説明

アルカリ蓄電池用導電剤、アルカリ蓄電池およびその製造方法

【課題】導電性を向上させたアルカリ蓄電池用導電剤を提供するとともに、これにより高容量としたアルカリ蓄電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のアルカリ蓄電池1用の導電剤は、ニッケル、リチウムおよびコバルトを含有するコバルト化合物を含む。コバルト化合物は、広角X線回折測定より得られたX線回折パターンにおいて、(003)面に対応する2θ=8.58°付近の第一のピークおよび2θ=8.48°付近の第二のピークを有することを特徴とする。本発明において、コバルト化合物は、X線回折パターンにおいて、第一のピークの面積Aと第二のピークの面積Bとの比が、95:5〜10:90であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池用導電剤、アルカリ蓄電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ蓄電池は、モバイルコンピュータやデジタルカメラなどの電源や、ハイブリッド形電気自動車(HEV)、玩具の電源、電動工具の電源などの幅広い用途に用いられており、さらなる高性能化が求められている。
【0003】
アルカリ蓄電池の正極活物質である、Ni(OH)(水酸化ニッケル)は、充電されると導電性の高い物質であるNiOOHに変化する。しかしながら、正極活物質として水酸化ニッケルのみを用いた場合、充放電の繰り返しにより局地的に導電性が欠如し、その部位ではそれ以上の放電が不可能となるため、放電に伴い再び導電性が低下するという問題があった。そこで、従来から、導電ネットワークを維持し活物質の利用率を向上させるために、水酸化コバルトを正極活物質に添加することが行われている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−63580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
正極活物質に水酸化コバルトを添加することで、水酸化コバルトが電解液中に溶解析出して初期充電過程において導電性の高いオキシ水酸化コバルトになるため、活物質粒子間に導電ネットワークが形成され、活物質の利用率を向上することができる。
【0006】
しかしながら、水酸化コバルトを添加した正極活物質を備えるアルカリ蓄電池が、いったん深放電状態に至るとオキシ水酸化コバルトが還元され、導電性が低下し、初期と同等の活物質の利用率が得られなくなり容量が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、導電性を向上させたアルカリ蓄電池用導電剤を提供するとともに、これにより高容量としたアルカリ蓄電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決べく鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
(1)ニッケル、リチウムおよびコバルトを含有するコバルト化合物のうち、広角X線回折測定により得られたX線回折パターンにおいて、2θ=8.58°付近の第一のピークおよび2θ=8.48°付近の第二のピークを有する化合物の導電率が顕著に高い。
(2)上記コバルト化合物は、コバルト源となる第一の化合物およびリチウム源となる第二の化合物を、コバルトとリチウムの原子比(Co/Li)が1/25〜1/50となるように混合してなる混合物と、ニッケル源と、を反応させることにより得られる。
【0009】
本発明はかかる新規な知見に基づくものである。
すなわち、本発明は、ニッケル、リチウムおよびコバルトを含有するコバルト化合物を含み、前記コバルト化合物は、広角X線回折測定より得られたX線回折パターンにおいて、(003)面に対応する2θ=8.58°付近の第一のピークおよび2θ=8.48°付近の第二のピークを有することを特徴とするアルカリ蓄電池用導電剤である。また、本発明は前記アルカリ蓄電池用導電剤を含む正極を備えるアルカリ蓄電池である。
【0010】
また、本発明は、上記アルカリ蓄電池の製造方法であって、コバルト源となる第一の化合物およびリチウム源となる第二の化合物を、コバルトとリチウムの原子比(Co/Li)が、1/25以上1/50以下となるように混合してなる混合物と、ニッケル源と、を反応させることにより前記コバルト化合物を得る工程を含むことを特徴とするアルカリ蓄電池の製造方法である。
【0011】
本発明のアルカリ蓄電池用導電剤には、導電率が顕著に高いコバルト化合物が含まれるので、導電剤の導電性を顕著に向上させることができる。また、本発明のアルカリ蓄電池は、導電率が顕著に高いコバルト化合物を含む正極を備えるので、正極の導電性が顕著に向上し、これにより電池容量を高容量とすることができる。
【0012】
また、正極に含まれるコバルト化合物には、ニッケルとリチウムとコバルトの3種の化合物が含まれているので、コバルトを含めて2種の金属を含む化合物よりもコバルト量を減らすことができ、低コストである。
【0013】
本発明は、以下の構成とするのが好ましい。
コバルト化合物を、X線回折パターンにおいて、第一のピークの面積Aと第二のピークの面積Bとの比が、95:5〜10:90である構成とすると、正極の導電性向上効果がさらに顕著なものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、導電性を向上させたアルカリ蓄電池用導電剤を提供し、これにより高容量としたアルカリ蓄電池およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態1のアルカリ蓄電池の一部を切り欠いた斜視図
【図2】実施例において合成したコバルト化合物のXRDパターン
【図3】合成例3で合成したコバルト化合物のXRDパターンを部分的に示した図
【図4】合成例4で合成したコバルト化合物のXRDパターンを部分的に示した図
【図5】合成例5で合成したコバルト化合物のXRDパターンを部分的に示した図
【図6】合成例6で合成したコバルト化合物のXRDパターンを部分的に示した図
【図7】合成例7で合成したコバルト化合物のXRDパターンを部分的に示した図
【図8】比較の化合物の電子顕微鏡写真
【図9】合成例5で合成したコバルト化合物の電子顕微鏡写真
【図10】合成例6で合成したコバルト化合物の電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態1>
本発明を具体化した実施形態1のアルカリ蓄電池1について、図1を参照しながら説明する。
本実施形態のアルカリ蓄電池1は、図1に示すように、円筒状の電槽缶2に、正極板3と負極板4とをセパレータ5を介して巻回した極板群と、電解液(図示せず)とを収容してなるものである。
【0017】
本実施形態のアルカリ蓄電池1において、極板群は、ニッケル、リチウムおよびコバルトを含有するコバルト化合物を含む正極板3(正極)と、水素吸蔵合金を主成分とする負極活物質を用いた負極板4とを、セパレータ5を介して巻回してなる。
【0018】
本実施形態のアルカリ蓄電池1をニッケル水素蓄電池1に適用する場合、負極活物質の水素吸蔵合金としては、水素吸蔵が可能なものであって、一般にAB系、AB系、あるいはABおよびAB混合系と呼ばれる合金などを用いることができる。これらのうち、AB型の合金のMmNi(Mmは希土類元素の混合物)のNiの一部をCo、Mn、Al、あるいはCu等で置換した合金は、優れた充放電サイクル寿命特性と高い放電容量を持つので好ましい。水素吸蔵合金として、水素対金属の原子数の比(以下、H/Mという)が0.5および40℃におけるプラトー圧を0.07MPa以上、0.12MPa以下とし、合金をアルカリ性溶液にて処理した合金を用いると、極めて優れた過放電耐久性を有しているので特に好ましい。
【0019】
上記水素吸蔵合金には、防蝕添加剤として、イットリウム、イッテルビウム、エルビウムの他に、ガドリニウム、セリウムの酸化物や水酸化物を添加したり、予めこれらの元素を金属として含有させてもよい。
【0020】
負極活物質の平均粒径は50μm以下であることが好ましい。負極活物質を所望の形状で得るためには、各種の粉砕機や分級機が用いられる。具体的には、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル等が用いられる。粉砕時には水、あるいはアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いて湿式粉砕を用いることもできる。
分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが使用でき、必要に応じて乾式、湿式ともに用いることができる。
【0021】
負極板4には、以下に例示する導電剤を含有させてもよい。導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されない。通常、鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等の天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、気相成長炭素、金属(ニッケル等)粉、金属繊維等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。これらの導電剤の中では、電子伝導性及び塗工性の観点よりケッチェンブラックが望ましい。
【0022】
導電剤の添加量は、負極の総質量に対して0.1質量%〜10質量%が好ましい。特にケッチェンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため望ましい。これらを混合する際には、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で使用することが可能である。
【0023】
次に、正極板3について説明する。正極板3(正極3)は、水酸化ニッケルを含む正極活物質と、ニッケル、リチウムおよびコバルトを含有するコバルト化合物と、を含有する正極活物質材料を金属多孔体に充填してなる。水酸化ニッケルを含む正極活物質としては、ニッケル水素蓄電池の正極活物質として一般的に用いられるものを使用することができる。
【0024】
さて、正極板3に含まれるコバルト化合物は、導電性が高い化合物であり、導電剤として機能する。このコバルト化合物は、ニッケル原子、リチウム原子、コバルト原子、酸素原子を含む化合物である。
【0025】
正極板3に含まれるコバルト化合物としては、広角X線回折測定より得られたX線回折パターンにおいて、(003)面に対応する2θ=8.58°付近の第一のピークおよび2θ=8.48°付近の第二のピークを有するものを用いる(図4を参照)。このような特徴を有するコバルト化合物は、そのもの自体が高い導電性を有しており、本実施形態のアルカリ蓄電池1の正極3の導電性を顕著に向上させるという機能を有している。
【0026】
第一のピークと第二のピークを有するコバルト化合物のなかでも、第一のピークの面積Aと第二のピークの面積Bとの比(A:B)が、95:5〜10:90であるコバルト化合物は、正極3の導電性をさらに顕著に向上させることができるので好ましい。
【0027】
第一のピーク及び第二のピークを有するコバルト化合物の導電性が高い理由は以下のように推察される。第一のピークおよび第二のピークを有するコバルト化合物と、第1のピークのみを有する化合物(比較の化合物)とを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、前者では図9および図10に示すように、針状の結晶が不定形の結晶とともに存在するのが認められるが、後者では図8に示すように、針状の結晶は認められず、不定形の結晶のみが認められる。第一のピークおよび第二のピークを有するコバルト化合物において導電性が顕著に高い理由は、結晶構造が、第一のピークのみを有する化合物とは相違する点にあると推察される。
【0028】
正極板3に含まれるコバルト化合物は、コバルト源となる第一の化合物およびリチウム源となる第二の化合物を、コバルトとリチウムの原子比(Co/Li)が、1/25以上1/50以下となるように混合してなる混合物と、ニッケル源とを、反応させることにより得られる。リチウム源となる第ニの化合物の量が上述の範囲よりも少ない場合には、XRDパターンにおいて2θ=8.58°付近の第一のピークのみを有する化合物が得られ、導電性向上効果が小さくなる。リチウム源となる第二の化合物の量が上述の範囲よりも多い場合には、強酸化剤の割合が増えて反応容器の破壊が起こったり、導電性向上効果も小さくなる。
【0029】
コバルト源となる第一の化合物としては例えばCoOなどがあげられ、リチウム源となる第二の化合物としては、例えばLiなどがあげられる。ニッケル源としては、例えばNiO、Ni(OH)等のニッケル含有化合物をあげることができる。
ニッケル源として上記ニッケル含有化合物を用いる場合には、第一の化合物と第二の化合物とニッケル含有化合物とを均一に混合させてから反応させる。
【0030】
ニッケル源としては、上記ニッケル含有化合物を用いずに、ニッケルるつぼを用いてもよく、この場合には、コバルト源となる第一の化合物とリチウム源となる第二の化合物とを混合して得られる混合物を、ニッケルるつぼに入れて高温で加熱処理することにより、コバルト化合物を作製することができる。ニッケルるつぼを用いる方法では、第一の化合物と第二の化合物とニッケル源となる化合物との混合は不要である。
【0031】
第一の化合物と第二の化合物との混合物とニッケル源との反応は、高温で加熱処理を行うことにより実行する。高温での加熱処理は、具体的には、通常、700℃〜1000℃の温度で、2時間〜5時間焼成することにより実行することができる。なお、高温での加熱処理を行う前に仮焼成を行ってもよく、この場合、300℃〜500℃で、0.5時間〜2時間仮焼成を行ってもよい。
【0032】
高温での加熱処理後に得られる生成物を室温程度にまで冷ました後、当該生成物をイオン交換水などの水に1日〜3日浸漬し、乾燥するとコバルト化合物が得られる。
【0033】
正極活物質材料には、正極活物質とコバルト化合物以外に、導電性改質剤として水酸化コバルト、酸化コバルト等を添加してもよいし、添加剤として、イットリウムやイッテルビウム等の希土類元素の酸化物や水酸化物などの酸素過電圧を向上させる物質を用いてもよい。
【0034】
正極活物質の平均粒径は50μm以下であることが好ましい。正極活物質を所望の形状で得るためには、負極活物質と同様の器械を用いて、負極活物質と同様の方法で粉砕および分級を行うことができる。
【0035】
本実施形態では、正極板3に上記方法などにより得られたコバルト化合物が含まれるので導電性が高く、正極板3を作製する際に他の導電剤を別途添加する必要はないが、ニッケル等の金属粉末を他の導電剤として含有させてもよい。
【0036】
なお、正極板3及び負極板4には、主要構成成分である活物質、上述した導電剤の他に、結着剤、増粘剤、フィラー等を、他の構成成分として含有させてもよい。
【0037】
結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。
結着剤の添加量は、正極3または負極4の総質量に対して0.1〜3質量%が好ましい。
【0038】
増粘剤としては、通常、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の多糖類等を1種または2種以上の混合物として用いることができる。増粘剤の添加量は、正極3または負極4の総質量に対して0.1〜3質量%が好ましい。
【0039】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば特に制限はない。通常、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極3または負極4の総質量に対して添加量は5質量%以下が好ましい。
【0040】
次に、本実施形態のアルカリ蓄電池1の製造方法について簡単に説明する。
まず、正極板3および負極板4を作製する。正極板3および負極板4は、それぞれの活物質、導電剤および結着剤などの他の成分を水に混合させた後、得られた混合物を金属多孔体又は基体に含浸、又は塗布し、乾燥することによって作製することができる。
【0041】
本実施形態では、正極板3を作製する際には、コバルト源となる第一の化合物およびリチウム源となる第二の化合物を、コバルトとリチウムの原子比(Co/Li)が、1/25以上1/50以下となるように混合してなる混合物と、ニッケル源とを、反応させることにより得られたコバルト化合物を正極活物質に添加して用いる。
【0042】
金属多孔体や基体への塗布方法としては、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚みおよび任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0043】
正極板3の金属多孔体としては、例えば、ニッケルやニッケルメッキを行った鋼板を好適に用いることができ、発泡体、繊維群の形成体、凸凹加工を施した3次元機材の他に、パンチング鋼板等の2次元機材が用いられる。厚さの限定は特にないが、通常、5〜700μmのものが用いられる。
【0044】
負極板4の基体としては、本実施形態のアルカリ蓄電池1をニッケル水素蓄電池1に適用する場合には、安価で、且つ電導性に優れる鉄または鋼の箔ないし板をパンチング加工し、耐還元性向上のためにNiメッキを施した、多孔板を使用することが好ましい。
【0045】
次に、正極板3と負極板4とをセパレータ5を介して巻回してロール状に巻回した巻回極板群を作製する。
本実施形態において、セパレータ5としては、既知の優れた高率放電特性を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することができる。セパレータ5を構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂や、ナイロンを挙げることができる。
【0046】
セパレータ5の空孔率は、強度、ガス透過性の観点から、セパレータ5の体積に対して80体積%以下が好ましく、充放電特性の観点から、20体積%以上が好ましい。セパレータ5は親水化処理を施す事が好ましい。例えば、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂繊維の表面に親水基のグラフト重合処理、スルホン化処理、コロナ処理、PVA処理を施したり、これらの処理を既に施された繊維を混合したシートを用いても良い。
【0047】
次に巻回極板群の一方の巻回端面に、活物質を除去した圧縮済みの正極金属多孔体の端面を突出させ、ニッケルメッキを施した鋼板からなる上部集電板(正極集電板)を抵抗溶接により接合する。巻回極板群の他方の巻回端面に突出させた合金無塗着の負極基体の端面に、ニッケルメッキを施した鋼板からなる下部集電板(負極集電板)を抵抗溶接により接合する。
【0048】
このようにして正極集電板および負極集電板を取り付けた巻回極板群を、円筒状の電槽缶2に、正極集電板が電槽缶2の開放端側、負極集電板が電槽缶2の底に当接するように収容し、負極集電板の中央部分を電槽缶2の壁面に抵抗溶接により接合し、電解液を所定量注液する。
【0049】
電解液としては、一般にアルカリ畜電池等への使用が提案されているものが使用可能である。水を溶媒とし、溶質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化リチウムを単独またはそれら2種以上の混合物を溶解したもの等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
電解液には、合金への防食剤や、正極での過電圧向上のためや、負極の耐食性の向上や、自己放電向上の為の添加剤として、イットリウム、イッテルビウム、エルビウム、カルシウム、硫黄、亜鉛等の化合物を単独またはそれら2種以上混合して添加することができる。
【0051】
電解液の注液は、常圧で注液することも可能であるが、真空含浸方法や加圧含浸方法や遠心含浸法も使用可能である。
【0052】
電槽缶2の材料としては、本実施形態のアルカリ蓄電池1をニッケル水素蓄電池1などに適用する場合には、ニッケルメッキした鉄やステンレススチール、ポリオレフィン系樹脂等またはこれらの複合体が挙げられる。
【0053】
次に、ニッケル板を上部集電板と蓋の内面に取り付け、蓋体の外面には、ゴム弁(排気弁)およびキャップ状の端子を取り付ける。そして、蓋体の周縁をつつみ込むように蓋体にリング状のガスケット6を装着する。蓋体を、電槽缶2の開放端をかしめて気密に密閉した後、圧縮して電池1の総高さを調整すると、図1に示すSubC形アルカリ蓄電池1(密閉型のアルカリ蓄電池)が得られる。
【0054】
<実施例>
以下、本発明のアルカリ蓄電池の正極に含まれるコバルト化合物の具体例を、従来の導電剤および比較の化合物とともに挙げることにより、さらに具体的に説明する。
(合成例1:従来の導電剤の合成)
CoO(和光純薬工業株式会社製)、NiO(和光純薬工業株式会社製)、およびNa(和光純薬工業株式会社製、化学用過酸化ナトリウム)を、コバルト原子、ニッケル原子およびナトリウム原子の比が1:3:30となるように、乳鉢に入れて均一に混合することにより得られた混合物を、400℃で1時間焼成し、次いで、700℃で3時間の焼成を行った。焼成生成物を、室温下まで冷却し、粒子状の生成物(ナトリウムとコバルトとニッケルとを含む化合物)を得た。
【0055】
(合成例2:比較の化合物)
CoO(和光純薬工業株式会社製)、およびLi(和光純薬工業株式会社製)を、コバルト原子、リチウム原子の比が1:5となるように、乳鉢に入れて均一に混合することにより得られた混合物を、ニッケル製るつぼに入れ、400℃で1時間焼成し(仮焼成)、次いで、800℃で3時間の焼成を行った(本焼成)。
焼成生成物を、室温下まで冷却してから、イオン交換水に1日間浸漬し、浸漬後、中性になるまで充分に水で洗浄した後、減圧下まで乾燥することにより粒子状の生成物(リチウムとコバルトとニッケルとを含む化合物)を得た。
【0056】
(合成例3:比較の化合物)
CoOおよびLiを、コバルト原子、リチウム原子の比が1:10となるように混合したこと以外は合成例2と同様にして、合成例3の粒子状の生成物を得た。
【0057】
(合成例4:本発明のアルカリ蓄電池の正極に含まれるコバルト化合物)
CoOおよびLiを、コバルト原子、リチウム原子の比が1:25となるように混合したこと以外は合成例2と同様にして、合成例4の粒子状の生成物を得た。
【0058】
(合成例5:本発明のアルカリ蓄電池の正極に含まれるコバルト化合物)
CoOおよびLiを、コバルト原子、リチウム原子の比が1:30となるように混合したこと以外は合成例2と同様にして、合成例5の粒子状の生成物を得た。
【0059】
(合成例6:本発明のアルカリ蓄電池の正極に含まれるコバルト化合物)
CoOおよびLiを、コバルト原子、リチウム原子の比が1:40となるように混合したこと以外は合成例2と同様にして、合成例6の粒子状の生成物を得た。
【0060】
(合成例7:本発明のアルカリ蓄電池の正極に含まれるコバルト化合物)
CoOおよびLiを、コバルト原子、リチウム原子の比が1:50となるように混合したこと以外は合成例2と同様にして、合成例7の粒子状の生成物を得た。
【0061】
(合成例8:本発明のアルカリ蓄電池の正極に含まれるコバルト化合物)
CoOおよびLiを、コバルト原子、リチウム原子の比が1:55となるように混合したこと以外は合成例2と同様にして、合成例8の粒子状の生成物を得た。
【0062】
(合成例9:本発明のアルカリ蓄電池の正極に含まれるコバルト化合物)
CoOおよびLiを、コバルト原子、リチウム原子の比が1:60となるように混合したこと以外は合成例2と同様にして、合成例9の粒子状の生成物を得た。
【0063】
(試験方法)
上記合成例1〜7の粒子状の生成物を粉末X線回折法により分析するとともに、合成例1〜9の粒子状の生成物の粉体抵抗値を測定した。なお合成例2〜7の粒子状の生成物に関してはSEMによる表面観察をあわせて行った。
【0064】
(1)粉末X線回折法(XRD)による分析
SPring−8の産業利用ビームライン(BL19B2)において、XRDによる分析を実施した。測定波長として0.7Åを使用し、測定時間は5分間とした。
測定により得られたXRDパターンをリートベルト法(RIETAN2000プログラム)で解析することによって、合成例1の生成物は、Na0.4Ni0.34Co0.66であることが確認され、合成例2〜合成例7の生成物は、ニッケル、リチウムおよびコバルトを含有する化合物であることが確認された。
【0065】
図2には、下から順に合成例2、合成例3、合成例4、合成例5、合成例6、合成例7の各生成物のXRDパターンを示した。さらに図3〜図7には、各XRDパターンのうち、2θ=8.2°〜9°の範囲を拡大して示した。図3には合成例3の生成物のXRDパターン、図4には合成例4の生成物のXRDパターン、図5には合成例5の生成物のXRDパターン、図6には合成例6の生成物のXRDパターン、図7には合成例7の生成物のXRDパターンをそれぞれ示した。
合成例2〜7については、(003)面に対応する2θ=8.58°付近の第一のピークのピーク面積Aおよび2θ=8.48°付近の第二のピークのピーク面積Bをリートベルト法により解析し、AとBの合計に対するBの割合(B/A+B)を百分率で表1に記載した。
【0066】
(2)粉体抵抗値の測定
測定装置として粉体抵抗測定装置(HP−3,JAPAN SPECTROSCOPIC CO,LTD製)を用い、100mgの試料を直径8mmの錠剤成形器に入れてペレット状に成形し、10MPaまで加圧した状態の抵抗を交流二端子法により測定し、導電率を算出した。算出した導電率(Scm−1)を表1に示す。
【0067】
表1には、合成例1〜9のCoOとLiの混合割合(コバルト原子とリチウム原子の比:表中Co/Liと記載)を併せて示した。合成例1ではリチウム源となる化合物を用いていないので、「−」と示した。
【0068】
(3)SEMによる表面観察
走査型電子顕微鏡(日本電子データム株式会社製、JSM−T200型)を用いて、合成例4〜7の各生成物の表面観察を行った。その結果、合成例4〜7の各生成物では針状の結晶が不定形の結晶とともに存在するのが認められた(図9および図10を参照)。ここで、図9は合成例5の生成物の電子顕微鏡写真であり、図10は合成例5の生成物の電子顕微鏡写真である。
なお、上記合成例4〜7の生成物との比較のために、図8に比較の化合物の電子顕微鏡写真を示す。図8に示す比較の化合物は、CoOおよびLiを、コバルト原子とリチウム原子の比が1:8となるように混合したこと以外は合成例2と同様にして作製したものである。この化合物では図8に示すように、針状の結晶が認められず、不定形の結晶が認められた。
【0069】
【表1】

【0070】
(結果と考察)
合成例4〜7の生成物は、図4〜図7に示すように、X線回折パターンにおいて、(003)面に対応する2θ=8.58°付近の第一のピークおよび2θ=8.48°付近の第二のピークを有していたが、合成例2および3の生成物は、2θ=8.58°付近の第一のピークのみを有していた。
第一のピークおよび第二のピークを有する生成物(合成例4〜7)の導電率は、従来の導電剤(合成例1)や、第一のピークのみを有する比較の化合物(合成例2〜3)、合成例8〜9の生成物よりも顕著に高いという結果が得られた。
このように導電率が顕著に高いコバルト化合物を用いた正極では導電性を顕著に向上させることができると考えられ、このような正極を備えるアルカリ蓄電池では容量も向上させることができると考えられる。
【0071】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、密閉型のアルカリ蓄電池を示したが、開放型のアルカリ蓄電池であってもよい。
(2)上記実施例では、ニッケル源としてニッケルるつぼを用いてコバルト化合物を作製する合成例を示したが、ニッケル含有化合物を用いてコバルト化合物を作製してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…アルカリ蓄電池
2…電槽缶
3…正極(正極板)
4…負極板
5…セパレータ
6…ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、リチウムおよびコバルトを含有するコバルト化合物を含み、
前記コバルト化合物は、広角X線回折測定より得られたX線回折パターンにおいて、(003)面に対応する2θ=8.58°付近の第一のピークおよび2θ=8.48°付近の第二のピークを有することを特徴とするアルカリ蓄電池用導電剤。
【請求項2】
前記コバルト化合物は、前記X線回折パターンにおいて、前記第一のピークの面積Aと前記第二のピークの面積Bとの比が、95:5〜10:90であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池用導電剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のアルカリ蓄電池用導電剤を含む正極を備えるアルカリ蓄電池。
【請求項4】
請求項3に記載のアルカリ蓄電池の製造方法であって、
コバルト源となる第一の化合物およびリチウム源となる第二の化合物を、コバルトとリチウムの原子比(Co/Li)が、1/25以上1/50以下となるように混合してなる混合物と、ニッケル源と、を反応させることにより前記コバルト化合物を得る工程を含むことを特徴とするアルカリ蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−43650(P2012−43650A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184021(P2010−184021)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】