説明

アルカンスルフィン酸ナトリウムの製造方法

【課題】高品質のアルカンスルフィン酸ナトリウムを効率良く製造することのできる、工業的に有利な製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1);
【化1】


(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を示す。)で表されるアルカンスルフィニルクロリドを、アルコール溶媒中で一般式(2);
【化2】


(式中、R2は炭素数1〜3のアルキル基を示す。)で表されるナトリウムアルコラートおよび水と反応させることを特徴とする一般式(3);
【化3】


(式中、R1は前記と同様である。)で表されるアルカンスルフィン酸ナトリウムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカンスルフィン酸ナトリウムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカンスルフィン酸アルカリ金属塩の1種であるメタンスルフィン酸ナトリウムは、スルホニル導入試剤として有用であり、例えば医薬品中間体の重要原料として用いられる。
【0003】
アルカンスルフィン酸アルカリ金属塩の製造方法としては、これまでにいくつかの方法が知られている。例えば、メタンスルフィン酸ナトリウムの一般的な製造方法としては、メタンスルホニルクロリドを出発原料として用い、これを水溶媒中で還元剤により還元する方法が知られている。この方法では、メタンスルホニルクロリドを出発原料とし、還元剤として亜硫酸ナトリウムを用い、塩基として炭酸水素ナトリウムを用いることにより、メタンスルフィン酸ナトリウムを容易に製造することができる(非特許文献1参照)。しかしながら、メタンスルフィン酸ナトリウムを単離するためには、反応液から完全に水を除去した後に副生塩をろ別する必要があるが、メタンスルフィン酸ナトリウムは非常に吸湿性が強いので、これらの操作は困難である。
【0004】
一方、ジメチルジスルフィドを出発原料として用い、酢酸中で−30℃で塩素により酸化してメタンスルフィニルクロリドを得、これをメタノールを用いて加メタノール分解してメチルエステル体とし、さらにp−トルイジンで処理をして不純物をより沸点の高いものに変換し、メチルエステル体を多段蒸留装置を用いて精製して高純度品を得、これをアルカリ金属水酸化物を用いて加水分解することにより、メタンスルフィン酸アルカリ金属塩が得られる(非特許文献2参照)。この製造方法によれば、高純度のメタンスルフィン酸ナトリウムを得ることができるが、多工程で低収率であり、さらに−30℃の低温における塩素化工程等は、工業的に非常に不利である。
【非特許文献1】ヘルベチカ シミカ アクタ(Helvetica Chimica Acta),第86巻,2003年,p.65
【非特許文献2】ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(J. Org. Chem.),第30巻,1960年,p.633
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、高品質のアルカンスルフィン酸ナトリウムを効率良く製造することのできる、工業的に有利な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、アルカンスルフィニルクロリドを、アルコール溶媒中で、ナトリウムアルコラートおよび水と反応させることにより、アルカンスルフィン酸ナトリウムを効率良く製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記に示すとおりのアルカンスルフィン酸ナトリウムの製造方法を提供するものである。
項1. 一般式(1);
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を示す。)で表されるアルカンスルフィニルクロリドを、アルコール溶媒中で一般式(2);
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R2は炭素数1〜3のアルキル基を示す。)で表されるナトリウムアルコラートおよび水と反応させることを特徴とする一般式(3);
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R1は前記と同様である。)で表されるアルカンスルフィン酸ナトリウムの製造方法。
項2. アルカンスルフィニルクロリド1モルに対して、ナトリウムアルコラートを1.8〜2.7モル使用することを特徴とする項1に記載の方法。
項3. アルコール溶媒が、メタノール、エタノール、n−プロパノールまたはイソプロパノールであることを特徴とする項1または2に記載の方法。
項4. 反応終了後に、反応液を炭素数3〜5のアルコールで溶媒置換し、さらに芳香族炭化水素溶媒を加えて、アルカンスルフィン酸ナトリウムを晶析することを特徴とする項1〜3のいずれかに記載の方法。
項5. 芳香族炭化水素溶媒が、トルエンまたはキシレンであることを特徴とする項4に記載の方法。
項6. アルカンスルフィニルクロリドが、一般式(4);
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R1は前記と同様である。)で表されるジアルキルジスルフィドを、塩素およびカルボン酸、または塩素およびカルボン酸無水物と反応させて得られたものであることを特徴とする項1〜5のいずれかに記載の方法。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明において、上記一般式(3)で表されるアルカンスルフィン酸ナトリウムは、上記一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリドを、アルコール溶媒中で、上記一般式(2)で表されるナトリウムアルコラートおよび水と反応させることにより製造される。
【0018】
本発明で用いられる上記一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリドは、特に限定されるものではない。市販のものを使用してもよいし、例えば、上記一般式(4)で表されるジアルキルジスルフィドを原料として製造したものを使用してもよい。
【0019】
以下においては、上記一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリドの製造と、それを原料として用いる上記一般式(3)で表されるアルカンスルフィン酸ナトリウムの製造とを、順次説明する。
【0020】
[アルカンスルフィニルクロリドの製造]
上記一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリドは、上記一般式(4)で表されるジアルキルジスルフィドを、塩素およびカルボン酸、または塩素およびカルボン酸無水物と反応させて容易に製造することができる。
【0021】
上記一般式(4)で表されるジアルキルジスルフィドにおけるR1は、炭素数1〜3のアルキル基である。このようなジアルキルジスルフィドとしては、例えば、ジメチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド、ジプロピルジスルフィド、ジイソプロピルジスルフィドなどが挙げられる。
【0022】
酸素源として使用されるカルボン酸は、炭素数が2〜4のものであり、それらの酸無水物も使用される。カルボン酸およびカルボン酸無水物としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などが挙げられ、無水酢酸が好ましい。カルボン酸またはカルボン酸無水物の使用量は、上記一般式(4)で表されるジアルキルジスルフィド1モルに対して、1.5〜3.0モルであるのが好ましく、1.8〜2.2モルであるのがより好ましい。
【0023】
塩素の使用量は、上記一般式(4)で表されるジアルキルジスルフィド1モルに対して、2.7〜3.5モルであるのが好ましく、3.0〜3.3モルであるのがより好ましい。塩素吹き込み時の反応温度としては、広範囲の温度を選択することが可能で、−50℃〜50℃で行うことができる。好ましい温度は、20〜30℃である。
【0024】
反応終了後、反応液を減圧濃縮して副生したアシルクロリドを留去することにより、上記一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリドを得ることができる。減圧濃縮の際の温度は、20〜70℃であるのが好ましく、30〜45℃であるのがより好ましい。
【0025】
[アルカンスルフィン酸ナトリウムの製造]
上記一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリドを、アルコール溶媒中で、上記一般式(2)で表されるナトリウムアルコラートおよび水と反応(加水分解反応)させることにより、上記一般式(3)で表されるアルカンスルフィン酸ナトリウムを製造することができる。
【0026】
上記一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリドにおけるR1は、炭素数1〜3のアルキル基である。このようなアルカンスルフィニルクロリドとしては、例えば、メタンスルフィニルクロリド、エタンスルフィニルクロリド、プロパンスルフィニルクロリドなどが挙げられ、メタンスルフィニルクロリドが好ましい。
【0027】
加水分解反応に使用される上記一般式(2)のナトリウムアルコラートにおけるR2は、炭素数1〜3のアルキル基である。このようなナトリウムアルコラートとしては、例えば、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、ナトリウムn−プロピラート、ナトリウムイソプロピラートなどが挙げられ、ナトリウムメチラートが好ましい。ナトリウムアルコラートの使用量は、上記一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリド1モルに対して、1.8〜2.7モルであるのが好ましく、1.8〜2.2モルであるのがより好ましい。
【0028】
加水分解反応時の溶媒としては、炭素数1〜3のアルコールが好ましい。このようなアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどが挙げられる。溶媒として用いるアルコールのアルキル基は、上記一般式(2)のナトリウムアルコラートにおけるR2のアルキル基と同じであるのが好ましい。アルコールの使用量(重量)は、上記一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリドの使用量(重量、純度100%換算)に対して、2.4〜3.6倍であるのが好ましく、2.5〜2.9倍であるのがより好ましい。
【0029】
加水分解反応に使用される水の量は、上記一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリド1モルに対して、0.9〜1.3モルであるのが好ましく、1.0〜1.1モルであるのがより好ましい。
【0030】
上記のように、一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリドに対して、約2倍モルのナトリウムアルコラートと約1倍モルの水を用いて加水分解反応を行うことにより、副生物は塩化ナトリウムとアルコールのみとなり、水が副生・残存しない。その結果、目的生成物である上記一般式(3)のアルカンスルフィン酸ナトリウムの晶析、ろ取が容易になる。
【0031】
加水分解反応の反応温度は、−10℃〜50℃であるのが好ましく、10〜30℃であるのがより好ましい。反応時間は、0.5〜100時間であるのが好ましく、1〜4時間であるのがより好ましい。
【0032】
所定の反応時間経過後、反応液を減圧濃縮し、副生したアルコールを反応系から除去することが好ましい。この減圧濃縮の際の温度は、20〜60℃であるのが好ましく、30〜45℃であるのがより好ましい。また、反応液を減圧濃縮した際に、副生した塩化ナトリウム等の副生塩を、ろ過等により除去することが好ましい。
【0033】
減圧濃縮後、反応液に追加のナトリウムアルコラートと水を添加して、加水分解反応を再開するのが好ましい。追加のナトリウムアルコラートと水の量は、一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリド1モルに対して、それぞれ0.05〜0.6モルであるのが好ましく、それぞれ0.1〜0.3モルであるのがより好ましい。
【0034】
加水分解反応終了後、反応溶媒として用いたアルコールよりも炭素数の多いアルコールを反応液に添加し、減圧濃縮を行うことにより、反応液の溶媒置換を行う。この溶媒置換に用いるアルコールは、炭素数3〜5のアルコールであるのが好ましく、例えば、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール、n−ペンタノール、イソペンタノール、ネオペンタノールなどが挙げられ、イソプロパノールがより好ましい。溶媒置換に用いるアルコールの使用量(重量)は、上記一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリドの使用量(重量、純度100%換算)に対して、1.5〜3.0倍であるのが好ましく、2.2〜2.6倍であるのがより好ましい。溶媒置換用アルコールの添加および減圧濃縮は、それぞれ2回行うのが好ましい。
【0035】
上記のようにして反応液の溶媒置換を行った後、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒を添加することにより、反応溶媒のアルコール(少量)と溶媒置換用のアルコールと芳香族炭化水素溶媒との混合溶媒となり、上記一般式(3)で表されるアルカンスルフィン酸ナトリウムが晶析する。芳香族炭化水素溶媒の使用量(重量)は、上記一般式(1)で表されるアルカンスルフィニルクロリドの使用量(重量、純度100%換算)に対して、1.5〜3.0倍であるのが好ましく、2.2〜2.6倍であるのがより好ましい。
【0036】
芳香族炭化水素溶媒を添加した後に撹拌晶析操作を行うが、このときの撹拌時間は、0.5〜10時間であるのが好ましく、1〜2時間であるのがより好ましい。撹拌時の温度は、0〜40℃であるのが好ましく、5〜20℃であるのがより好ましい。
【0037】
晶析したアルカンスルフィン酸ナトリウムを、常法により、ろ取、洗浄、乾燥することにより、粉末状のアルカンスルフィン酸ナトリウムを得ることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、高品質のアルカンスルフィン酸ナトリウムを効率良く製造することができる。
【0039】
本発明によれば、反応系内で水が副生・残存しないので、アルカンスルフィン酸ナトリウムの晶析精製が可能であり、容易に結晶として得ることができる。
【0040】
また、本発明によれば、エステル体を経由せずにアルカンスルフィニルクロリドから直接にアルカンスルフィン酸ナトリウムを製造するので、大幅な工程短縮ができ、工業的に非常に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
製造例1
[メタンスルフィニルクロリドの製造]
1000ml四つ口フラスコに、ジメチルジスルフィド164.9g(1.75モル)および無水酢酸357.4g(3.5モル)を加え、20℃まで冷却し、塩素409.9g(5.78モル)を吹き込んだ。塩素吹き込み終了後に60℃まで昇温し、1時間撹拌した。反応液を35℃まで冷却した後に、副生したアセチルクロリドを減圧下で濃縮留去し、微黄色の濃縮残渣としてメタンスルフィニルクロリド(純度84.8%)を347.9g得た。収率は、85.5%であった。
1H−NMR(CDCl3):δ=3.33(3H)
13C−NMR(CDCl3):δ=52.0。
【0043】
実施例1
[メタンスルフィン酸ナトリウムの製造]
300ml四つ口フラスコに、製造例1で得たメタンスルフィニルクロリド23.2g(0.20モル)、28%ナトリウムメチラート・メタノール溶液75.6g(0.40モル)および水3.60g(0.20モル)の混合液を加え、室温で1時間反応した。反応後、減圧下で濃縮を行い、副生したメタノールを一部除去し、副生した塩化ナトリウムおよびメタンスルホン酸ナトリウムを、ろ過により除去した。次いで、28%ナトリウムメチラート・メタノール溶液7.6g(0.04モル)および水0.72g(0.04モル)の混合液を追加し、さらに1時間反応を行った。次いで、イソプロパノール46.0gを加えて減圧濃縮を行い、さらにイソプロパノール46.0gを加えて減圧濃縮を行い、メタノールからイソプロパノールに溶媒置換を行った。このスラリー液にトルエン46.0gを添加し、スラリー液を10℃以下まで冷却した後に撹拌し、吸引ろ過で結晶をろ取した。トルエンによる洗浄を行い、湿体を減圧乾燥し、白色粉末のメタンスルフィン酸ナトリウム(純度90.7%)を15.9g得た。メタンスルフィニルクロリドからの収率は、70.8%であった。
1H−NMR(CD3OD):δ=2.19(3H)
13C−NMR(CDCl3):δ=49.4
IR(KBr,cm-1):3387,2991,2906,1610,1415,1277,1043,985,928,669,519,414。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1);
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を示す。)で表されるアルカンスルフィニルクロリドを、アルコール溶媒中で一般式(2);
【化2】

(式中、R2は炭素数1〜3のアルキル基を示す。)で表されるナトリウムアルコラートおよび水と反応させることを特徴とする一般式(3);
【化3】

(式中、R1は前記と同様である。)で表されるアルカンスルフィン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項2】
アルカンスルフィニルクロリド1モルに対して、ナトリウムアルコラートを1.8〜2.7モル使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルコール溶媒が、メタノール、エタノール、n−プロパノールまたはイソプロパノールであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
反応終了後に、反応液を炭素数3〜5のアルコールで溶媒置換し、さらに芳香族炭化水素溶媒を加えて、アルカンスルフィン酸ナトリウムを晶析することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
芳香族炭化水素溶媒が、トルエンまたはキシレンであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
アルカンスルフィニルクロリドが、一般式(4);
【化4】

(式中、R1は前記と同様である。)で表されるジアルキルジスルフィドを、塩素およびカルボン酸、または塩素およびカルボン酸無水物と反応させて得られたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2006−124284(P2006−124284A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311008(P2004−311008)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000222554)東洋化成工業株式会社 (52)
【Fターム(参考)】