説明

アルカリ金属ポリスルフィドの混合物

本発明は、アルカリ金属ポリスルフィドの混合物ならびにアルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物、それらの製造方法、それらの伝熱流体または蓄熱流体としての使用、ならびにアルカリ金属ポリスルフィドの混合物またはアルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物を含む伝熱流体または蓄熱流体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属ポリスルフィドの混合物ならびにアルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物、それらの製造方法、それらの伝熱流体または蓄熱流体としての使用、ならびにアルカリ金属ポリスルフィドの混合物またはアルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物を含む伝熱流体または蓄熱流体に関する。
【0002】
熱エネルギーを伝達するための流体は、技術の多様な分野において使用される。内燃機関において、水およびエチレングリコールからなる混合物は、燃焼の余熱を冷却装置に運ぶ。類似の混合物は、屋根のソーラーコレクターからの熱を蓄熱装置に運ぶ。化学産業において、これらは電気または化石燃料によって温められた暖房装置からの熱を化学反応装置に、またはそこから冷却装置に運ぶ。
【0003】
使用分野に応じて、伝熱流体または蓄熱流体についての要求の輪郭は非常に大きく異なり、そのため実際上は多数の流体が使用される。該流体は、室温またはさらにより低い温度では液体で、かつ低い粘度を有するべきである。より高い使用温度の場合、水はもはや考慮の対象に該当せず、その際その蒸気圧は高くなりすぎる。したがって、約320℃までは炭化水素ベースの鉱油を使用し、400℃までの温度には合成芳香族化合物を含有する油またはシリコーン油を使用する(VDI Waermeatlas、VDI−Gesellschaft Verfahrenstechnik und Chemieingenieurwesen、Springer Verlag Berlin Heidelberg 2006)。
【0004】
伝熱流体にとっての新たな課題は、電気エネルギーを大規模に生成する太陽熱発電所である(Butscher、R.、Bild der Wissenschaft 2009、3、84〜92ページ)。これまでにこのような数百MWの設備能力を有する発電所が建設され、さらに多くの発電所が特にスペインで、しかしまた北アフリカおよびアメリカでも計画されている。日光照射は、例えば放物状に形づくられたトラフミラーを経由してミラーの焦線に集束される。そこには熱損失を防ぐためにガラス管内に金属管があり、この同心円状の管の間の空間は真空にされている。この金属管に伝熱流体が貫流している。現在、ジフェニルエーテルおよびジフェニルからなる混合物がここに使用されている。熱媒体を最高400℃まで加熱し、それによって内部で水が蒸発させられる蒸気ボイラーを稼働する。この蒸気がタービンを動かし、該タービンがこれまた慣用の発電所と同様に発電機を動かす。こうして日光照射のエネルギー含量に対して約30パーセントの最大ピーク効率が得られる。蒸気タービンの効率は、前記入口温度で約37パーセントである。
【0005】
熱媒体として使用されるジフェニルエーテルおよびジフェニルからなる混合物のどちらの成分も、標準圧下にて約256℃で沸騰する。ジフェニルの融点は68〜72℃、ジフェニルエーテルの融点は26〜39℃である。この2つの物質を混合すると、融点は12℃まで下がる。この2つの物質からなる混合物は、最大400℃まで使用することができ、より高い温度では分解が起きる。蒸気圧は前記温度で約10barであり、工業技術ではまだ許容しうる圧力である。
【0006】
37パーセントよりも高いタービン効率を得るには、より高い蒸気入口温度が必要不可欠である。蒸気タービンの効率は、タービン入口温度とともに上昇する。近代的な化石燃料発電所は650℃までの蒸気入口温度で稼働し、効率はそれによっておよそ45%に達する。ミラーの焦線にある伝熱流体を温度およそ650℃まで加熱し、それによって同様に高い効率を達成することは技術的に全く可能と思われるが、しかし、現在使用される伝熱流体の制限された耐温度性がこれを阻んでいる。
【0007】
トラフ式太陽熱発電所におけるよりも高い温度は、1基のタワーがミラーに取り囲まれていて、それらのミラーが前記タワー上部にある受容器に太陽光を集める、太陽熱タワー式発電所において得ることができる。前記受容器で熱媒体が加熱され、該熱媒体はその後熱交換器を経由して蒸気発生およびタービンの稼働のために利用される。タワー式発電所(ソーラーII、カリフォルニア)においては、すでに硝酸ナトリウム(NaNO3)および硝酸カリウム(KNO3)からなる混合物(60:40)が熱媒体として使用された。該混合物は550℃まで問題なく使用できるが、240℃の非常に高い融点を有する。
【0008】
有機物質であって、400℃を上回る温度に分解することなく永久的に耐える有機物質はこれまで一つも公知ではない。ジメチルシリコーンベースまたはジフェニルシリコーンベースの油のいくつかは、同じく400℃の温度まで、またはむしろそれよりも多少高い温度で使用することができる。しかし、その非常に高い費用は、太陽熱発電所において使用するには不利である。
【0009】
別の可能性は、液体ナトリウムまたはナトリウムカリウム合金を熱媒体とする核技術から公知の使用である。ただし、これらの金属の製造は非常に費用がかかり、少量の水と反応して水素ガスを発生させることは安全技術上の課題である。
【0010】
さらに、低融はんだ、例えばウッド合金(Bi−Pb−Cd−Sn合金、融点約75℃)が公知である。しかし、その非常に高い比重は、伝熱流体として使用するには不利である。
【0011】
さらに考えられうる高温熱媒体は、例えばより少量のセレンおよび/またはテルルとの混合物の形で使用される硫黄をベースにして提案された(WO2005/071037)。液体硫黄は、150〜200℃の範囲において高粘度であり、それによりポンプ圧送ができないため、熱媒体として問題である。粘度は、確かに臭素またはヨウ素等の添加によって下げられるが(US4335578)、これらは腐食性が強い。
【0012】
相応の高圧下で水を使用することも技術的に可能である。しかし、500℃超の温度で270bar超の極めて高い蒸気圧がこれを妨げ、太陽熱発電所の何キロメートルもの管路を不経済に高くすると思われる。蒸気自体は、熱伝導度が比較的低く、体積当たりの熱容量が低いため、液体に比べて熱媒体として不適である。
【0013】
別の可能性は、伝熱流体として無機溶融塩を使用することである。このような溶融塩は、高温で実施されるプロセスでは技術水準である。硝酸カリウム、硝酸ナトリウムおよび亜硝酸ナトリウムからなる共融混合物は146℃の融点を有し、商業的に入手可能である。しかし、温度が450℃を上回ると亜硝酸塩の亜硝酸ガス、アルカリ金属酸化物および元素状窒素への著しい分解が行われるため、適用温度の上限は450℃に制限されている。硝酸ナトリウムおよび硝酸カリウムからなる共融混合物は、600℃の温度まで使用できる。ただし、該混合物を太陽熱発電所において伝熱流体として使用することは、約220℃の高い融点のゆえに問題である。融点未満での温度の低下、例えば夜間または日光照射が少ない時間の間は、結果として管路内での塩の凝固を伴うと思われる。再溶融時に結果的に設備の損傷をもたらす局所的な応力が発生するため、これは防止しなくてはならない。トレース加熱の形での凍結防止も可能と思われるが、前記の高い温度の場合、技術的に実現するのは非常に難しく、さらに費用がかかる。硝酸ナトリウムおよび硝酸カリウムからなる混合物の融点は、硝酸リチウムまたは硝酸カルシウムの添加によって下げることができる(Bradshaw、R.W.、Meeker、D.E.、Solar Energy Materials 1990、第21巻、51〜60ページ)。ただし、硝酸リチウムを含有する混合物は費用が高いため不経済である一方で、カルシウムの存在によって硝酸塩の亜硝酸塩および酸素への分解が促進され、それによって適用温度の上限がカルシウム含有量の増加に伴いますます低下する。
【0014】
さらに伝熱流体として金属ハロゲン化物の使用が可能と思われる。この場合、ハロゲン含有の液体が、特に高められた温度で、使用されうる金属材料ではしばしば腐食を引き起こすという問題が生じる。
【0015】
アルカリ金属ポリスルフィドの混合物、特にナトリウムポリスルフィドおよびカリウムポリスルフィドの混合物は理論的に低い融点を持つものであり、500℃までの温度で、およびそれを上回る温度で使用可能と思われる。ナトリウムスルフィド−カリウムスルフィド−硫黄の三元系のための状態図は、計算によれば組成K0.84Na0.263.61(78℃)、K0.77Na0.233.75(73℃)およびK0.79Na0.213.95(83℃)の場合、低い溶融温度を有する不動点を有するものである。(Lindberg、D.、Backman、R.、Hupa、M.、Chartrand、P.、J.Chem.Therm.2006、第38巻、900〜915ページ)。前記三元系のための実験データは存在しない。カリウムスルフィド−硫黄系においては、融点を約120℃まで低下させることができる(Sangster、J.、Pelton、A.D.、J.Phase Equil.1997、第18巻、82ページ)。アルカリ金属ポリスルフィドの欠点は、溶融状態におけるその比較的高い粘度であり、特にナトリウムポリスルフィドの高粘度である(Cleaver、B.、Davis、A.J.、Electrochimica Acta 1973、第18巻、727〜731ページ)。
【0016】
DE3824517は、伝熱流体としてアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物、特にチオシアン酸カリウムおよびチオシアン酸ナトリウムの使用を記載している。チオシアン酸カリウムは173℃で、チオシアン酸ナトリウムは310℃で溶融する。チオシアン酸カリウム73モル%対チオシアン酸ナトリウム27モル%の比率を有するこの2つの塩の共融混合物は、およそ130℃の融点を有する。該溶融物は低粘度であり、したがってエネルギー消費を高めずにポンプ圧送が可能である。
【0017】
アルカリ金属チオシアン酸塩の欠点は、450℃を上回る温度ですでに分解し始めることにある。硫黄を除去して、より高い融点を有するシアン化アルカリ金属が形成される(Gmelins Handbuch der Anorganischen Chemie 1938、第22巻、899ページ)。
【0018】
アルカリ金属チオシアン酸塩の融点は、さらなる塩を混和することでさらに下げることができる。特に亜硝酸塩または硝酸塩の混和が融点を下げる。ただし、酸化性の亜硝酸塩または硝酸塩の添加は、高められた温度では爆発性の分解をもたらし、場合により溶解した微量の重金属によって分解がさらに加速されうる。したがって、このような混合物の使用は、工業的使用の場合排除されている。
【0019】
さらなる問題は、太陽熱発電所を継続的に稼働しようと努めることから生じる。これは、日光照射が大きい時間の間に、日没後または悪天候の時期に発電に利用できる熱が蓄えられることで達成される。熱の蓄積は、直接的には加熱された熱媒体を十分に断熱された貯蔵タンクに貯蔵することによって、または間接的には熱を別の貯蔵媒体に移行することによって行われる。
【0020】
前記間接的な方法は、アルメリアにある50MWのアンダソルI発電所において実現されており、ここでは硝酸ナトリウムおよび硝酸カリウムの溶融物(60:40)が約28000トン使用されている。該溶融物は、日光照射時間の間により冷たいタンク(約280℃)からオイルソルト熱交換器を経由してより熱いタンクにポンプ圧送され、そこで約380℃まで加熱される。前記発電所は、日光照射が少ない時間および夜間には完全に充電された蓄電池で、全負荷にて約7.5時間稼働できる(www.solarmillennium.de/upload/Download/Technologie/Andasol1−3deutsch.pdf)。このように相応のオイルソルト熱交換器を省くことができるため、伝熱流体を貯蔵流体としても使用することは確かに有利と思われる。これは、オイルの蒸気圧が高く、硝酸塩と比較して費用が高いため、これまで考慮に入れられていない。
【0021】
本発明の課題は、良好に入手可能な、改良された伝熱流体および蓄熱流体を提供することである。該流体は400℃よりも高い温度で、好ましくは500℃超で使用できることが望ましい。同時にその融点はできる限り低いほうが良く、好ましくは200℃未満であるのが望ましい。それに加えて、前記流体は技術的に制御可能な、できる限り低い蒸気圧を、好ましくは10barより低い蒸気圧を有するのが望ましい。
【0022】
前記課題は、本発明によればアルカリ金属ポリスルフィドの混合物によって解決される。
【0023】
したがって、本発明の対象は、一般式
(M1x2(1−x)2y
[式中、M1、M2はLi、Na、K、Rb、Csを表し、M1はM2と同一ではなく、ならびに0.05≦x≦0.95かつ2.0≦y≦6.0である]
で示されるアルカリ金属ポリスルフィドの混合物である。
【0024】
本発明の好ましい実施態様においては、M1はKであり、およびM2はNaである。
【0025】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、0.20≦x≦0.95である。本発明の特に好ましい実施態様においては、0.50≦x≦0.90である。
【0026】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、3.0≦y≦6.0である。本発明の特に好ましい実施態様においては、yは4.0、5.0または6.0である。
【0027】
本発明の特に好ましい実施態様においては、M1はKであり、M2はNaであり、0.20≦x≦0.95、かつ3.0≦y≦6.0である。
【0028】
本発明の殊に好ましい実施態様においては、M1はKであり、M2はNaであり、0.50≦x≦0.90、かつyは4.0、5.0または6.0である。
【0029】
さらなる実施態様は、組成(K(1−x)Nax2z[式中、xは0〜1であり、かつzは2.3〜3.5であり、好ましくは、xは0.5〜0.7であり、かつzは2.4〜2.9である]のアルカリ金属ポリスルフィドに関する。
【0030】
さらなる実施態様は、アルカリ金属ポリスルフィド(Na0.5〜0.650.5〜0.3522.4〜2.8または組成(Na0.60.422.6を有するアルカリ金属ポリスルフィドに関する。
【0031】
本発明による混合物は、特に低い融点によって際立っている。本発明の好ましい実施態様においては、本発明による混合物の融点は200℃未満であり、特に好ましい実施態様においては160℃未満である。
【0032】
本発明による混合物は、高い温度安定性を有する。本発明の好ましい実施態様においては、本発明による混合物は450℃の温度まで安定しており、特に好ましい実施態様においては500℃の温度まで、殊に好ましい実施態様においては500℃を上回る温度でも安定している。
【0033】
本発明の好ましい実施態様においては、本発明による混合物は500℃で5bar未満の蒸気圧を、特に好ましくは2bar未満の蒸気圧を有する。
【0034】
アルカリ金属ポリスルフィドの製造は公知であり、例えばアルカリ金属スルフィドと硫黄との反応によって行うことができる。別の方法は、US4640832におけるナトリウムに関する記載の通り、アルカリ金属と硫黄との直接的反応である。液体アンモニア中のアルカリ金属と硫黄との反応が同じく記載されている。さらなる合成の可能性は、アルコール溶液中でのアルカリ金属硫化水素またはアルカリ金属スルフィドと硫黄との反応である。
【0035】
本発明のさらなる対象は、本発明によるアルカリ金属ポリスルフィドの混合物の製造方法であって、相応のアルカリ金属スルフィドを硫黄と一緒に、または相応のアルカリ金属ポリスルフィドを硫黄と一緒または硫黄なしに、保護ガス下または真空で加熱することを特徴とする前記製造方法である。
【0036】
本発明による方法の好ましい実施態様においては、出発物質は少なくとも0.5時間の間に、少なくとも400℃まで加熱される。
【0037】
保護ガスとして、希ガス、好ましくはアルゴンまたは窒素が好適である。
【0038】
本発明のさらなる対象は、本発明によるアルカリ金属ポリスルフィドの混合物の製造方法であって、液体アンモニア中の相応のアルカリ金属の溶液を硫黄と保護ガス下で反応させることを特徴とする前記製造方法である。
【0039】
本発明のさらなる対象は、本発明によるアルカリ金属ポリスルフィドの混合物の伝熱流体または蓄熱流体としての使用である。
【0040】
本発明の好ましい実施態様においては、本発明によるアルカリ金属ポリスルフィドの混合物の前記使用は、操作時に伝熱流体または蓄熱流体の加水分解反応または酸化を防止するため、空気および湿分を排除して、好ましくは閉鎖系、例えば管路、ポンプ、調整装置および容器等において行われる。
【0041】
本発明のさらなる対象は、本発明によるアルカリ金属ポリスルフィドの混合物を含む伝熱流体または蓄熱流体である。
【0042】
本発明によるアルカリ金属ポリスルフィドの混合物の適用範囲は、アルカリ金属チオシアン酸塩と混合する場合、さらに拡大しうる。
【0043】
本発明のさらなる対象は、一般式
((M1x2(1−x)2ym(M3z4(1−z)SCN)(1−m)
[式中、M1、M2、M3、M4はLi、Na、K、Rb、Csを表し、M1はM2と同一ではなく、M3はM4と同一ではなく、ならびに0.05≦x≦1、0.05≦z≦1、2.0≦y≦6.0であり、かつ物質量率mは0.05≦m≦0.95である]
で示されるアルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物である。
【0044】
本発明の好ましい実施態様においては、M1およびM3はKであり、かつM2およびM4はNaである。
【0045】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、0.20≦x≦1である。本発明の特に好ましい実施態様においては、0.50≦x≦1である。
【0046】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、3.0≦y≦6.0である。本発明の特に好ましい実施態様においては、yは4.0、5.0または6.0である。
【0047】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、0.20≦z≦1である。本発明の特に好ましい実施態様においては、0.50≦z≦1である。
【0048】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、0.20≦m≦0.80である。本発明の特に好ましい実施態様においては、0.33≦m≦0.80である。
【0049】
本発明の特に好ましい実施態様においては、M1およびM3はKであり、M2およびM4はNaであり、0.20≦x≦1、0.20≦z≦0.95、3.0≦y≦6.0、かつ0.20≦m≦0.95である。
本発明の殊に好ましい実施態様においては、M1およびM3はKであり、M2およびM4はNaであり、0.50≦x≦1、0.50≦z≦0.95、yは4.0、5.0または6.0であり、かつ0.33≦m≦0.80である。
【0050】
本発明のさらなる特に好ましい実施態様においては、M1およびM3はKであり、xは1であり、zは1であり、yは4.0、5.0または6.0であり、かつ0.33≦m≦0.80である。
【0051】
本発明のさらなる特に好ましい実施態様においては、M1およびM3はKであり、xは1であり、zは1であり、yは4であり、かつmは0.5である。
【0052】
本発明のさらなる特に好ましい実施態様においては、M1およびM3はKであり、xは1であり、zは1であり、yは5であり、かつmは0.5である。
【0053】
本発明のさらなる特に好ましい実施態様においては、M1およびM3はKであり、xは1であり、zは1であり、yは6であり、かつmは0.5である。
【0054】
驚くべきことに、本発明によるアルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物が、アルカリ金属チオシアン酸塩単独よりも熱的に安定していることが判明した。それに加えて、本発明によるアルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物の粘度は、アルカリ金属チオシアン酸塩を含まないアルカリ金属ポリスルフィド混合物の粘度よりも低い。
【0055】
アルカリ金属チオシアン酸塩の製造は公知であり、大規模工業的に実施されている。
【0056】
本発明のさらなる対象は、本発明によるアルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物を、アルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩を共溶融して製造する方法である。該方法は、溶融物を撹拌しながらも実施できる。
【0057】
本発明によるアルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物は、広範囲な流体温度範囲を有する熱媒体を必要とする高温適用に一般に好適である。
【0058】
本発明のさらなる対象は、本発明によるアルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物の、伝熱流体または蓄熱流体としての使用である。
【0059】
本発明の好ましい実施態様においては、本発明によるアルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物の前記使用は、操作時に伝熱流体または蓄熱流体の加水分解反応または酸化を防止するため、空気および湿分を排除して、好ましくは閉鎖系、例えば管路、ポンプ、調整装置および容器等において行われる。
【0060】
本発明のさらなる対象は、本発明によるアルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物を含む伝熱流体または蓄熱流体である。
【0061】
実施例:
1.カリウムナトリウムポリスルフィド(KxNa1−x2yの合成
a)アルカリ金属ポリスルフィドおよび硫黄からなる混合物の溶融による
出発物質K23およびNa24を文献公知の方法に従って製造した。
【0062】
Na0.4641.5363.745の合成
3.51gのK23、0.43gの硫黄および1.06gのNa24を、密閉し、真空にした石英ガラス製アンプル中で30分間400℃まで加熱し、溶融物を引き続き室温まで冷却した。前記アンプルをアルゴングローブボックス内で開封し、赤色ないし帯赤黄色の固体を乳鉢ですって粉末化した(定量的収率)。該固体は151〜157℃の範囲で溶融する。
【0063】
Na0.421.583.80の合成
3.65gのK23、0.49gの硫黄および0.95gのNa24を、密閉し、真空にした石英ガラス製アンプル中で30分間400℃まで加熱し、溶融物を引き続き室温まで冷却した。前記アンプルをアルゴングローブボックス内で開封し、赤色ないし帯赤黄色の固体を乳鉢ですって粉末化した(定量的収率)。該固体は158〜167℃の範囲で溶融する。
【0064】
Na0.3251.6753.61の合成
3.87gのK23、0.38gの硫黄および0.75gのNa24を、密閉し、真空にした石英ガラス製アンプル中で30分間400℃まで加熱し、溶融物を引き続き室温まで冷却した。前記アンプルをアルゴングローブボックス内で開封し、赤色ないし帯赤黄色の固体を乳鉢ですって粉末化した(定量的収率)。該固体は157〜163℃の範囲で溶融する。
【0065】
b)液体アンモニア中のアルカリ金属と硫黄の反応による
Na0.461.543.75の合成
アルゴンの雰囲気下で、シュレンクおよびグローブボックス技術によって合成を実施した。63.6g(1.98モル)の硫黄をガラス製フラスコ中で−30℃の液体アンモニウムに加えた。引き続き約800mlの液体アンモニウム(−30℃)中の5.50g(0.24モル)のナトリウム金属および32.0g(0.81モル)のカリウム金属の青色の溶液を撹拌しながら滴加した。得られた混合物を室温まで温め、アンモニアが気化するまで撹拌した。得られた橙色の固体から、引き続き150℃かつ真空(約1mbar)で残留アンモニアを除去した。該固体は、166〜169℃の範囲で溶融する。
【0066】
Na0.231.773.75の合成
アルゴンの雰囲気下で、シュレンクおよびグローブボックス技術によって合成を実施した。43.0g(1.34モル)の硫黄をガラス製フラスコ中で−30℃の液体アンモニアに加えた。引き続き約800mlの液体アンモニア(−30℃)中の1.82g(0.079モル)のナトリウム金属および24.9g(0.63モル)のカリウム金属の青色の溶液を撹拌しながら滴加した。得られた混合物を室温まで温め、アンモニアが気化するまで撹拌した。得られた橙色の固体から、引き続き150℃かつ真空(約1mbar)で残留アンモニアを除去した。該固体は165〜166℃で溶融する。
【0067】
2.アルカリ金属チオシアン酸塩を有する(KxNa1−x2yからなる混合物の合成および特性
a)合成
方法1:
カリウムポリスルフィド(K2x)またはカリウムナトリウムポリスルフィド((KxNa1−x2y)およびチオシアン酸カリウム(KSCN)の相応量を、密閉し、真空にした石英ガラス製アンプル中で30分間400℃まで加熱し、溶融物を引き続き室温まで冷却した。前記アンプルをアルゴングローブボックス内で開封し、溶融体を乳鉢ですって粉末化した。橙色の固体が得られ、その溶融範囲は第1表に示されている。
【0068】
方法2:
カリウムポリスルフィド(K2x)またはカリウムナトリウムポリスルフィド((KxNa1−x2y)およびチオシアン酸カリウム(KSCN)の相応量を混合し、ガラス製フラスコ中でアルゴン雰囲気下にて180℃で加熱した。均質な溶融物が生じるまで撹拌し、引き続き室温まで冷却した。橙色の固体が得られ、その溶融範囲は方法1に従って製造された固体の溶融範囲と等しかった(第1表参照)。
【0069】
第1表
【表1】

【0070】
b)粘度
前記溶融物の粘度を、回転粘度計を用いて測定した。
【0071】
第2表
【表2】

【0072】
c)温度安定性
温度安定性試験を、混合物(K240.5(KSCN)0.5(溶融範囲110〜112℃)、(K250.5(KSCN)0.5(溶融範囲150〜158℃)および(K260.5(KSCN)0.5(溶融範囲146〜153℃)を用いて試験した。
【0073】
400℃での安定性:
組成(K240.5(KSCN)0.5の混合物3gを、真空にした石英ガラス製アンプル中で28日間、400℃で貯蔵した。前記混合物の溶融範囲は、不変であった。
【0074】
組成(K250.5(KSCN)0.5の混合物3gを、真空にした石英ガラス製アンプル中で28日間、400℃で貯蔵した。前記混合物の溶融範囲は、不変であった。
【0075】
組成(K260.5(KSCN)0.5の混合物3gを、真空にした石英ガラス製アンプル中で28日間、400℃で貯蔵した。前記混合物の溶融範囲は、不変であった。
【0076】
450℃での安定性:
組成(K240.5(KSCN)0.5の混合物3gを、真空にした石英ガラス製アンプル中で28日間、450℃で貯蔵した。前記混合物の溶融範囲は、不変であった。
【0077】
組成(K250.5(KSCN)0.5の混合物3gを、真空にした石英ガラス製アンプル中で28日間、450℃で貯蔵した。前記混合物の溶融範囲は、不変であった。
【0078】
組成(K260.5(KSCN)0.5の混合物3gを、真空にした石英ガラス製アンプル中で28日間、450℃で貯蔵した。前記混合物の溶融範囲は、不変であった。
【0079】
500℃での安定性:
組成(K240.5(KSCN)0.5の混合物3gを、真空にした石英ガラス製アンプル中で28日間、500℃で貯蔵した。前記混合物の溶融範囲は、不変であった。
【0080】
組成(K250.5(KSCN)0.5の混合物3gを、真空にした石英ガラス製アンプル中で28日間、500℃で貯蔵した。前記混合物の溶融範囲は、不変であった。
【0081】
組成(K260.5(KSCN)0.5の混合物3gを、真空にした石英ガラス製アンプル中で28日間、500℃で貯蔵した。前記混合物の溶融範囲は、不変であった。
【0082】
600℃での安定性:
組成(K240.5(KSCN)0.5の混合物3gを、真空にした石英ガラス製アンプル中で28日間、600℃で貯蔵した。前記混合物の溶融範囲は、不変であった。
【0083】
組成(K250.5(KSCN)0.5の混合物3gを、真空にした石英ガラス製アンプル中で28日間、600℃で貯蔵した。前記混合物の溶融範囲は、不変であった。
【0084】
組成(K260.5(KSCN)0.5の混合物3gを、真空にした石英ガラス製アンプル中で28日間、600℃で貯蔵した。前記混合物の溶融範囲は、不変であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属ポリスルフィドの混合物であって、一般式
(M1x2(1−x)2y
[式中、M1、M2はLi、Na、K、Rb、Csを表し、M1はM2と同一ではなく、ならびに0.05≦x≦0.95、かつ2.0≦y≦6.0である]
で示される前記混合物。
【請求項2】
請求項1に記載の混合物であって、式中、M1はKであり、かつM2はNaである前記混合物。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の混合物であって、式中、0.20≦x≦0.95である前記混合物。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の混合物であって、式中、3.0≦y≦6.0である前記混合物。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の混合物であって、式中、M1はKであり、M2はNaであり、0.20≦x≦0.95、かつ3.0≦y≦6.0である前記混合物。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の混合物であって、式中、M1はKであり、M2はNaであり、0.50≦x≦0.90、かつyは4.0、5.0または6.0である前記混合物。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の混合物の製造方法であって、相応のアルカリ金属スルフィドを硫黄と一緒に、または相応のアルカリ金属ポリスルフィドを硫黄と一緒または硫黄なしに、保護ガス下または真空で加熱することを特徴とする前記製造方法。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の混合物の製造方法であって、液体アンモニア中の相応のアルカリ金属の溶液を硫黄と保護ガス下で反応させることを特徴とする前記製造方法。
【請求項9】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の混合物を、伝熱流体または蓄熱流体として用いる使用。
【請求項10】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の1種の混合物を含む、伝熱流体または蓄熱流体。
【請求項11】
アルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩の混合物であって、一般式
((M1x2(1−x)2ym(M3z4(1−z)SCN)(1−m)
[式中、M1、M2、M3、M4はLi、Na、K、Rb、Csを表し、M1はM2と同一ではなく、M3はM4と同一ではなく、ならびに0.05≦x≦1、0.05≦z≦1、2.0≦y≦6.0、かつ物質量率mは0.05≦m≦0.95である]
で示される前記混合物。
【請求項12】
請求項11に記載の混合物であって、式中、M1およびM3はKであり、かつM2およびM4はNaである前記混合物。
【請求項13】
請求項11または12のいずれか1項に記載の混合物であって、式中、0.20≦x≦1である前記混合物。
【請求項14】
請求項11から13までのいずれか1項に記載の混合物であって、式中、3.0≦y≦6.0である前記混合物。
【請求項15】
請求項11から14までのいずれか1項に記載の混合物であって、式中、0.20≦z≦1である前記混合物。
【請求項16】
請求項11から15までのいずれか1項に記載の混合物であって、式中、0.20≦m≦0.80である前記混合物。
【請求項17】
請求項11から15までのいずれか1項に記載の混合物であって、式中、M1およびM3はKであり、M2およびM4はNaであり、0.20≦x≦1、0.20≦z≦0.95、3.0≦y≦6.0、かつ0.20≦m≦0.95である前記混合物。
【請求項18】
請求項11から16までのいずれか1項に記載の混合物であって、式中、M1およびM3はKであり、M2およびM4はNaであり、0.50≦x≦1、0.50≦z≦0.95、yは4.0、5.0または6.0であり、かつ0.33≦m≦0.80である前記混合物。
【請求項19】
請求項11から18までのいずれか1項に記載の混合物の製造方法であって、相応のアルカリ金属ポリスルフィドおよびアルカリ金属チオシアン酸塩を共溶融することを特徴とする前記製造方法。
【請求項20】
請求項11から18までのいずれか1項に記載の混合物を、伝熱流体または蓄熱流体として用いる使用。
【請求項21】
請求項11から18までのいずれか1項に記載の1種の混合物を含む、伝熱流体または蓄熱流体。
【請求項22】
アルカリ金属ポリスルフィドの混合物であって、組成(K(1−x)Nax2z[式中、xは0〜1であり、かつzは2.3〜3.5である]の前記混合物。
【請求項23】
請求項22に記載の混合物を、伝熱流体または蓄熱流体として用いる使用。
【請求項24】
請求項22に記載の1種の混合物を含む、伝熱流体または蓄熱流体。

【公表番号】特表2013−516531(P2013−516531A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547484(P2012−547484)
【出願日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070617
【国際公開番号】WO2011/083054
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany