説明

アルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法

【課題】 アルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法であって、取り扱いやすい物質および温和な条件を使用して行うことができ、グリコサミノグリカンのアルキルエステル化度を広範囲に調整でき、グリコサミノグリカンの低分子化を起こさない方法、およびグリコサミノグリカン分解酵素に対して分解抵抗性を有するアルキルエステル化グリコサミノグリカンを提供する。
【解決手段】 グリコサミノグリカンにトリアルキルシリルジアゾアルカンを作用させる工程を含む、カルボキシル基がアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法、およびヒアルロニダーゼなどのグリコサミノグリカン分解酵素をに実質的に分解されない性質を有するアルキルエステル化グリコサミノグリカン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法およびアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンに関する。より詳細には、トリアルキルシリルジアゾアルカンを用いたアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法およびアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
グリコサミノグリカンは、アミノ糖とウロン酸またはガラクトースとからなる二糖の繰り返し単位から構成される長鎖構造を持つ多糖であり、主に動物の結合組織に広く分布している。主要なグリコサミノグリカンとしては、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸などが挙げられる。
【0003】
近年これらのグリコサミノグリカンの生理活性が注目されており、例えばヒアルロン酸は化粧品や医薬品の成分として使用されている。しかしグリコサミノグリカンは生体成分であるため、生体内で分解されやすく、特に医薬品として使用した場合に投与後十分な薬効を発揮する以前に分解されてしまうという問題がある。
そこでグリコサミノグリカンの水酸基やカルボキシル基を修飾することにより生体内での分解を阻害することが検討されている。
【0004】
グリコサミノグリカンの水酸基やカルボキシル基の修飾方法としてはアルキルエステル化があり、例えばアルキルエステル化されたヒアルロン酸が知られている(例えば特許文献1)。
特許文献1には、エステル化されるべき酸性多糖のカルボキシル基の数を正確に調製することができる唯一の方法として、中性有機溶媒中カルボキシル基を有する酸性多糖の第四級アンモニウム塩をエステル化剤(ハロゲン化アルキル)で処理する方法が記載されている。しかし、グリコサミノグリカンを低分子化することなくアルキルエステル化する方法及びトリアルキルシリルジアゾアルカンを作用させ、カルボキシル基をアルキルエステル化する工程を含む、アルキルエステル化グリコサミノグリカンの製造方法に関しては一切記載されていない。
【0005】
グリコサミノグリカンをアルキルエステル化するための、上記以外の方法としては、ジアゾメタンのようなアルキル化剤を用いて糖類をアルキルエステル化する方法も知られている(例えば非特許文献1)。しかしジアゾメタンは爆発性を有する取り扱いが難しい物質であり、より取り扱いやすい物質を使用する方法であることが望ましい。
【0006】
さらに、グリコサミノグリカンは分子量特異的な生理活性を示す場合があり、特異的な生理活性を示す特定の分子量のグリコサミノグリカンを得るため、アルキルエステル化の間にグリコサミノグリカンの低分子化が起こらないようなよりマイルドな条件で行える方法が望ましい。
【0007】
なお、カルボン酸のアルキルエステル化方法としてトリアルキルジアゾアルカンを用いることは知られていたが(例えば特許文献2)、グリコサミノグリカンのアルキルエステル化に使用された例は報告されていない。
【特許文献1】特許第2569012号公報
【特許文献2】特開平6−49089号公報
【非特許文献1】ロジャー W.ジーンロズら、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー、186巻、495−511ページ(1950年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、取り扱いやすいアルキルエステル化剤を使用してグリコサミノグリカンをアルキルエステル化することができ、またグリコサミノグリカンの生体内での分解を所望の程度に阻害できる程度までグリコサミノグリカンのカルボキシル基をアルキルエステル化することができ、さらにはアルキルエステル化の間にグリコサミノグリカンの低分子化を起こさないような条件で実施することができる、アルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法を提供すること、およびグリコサミノグリカン分解酵素に対して分解抵抗性を有するアルキルエステル化グリコサミノグリカンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、グリコサミノグリカンに、ジアゾメタンなどよりもはるかに取り扱い性に優れたトリアルキルシリルジアゾアルカンを作用させることにより、グリコサミノグリカンを十分にアルキルエステル化することができ、しかもアルキルエステル化の間にグリコサミノグリカンの低分子化が起こらないような条件で反応を行えることを見出した。さらには、グリコサミノグリカンにトリアルキルシリルジアゾアルカンを作用させることにより、グリコサミノグリカンの低分子化が起こらないような条件下で、水酸基などを保護することなく実質的にカルボキシル基のみをエステル化することができ、また反応条件などを調整することにより実質的に全てのカルボキシル基がエステル化される程度にまでエステル化度を高めることができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されたものである。
【0010】
従って本発明は、グリコサミノグリカンにトリアルキルシリルジアゾアルカンを作用させ、該グリコサミノグリカンのカルボキシル基をアルキルエステル化する工程を含む、アルキルエステル化グリコサミノグリカンの製造方法を提供する(以下、本発明製造方法という)。
本明細書において、「低級アルキル」とは、特に断らない限り、炭素数1〜6の直鎖又は分枝を有するアルキルを意味する。
本発明の製造方法において行われるアルキルエステル化は、好ましくは低級アルキルエステル化、より好ましくはメチルエステル化である。
【0011】
本発明の製造方法においては、トリアルキルシリルジアゾアルカンは、好ましくはトリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基等のシリル基を有するトリアルキルシリルジアゾ低級アルカン、より好ましくはトリメチルシリルジアゾ低級アルカン、最も好ましくはトリメチルシリルジアゾメタンである。
本発明の製造方法においては、グリコサミノグリカンは好ましくはヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸およびヘパリンから選択され、より好ましくは、ヒアルロン酸又はコンドロイチン硫酸である。
【0012】
本発明の製造方法によれば、グリコサミノグリカンにおいて実質的に全てのカルボキシル基をアルキルエステル化することができる。
本発明の製造方法により製造されるアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンは、牛睾丸ヒアルロニダーゼ、放線菌(Streptomyces hyalurolyticus)ヒアルロニダーゼ又はヒアルロニダーゼSD等のグリコサミノグリカン分解酵素のいずれにかによって、好ましくは上記例示の全てのグリコサミノグリカン分解酵素によっても分解されないものとすることができ、さらに牛睾丸ヒアルロニダーゼ、羊睾丸ヒアルロニダーゼ、放線菌(Streptomyces hyalurolyticus)ヒアルロニダーゼ及びヒアルロニダーゼSDのいずれによっても分解されないものとすることができ、さらに牛睾丸ヒアルロニダーゼ、羊睾丸ヒアルロニダーゼ、放線菌(Streptomyces hyalurolyticus)ヒアルロニダーゼ、ヒアルロニダーゼSDおよびコンドロイチナーゼABCのいずれによっても分解されないものとすることができる。
【0013】
また本発明は、カルボキシル基がアルキルエステル化されたアルキルエステル化グリコサミノグリカンであって、該アルキルエステル化グリコサミノグリカンに以下の(a)〜(c)から選択されたグリコサミノグリカン分解酵素を該酵素の至適条件下で作用させた際に実質的に分解されない性質を有するアルキルエステル化グリコサミノグリカン(以下、本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカンという。)を提供する。
(a)牛睾丸ヒアルロニダーゼ
(b)ヒアルロニダーゼSD
(c)放線菌(Streptomyces hyalurolyticus)ヒアルロニダーゼ
また、本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカンにおいて、アルキルエステル化グリコサミノグリカンは、好ましくは低級アルキルエステル化、より好ましくはメチルエステル化されたものである。
【0014】
また、本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカンにおいて、グリコサミノグリカンは好ましくはヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸およびヘパリンから選択され、より好ましくはヒアルロン酸又はコンドロイチン硫酸である。
さらに本発明は、本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカンと生理学的に許容される担体、添加物および/または補助剤を含み、該アルキルエステル化グリコサミノグリカンが生体内に存在するグリコサミノグリカン分解酵素に対して分解抵抗性を有することを特徴とする、経口投与用組成物を提供する(以下、本発明経口投与用組成物という)。
【0015】
さらに本発明は、医薬品、美容食品、機能性食品または健康食品である本発明経口投与用組成物を提供する。
さらに本発明は、本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカンと生理学的に許容される担体、添加物および/または補助剤を含み、該アルキルエステル化グリコサミノグリカンが生体内に存在するグリコサミノグリカン分解酵素に対して分解抵抗性を有することを特徴とする、注射剤を提供する(以下、本発明注射剤という)。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法は、アルキルエステル化剤として、ジアゾメタンなどよりもはるかに取り扱い性に優れたトリアルキルシリルジアゾアルカンを使用することから実施が容易であり、アルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの工業的生産にも十分に応用可能である。また本発明の製造方法によれば、反応条件を調整することによりグリコサミノグリカンのアルキルエステル化の程度をコントロールすることができ、所望のグリコサミノグリカンの生体内での分解特性を得ることができる。しかもアルキルエステル化の程度は、グリコサミノグリカンのカルボキシル基の実質的に全てをアルキルエステル化するまで高めることができ、グリコサミノグリカンの分解特性の選択範囲を拡張するものである。さらには、本発明の製造方法によれば、塩酸−アルコールを使用するアルキルエステル化よりマイルドな条件で反応を行うことができるので、反応の間にグリコサミノグリカンの低分子化を起こさないようにアルキルエステル化反応を行うことができ、所望の分子量のアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンを容易に製造することができる。また本発明の製造方法によれば、水酸基などを保護することなくカルボキシル基のみをエステル化することができる。
【0017】
なお、上記のとおり、トリアルキルシリルジアゾアルカンはアルキルエステル化剤として知られていたものであるが、グリコサミノグリカンに使用した例はなく、グリコサミノグリカンに使用した場合に上記のような効果が得られることはまったく予測されなかったものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1.本発明製造方法
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
本発明のアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法は、グリコサミノグリカンにトリアルキルシリルジアゾアルカンを作用させる工程を含むことを特徴とする。
本発明のアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法において原料として使用されるグリコサミノグリカンは、アミノ糖とウロン酸とからなる二糖の繰り返し単位から構成される長鎖構造を持つ多糖であり、動物の結合組織等に広く分布している。本発明の製造方法に使用することができるグリコサミノグリカンとしては、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、N−アセチルヘパロザンなどが挙げられるが、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリンであることがより好ましく、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸であることがさらに好ましく、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸であることが最も好ましい。
【0019】
また、グリコサミノグリカンは反応溶媒に溶解又は懸濁し得る形態が好ましく、特に遊離酸型(フリー体)が好ましい。
グリコサミノグリカンの由来は特に限定されず、例えば、鶏冠、臍帯、豚皮、牛皮、魚類その他の動物の皮、大動脈等や、グリコサミノグリカンを産生する微生物等から通常の方法を用いて分離されたものを使用することができる。
本発明の製造方法に使用されるグリコサミノグリカンの分子量は特に限定されないが、一般的には分子量約1千〜500万、好ましくは1万〜200万である。さらにグリコサミノグリカンがヒアルロン酸である場合、平均分子量が1千〜500万であることが好ましく、1万〜200万であることがより好ましく、2万〜80万であることが最も好ましい。また、グリコサミノグリカンがコンドロイチン硫酸である場合、平均分子量が1千〜20万であることが好ましく、1万〜10万であることがより好ましく、1万5千〜5万であることが最も好ましい。上記のような材料から分離されたグリコサミノグリカンは、通常の分解処理(例えば酵素分解、化学分解、加熱処理等)に付して低分子化し、所望の分子量を有するものとすることができる。
【0020】
本発明のアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法においては、エステル化剤としてトリアルキルシリルジアゾアルカンを使用する。トリアルキルシリルジアゾアルカンのトリアルキル部分のアルキル基は同一でも異なってもよく、好ましくは炭素数1〜4、より好ましくは炭素数1〜2、最も好ましくは炭素数1のアルキル基である。トリアルキルシリルジアゾアルカンのアルカン部分は、直鎖又は分枝を有するアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜3、最も好ましくは炭素数1のアルカン基である。
【0021】
本発明の製造方法により製造されるアルキルエステル化グリコサミノグリカンのアルキルエステル部分のアルキル基はトリアルキルシリルジアゾアルカンのアルカン部分に由来する。従って、アルカン部分の炭素数を変更することにより炭素数の異なるアルキルエステル化グリコサミノグリカンが得られることが期待される。
本発明の製造方法に使用されるトリアルキルシリルジアゾアルカンの具体例としては、トリメチルシリルジアゾアルカン、なかでもトリメチルシリルジアゾメタン、トリメチルシリルジアゾエタンなどが挙げられるが、特に好ましくは、トリメチルシリルジアゾメタンである。従って、本発明のアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法におけるアルキルエステル化は、特に好ましくはメチルエステル化である。
【0022】
本発明の製造方法に使用されるトリアルキルシリルジアゾアルカンは、市販品を使用できる他、公知の方法により製造できる(FIESER & FIESER, Reagents for Organic Synthesis, volume four, 543)。
本発明のアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法におけるエステル化反応は溶媒中において行う。
【0023】
上記反応に使用される溶媒は、反応を阻害せず、出発物質をある程度溶解あるいは懸濁できるものであれば特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどのアルコ−ル類;ヘキサン、ヘプタン、リグロイン、石油エーテルなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;メチレンクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチルのようなエステル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF);これらの溶媒の混合溶媒などが挙げられる。
【0024】
なかでも、混合溶媒を使用することが好ましく、スルホキシド類とアルコール類の混合溶媒を使用することがさらに好ましく、ジメチルスルホキシドとメタノールの混合溶媒を使用することが特に好ましい。
溶媒に、グリコサミノグリカンを溶解あるいは懸濁する工程は、特に限定されないが、例えばスルホキシドとアルコールの混合溶媒を使用する場合、グリコサミノグリカンをスルホキシドに溶解させた後にアルコールを加えることが好ましい。また、ジメチルスルホキシドとメタノールの混合溶媒を使用する場合、グリコサミノグリカンをジメチルスルホキシドに溶解させた後にメタノールを加えることが好ましい。
【0025】
スルホキシドとアルコールの混合溶媒を使用する場合、スルホキシドとアルコールの容量比は好ましくは5:1〜20:1程度であり、より好ましくは10:1程度である。
反応系中におけるグリコサミノグリカンおよびトリアルキルシリルジアゾアルカンの濃度は特に限定されるものではないが、反応開始時のこれらの反応物質の濃度(初期濃度)が高すぎるとグリコサミノグリカンを含有する沈殿などを生じる場合があり、好ましくない。グリコサミノグリカンに対しトリアルキルシリルジアゾアルカンは通常は所望のエステル化に要する化学量論量以上を加え、その比が高い方が反応を促進するのに好ましいが、トリアルキルシリルジアゾアルカンの濃度が高すぎると上記の観点から好ましくない。これらの点から、反応系中におけるグリコサミノグリカンの濃度は通常は0.1〜5mg/ml程度、好ましくは0.5〜3mg/ml程度、さらに好ましくは1mg/ml程度であり、トリアルキルシリルジアゾアルカンの濃度は、通常は0.1〜2重量%程度、好ましくは0.2〜1重量%程度、さらに好ましくは0.7重量%程度であり、グリコサミノグリカンおよびトリアルキルシリルジアゾアルカンの比は重量比で1:3〜1:20程度、好ましくは1:5〜1:10程度、さらに好ましくは1:6〜1:8程度である。
【0026】
その他の反応条件も、トリアルキルシリルジアゾアルカンを用いた通常のエステル化反応に用いられるものでよい。反応温度は、通常0℃〜50℃程度であり、好ましくは10℃〜40℃程度であり、さらに好ましくは15℃〜30℃程度である。反応時間は、通常10分〜50時間程度であり、好ましくは30分〜10時間程度であり、さらに好ましくは30分〜3時間程度である。
【0027】
本発明のアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法においては、特定の出発物質に対し、上記のような反応物質濃度、反応温度、反応時間などを適宜調整することによりアルキルエステル化の程度を調整し、所望のアルキルエステル化の程度を得ることができる。反応物質濃度、反応温度、反応時間の好ましい組み合わせとしては、好ましくは0.5〜3mg/ml程度、さらに好ましくは1mg/ml程度のグリコサミノグリカンおよび好ましくは0.2〜1重量%程度、さらに好ましくは0.7重量%程度のトリアルキルシリルジアゾアルカンを使用し、好ましくは10℃〜40℃程度、さらに好ましくは15℃〜30℃程度の反応温度で、好ましくは30分〜10時間程度、さらに好ましくは30分〜3時間程度反応させる。
【0028】
また、アルキルエステル化の程度を高めるためには、例えばトリアルキルシリルジアゾアルカンを高い濃度で用いることが好ましいが、反応開始時にトリアルキルシリルジアゾアルカンを高い濃度で用いることについては上記のような問題がある。このような場合には、上記のような問題の起こらない程度の反応条件(トリアルキルシリルジアゾアルカン濃度など)で一旦アルキルエステル化反応を行い、一定のアルキルエステル化度を得た後、反応後の溶液に再度トリアルキルシリルジアゾアルカンを加えて反応を行うか、あるいは同様に一旦アルキルエステル化反応を行い、一定のアルキルエステル化度を得た後、アルキルエステル化されたグリコサミノグリカンを精製し(例えばエタノール沈殿、透析等を適宜組み合わせて行うことができる)、さらに同様のアルキルエステル化反応を行うことにより、より高いアルキルエステル化度が得られることが判明した。さらにこのような方法によれば、上記のような反応系中における沈殿のような問題を起こさず、かつマイルドな反応条件を使用して、グリコサミノグリカンのカルボキシル基の実質的に全てをアルキルエステル化することができることも判明した。
【0029】
従って、本発明のアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法によれば、反応物質濃度、反応温度、反応時間などを調整し、さらにアルキルエステル化反応を行う回数(1回あるいは2回以上の複数回)を調整することにより、あらゆるアルキルエステル化度が得られるものである。
上記アルキルエステル化反応を複数回行う際の精製、および最終産物の精製は公知の方法で行うことができ、例えば遠心分離、沈澱、再結晶、クロマトグラフィーなどを使用して行うことができる。
【0030】
2.本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカン
本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカンは、カルボキシル基がアルキルエステル化されたアルキルエステル化グリコサミノグリカンであって、該アルキルエステル化グリコサミノグリカンに以下の(a)〜(c)から選択されたグリコサミノグリカン分解酵素を該酵素の至適条件下で作用させた際に実質的に分解されない性質を有するアルキルエステル化グリコサミノグリカンである。
(a)牛睾丸ヒアルロニダーゼ
(b)ヒアルロニダーゼSD
(c)放線菌(Streptomyces hyalurolyticus)ヒアルロニダーゼ
【0031】
本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカンは、好ましくは本発明製造方法により、製造することが出来る。「アルキルエステル化」、「グリコサミノグリカン」といった用語の意味は、本発明製造方法の説明において記載した通りである。また、「グリコサミノグリカン分解酵素を該酵素の至適条件下で作用させる」とは、反応温度、反応pHなどの反応条件について当該酵素に至適な反応条件を選択して反応を行うことをいい、これらの至適な反応条件は当業者により容易に選択でき、そのような反応条件による反応は実施例に記載した方法により行うことができる。
【0032】
3.本発明経口投与用組成物
本発明経口投与用組成物は、本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカンと生理学的に許容される担体、添加物および/または補助剤を含み、該アルキルエステル化グリコサミノグリカンが生体内に存在するグリコサミノグリカン分解酵素に対して分解抵抗性を有することを特徴とする、経口投与用組成物である。
本発明経口投与用組成物は、本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカンを経口投与用組成物として応用したものであり、生理学的に許容される担体、添加物および/または補助剤とともに経口投与に適した製剤とすることができる。
【0033】
本発明経口投与用組成物に含有される本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカンの濃度や量は特に限定されず、投与の目的、投与の対象である患者又は人の症状、年齢等に応じて適宜選択することができる。
また、本発明経口投与用組成物は、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤等の固形製剤、液状製剤に例示される製剤であってもよい。また、ドリンク剤、飴、ゼリー等の食品であってもよい。本発明経口投与用組成物に含まれる担体、添加物、補助剤としては、具体的には糖類、タンパク質、脂質、緩衝剤、界面活性剤、着色剤、保存剤等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
さらに本発明経口投与用組成物は、医薬品、美容食品、機能性食品または健康食品の成分として使用することができる。
【0034】
4.本発明注射剤
本発明注射剤は、本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカンと生理学的に許容される担体、添加物および/または補助剤を含み、該アルキルエステル化グリコサミノグリカンが生体内に存在するグリコサミノグリカン分解酵素に対して分解抵抗性を有することを特徴とする、注射剤である。本発明注射剤は、本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカンを注射剤として応用したものであり、生理学的に許容される担体、添加物および/または補助剤とともに注射剤に適した製剤とすることができる。
【0035】
本発明注射剤に含有される本発明アルキルエステル化グリコサミノグリカンの濃度や量は特に限定されず、投与の目的、投与の対象である患者又は人の症状、年齢等に応じて適宜選択することができる。
本発明注射剤の投与方法としては、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射、静脈内等注射が挙げられ、投与方法に応じて適宜製剤化することができる。剤形としては、溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤、リポ化剤、ゲル剤等が例示される。また、本発明注射剤において使用される、担体、添加物、補助剤は、具体的には糖類、タンパク質、脂質、注射用蒸留水、緩衝液、界面活性剤、保存剤等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0037】
1.メチルエステル化ヒアルロン酸の調製及び分析1
1−1.調製
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量20kDa、生化学工業株式会社)をDowex 50W-X8カラムに通してフリー体とした。得られたフリー体のヒアルロン酸ナトリウム1mgをジメチルスルホキシド(DMSO)1mLに溶解し、メタノール100μLとトリメチルシリルジアゾメタン30μL(アルドリッチ社)を加えて窒素ガスの存在下室温で2時間反応を行った。
酢酸30μLを添加して反応を停止した後、水1mLを添加した。反応溶液に無水酢酸ナトリウムで飽和した10倍量のエタノールを加えて0℃で1時間静置した。その後遠心分離機にて4℃、2500gで60分処理を行い沈殿物を集めた。
【0038】
沈殿物を水3mLに溶解した後、酢酸エチル3mLを加えて30秒間撹拌した。静置後、分離した水層(上層)を透析チューブに入れ、水に対して透析処理を行った。凍結乾燥を行い、メチルエステル化ヒアルロン酸を得た。
【0039】
1−2.NMR(核磁気共鳴)分析
上記で使用したヒアルロン酸ナトリウムおよび得られたメチルエステル化ヒアルロン酸のNMR分析(1H−NMR スペクトル:δ(トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウムの一重線を基準とした))および2次元NMR分析を行った。核磁気共鳴測定装置は日本電子株式会社製GXSα500を用い、重水中室温で測定した。結果を表1、図1および2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
上記の結果より、実質的に原料ヒアルロン酸のカルボキシル基のみがメチルエステル化されていることが判った。
また、導入されたメチル基に由来するピークの積分値の解析を行いグリコサミノグリカンのカルボキシル基のメチルエステル化率を算出した。結果を図3に示す(反応回数1回)。
図3に示すようにカルボキシル基の約85%がメチルエステル化されていることが判った。
【0042】
1−3.分子量の分析
得られたメチルエステル化ヒアルロン酸とその出発物質であるヒアルロン酸ナトリウムの分子量の測定を行った。分子量の測定にはシリカケイゲル濾過カラム(TSKゲルSW3000、内径8 mm長さ50 cm)を2本連結し、0.2 M NaClを含む100 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)を溶離液として用い、紫外部200 nmで検出した。検量線は、予め高分子ヒアルロン酸の酵素部分分解物より単離して調製した、ヒアルロン酸分子量標準品を用いて作成した。この検量線と測定試料の溶出時間から、上述のメチルエステル化ヒアルロン酸およびヒアルロン酸ナトリウムの分子量を算出した。結果を表2に示す。
【0043】
また、1−1おける出発物質のヒアルロン酸ナトリウムを、分子量130kDa、800kDa(生化学工業株式会社)のものに変え、同様の方法により、メチルエステル化ヒアルロン酸の調製を行った。それぞれの出発物質であるヒアルロン酸ナトリウムと、得られたそれぞれのメチルエステル化ヒアルロン酸の分子量について、上記と同様の方法により分析を行った(表2)。
【0044】
【表2】

【0045】
これにより、得られたメチルエステル化ヒアルロン酸が、低分子化されていないことを確認した。
【0046】
1−4.メチルエステル化ヒアルロン酸の酵素分解および分解物の分析
上記で調製したメチルエステル化ヒアルロン酸の、ヒアルロニダーゼおよびコンドロイチナーゼによる分解性を調べるため、以下の条件により分解を行い、分解産物をそれぞれキャピラリー電気泳動にて分析した。比較のためメチルエステル化の原料として使用したヒアルロン酸ナトリウムも同様にそれぞれの酵素で分解して分析を行った。
【0047】
1)酵素分解
酵素分解試験に使用した酵素ならびに反応条件を下記に示す。
(i)牛睾丸ヒアルロニダーゼ
調製したメチルエステル化ヒアルロン酸10μgまたは原料ヒアルロン酸10μgを50mM燐酸緩衝液(pH5.3) 1mLに溶解した後、牛睾丸ヒアルロニダーゼ(シグマ社製) 1000mUを加えて37℃で24時間反応させた。
(ii)羊睾丸ヒアルロニダーゼ
調製したメチルエステル化ヒアルロン酸10μgまたは原料ヒアルロン酸10μgを50mM燐酸緩衝液(pH5.3) 1mLに溶解した後、羊睾丸ヒアルロニダーゼ(シグマ社製) 1000mUを加えて37℃で24時間反応させた。
【0048】
(iii)放線菌(Streptomyces hyalurolyticus)ヒアルロニダーゼ
調製したメチルエステル化ヒアルロン酸10μgまたは原料ヒアルロン酸10μgを 20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)1mLに溶解した後、放線菌ヒアルロニダーゼ(天野製薬製)1TRUを加えて55℃で24時間反応させた。
(iv)ヒアルロニダーゼSD
調製したメチルエステル化ヒアルロン酸10μgまたは原料ヒアルロン酸10μgを 20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)1mLに溶解した後、ヒアルロニダーゼSD(生化学工業製)100mUを加えて37℃で2時間反応させた。
【0049】
(v)コンドロイチナーゼABC
調製したメチルエステル化ヒアルロン酸10μgまたは原料ヒアルロン酸10μgを 20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)1mLに溶解した後、コンドロイチナーゼABC(生化学工業製)100mUを加えて37℃で2時間反応させた。
(vi)コンドロイチナーゼACII
調製したメチルエステル化ヒアルロン酸10μgまたは原料ヒアルロン酸10μgを 20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)1mLに溶解した後、コンドロイチナーゼACII(生化学工業製) 100mUを加えて37℃で2時間反応させた。
【0050】
2)キャピラリー電気泳動
上記酵素分解後のヒアルロン酸ナトリウムおよびメチルエステル化ヒアルロン酸の分解産物のそれぞれを、フューズドシリカキャピラリーカラムを装着したキャピラリー電気泳動装置(PACE5010 ベックマン社製)により、ドデシル硫酸ナトリウムリン酸緩衝液(pH8.0)を用いて25℃にてポジティブモード15kVで分析した。
【0051】
結果を図4〜6に示す。結果から明らかなように、原料ヒアルロン酸を各酵素で処理した場合、四糖(牛睾丸ヒアルロニダーゼ、羊睾丸ヒアルロニダーゼ)、四糖および六糖(放線菌(Streptomyces hyalurolyticus)ヒアルロニダーゼ)、二糖(ヒアルロニダーゼSD、コンドロイチナーゼABC)のピークが明確に現れ、各酵素による分解を受けたことが示された。これに対し、本発明の方法により得られたメチルエステル化ヒアルロン酸を各酵素(牛睾丸ヒアルロニダーゼ、羊睾丸ヒアルロニダーゼ、放線菌(Streptomyces hyalurolyticus)ヒアルロニダーゼ、ヒアルロニダーゼSD、コンドロイチナーゼABC)で処理した場合、二糖、四糖、六糖に対応するピークは実質的に観察されず、メチルエステル化ヒアルロン酸は各酵素により実質的に分解されないことが示された。一方、原料ヒアルロン酸をコンドロイチナーゼACIIで処理した場合、二糖のピークが明確に現れるが、本発明の方法により得られたメチルエステル化ヒアルロン酸をコンドロイチナーゼACIIで処理した場合、上記の二糖とは異なる位置に明確なピークが確認された(図6、丸で囲んで示す)。
【0052】
3)酵素分解物のNMR分析
上記コンドロイチナーゼACIIによる処理を行った後の、メチルエステル化ヒアルロン酸および原料ヒアルロン酸のNMR分析を行った。結果を図7に示す。結果に示されるように、原料ヒアルロン酸処理物には見られないメチルエステル基の存在がメチルエステル化ヒアルロン酸処理物において示された(図7、メチルエステル化HAのスペクトル中右側の矢印)。またカルボキシル基がメチルエステル化されることによりカルボキシル基根元のグルクロン酸H−5が、また磁気異方性の変化によりN−アセチルグルコサミンH−1が変化した。また、N−アセチルグルコサミンH−1およびグルクロン酸H−4のメチルエステル化によるシグナルのシフトを図7中の水平矢印で示す。以上のことから、メチルエステル化ヒアルロン酸はコンドロイチナーゼACIIにより分解され、メチルエステル化された二糖を生じることが確認された。
【0053】
2.メチルエステル化ヒアルロン酸の調製及び分析2
メチルエステル化ヒアルロン酸の調製及び分析1と同様の方法により、メチルエステル化ヒアルロン酸を得た。得られたメチルエステル化ヒアルロン酸を材料として、再度メチルエステル化ヒアルロン酸の調製及び分析1と同様の方法により、メチルエステル化と精製を行った。得られたメチルエステル化ヒアルロン酸は、実質的に全てのカルボキシル基がメチルエステル化されていることを確認した(図3、反応回数2回)。
【0054】
3.メチルエステル化ヒアルロン酸の調製及び分析3
メチルエステル化ヒアルロン酸の調製及び分析1における、トリメチルシリルジアゾメタンを加えた後の反応時間を1時間に変え、ヒアルロン酸のメチルエステル化を行った。反応終了後、再度同量のトリメチルシリルジアゾメタンを加え、同様にして1時間の反応を行った。メチルエステル化ヒアルロン酸の調製及び分析1と同様の方法により、反応を停止し、メチルエステル化ヒアルロン酸の精製を行った。得られたメチルエステル化ヒアルロン酸は、実質的に全てのカルボキシル基がメチルエステル化されていることを1−2と同様の方法により確認した。
【0055】
4.メチルエステル化コンドロイチン硫酸、メチルエステル化コンドロイチン、メチルエステル化デルマタン硫酸、メチルエステル化ヘパラン硫酸、メチルエステル化ヘパリンの調製及び分析
上記1−1(メチルエステル化ヒアルロン酸の調製)における出発物質を、コンドロイチン硫酸ナトリウム(分子量15kDa、30kDa、42kDa)、コンドロイチン(分子量10kDa)、デルマタン硫酸(分子量40kDa)、ヘパラン硫酸(分子量30kDa)、ヘパリン(30kDa)(上記各種グリコサミノグリカンは、Celsus,Ohio社製,米国)に変え、同様の方法により、メチルエステル化コンドロイチン硫酸、メチルエステル化コンドロイチン、メチルエステル化デルマタン硫酸、メチルエステル化ヘパラン硫酸、メチルエステル化ヘパリンの調製を行った。
【0056】
5.メチルエステル化コンドロイチン硫酸、メチルエステル化コンドロイチン、メチルエステル化デルマタン硫酸の分析
メチルエステル化ヒアルロン酸と同様のNMR分析(1−2参照)により、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸のそれぞれのカルボキシル基のみがメチルエステル化されていることを確認した。一例として、コンドロイチン硫酸(CS)及びメチルエステル化コンドロイチン硫酸の1H−NMR スペクトルを図8に示す。これにより、4.8 ppm付近のGalNAc6S H-6のシグナルがメチル化により小さくなっていることが確認された。また、3.9ppm付近にメチルエステルに由来するシングレットが大きく出現しており、N-アセチルメチルに由来するピークと大きさがほぼ等しくなったことが確認された。また、メチルエステル化コンドロイチン硫酸および出発物質であるコンドロイチン硫酸の分子量を、1−3と同様の方法により分析した。結果を下記表3に示す。これにより、得られたメチルエステル化コンドロイチン硫酸が、低分子化されていないことが確認された。
【0057】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のアルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの製造方法によれば、ジアゾメタンなどよりもはるかに取り扱い性に優れたトリアルキルシリルジアゾアルカンを使用し、塩酸・アルコールを使用するアルキルエステル化などよりもマイルドな条件でアルキルエステル化を行うことができ、アルキルエステル化されたグリコサミノグリカンの工業的生産にも極めて有用である。また反応条件などを調整することによりグリコサミノグリカンのアルキルエステル化の程度を広範囲にコントロールすることができ、またグリコサミノグリカンの低分子化を起こさず、グリコサミノグリカンを利用した医薬などの生産に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の方法により製造されたメチルエステル化ヒアルロン酸および原料ヒアルロン酸のNMR分析の結果を示す図である。
【図2】本発明の方法により製造されたメチルエステル化ヒアルロン酸および原料ヒアルロン酸の2次元NMR分析の結果を示す図である。
【図3】メチルエステル化ヒアルロン酸のメチルエステル化率を示す図である。
【図4】本発明の方法により製造されたメチルエステル化ヒアルロン酸および原料ヒアルロン酸の各種酵素による処理産物の電気泳動図である。
【図5】本発明の方法により製造されたメチルエステル化ヒアルロン酸および原料ヒアルロン酸の各種酵素による処理産物の電気泳動図である。
【図6】本発明の方法により製造されたメチルエステル化ヒアルロン酸および原料ヒアルロン酸の各種酵素による処理産物の電気泳動図である。
【図7】本発明の方法により製造されたメチルエステル化ヒアルロン酸および原料ヒアルロン酸のコンドロイチナーゼACIIによる処理産物のNMR分析の結果を示す図である。
【図8】本発明の方法により製造されたメチルエステル化コンドロイチン硫酸および原料コンドロイチン硫酸のNMR分析の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコサミノグリカンにトリアルキルシリルジアゾアルカンを作用させ、該グリコサミノグリカンのカルボキシル基をアルキルエステル化する工程を含む、アルキルエステル化グリコサミノグリカンの製造方法。
【請求項2】
アルキルエステル化が低級アルキルエステル化であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
トリアルキルシリルジアゾアルカンがトリメチルシリルジアゾ低級アルカンであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
グリコサミノグリカンがヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸およびヘパリンから選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
アルキルエステル化グリコサミノグリカンにおいて実質的に全てのカルボキシル基がアルキルエステル化されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
アルキルエステル化グリコサミノグリカンが、少なくとも牛睾丸ヒアルロニダーゼ、放線菌(Streptomyces hyalurolyticus)ヒアルロニダーゼ又はヒアルロニダーゼSDのいずれかによって実質的に分解されないことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
カルボキシル基がアルキルエステル化されたアルキルエステル化グリコサミノグリカンであって、該アルキルエステル化グリコサミノグリカンに以下の(a)〜(c)から選択されたグリコサミノグリカン分解酵素を該酵素の至適条件下で作用させた際に実質的に分解されない性質を有するアルキルエステル化グリコサミノグリカン。
(a)牛睾丸ヒアルロニダーゼ
(b)ヒアルロニダーゼSD
(c)放線菌(Streptomyces hyalurolyticus)ヒアルロニダーゼ
【請求項8】
アルキルエステル化グリコサミノグリカンが、低級アルキルエステル化されたものである請求項7記載のアルキルエステル化グリコサミノグリカン。
【請求項9】
低級アルキルエステルがメチルエステルである請求項8記載のアルキルエステル化グリコサミノグリカン。
【請求項10】
グリコサミノグリカンがヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸およびヘパリンから選択されることを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載のアルキルエステル化グリコサミノグリカン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−206849(P2006−206849A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24604(P2005−24604)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月9日 社団法人日本薬学会関東支部主催の「第48回 日本薬学会関東支部大会」において文書をもって発表
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】