタノールアミン等のモノアルカノールアミン;ジエタノールアミン、ジn−プロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、N−(2−ヒドロキシルエチル)プロパノールアミン等のジアルカノールアミン等が挙げられる。これらのアルカノールアミンは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
これらのアルカノールアミンのうちでも、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルイソプロパノールアミンが好ましく、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソプロパノールアミンがさらに好ましい。
アルカノールアミンを化学式で示すと、たとえば、下記一般式(4)や一般式(5)で示されるアルカノールアミン等を挙げることができる。
【0037】
【化9】

【0038】
(但し、R水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。Rは、炭素数1〜4のアルキレン基である。)
【0039】
【化10】

【0040】
(但し、RおよびRは、炭素数1〜4のアルキレン基である。RおよびRは、互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。)
としては、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基がさらに好ましく、水素原子または炭素数1〜2のアルキル基が特に好ましい。
【0041】
が炭素数1〜6のアルキル基の場合、アルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができる。
、RおよびRとしては、炭素数1〜4のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜3のアルキレン基がさらに好ましく、炭素数2〜3のアルキレン基が特に好ましい。
【0042】
このようなアルキレン基としては、たとえば、エチレン基、n−プロパン−1,2−ジイル基、n−プロパン−1,3−ジイル基、n−ブタン−1,2−ジイル基、n−ブタン−1,3−ジイル基、n−ブタン−1,4−ジイル基、2−メチルプロパン−1,3−ジイル基等を挙げることができる。
【0043】
〔工程Aおよび工程Bの説明〕
本発明にかかる脂肪酸アルカノールアミドの製造方法は、下記の工程Aと工程Bとを含む製造方法である。
工程A:脂肪酸とアルカノールアミンとを反応させる工程
工程B:工程Aに引き続き、脂肪酸エステルと前記アルカノールアミンとを反応させる工程
【0044】
ここで、前記脂肪酸のモル数をx(モル)、前記脂肪酸エステルに含まれるエステル基のモル数をy(モル)、前記アルカノールアミンのモル数をz(モル)としたときに、x<zおよびy<zを満足する。なお、アルカノールアミンのモル数とは、通常、工程Aおよび工程Bの両方の反応工程を行うために当初に仕込んだアルカノールアミンのモル数を意味する。したがって、z(モル)のうちで、一部は工程Aで脂肪酸と反応して消費されるし、別の一部は工程Bで脂肪酸エステルと反応して消費される。
工程Aにおいては、脂肪酸に対して過剰量のアルカノールアミンを反応させる。x≧zの場合は、着色が著しくなることがあり、好ましくない。
【0045】
工程Aでは、脂肪酸に対してアルカノールアミンは過剰量であるから、その終了時には、アルカノールアミン(理論上は(z−x)(モル))が残存し且つアルカノールアミド(理論上はx(モル))が生成した反応混合物が得られる。
工程Bは、工程Aに引き続いて行われ、脂肪酸エステルと上記反応混合物とを混合して、脂肪酸エステルと、反応混合物に含まれ工程Aで反応せずに残存したアルカノールアミンとを反応させる。y≧zの場合は、未反応の脂肪酸エステルが残存するほか、副生するアルコールの量も多くなり、アルカノールアミドの純度が低くなるため、好ましくない。
【0046】
x、yおよびzは、好ましくは0.88≦(x+y)/z≦1.07、より好ましくは0.90≦(x+y)/z≦1.05、さらに好ましくは0.92≦(x+y)/z≦1.02、特に好ましくは0.95≦(x+y)/z≦1.00を満足する。0.88>(x+y)/zの場合は、過剰のアルカノールアミンが残存してアルカノールアミドの純度が低くなるほか、残留アルカノールアミンのために臭気が発生し、アルカノールアミドの色相が悪化し易くなることがある。一方、(x+y)/z>1.07の場合は、脂肪酸エステルが未反応で残存し、その臭気が発生することがあるほか、エステルアミドやエステルアミンの副生を伴うためにアルカノールアミドの純度が低くなる。
xおよびzは、好ましくは0.73≦x/z≦0.97、より好ましくは0.75≦x/z≦0.95、さらに好ましくは0.80≦x/z≦0.92、特に好ましくは0.85≦x/z≦0.90を満足する。0.73>x/zの場合は、アルカノールアミンを無駄なく反応させるためには、工程Bにおいて脂肪酸エステルの量が多くなる。その場合、副生するアルコールの量が多くなり、アルカノールアミドの色相が悪化することがある。特に、脂肪酸エステルが油脂等の一般式(3)で示される脂肪酸エステルの場合は、副生するグリセリン量が多くなるほか、アルカノールアミドの色相悪化が顕著である。一方、x/z>0.97の場合は、工程Aで脂肪酸の残存量が多くなることがある。
【0047】
yおよびzは、好ましくは0.03≦y/z≦0.27、より好ましくは0.05≦y/z≦0.25、さらに好ましくは0.08≦y/z≦0.20、特に好ましくは0.10≦y/z≦0.15を満足する。y/z>0.27の場合は、副生するアルコール量が多くなり、アルカノールアミドの色相悪化を招くことがある。一方、0.03>y/zの場合は、アルカノールアミンとの反応が十分に進行せず、残存アルカノールアミン量が多くなり、その臭気が発生することがあるほか、アルカノールアミドの色相が悪化することがある。
工程Aの反応様式については、特に限定はなく、代表的なものとして、アルカノールアミンに脂肪酸を添加する反応様式A1、脂肪酸にアルカノールアミンを添加する反応様式A2、アルカノールアミンおよび脂肪酸を別々の添加経路から同時に反応容器等に添加する反応様式A3等が挙げられる。これらの反応様式のうちでも、反応様式A1が、得られるアルカノールアミドの色相が良好になるために好ましい。
【0048】
上記反応様式A1〜A2において、添加する成分(反応様式A1では脂肪酸、反応様式A2ではアルカノールアミン)の添加時間は、工程時間を短縮するという観点から、好ましくは10分間〜1時間、さらに好ましくは15〜40分間、特に好ましくは20〜30分間である。
工程Bの反応様式についても、工程Aと同様に特に限定はなく、代表的なものとして、工程Aで得られたアルカノールアミンを含む反応混合物に脂肪酸エステルを添加する反応様式B1、脂肪酸エステルに前記反応混合物を添加する反応様式B2、前記反応混合物および脂肪酸エステルを別々の添加経路から同時に反応容器等に添加する反応様式B3等が挙げられる。これらの反応様式のうちでも、反応様式B1が、得られるアルカノールアミドの色相が良好になるために好ましい。
【0049】
上記反応様式B1〜B2において、添加する成分(反応様式B1では脂肪酸エステル、反応様式B2では反応混合物)の添加時間は、工程時間を短縮するという観点から、好ましくは1〜30分間、さらに好ましくは1〜20分間、特に好ましくは1〜10分間である。
工程Aで反応様式A1であり且つ工程Bで反応様式B1であると、得られるアルカノールアミドの色相がさらに良好である。
【0050】
工程Aおよび工程Bでは、脂肪酸およびアルカノールアミン以外に、還元剤等の各種添加剤の存在下で反応を行ってもよい。
これらの添加剤のうちでも、還元剤を添加すると色相のさらに良好なアルカノールアミドが得られるので好ましい。還元剤としては特に限定はないが、反応系が酸性になると色相が悪化し易いことから中性または塩基性の還元剤が好ましい。このような還元剤としては、たとえば、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化ホウ素アルカリ金属塩;亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム等の低原子価リン化合物等が挙げられる。これらの還元剤は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0051】
還元剤の使用量としては特に限定されないが、原料のアルカノールアミンに対し、0.01重量%〜1.0重量%であり、より好ましくは0.1重量%〜0.5重量%であり、最も好ましくは0.2重量%〜0.4重量%である。
還元剤の添加時期についても特に限定はないが、酸性条件で還元剤が分解しやすいことから、(1)工程Aにおいてアルカノールアミンに脂肪酸を添加する前にあらかじめアルカノールアミンに還元剤を添加したり、(2)工程Bにおいて脂肪酸エステルを添加する前に工程Aで得られた反応混合物に還元剤を添加したり、(3)工程Bにおいて脂肪酸エステルに予め還元剤を添加したりすることが好ましい。これらのうちでも(1)がさらに好ましい。
【0052】
工程Aおよび工程Bにおいて反応を促進するために触媒を添加することもできる。これらの触媒としては、一般にアミド化において使用される公知の物を使用でき、たとえば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメチラートやナトリウムエチラート等のアルカリ金属アルコラート等のアルカリ触媒等が挙げられる。しかし、本発明にかかる方法においては工程Aで脂肪酸を用いることからこれらのアルカリ触媒は中和してしまう。また、大半の脂肪酸が反応した後の工程Bでアルカリ触媒を使用する場合でも、わずかに残存する脂肪酸と、使用するアルカリ触媒とが中和するのでその使用量がおのずと多くなってしまう。このため、アルカノールアミドの色相悪化の原因となることもある。このような理由から、本発明においては、一般には、無触媒で反応を行う方が好ましい。
工程Aおよび工程Bにおいて、脂肪酸や脂肪酸エステルと、アルカノールアミンとの反応は、通常は無溶媒で行うが、溶媒中で行うこともできる。
【0053】
工程Aおよび工程Bで用いる溶媒としては、脂肪酸、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンと反応しないものであれば特に限定はなく、たとえば、オクタン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの溶媒は1種または2種以上を併用してもよい。このとき、溶媒が、副生する水やアルコールと二相分離するが、共沸混合物を形成するものであると、副生する水やアルコールの除去が効率的に行えるので好ましい。
溶媒の使用形態については特に限定はないが、(A)脂肪酸、脂肪酸エステル、アルカノールアミン等の原料に予め溶媒を添加しておき、還流条件で反応させながら副生する水やアルコールの共沸除去を行う形態、(B)反応中に溶媒を添加し、引き続き添加した溶媒の全量を副生する水やアルコールと共沸除去する形態等が挙げられる。使用形態が(A)の場合、通常は共沸混合物を溶媒と水またはアルコールとに二相分離させて溶媒のみを原料に還流させるための分離器が用いられる。
【0054】
溶媒の使用量についても特に限定はないが、脂肪酸、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの合計量を100重量部とした場合に、1〜100重量部が好ましく、5〜65重量部がより好ましく、10〜40重量部がさらに好ましく、15〜25重量部が特に好ましい。
使用形態が(A)のときは、特に、還流が常に継続される状態となる量の溶媒を使用することが好ましい。使用量が少ない場合は、溶媒の全量が前記分離器に捕集され、還流が継続されなくなることがある。一方、使用量が多い場合は、脂肪酸、脂肪酸エステル、アルカノールアミンの濃度が低下し反応速度が低下することがある。また、使用形態が(B)のときは、除去したい水やアルコールの量に応じて添加する溶媒の量を決めてもよい。なお、いずれの使用形態でも、溶媒は反応中または反応後に除去されることになるので、廃棄物削減の観点からは、使用量はできるだけ少なくすることが好ましい。
【0055】
工程Aおよび工程Bの反応温度は特に限定されるものではないが、好ましくは140〜180℃、さらに好ましくは145〜175℃、特に好ましくは150〜170℃である。反応温度が140℃未満では、反応速度が著しく遅くなり実用的でない。一方、反応温度が180℃を超えると、アルカノールアミンの沸点よりも高い温度となるため、アルカノールアミンの系外への留出が著しくなることがあるほか、アルカノールアミドの色相も悪化することがある。
工程Aおよび工程Bでは、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で反応を行ってもよく、アルカノールアミドの色相悪化が防止され、工程Aにおいて副生する水を除去し、反応を促進させることができる。その場合、反応混合物に不活性ガスを直接導入し、バブリングさせてもよい。
【0056】
工程Aおよび工程Bでは、減圧下で反応を行ってもよく、工程Aにおいては副生する水を除去し、反応を促進させることができる。その場合の圧力は、脱水が効率的に行われる範囲であれば特に限定はないが、圧力がアルカノールアミンの蒸気圧よりも低くなると、アルカノールアミンが系外へ留出してしまうため好ましくない。したがって、減圧する際の圧力をp(MPa)、反応温度におけるアルカノールアミンの蒸気圧をv(MPa)とした場合にv<p<0.101(MPa)の範囲とすると好ましく、(v+0.005)≦p≦0.095(MPa)の範囲とするとさらに好ましく(v+0.010)≦p≦0.090(MPa)の範囲とすると特に好ましい。なお、これらの圧力は絶対圧力を示す。
このようにして得られた脂肪酸アルカノールアミドは、色相がハーゼン単位色数(APHA)で200以下の範囲にあるとよい。脂肪酸アルカノールアミドの色相は、好ましくは180以下、特に好ましくは150以下である。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の実施例について、具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
〔実施例1〕
(工程A)
攪拌装置、温度計、窒素導入管、滴下漏斗、Dean−Starkトラップおよび冷却器を装備した1000mlの四つ口フラスコに、モノエタノールアミン152.7g(分子量61.08;2.500モル)を仕込み、次に、窒素気流下で撹拌しながら、滴下漏斗を用いて440.2gのヤシ油脂肪酸(酸価270.8;2.125モル)を10分間で添加し、170℃で5時間反応させた。
(工程B)
次いで、工程Aで得られ、残存したモノエタノールアミンを含む反応混合物を、80℃まで冷却した後、精製ヤシ油81.5g(鹸化価258.3;エステル基0.375モル)を2分間で添加し、窒素気流下、160℃に加熱して3時間反応させ、室温まで冷却してヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドを得た。
【0059】
(アルカノールアミドの物性)
得られたヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドの色相(ハーゼン単位色数;APHA)、臭気および副生アルコール含有量を以下に示す方法で測定し、その結果を表1に示した。
<色相>
JIS K0071−1:1998に記載の比色法により測定した。
【0060】
<臭気>
50mlのサンプル瓶に10gのサンプルを秤取して密閉し、室温下で保管した。1週間経過後、サンプル瓶内の臭気を以下の判定基準に基づいて官能評価した。
○:ほとんど異臭なし
△:異臭がある
×:強い異臭がある。
【0061】
<副生アルコール含有量>
サンプルにTMS化処理を行った後、以下の条件のガスクロマトグラフィー測定により定量した。
(測定条件)
カラム:DB−1HT、30m×φ0.32mm×膜厚0.10μm
カラム温度:60℃×3分→昇温25℃/分→340℃×4分
キャリアーガスおよびその圧力:ヘリウム、80kPa
スプリット比:25対1
注入口温度:340℃
検出器およびその温度:FID、340℃
【0062】
<ハンドリング性>
実施例および比較例で得られるアルカノールアミドは、通常は固体であるので、製造時のフレーク化の可否および保管時のブロッキングの有無を以下の基準で判定した。
○:フレーク化ができ、保管時にもブロッキングが発生しない。
△:フレーク化はできるが保管時にブロッキングあり。
×:フレーク化できない。
【0063】
〔実施例2〜11〕
実施例1で仕込んだ原料の種類やその量等を表1に示すとおり変更する以外は、実施例1と同様にしてヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドを得た。
なお、実施例2では、実施例1において工程Bで精製ヤシ油をヤシ油脂肪酸メチルエステル82.0g(0.375モル)した以外の変更はない。実施例3では、実施例1において工程Aでモノエタノールアミンに水素化ホウ素ナトリウム0.3g(0.008モル)をさらに添加した以外の変更はない。実施例4では、実施例1において工程Aでモノエタノールアミンにヤシ油脂肪酸を添加しているのを、ヤシ油脂肪酸にモノエタノールアミンを添加するように変更した以外の変更はない。
実施例2〜11で得られたヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドについて、実施例1と同様に物性を評価し、その結果を表1に示した。
【0064】
〔比較例1〕
実施例1で用いた四つ口フラスコに、ヤシ油脂肪酸508.0g(2.45モル)とモノエタノールアミン152.7g(2.50モル)とを仕込み、窒素気流下、170℃で7時間反応させ、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドを得た。
【0065】
〔比較例2〕
実施例1で用いた四つ口フラスコに、精製ヤシ油526.7g(0.81モル)、モノエタノールアミン152.7g(2.50モル)および28%ナトリウムメトキシド2.55gを仕込み、窒素気流下、90℃で4時間反応させ、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドを得た。
比較例1および2で得られたヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドについて、実施例1と同様に物性を評価し、その結果を表1に示した。
【0066】
【表1】

【0067】
表1からは、実施例で得られるアルカノールアミドは色相に優れ、原料に由来する臭気がほとんどなく、副生するアルコール含有量が少ないことが分かる。また、実施例では、反応で副生するアルコールが常温で粘稠液体であるグリセリンであるのにもかかわらず、アルカノールアミドをフレークとして得ることができ、ハンドリングが容易であった。
それに対して、比較例1では着色が観察され、比較例2ではフレークとして得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸とアルカノールアミンとを反応させる工程Aと、
前記工程Aに引き続き、脂肪酸エステルと前記アルカノールアミンとを反応させる工程Bとを含み、
前記脂肪酸のモル数をx(モル)、前記脂肪酸エステルに含まれるエステル基のモル数をy(モル)、前記アルカノールアミンのモル数をz(モル)としたときに、x<zおよびy<zを満足する、
脂肪酸アルカノールアミドの製造方法。
【請求項2】
0.88≦(x+y)/z≦1.07である、請求項1に記載の脂肪酸アルカノールアミドの製造方法。
【請求項3】
0.73≦x/z≦0.97である、請求項1または2に記載の脂肪酸アルカノールアミドの製造方法。
【請求項4】
0.03≦y/z≦0.27である、請求項1〜3のいずれかに記載の脂肪酸アルカノールアミドの製造方法。
【請求項5】
前記脂肪酸が下記一般式(1)で示される脂肪酸であり、前記脂肪酸エステルが、下記一般式(2)および/または一般式(3)で示される脂肪酸エステルであり、前記アルカノールアミンが下記一般式(4)および/または一般式(5)で示されるアルカノールアミンである、請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪酸アルカノールアミドの製造方法。
【化1】

(但し、Rは、炭素数1〜29のアルキル基、炭素数3〜29のアルケニル基、炭素数1〜29のヒドキシアルキル基、または、炭素数3〜29のヒドキシアルケニル基である。)
【化2】

(但し、Rは、炭素数1〜29のアルキル基、炭素数3〜29のアルケニル基、炭素数1〜29のヒドキシアルキル基、または、炭素数3〜29のヒドキシアルケニル基である。Rは炭素数1〜6のアルキル基である。)
【化3】

(但し、R、RおよびRは、炭素数1〜29のアルキル基、炭素数3〜29のアルケニル基、炭素数1〜29のヒドキシアルキル基、または、炭素数3〜29のヒドキシアルケニル基である。R、RおよびRは、互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。)
【化4】

(但し、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。Rは炭素数1〜4のアルキレン基である。)
【化5】

(但し、RおよびRは、炭素数1〜4のアルキレン基である。RおよびRは、互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。)
【請求項6】
前記工程Aおよび/または工程Bを還元剤の存在下で行う、請求項1〜5のいずれかに記載の脂肪酸アルカノールアミドの製造方法。
【請求項7】
前記工程Aをアルカノールアミンに脂肪酸を添加して行う、請求項1〜6のいずれかに記載の脂肪酸アルカノールアミドの製造方法。
【請求項8】
前記脂肪酸の添加時間が1時間以内である、請求項7に記載の脂肪酸アルカノールアミドの製造方法。
【請求項9】
前記工程Bをアルカノールアミンに脂肪酸エステルを添加して行う、請求項1〜8のいずれかに記載の脂肪酸アルカノールアミドの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により製造され、色相がハーゼン単位色数(APHA)で200以下の範囲にある、脂肪酸アルカノールアミド。

【公開番号】特開2012−92073(P2012−92073A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242286(P2010−242286)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】