説明

アルカリ排水中和装置

【課題】 中和剤としてCO2 含有ガスを使用するアルカリは中和装置において、処理効率を高めて設備コスト、処理コストの低減を図る。
【解決手段】 貯水槽21の上に気液接触筒22を連結した縦型の処理装置20を使用する。中和処理すべきアルカリ排水を気液接触筒22の上部から導入する。中和剤であるCO2 含有ガスを、貯水槽21に取付けた散気装置23により槽内に導入する。貯水槽21内の被処理水を、循環系24により気液接触筒22の上部から再導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラーのブロー排水など、各種工場から排出されるアルカリ排水をCO2 含有ガスによって中和処理するアルカリ排水中和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所を始めとする多くの工業分野で多種多様なボイラーが使用されている。そのボイラーは高温に加熱されるため激しい腐食環境にあり、このためボイラーを構成する材料に高耐食性金属材料が使用されると共に、ボイラー水としてpHが11〜12というような高アルカリ水が使用される。その結果、ボイラーへの給水に伴ってボイラーから排出されるいわゆるブロー排水も高アルカリ水となり、その中和処理が必要となる。
【0003】
ボイラーブロー排水の中和処理の一つとして、そのボイラーで生じる燃焼排ガスを用いる方法が、特許文献1により提示されている。また、燃焼排ガスを用いる効率的な中和装置として、複数の中和槽をタンデムに連結して使用するものが、特許文献2により提示されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−080390号公報
【特許文献2】特開2003−001273号公報
【0005】
燃焼排ガスを用いる中和処理は、薬剤を使用しないために後処理の必要がなく、薬剤コストも節減できる。特に、特許文献2に記載された中和装置は、タンデムに連結された複数の中和槽を使用し、2槽型の場合、原水であるアルカリ排水は第1の中和槽へ導入され、その中和槽から第2の中和槽へ送られる。燃焼排ガスは、第1の中和槽及び第2の中和槽へそれぞれ供給され、各槽で燃焼排ガスによる中和処理が行われる。
【0006】
この結果、例えばpHが12〜11のアルカリ排水が第1の中和槽でpH9〜8まで中和され、第2の中和槽でpH8以下まで中和される。このタンデム処理により、燃焼排ガス中のCO2 濃度が数〜10容量%であっても、処理効率が高いために、必要な燃焼排ガス量を低減できるとされている。
【0007】
しかしながら、この中和装置は1槽式に比べると能力が高いが、個々の中和槽での処理能力が高くないため、装置全体としての効率はさほど高くなく、処理水量に対する燃焼排ガス必要量は依然として多い。また、槽数に比例して装置規模が増大するため、設備コストが高いという問題もある。このため、従来より更に小型で高性能な中和装置が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、中和剤としてCO2 含有ガスを使用するにもかかわらず、小型で高性能なアルカリ排水中和装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のアルカリ排水中和装置は、中和処理すべきアルカリ排水が上部から導入される気液接触筒が貯水槽の上方に連設された処理装置と、処理装置の貯水槽に付設され、CO2 含有ガスを中和剤として貯水槽内の被処理水に注入する散気装置とを具備しており、貯水槽内の被処理水に注入されたCO2 含有ガスが気液接触筒の上部から筒外へ排出され、貯水槽から槽外へ処理水が導出されるように構成されている。
【0010】
本発明のアルカリ排水中和装置においては、原水であるアルカリ排水は、処理装置における気液接触筒の上部から筒内へ導入され、気液接触筒内を流下して下方の貯水槽に滞留する。一方、CO2 含有ガスは、処理装置の貯水槽に付設された散気装置により槽内の被処理水中へ注入され、気液接触筒内を経てその上部から筒外へ排出される。
【0011】
これにより、原水であるアルカリ排水は、第1段階として、処理装置の気液接触筒内でCO2 含有ガスと向流接触して中和処理される。その後、第2段階として、貯水槽内で、散気装置から注入されるCO2 含有ガスと接触し中和処理される。このような2段階処理により、本発明のアルカリ排水中和装置においては、小型の設備で高効率な中和処理が行われる。
【0012】
本発明のアルカリ排水中和装置においては、貯水槽内の被処理水を槽外へ抜き出して気液接触筒の上部から筒内へ再導入する循環系を設けるのがよい。そうすると、貯水槽内の被処理水の一部は、循環系により気液接触筒の上部から筒内へ再導入され、処理装置を循環することにより、2段階処理を繰り返し受け、ルカリ排水が一つの処理装置内においてCO2 含有ガスと何回も接触するので、処理効率が更に向上する。
【0013】
散気装置としては、CO2 含有ガスを自ら吸引して貯水槽内の被処理水に注入する自吸式散気装置が、高効率であり、好ましい。
【0014】
本発明のアルカリ排水中和装置は、ボイラーのブロー水の中和処理に特に好適である。なぜなら、ボイラーのブロー水の中和処理に本発明を適用した場合、そのボイラーで生じる燃焼排ガスをCO2 含有ガスとして利用でき、自己完結型のシステムを構成することができるからである。
【0015】
気液接触筒へアルカリ排水を供給する原水供給系に流量制御弁を設け、貯水槽から導出される処理水のpH値が目標範囲内に管理されるように、開閉制御または流量制御を行うならば、処理水のより厳密なpH管理が可能となる。
【0016】
吸気式散気装置へCO2 含有ガスを供給するガス供給系に対して、バックアップ用のCO2 ガスボンベを接続可能とすることにより、必要量のCO2 含有ガスを確保できない場合でも、アルカリ排水の処理量を減らすことなく中和処理を続けることができ、ボイラーの燃焼排ガスを使用する場合は、ボイラーの負荷変動の影響を受けることなく安定的に中和処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアルカリ排水中和装置は、貯水槽の上に気液接触筒を連結した処理装置において、アルカリ排水をCO2 含有ガスと何回も繰り返し接触させるので、ガス中のCO2 を有効利用でき、処理効率に著しく優れる。このため、小型で安価な設備により多量のアルカリ排水を処理でき、設備コスト低減、及び処理コスト低減の両方に大きな効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態を示すアルカリ排水中和装置の構成図である。
【0019】
本実施形態のアルカリ排水中和装置は、ボイラー10から排出される高アルカリのブロー水を、当該ボイラー10で生じる燃焼排ガスを利用して中和処理するものであり、その中和処理のために、ブロー水を燃焼排ガスと接触させて中和処理する縦型の処理装置20を具備している。
【0020】
縦型の処理装置20は、被処理水を貯留する貯水槽21と、その上に連結された垂直な気液接触筒22と、貯水槽21の側壁に取付けられた自吸式散気装置23と、貯水槽21内の被処理水をポンプにより槽底部から汲み上げて気液接触筒22の最上部内へ戻す循環系24とを有している。
【0021】
処理装置20の気液接触筒22内には、ブロー水と燃焼排ガスの接触面積、接触時間を増大させるために、ラッシヒリング材などからなる静止型の接触促進部材が充填されている。自吸式散気装置23は、水平軸により支持された槽内の回転羽根と槽外の羽根駆動モータとからなり、槽内の被処理水中で回転羽根が回転駆動されることによりガスを吸引して槽内の被処理水中に拡散注入する。
【0022】
貯水槽21内の自吸式散水装置23に対向する側は、処理水の取り出し側である。貯水槽21の取り出し側には、その側の側壁に沿って仕切り壁25が設けられている。仕切り壁25は、貯水槽21の槽底から若干離れた位置に支持されおり、取り出し側の側壁との間に処理水滞留部26を形成し、その反対側(散水装置側)の側壁との間に気液接触部27を形成している。処理水滞留部26には、処理水のpHを測定するためにpH計28が設置されている。
【0023】
処理装置20には、ボイラー10からブロー水及び燃焼排ガスが導入される。ボイラー10から排出された高アルカリのブロー水は、原水槽11に冷却水と共に導入される。原水槽11内のブロー水は、pHが例えば11.0〜11.8であり、ポンプをもつ原水導入系12により、処理装置20の気液接触筒22内に最上部から導入される。原水導入系12には流量制御弁13が設けられている。流量制御弁13は、前記pH計28にて測定された処理水のpHが目標範囲内に管理されるように、図示されない制御部により開閉制御される。
【0024】
一方、ボイラー10から排出される燃焼排ガスは、処理装置20の貯水槽21に設けられた自吸式散気装置23の作動に伴い、排ガス供給系14を経由して当該散気装置23に吸引され、当該散気装置23から貯水槽21の処理水滞留部26内のブロー水中に細かな気泡として注入される。排ガス供給系14には、バックアップ用のCO2 ガスボンベ15が接続されている。
【0025】
次に、本実施形態のアルカリ排水中和装置の機能について説明する。
【0026】
本実施形態のアルカリ排水中和装置の稼働中は、原水導入系12内のポンプ、循環系24内のポンプ、及び自吸式散水装置23のモータが作動する。原水導入系12内のポンプが作動することにより、原水槽11内の高アルカリのブロー水が、原水導入系12を経由して処理装置20の気液接触筒22内に最上部から導入される。気液接触筒22内に導入されたブロー水は、気液接触筒22内の接触促進部材を経て貯水槽21内の気液接触部27に流入し、ここに滞留する。
【0027】
また、循環系24内のポンプが作動することにより、貯水槽21内の気液接触部27に滞留するブロー水が、循環系24を経由して気液接触筒22の最上部内に再導入される。再導入されたブロー水は、気液接触筒22内を経て貯水槽21内の気液接触部27に流入する。すなわち、原水槽11内のブロー水は、処理装置20に導入されつつ、処理装置20を循環する。
【0028】
そして、自吸式散気装置23の駆動モータが作動することにより、ボイラー10から燃焼排ガスの一部が排ガス供給系14を経て自吸式散気装置23に吸引され、貯水槽21内の気液接触部27に存在するブロー水中に拡散して注入される。これにより、貯水槽21内の気液接触部27に存在するブロー水を中和処理する。貯水槽21内の気液接触部27にあるブロー水中に注入された燃焼排ガスは、気液接触部27から気液接触筒22内に下方より流入し、気液接触筒22内を上昇して、その最上部から筒外へ排出される。燃焼排ガスが気液接触筒22内を上昇する過程で、その燃焼排ガスは気液接触筒22内を流下するブロー水と向流接触し、そのブロー水を中和処理する。
【0029】
すなわち、ボイラー10から原水槽11を経て処理装置20に導入されたブロー水は、気液接触筒22から貯水槽21の気液接触部27に至る過程で、燃焼排ガスにより2段階の中和処理を受ける。しかも、気液接触部27に存在するブロー水の一部が循環系24を経て気液接触筒22及び貯水槽21の気液接触部27に循環し、2段階の中和処理を繰り返し受ける。そして、処理装置20へのブロー水の新たな供給に伴って、気液接触部27に存在するブロー水の一部が、貯水槽21の処理水滞留部26を経て槽外へ処理水として流出する。
【0030】
かくして、本実施形態のアルカリ排水中和装置においては、ボイラー10から排出されるpH11以上の高アルカリのブロー水が、CO2 濃度が3容量%程度の低濃度であっても、単一の処理装置20においてpH8未満まで高い効率で中和処理される。
【0031】
本実施形態のアルカリ排水中和装置においては又、貯水槽21の処理水滞留部26に存在するブロー水のpHがpH計28により測定される。ブロー水のpH測定値が目標範囲より高い場合、すなわちアルカリ度が目標範囲より高く、中和処理が不足している場合は、原水導入系12に設けられた流量制御弁13の開度が小さくなる。これにより、処理装置20へのブロー水の導入量が減少し、その分、処理装置20からの処理水の流出量が減少するので、ブロー水の処理装置20への循環量が相対的に増大し、中和処理の程度が増すことにより、アルカリ度が低下する。
【0032】
反対に、ブロー水のpH測定値が目標範囲より低い場合、すなわちアルカリ度が目標範囲より低く、中和処理が過剰の場合は、原水導入系12に設けられた流量制御弁13の開度が大きくなる。これにより、処理装置20へのブロー水の導入量が増加し、その分、処理装置20からの処理水の流出量が増加するので、ブロー水の処理装置20への循環量が相対的に減少し、中和処理の程度が減ることにより、アルカリ度が上昇する。
【0033】
これにより、処理水のpHが目標範囲内に管理されつつ、最大限の処理量が確保される。原水であるブロー水の処理要求量に対して燃焼排ガス量が不足する場合は、バックアップ用のCO2 ガスボンベ15から排ガス供給系14へCO2 ガスが補充される。
【0034】
特許文献2に記載された2段タンデム式のアルカリ排水中和装置と、本実施形態のアルカリ排水中和装置とを、原水pH及び処理水pHが同一、処理量が同一で比較した場合、必要排ガス量は概ね、前者が後者の2倍を必要とする。これに伴って、排ガス吸引動力も概ね、前者が後者の2倍を必要とする。設備コストは概ね、前者が後者の1.5倍となる。
【0035】
ここにおける原水のpHは11.8、水温は40℃、電気伝導度は350mS/mであり、処理水のpHは7.5、処理量は1.0m3 /Hrである。また、排ガスのCO2 濃度は4.0%であり、必要排ガス量は、特許文献2に記載された2段タンデム式のアルカリ排水中和装置の場合は30m3 /Hrであるのに対し、本実施形態のアルカリ排水中和装置は半分の15m3 /Hrとなる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態を示すアルカリ排水中和装置の構成図である。
【符号の説明】
【0037】
10 ボイラー
11 原水タンク
12 原水導入系
13 流量制御弁
14 排ガス供給系
15 CO2 ガスボンベ
20 処理装置
21 貯水槽
22 気液接触筒
23 自吸式散気装置
24 循環系
25 仕切り壁
26 原水滞留部
27 気液接触部
28 pH計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中和処理すべきアルカリ排水が上部から導入される気液接触筒が、貯水槽の上方に連設された処理装置と、
処理装置の貯水槽に付設され、CO2 含有ガスを中和剤として貯水槽内の被処理水に注入する散気装置とを具備しており、
貯水槽内の被処理水に散気装置により注入されたCO2 含有ガスが気液接触筒の上部から筒外へ排出され、貯水槽から槽外へ処理水が導出されるアルカリ排水中和装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアルカリ排水中和装置において、処理装置の貯水槽内の被処理水を槽外へ抜き出して気液接触筒の上部から筒内へ再導入する循環系を具備するアルカリ排水中和装置。
【請求項3】
請求項1に記載のアルカリ排水中和装置において、散気装置は、CO2 含有ガスを自ら吸引して貯水槽内の被処理水に注入する自吸式散気装置であるアルカリ排水中和装置。
【請求項4】
請求項1に記載のアルカリ排水中和装置において、中和処理すべきアルカリ排水がボイラーのブロー水であり、中和剤であるCO2 含有ガスが当該ボイラーにおける燃焼排ガスであるアルカリ排水中和装置。

【図1】
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