説明

アルキルグリコシドの製造方法

【課題】色相の優れたアルキルグリコシドを容易に製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】酸触媒下、糖と一価アルコールとの反応によるアルキルグリコシドの製造方法であって、反応後、未反応の一価アルコールを蒸留により除去する前に、酸化アルミニウム5〜20重量%及び酸化ケイ素50〜90重量%からなる複合金属酸化物を含有する吸着剤、又は酸化マグネシウム10〜20重量%及び酸化ケイ素50〜80重量%からなる複合金属酸化物を含有する吸着剤で処理するアルキルグリコシドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルキルグリコシドの製造方法に関し、詳しくは色相の良好なアルキルグリコシドを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖を親水基とする界面活性剤であるアルキルグリコシドは低刺激でありかつ生分解性の高いことから、人体及び環境にやさしい非イオン界面活性剤であることから近年注目されている。
【0003】
アルキルグリコシドは糖類とアルコールとの反応によって製造されるが、製造過程において種々の問題を伴い、その中で最も大きい問題は容易に着色し色相の劣化を発生させることである。
【0004】
そのため、従来より製造工程における色相劣化を防ぐ方法が研究なされており、いくつかの解決方法が提案されている。例えば、酸触媒と還元剤を併用して糖とアルコールを反応させる方法(特許文献1)、アルキルポリグリコシド水溶液を過酸化水素及び二酸化硫黄源を用いて漂白する方法(特許文献2)などが提案されている。さらに、酸触媒下、糖と一価アルコールを反応させた反応液を複合金属酸化物を含有する吸着剤で処理する方法(特許文献3)が提案されてきたが、いまだ満足すべきものではなかった。
【0005】
上記アルキルグリコシドの製造過程において着色する問題は、特に過剰の一価アルコールを蒸留する工程において色相劣化する場合が多く、得られたアルキルグリコシドを水溶液にした後、過酸化水素等で脱色する必要があり、この脱色工程は多大な負荷を要するものとなっている。
【特許文献1】特公平2−4232号公報
【特許文献2】特開昭61−33193号公報
【特許文献3】特開2001−328996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酸触媒下、糖と一価アルコールとの反応によるアルキルグリコシドの製造において、色相の優れたアルキルグリコシドを容易に製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決する方法を鋭意検討した結果、糖と一価アルコールを反応させた後、過剰の一価アルコールの蒸留工程前に特定の金属酸化物を含有する吸着剤で処理することにより色相の良好なアルキルグリコシドが得られることを見出し本発明の完成に到達した。
【0008】
すなわち、請求項1に係る発明は、酸触媒下、糖と一価アルコールとの反応によるアルキルグリコシドの製造方法であって、反応後、未反応の一価アルコールを蒸留により除去する前に、酸化アルミニウム5〜20重量%及び酸化ケイ素50〜90重量%からなる複合金属酸化物を含有する吸着剤、又は酸化マグネシウム10〜20重量%及び酸化ケイ素50〜80重量%からなる複合金属酸化物を含有する吸着剤で処理することを特徴とするアルキルグリコシドの製造方法である。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアルキルグリコシドの製造方法において、反応後、前記吸着剤で処理する前に、酸触媒の処理及び/又は脱色処理を行うことを特徴とするアルキルグリコシドの製造方法である。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のアルキルグリコシドの製造方法において、前記脱色処理を次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、又は過酸化水素からなる群より選ばれる一種以上で行うことを特徴とするアルキルグリコシドの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアルキルグリコシドの製造方法によれば、未反応の一価アルコールを蒸留除去する前にアルキルグリコシドの色相を改善することができるので、過剰の一価アルコールの蒸留除去工程での色相劣化を抑え、また一価アルコールの除去工程後の複雑な脱色処理が不要となって製造工程での負荷が減少し、色相に優れたアルキルグリコシドを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のアルキルグリコシドの製造方法は、酸触媒の存在下、糖と一価アルコールとを反応容器に入れ、還流または減圧下で水を除きながら反応を進行させた後、複合金属酸化物を含有する吸着剤で処理を行い、吸着剤を除去した後、未反応の一価アルコールを蒸留により除去することによりアルキルグリコシドを製造するものである。
【0013】
本発明に用いられる酸触媒としては、塩酸、硫酸、燐酸、パラトルエンスルホン酸等のプロトン酸や、トリフッ化ホウ素エーテラートのようなルイス酸、カチオン交換樹脂等が使用できるが、中でもパラトルエンスルホン酸が好ましい。
【0014】
本発明に係るアルキルグリコシドの原料となる糖としては、特に限定されないが、単糖類、オリゴ糖類あるいは多糖類が使用できる。
【0015】
単糖類としては、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、リボース、アロース、アルトロース、グロース、イドース、タロース、アラビノース、キシロース、リキソースなどが挙げられる。オリゴ糖類としては、マルトース、ラクトース、スクロース、マルトトリオース、セロビオースなどが挙げられる。多糖類としてはヘミセルロース、イヌリン、デキストリン、デキストラン、キシラン、デンプン、加水分解デンプンなどが挙げられる。これらの糖は単独でも、2種以上を混合し用いてもよい。
【0016】
これらのうち、性能及び製造面から炭素数6の還元糖であるグルコース、マンノース、ガラクトースが好ましく、グルコースが特に好ましい。これにより、メチルグリコシド、エチルグリコシド、ブチルグリコシドなどのアルキルグリコシドが得られる。
【0017】
また、一価アルコールとしては、直鎖あるいは分岐の炭素数1〜22の飽和あるいは不飽和アルコール、またはアルキレンオキシド付加物である。アルキレンオキシドの平均付加モル数は1〜5モルが好ましい。
【0018】
一価アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどの飽和アルコール、オレイルアルコール、イコシルアルコールなどの不飽和アルコール、ヤシ油、パーム油、パーム核油、ヒマワリ油、牛脂、豚脂などから誘導される天然アルコールが挙げられる。これらは単独でも、2種以上の混合物でもよい。
【0019】
アルキルポリグリコシドの製造は公知の製造方法が適用されるが、例えば、糖1モルに対し、一価アルコール1〜10モル、酸触媒0.001〜0.1モルを反応器に仕込み、80〜150℃で反応させることで製造できる。
【0020】
この場合、一価アルコールが1モルより少ないと反応率が低下し、10モルより多いと製造が困難になる。また酸触媒は0.001モルより少ないと反応速度が遅く、0.1モルより多いと着色の原因になり好ましくない。
【0021】
一般にアルキルグリコシドの反応は生成する水を反応中に除去することで進行するため、必要であれば反応中に一価のアルコールが蒸発しない減圧度にて水を反応系外に除くことでさらに効率よく製造可能となる。反応時間は通常1〜10時間である。
【0022】
本発明で用いられる吸着剤は、酸化アルミニウムを5〜20重量%及び酸化ケイ素を50〜90重量%含む複合金属酸化物を含有する、又は酸化マグネシウムを10〜20重量%及び酸化ケイ素を50〜80重量%含む複合金属酸化物を含有することを特徴とし、酸化ケイ素と酸化アルミニウム又は酸化マグネシウムの混合物による優れた吸着作用によりアルキルグリコシドの色相を良好にすることができる。
【0023】
上記複合金属酸化物以外の吸着剤成分は特に制限されないが、酸化カルシウム、酸化亜鉛などのアルカリ金属酸化物、シリカ・アルミナ系吸着剤、ゼオライト、活性炭などの吸着剤を含んでもよい。
【0024】
これらの複合金属酸化物を含有する吸着剤は、市販品として、例えば協和化学工業(株)製のキョーワード700、キョーワード600、富田製薬(株)製のトミックスAD−700、トミックスAD−600等が挙げられる。
【0025】
吸着剤の使用量は、反応液100重量部に対して0.1〜5重量部が好ましく、複数の吸着剤を用いてもよい。吸着剤が0.1重量部より少ないと色相の改善が不十分であり、5重量部より多いと吸着剤の除去が困難となり好ましくない。
【0026】
吸着処理温度は50〜100℃であり、50℃より低温では処理時間がかかり、100℃より高温では着色のおそれが生じてくる。
【0027】
また、処理時間は15分〜2時間が好ましい。
【0028】
本発明の製造方法においては、吸着剤処理は糖と一価アルコールを酸触媒下に反応させた後に行うことが重要である。反応前処理では脱色効果はなく、吸着剤存在下の反応では触媒が失活して反応が進行しない。また、反応終了後、反応が停止せず継続する場合は副生物が生成しやすいことから、反応終了後に吸着剤処理を行うことにより色相に優れたアルキルグリコシドが得られる。
【0029】
また、当処理工程は水の存在下で行なうとより効果的である。水含有量は、水および吸着剤以外の成分の合計重量に対して1〜300重量%、好ましくは10〜100重量%である。処理後、濾過および遠心分離などで吸着剤を除去することが好ましい。
【0030】
本発明においては、糖と一価アルコールとの反応後、前記吸着剤で処理する前に、酸触媒の除去処理及び/又は脱色処理を行うことができる。
【0031】
酸触媒の除去処理は適当な中和剤による中和や、適当な吸着剤により処理してもよい。中和剤としては水酸化カリウムあるいは水酸化カリウムの水溶液、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液等が好適であり、反応に用いられる酸触媒1モルに対して、3モル以下の使用量が好ましい。吸着剤としては、例えば協和化学工業(株)製のキョーワード300やキョーワード500、キョーワード2000等の吸着剤や、市販の活性炭を用いることができる。
【0032】
また、上記脱色処理に用いられる脱色剤は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液、亜塩素酸ナトリウム水溶液、水素化ホウ素ナトリウム、過酸化水素水溶液が好適であり、これらを混合し用いてもよく、反応液100重量部に対して0.1〜5重量部の使用量が好ましい。
【0033】
本発明において、未反応の過剰の一価アルコールの蒸留除去は公知の方法で可能であるが、高真空でかつ可能な限り低温で行うのが好ましい。
【0034】
また、一価アルコールを除去したアルキルグリコシドは融点が高いため、水を加えて水溶液にし使用するのが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらの例は本発明を限定するものではない。
【0036】
[実施例1]
500ml反応容器に1−ブタノール296g(4モル)、グルコース74g(0.41モル)、パラトルエンスルホン酸1水和物0.296g(0.00156モル)を仕込み、窒素50ml/minを導入しながら105℃に加熱し、攪拌した。還流条件下生成する水を系外に除去しながら4時間反応させた。反応終了後、80℃にて25%亜塩素酸ナトリウム水溶液1.8gを加え80℃で30分攪拌した後、吸着剤としてキョーワード700(協和化学工業(株)製)(酸化アルミニウム10.5重量%、酸化ケイ素60.2重量%)1.8gを添加し80℃で30分攪拌した。室温まで冷却し、濾過した濾液のハーゼン色数(以下、APHAという)は10であった。80℃、5mmHgにて過剰の1−ブタノールを減圧蒸留し、水を加え50%水溶液にしたところAPHAは70であった。なお、APHAの測定は、JIS K−1557に準じて行った。
【0037】
[実施例2]
500ml反応容器にデシルアルコール296g(1.87モル)、グルコース74g(0.41モル)、パラトルエンスルホン酸1水和物0.296g(0.00156モル)を仕込み、窒素50ml/minを導入しながら圧力を30mmHgに保ったまま115℃まで加熱し攪拌した。生成する水を系外に除去しながら4時間反応させた。反応終了後、80℃にて48%水酸化ナトリウム水溶液0.13gを添加し10分攪拌した。次に、25%亜塩素酸ナトリウム水溶液1.8gを加え80℃で30分攪拌した後、吸着剤としてトミックスAD−600(富田製薬(株)製)(酸化マグネシウム14.1重量%、酸化ケイ素63.2重量%)1.8gを添加し80℃で30分攪拌した。室温まで冷却し、濾過した濾液のAPHAは20であった。140℃、5mmHgにて過剰の1−ブタノールを減圧蒸留し、水を加え50&%水溶液にしたところAPHAは150であった。
【0038】
[実施例3]
25%亜塩素酸ナトリウム水溶液で脱色しなかった以外は実施例1と同様にしてアルキルグリコシド50%水溶液を得た。蒸留前の色相がAPHAで150であり、1−ブタノール蒸留後の50%水溶液の色相はAPHAで250であった。
【0039】
[実施例4]
反応終了後、80℃にて48%水酸化ナトリウム水溶液0.20gを添加し10分攪拌した後、25%亜塩素酸ナトリウム水溶液のかわりに35%過酸化水素水溶液で脱色した以外は実施例1と同様にしてアルキルグリコシド50%水溶液を得た。蒸留前の色相がAPHAで50であり、1−ブタノール蒸留後の50%水溶液の色相はAPHAで200であった。
【0040】
[比較例1]
吸着剤としてキョーワード500(協和化学工業(株)製)(酸化マグネシウム38.2重量%、酸化アルミニウム16.1重量%)を用いた以外は実施例1と同様にしてアルキルグリコシド50%水溶液を得た。蒸留前の色相がAPHAで70であり、1−ブタノール蒸留後の50%水溶液の色相はAPHAで500以上であった。
【0041】
[比較例2]
吸着剤としてキョーワード2000(協和化学工業(株)製)(酸化マグネシウム59.2重量%、酸化アルミニウム33.0重量%)を用いた以外は実施例1と同様にしてアルキルグリコシド50%水溶液を得た。蒸留前の色相がAPHAで70であり、1−ブタノール蒸留後の50%水溶液の色相はAPHAで500以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の製造方法で製造されたアルキルグリコシドは、界面活性剤、化粧料基剤、洗浄剤原料として好適に使用できる。洗浄剤としては、例えば食器用洗剤、シャンプーなどに使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸触媒下、糖と一価アルコールとの反応によるアルキルグリコシドの製造方法であって、反応後、未反応の一価アルコールを蒸留により除去する前に、酸化アルミニウム5〜20重量%及び酸化ケイ素50〜90重量%からなる複合金属酸化物を含有する吸着剤、又は酸化マグネシウム10〜20重量%及び酸化ケイ素50〜80重量%からなる複合金属酸化物を含有する吸着剤で処理することを特徴とするアルキルグリコシドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアルキルグリコシドの製造方法において、反応後、前記吸着剤で処理する前に、酸触媒の処理及び/又は脱色処理を行うことを特徴とするアルキルグリコシドの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のアルキルグリコシドの製造方法において、前記脱色処理を次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、又は過酸化水素からなる群より選ばれる一種以上で行うことを特徴とするアルキルグリコシドの製造方法。

【公開番号】特開2007−153843(P2007−153843A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−354125(P2005−354125)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】