説明

アルカリ電池用アンモニア捕捉材

【課題】不織布の強度を下げることなく、不織布の繊維径を細くでき、不織布を薄くして電池を小型化できるアルカリ電池用アンモニア捕捉材を提供すること。
【解決手段】平均粒子径が0.01〜10μmのカルボン酸基および/またはスルホン酸基を有するアニオン微粒子を、疎水性バインダーによって不織布に保持してなることを特徴とするアンモニア捕捉材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池用アンモニア捕捉材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ電池(ニッケルカドミ電池やニッケル水素電池)の電解質は、アンモニア態となり得る窒素源が存在すると、正極で酸化反応、負極で還元反応を起こしてアンモニアが生成し、該アンモニアが電極間を循環し(シャトル反応)、電池の自己放電を引き起こすという問題がある。この問題の解決方法として、窒素源を除去する方法が提案されているが、多くは還元反応時に発生するアンモニアを除去する方法である。オレフィン系不織布、例えば、ポリエチレン製やポリプロピレン製の不織布の繊維表面を濃硫酸、発煙硫酸、三酸化イオウなどでスルホン化すると、ある特定のスルホン化度によって高濃度アルカリ電解液が侵入できない空間(以下「疎水環境」という)のあるスルホン化繊維ができ、アルカリ電解液中でもスルホン化繊維は中和されず、アンモニアガスのみを捕捉し、電池の自己放電を著しく抑制することが分かっている。
【0003】
スルホン化不織布をセパレータとした場合に発生する諸欠点を解決すべく、イオン交換樹脂を固着したイオン交換性セパレータを使用した例が特許文献1および特許文献2に記載されており、いずれも電池寿命に良い効果を与えている。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、疎水性樹脂をバインダーとして用いた場合、良い結果が得られないとしている。また、特許文献2に記載の技術では、イオン交換樹脂を微粒子状に粉砕して使用しなければならないとしている。また、いずれもアンモニアを捕捉するという記載はない。
【特許文献1】特開2000−215872公報
【特許文献2】特開平10−284043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなスルホン化不織布は、自己放電には著しい効果を示すが、反面、スルホン化による不織布繊維へのダメージがあり、不織布の強度が低下するために、不織布の繊維の太さや目付け量には限界があり、不織布を薄くすることが困難であった。イオン交換樹脂を用いる場合は、本来その目的から粒子径が大きく硬い樹脂であり、これを微粒子状に粉砕するのは工業的に困難であった。
【0005】
従って本発明の目的は、不織布の強度を下げることなく、不織布の繊維径を細くでき、不織布を薄くして電池を薄型かつ小型化できるアルカリ電池用アンモニア捕捉材(以下「アンモニア捕捉材」という)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は以下の本発明によって達成される。
1.平均粒子径が0.01〜10μmのカルボン酸基および/またはスルホン酸基を有するアニオン微粒子を、疎水性バインダーによって不織布に保持してなることを特徴とするアンモニア捕捉材。
2.疎水性バインダーが、ポリオレフィン(炭素数2〜4)、ポリジエン(炭素数4〜5)、スチレン−ジエン(炭素数4〜5)共重合体、スチレン−ジエン(炭素数4〜5)共重合体の水添化物、熱可塑ポリオレフィン、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の水添化物、および上記した(共)重合体のマレイン酸或いはアクリル酸変性物からなる群から選ばれた少なくとも1種である前記1に記載のアンモニア捕捉材。
【0007】
3.アニオン微粒子(A)と疎水性バインダー(B)との質量比が、A:B=5〜95:95〜5である前記1に記載のアンモニア捕捉材。
4.アニオン微粒子のカルボン酸基が(メタ)アクリル酸単位由来であり、カルボン酸基量が0.6〜12.0mmol/gである前記1に記載のアンモニア捕捉材。
【0008】
5.アニオン微粒子が、(メタ)アクリル酸を含むモノマー混合物を、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、その水添化物、該水添化物のマレイン酸変性物、スチレン−イソプレン共重合体の水添化物、マレイン酸変性スチレン−ブタジエン共重合体の水添化物、マレイン酸変性スチレン−イソプレン共重合体の水添化物および熱可塑ポリオレフィン群から選ばれた少なくとも1種の存在下で重合して調製された前記4に記載のアンモニア捕捉材。
6.アニオン微粒子が、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリスチレンから選ばれた微粒子をスルホン化したものである前記1に記載のアンモニア捕捉材。
7.スルホン酸基量が、0.06〜5.3mmol/gである前記6に記載のアンモニア捕捉材。
8.不織布が、目付量5〜500g/m2、繊維の太さが直径1〜100μmであるポリプロピレン系および/またはポリエチレン系繊維からなる前記1に記載のアンモニア捕捉材。
9.アニオン微粒子と疎水性バインダーとの合計の付着量が0.1〜50g/m2である前記1に記載のアンモニア捕捉材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、不織布の強度を下げることなく、不織布の繊維径を細くでき、不織布を薄くして電池を薄型かつ小型化できるアンモニア捕捉材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細を説明する。
本発明のアンモニア捕捉材は、アニオン微粒子と疎水性バインダーと不織布とからなる。アニオン微粒子が、電解液中で発生するアンモニアを高濃度のアルカリ電解質の中で捕捉するためには、アニオン微粒子のアニオン基(カルボン酸基やスルホン酸基などの酸性基)を酸型(H型)に保つ環境が必要である。本発明者は、鋭意研究の結果、微粒子形態のアニオン微粒子を疎水性のバインダーで実質的に被覆することによって、疎水環境の中にアンモニアを捕捉できる酸型官能基サイトが存在できることを見出した。言い換えると濃厚アルカリ電解質水溶液中において、この電解液では中和されない酸型サイトが存在し、アンモニアのみを捕捉できることを見出した。
【0011】
アニオン微粒子は、カルボン酸基を有するポリマー、或いは微粒子のポリプロピレン、ポリエチレン、或いはポリスチレンをスルホン化することによって得られる。アニオン微粒子の平均粒径は0.01〜10μmの範囲である。好ましくは平均粒径0.05〜5μmである。平均粒径10μm超ではアニオン微粒子を含む分散液を不織布に塗布することが困難となり、一方、平均粒径が0.01μm未満までの微細化は困難である。
【0012】
アニオン微粒子の製造は、非水溶媒系或いは水溶媒系の何れで行なってもよい。特にアニオン微粒子のアニオン基がカルボン酸基である場合、非水溶媒系で行なう場合には、疎水性バインダーの存在下で(メタ)アクリル酸モノマーを含むモノマー混合物を重合することによって、球状のアニオン微粒子が得られる。この際(メタ)アクリル酸モノマーを含むモノマー混合物に対する疎水性バインダーの量は5〜10質量%(イオン交換当量として0.6〜1.30mmol/g)であり、5質量%以下では実用的でない。なお、ここで重合後に容易に加水分解されるアクリル酸メチルは、上記「(メタ)アクリル酸モノマー」に含まれる。
【0013】
本発明で使用する疎水性バインダーとしては、イソプレンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体の合成ゴム類およびこれらの水添化物、好ましくはスチレン−ブタジエン−スチレン或いはスチレン−イソプレン−スチレン或いはスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体およびこれらの水添化物、マレイン酸変性物が挙げられる。これらのバインダー中での重合によって球状のアニオン微粒子が生成する機構は明らかではないが、バインダー中でモノマーを重合すると、生成物は、バインダーと重合体との相互侵入型ポリマーになっているものと思われる。
【0014】
特にスチレン−ブタジエン−スチレン或いはスチレン−イソプレン−スチレン或いはスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン系のA−B−A型およびスチレン−ブタジエン、スチレン−イソプレン、スチレン−エチレン−ブチレンのA−Bのブロック共重合体およびこれらの水素添加物およびこれらのマレイン酸変性物などのバインダー中でも、スチレンと非相溶のブタジエン、イソプレン或いはエチレン−ブチレンとその水素添加物では、前記(メタ)アクリル酸を含むモノマー混合物を相分離状態で重合すると、重合物が開放されていないB部分との相互侵入型ポリマーになり、その結果、重合物が球状になり、A部分が溶媒に開放され溶媒に分散されるものと考えられる。
【0015】
水系媒体中で製造されるアニオン微粒子としては、ポリアクリル酸−ジビニルベンゼン共重合体(架橋体)、ポリアクリル酸−スチレンスルホン酸−ジビニルベンゼン共重合体(架橋体)、ポリアクリル酸−ビニルスルホン酸−ジビニルベンゼン共重合体(架橋体)などがあり、架橋体としては、すでに本発明者らがアルカリ性水溶液中で耐久性のある親水性高分子物(特願2001−308268)を提案している。再述すると代表的な架橋剤(多官能性モノマー)としてのジビニルベンゼンと疎水性のアクリル酸とを均質に重合後、鹸化によりカルボン酸基を生じ酸性サイドにしてH型に調整する。
【0016】
スルホン化されるポリエチレンやポリプロピレンの微粒子は、冷凍粉砕などでも得られるが、一旦、水系のエマルジョンから析出して取り出した微粒子を用いてもよい。ポリスチレン系微粒子は水系の乳化重合法或いは分散重合法から取り出すことができる。これらの微粒子は、粉砕して粒径を調整後にスルホン化することが好ましい。スルホン化方法は特に限定しないが、スルホン化剤として濃硫酸、発煙硫酸、三酸化イオウなどが使用できる。スルホン化剤として濃硫酸を使用する場合は、上記微粒子を分散或いは溶解させ、反応温度40℃〜120℃で反応時間30分〜72時間の範囲でスルホン化を行なうことが好ましい。スルホン化剤として三酸化イオウを使用する場合は、反応はガス状で接触反応を行う。この反応は窒素ガスなどの不活性ガスと混合して反応釜の中を循環させて行い、反応温度は−10℃〜40℃で反応時間は10秒〜10時間の範囲である。反応生成物を水に浸漬後、水洗することで生成した過剰の硫酸を除去する。スルホン化剤として発煙硫酸を使用する場合は、発煙硫酸は濃硫酸と混合して用いることが好ましく、その混合比率は発煙硫酸濃度が60質量%までであり、発煙硫酸が60質量%を超えると、微粒子のスルホン化を制御できない。反応温度は−20℃〜50℃の範囲であることが好ましい。
【0017】
スルホン化微粒子の場合には、スルホン酸基量0.06〜5.3mmol/gの範囲では、微粒子単独でアンモニア捕捉能を有する。スルホン酸基量が0.06mmol/g未満、または5.3mmol/g超の場合は、実用性に乏しく、また、スルホン酸基を5.3mmol/gを超えて導入することは理論上困難である。
【0018】
疎水環境の形成成分としての疎水性バインダーは、イソプレンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体の合成ゴム類およびこれらの水素付加物、好ましくはスチレン−ブタジエン−スチレン或いはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体或いはスチレンエチレン/ブチレンスチレンブロック共重合体およびそれらの水素付加物およびそれらのマレイン化変性物が挙げられる。これらの疎水性バインダーの中にアニオン微粒子が5〜95質量%の範囲で存在することが好ましい。アニオン微粒子が5質量%未満、または95質量%超では実用性に乏しく、また、95質量%超の場合は、不織布へ塗布はできるが、アニオン微粒子の保持がやや困難である。
【0019】
本発明で使用する不織布としては、例えば、ポリエチレン製および/またはポリプロピレン製の不織布であって、不織布の膜厚は5〜500μmの範囲が好ましく、より好ましくは20〜300μmである。膜厚が5μm未満では電池の隔膜として用いた場合に隔膜としての作用がなく、500μmを超えると薄膜の目的から外れる。不織布の目付量は5〜500g/m2の範囲が好ましい。目付量が5g/m2未満では隔膜としての作用がなく、一方、目付量が500g/m2を超えるとアニオン微粒子の分散液が不織布中に入り難くなる。また、繊維の太さは、直径1〜100μmであることが好ましい。
【0020】
これらの不織布中にアニオン微粒子を保持するには、アニオン微粒子をバインダーを含む液状媒体に分散して不織布に塗布して含浸させる。液状媒体としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、MEK、MIBKなどのエステル類、THFなどのエーテル類、トルエン、キシロールなどの芳香族類、ターペン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族類、脂環族類の単独或いは混合溶媒にアニオン微粒子を微分散させて塗布してもよい。バインダーはアンモニア捕捉能がないか或いは少ないスルホン化微粒子に疎水環境を形成し、新たなアンモニア捕捉能を発現させる効果がある疎水性バインダーが好ましい。
【0021】
疎水性で耐久性のあるバインダーでは、疎水環境を形成したポリマーをそのまま使用してもよいが、外に捕捉性能を低下させない範囲で、例えば、イソプレンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体の合成ゴム類およびこれらの水素付加物、エチレン−酢酸ビニル共重合体およびその鹸化物、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、シリコーン樹脂などが挙げられる。特に好ましいバインダーとして、ブチルゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレンエチレン/ブチレンスチレンブロック共重合体およびそれらの水素付加物およびそれらのマレイン化変性物などが挙げられる。不織布への塗布量は不織布の厚さ、目付け量によって異なるが、不織布の目付け量の0.1〜100質量%の範囲である。
【0022】
アニオン微粒子の分散液の不織布に対する塗布方法は、ロールの間に不織布を挟むマングル方式が好ましいが、スプレー、ナイフコータ、フローコータ、グラビアなどの方式でもよい。
【実施例】
【0023】
以下に製造例、実施例、比較例および参考例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0024】
製造例1(アニオン微粒子1の製造)
アクリル酸47部、ジビニルベンゼン(純分55%)8.11部およびマレイン酸変性のスチレンエチレン/ブチレンスチレンブロック共重合体の水添化物(スチレン含有量:30%、分子量20万)5.51部を、メチルシクロヘキサン/MEK/トルエン=5/3/2(質量比)の混合溶媒550部に溶かし、この中に0.6部のt−ブチル−ペルオキシ−2−エチルヘキサネートを添加してラジカル重合させ、アニオン微粒子1を得た。このアニオン微粒子1の平均粒径は、動的光散乱法で測定したところ約200nmであった。得られたアニオン微粒子のカルボン酸基量は10.80mmol/gであった。
【0025】
製造例2(アニオン微粒子2の製造)
70部のメチルアクリレート、3部のスチレンスルホン酸ソーダ、3.66部のジビニルベンゼン(純分55%)、1.5部の過硫酸カリウムおよび550部の脱イオン水を反応容器に入れ、窒素気流下、80℃で6時間重合した。この重合液中の共重合体の粒径は動的光散乱法で測定したところ300〜500nmであった。次いで10%の水酸化カリウム水溶液を作製し、この中に上記アクリル酸エステル系樹脂を添加し、70℃で4時間反応した。その後、アクリル酸カリウム換算にして1.2倍モルの塩酸を加え室温で1時間撹拌した。さらに濾液が中性になるまで濾過・解膠・洗浄し、平均粒子径が約400nmのアニオン微粒子2を得た。得られたアニオン微粒子2は、赤外線吸収スペクトルおよびイオンクロマトグラフィーなどの分析によって、エステル基がカルボン酸基に変換されていることを確認した。アニオン微粒子2のカルボン酸基量は12.70mmol/gであった。
【0026】
製造例3(アニオン微粒子3の製造)
スチレン125部、スチレンスルホン酸ソーダ13.75部、ジビニルベンゼン(純分55%)15.78部、過硫酸カリウム2.32部および水1,500部をフラスコに仕込み、窒素気流下、80℃で8時間重合してアニオン微粒子3を得た。該アニオン微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法で測定したところ約100nmであった。該アニオン微粒子のスルホン酸基量は0.41mmol/gであった。
【0027】
製造例4(アニオン微粒子4の製造)
粉末状のポリスチレン(平均粒径200nm)100部を乾燥機にて105℃で1時間予備乾燥し、これを反応容器に入れ、硫黄を燃焼させて生成させた二酸化硫黄ガスを接触酸化して得られた三酸化硫黄ガスを80〜110℃に加熱し、乾燥空気に対して8%の濃度となるように、前記反応容器に導入し、上記粉末状のポリスチレンを2時間スルホン化した。その後、冷却し、スルホン化されたポリスチレンをイオン交換水中に投入して撹拌した後、濾過し、pHが一定になるまで水洗した。その後、80℃で24時間乾燥し、スルホン化されたポリスチレン(アニオン微粒子4(平均粒子径約200nm))が得られた。アニオン微粒子4は、赤外線吸収スペクトルおよびイオンクロマトグラフィーなどの分析によって、芳香環にほぼ1個のスルホン酸基が導入されていることが確認できた。アニオン微粒子4のスルホン酸基量は3.12mmol/gであった。
【0028】
製造例5(アニオン微粒子5の製造)
製造例4で使用したと同じ粉末状のポリスチレン100部を、650部の95%濃硫酸に徐々に添加し、50℃で24時間、次いで80℃で3時間撹拌した。その後、冷却し、反応混合液を大量の氷水に投入した。その後、濾液が中性になるまで解膠・濾過・水洗し、十分水洗した。その後、80℃で24時間乾燥し、平均粒子径が約200nmのアニオン微粒子5が得られた。アニオン微粒子5は、赤外線吸収スペクトルおよびイオンクロマトグラフィーなどの分析によって、芳香環にほぼ1個のスルホン基が導入されていることが確認できた。アニオン微粒子5のスルホン酸基量は3.12mmol/gであった。
【0029】
製造例6(アニオン微粒子6の製造)
市販のポリプロピレン微粒子を製造例4に記載のガス法によりスルホン化して平均粒子径が約300nmのアニオン微粒子6を作製した。アニオン微粒子6のスルホン酸基量は2.20mmol/gであった。
【0030】
製造例7(アニオン微粒子7の製造)
市販のポリプロピレン微粒子を製造例5に記載の硫酸処理法によりスルホン化して平均粒子径が約300nmのアニオン微粒子7を作製した。アニオン微粒子7のスルホン酸基量は1.91mmol/gであった。
【0031】
製造例8(アニオン微粒子8の製造)
市販のポリエチレン微粒子を製造例5に記載の硫酸処理法によりスルホン化して平均粒子径が約400nmのアニオン微粒子8を作製した。アニオン微粒子8のスルホン酸基量は2.87mmol/gであった。
【0032】
実施例1〜17、比較例1
[分散液の製造]
前記アニオン微粒子1〜8、疎水性高分子材料(バインダーA〜D)を表1に記載の割合で、メチルシクロヘキサン/MEK/トルエン(5/3/2)混合溶剤中に加え、ディゾルバー(アニオン微粒子1〜2)またはペイントシェイカー(アニオン微粒子3〜8、ガラスビーズ(φ2.5mm)もしくはジルコニアビーズ(φ2.5mm〜0.5mm)を使用した)で撹拌混合することによって安定したアニオン微粒子の分散液を得た。
【0033】
使用したバインダーは下記の通りである。
・バインダーA:マレイン酸変性スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の水添化物(スチレン30%)
・バインダーB:マレイン酸変性スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の水添化物(スチレン13%)
・バインダーC:スチレン−ブタジエン共重合体の水添化物
・バインダーD:エチレン−メタアクリル酸共重合物
【0034】
[不織布への塗布]
上記で作製した各分散液を所定の濃度(目標塗布量により調整する)に調整し、これらの分散液を表1に記載の塗布量でポリプロピレン製の不織布に塗布および乾燥して本発明のアンモニア捕捉材を得た。各分散液の塗布方法としては、マングル方式またはグラビア印刷方式を採用した。各捕捉材における分散液の塗布量は、塗布前後の単位面積当たりの不織布の質量増加量から算出した。
【0035】

【0036】
<アンモニア捕捉試験>
前記実施例および比較例のそれぞれのアンモニア捕捉材を8M水酸化カリウム水溶液に入れ、冷却下、アンモニウムイオンを含む水溶液5ml(アンモニア換算で500μg)を素早く添加して密栓し、45℃下で3日間静置した。ケルダール法により、上記捕捉材によって捕捉されなかったアンモニアを水蒸気蒸留(JISK0102)した。留出アンモニアの吸収には5mMの硫酸(吸収液)を用いた。蒸留の終点は70ml留出した点とし、留出速度は約5ml/分とした。吸収液と留出液との合計を100mlに調整し、吸収液に捕捉されたアンモニウムイオンをイオンクロマトアナライザーで定量した。
【0037】
次式により各捕捉材のアンモニア捕捉能力を求めた。その結果を表2に示した。

なお、表2には、実施例で使用したアニオン微粒子の1gあたりの酸基含有量(X:実測値)と、捕捉材1m2あたりの酸基含有量(Y:計算値)を示した。又、参考のためにスルホン化ポリプロピレン不織布のアンモニア捕捉能力を上記と同様にして測定し、表2中に参考例1として示した。
【0038】

【0039】
<電池性能試験>
実施例5と比較例1のアンモニア捕捉材(目付量65g/m2、厚み180μm)およびスルホン化ポリプロピレン不織布(目付量65g/m2、厚み180μm)をアンモニア捕捉材とし、これらのアンモニア捕捉材と発泡式ニッケル正極、発泡式水素化物(MH)負極およびアルカリ電解液とを用いてコイン型ニッケル水素電池を作製し、それぞれの電池の初期活性化後のサイクル寿命特性、高率放電特性および自己放電特性を下記試験方法で測定した。その結果を表3に示した。
【0040】
<サイクル寿命特性>
それぞれの電池を、20℃、0.2Cで8.5時間充電後、10分休止し、0.2Cで終止電圧1.0Vまで放電する充放電サイクルを5回行い活性化した。その後、20℃で0.5Cで3時間充電後、10分休止し、0.5Cで終止電圧1.0Vまで放電する充放電サイクルを続けた時の電池の利用率が理論容量の90%以下になるまでのサイクル数を調べた。
【0041】
<高率放電試験>
20℃、0.5Cで3時間充電後、10分休止し、0.5Cで終止電圧1.0Vまで放電する充放電サイクルを15回行い、電池容量が理論容量と同等であることを確認した。満充電後に1C、2Cで放電を行い、0.5Cでの放電容量を100とした時の、相対比率(高率放電時の利用率(%))を調べた。
【0042】
<自己放電特性>
20℃、0.5Cで3時間充電後、10分休止し、0.5Cで終止電圧1.0Vまで放電する充放電サイクルを15回行い、電池容量が理論容量と同等であることを確認した後、20℃で0.5Cで3時間充電後、72時間休止して、0.5Cで終止電圧1.0Vまで放電した時の放電容量を測定した。自己放電試験前の放電容量を100とした場合の残存容量(%)を求めた。
【0043】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、不織布に保持させたアニオン微粒子の表面を疎水性樹脂で均一に被覆することができ、この被覆により微粒子表面に特異な疎水環境が構築され、濃水酸化カリウム水溶液中でアンモニア捕捉性能が発現されるので、不織布をスルホン化する必要はないので、不織布強度を下げることなく不織布の細繊維化、薄膜化ができ、電池の薄型化を行うことができる。また、本発明のアンモニア捕捉材をアルカリ二次電池に用いると、その優れたアンモニア捕捉能力から、自己放電特性、サイクル寿命特性および、効率放電特性において良好な結果を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.01〜10μmのカルボン酸基および/またはスルホン酸基を有するアニオン微粒子を、疎水性バインダーによって不織布に保持してなることを特徴とするアルカリ電池用アンモニア捕捉材。
【請求項2】
疎水性バインダーが、ポリオレフィン(炭素数2〜4)、ポリジエン(炭素数4〜5)、スチレン−ジエン(炭素数4〜5)共重合体、スチレン−ジエン(炭素数4〜5)共重合体の水添化物、熱可塑ポリオレフィン、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の水添化物、および上記した(共)重合体のマレイン酸或いはアクリル酸変性物からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載のアンモニア捕捉材。
【請求項3】
アニオン微粒子(A)と疎水性バインダー(B)との質量比が、A:B=5〜95:95〜5である請求項1に記載のアンモニア捕捉材。
【請求項4】
アニオン微粒子のカルボン酸基が(メタ)アクリル酸単位由来であり、カルボン酸基量が0.6〜12.0mmol/gである請求項1に記載のアンモニア捕捉材。
【請求項5】
アニオン微粒子が、(メタ)アクリル酸を含むモノマー混合物を、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、その水添化物、該水添化物のマレイン酸変性物、スチレン−イソプレン共重合体の水添化物、マレイン酸変性スチレン−ブタジエン共重合体の水添化物、マレイン酸変性スチレン−イソプレン共重合体の水添化物および熱可塑ポリオレフィン群から選ばれた少なくとも1種の存在下で重合して調製された請求項4に記載のアンモニア捕捉材。
【請求項6】
アニオン微粒子が、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリスチレンから選ばれた微粒子をスルホン化したものである請求項1に記載のアンモニア捕捉材。
【請求項7】
スルホン酸基量が、0.06〜5.3mmol/gである請求項6に記載のアンモニア捕捉材。
【請求項8】
不織布が、目付量5〜500g/m2、繊維の太さが直径1〜100μmであるポリプロピレン系および/またはポリエチレン系繊維からなる請求項1に記載のアンモニア捕捉材。
【請求項9】
アニオン微粒子と疎水性バインダーとの合計の付着量が0.1〜50g/m2である請求項1に記載のアンモニア捕捉材。

【公開番号】特開2007−134069(P2007−134069A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323522(P2005−323522)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】