説明

アルカリ金属曝露によってカーボンナノチューブから製造されるグラフェンナノリボン

種々の態様においては、本開示はカーボンナノチューブから官能化グラフェンナノリボンを製造する方法を記載する。概して、本方法は、複数のカーボンナノチューブを溶媒の不存在下においてアルカリ金属源に曝露し、その後、求電子剤を加えて官能化グラフェンナノリボンを形成することを含む。カーボンナノチューブを一般に加熱しながら溶媒の不存在下においてアルカリ金属源に曝露することによって、カーボンナノチューブがそれらの縦軸に対して実質的に平行に開裂し、これは一態様においては螺旋状に起こすことができる。本発明のグラフェンナノリボンは少なくともそれらの端部上において官能化されており、実質的に欠陥が無い。その結果、ここで記載する官能化グラフェンナノリボンは、機械的に剥離したグラフェンのものに匹敵する非常に高い電気伝導度を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本出願は、2009年6月15日出願の米国仮特許出願61/187,130(その全部を参照として本明細書中に包含する)に対する優先権を主張する。本出願はまた、2009年8月19日出願の米国特許出願12/544,017(これもその全部を参照として本明細書中に包含する)にも関連する。
【0002】
[0002]本発明は、国防省空軍科学研究局によって資金提供されている空軍研究所認可番号FA8650−05−D−5807及び認可番号FA9550−09−1−0581からのパススルーファンドを介してUniversal Technology Corporationによって資金提供を受けた認可番号09−S568−064−01−C1による政府の支援の元で行ったものである。政府は本発明において幾つかの権利を有する。
【背景技術】
【0003】
[0003]グラファイトは互いの頂部上に積層している多くのsp−混成カーボンシートから構成されていることは周知である。グラファイトを剥離して少ない層の構造にすると、個々のグラファイトシートは総合してグラフェンとして知られる材料と呼ばれる。グラフェンとは、通常は約10未満のグラファイト層を有する材料を指す。グラファイト層は、六方格子構造を有する2次元の基底面を有することを特徴とする。多くの場合においては、グラファイト中で自然に起こるか又は剥離中に起こる酸化のために、例えばカルボン酸基、ヒドロキシル基、エポキシド基、及びケトン基のような種々の端部及び/又は基底面の官能基も存在する。酸化による損傷は、基底面における欠陥(即ち空孔)の形態でも現れる可能性がある。
【0004】
[0004]グラフェンナノリボンは、同様に2次元の基底面を有することを特徴とするが、それらの幅に対するそれらの長さの大きなアスペクト比を有する特別な種類のグラフェンである。この点に関し、グラフェンナノリボンは、カーボンナノチューブとの類似性を有しており、同等のアスペクト比を有し、巻回して円筒を形成する1以上のグラフェンシートによって画定される。グラフェンナノリボンは、例えば有益な電気伝導度などの複数の有用な特性を有する。それらのキラル形態及び直径によって金属、半金属、又は半導体になることができるカーボンナノチューブとは異なり、グラフェンナノリボンの電気特性は主としてそれらの幅によって支配される。例えば、幅約10nm未満のグラフェンナノリボンは半導体であり、一方、約10nmより大きい幅を有する同様のグラフェンナノリボンは金属又は半金属導体である。また、任意の端部の官能基に沿って炭素原子の「アームチェア」又は「ジグザグ」配列を有するグラフェンナノリボンの端部の形状も、電子担体の伝導に影響を与える可能性がある。かかる「アームチェア」及び「ジグザグ」配列は、カーボンナノチューブ技術において定義されているものと類似している。グラフェン及びグラフェンナノリボンにおけるバリスティック電荷伝導は、グラフェン基底面のspネットワークが比較的少ない数の欠陥によっても崩壊する場合には著しく低下する。
【0005】
[0005]例えばグラファイトから個々のグラフェン層を接着テープで剥離すること、グラファイトからグラフェン層を化学的に剥離すること、及び化学蒸着プロセスなどのグラフェンシートを製造するための種々の方法が公知である。それぞれの方法はピコグラムのオーダーの量のグラフェンを与える。極少量のグラフェンナノリボンを製造するために、種々のリソグラフ法及び合成法が開発されている。微視量のグラフェンナノリボンは、カーボンナノチューブをポリマー中に部分的に封入し、次にプラズマエッチングしてカーボンナノチューブを縦方向に切断することによって製造されている。巨視量のグラフェンナノリボンは、化学蒸着プロセス又は濃酸中での酸化プロセスによって製造されている。
【0006】
[0006]更に、多層カーボンナノチューブ(MWNT)は、インターカレーション及び液体アンモニア溶媒中でのリチウムとの反応によって非選択的に開裂させ、カーボンナノチューブを縦方向に開裂させて、部分的に開裂したMWNT、グラフェンフレーク、及び水素で官能化されたグラフェンナノリボンを含む多層グラファイト構造を生成させている。MWNT出発材料は必ず酸化損傷を受けてリチウム−アンモニア反応が起こる部位を与えるので、これらのプロセスによって製造されるグラフェンナノリボンは、通常は捩れた形態及び種々の酸素化官能基を有する欠陥を起こしやすい原子構造を有する多層グラフェン層を有することを特徴とする。グラフェンナノリボン中の酸素化官能基はその後の還元によって大部分除去することができるが、グラフェン基底面中の欠陥は還元によっては修復されず、導電度は元のグラフェンのものに近接しない。リチウムインターカレーション法は還元性であり、グラフェンナノリボン中に酸素化官能基を導入しないが、初期段階でMWNT中へ欠陥が導入され、これが次にグラフェンナノリボン生成物中に繰り越されるので、この方法によっては欠陥のないグラフェンナノリボンは製造されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
[0007]上記の観点から、実質的に欠陥の無い構造を有するグラフェンナノリボンを製造する方法は当該技術において非常に有用であろう。かかる欠陥の無いグラフェンナノリボンは、電子、機械、及び多くの他の用途において大きな有用性を示すことができる。理想的には、かかる方法は巨視量のグラフェンナノリボンの製造に拡張可能であろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[0008]種々の態様においては、グラフェンナノリボンを製造する方法をここに記載する。幾つかの態様においては、本方法は、複数のカーボンナノチューブを溶媒の不存在下においてアルカリ金属源に曝露し、曝露の後に求電子剤を加えて官能化グラフェンナノリボンを形成することを含む。曝露によって、カーボンナノチューブがそれらの縦軸に対して平行に開裂する。
【0009】
[0009]幾つかの態様においては、本方法は、複数の多層カーボンナノチューブを溶媒の不存在下においてカリウム金属源に曝露し、曝露の後に求電子剤を加えて官能化グラフェンナノリボンを形成することを含む。曝露によって、カーボンナノチューブがそれらの縦軸に対して平行に開裂する。
【0010】
[0010]更に他の種々の態様においては、ここで記載する方法によって製造される官能化グラフェンナノリボンを開示する。幾つかの態様においては、グラフェンナノリボンは剥離官能化グラフェンナノリボンである。他の種々の態様においては、グラフェンナノリボンは脱官能化グラフェンナノリボンである。
【0011】
[0011]上記は、以下の詳細な説明をより良好に理解することができるように本発明の特徴を多少広範に概説したものである。本発明の更なる特徴及び有利性を以下において記載し、これは特許請求の範囲の主題を形成する。
【0012】
[0012]本発明及びその有利性をより完全に理解するために、ここで本発明の特定の態様を記載する添付の図面と共に以下の記載を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】[0013]図1Aは、多層カーボンナノチューブをカリウム蒸気の存在下で開裂させ、続いて求電子剤でクエンチして官能化グラフェンナノリボンを形成することを示す非限定的な反応式を示す。
【図1B】図1Bは、多層カーボンナノチューブをカリウム蒸気の存在下で開裂させ、続いてエタノールでクエンチして水素官能化グラフェンナノリボンを形成することを示す非限定的な反応式を示す。
【図2】[0014]図2A〜2Dは、剥離後の官能化グラフェンナノリボンのSEM画像の実例を示す。
【図3】[0015]図3A及び3Bは、剥離前の官能化グラフェンナノリボンのSEM画像の実例を示す。
【図4】[0016]図4は、官能化グラフェンナノリボンのAFM画像及び高さプロファイルの実例を示す。
【図5】[0017]図5A及びBは、官能化グラフェンナノリボンのTEM画像の実例を示す。
【図6】[0018]図6は、剥離の前後の官能化グラフェンナノリボンのラマンスペクトルの実例を多層カーボンナノチューブのものと比較して示す。
【図7】[0019]図7は、官能化グラフェンナノリボンの高分解能C1s−XPSスペクトルの実例を多層カーボンナノチューブのものと比較して示す。
【図8】[0020]図8は、電子デバイス内の厚さ3.8nmの官能化グラフェンナノリボン積層体に関する電流:電圧のプロットの実例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[0021]以下の記載においては、ここで開示する本発明の幾つかの態様の完全な理解を与えるために、特定の量、寸法等のような幾つかの詳細を示す。しかしながら、本発明はかかる特定の詳細を用いずに実施することができることは当業者に明らかであろう。多くの場合において、かかる考察事項などに関する詳細は、かかる詳細が本発明の完全な理解を得るためには必要ではないので省略しており、関連技術の当業者の想到範囲内である。
【0015】
[0022]概して図面を参照すると、示されているものは本発明の特定の態様を記載する目的のためであり、それを限定することを意図するものではない。図面は必ずしも等縮尺ではない。
【0016】
[0023]ここで用いる殆どの用語は当業者に認識できるものであるが、明確に定義されていない場合には、用語は当業者によって現在認められている意味を採用すると解釈すべきであることを理解すべきである。用語の構造がそれを無意味又は実質的に無意味にする場合には、定義はWebster's Dictioinary,第3版, 2009年から採用するべきである。定義及び/又は解釈は、本明細書において具体的に規定されていない限りにおいては、或いは妥当性を維持するためには他の事項を組み込むことが必要な場合には、関連するか又は関連しない他の特許出願、特許、又は公報から組み込むべきではない。
【0017】
[0024]本発明の種々の態様の理解を助けるために以下の定義を示す。必要に応じて、詳細な説明の全体にわたって以下のものに加えて幾つかの用語を定義する。
[0025]ここで定義する「グラフェンナノリボン」とは、例えば、それらの長さ及びそれらの幅に基づいて約5より大きいアスペクト比を有するグラフェンの単層又は多層を指す。本明細書においては、約50未満のグラファイトカーボン層を有する材料はグラフェンであるとみなす。
【0018】
[0026]ここで定義する「官能化グラフェンナノリボン」とは、例えば、それらの端部及び/又はそれらの基底面において種々の有機官能基、ハロゲン、又は水素で官能化されているグラフェンナノリボンを指す。以下に示すように、有機官能基、ハロゲン、及び水素は、求電子剤との反応によってグラフェンナノリボンに導入される。
【0019】
[0027]ここで定義する「縦方向の開裂」とは、例えば、カーボンナノチューブをそれらの縦軸に対して実質的に平行に開裂させてグラフェンナノリボンを形成することを指す。ここで用いる「平行」という用語は、カーボンナノチューブの縦軸と交差しないでカーボンナノチューブを開裂させることを指す。一態様においては、縦方向の開裂には、カーボンナノチューブの側壁に沿って、縦軸と平行に、しかしながら縦軸と交差させずに比較的直線状に結合を開裂させるプロセスを含ませることができる。他の態様においては、縦方向の開裂には、縦軸と平行に、しかしながら縦軸と交差させずにカーボンナノチューブを主として螺旋状に開裂させることを含ませることができる。
【0020】
[0028]ここで定義する「アルカリ金属」とは、例えば周期律表の第1族からの金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウム)を指す。
[0029]ここで定義する「アルカリ土類金属」とは、例えば周期律表の第2族からの金属(例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウム)を指す。
【0021】
[0030]ここで定義する「遷移金属」とは、例えば周期律表の第4〜12族からの金属を指す。
[0031]ここで定義する「希土類金属」とは、例えば周期律表の第3族からの金属(例えばスカンジウム又はイットリウム)、或いは周期律表のfブロックからの金属(例えば原子番号57〜71)を指す。希土類金属はまた、一般的にランタニドとも呼ばれる。
【0022】
[0032]ここで用いる「多層カーボンナノチューブ(MWNT)」とは、2層カーボンナノチューブ、3層カーボンナノチューブ、及び2以上の層を有する任意のカーボンナノチューブを包含すると理解される。
【0023】
[0033]種々の態様においては、本発明方法は、複数のカーボンナノチューブを溶媒の不存在下においてアルカリ金属源に曝露し、曝露の後に求電子剤を加えて官能化グラフェンナノリボンを形成することを含む。曝露によって、カーボンナノチューブがそれらの縦軸に対して実質的に平行に開裂する。幾つかの態様においては、開裂は主として螺旋状に起こる。幾つかの態様においては、アルカリ金属がカーボンナノチューブの間に挿入され、これがその後に反応してそれらの縦方向の開裂に影響を与える。幾つかの又は他の態様においては、縦方向の開裂の後、求電子剤によって過剰のアルカリ金属がクエンチされ、グラフェンナノリボンが種々の有機官能基、ハロゲン、又は水素によって官能化される。
【0024】
[0034]幾つかの態様においては、アルカリ金属源は溶融アルカリ金属である。他の態様においては、アルカリ金属源はアルカリ金属蒸気である。幾つかの態様においては、アルカリ金属蒸気は溶融アルカリ金属から生成させる。幾つかの態様においては、本方法において用いるアルカリ金属は、例えば、カリウム、ルビジウム、セシウム、又はこれらの組合せであってよい。幾つかの態様においては、アルカリ金属は、カリウム、又はカリウムと他の金属の混合物である。
【0025】
[0035]幾つかの態様においては、アルカリ金属は、求電子剤を加える前にグラフェンナノリボンに共有結合させる。幾つかの態様においては、アルカリ金属はグラフェンナノリボンの端部に共有結合する。他の態様においては、アルカリ金属はグラフェンナノリボンの端部及び基底面の両方に共有結合する。幾つかの態様においては、求電子剤によってアルカリ金属がグラフェンナノリボンから置換され、複数の官能基が導入されて官能化グラフェンナノリボンが形成される。
【0026】
[0036]理論又はメカニズムには縛られないが、本出願人らは、本方法による官能化グラフェンナノリボンの形成の非限定的なメカニズムの説明を以下に与える。まずアルカリ金属原子がカーボンナノチューブの間に挿入されて、カーボンナノチューブ層間化合物が形成される。アルカリ金属がリチウムである場合には、同様のアルカリ金属層間化合物がグラファイト及びカーボンナノチューブに関する当該技術において公知である。本方法においては、カーボンナノチューブ層間化合物を、カーボンナノチューブが縦方向に開裂してグラフェンナノリボンを生成するようになる条件下で加熱する。その後に求電子剤によってクエンチすることによってグラフェンナノリボンを官能化する。本出願人らは、本実験の加熱条件下においては、過渡的な開裂部(しかしながら永久的な欠陥ではない)がカーボンナノチューブの側壁内で開裂して、アルカリ金属がカーボンナノチューブ中に侵入することが可能になると考える。アルカリ金属がカーボンナノチューブ中に侵入することによって、カーボンナノチューブの側壁中に機械的歪みが導入される。最初のアルカリ金属原子がカーボンナノチューブに侵入したら、更なるアルカリ金属の侵入はより容易になり、カーボンナノチューブがグラフェンナノリボン構造に完全に開裂するまで、機械的歪みによって発達する自己伝搬性の亀裂がカーボンナノチューブの縦軸に対して平行、ほぼ平行、又は螺旋状に形成される。多層カーボンナノチューブをグラフェンナノリボンに転化させる態様においては、最も外側のカーボンナノチューブが縦方向に開裂したら、次に内部のカーボンナノチューブはアルカリ金属による攻撃に対して影響を受けやすくなる。
【0027】
[0037]図1Aは、多層カーボンナノチューブをカリウム蒸気の存在下で開裂させ、次に求電子剤によってクエンチして官能化グラフェンナノリボンを形成することを示す非限定的な反応式を示す。図1Aにおいては、アルカリ金属の実例としてカリウム、及びカーボンナノチューブ源の実例としてMWNTが示されている。アルカリ金属及びカーボンナノチューブ源の他の組合せは本発明の精神及び範囲内であり、図1Aの態様は限定とみなすべきではない。図1Aの第1工程においては、MWNT1を金属カリウムの存在下で縦方向に開裂して、カリウムが少なくともグラフェンナノリボンの端部に共有結合している有機金属グラフェンナノリボン2を生成させる。有機金属グラフェンナノリボン2はアリール有機金属化合物と類似しており、その結果として同程度の反応性を示す。有機金属グラフェンナノリボン2を形成した後、求電子剤E+を用いて有機金属中間体をクエンチして官能化グラフェンナノリボン3を形成する。
【0028】
[0038]図1Bは、図1Aに示す一般的な反応の具体例を示す。図1Bは、多層カーボンナノチューブをカリウム蒸気の存在下で開裂させ、続いてエタノールでクエンチして水素官能化グラフェンナノリボンを形成することを示す非限定的な反応式を示す。図1Bにおいては、求電子剤はプロトンドナーであるエタノールである。図1Aと同様に、MWNT7を金属カリウムの存在下で縦方向に開裂して、カリウムが少なくともグラフェンナノリボンの端部に共有結合している有機金属グラフェンナノリボン8を生成させる。有機金属グラフェンナノリボン8を形成した後、エタノールを用いて有機金属中間体をクエンチして、水素基が少なくともその端部に結合している水素官能化グラフェンナノリボン9を形成する。図1A及び1Bには示していないが、カーボンナノチューブのバーチ還元において示されるようにアルカリ金属によってグラフェンの基底面が還元される可能性がある場合には、官能化グラフェンナノリボン3及び水素官能化グラフェンナノリボン9はいずれも、図1A及び1Bに示すようにその端部上、及びその基底面中の両方に官能基(水素)を有する可能性があることを注意すべきである。明確にするために図1A及び1Bにおいては単一のグラフェンナノリボン層しか示していないが、以下に記載するように、ここに記載する方法によって複数のグラフェン層を有するグラフェンナノリボン積層体が一般的に製造される。
【0029】
[0039]多数の求電子剤によって、グラフェンナノリボンを官能化して種々の官能基、ハロゲン、又は水素を付加することができる。図1Bに示すように、幾つかの態様においては、求電子剤は、例えばアルコール又は水のようなプロトンドナーであってよい。他の態様においては、求電子剤は、有機ハロゲン化物(例えば、アルキルハロゲン化物、アリールハロゲン化物、ベンジルハロゲン化物、アリルハロゲン化物、アルケニルハロゲン化物、アルキニルハロゲン化物、又はペルフルオロアルキルハロゲン化物)、或いは有機ハロゲン化物の合成等価体(例えばスルホネートエステル)であってよい。更に他の態様においては、求電子剤は、ハロゲン(例えば、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素)、二酸化炭素、カルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸塩化物、カルボン酸無水物、アルデヒド、ケトン、エノン、又はニトリルであってよい。当業者であれば、上記記載の求電子剤を有機金属試薬と反応させた際に導入される官能基のタイプを認識するであろう。当業者であれば更に、求電子剤の幾つかは他のものよりも特定の有機金属試薬と反応性であることを認識するであろう。即ち、幾つかの求電子剤は、有機金属試薬中の金属の種類によって特定の有機金属試薬とより優先的に反応する。
【0030】
[0040]幾つかの態様においては、求電子剤は、例えばスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、アルキルアクリレート(例えばメチルアクリレート又はエチルアクリレート)、アルキルメタクリレート(例えばメチルメタクリレート又はエチルメタクリレート)、及びこれらの種々の組合せのようなビニルモノマーであってよい。当業者が認識するように、ビニルモノマーは、モノマーがグラフェンナノリボンに結合するようになったら重合に利用することができる遊離ビニル基を有する。而して、ビニルモノマーは、ポリマーに共有結合しているグラフェンナノリボンを含むポリマー複合体を形成することができる1つの方法を示す。幾つかの態様においては、求電子剤は、例えばラクトン又はラクタムのような開環性モノマーであってよい。かかる開環性モノマーは、ポリマーに共有結合しているグラフェンナノリボンを含むポリマー複合体を形成することができる他の方法を示す。
【0031】
[0041]再び図1Aを参照すると、有機金属グラフェンナノリボン2を金属交換種Mと金属交換して、金属交換グラフェンナノリボン4を形成することができる。化学技術においては、当業者であれば、金属交換が有機金属化合物中の金属−炭素結合の反応性を変化させる通常的な手法であることを認識するであろう。例えば、有機金属グラフェンナノリボン2においては、グラフェン−カリウム結合によってグラフェンがハードな求核剤になる。しかしながら、例えば亜鉛のような他の金属に金属交換すると、グラフェンナノリボンをよりソフトな求核剤にすることができる。上記したように、幾つかの求電子剤はハードな求核剤との反応のためにより好適であり、一方、幾つかの求電子剤はよりソフトな求核剤との反応のためにより好適である。例えばホウ素のような非金属金属交換種で有機金属グラフェンナノリボン2中のカリウムを置換することができるので、金属交換は厳密に金属に限定されるものではない。
【0032】
[0042]幾つかの態様においては、本発明方法は、求電子剤を加える前にアルカリ金属を金属交換種で金属交換することを更に含む。幾つかの態様においては、金属交換種はアルカリ土類金属である。幾つかの態様においては、金属交換種は遷移金属又は希土類金属である。幾つかの態様においては、金属交換種は例えばホウ素のような非金属である。幾つかの態様においては、金属交換種は、例えばマグネシウム、亜鉛、スズ、パラジウム、銅、ニッケル、又はこれらの種々の組合せのような少なくとも1種類の金属を含む。
【0033】
[0043]金属交換種がマグネシウムである場合には、当業者であればグリニャール試薬のものとの構造的な類似性及び反応性を認識するであろう。金属交換種が亜鉛である場合には、当業者であれば、有機亜鉛化合物をパラジウム又はニッケル触媒及び有機求電子剤と更に反応させてカップリング生成物を形成することができる根岸試薬のものとの構造的な類似性及び反応性を認識するであろう。金属交換種がスズである場合には、当業者であればスティル・カップリングのスティル試薬のものとの構造的な類似性及び反応性を認識するであろう。金属交換種が銅である場合には、当業者であれば薗頭カップリングの薗頭試薬のものとの構造的な類似性及び反応性を認識するであろう。金属交換種がニッケルである場合には、当業者であればフー・クロスカップリング配列のものとの構造的な類似性及び反応性を認識するであろう。金属交換種がホウ素である場合には、当業者であれば鈴木タイプのクロスカップリングにおけるボロン酸のものとの構造的な類似性及び反応性を認識するであろう。パラジウム又は任意の他の好適な触媒金属はまた、グラフェンナノリボンの更なる反応を触媒することもできる。金属交換は、グラフェンナノリボンへの炭素−炭素及び炭素−ヘテロ原子結合を形成するために特に有利である可能性がある。
【0034】
[0044]グラフェンナノリボンに結合させる際には、上記記載の金属交換種の幾つかは反応性にするために更なる触媒が必要な可能性がある。例えば、金属交換種がホウ素である場合には、鈴木タイプのカップリングを誘導するためにパラジウム化合物による更なる触媒作用が必要である可能性がある。同様に、金属交換種がスズ又は銅である場合には、それぞれスティル又は薗頭タイプのカップリングを誘導するためにパラジウム化合物による更なる触媒作用が必要である可能性がある。
【0035】
[0045]本態様においては、カーボンナノチューブのアルカリ金属源への曝露は溶媒の不存在下で行う。しかしながら、溶媒の存在下又は不存在下のいずれかにおいて求電子剤の添加を行うことができる。幾つかの態様においては、求電子剤は溶媒中で加える。他の態様においては、求電子剤は生で加える。幾つかの態様においては、求電子剤は、官能化グラフェンナノリボンがその中で少なくとも部分的に可溶な溶媒である。
【0036】
[0046]本発明の幾つかの態様においては、カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブである。多層カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブよりも非常に安価であるので、本態様はグラフェンナノリボンを製造する比較的安価な経路を示す。幾つかの態様においては、カーボンナノチューブは実質的に欠陥が無く、これは、これから製造される官能化グラフェンナノリボンがそれらの基底面中に実質的に欠陥を有しないことを意味する。即ち、幾つかの態様においては、官能化グラフェンナノリボンはそれらの基底面中に酸化損傷を実質的に有さず、機械的に剥離したグラフェンのものに匹敵する電気伝導度を有する。
【0037】
[0047]ここに記載する方法の幾つかの態様においては、カーボンナノチューブのアルカリ金属源への曝露は約50℃〜約500℃の間の温度において行う。他の態様においては、カーボンナノチューブのアルカリ金属源への曝露は約250℃〜約300℃の間の温度において行う。一般に、溶融アルカリ金属状態を生成させ、アルカリ金属蒸気を形成する任意の温度を用いることができる。溶融カリウムへの曝露によるガラスの大きな浸食は約350℃より高い温度で起こるので、約350℃より高い温度は本実験装置下では安全性の不安が示される可能性がある。約350℃より高い温度での運転は、本実験装置を反応性及び安全性の理由のために石英又は金属合金反応容器に代えることによって行うことができる。
【0038】
[0048]実験的に観察されるように、本方法の官能化グラフェンナノリボンは、通常は、初めは単層及び少ない層の官能化グラフェンナノリボン構造には剥離されない。その代わりに、最初に製造される官能化グラフェンナノリボンは不完全な剥離から得られるトラフ状の構造を有する(例えば図3Aを参照)。ここでも理論又はメカニズムには縛られないが、本出願人らは、非剥離官能化グラフェンナノリボンのトラフ状の構造は大きな層間ファンデルワールス引力によるものであり、これは縦方向の開裂及び官能化中は克服されないと考える。また、アルカリ金属の迅速なデインターカレーションによっても、求電子剤又は溶媒が層間空間中に侵入する(これによって剥離が容易になる)ことが制限される可能性がある。
【0039】
[0049]本方法の幾つかの態様によって非剥離官能化グラフェンナノリボンが製造されるが、本方法の更なる態様においては、かくして製造される官能化グラフェンナノリボンを剥離して、単層及び少ない層の官能化グラフェンナノリボンを形成することができる。幾つかの態様においては、本方法は、グラフェンナノリボンを剥離して剥離官能化グラフェンナノリボンを形成することを更に含む。幾つかの態様においては、剥離官能化グラフェンナノリボンは、単層及び少ない層(<10のカーボン層)の官能化グラフェンナノリボン構造を含むことができる。幾つかの他の態様においては、剥離官能化グラフェンナノリボンは約50程度の多さのカーボン層を有することができる。幾つかの態様においては、剥離は官能化グラフェンナノリボンを超酸溶媒に曝露することを含む。
【0040】
[0050]本発明の種々の態様を実施するために好適な超酸溶媒としては、ブレンステッド超酸、ルイス超酸、及び複合ブレンステッド−ルイス超酸が挙げられる。ブレンステッド超酸としては、例えば過塩素酸、クロロスルホン酸、フルオロスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、及びより高級のペルフルオロアルカンスルホン酸(例えば、CSOH、CSOH、C11SOH、C13SOH、及びC17SOH)を挙げることができる。ルイス超酸としては、例えば五フッ化アンチモン及び五フッ化ヒ素を挙げることができる。ブレンステッド−ルイス超酸としては、種々の濃度のSOを含む硫酸(オレウム又は発煙硫酸としても知られている)を挙げることができる。他のブレンステッド−ルイス超酸としては、例えばポリリン酸−オレウム混合物、テトラ(硫酸水素塩)ホウ酸−硫酸、フルオロ硫酸−五フッ化アンチモン(マジック酸)、フルオロ硫酸−SO、フルオロ硫酸−五フッ化ヒ素、フルオロスルホン酸−フッ化水素−五フッ化アンチモン、フルオロスルホン酸−五フッ化アンチモン−三酸化イオウ、フルオロアンチモン酸、及びテトラフルオロホウ酸を挙げることができる。幾つかの態様においては、超酸溶媒はクロロスルホン酸である。
【0041】
[0051]本発明方法には、官能化グラフェンナノリボンの超酸溶液をスピニングして繊維及び導電性フィルムにすることを更に含ませることができる。超酸溶液中でのグラフェン及びグラフェンナノリボンのスピニングは、同じ出願人に譲渡された国際特許出願PCT/US2010/024574(その全部を参照として本明細書中に包含する)に記載されている。或いは、官能化グラフェンナノリボンを剥離の前又は後のいずれかにおいて非超酸溶媒中に溶解し、加工して繊維又はフィルムを形成することができる。溶媒の実例としては、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、及び1,2−ジクロロベンゼンが挙げられる。
【0042】
[0052]グラファイト及びグラフェンナノリボンの酸化及び還元は、同じ出願人に譲渡された米国特許出願12/544,017及び国際特許出願PCT/US2010/024574並びにPCT/US2009/030498(それぞれその全部を参照として本明細書中に包含する)に記載されている。電子用途のためには通常は好ましくないが、本発明の幾つかの態様は、官能化グラフェンナノリボンを酸化して酸化官能化グラフェンナノリボンを形成することを更に含む。酸化を用いて、グラフェンナノリボン構造の溶解度及び取扱い容易性を更に調節することができる。幾つかの態様においては、酸化は、グラファイトを酸化するために使用可能な任意の酸化剤を用いて行うことができる。幾つかの態様においては、酸化は、直上に示し、参照として本明細書中に包含する特許出願において記載されている方法を用いて行うことができる。幾つかの態様においては、本発明方法は、酸化官能化グラフェンナノリボンを還元することを更に含む。還元によって、官能化グラフェンナノリボンの酸化中に導入される酸化官能基の一部、殆ど、又は実質的に全部を除去することができる。
【0043】
[0053]幾つかの態様においては、官能化グラフェンナノリボンはそれらの基底面において更に官能化することができる。グラフェンナノリボンを官能化するための種々の方法が米国特許出願12/544,017(上記において参照として本明細書中に包含した)に記載されている。例えば、一態様においては、ジアゾニウム種を用いて官能化グラフェンナノリボンをそれらの基底面において更に官能化することができる。
【0044】
[0054]幾つかの態様においては、本発明方法は、官能化グラフェンナノリボンを脱官能化して脱官能化グラフェンナノリボンを形成することを更に含む。幾つかの態様においては、脱官能化は熱的脱官能化プロセスである。例えば、幾つかの態様においては、官能化グラフェンナノリボンは約50℃より高い温度において脱官能化するようになる。幾つかの態様においては、官能化グラフェンナノリボンは約100℃より高い温度において脱官能化するようになる。幾つかの態様においては、官能化グラフェンナノリボンは約150℃より高い温度において脱官能化するようになる。幾つかの態様においては、官能化グラフェンナノリボンは約200℃より高い温度において脱官能化するようになる。幾つかの態様においては、官能化グラフェンナノリボンは約250℃より高い温度において脱官能化するようになる。幾つかの態様においては、官能化グラフェンナノリボンは約300℃より高い温度において脱官能化するようになる。幾つかの態様においては、官能化グラフェンナノリボンは約400℃より高い温度において脱官能化するようになる。幾つかの態様においては、官能化グラフェンナノリボンは約500℃より高い温度において脱官能化するようになる。脱官能化は、例えば空気中、不活性雰囲気下、又は真空下のいずれかで行うことができる。幾つかの態様においては、脱官能化は溶媒中で行うことができる。官能化を用いてグラフェンナノリボンの物理的特性を官能化状態で一時的に変化させることができ、それらを脱官能化状態に変化させることによってグラフェンナノリボンにおいてより望ましい物理的特性を回復させることができる。例えば、官能化グラフェンナノリボンを、電子デバイス用途のための溶媒中により可溶性にするか、或いはポリマー複合体中により分散性にすることができる。グラフェンナノリボンをデバイス又は複合体中に導入した後に、所望の場合には官能基を除去して例えば電気伝導度を向上させることができる。
【0045】
[0055]幾つかの態様においては、本発明方法は、複数の多層カーボンナノチューブを溶媒の不存在下においてカリウム金属源に曝露し、曝露の後、求電子剤を加えて官能化グラフェンナノリボンを形成することを含む。曝露によってカーボンナノチューブがそれらの縦軸に対して平行に開裂する。幾つかの態様においては、開裂は縦軸の周囲で主として螺旋状に起こる。
【0046】
[0056]ここに開示する種々のグラフェンナノリボン組成物に関しては多くの潜在的な用途が存在する。本組成物の用途の実例としては、例えば複合体材料用の添加剤、粒子状物質を除去するためのフィルター、溶解塩を除去するためのフィルター(イオン交換フィルター)、溶解有機化合物を除去するためのフィルター、ガス分離用の膜、ガス封鎖用の材料、爆発的分解を抑止するためのエラストマー材料用の添加剤、掘削流体用の添加剤、油田運転のためのナノレポーター、フィルムの製造、創部ケア薬剤、及び水中に難溶性又は不溶性の化合物のための薬物送達剤が挙げられる。更に、本グラフェンナノリボン組成物は導電性であり、例えば電子デバイス、導電体及び半導体フィルム、電磁シールド材料、制御誘電率複合体、電池、及び超コンデンサにおいて用いることができる。
【0047】
[0057]本グラフェンナノリボン組成物は、例えばポリマー複合体のように機械的強度に頼る用途のために特に有利であると考えられる。グラフェンナノリボンの基底面中に空孔又は他の欠陥が存在すると、引張強さ又は気体不浸透性に悪影響を与える可能性がある。かかる欠陥は、本グラフェンナノリボン組成物においては排除されているか又は大きく減少している。
【0048】
[0058]創傷ケア用途においては、グラフェンナノリボンを少なくとも1種類の抗菌剤にグラフト又は結合させることができる。かかるグラフトグラフェンナノリボン組成物は、創傷用包帯の一部として含ませて、感染抑制を有利に向上し、臭気の制御を与え、親油性の毒素が創傷から侵入するのを抑止することができる。例えば、非限定的な態様においては、少なくとも1種類の抗菌剤にグラフト又は結合させたグラフェンナノリボンを通常のガーゼに加えることができる。
【0049】
[0059]水溶性のグラフェンナノリボンは、それに複数のポリマー鎖又は小分子を結合させることによって製造することができる。水溶性を与えるために好適なポリマーとしては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンイミン(PEI)、PEG−PEIブロックコポリマー、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸、デキストロース、スターチ、ペクチン、アガロース、及び他の多糖を挙げることができる。水溶性を与えるために好適な小分子としては、例えば2−アミノエタンスルホン酸が挙げられる。また、他の分子を用いてグラフェンナノリボンの溶解度を変化させて、例えばそれらのイオン親和力を変化させ、及びそれらの生体適合性を向上させることもできる。非限定的な例として、例えば葉酸塩、エストロゲン、上皮増殖因子(EGF)、及びアプタマーのような標的構成成分をグラフェンナノリボンに結合させて、適当な細胞受容体とのそれらの相互作用を向上させることができる。
【0050】
[0060]また、グラフェンナノリボンの化学的変性によって、これらの組成物を様々な細胞分散液又は他の生体液からの標的受容体を示す細胞に選択的に結合させるのに好適にすることもできる。かかる変性グラフェンナノリボン組成物は、選択的細胞フィルター、又は細胞及び化学センサーの活性部材に形成することができる。例えば、インフルエンザウィルス(又は任意の他の病原体)に対する抗体で官能化し、2つの導電リード(即ち電極端子)を接続したグラフェンナノリボンは、抗原の結合によってインピーダンスを変化させる。得られる電気特性の変化によって、官能化グラフェンナノリボンを生体液の診断検査のためのセンサーにおいて用いることができる。
【0051】
[0061]上記に記載したもののような水溶性グラフェンナノリボン組成物は、薬物送達用途のために水不溶性薬物を封鎖するために利用することができる。例えば、一態様においては、複数のポリマー鎖を含む水溶性グラフェンナノリボンを用いてパクリタクセルを水性配合物中に含ませることができる。関連するカーボンナノチューブ組成物のポリマー鎖内へのパクリタクセル及び他の薬物の封鎖は、同じ出願人に譲渡されたPCT公開WO−2008/18960及びWO−2009/070380(それぞれは参照として本明細書中に包含する)に記載されている。パクリタクセル又は他の薬物の許容できる溶解度を与えるのに十分な水溶性グラフェンナノリボンの量は、同じ目的のために通常用いられる界面活性剤であるCremophor又はリポソームよりも劇的に低下させることができる。したがって、本発明の水溶性グラフェンナノリボン組成物を薬物送達ビヒクルとして用いることによって、毒性を有利に改良することが可能である。
【実施例】
【0052】
[0062]以下の実施例は、上記に開示した複数の態様の幾つかをより完全に示すために与えるものである。当業者であれば、以下の実施例において開示する方法は本発明の実施のためのモードの実例を構成する技術を示すものであることを認識する。当業者であれば、本開示を考慮すると、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、開示されている特定の態様において多くの変更を行うことができ、更に同等又は同様の結果を得ることができることを認識する。
【0053】
[0063]実施例1:カリウム蒸気を用いる官能化グラフェンナノリボンの合成:
MWNT(1.00g)及びカリウム金属片(3.00g)を50mLのパイレックスアンプル中に配置し、これを次に排気し、トーチを用いて密封した(注:カリウム金属は非常に反応性であり、適切な注意を払わなければならない)。カリウム金属を250℃において溶融させ、反応混合物を250℃の炉内に14時間保持した。加熱したアンプルは、ゴールデンブロンズ色のカリウム層間化合物、及び未反応のカリウム金属の銀色の液滴を含んでいた。加熱の後、アンプルを室温に冷却し、乾燥ボックス又は窒素充填グローブボックス内で開封し、次に20mLのエチルエーテルを加えた。次に、エチルエーテル懸濁液中にエタノール(20mL)をゆっくりと加えた。エタノールの添加に伴って、水素発生による若干の泡立ち及び放熱が起こった。次に、生成物をPTFE膜(0.45μm)上に回収し、エタノール(20mL)、水(20mL)、エタノール(10mL)、及びエーテル(30mL)で順次洗浄した。その後、生成物を真空中で乾燥して、水素官能化グラフェンナノリボンを黒色のフィブリル状の粉末として得た(1.00g)。
【0054】
[0064]実施例2:クロロスルホン酸を用いる官能化グラフェンナノリボンの剥離:
実施例1の生成物(10mg)を、超音波宝石洗浄機(Cole-Parmer EW-08849-00)からの温和な浸漬超音波処理を用いてクロロスルホン酸(15mL)中に24時間分散させた(注:クロロスルホン酸は腐食性の液体であり、適切な注意を払わなければならない)。その後、混合物を50mLの氷中に注ぎ入れることによって急冷し、得られた懸濁液をPTFE膜(0.45μm)を通して濾過した。フィルターケーキを真空下で乾燥し、得られた黒色の粉末を次に温和な浸漬超音波処理を用いてDMF中に15分間分散させた。
【0055】
[0065]実施例3:官能化グラフェンナノリボンの特性分析:
走査電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)、及び原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、官能化グラフェンナノリボンの画像を得た。図2A〜2Dに、剥離後の官能化グラフェンナノリボンのSEM画像の実例を示す。図2Aに示されるように、官能化グラフェンナノリボンは、約130〜250nmの範囲の幅、及び約1〜5μmの範囲の長さを有していた。官能化グラフェンナノリボンの拡大画像を図2B〜2Dに示す。図2B〜2DのSEM画像は、官能化グラフェンナノリボンが、KMnOを用いる酸化開裂によって製造された酸化グラフェンナノリボン(米国特許出願12/544,017を参照)よりもでこぼこした端部の外観を有していたことを示した。図3A及び3Bに、剥離前の官能化グラフェンナノリボンのSEM画像の実例を示す。図3Aは、剥離前のグラフェンナノリボンにおいては相当な捲縮があることを示す。図3Bは、官能化グラフェンナノリボンが多層カーボンナノチューブ出発材料とは異なり容易に屈曲することを示す。
【0056】
[0066]図4に、官能化グラフェンナノリボンのAFM画像及び高さプロファイルの実例を示す。図3におけるAFM高さプロファイルは1.8nmの厚さを示した。これは官能化グラフェンナノリボンの2つの層を示す。単一のグラフェンシートの厚さは約0.7nm〜約1nmの範囲であると一般的に考えられている。図5A及び5Bに官能化グラフェンナノリボンのTEM画像の実例を示す。
【0057】
[0067]図6に、剥離の前及び後の官能化グラフェンナノリボンのラマンスペクトルの実例を多層カーボンナノチューブと比較して示す。ラマンスペクトルのD/Gバンド比はカーボンナノチューブ出発材料のものを超えて増加した。これはグラフェン格子中においてsp炭素が比較的欠乏していることを示す。グラフェン基底面の欠陥は、典型的にはsp炭素の増加した割合によって特徴付けられる。図6において、曲線601はカーボンナノチューブ出発材料を示す。曲線602は剥離前の官能化グラフェンナノリボンを示し、曲線603は剥離後の官能化グラフェンナノリボンを示す。
【0058】
[0068]Dバンドの増加した強度を更に調べるために、X線光電子分光分析(XPS)を行って、増加した強度が酸化によるものであったかどうかを求めた。図7に、官能化グラフェンナノリボンの高分解能C1s−XPSスペクトルの実例を多層カーボンナノチューブのものと比較して示す。曲線701は官能化グラフェンナノリボンの高分解能C1s−XPSスペクトルを示し、曲線702は出発多層カーボンナノチューブのものを示す。XPSスペクトルにおいて示されるように、286eV(C−O)又は287(C=O)のいずれにおいても信号は観察されなかった。官能化グラフェンナノリボンは酸素官能基に乏しかったので、これらは本方法によっては酸化されなかったと結論することができる。したがって、増加したD/G比はおそらくは官能化グラフェンナノリボンにおいて発現した端部の炭素によるものである。
【0059】
[0069]実施例4:官能化グラフェンナノリボンの電気特性の測定:
官能化グラフェンナノリボンの電気特性を調べるために、Si/SiO基材(詳細に関しては米国特許出願12/544,017を参照)上に幾つかの電子デバイスを形成した。実施例1からの水素末端グラフェンナノリボンを用いた。官能化グラフェンナノリボンの厚さは3.5〜5nmの厚さの範囲であった。これは官能化グラフェンナノリボンの複数の層の厚い積層体を示している。図8に、電子デバイス中における厚さ3.8nmの官能化グラフェンナノリボン積層体に関する電流:電圧のプロットの実例を示す。測定された導電度は約70,000〜約90,000S/mの範囲であった。これは機械的に剥離したグラフェンのものに匹敵する。おそらくは官能化グラフェンナノリボン積層体中の層の数のために、官能化グラフェンナノリボンにおいて非常に少ないゲート効果しか観察されなかった。
【0060】
[0070]上記の記載から、当業者であれば、本発明の本質的特徴を容易に突き止めることができ、その精神及び範囲から逸脱することなく、本発明を種々の用法及び条件に適合させるために種々の変更及び修正を加えることができる。上記に記載した態様は例示のみのものであると意図され、特許請求の範囲において規定される発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図3A】

【図3B】

【図5A】

【図5B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブを溶媒の不存在下においてアルカリ金属源に曝露して、曝露によってカーボンナノチューブをそれらの縦軸に対して平行に開裂させ;そして
曝露の後に求電子剤を加えて官能化グラフェンナノリボンを形成する;
ことを含むグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項2】
アルカリ金属源がアルカリ金属蒸気を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルカリ金属源が溶融アルカリ金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アルカリ金属源が、カリウム、ルビジウム、セシウム、及びこれらの組合せからなる群から選択されるアルカリ金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アルカリ金属がカリウムを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
求電子剤を加える前にアルカリ金属をグラフェンナノリボンに共有結合させる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
求電子剤によってグラフェンナノリボンからアルカリ金属を置換して、複数の官能基を官能化グラフェンナノリボンに導入する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
求電子剤を加える前に金属交換種を用いてアルカリ金属を金属交換する;
ことを更に含み、
ここで金属交換種は、ホウ素、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属、及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
金属交換種が、マグネシウム、亜鉛、スズ、パラジウム、銅、ニッケル、及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
曝露を約50℃〜約500℃の間の温度で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
曝露を約250℃〜約300℃の間の温度で行う、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
求電子剤が、水、アルコール、有機ハロゲン化物及びそれらの合成等価体、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸塩化物、カルボン酸無水物、エノン、ニトリル、二酸化炭素、ハロゲン、ビニルモノマー、開環性モノマー、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ビニルモノマーが、スチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
求電子剤を溶媒中で加える、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
求電子剤を生で加える、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
官能化グラフェンナノリボンを剥離して、剥離官能化グラフェンナノリボンを形成する;
ことを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
剥離が官能化グラフェンナノリボンを超酸溶媒に曝露することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
官能化グラフェンナノリボンを酸化して、酸化官能化グラフェンナノリボンを形成する;
ことを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
官能化グラフェンナノリボンを脱官能化して、脱官能化グラフェンナノリボンを形成する;
ことを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
脱官能化が熱的脱官能化プロセスを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
複数の多層カーボンナノチューブを溶媒の不存在下においてカリウム金属源に曝露して、曝露によって多層カーボンナノチューブをそれらの縦軸に対して平行に開裂させ;そして
曝露の後に求電子剤を加えて官能化グラフェンナノリボンを形成する;
ことを含むグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項23】
カリウム金属源がカリウム金属蒸気を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
カリウム金属源が溶融カリウム金属を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
曝露を約50℃〜約500℃の間の温度で行う、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
曝露を約250℃〜約300℃の間の温度で行う、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
求電子剤が、水、アルコール、有機ハロゲン化物及びそれらの合成等価体、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸塩化物、カルボン酸無水物、エノン、ニトリル、二酸化炭素、ハロゲン、ビニルモノマー、開環性モノマー、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
官能化グラフェンナノリボンを剥離して、剥離官能化グラフェンナノリボンを形成する;
ことを更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項29】
官能化グラフェンナノリボンを酸化して、酸化官能化グラフェンナノリボンを形成する;
ことを更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項30】
官能化グラフェンナノリボンを脱官能化して、脱官能化グラフェンナノリボンを形成する;
ことを更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項31】
請求項1に記載の方法によって製造される官能化グラフェンナノリボン。
【請求項32】
請求項17に記載の方法によって製造される剥離官能化グラフェンナノリボン。
【請求項33】
請求項20に記載の方法によって製造される脱官能化グラフェンナノリボン。

【図8】
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【図1A】
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【図1B】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−530044(P2012−530044A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516143(P2012−516143)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/038368
【国際公開番号】WO2010/147860
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(501105635)ウィリアム・マーシュ・ライス・ユニバーシティ (26)
【Fターム(参考)】