説明

アルカリセルロース及び水溶性セルロースエーテルの製造方法

【課題】透明で水不溶性部分が少ないセルロースエーテルの製造方法を提供する。
【解決手段】 細孔体積が1.0ml/g以上のシート状パルプをシート状のまま又はチップ状とし、アルカリ金属水酸化物溶液と接触させてアルカリセルロース反応混合物を得る接触工程と、上記アルカリセルロース反応混合物を脱液する脱液工程とを含んでなるアルカリセルロースの製造方法を提供する。また、このアルカリセルロースにエーテル化剤を反応させることを含む水溶性セルロースエーテルの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未溶解繊維分が少ないアルカリセルロース及び水溶性セルロースエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエーテルは、分子内に結晶性の部分と非結晶性の部分を有するセルロースにエーテル化剤を作用させて結晶性の部分を非結晶の状態にして、かかるセルロースエーテルを水溶性としたものである。セルロースの結晶性は、セルロース分子の骨格構造により発現する分子内水酸基同士の水素結合によるところが多いとされ、この水素結合が強固なため、水中において水分子との水和を妨げ、セルロースを水不溶性とする要因となっている。セルロースエーテルの製造では、NaOH等のアルカリ性水溶液でセルロースをアルカリセルロースとして結晶性を崩して、エーテル化剤を反応させてセルロースの水酸基をエーテル化剤で置換してセルロースエーテルとするが、このアルカリセルロースも完全に結晶性が消失しているわけではなく、エーテル置換度を高めてセルロースの水酸基をすべて置換することは、工業的には困難なものとなっている。このため、市販されているセルロースエーテルは、水溶性ではあるが、部分的に水には溶解しない部分が存在し、この水不溶部分は1000μmを超える原料セルロースであるパルプの繊維のスケールを有する場合もある。
【0003】
水溶性セルロースエーテルは、水に溶解すると増粘状態となることから、透明なシャンプー及びリンス、整髪料、目薬、コンタクトレンズ洗浄剤等の増粘剤に用いられる。例えば、水溶性セルロースエーテルであるメチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロース等は、分子内に親水基や疎水基が存在することで界面活性を示し、塩化ビニルや塩化ビニリデンの懸濁重合における懸濁安定剤として用いられ、家庭用の透明ラップ剤の原料としても用いられる。これらの用途では、製品が透明であることが望まれることから、水溶液中において、分子レベルで溶解して透明な状態なものでないと、製品に欠陥部分が生じて透明性が劣ったり、機能が劣ったりすることがあった。セルロースエーテルの水溶液粘度は高粘性のものが望まれるが、高粘性のセルロースエーテルは低粘性のセルロースエーテルに比して未溶解繊維分が多くなり、透明なものを得るのは困難と考えられていた。
【0004】
これらの問題点解決のため、特許文献1では、原料パルプに濃度15〜75質量%のアルカリ水溶液を温度5〜80℃で吸着させ、10秒以内に圧搾して過剰のアルカリ水溶液を除去する工程を2回繰り返す方法によってアルカリセルロースを得、それとエーテル化剤を反応させる方法が提示されている。
【0005】
特許文献2では、ジクロロメタン抽出分が0.07質量%以下のパルプに水酸化ナトリウムを含浸させた後圧搾してアルカリセルロースを得た後、エーテル化する方法が提示されている。
【0006】
特許文献3では、シート密度0.4〜1.0g/mlのシート状パルプを粉砕して平均粒径1000μm以下の粉末状とし、これにアルカリを加えてアルカリセルロースとし、更に塩化メチル、酸化プロピレン等を加えて反応させセルロースエーテルを得ている。
【0007】
非特許文献1には、シート密度0.47〜1.17g/mlのシート状パルプをアルカリ溶液が入ったバスに0.5〜4.5秒間浸漬させアルカリセルロースを得る方法が記載されている。
【特許文献1】特開昭53-12954号公報
【特許文献2】特開平10-259201号公報
【特許文献3】特開2001−354701号公報
【非特許文献1】A.W. Anderson and R.W. Swinehart, Tappi, Vol.39, No8,548−553, August 1956
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1〜3及び非特許文献1に記載された方法を用いても、未溶解繊維分に関し満足のいくセルロースエーテルは得られなかった。
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、かかるセルロースエーテルの水溶液として、透明で水不溶性部分が少ないセルロースエーテルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題の解決のために鋭意検討した結果、特定の細孔体積を有するシート状パルプをシート状のまま又はチップ形態とした後、過剰のアルカリ金属水酸化物と接触させ、その後、余剰のアルカリ金属水酸化物を除去して得られたアルカリセルロースを原料とすることにより透明で水不溶性部分が少ないセルロースエーテルを製造方法できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
本発明は、具体的には、細孔体積が1.0ml/g以上のシート状パルプをシート状のまま又はチップ状とし、アルカリ金属水酸化物溶液と接触させてアルカリセルロース反応混合物を得る接触工程と、上記アルカリセルロース反応混合物を脱液する脱液工程とを含んでなるアルカリセルロースの製造方法を提供する。また、このアルカリセルロースにエーテル化剤を反応させることを含む水溶性セルロースエーテルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルカリセルロースの製造方法によれば、透明で水不溶性部分が少ないセルロースエーテルを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明で用いるシート状パルプは、木材パルプ、コットンリンターパルプである。未溶解繊維分の少ないセルロースエーテルを得るためには木材由来パルプが特に好ましい。木材の樹種は、マツ、トウヒ、ツガ等の針葉樹及びユーカリ、カエデなどの広葉樹を用いることができる。
【0012】
本発明で用いるシート状パルプは、細孔体積が1.0ml/g以上、好ましくは1.2ml/g以上である。細孔体積がこれより小さいと未溶解繊維分の少ないセルロースエーテルの製造が困難になる。ここで、シート状パルプの細孔体積とは、水銀圧入法により測定される、乾燥シート状パルプの単位質量当たりの微細な空隙の体積の合計であり、その測定法は以下の通りである。測定分析装置は島津オートポア9520型を用いた。試料はあらかじめ105℃で2時間常圧乾燥した後、約1.2×2.4cmの短冊状に切断し、これの3枚を水銀圧入時に重なりを生じないように、セルに三角形に配置し、水銀圧力5.5kPa(細孔直径約220μm相当)〜411MPa(細孔直径約0.003μm相当)の条件で測定した。細孔体積の上限については、入手可能すなわち工業的に得られるものであれば制限はないが、通常2.5ml/g/ml以下である。
【0013】
本発明で用いるシート状パルプは、厚みが好ましくは0.1〜5mm、更に好ましくは0.5〜2.0mmのものが用いられる。これより厚いと、圧搾がはなはだ困難となる場合があり、これより薄いと浸漬中、圧搾中にシートが破れやすくなる等取り扱いが困難になる場合がある。アルファセルロース分は90質量%以上が好ましい。これより低いとアルカリ吸収速度が低下する場合がある。
【0014】
また、本発明で用いるシート状パルプのジクロロメタン抽出分は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。これより高いとアルカリ吸収速度が低下する場合がある。
ジクロロメタン抽出分は、紙パルプ関係団体規格TAPPI T204に記載の方法で測定できる。例えば、TAPPI T204に従い、ソックスレー付き抽出フラスコにジクロロメタン150mlと約10gのパルプを入れ、溶剤が少なくとも1時間に6回還流する沸騰速度になるように加熱温度を調整し、4〜5時間かけ、少なくとも24サイクルの抽出を行なう。抽出後、抽出装置からフラスコを外し、フラスコ中の抽出液が20〜25mlになるまで蒸発させる。次いで、抽出物を少量の溶剤で洗って秤量皿に移し、乾燥機に入れ105±3℃で1時間乾燥させ、その後デシケーター中で冷却し0.1mgの精度で秤量して「抽出物の絶乾質量」を求める。溶剤だけを用いたブランクも測定して「ブランク残渣の絶乾質量」を求め、抽出物の質量補正を行う。次式により、抽出物の含有量を求める。
抽出物含有量(%)=(抽出物の絶乾質量−ブランク残渣の絶乾質量)/パルプ絶乾質量
×100
「パルプの絶乾質量」は、パルプを秤量皿に移し、乾燥機に入れ105±3℃で4時間乾燥させ、その後デシケーター中で冷却し0.1mgの精度で秤量して求める。
【0015】
パルプの固有粘度は、紙パルプ関係団体規格SCAN−CM 15:99の測定法において、好ましくは300ml/g以上、更に好ましくは1000ml/g以上のものが用いられる。高粘度のセルロースエーテルは、従来の方法で製造すると未溶解繊維分が極めて多くなるためである。
例えば、パルプ試料(供する量は後に得られる[η]cが3.0±0.1になる量)に蒸留水25mlを加え、さらに銅線数片を加え、栓をしてパルプが完全に崩壊するまで振とうし、次に銅エチレンジアミン溶液25.0mlを加え空気を排除した後に密栓する。試料溶液および毛細管型粘度計を25.0℃に調整し、試料溶液を粘度計に導入し、流出時間tnを測定し、次の式により粘度比ηrelを計算する。
ηrel = h×tn
ここで、hは、キャリブレーション用粘度計、試料測定用粘度計およびグリセロール溶液を用いて求めた粘度計定数である。
SCAN−CM15:99に記載の数表にてηrelから[η]cを読み取る。別に試料溶液の濃度c(絶乾パルプ濃度)g/mlを計算し、[η]cをcで除して得られた値を固有粘度[η] ml/gとした。
【0016】
セルロースエーテルの製造方法は、例えば、特許文献1に記載されるように、パルプはシート状もしくはチップ状の形態にて過剰のアルカリ金属水酸化物溶液に浸漬された後、圧搾することによって余分なアルカリ金属水酸化物溶液を除去してアルカリセルロースを製造し、これにエーテル化剤を加えて反応させ、セルロースエーテルを得る方法が特に好ましい。過剰のアルカリ金属水酸化物溶液に浸漬せずに製造されたアルカリセルロースを原料にすると、未溶解繊維分の少ないセルロースエーテルを製造することは困難である。
【0017】
本発明で用いるチップ状パルプは、厚み0.1〜5.0mmのシート状パルプを裁断することにより得られる、チップ状の形態を持つパルプである。チップ状パルプの製造方法は限定されないが、スリッターカッターの他、既存の裁断装置を利用することができる。使用する裁断装置は連続的に処理できるものが投資コスト上有利である。
チップの形状は、通常一辺が好ましくは2〜100mm、更に好ましくは3〜50mmである。2mmより小さいとセルロース繊維がダメージを受け繊維内部にアルカリ金属水酸化物溶液が浸入しづらくなり均質なアルカリセルロースを得られなくなる場合がある。逆に100mmより大きいと、取り扱い特に浸漬装置への投入、装置内部の送り、分離機への投入が困難になる場合がある。
【0018】
本発明では、シート状パルプをシート状のまま又はチップ形態とした後、過剰のアルカリ金属水酸化物と接触させ、次に余剰のアルカリ金属水酸化物を除去する。例えば、過剰のアルカリ金属水酸化物の溶液に浸漬された後に脱液することによって、余分なアルカリ金属水酸化物溶液を除去する方法を使用できる。この方法としては、シート状パルプをアルカリ金属水酸化物溶液の入ったバスに浸漬させた後、ローラーその他の装置で加圧圧搾する方法や、チップ状のパルプをアルカリ金属水酸化物溶液の入ったバスに浸漬させた後遠心分離や他の機械的方法により圧搾する方法が挙げられる。ここで、過剰のアルカリ金属水酸化物は、最終的にエーテル化反応に供するアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物溶液とセルロースとの質量比より多いアルカリ金属水酸化物であり、アルカリ金属水酸化物溶液とパルプ中の固体成分との質量比(アルカリ金属水酸化物溶液/パルプ中の固体成分)を、好ましくは3〜5,000、より好ましくは10〜200、更に好ましくは20〜60とする値である。これより少ないとアルカリ金属水酸化物とパルプの均一な接触が困難になる場合がある。上限は特に定めないが、アルカリ金属水酸化物溶液の量が多すぎると設備が過大になるため経済的に決められ、通常5000程度である。
なお、アルカリ金属水酸化物ではなくアルカリ金属水酸化物溶液の質量を用いるのは、物理的にパルプがムラなくアルカリ金属水酸化物溶液に接触している(漬かっている)ことが重要であり、アルカリ金属水酸化物溶液が少なすぎて接触していない(濡れていない)パルプが存在するような状況を避けるためである。
【0019】
使用されるアルカリ金属水酸化物溶液は、アルカリセルロースとなればよく限定しないが、経済的理由から好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液から選ばれる。その濃度は23〜60質量%、特に35〜55質量%が好ましい。アルカリ金属水酸化物溶液は、水溶液が好ましいが、エタノール等のアルコール溶液や水溶性アルコールと水との混合溶液であってもよい。
接触させる温度は、好ましくは5〜70℃、更に好ましくは15〜60℃である。5℃未満では、アルカリ金属水酸化物溶液が高粘性となるためパルプが吸収する速度が遅くなる場合があり、生産性が好ましくない場合がある。70℃を超えると、アルカリ金属水酸化物溶液の粘性が低いためパルプが吸収する速度が速くなり、アルカリセルロースの組成のバラツキが大きくなる場合があり、品質上好ましくない場合がある。
パルプと過剰のアルカリ金属水酸化物とを接触させる時間は、10〜600秒であり、好ましくは15〜120秒である。10秒以下だとアルカリセルロースの組成のバラツキが大きくなり、品質上好ましくない場合がある。600秒を超えるとパルプのアルカリ金属水酸化物吸収量が過大となり、所望の組成のアルカリセルロースを得られなくなる場合がある。
【0020】
本発明によれば、脱液工程で得られたアルカリセルロースに中和滴定法を用いて得られたアルカリ金属水酸化物成分の質量と上記パルプ中の固体成分の質量の比(アルカリ金属水酸化物成分/パルプ中の固体成分)が好ましくは0.3〜1.5、より好ましくは0.65〜1.30、更に好ましくは0.90〜1.30の範囲となるように、接触工程に用いるアルカリ金属水酸化物溶液の量が選択される。
出発原料のパルプは、通常セルロースと水からなるため、パルプ中の固体成分はセルロースである。上記質量比率が0.3〜1.5の場合、得られるセルロースエーテルの透明性が高くなる。
なお、パルプ中の固体成分には、主成分のセルロースの他、ヘミセルロース、リグニン、樹脂分等の有機物、Si分、Fe分等の無機物が含まれる。
【0021】
脱液工程で得られたアルカリセルロースに関して、アルカリ金属水酸化物成分/パルプ中の固体成分は、以下に示す滴定法により求めることができる。
脱液工程で得られたアルカリセルロースのケーキ全量の質量を測定する。脱液工程で得られたアルカリセルロースのケーキ4.00gを採取し、中和滴定によりケーキ中のアルカリ金属水酸化物質量%を求める(0.5mol/L H2SO4、指示薬:フェノールフタレイン)。同様の方法で空試験を行う。
アルカリ金属水酸化物質量%=規定度係数×(H2SO4滴下量ml−空試験で のH2SO4滴下量ml)
なお、上式は、水酸化ナトリウムの分子量を40としている。
上記アルカリ金属水酸化物質量%で算出できれば、脱液工程で得られたアルカリセルロースのケーキ全量中の「アルカリ金属水酸化物成分」を算出できる。
「パルプ中の固体成分」は、例えば、パルプ約2gを採取し105℃で4時間乾燥させた後の質量が、採取した質量に占める割合(質量%)を求めて算出することができる。
【0022】
脱液工程で得られたアルカリセルロースにおけるアルカリ金属水酸化物成分/パルプ中の固体成分の質量比は、以下に示すように、脱液工程で得られたアルカリセルロースにおけるアルカリ金属水酸化物成分/狭義のアルカリセルロース成分の質量比に近似する。
得られたケーキ中のアルカリ金属水酸化物質量%を用いて、次式に従いアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分を求める。
(アルカリ金属水酸化物の質量)/(狭義のアルカリセルロースの質量)=
(アルカリ金属水酸化物質量%)÷[{100−(アルカリ金属水酸化物質量%) /(B/100)}×(S/100)]
ここで、Bは用いたアルカリ金属水酸化物溶液の濃度(質量%)であり、Sはパルプ中の固体成分の濃度(質量%)である。式中、100−(アルカリ金属水酸化物質量%)/(B/100)は、ケーキ中のアルカリ金属水酸化物溶液以外の質量%であるが、これにはパルプ中の固体成分の質量%と同じ割合で狭義のアルカリセルロースが存在するとしてS/100をかけてアルカリセルロースの質量%としたものである。
狭義のアルカリセルロースは、脱液工程で得られたアルカリ金属水酸化物を含むアルカリセルロースよりも狭い概念であり、アルカリ金属水酸化物溶液を除いたアルカリセルロース自体を意味する。
【0023】
得られたアルカリセルロースは、適用な大きさに裁断してエーテル化反応装置に供給することができる。エーテル化反応装置としては、アルカリセルロースを機械的な力によりチップの形態がなくなるまで解砕しながらエーテル化反応するものが好ましい。このため内部に撹拌機構を持つものが好ましく、例としてスキ型ショベル羽根式混合機が挙げられる。また、アルカリセルロースをエーテル化反応機に投入するよりも前に、別の内部に撹拌機構を持つ装置やカッターミル等の解砕装置で予め解砕しておくことも可能である。
【0024】
得られたアルカリセルロースを出発原料として得られるセルロースエーテルとしては、水溶性のメチルセルロース(MC)等のアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシエチルエチルセルロース(HEEC)等のヒドロキシアルキルアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)等が挙げられる。
アルキルセルロースとしては、メトキシル基(DS)が1.0〜2.2のメチルセルロース、エトキシル基(DS)が2.0〜2.6のエチルセルロース等が挙げられる。ヒドロキシアルキルセルロースとしては、ヒドロキシエトキシル基(MS)が0.05〜3.0のヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロポキシル基(MS)が0.0 5〜3.3のヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの例としては、メトキシル基 (DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシエトキシル基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシエチルメチルセルロース、メトキシル基(DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシプロポキシル基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシプロピルメチルセルロース、エトキシル基(DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシエトキシル(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシエチルエチルセルロースが挙げられる。
また、カルボキシメトキシル基(DS)が0.2〜2.0のカルボキシメチルセルロースも挙げられる。
なお、通常、アルキル置換にはDSを用い、ヒドロキシアルキル置換にはMSを用い、それぞれグルコース単位に結合したエーテル化剤の平均モル数であり、日本薬局方の測定方法を用いて測定された結果から算出できる。
【0025】
エーテル化剤としては、塩化メチル、塩化エチル等のハロゲン化アルキル、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド、モノクロル酢酸等が挙げられる。
【0026】
セルロースエーテルの2質量%水溶液の20℃における粘度は、好ましくは2〜30000mPa・sが好ましい。更に好ましくは300〜30000mPa・sである。
【0027】
置換度が不足していたり、均一な置換が行われていないで製造されたセルロースエーテルは、水に溶解しようとした時に16〜200μm程度の大きさの未溶解な繊維状物が多数残存してしまうことになる。この未溶解な繊維状物の数は、このセルロースエーテルが0.1質量%水溶液となるようにコールターカウンター用電解質水溶液ISOTON II(コールター社製)に25℃の恒温槽内で溶解し、この溶液2ml中に存在する16μm以上200μm以下の未溶解繊維数を径400μmのアパーチャーチューブを用いてコールター社製のコールターカウンターTA II型又はマルチサイザー機により測定することができる。このようにして測定された未溶解繊維数が、好ましくは200個以下、より好ましくは100個以下であるものが優れている。なお、セルロースエーテルの濃度が希薄で測定できない場合は、適宜高濃度溶液で測定し、0.1質量%換算数値として測定できる。
また、本発明の水溶性セルロースエーテルの30℃における2質量%水溶液の透光度は、光電比色計PC−50型、セル長20mm、可視光線を用いて測定した場合、90%以上、特に97%以上が好ましい。
【0028】
本発明のセルロース エーテルは、溶解性を高めるため、JIS Z8801に定められている標準篩いの100号(目開き150μm)により関西金網社製429型ロータップ篩い振とう機によりセルロース エーテル粉100gを振とう数200回/分、打数156回/分、振とう幅50mmの条件で30分間、振とうした後に、篩い上の残留物が25質量%以下となるものを使用することが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
木材由来で固有粘度が1300ml/g、シートの細孔体積が1.1ml/g、ジクロロメタン抽出分が0.05質量%のシート状パルプAを40℃の49質量%NaOH水溶液に35秒間浸漬した後プレスすることにより余剰の49質量%NaOH水溶液を除去し、アルカリセルロースを得た。浸漬工程の49質量%NaOH水溶液/パルプ中の固体成分質量比は,200だった。また、得られたアルカリセルロースのNaOH成分/パルプ中の固体成分質量比は1.25だった。
得られたアルカリセルロース20kgを内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空引き後、塩化メチル11kg、プロピレンオキサイド2.7kgを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度はメトキシル基(DS)が1.90、ヒドロキシプロポキシル基(MS)が0.24であり、2質量%水溶液の20℃における粘度は5000 mPa・sだった。2質量%水溶液の30℃における透光度は、光電比色計PC−50型、セル長20mm、可視光線を用いて測定し、98.0%だった。また、16μm以上200μm以下の未溶解繊維数は100個だった。
【0030】
[実施例2]
木材由来で固有粘度1300ml/g、シートの細孔体積が1.2ml/g、ジクロロメタン抽出分が0.05質量%のシート状パルプBを用い、浸漬時間を30秒間とする以外は,実施例1と同様の方法でアルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロースのNaOH成分/パルプ中の固体成分質量比は1.25だった。得られたアルカリセルロースを原料に、実施例1と同様の方法でヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度はメトキシル基(DS)が1.90、ヒドロキシプロポキシル基(MS)が0.24であり、2質量%水溶液の20℃における粘度は8000mPa・s、2質量%水溶液の30℃における透光度は98.5%だった。また、16μm以上200μm以下の未溶解繊維数は60個だった。
【0031】
[実施例3]
木材由来で固有粘度1300ml/g、シートの細孔体積が1.2ml/g、ジクロロメタン抽出分が0.05質量%のシート状パルプBを10mm角のチップ形態とした。チップ形態のパルプを40℃の49質量%NaOH水溶液に30秒間浸漬した後遠心効果500の回転バスケットを用いて圧搾することにより余剰の49質量%NaOH水溶液を除去し、アルカリセルロースを得た。浸漬工程の49質量%NaOH水溶液/パルプ中の固体成分質量比は15だった。得られたアルカリセルロースのNaOH成分/パルプ中の固体成分質量比は1.25だった。得られたアルカリセルロースを原料に、実施例1と同様の方法でヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度はメトキシル基(DS)が1.90、ヒドロキシプロポキシル基(MS)が0.24であり、2質量%水溶液の20℃における粘度は9000mPa・s、2質量%水溶液の30℃における透光度は98.5%だった。また、16μm以上200μm以下の未溶解繊維数は55個だった。
【0032】
[比較例1]
木材由来で固有粘度1300ml/g、シートの細孔体積が1.0ml/g、ジクロロメタン抽出分が0.05質量%のシート状パルプCを用いる以外は実施例1と同様の方法でアルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロースのNaOH成分/パルプ中の固体成分質量比は1.25だった。得られたアルカリセルロースを原料に、実施例1と同様の方法でヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度はメトキシル基(DS)が1.90、ヒドロキシプロポキシル基(MS)が0,24であり、2質量%水溶液の20℃における粘度は7000 mPa・s、2質量%水溶液の30℃における透光度は94.0%だった。また、16μm以上200μm以下の未溶解繊維数は220個だった。
【0033】
[比較例2]
木材由来で固有粘度1300ml/g、シートの細孔体積が1.2ml/g、ジクロロメタン抽出分が0.05質量%のシート状パルプBをナイフミルで粉砕し、平均粒径200μmの粉末状パルプを得た。得られた粉末状パルプにつき無水分として8.0kgを内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空引き後、40℃の49質量%NaOH 20.4kgを撹拌下スプレーしてNaOH成分/パルプ中の固体成分質量比1.25のアルカリセルロースを製造し、引き続き塩化メチル11kg、プロピレンオキサイド2.7kgを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度はメトキシル基(DS)が1.90、ヒドロキシプロポキシル基(MS)が0,24であり、20℃、2質量%水溶液の20℃における粘度は9000 mPa・s、2質量%水溶液の30℃における透光度は91.0%だった。また、16μm以上200μm以下の未溶解繊維数は600個だった。
【0034】
以上の結果を表1にまとめた。
【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔体積が1.0ml/g以上のシート状パルプをシート状のまま又はチップ状とし、アルカリ金属水酸化物溶液と接触させてアルカリセルロース反応混合物を得る接触工程と、上記アルカリセルロース反応混合物を脱液する脱液工程とを含んでなるアルカリセルロースの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で得られたアルカリセルロースにエーテル化剤を反応させることを含む水溶性セルロースエーテルの製造方法。

【公開番号】特開2009−155534(P2009−155534A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337085(P2007−337085)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】