説明

アルカリ形燃料電池

【課題】電極への直接的な液水の供給を防止しつつ、電解質膜へ液水を供給することができ、もって良好な発電特性を示すアルカリ形燃料電池を提供する。
【解決手段】アノード極103、アニオン伝導性電解質膜101およびカソード極102からなる膜電極複合体と、燃料を受け入れるための燃料受容部107を少なくとも備えるアノード極103上の第1セパレータ105と、酸化剤を受け入れるための酸化剤受容部106を少なくとも備えるカソード極102上の第2セパレータ104と、電解質膜101に液水を供給するための液水供給流路120,121とを備えるアルカリ形燃料電池である。液水供給流路120,121は、セパレータと電解質膜101との間に介在される弾性壁113,112によって挟まれた、膜電極複合体のうち電解質膜101のみに接する空間111,110を含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜としてアニオン伝導性電解質膜(アニオン交換膜)を用いたアルカリ形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、小型軽量化や高出力密度を実現できる可能性を有していることから、携帯用電子機器用の新規電源や家庭用コジェネレーションシステムなどへの用途展開が精力的に進められている。燃料電池は、発電主要部として、電解質膜をアノード極およびカソード極で挟持した構成の膜電極複合体(MEA)を備えており、電解質膜の種類によって、固体高分子形燃料電池(直接形燃料電池を含む)、リン酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体酸化物形燃料電池、アルカリ形燃料電池などに分類される。
【0003】
アルカリ形燃料電池は、電解質膜としてアニオン伝導性電解質膜(アニオン交換膜)を用いた、電荷キャリアが水酸化物イオン(OH-)である燃料電池である。アルカリ形燃料電池においては、アノード極とカソード極とを電気的に接続すると、次のような電気化学反応によりアノード極とカソード極との間に電流が流れ、電気エネルギーを得ることができる。すなわち、カソード極に酸化剤(たとえば酸素または空気など)および水を供給すると、下記式(1):
カソード極:1/2O2+H2O+2e → 2OH- (1)
で表される触媒反応によりOH-が生成される。このOH-は、水分子との水和状態で電解質膜を介してアノード極側に伝達される。一方、アノード極では、供給された燃料(還元剤)、たとえばH2ガスとカソード極から伝達されたOH-とが、下記式(2):
アノード極:H2+2OH- → 2H2O+2e (2)
で表される触媒反応を起こし、水および電子を生成する。
【0004】
上記のように、アルカリ形燃料電池においては触媒反応のためにカソード極に水を供給する必要がある。また、電解質膜の乾燥およびこれに伴うアニオン伝導抵抗の増大を防ぐためには、電解質膜にも水を供給する必要がある。従来、このような水供給は、一般的にアノード極に供給される燃料および/またはカソード極に供給される酸化剤として加湿したものを用いることにより行なわれている。しかしながらこの方法は、加湿器のような補機を要し、燃料電池の大型化を招く。
【0005】
特許文献1には、水供給の他の方法として、電解質膜のカソード極側表面に直接、液水(液体状の水)を供給することが記載されている(たとえば、第28頁第18行〜第31頁第18行、図11および図12)。この方法は、より具体的には、ガスケットにおけるカソード側電極部の外縁部に、電解質膜のカソード極側表面に直結するスロットを設け、このスロットから電解質膜のカソード極側表面に直接、液水を供給するものである(第31頁第4行〜第31頁第18行、図11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/149195号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の水供給方法の場合、電解質膜のカソード極側表面に供給された液水は、電解質膜の周縁部を覆うガスケットの下を浸透して電解質膜とカソード触媒層との界面に沿って横方向に移動し、該界面からカソード触媒層内に浸透する。その結果、膜状の液水がカソード触媒層の細孔を閉塞させるフラッディングが生じ、発電効率が低下したり、出力安定性が低下したりする問題があった。
【0008】
そこで本発明は、電極(カソード極およびアノード極)への直接的な液水の供給を防止しつつ、電解質膜へ液水を供給することができ、もって良好な発電特性を示すアルカリ形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アニオン伝導性電解質膜、該アニオン伝導性電解質膜の第1表面に積層されるアノード極、および、該アニオン伝導性電解質膜の第1表面に対向する第2表面に積層されるカソード極からなる膜電極複合体と、燃料を受け入れるための燃料受容部を少なくとも備える、アノード極上に積層される第1セパレータと、酸化剤を受け入れるための酸化剤受容部を少なくとも備える、カソード極上に積層される第2セパレータと、アニオン伝導性電解質膜に液水を供給するための液水供給流路とを備えるアルカリ形燃料電池を提供する。ここで、液水供給流路は、第1セパレータまたは第2セパレータとアニオン伝導性電解質膜との間に介在する空間であって、該空間の周縁に設けられ、第1セパレータまたは第2セパレータにおけるアニオン伝導性電解質膜側表面からアニオン伝導性電解質膜の表面に至る弾性壁によって挟まれた、膜電極複合体のうちアニオン伝導性電解質膜のみに接する空間を含む。
【0010】
液水供給流路は、第1セパレータとアニオン伝導性電解質膜との間に介在する空間であって、該空間の周縁に設けられ、第1セパレータにおけるアニオン伝導性電解質膜側表面からアニオン伝導性電解質膜の第1表面に至る第1弾性壁によって挟まれた、膜電極複合体のうちアニオン伝導性電解質膜の第1表面のみに接する第1空間を含む第1液水供給流路、および、第2セパレータとアニオン伝導性電解質膜との間に介在する空間であって、該空間の周縁に設けられ、第2セパレータにおけるアニオン伝導性電解質膜側表面からアニオン伝導性電解質膜の第2表面に至る第2弾性壁によって挟まれた、膜電極複合体のうちアニオン伝導性電解質膜の第2表面のみに接する第2空間を含む第2液水供給流路の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。
【0011】
第1液水供給流路は、第1セパレータにおけるアニオン伝導性電解質膜側表面に設けられる第1凹部、および、該第1凹部とアニオン伝導性電解質膜との間に介在する上記第1空間から構成することができる。また、第2液水供給流路は、第2セパレータにおけるアニオン伝導性電解質膜側表面に設けられる第2凹部、および、該第2凹部とアニオン伝導性電解質膜との間に介在する上記第2空間から構成することができる。
【0012】
燃料受容部は、第1セパレータにおけるアニオン伝導性電解質膜側表面に設けられる第3凹部からなり、上記第1凹部は、該第3凹部の周囲の少なくとも一部に設けられる、該第3凹部とは独立した凹部であることが好ましい。また、酸化剤受容部は、第2セパレータにおけるアニオン伝導性電解質膜側表面に設けられる第4凹部からなり、上記第2凹部は、該第4凹部の周囲の少なくとも一部に設けられる、該第4凹部とは独立した凹部であることが好ましい。
【0013】
第1セパレータおよび第2セパレータは集電機能を有するものであることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電極への直接的な液水の供給を防止しながら電解質膜に液水を、そして電解質膜を介してカソード極へ水分を供給する液水供給流路を備えるものであるので、フラッディングを生じさせることなく液水供給が可能となり、もって良好な発電特性を示すアルカリ形燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のアルカリ形燃料電池の好ましい一例を示す概略断面図である。
【図2】図1に示されるアルカリ形燃料電池を構成する第1セパレータを示す概略上面図である。
【図3】図2に示される第1セパレータの表面に第1弾性壁を配置した状態を示す概略上面図である。
【図4】第1セパレータの他の一例を示す概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のアルカリ形燃料電池は、アノード極、アニオン伝導性電解質膜およびカソード極からなる膜電極複合体と、燃料を受け入れるための燃料受容部を少なくとも備える、アノード極上に積層される第1セパレータと、酸化剤を受け入れるための酸化剤受容部を少なくとも備える、カソード極上に積層される第2セパレータとを含み、さらに液水(液体状の水)をアニオン伝導性電解質膜に供給する液水供給流路をアノード極側および/またはカソード極側に備えたものである。液水供給流路は、電極(アノード極およびカソード極)への直接的な液水の供給(たとえば特許文献1に記載されるような、アニオン伝導性電解質膜と電極との界面からの電極への液水供給)を防止しながらアニオン伝導性電解質膜に直接、液水を供給するものである。液水供給流路は、第1セパレータまたは第2セパレータとアニオン伝導性電解質膜との間に配置する弾性壁によって挟まれた空間であって、該弾性壁によって電極から隔離されているとともに、膜電極複合体のうちアニオン伝導性電解質膜のみに接する空間を含んで構成される。
【0017】
以下、本発明の燃料電池を実施の形態を示して詳細に説明する。
図1は、本発明のアルカリ形燃料電池の好ましい一例を示す概略断面図である。図2は、図1に示されるアルカリ形燃料電池を構成する第1セパレータを示す概略上面図であり、第1セパレータのアニオン伝導性電解質膜側表面を示したものである。また図3には、第1セパレータ表面に第1弾性壁を配置した状態を概略上面図で示している。
【0018】
これらの図面に示される燃料電池100は、アニオン伝導性電解質膜101、アニオン伝導性電解質膜101の第1表面101aに積層されるアノード極103、および、アニオン伝導性電解質膜101の第1表面101aに対向する第2表面101bに積層されるカソード極102からなる膜電極複合体;燃料を受け入れるための燃料受容部107を少なくとも備える、アノード極103上に積層される第1セパレータ105;酸化剤を受け入れるための酸化剤受容部106を少なくとも備える、カソード極102上に積層される第2セパレータ104;ならびに、アニオン伝導性電解質膜101に液水を供給するための第1および第2液水供給流路120,121から主に構成される。第1および第2液水供給流路120,121は、一方端(たとえば第1液水供給流路120における液水導入用配管109a側)から液水を導入し、他方端(たとえば第1液水供給流路120における液水排出用配管109b側)から排出させるようになっている。
【0019】
アルカリ燃料電池100においてアノード極103およびカソード極102は、アニオン伝導性電解質膜101、第1セパレータ105および第2セパレータ104よりも小さい面積を有しており、したがって、各電極の側方であってアニオン伝導性電解質膜101と各セパレータとの間に、電極が存在しない隙間(空間)を有している。アノード極103およびカソード極102は、アニオン伝導性電解質膜101面内における位置が一致するように、アニオン伝導性電解質膜101表面の略中心部に積層されている。
【0020】
第1液水供給流路120は、第1セパレータ105とアニオン伝導性電解質膜101との間に介在する上述の電極が存在しない隙間(空間)の一部であって、離間して配置された2つの第1弾性壁113によって挟まれた第1空間111を含んで構成されており、より具体的には、第1空間111と、第1空間111の直下に位置するとともに第1空間111に連続する第1凹部109とで構成されている。第1弾性壁113は、第1凹部109の幅方向両端部に沿うように形成され〔図3参照〕、また厚み方向に関して、第1セパレータ105におけるアニオン伝導性電解質膜101側表面からアニオン伝導性電解質膜101の第1表面101aまで延びる。すなわち、第1空間111は、第1セパレータ105、アニオン伝導性電解質膜101および2つの第1弾性壁113によって形成された内部空間である。
【0021】
第1空間111は、その周縁に設けられた第1弾性壁113によって、電極が存在しない隙間(空間)の他の部分、ならびに、アノード極103および燃料受容部107から隔離(空間的に分離)されており、膜電極複合体のうちアニオン伝導性電解質膜101の第1表面101aのみに接している。第1凹部109は、燃料受容部107とは独立して、かつ燃料受容部107を取り囲むように形成されている〔図2参照〕。
【0022】
同様に、第2液水供給流路121は、第2セパレータ104とアニオン伝導性電解質膜101の間に介在する上述の電極が存在しない隙間(空間)の一部であって、離間して配置された2つの第2弾性壁112によって挟まれた第2空間110を含んで構成されており、より具体的には、第2空間110と、第2空間110の直上に位置するとともに第2空間110に連続する第2凹部108とで構成されている。第2弾性壁112は、第2凹部108の幅方向両端部に沿うように形成され、また厚み方向に関して、第2セパレータ104におけるアニオン伝導性電解質膜101側表面からアニオン伝導性電解質膜101の第2表面101bまで延びる。すなわち、第2空間110は、第2セパレータ104、アニオン伝導性電解質膜101および2つの第2弾性壁112によって形成された内部空間である。
【0023】
第2空間110は、その周縁に設けられた第2弾性壁112によって、電極が存在しない隙間(空間)の他の部分、ならびに、カソード極102および酸化剤受容部106から隔離(空間的に分離)されており、膜電極複合体のうちアニオン伝導性電解質膜101の第2表面101bのみに接している。第2凹部108は、酸化剤受容部106とは独立して、かつ酸化剤受容部106を取り囲むように形成されている。
【0024】
以上のような構成の第1、第2液水供給流路120,121によれば、各セパレータとアニオン伝導性電解質膜101との間に介在され、液水燃料流路空間の一部を形成する隔離壁として弾性壁を用いているため、燃料電池の厚み方向に圧力を加えることによる弾性壁の変形を利用して、弾性壁と各セパレータおよびアニオン伝導性電解質膜101とを良好に面接触させることができ、もってこれらの界面のシール性を向上させることができる。そして、該流路を流通する液水がアニオン伝導性電解質膜101のみに接触するように構成されているので、電極や、電極とアニオン伝導性電解質膜101との界面、さらには燃料受容部107/酸化剤受容部106への液水の漏洩を確実に防止しながら、アニオン伝導性電解質膜101のみに液水を供給することが可能となる。
【0025】
したがって、本実施形態のアルカリ形燃料電池100によれば、電極への直接的な液水供給に伴うフラッディングおよびこれによって生じる発電効率の低下および出力安定性の低下を防止することができる。一方で、アニオン伝導性電解質膜101への液水供給により、該電解質膜の加湿が可能になるため、発電効率および起動性(発電開始から所望の出力を得るために要する時間)を向上させることができる。
【0026】
また、第1、第2液水供給流路120,121を通してアニオン伝導性電解質膜101へ供給された水分は、該膜中へ溶解して該膜中を拡散し、さらにOH-イオンの伝導経路として該膜と連通しているカソード極102の電解質中まで拡散することで、水膜状とはならずにカソード極102に供給され、該電極での触媒反応に供することができる。
【0027】
さらに本実施形態によれば、電極への直接的な液水の供給を防止できるため、電極と対抗する領域で、液水によりアニオン伝導性電解質膜101が膨潤することが抑制される。さらに、電極の周縁部の電解質膜が弾性壁により押圧固定されるため、電解質膜の寸法変化が抑制され、電解質膜からの電極剥離を防止することが可能となり、もって信頼性の高いアルカリ形燃料電池を提供することができる。
【0028】
さらに本実施形態によれば、第1、第2液水供給流路120,121を流通する液水によりアニオン伝導性電解質膜101を直接加湿することができるとともに、アニオン伝導性電解質膜101を介してカソード極102に水分を供給することができるため、従来必要であった燃料および/または酸化剤を加湿するための加湿器を省略することが可能となり、燃料電池システムの小型化に有利である。
【0029】
なお、カチオン交換膜を電解質膜とする燃料電池においては、金属カチオンのような微量不純物を含む液水を電解質膜に直接接触させると、電解質膜が劣化する場合があるが、本発明のようなアニオン伝導性電解質膜(アニオン交換膜)を用いたアルカリ形燃料電池においては、電解質膜にこのような液水を接触させても、その電解質膜の性質上、不純物としての金属カチオンは電解質膜中に侵入しないため、金属カチオンによる劣化は生じない。したがって、本発明のアルカリ形燃料電池は、液水から微量の金属カチオンを除去するための機構を不要とすることができる、燃料電池へ液水を供給するための配管として、金属配管のような安価な部材を使用できるなどの利点も有している。
【0030】
本実施形態のアルカリ燃料電池100は、アノード側の第1液水供給流路120およびカソード側の第2液水供給流路121の双方を有しているが、いずれか一方のみを有する構成であってもよい。この場合、カソード極102への水分供給という観点からは、好ましくはカソード側の第2液水供給流路121を有することが好ましい。ただし、アノード側の第1液水供給流路120のみを有する場合であっても、アノード極103の水分濃度が高まることによってアノード極103−カソード極102間の水分濃度勾配が高まり、アノード極103からカソード極102への水分拡散が促進されるため、カソード極102への水分供給は可能である。
【0031】
次に、本発明のアルカリ形燃料電池を構成する部材等についてより詳細に説明する。
(アニオン伝導性電解質膜)
アニオン伝導性電解質膜101としては、OH-イオンを伝導でき、かつ、アノード極103とカソード極102との間の短絡を防止するために電気的絶縁性を有する限り特に制限されないが、アニオン伝導性固体高分子電解質膜を好適に用いることができる。アニオン伝導性固体高分子電解質膜の好ましい例は、たとえば、パーフルオロスルホン酸系、パーフルオロカルボン酸系、スチレンビニルベンゼン系、第4級アンモニウム系の固体高分子電解質膜(アニオン交換膜)が挙げられる。また、アニオン伝導性固体酸化物電解質膜をアニオン伝導性電解質膜101として用いることもできる。
【0032】
アニオン伝導性電解質膜101は、アニオン伝導率が10-5S/cm以上であることが好ましく、パーフルオロスルホン酸系高分子電解質膜などのアニオン伝導率が10-3S/cm以上の電解質膜を用いることがより好ましい。アニオン伝導性電解質膜101の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは10〜200μmである。
【0033】
(アノード極およびカソード極)
アニオン伝導性電解質膜101の第1表面101aに積層されるアノード極103および第1表面101aに対向する第2表面101bに積層されるカソード極102は、触媒と電解質とを含有する多孔質層からなる触媒層を少なくとも含む。これらの触媒層は、アニオン伝導性電解質膜101の表面に接して積層される。アノード極103の触媒(アノード触媒)は、アノード極103に供給された燃料とOH-アニオンとから、水および電子を生成する反応を触媒する。アノード極103の触媒層(アノード触媒層)に含有される電解質は、アニオン伝導性電解質膜101から伝導してきたOH-アニオンを触媒反応サイトへ伝導する機能を有する。一方、カソード極102の触媒(カソード触媒)は、カソード極102に供給された酸化剤および水と、アノード極103から伝達された電子とから、OH-アニオンを生成する反応を触媒する。カソード極102の触媒層(カソード触媒層)に含有される電解質は、生成したOH-アニオンをアニオン伝導性電解質膜101へ伝導する機能を有する。
【0034】
アノード触媒およびカソード触媒としては、従来公知のものを使用することができ、たとえば、白金、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、銀、ルテニウム、イリジウム、モリブデン、マンガン、これらの金属化合物、およびこれらの金属の2種以上を含む合金からなる微粒子が挙げられる。合金は、白金、鉄、コバルト、ニッケルのうち少なくとも2種以上を含有する合金が好ましく、たとえば、白金−鉄合金、白金−コバルト合金、鉄−コバルト合金、コバルト−ニッケル合金、鉄−ニッケル合金等、鉄−コバルト−ニッケル合金が挙げられる。アノード触媒とカソード触媒とは同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0035】
アノード触媒およびカソード触媒は、担体、好ましくは導電性の担体に担持されたものを用いることが好ましい。導電性担体としては、たとえば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、活性炭等の導電性カーボン粒子が挙げられる。また、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤー等の炭素繊維を用いることもできる。
【0036】
アノード極103およびカソード極102の触媒層に含有される電解質としては、アニオン伝導性固体高分子電解質膜を構成する電解質と同様のものを用いることができる。各触媒層における触媒と電解質との含有比は、重量基準で、通常5/1〜1/4程度であり、好ましくは3/1〜1/3程度である。
【0037】
アノード極103およびカソード極102はそれぞれ、触媒層上に積層されるガス拡散層を備えていてもよい。ガス拡散層は、供給される燃料または酸化剤を面内において拡散させる機能を有するとともに、触媒層との間で電子の授受を行なう機能を有する。
【0038】
ガス拡散層は、導電性を有する多孔質層であることができ、具体的には、たとえば、カーボンペーパー;カーボンクロス;カーボン粒子を含有するエポキシ樹脂膜;金属または合金の発泡体、焼結体または繊維不織布などであることができる。ガス拡散層の厚みは、厚み方向に対して垂直な方向(面内方向)への燃料または酸化剤の拡散抵抗を低減させるために、10μm以上であることが好ましく、厚み方向への拡散抵抗を低減させるために、1mm以下であることが好ましい。ガス拡散層の厚みは、より好ましくは100〜500μmである。
【0039】
アノード極103とカソード極102とは、図1に示されるように、通常、アニオン伝導性電解質膜101を介して対向するように設けられる。本発明においては通常、アノード極103およびカソード極102は、アニオン伝導性電解質膜101、第1セパレータ105および第2セパレータ104よりも小さい面積を有するように形成される。これにより、各セパレータとアニオン伝導性電解質膜101との間に介在する電極が存在しない隙間に第1弾性壁113、第2弾性壁112を配置することによる、液水供給流路の一部となる第1空間111、第2空間110の構築が可能となっている。アノード極103とカソード極102が形成される位置は、たとえばアニオン伝導性電解質膜101の中央部である。
【0040】
(第1セパレータおよび第2セパレータ)
第1セパレータ105は、燃料受容部107を構成する第3凹部と、第1液水供給流路120の一部である第1凹部109とをアニオン伝導性電解質膜101側表面に少なくとも有する部材であることができる。第2セパレータ104は、酸化剤受容部106を構成する第4凹部と、第2液水供給流路121の一部である第2凹部108とをアニオン伝導性電解質膜101側表面に少なくとも有する部材であることができる。
【0041】
燃料受容部107を構成する第3凹部、酸化剤受容部106を構成する第4凹部はそれぞれ、アノード極103、カソード極102が積層される領域における第1セパレータ105、第2セパレータ104のアニオン伝導性電解質膜101側表面に設けられる、第1液水供給流路120を構成する第1凹部109、第2液水供給流路121を構成する第2凹部108とは独立した凹部からなる。
【0042】
第3凹部および第4凹部は、たとえば図2に示されるようなサーペンタイン状またはその他の形状の流路溝であることができる他、槽型の比較的大面積に広がって形成された凹部などであることができる。燃料受容部107に導入された燃料は、その直上に配置されたアノード極103に供給され、酸化剤受容部106に導入された酸化剤は、その直下に配置されたカソード極102に供給される。燃料受容部107を構成する第3凹部には、その入口側端部、出口側端部にそれぞれ、燃料供給用配管107a、燃料排出用配管107bを接続してもよい。同様に、酸化剤受容部106を構成する第4凹部には、その入口側端部、出口側端部にそれぞれ、酸化剤供給用配管、酸化剤排出用配管を接続してもよい。
【0043】
第1凹部109は、図2に示される例において燃料受容部107(第3凹部)を取り囲むように形成された入口と出口を有する一本の流路溝であるが、燃料受容部107を構成する第3凹部と独立している限りこれに限定されるものではなく、燃料受容部107の周囲の少なくとも一部に形成されればよい。たとえば、第1凹部109は、燃料受容部107のすべての4辺に沿うように形成される必要は必ずしもなく、いずれか1辺以上に沿うように形成されてもよい。ただし、電解質膜への液水供給をより効率的に行なうためには、第1凹部109は、燃料受容部107(第3凹部)を取り囲むように形成されることが好ましい。また、第1凹部109は、電解質膜表面のより広い範囲にわたって液水供給できるよう、たとえば複数の流路溝や枝分かれ状の流路溝からなることができる。以上の点は、第2セパレータ104の第2凹部108についても同様である。
【0044】
また、第1凹部109(第2凹部108についても同様)は、電解質膜におけるアノード極103が積層された領域(第1セパレータ105の燃料受容部107が形成された領域に相当する領域)への液水供給を効率的に行なうことができるよう、該領域の中心部にできるだけ近づけて配置することが好ましい。たとえばアノード極103が長方形形状を有し、これに伴い燃料受容部107も長方形形状を有する場合、短辺よりも長辺に沿って、あるいは、できるだけ短辺よりも長辺に沿うように第1凹部109を形成することが好ましい。また、アノード極103の面積が大きい場合など、燃料受容部107の周囲を取り囲むように第1凹部109を形成しただけでは電解質膜におけるアノード極103が積層された領域の中心部に近づけて第1凹部109を配置できない場合には、アノード極103を複数に分割するとともに、これに応じて燃料受容部107も複数に分割し、分割された燃料受容部107の間に第1凹部109を配置するなどの構成を採用することにより、上記中心部に近い位置に第1凹部109を配置することが好ましい〔図4参照〕。図4の例においてはまた、上述のように、優先的に長辺に沿うように第1凹部109を形成している。
【0045】
第1液水供給流路120を構成する第1凹部109には、その入口側端部、出口側端部にそれぞれ、液水導入用配管109a、液水排出用配管109bを接続してもよい(第2液水供給流路121を構成する第2凹部108についても同様である)。
【0046】
第1セパレータ105および第2セパレータ104として、燃料受容部と酸化剤受容部とを兼ね備えた、いわゆるバイポーラプレートを用いることもできる。この場合、バイポーラプレートは、一方の主面(第1表面)に第3凹部と第1凹部とを有し、第1表面に対向する他方の主面(第2表面)に第4凹部と第2凹部とを有する。このバイポーラプレートを第1セパレータ105として用いる場合には、その第1表面がアニオン伝導性電解質膜101側となるようにアノード極103上に積層される。バイポーラプレートを第2セパレータ104として用いる場合には、その第2表面がアニオン伝導性電解質膜101側となるようにカソード極102上に積層される。
【0047】
バイポーラプレートの使用は、たとえば単セルを複数積層してスタック構造を構築する際におけるスタック構造の薄型化に有利である。
【0048】
第1セパレータ105および第2セパレータ104の材質は特に制限されないが、好ましくはカーボン材料、導電性高分子、各種金属、ステンレスに代表される合金などの導電性材料である。導電性材料を用いることにより、これらのセパレータに集電機能、すなわち、接する電極との間で電子の授受を行なうとともに電気的配線を行なう取り出し電極としての機能を付与することができる。ただし、第1セパレータ105および第2セパレータ104をプラスチック材料等の非導電性材料で構成し、別途、アノード集電層およびカソード集電層を設けてもよい。この場合、これらの集電層は、たとえば電極とセパレータとの間に配置される。
【0049】
上述のように、本実施形態のアルカリ形燃料電池100において、第1液水供給流路120は、第1セパレータ105の表面に形成される第1凹部109と、第1弾性壁113によって挟まれた、第1凹部109に連続する第1空間111とからなり、第2液水供給流路121は、第2セパレータ104の表面に形成される第2凹部108と、第2弾性壁112によって挟まれた、第2凹部108に連続する第2空間110とからなる。
【0050】
第1弾性壁113および第2弾性壁112はそれぞれ、液水供給流路の一部である第1空間111、第2空間110を、上述の電極が存在しない隙間(空間)の他の部分、ならびに、電極および燃料/酸化剤受容部から隔離する壁であり、厚み方向に関して、セパレータのアニオン伝導性電解質膜101側表面からアニオン伝導性電解質膜101表面まで延びている。
【0051】
第1弾性壁113および第2弾性壁112はそれぞれ、第1凹部109、第2凹部108と略平行に、該凹部の幅方向両端部に沿うように形成される〔図3参照〕。第1弾性壁113および第2弾性壁112は、液水供給流路の一部である第1空間111、第2空間110以外の、電極が存在しない隙間(空間)のすべてを覆うように形成してもよく、その場合、アルカリ形燃料電池の第1セパレータと、第2セパレータとを締結部材等で締結した際に、応力が均等化され、安定性が向上する。
【0052】
また、第1弾性壁113および第2弾性壁112はそれぞれ、第1凹部109、第2凹部108と略平行に、該凹部の幅方向両端部に沿うように形成された溝に、その一部を嵌め込むように配置してもよい。このような構成によれば、アルカリ形燃料電池組立時の弾性壁の位置決めが容易になり、生産性が向上する。また、弾性壁の位置ズレを防止することができるため、信頼性の高いアルカリ形燃料電池を提供できることができる。
【0053】
第1セパレータ−第2セパレータ間の締結は、ネジやボルト・ナットなどの締結部材を用いて行なうことができる。本実施形態のアルカリ形燃料電池においては、弾性壁とセパレータおよびアニオン伝導性電解質膜101との界面の良好なシール性、ならびに、電極とセパレータとの間の接触抵抗の十分な低減効果を得るために、第1セパレータ−第2セパレータ間を締結することにより燃料電池の厚み方向に十分な圧力を加えた場合においても、各セパレータとアニオン伝導性電解質膜101との間に介在され、液水燃料流路空間の一部を形成する隔離壁として、該圧力により適度に潰れ反発力を生じる弾性壁を用いているため、電極の過度の潰れおよびこれに伴う細孔閉塞による物質拡散抵抗の増大を防止することができる。
【0054】
第1弾性壁113および第2弾性壁112の材質は、水不透過性である限り特に制限されず、たとえば、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、四フッ化エチレンプロピレンゴム、四フッ化エチレンパーフルオロメチルビニリデン系ゴムなどを挙げることができる。
【0055】
第1弾性壁113および第2弾性壁112は、燃料電池の厚み方向に加わる圧力により変形することで界面のシール性を向上させることができるよう、弾性体からなる必要がある。燃料電池の厚み方向に大きな圧力を加える場合、応力による破壊を防ぐため、セパレータの厚みを大きくしたり、太い締結部材(ボルト・ナット)を使用したりする必要があり、アルカリ形燃料電池の大型化を招く。したがって、比較的容易に上記シール性が得られること、およびアルカリ形燃料電池の小型化の観点から、第1弾性壁113および第2弾性壁112は、比較的小さい圧力で変形するものであることが好ましく、具体的には、これらの弾性壁は、ヤング率が100MPa未満であることが好ましい。
【0056】
燃料受容部107や酸化剤受容部106への液水の漏洩を確実に防止するため、シール面積を大きくするという観点から、第1弾性壁113および第2弾性壁112の幅は1mm以上であることが好ましい。一方、カソード極102への水分供給フラックスを大きくするため、液水供給流路120,121からカソード極102までの拡散パスを短くするという観点から、第1弾性壁113および第2弾性壁112の幅は、5mm未満であることが好ましい。
【0057】
液水供給流路120,121に流通させる液水は、液状の水のみからなるものに限定されず、たとえばアルカリ性を呈する水であってもよい。アルカリ性を呈する水を第1および/または第2液水供給流路120,121に流し、これをアニオン伝導性電解質膜101に供給することにより、アニオン伝導性電解質膜101、ひいてはこれに隣接するアノード極103およびカソード極102内に存在するCO32-、HCO3-のようなCO2由来アニオンを中和することができ、該アニオンのアノード極103への蓄積を効果的に防止することができる。CO2由来アニオンは、アルカリ形燃料電池において、発電により次第にアノード極103に蓄積し、アノード極103における反応過電圧を上昇させて発電効率を低下させる要因となるアニオンである。
【0058】
液水供給流路120,121を通してアルカリ性を呈する水を供給する場合、このアルカリ性を呈する水は、電極に接触することなくアニオン伝導性電解質膜101のみに供給されるので、中和塩の析出による電極の細孔閉塞およびこれに伴う発電効率の低下を防止することができる。なお、アルカリの対カチオンはアニオン伝導性電解質膜101中に侵入しないため、アニオン伝導性電解質膜101内で塩析出が生じることはない。
【0059】
アニオン伝導性電解質膜101の中和をより効率的に進める観点から、アルカリ性を呈する水の供給は、CO2由来アニオンの蓄積が生じ得るアノード極103の側のアニオン伝導性電解質膜101表面にアルカリ性を呈する水を接触させることができる第1液水供給流路120を用いて行なうことが好ましい。
【0060】
本発明の好ましい実施形態の1つは、第1および第2液水供給流路120,121の双方を設け、これらに異なる種類の液水を流通させることであり、より具体的な例を挙げれば、アノード側の第1液水供給流路120を、アルカリ性を呈する水の供給路とし、カソード側の第2液水供給流路121を液水(液状の水のみからなる)の供給路とすることである。本実施形態によれば、CO2由来アニオンの蓄積が生じ得るアノード極103側に、アルカリ性を呈する水を供給することでCO2由来アニオンの中和を促進しつつ、同時に、電気化学反応に水を要するカソード極102側に、液状の水のみからなる液水を供給することでカソード極102への水分供給を促進することができる。本実施形態では、異なる液水を流通させるものの、第1セパレータおよび第2セパレータに同じ形状のセパレータを使用することができるため、同じ種類の液水を流通させる場合と同様の製造工程でアルカリ形燃料電池を製造できる。
【0061】
アルカリ性を呈する水に添加されるアルカリとしては特に制限されず、たとえば、水酸化ナトリウム〔NaOH〕、水酸化カリウム〔KOH〕等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム〔Ca(OH)2〕、水酸化バリウム〔Ba(OH)2〕等のアルカリ土類金属の水酸化物;2−エタノールアミン等のアミン化合物に代表される塩基性を呈する有機化合物などを挙げることができる。
【0062】
(燃料および酸化剤)
本発明のアルカリ形燃料電池のアノード極103に供給される燃料としては、たとえばH2ガス、炭化水素ガス、メタノール等のアルコール、アンモニアガスなどを用いることができ、なかでもH2ガスを用いることが好ましい。カソード極102に供給される酸化剤としては、たとえばO2ガスや、空気等のO2を含むガスなどを用いることができ、なかでも空気が好ましく用いられる。
【0063】
なお、燃料として炭化水素ガス、アルコール(メタノール等)などの炭化水素化合物を使用する場合、アノード極の反応生成物として二酸化炭素が生成するため、従来のアルカリ形燃料電池では、アニオン伝導性電解質膜およびアノード極の炭酸化(CO2由来アニオンの蓄積)が著しく進むが、本発明のアルカリ形燃料電池によれば、液水供給流路120,121を通してアルカリ性を呈する水を供給することができるため、このような燃料を用いる場合であっても、アノード極へのCO2由来アニオンの蓄積を効果的に抑制することができる。
【0064】
本発明のアルカリ形燃料電池は、たとえば自動車、家庭用コジェネレーション、携帯型電子機器などの電源として好適に適用することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
<実施例1>
以下の手順で図1および図2に示される燃料電池と同様の構成を有するアルカリ形燃料電池を作製した。
【0067】
(1)膜電極複合体の作製
芳香族ポリエーテルスルホン酸と芳香族ポリチオエーテルスルホン酸との共重合体をクロロメチル化した後、アミノ化することにより、触媒層用のアニオン伝導性固体高分子電解質を得た。これをテトラヒドロフランに添加することにより、5重量%アニオン伝導性固体高分子電解質溶液を得た。
【0068】
Pt担持量が50重量%のPt/Cである触媒担持カーボン粒子(田中貴金属社製「TEC10E50E」)と、上記で得られた電解質溶液とを、重量比で2/0.2となるように混合し、さらにイオン交換水およびエタノールを添加することにより、アノード触媒層用の触媒ペーストを調製した。
【0069】
同様に、Pt担持量が50重量%のPt/Cである触媒担持カーボン粒子(田中貴金属社製「TEC10E50E」)と、上記で得られた電解質溶液とを、重量比で2/0.2となるように混合し、さらにイオン交換水およびエタノールを添加することにより、カソード触媒層用の触媒ペーストを調製した。
【0070】
次に、アノードガス拡散層としてカーボンペーパー(東レ社製「TGP−H−060」、厚み約190μm)を縦22.3mm×横22.3mmのサイズに切り出し、そのアノードガス拡散層の一方の面に、上記のアノード触媒層用の触媒ペーストを触媒量が0.5mg/cm2となるように、縦22.3mm×横22.3mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、室温にて乾燥させることにより、アノードガス拡散層であるカーボンペーパーの片面の全面にアノード触媒層が形成されたアノード極103を作製した。得られたアノード極103の厚みは約200μmであった。
【0071】
同様に、カソードガス拡散層としてカーボンペーパー(東レ社製「TGP−H−060」、厚み約190μm)を縦22.3mm×横22.3mmのサイズに切り出し、そのカソードガス拡散層の一方の面に、上記のカソード触媒層用の触媒ペーストを触媒量が0.5mg/cm2となるように、縦22.3mm×横22.3mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、室温にて乾燥させることにより、カソードガス拡散層であるカーボンペーパーの片面の全面にカソード触媒層が形成されたカソード極102を作製した。得られたカソード極102の厚みは約200μmであった。
【0072】
次に、90mm×90mmのサイズに切り出したフッ素樹脂系高分子電解質(旭化成社製「アシプレックス」)をアニオン伝導性電解質膜101として用い、上記アノード極103と電解質膜101と上記カソード極102をこの順で、それぞれの触媒層が電解質膜101に対向するように重ね合わせた後、130℃、10kNで2分間の熱圧着を行なうことにより、アノード極103およびカソード極102を電解質膜101に接合し、膜電極複合体を得た。上記重ね合わせは、アノード極103とカソード極102の電解質膜101の面内における位置が一致するように、かつアノード極103と電解質膜101とカソード極102の中心が一致するように行なった。
【0073】
(2)アルカリ形燃料電池の作製
外形が縦90mm×横90mm×厚み20mmであり、一方の表面に図2に示されるような流路溝(燃料受容部107および第1液水供給流路120、または、酸化剤受容部106および第2液水供給流路121)が形成されたカーボン材料からなる部材を2つ用意し、これらをそれぞれ、集電機能を有する第1セパレータ105、第2セパレータ104とした。第1セパレータ105が有する燃料受容部107は、図2に示されるようなサーペンタイン状の流路溝である(流路の幅800μm、深さ800μm)。燃料受容部107が形成されている領域は、第1セパレータ105の中心であり、そのサイズは縦22.3mm×横22.3mmである。また、第1液水供給流路120の一部を構成する第1凹部109は幅800μm、深さ800μmであり、燃料受容部107の周囲を取り囲むように形成されている。第2セパレータ104も同様である。
【0074】
図3に示されるような2つの四フッ化エチレンプロピレンゴムシート(厚み180μm)を第1弾性壁113として用い、これらを第1セパレータ105の図3に示されるような位置に配置した。第2弾性壁112に関しても、同様である。
【0075】
ついで、上記(1)で得られた膜電極複合体のアノードガス拡散層上に、溝形成面がアノードガス拡散層に対向するように、かつ第1弾性壁113,113間の第1空間111が第1凹部109の直上に配置されるように(アノード極103が燃料受容部107の直上に配置されるように)第1セパレータ105を積層するとともに、カソードガス拡散層上に、溝形成面がカソードガス拡散層に対向するように、かつ第2弾性壁112,112間の第2空間110が第2凹部108の直下に配置されるように(カソード極102が酸化剤受容部106の直下に配置されるように)第2セパレータ104を積層し、これらをボルトおよびナットを用いて締結することにより、アルカリ形燃料電池を得た。
【0076】
<実施例2>
第1凹部109を有しないこと以外は実施例1で用いたのと同じ第1セパレータを用いて、実施例1と同様にしてアルカリ形燃料電池を作製した。ただし、第1弾性壁113の設置は省略した。
【0077】
<比較例1>
第1弾性壁113および第2弾性壁112の代わりに、厚み180μmのポリテトラフルオロエチレンシートを用いたこと以外は実施例1と同様にしてアルカリ形燃料電池を作製した。
【0078】
<比較例2>
第1弾性壁113および第2弾性壁112を構成するそれぞれ2つの部材のうち、燃料受容部107または酸化剤受容部106寄りの部材(燃料受容部107または酸化剤受容部106と第1凹部109または第2凹部108との間に配置する部材)を省略したこと以外は実施例1と同様にしてアルカリ形燃料電池を作製した。
【0079】
<比較例3>
第1凹部109を有しないこと以外は実施例1で用いたのと同じ第1セパレータおよび第2凹部108を有しないこと以外は実施例1で用いたのと同じ第2セパレータを用いて、実施例1と同様にしてアルカリ形燃料電池を作製した。ただし、第1弾性壁113および第2弾性壁112の設置は省略した。
【0080】
[燃料電池の発電特性評価]
以下の手順で実施例1〜2および比較例1〜3の燃料電池を動作させ、発電を行ない、発電特性を評価した。燃料電池を、50℃の恒温層に入れ、加湿したH2ガス(相対湿度95%)を、燃料電池の燃料受容部107に200mL/分の流量で供給するとともに、無加湿の空気(相対湿度50%)を、燃料電池の酸化剤受容部106に500mL/分の流量で供給し、第1セパレータ105と第2セパレータ104とを電気的に接続し、0.2A/cm2の電流で60分間発電を行ない、発電30分および発電60分の時点でのセル抵抗およびセル電圧を、ポテンシオスタット/ガルバノスタット(ECO CHEMI社製 AUTOLAB PGSTAT30/FRA2およびAUTOLAB BSTR10A)を用いて測定した。実施例1および比較例1、2の燃料電池においては、発電開始時から液水(100%の水)を燃料電池の第1液水供給流路120および第2液水供給流路121のそれぞれに、5mL/分の流量で供給した。実施例2の燃料電池においては、発電開始時から液水(100%の水)を燃料電池の第2液水供給流路121に、5mL/分の流量で供給した。セル抵抗およびセル電圧の測定結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
実施例1および2では良好なセル電圧、低いセル抵抗を示しており、アニオン伝導性電解質膜101およびカソード極102に対して十分に水分供給が行なわれていることがわかる。
【0083】
これに対し、比較例1および2では、セル抵抗は比較的低いものの、とりわけ発電60分後におけるセル電圧が著しく低い結果となった。比較例1では、第1弾性壁および第2弾性壁の代わりにポリテトラフルオロエチレンシートを用いたため、テトラフロオロエチレンシートと各セパレータの間、あるいは、テトラフルオロエチレンシートとアニオン伝導性電解質膜101との間に隙間が生じ、液水がアノード極103あるいはカソード極102へ浸透し、フラッディングが生じたものと推察される。比較例2も同様に、一部の弾性部材を省略した結果、各セパレータとアニオン伝導性電解質膜101との間の隙間を通り、液水がアノード極103あるいはカソード極102へ浸透し、フラッディングが生じたものと推察される。比較例3では、セル抵抗が高くかつセル電圧も著しく低い結果となった。液水供給流路を備えない結果、アニオン伝導性電解質膜101およびカソード極102に対する水分供給が不足したため、このような低い電池特性になったものと考察される。
【符号の説明】
【0084】
100 アルカリ形燃料電池、101 アニオン伝導性電解質膜、101a 第1表面、101b 第2表面、102 カソード極、103 アノード極、104 第2セパレータ、105 第1セパレータ、106 酸化剤受容部(第4凹部)、107 燃料受容部(第3凹部)、107a 燃料供給用配管、107b 燃料排出用配管、108 第2凹部、109 第1凹部、109a 液水導入用配管、109b 液水排出用配管、110 第2空間、111 第1空間、112 第2弾性壁、113 第1弾性壁、120 第1液水供給流路、121 第2液水供給流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン伝導性電解質膜、前記アニオン伝導性電解質膜の第1表面に積層されるアノード極、および、前記アニオン伝導性電解質膜の前記第1表面に対向する第2表面に積層されるカソード極からなる膜電極複合体と、
燃料を受け入れるための燃料受容部を少なくとも備える、前記アノード極上に積層される第1セパレータと、
酸化剤を受け入れるための酸化剤受容部を少なくとも備える、前記カソード極上に積層される第2セパレータと、
前記アニオン伝導性電解質膜に液水を供給するための液水供給流路と、
を備え、
前記液水供給流路は、前記第1セパレータまたは前記第2セパレータと前記アニオン伝導性電解質膜との間に介在する空間であって、該空間の周縁に設けられ、前記第1セパレータまたは前記第2セパレータにおける前記アニオン伝導性電解質膜側表面から前記アニオン伝導性電解質膜の表面に至る弾性壁によって挟まれた、前記膜電極複合体のうち前記アニオン伝導性電解質膜のみに接する空間を含むアルカリ形燃料電池。
【請求項2】
前記液水供給流路は、前記第1セパレータと前記アニオン伝導性電解質膜との間に介在する空間であって、該空間の周縁に設けられ、前記第1セパレータにおける前記アニオン伝導性電解質膜側表面から前記アニオン伝導性電解質膜の前記第1表面に至る第1弾性壁によって挟まれた、前記膜電極複合体のうち前記アニオン伝導性電解質膜の前記第1表面のみに接する第1空間を含む第1液水供給流路、および、前記第2セパレータと前記アニオン伝導性電解質膜との間に介在する空間であって、該空間の周縁に設けられ、前記第2セパレータにおける前記アニオン伝導性電解質膜側表面から前記アニオン伝導性電解質膜の前記第2表面に至る第2弾性壁によって挟まれた、前記膜電極複合体のうち前記アニオン伝導性電解質膜の前記第2表面のみに接する第2空間を含む第2液水供給流路の少なくともいずれか1つを含む請求項1に記載のアルカリ形燃料電池。
【請求項3】
前記第1液水供給流路は、前記第1セパレータにおける前記アニオン伝導性電解質膜側表面に設けられる第1凹部、および、前記第1凹部と前記アニオン伝導性電解質膜との間に介在する前記第1空間から構成され、
前記第2液水供給流路は、前記第2セパレータにおける前記アニオン伝導性電解質膜側表面に設けられる第2凹部、および、前記第2凹部と前記アニオン伝導性電解質膜との間に介在する前記第2空間から構成される請求項2に記載のアルカリ形燃料電池。
【請求項4】
前記燃料受容部は、前記第1セパレータにおける前記アニオン伝導性電解質膜側表面に設けられる第3凹部からなり、
前記第1凹部は、前記第3凹部の周囲の少なくとも一部に設けられる、前記第3凹部とは独立した凹部である請求項3に記載のアルカリ形燃料電池。
【請求項5】
前記酸化剤受容部は、前記第2セパレータにおける前記アニオン伝導性電解質膜側表面に設けられる第4凹部からなり、
前記第2凹部は、前記第4凹部の周囲の少なくとも一部に設けられる、前記第4凹部とは独立した凹部である請求項3または4に記載のアルカリ形燃料電池。
【請求項6】
前記第1セパレータおよび前記第2セパレータは集電機能を有する請求項1〜5のいずれかに記載のアルカリ形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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