説明

アルカリ二次電池用正極組成物、アルカリ二次電池用導電材およびアルカリ二次電池

【課題】 炭素材料を導電材として含む正極を用いたアルカリ二次電池について、過充電されてもサイクル寿命が損なわれにくいようにする。
【解決手段】 アルカリ二次電池用正極組成物は、水酸化ニッケル系などの活物質と、導電材と、樹脂成分とを含んでいる。導電材は、ラマン分光法により分析した黒鉛化度が0.3以上0.8以下の粒子状炭素材を含む。また、導電材は、例えば、X線(004)回折線の半値幅が2θで1.25度以上3.00度以下の繊維状炭素材をさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用正極組成物、電池用導電材および二次電池、特に、アルカリ二次電池用正極組成物、アルカリ二次電池用導電材およびアルカリ二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ二次電池、特にニッケル−水素蓄電池は、高容量で信頼性が高く、携帯型電子機器類用の二次電池の一つとして広く普及しつつある。アルカリ二次電池の正極は、通常、水酸化ニッケルを主成分とする活物質を備えたものであり、焼結式と非焼結式との二種類が知られている。焼結式のものは、内部抵抗を低くしやすく、高出力が得られやすいという利点があるが、活物質の充填量を増加させるのが困難であり、高容量化に限界がある。これに対し、高密度水酸化ニッケル粒子を充填する非焼結式のものは、活物質の充填量を増加させやすいため、高容量が必要なアルカリ二次電池において、一般的に用いられている。
【0003】
非焼結式の正極は、例えば、特許文献1に記載されているように、ニッケルからなる発泡多孔体基板に水酸化ニッケル粒子を充填したものであるが、水酸化ニッケル粒子は、発泡多孔体基板との位置関係により、充放電反応が進行しやすいものとしにくいものとがあり、利用率が必ずしも高くはない。すなわち、発泡多孔体基板の近傍に充填された水酸化ニッケル粒子は充放電反応が円滑に進行するが、当該基板から離れて充填された水酸化ニッケル粒子は充放電反応が進行しにくく、水酸化ニッケル粒子の一部が充放電反応に関与しにくい。このため、非焼結式の正極は、発泡多孔体基板に充填している水酸化ニッケル量から期待できる容量に比べて実際の容量が小さく、また、内部抵抗が高いため高出力が得られにくい。
【0004】
このため、非焼結式の正極においては、通常、水酸化ニッケルに導電材を添加して導電性を高め、水酸化ニッケルの利用率を改善している。例えば、特許文献2は、水酸化ニッケルにγ−オキシ水酸化コバルトのような高次コバルト酸化物を導電材として添加した活物質を開示している。この活物質は、水酸化ニッケル粒子間に高次コバルト酸化物による導電性のネットワークが形成されるため、水酸化ニッケル粒子の利用率が高まる。すなわち、水酸化ニッケル粒子全体で充放電反応が進行しやすく、水酸化ニッケル量に応じた高容量化を達成することができる。ところが、この活物質を用いたアルカリ二次電池は、内部抵抗が高く、高出力が得られにくいという不具合がある。
【0005】
そこで、特許文献3、4および非特許文献1は、高次コバルト酸化物に代えて、水酸化ニッケルにグラファイト(黒鉛)や気相成長法により得られた炭素繊維を2,900℃で焼成した黒鉛化炭素繊維などの炭素材料を導電材として添加した活物質を開示している。この活物質を用いたアルカリ二次電池は、高次コバルト酸化物を添加した活物質を用いたものに比べて内部抵抗が低く、高出力を得やすいという利点があるが、過充電時に炭素材料が酸化されて導電性が低下するため、サイクル寿命が短くなる。
【0006】
【特許文献1】特開昭50−36935号公報
【特許文献2】特開平11−97008号公報
【特許文献3】特開平7−211316号公報
【特許文献4】特許第3433039号公報
【非特許文献1】日本電池株式会社編「最新 実用二次電池 その選び方と使い方」、日刊工業新聞社発行、1999年、246頁
【0007】
本発明の目的は、炭素材料を導電材として含む正極を用いたアルカリ二次電池について、過充電されてもサイクル寿命が損なわれにくいようにすることにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアルカリ二次電池用正極組成物は、活物質と、導電材と、樹脂成分とを含んでいる。導電材は、ラマン分光法により分析した黒鉛化度(G値)が0.3以上0.8以下の粒子状炭素材を含む。
【0009】
また、本発明の組成物において用いられる導電材は、例えば、X線(004)回折線の半値幅が2θで1.25度以上3.00度以下の繊維状炭素材をさらに含む。
【0010】
本発明に係るアルカリ二次電池用導電材は、ラマン分光法により分析した黒鉛化度(G値)が0.3以上0.8以下の粒子状炭素材を含む。
【0011】
また、本発明のアルカリ二次電池用導電材は、例えば、X線(004)回折線の半値幅が2θで1.25度以上3.00度以下の繊維状炭素材をさらに含む。
【0012】
本発明のアルカリ二次電池は、本発明に係るいずれかのアルカリ二次電池用正極組成物を含む正極と、当該正極に対応した活物質を含む負極と、正極と負極との間に配置されたアルカリ電解質とを備えている。ここで用いられる負極は、例えば、本発明に係るいずれかのアルカリ二次電池用導電材を含んでいる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアルカリ二次電池用正極組成物は、上述のような特定の炭素材を導電材として含んでいるため、過充電されてもサイクル寿命が損なわれにくいアルカリ二次電池を実現することができる。
【0014】
本発明のアルカリ二次電池用導電材は、上述のような特定の炭素材を含むため電解耐久性が高く、導電性の低下が生じ難いので、過充電されてもサイクル寿命が損なわれにくいアルカリ二次電池を実現することができる。
【0015】
本発明のアルカリ二次電池は、正極が本発明のアルカリ二次電池用正極組成物を含んでいるため、過充電されてもサイクル寿命が損なわれにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
アルカリ二次電池用正極組成物
本発明のアルカリ二次電池用正極組成物は、主に、活物質と、導電材と、樹脂成分とを含んでいる。
【0017】
この組成物において用いられる活物質は、アルカリ二次電池の正極用として利用可能なものであれば特に限定されるものではなく、通常、水酸化ニッケル系の活物質若しくは酸化銀系の活物質である。水酸化ニッケル系の活物質は、例えば水酸化ニッケルそのものであってもよいが、通常は、アルカリ二次電池の充放電特性およびサイクル寿命の改善を目的としてコバルト、カドミウム、亜鉛およびマンガンのうちの少なくとも一つの元素が固溶されたものが好ましい。これらの元素は、化合物として固溶されていてもよい。また、水酸化ニッケル系の活物質は、正極の高容量化を達成しやすいことから、嵩密度が大きな球状のものが好ましい。さらに、この水酸化ニッケル系の活物質は、粒子間に導電性を付与して利用率を高めるために、γ−オキシ水酸化コバルトのような高次コバルト酸化物によりコーティングされたものであってもよい。
【0018】
本発明の組成物において用いられる導電材は、活物質に導電性を付与し、その利用率を高めるためのものである。この導電材は、粒子状炭素材を必須成分として含んでいる。ここで用いられる粒子状炭素材は、通常の粒子状炭素材とは異なり、後述する電解耐久性の観点から、ラマン分光法により分析した黒鉛化度(G値)が0.3以上0.8以下、好ましくは0.4以上0.7以下という、特定の黒鉛化度を示すものである。この黒鉛化度(G値)は、次のようにして求めることができる。先ず、粒子状炭素材をラマン分光法により分析し、これにより得られるラマンスペクトルをベースライン補正およびスムージング処理する。そして、これらの処理後のラマンスペクトルをさらにカーブフィッティングし、カーブフィッティング後のラマンスペクトルにおいて1,360cm−1付近のグラファイト構造の乱れによるピークの積分強度(Ja)および1,580cm−1付近のグラファイト構造に由来するピークの積分強度(Jb)を求める。目的の黒鉛化度は、ピーク積分強度(Ja)をピーク積分強度(Jb)で割った値(Ja/Jb)として求められる。因みに、上述のラマンスペクトルは、顕微ラマン分光装置を用い、粒子状炭素材を次の条件でラマン分光法により分析した場合に得られるものである。
【0019】
励起光:Ar+イオンレーザー/514.5nm
励起光出力:8mW
対物鏡倍率:50倍
積算回数:1回
照射時間:120秒
測定方法:180゜後方散乱
測定領域:1,100〜1,800cm−1
波数校正:シリコン
【0020】
なお、黒鉛化度(G値)は、値が小さいほど、黒鉛としての結晶性が高い(すなわち、より黒鉛質である)ことを示している。したがって、グラファイトの黒鉛化度(G値)は、0.3未満である。より具体的には、コークスを2,800℃で黒鉛化して得られる人造黒鉛の黒鉛化度(G値)は0.2程度である。
【0021】
このような粒子状炭素材は、通常、既存の粒子状炭素材(以下、粒子状炭素材原料という)、例えばカーボンブラックを熱処理すると調製することができる。因みに、カーボンブラックは、ファーネスブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどを含む概念である。ここでの熱処理温度は、粒子状炭素材原料の種類や性状などの要因により一般的に規定できるものではないが、通常、1,800℃以上2,600℃以下に設定するのが好ましい。また、当該温度範囲による熱処理時間は、熱処理時に用いる容器の大きさにもよるが、少なくとも2時間に設定するのが好ましく、3時間以上に設定するのがより好ましい。熱処理時間が2時間未満の場合は、内部まで均一に加熱されにくく、後述するような電解耐久性を示す粒子状炭素材が得られにくい場合がある。
【0022】
ここで用いられる粒子状炭素材原料は、次の条件Aまたは条件Bを満たすものが好ましい。
【0023】
(条件A)
平均粒径が20nm以上100nm以下、好ましくは30nm以上70nm以下。平均粒径が20nm未満の場合は、熱処理時にダメージを受けやすく、目的の粒子状炭素材が得られにくくなる可能性がある。逆に、100nmを超える場合、それにより得られる粒子状炭素材は、他の粒子状炭素材と同一重量を活物質に添加しても抵抗値を低下させにくい可能性がある。なお、ここでの平均粒径は、透過型電子顕微鏡写真に基づいて測定した値である。
【0024】
(条件B)
ジブチルフタレート(DBP)の吸収量が100cm/100g以上250cm/100g以下、好ましくは120cm/100g以上200cm/100g以下。この吸収量が100cm/100g未満の場合は、目的の粒子状炭素材が得られにくくなる可能性がある。逆に、250cm/100gを超える場合は、熱処理後の粒子状炭素材を活物質と均一に混合するのが困難になる可能性がある。なお、DBPの吸収量は、JIS K6217において規定された方法に準拠して測定された値である。具体的には、粒子状炭素材にDBPを添加したときの、粒子状炭素材100g当りのDBP吸収量をアブソーブメーターを使用して測定した値である。
【0025】
また、粒子状炭素材原料は、上述の条件Aおよび条件Bの他、嵩密度が高めのものが好ましい。嵩密度が低い粒子状炭素材原料は、熱処理時に用いる容器内への投入量が少なくなるため、目的の粒子状炭素材の製造コストを高める可能性がある。但し、嵩密度が高すぎると、その粒子状炭素材原料から得られる目的の粒子状炭素材は活物質との均一混合が困難になるため、粉砕する必要がある。この理由から、粒子状炭素材原料としては、アセチレンブラックやケッチェンブラックに比べて嵩密度が高い他のカーボンブラック、例えば、造粒したカーボンブラックを用いるのが好ましい。
【0026】
上述のような粒子状炭素材は、通常の炭素材、すなわち黒鉛化度(G値)が0.8を超える炭素質炭素材および黒鉛化度(G値)が0.3未満の黒鉛質炭素材とは異なる特有の耐酸化性を示す。具体的には、炭素質炭素材はアルカリ二次電池の過充電時に発生する酸素ガスにより乾式酸化されやすく、また、黒鉛質炭素材はアルカリ電解質により湿式酸化されやすいのに対し、上述の粒子状炭素材は、炭素質炭素材および黒鉛質炭素材のいずれにも区別できない特殊な性状を有するため、アルカリ二次電池内において乾式酸化および湿式酸化のいずれも受けにくく、耐酸化性(以下、電解耐久性という)が高い。
【0027】
また、本発明の組成物において用いられる上述の導電材は、上述の粒子状炭素材に加え、繊維状炭素材を補助成分としてさらに含んでいてもよい。ここで用いられる繊維状炭素材は、通常、上述の電解耐久性の観点から、X線(004)回折線の半値幅が2θで1.25度以上3.00度以下という、特定のX線回折パターンを示すものが好ましい。ここで、X線(004)回折線の当該半値幅は、次の条件により測定した場合に得られる値である。
【0028】
X線源:Cu−Kα線(1.54オングストローム)
管電圧:40kV
管電流:150mA
X線単色化:湾曲モノクロメータ使用
発散スリット:1°
散乱スリット:1°
受光スリット:0.3mm
サンプリング幅:0.01°(FT:1秒)
測定範囲(2θ):35〜60°
ベースラインの設定法:2θが50°付近と58°付近とで設定
【0029】
因みに、上述の半値幅は、値が小さいほど、黒鉛としての結晶性が高い(すなわち、より黒鉛質である)ことを示している。したがって、グラファイトの当該半値幅は、1.25未満である。より具体的には、黒鉛化度が90%程度のグラファイトは、当該半値幅が0.23程度である。
【0030】
このような繊維状炭素材は、通常、既存の繊維状炭素材、例えばピッチ系やPAN系などの炭素繊維を熱処理するか、或いは、各種の炭素前駆体、例えば、ピッチやポリアクリロニトリルなどを紡糸した後に熱処理して炭素化すると調製することができる。ここで、熱処理時の温度は、既存の繊維状炭素材や炭素前駆体の原料や製造方法などに応じて設定する必要があるため、一般化できるものではないが、通常は2,000℃以上2,800℃以下に設定するのが好ましい。また、熱処理時間は、少なくとも2時間に設定するのが好ましく、3時間以上に設定するのがより好ましい。熱処理時間が2時間未満の場合は、内部まで均一に加熱されにくく、上述のような電解耐久性を示す繊維状炭素材が得られにくい場合がある。
【0031】
また、ここで用いる繊維状炭素材は、通常、平均繊維径が0.1μm以上18μm以下、好ましくは1μm以上13μm以下であり、かつ、平均繊維長が50μm以上500μm以下、好ましくは100μm以上400μm以下のものが好ましい。平均繊維径が0.1μm未満若しくは平均繊維長が50μm未満の場合は、導電性が得られにくくなる可能性がある。また、平均繊維径が18μmを超えるか若しくは平均繊維長が500μmを超える場合は、抵抗値が下がらなかったり活物質と均一に混合するのが困難になったりする可能性がある。なお、ここでの平均繊維径および平均繊維長は、光学顕微鏡写真に基づいて測定した値である。
【0032】
上述の導電材は、活物質の粒子間に介在し、活物質に導電性のネットワークを形成する。ここで、粒子状炭素材および繊維状炭素材は、いずれも、アルカリ二次電池の過充電時に酸化して羸痩し、活物質間の導電性を高め難くなる場合がある。しかし、粒子状炭素材が活物質間に挟まれて導電性ネットワークを形成するのに対し、繊維状炭素材は、活物質に接触して導電性ネットワークを形成することから、粒子状炭素材に比べて羸痩時における導電性ネットワークの維持が困難である。このため、上述の導電材においては、粒子状炭素材を必須成分とし、繊維状炭素材は補助成分として用いるのが好ましい。
【0033】
このような観点から、上述の導電材が繊維状炭素材を含む場合、その割合は、50重量%以下に制限するのが好ましく、20重量%以下に制限するのがより好ましい。因みに、繊維状炭素材の割合が50重量%を超える場合は、導電材がコスト高になるばかりではなく、活物質と導電材との均一混合が困難になり、また、電極において一定容積内に充填できる活物質量が少なくなるという不具合も生じる可能性がある。
【0034】
上述の導電材は、本発明の目的を損なわない範囲において、上述の粒子状炭素材および繊維上炭素材以外の材料、例えば、コバルトやニッケル等の金属粒子をさらに含んでいてもよい。
【0035】
因みに、上述の導電材は、アルカリ二次電池の正極用としてだけではなく、後述するように、アルカリ二次電池の負極用の導電材として用いることもできる。すなわち、上述の導電材は、アルカリ二次電池用導電材として有用である。
【0036】
本発明のアルカリ二次電池用正極組成物において、上述の導電材の割合は、活物質100重量部に対し、3〜25重量部に設定するのが好ましく、5〜20重量部に設定するのがより好ましく、7〜15重量部に設定するのがさらに好ましい。導電材の割合が3重量部未満の場合、このアルカリ二次電池用正極組成物を用いた正極は、活物質の利用率を高めるのが困難になる。逆に、導電材の割合が25重量部を超える場合、このアルカリ二次電池用正極組成物を用いた正極は、高容量化、特に、小型化を図りながら高容量化を達成するのが困難になる可能性がある。
【0037】
本発明の組成物において用いられる樹脂成分は、本発明の組成物を所定の形状に賦形したりペースト状にしたりするとともに活物質と上述の導電材とを安定に接触させるバインダーとして機能するものであり、非焼結式のアルカリ二次電池用正極において利用可能な各種のものである。具体例としては、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリビニリデンフルオライド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂およびこれらの変性物などの非水溶性樹脂並びにポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースおよびポリアクリル酸塩などの水溶性樹脂を挙げることができる。
【0038】
本発明のアルカリ二次電池用正極組成物において、上述の樹脂成分の割合は、活物質100重量部に対して20重量部以下に設定するのが好ましく、10重量部以下に設定するのがより好ましく、5重量部以下に設定するのがさらに好ましい。樹脂成分の割合が20重量部を超える場合、このアルカリ二次電池用正極組成物を用いた正極は、高容量化、特に、小型化を図りながら高容量化を達成するのが困難になる。
【0039】
本発明のアルカリ二次電池用正極組成物は、必要に応じ、本発明の目的を損なわない範囲において上述の必須成分以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0040】
本発明のアルカリ二次電池用正極組成物は、通常、上述の各成分を所要の割合で混合すると調製することができる。例えば、活物質と導電材とを十分にかつ均一に混合し、これに樹脂成分を加えてペースト状に混練すると得られる。
【0041】
本発明のアルカリ二次電池用正極組成物は、アルカリ二次電池用の正極を製造するために用いられる。本発明のアルカリ二次電池用正極組成物を用いたアルカリ二次電池用の正極は、通常、導電性を有する基板に対して本発明のアルカリ二次電池用正極組成物を充填することにより得られるもの、特に、非焼結式のものである。ここで用いられる基板は、通常、アルカリ二次電池用の正極において用いられる各種の基板、例えば、ニッケル金属からなる発泡多孔体基板などである。また、本発明のアルカリ二次電池用正極活物質は、上述の導電材を含むため、抵抗が小さく、電池内部抵抗の増加を防止することができるので、発泡多孔体基板に比べて集電抵抗が高くなる傾向のある基板、例えば、ニッケルメッキパンチングメタル鋼板やニッケルメッキ鋼板からなる平面的な若しくは立体的な基板を用いることもできる。
【0042】
このようにして得られるアルカリ二次電池用の正極において、上述の導電材は、活物質に導電性のネットワークを付与することができる。このため、この正極は、活物質の利用率を高めることができ、高容量化を達成しやすい。また、この正極は、アルカリ電解質およびアルカリ二次電池の過充電時に発生する酸素ガスなどにより導電材が酸化されにくいため、充放電を繰り返しても活物質の導電性ネットワークが損なわれ難い。しかも、当該導電材は、従来から一般的に用いられている高次コバルト酸化物やグラファイト等の炭素材料とは異なり、アルカリ二次電池が過充電状態になっても安定な導電性を維持し得る。
【0043】
アルカリ二次電池
本発明のアルカリ二次電池は、電槽内に収容された正極、負極およびアルカリ電解質を主に備えている。また、このアルカリ二次電池は、正極と負極との短絡を防止するためのセパレータをさらに備えていてもよい。
【0044】
ここで用いられる正極は、本発明に係る上述のアルカリ二次電池用正極組成物のいずれかを含むものであり、例えば、既述のような方法により製造された非焼結式のものである。一方、負極は、このような正極に対応する活物質を含むもの、例えば、アルカリ二次電池において通常用いられる水素吸蔵合金、カドミウム若しくは亜鉛などを活物質として含むものである。より具体的には、水素吸蔵合金、カドミウム若しくは亜鉛などの粉末を樹脂成分と十分に混練してペースト状にし、これを基板、例えばパンチングメタルなどに塗布若しくはプレスして充填することにより得られたものである。また、アルカリ電解質は、アルカリ二次電池において通常用いられるもの、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム若しくはこれらのうちの二種以上の混合物の水溶液である。
【0045】
本発明のアルカリ二次電池は、正極が特定の炭素材を導電材として含む上述のようなものであるため、電池の内部抵抗が低く、高出力であり、また、過充電や過放電されてもサイクル寿命が低下しにくい。
【0046】
本発明のアルカリ二次電池は、負極においても、上述のアルカリ二次電池用正極組成物において用いられる導電材を含んでいるのが好ましい。この場合、本発明のアルカリ二次電池は、負極の導電性の低下も効果的に抑制されるため、サイクル寿命がより効果的に改善され得る。
【実施例】
【0047】
比較例1
カーボンブラック(三菱化学株式会社の商品名“#3050B”)を粒子状炭素材として用意した。ここで用いたカーボンブラックは、平均粒径が50nmであり、ジブチルフタレートの吸収量が175cm/100gであった。また、顕微ラマン分光装置(日本電子株式会社製のJRS−SYS1000型)を用いたラマン分光法により分析した黒鉛化度(G値)は1.42であった。
【0048】
比較例2
比較例1のカーボンブラックをアチェソン炉を用いて2,800℃で3時間加熱し、粒子状炭素材を得た。得られた粒子状炭素材は、比較例1と同様にして分析した黒鉛化度(G値)が0.29であった。
【0049】
比較例3
ケッチェンブラック(ライオン株式会社の商品名“ケッチェンブラックEC”:DBP吸収量=365cm/100g、平均粒子径=40nm)を粒子状炭素材として用意した。この粒子状炭素材は、比較例1と同様にして分析した黒鉛化度(G値)が1.19であった。
【0050】
比較例4
アセチレンブラック(電気化学工業株式会社の商品名“デンカブラック粒状品””:DBP吸収量=180cm/100g、平均粒子径=38nm)を粒子状炭素材として用意した。この粒子状炭素材は、比較例1と同様にして分析した黒鉛化度(G値)が0.82であった。
【0051】
実施例1(粒子状炭素材の製造)
比較例1のカーボンブラックを真空炉を用いて2,000℃で3時間熱処理し、粒子状炭素材を得た。得られた粒子状炭素材は、比較例1と同様にして分析した黒鉛化度(G値)が0.59であった。
【0052】
実施例2(粒子状炭素材の製造)
比較例1のカーボンブラックを真空炉を用いて2,200℃で3時間熱処理し、粒子状炭素材を得た。得られた粒子状炭素材は、比較例1と同様にして分析した黒鉛化度(G値)が0.40であった。
【0053】
実施例3(粒子状炭素材の製造)
比較例1のカーボンブラックを真空炉を用いて2,400℃で3時間熱処理し、粒子状炭素材を得た。得られた粒子状炭素材は、比較例1と同様にして分析した黒鉛化度(G値)が0.36であった。
【0054】
評価1
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(東ソー株式会社の商品名“ウルトラセン540”)と比較例1〜4および実施例1〜3の粒子状炭素材のいずれかとを乳鉢を用いて1:1の重量比で十分に混合し、得られた混合物を30mm×90mm×1.5mmの柱状に成形した。そして、この成形物を切断し、3mm×50mm×1.5mmの試料を得た。各試料の抵抗値を測定した結果を表1に示す。この抵抗値は、四端子法によりスパンを10mmに設定して測定した。
【0055】
得られた各試料と白金電極とを6規定の水酸化カリウム水溶液中で平行に配置し、試料と白金電極との間に100mAの定電流を通電した。通電後の各試料の抵抗値を測定した結果を表1に示す。この抵抗値は、上述の方法と同様にして測定した。
【0056】
通電の前後の抵抗値を比較すると、実施例1〜3の粒子状炭素材を用いた試料は7,200Cの通電後でも実質的に抵抗値が変化していない。これに対し、比較例1の粒子状炭素材を用いた試料は、7,200Cの通電後に抵抗値上昇のため通電不可能状態になり、また、比較例2の粒子状炭素材を用いた試料は、抵抗値の上昇のため電圧が不安定になった。すなわち、比較例1,2では、抵抗値を測定することができなかった。さらに、比較例3および比較例4の粒子状炭素材を用いた試料は、通電量がそれぞれ5,132Cおよび4,934Cの段階において、水酸化カリウム水溶液との界面部で切断された。これによると、実施例1〜3の粒子状炭素材は、比較例1〜4の粒子状炭素材に比べて電解耐久性が極めて良好であり、アルカリ二次電池用導電材として適している。
【0057】
【表1】

【0058】
比較例5
約12,000本のPAN系炭素繊維フィラメント束(旭化成株式会社の商品名“Highcarbolon 12000”)を繊維状炭素材として用意した。この繊維状炭素材の重量、平均繊維径およびX線(004)回折線の半値幅(2θ)は、表2に示す通りである。X線回折は、理学電機株式会社のRINT2400を用いて実施した。
【0059】
比較例6および実施例4〜6(繊維状炭素材の製造)
比較例5で用意した繊維状炭素材を表2に示す温度で3時間熱処理した。熱処理後の繊維状炭素材の重量、平均繊維径およびX線(004)回折線の半値幅(2θ)は、表2に示す通りである。X線回折は、比較例5と同じ機器を用いて実施した。
【0060】
比較例7
約12,000本のPAN系炭素繊維フィラメント束(東レ株式会社の商品名“T−300”)を繊維状炭素材として用意した。この繊維状炭素材の重量、平均繊維径およびX線(004)回折線の半値幅(2θ)は、表2に示す通りである。X線回折は、比較例5と同じ機器を用いて実施した。
【0061】
比較例8および実施例7、8(繊維状炭素材の製造)
比較例7において用意した繊維状炭素材を表2に示す温度で3時間熱処理した。熱処理後の繊維状炭素材の重量、平均繊維径およびX線(004)回折線の半値幅(2θ)は、表2に示す通りである。X線回折は、比較例5と同じ機器を用いて実施した。
【0062】
【表2】

【0063】
評価2
比較例5〜8および実施例4〜8において得られた各繊維状炭素材と白金電極とを6規定の水酸化カリウム水溶液中で平行に配置し、繊維状炭素材と白金電極との間に100mAの定電流を通電した。そして、繊維状炭素材において、水酸化カリウム水溶液との界面部で切断が生じるまでの通電量(C)を求め、この通電量を通電前の繊維状活性炭の重量(g)で除した値(C/g)を電解耐久性のパラメータとした。C/gの値は、数値が高い程電解耐久性が良好なことを示している。結果を表3に示す。また、繊維状炭素繊維のX線(004)回折線の半値幅と電解耐久性との関係を図1に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
表3および図1によると、実施例4〜8の繊維状炭素繊維は電解耐久性が高い(10,000C/g以上)のに対し、比較例5〜8の繊維状炭素繊維は電解耐久性が低い(10,000C/g未満)ことがわかる。これによると、実施例4〜8の繊維状炭素材は、アルカリ二次電池用導電材として適している。
【0066】
実施例9
水酸化ニッケル粒子100重量部に対し、粒子状炭素材5重量部、繊維状炭素材5重量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(東ソー株式会社の商品名“ウルトラセン540”)5重量部およびキシレン20重量部を加えて均一に混練し、アルカリ二次電池用正極組成物を調製した。そして、この正極組成物を発泡ニッケル基板に均一に充填し、非焼結式の正極を得た。なお、ここで用いた粒子状炭素材は、実施例1で得られたものである。また、ここで用いた繊維状炭素材は、平均繊維径が7μmのPAN系炭素繊維(東レ株式会社の商品名“T−300”)を平均繊維長が300μmになるよう粉砕し、これを2,400℃で3時間熱処理して得られた、X線(004)回折線の半値幅(2θ)が2.55度のものである。
【0067】
このようにして得られた正極、負極、6規定の水酸化カリウムと0.4規定の水酸化リチウムとの混合水溶液およびポリプロピレン樹脂からなるセパレータを用い、単電池(アルカリ二次電池)を製造した。ここで用いた負極は、LaNi系の水素吸蔵合金100重量部に対して炭素繊維(東レ株式会社の商品名“T−300”を平均繊維長が300μmになるよう粉砕したもの)2.5重量部、カーボンブラック(三菱化学株式会社の商品名“#3050B”)2.5重量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(東ソー株式会社の商品名“ウルトラセン540”)2.5重量部およびキシレン10重量部を加えて均一に混練して得られた負極用組成物を発泡ニッケル基板に均一に充填して得られたものである。
【0068】
比較例9
水酸化ニッケル粒子100重量部に対し、X線(004)回折線の半値幅(2θ)が3.5度以上の炭素繊維(東レ株式会社の商品名“T−300”を平均繊維長が300μmになるよう粉砕したもの)5重量部、カーボンブラック(三菱化学株式会社の商品名“#3050B”)5重量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(東ソー株式会社の商品名“ウルトラセン540”)5重量部およびキシレン20重量部を加えて均一に混練し、アルカリ二次電池用正極組成物を調製した。そして、この正極組成物を発泡ニッケル基板に均一に充填し、非焼結式の正極を得た。この正極を用いたこと以外は実施例9と同様にして、単電池(アルカリ二次電池)を製造した。
【0069】
実施例10
水酸化ニッケル粒子100重量部に対し、実施例3で得られた粒子状炭素材10重量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(東ソー株式会社の商品名“ウルトラセン540”)7.5重量部およびキシレン30重量部を加えて均一に混練し、アルカリ二次電池用正極組成物を調製した。そして、この正極組成物を発泡ニッケル基板に均一に充填し、非焼結式の正極を得た。
【0070】
このようにして得られた正極、負極、6規定の水酸化カリウムと0.4規定の水酸化リチウムとの混合水溶液およびポリプロピレン樹脂からなるセパレータを用い、単電池(アルカリ二次電池)を製造した。ここで用いた負極は、実施例9において用いたものと同様のものである。
【0071】
比較例10
水酸化ニッケル粒子100重量部に対し、カーボンブラック(三菱化学株式会社の商品名“#3050B”)10重量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(東ソー株式会社の商品名“ウルトラセン540”)7.5重量部およびキシレン30重量部を加えて均一に混練し、アルカリ二次電池用正極組成物を調製した。そして、この正極組成物を発泡ニッケル基板に均一に充填し、非焼結式の正極を得た。この正極を用いたこと以外は実施例10と同様にして、単電池(アルカリ二次電池)を製造した。
【0072】
評価3
実施例9、10および比較例9、10のアルカリ二次電池について、充放電特性を調べた。ここでは、先ず、0.1CAの電流で10回充放電を実施し、10回目の放電量を電池の容量とした。次に、実施例9および比較例9については、0.2CAの電流で120%充電、10分間の休止および1.0CAの電流で電池電圧が1Vになるまでの放電からなる充放電サイクルを繰り返し、電池の放電量を充放電サイクル毎に測定した。一方、実施例10および比較例10については、1.0CAの電流で120%充電、10分間の休止および1.0CAの電流で電池電圧が1Vになるまでの放電からなる充放電サイクルを繰り返し、電池の放電量を充放電サイクル毎に測定した。結果を図2および図3に示す。
【0073】
図2および図3によると、実施例9、10のアルカリ二次電池は、充放電サイクル数が400回を超えても放電量を安定に維持しており、過充電されてもサイクル寿命が低下しにくいことがわかる。これに対し、比較例9、10のアルカリ二次電池は、充放電サイクルを繰り返すに従って放電量が顕著に低下しており、過充電されるとサイクル寿命が著しく損なわれることがわかる。
【0074】
参考例
正極においてオキシ水酸化コバルトを導電材として含む、容量が2300mAhのニッケル水素単三乾電池(三洋電機株式会社製のアルカリ二次電池)を用意し、その充放電特性を調べた。ここでは、二通りの方法により、充放電特性を調べた。第一の方法では、0.2CAの電流で120%充電、10分間の休止および1.0CAの電流で電池電圧が1Vになるまでの放電からなる充放電サイクルを繰り返し、電池の放電量を充放電サイクル毎に測定した。結果を図4に示す。また、第二の方法では、1.0CAの電流で120%充電、10分間の休止および1.0CAの電流で電池電圧が1Vになるまでの放電からなる充放電サイクルを繰り返し、電池の放電量を充放電サイクル毎に測定した。結果を図5に示す。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】比較例5〜8および実施例4〜8における、繊維状炭素繊維のX線(004)回折線の半値幅と電解耐久性との関係を示すグラフ。
【図2】実施例9および比較例9のアルカリ二次電池について、充放電サイクルを繰り返して放電量の変化を調べた結果を示すグラフ。
【図3】実施例10および比較例10のアルカリ二次電池について、充放電サイクルを繰り返して放電量の変化を調べた結果を示すグラフ。
【図4】参考例のアルカリ二次電池について、充放電サイクルを繰り返して放電量の変化を調べた結果を示すグラフ。
【図5】参考例のアルカリ二次電池について、他の方法により充放電サイクルを繰り返して放電量の変化を調べた結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と、
導電材と、
樹脂成分とを含み、
前記導電材は、ラマン分光法により分析した黒鉛化度(G値)が0.3以上0.8以下の粒子状炭素材を含む、
アルカリ二次電池用正極組成物。
【請求項2】
前記導電材は、X線(004)回折線の半値幅が2θで1.25度以上3.00度以下の繊維状炭素材をさらに含む、請求項1に記載のアルカリ二次電池用正極組成物。
【請求項3】
ラマン分光法により分析した黒鉛化度(G値)が0.3以上0.8以下の粒子状炭素材を含む、アルカリ二次電池用導電材。
【請求項4】
X線(004)回折線の半値幅が2θで1.25度以上3.00度以下の繊維状炭素材をさらに含む、請求項3に記載のアルカリ二次電池用導電材。
【請求項5】
請求項1若しくは2に記載のアルカリ二次電池用正極組成物を含む正極と、
前記正極に対応した活物質を含む負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたアルカリ電解質と、
を備えたアルカリ二次電池。
【請求項6】
前記負極は、請求項3若しくは4に記載のアルカリ二次電池用導電材を含んでいる、請求項5に記載のアルカリ二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−54084(P2006−54084A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233867(P2004−233867)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】