説明

アルキルスルホキシド含有廃液の処理方法及びそのシステム

【課題】大量の薬品を必要とせず、省スペース且つ省段階で処理可能なアルキルスルホキシド含有廃液の処理システムを提供する。
【解決手段】アルキルスルホキシド含有廃液を、窒素と酸素を含む気体成分下、高圧放電空間中に通過させた後、生物処理を行うことを特徴とするアルキルスルホキシド含有廃液の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤であるアルキルスルホキシドを含有する廃液を、簡易に処理する方法及びそのシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルキルスルホキシド、例えば一般に広く使用されているジメチルスルホキシド(以下、DMSOと記す)を含有する廃液の処理方法として、好気性条件下で生物分解する方法が行われていた。
しかしながらこの方法では、生物処理槽内の一部嫌気条件となった箇所でDMSOの還元が進行し、悪臭物質であるジメチルスルフィド、メチルメルカプタン、硫化水素が発生するという問題があった。
この問題の対策として、予めDMSOを酸化し、ジメチルスルホンやメタンスルホン酸などとした後に生物分解する方法が一般的に行われている。
DMSOの酸化方法として、以下の特許文献1〜特許文献3の従来発明が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−23376号公報
【特許文献2】特開2000−263069号公報
【特許文献3】特開2000−279973号公報
【0004】
しかしながら、これら従来発明についてはそれぞれ以下のような問題点がある。
特許文献1に記載された発明は、過酸化水素存在下でFeSO・7HOなどの鉄触媒で酸化分解を行うフェントン酸化法によるものであり、大量の過酸化水素と2価鉄イオンが必要で且つ大量の鉄スラッジ(鉄水酸化物汚泥)が発生する問題がある。
【0005】
特許文献2に記載された発明は、硫酸でpH5以下の酸性状態に調整後、オゾンと過酸化水素による酸化処理でDMSOを選択的にジメチルスルホンまで酸化処理するものであり、非特許文献1に記載の通り、残留過酸化水素が後段の生物処理を阻害してしまうものである。
これを防ぐために、酸化処理と生物処理の間にチオ硫酸ナトリウムなどを添加する過酸化水素還元槽が必要となるといった処理プロセスが3段階になる問題や、硫酸、オゾン、過酸化水素、チオ硫酸ナトリウムなど多数の薬品が大量に必要となる問題がある。
【0006】
【非特許文献1】「廃水中に含まれるジメチルスルホキシドの微生物分解」 村上貴子 早稲田大学大学院理工学研究科 博士論文 (2003) 第1章 p.10
【0007】
特許文献3に記載された発明は、特許文献2とは逆に、pH10以上のアルカリ性を維持した状態で、オゾンと過酸化水素による酸化処理を行うものであり、これもpH維持のために大量のアルカリが必要であり、酸化処理後に更に中和用の酸が大量に必要となる問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情の下、大量の薬品を必要とせず、省スペース且つ省段階で処理可能なアルキルスルホキシド含有廃液の処理システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アルキルスルホキシド含有廃液を、窒素を含む気体成分下、高圧放電空間中に通過させた後、生物処理を行うことにより、上記課題が達成されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、アルキルスルホキシド含有廃液を、窒素と酸素を含む気体成分下、高圧放電空間中に通過させた後、生物処理を行うことで、雰囲気気体中の窒素成分が酸化を受けて硝酸イオンを形成し、対象廃液をpH4程度の酸性状態とすることが可能となり、薬品によるpH調整が不要となる。
併せて酸性状態となった下で高圧放電処理を行うことにより、オゾンや過酸化水素、ヒドロキシラジカルなどの様々な活性種が放電空間中に発生し、対象廃液を同放電空間中に循環通過させることで、DMSOの場合には有効にジメチルスルホンにまで酸化処理を行うことが可能となる。
【0011】
本発明において、アルキルスルホキシド含有廃液はアルキルスルホキシド成分を含有するものであれば特に限定されず、対象廃液中の有機物成分種や総有機物成分量には特に制約を受けない。
ここで示すアルキルスルホキシドとは、下化1の構造式で示されるものであり、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、エチルメチルスルホキシドなどが挙げられ、通常は式中のRxが、Hもしくは炭素数3以下のアルキル基であり、Ryが炭素数3以下のアルキル基で構成されるスルホキシドである。
【0012】
【化1】

【0013】
アルキルスルホキシドがDMSOの場合、DMSO成分をモニタリングしてジメチルスルホンに変換されてしまうまで、対象廃液を放電空間内に循環通過させ繰り返し処理するのが好ましい。
【0014】
ここで示す窒素と酸素を含む気体成分下とは、廃液処理を行う空間の気体成分が窒素と酸素を含有した状態であることを意味するものである。
本発明において、反応場における気体成分中の窒素成分量は硝酸イオンを発生させるために必須である。
本発明の効果発現には窒素成分量は含まれておれば特に制約を受けるものではないが、第2の発明で示すように、窒素成分比が20〜80体積%且つ酸素成分比が80〜20体積%の気体成分比であれば、高圧放電処理を行うことで薬品を用いる事無く、対象廃液を硝酸酸性にし、且つ酸化処理を良好に進めるために必要な酸素源が確保でき、好ましい。
窒素成分が少なく酸素成分が多すぎると、充分に対象廃液を酸性化するに至らず、逆に窒素成分が多く酸素成分が少なすぎると酸化反応に非常に時間が掛かってしまう。
【0015】
放電空間内に液体と気体が混在した状態で存在している時に高圧放電を起こすと、発生したラジカルにより過酸化水素やオゾンが生じ、これらが液体内部にまで浸透拡散する。
より高い酸化分解性を発現させるためには、過酸化水素とオゾンの両方が存在する条件で処理を行うのが好ましい。
気体成分中の酸素成分比が低すぎると、過酸化水素は発生するがオゾンの発生が不充分となり、逆に酸素成分だけだとオゾンの発生は高まるが、高圧放電エネルギーの殆どが酸素をオゾンにすることに費やされ、相対的に過酸化水素の発生が不充分になってしまう。
図6で示すように、窒素成分比が20〜80体積%且つ酸素成分比が80〜20体積%の気体成分比であれば過酸化水素とオゾンの発生比率が安定して好ましい。
窒素成分と酸素成分は、それぞれ独立したガスボンベからレギュレータに取り付けた精密流量計で調整しながら、成分比を調整しながら供給するのが好ましいが、窒素:酸素の成分比が凡そ78:21である大気を導入しながらでも、更に大気導入に併せて酸素成分だけを所望の成分比となるよう追加導入しても構わない。
また、期待する気体成分比で放電空間を満たすことが可能であれば、気体の導入場所や導入方法は、放電空間の上部から導入させても下部空間から充満させても、どこから導入しても構わないし、シャワーノズル部分で被処理水と共に導入噴射するものでも、被処理水タンク内にバブリングさせながら導入するなど、どのような導入方法で行っても構わない。
【0016】
ここで示す高圧放電とは、ストリーマ放電、バリア放電、グロー放電、コロナ放電などに例示される放電が起きる状態で、針状-平板型電極,ワイヤ状-平板型電極,同軸円筒型電極などに例示される、電圧印加電極と接地電極の間に非常に短時間のパルスや高周波の交流波形などの形で高電圧を掛けることで放電を起こさせる放電方式を意味するものである。
高圧放電は、電圧印加電極の長さや接地電極との間の距離などにより放電が起こる電圧条件が異なるため、放電が起こる電圧であれば特に限定されないが、例えば電極間の距離が19mmで長さが300mmのワイヤー−円筒型電極を用いた場合には、およそ20kV程度の印加電圧が必要であるように、通常は1kV以上の電圧を印加して放電を起こさせるものである。
【0017】
放電空間とは、電圧印加電極と接地電極の間の空間を意味するものであり、針状(剣山状を含む)もしくはワイヤ状(ネジ状、ワイヤーブラシ状を含む)−平板(メッシュ状、円筒状を含む)型電極や平行平板型電極や同軸円筒型(板状、メッシュ状を含む)電極など、電圧印加電極と接地電極で形成されて高圧放電が可能であれば、特に形状に制約を受けない。
電圧印加電極と接地電極は、処理空間に1対だけでなく複数対設けるものでも構わない。
高圧放電を起こさせるには、電圧印加電極と接地電極の間に非常に短時間のパルスや高周波の交流波形などの形で高電圧を掛けることが必要であるが、消費電力の観点から電圧印加時間をナノ秒レベルに短く、且つ電圧を印加する速度を印加時間内に完了させるのが好ましい。好ましくは印加速度が0.2kV/nsec以上、周波数が10Hz以上、パルス幅が500nsec以下である高周波パルスで印加するのが好ましい。(図1)
この時、電圧印加電極と接地電極の材質は特に制約を受けないが、耐蝕性の面からチタンやステンレス鋼であることが好ましい。
【0018】
ここで示す生物処理とは、一般に下水処理場で広く用いられている活性汚泥法や、生物の膜を付着させたろ材を対象廃液中に漬けて対象廃液中の有機物を処理する生物膜法などに例示される、微生物の力により対象廃液中に含まれる有機物質やプランクトン類からの悪臭物質、あるいはアンモニア性窒素等を除去する処理する方法を意味するものである。
【0019】
また、本発明の第2の発明によれば、
請求項1における窒素と酸素を含む気体成分が、窒素:酸素の体積成分比が20:80〜80:20であることで、高圧放電処理を行うことで薬品を用いる事無く、対象廃液を硝酸酸性にし、且つ対象廃液中のアルキルスルホキシドの酸化分解処理を良好に進めるために必要な酸素源が確保できる。
【0020】
また、本発明の第3の発明によれば、
請求項1における高圧放電が、電圧印加電極と接地電極間で発生させるストリーマ放電であることで、放電先端が払子状に拡がる放電方式であるため、過酸化水素やオゾンやヒドロキシルラジカルのような活性種が放電空間内に奥行きをもって広く発生するので、対象廃液中のアルキルスルホキシドとの接触が良好となり上記活性種による分解が効率良く進行する。
【0021】
また、本発明の第4の発明によれば、
請求項1におけるアルキルスルホキシド含有廃液を、高圧放電空間中へ通過させるにあたり、ミスト状に噴霧して通過させることで、放電空間内に発生した過酸化水素やオゾンやヒドロキシルラジカルのような活性種と、対象廃液中のアルキルスルホキシドとの接触機会を増大させることができる。
この時、ミスト化する手段についてはノズルからの噴射や超音波によるミスト化などがあり、特に制約を受けないが、処理できる量を考慮して噴射ノズルによるミスト化が好ましい。
【0022】
更に、本発明は、対象廃液中の固形分を予めメッシュフィルターなどを用いて除去しておく工程や対象廃液を一時貯留して循環処理を行う貯留水槽構造や、対象廃液を放電空間へ供給するためのポンプ構造などには制約を受けるものではない。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アルキルスルホキシド含有廃液を、窒素と酸素を含む気体成分下、高圧放電を行うことで、雰囲気気体中の窒素成分が酸化を受けて硝酸イオンが形成され、対象廃液をpH4程度の酸性状態となるので、薬品によるpH調整が不要となる。
併せて酸性状態となった下で高圧放電処理を行うことによりオゾンや過酸化水素、ヒドロキシラジカルなどの様々な活性種が放電空間中に発生し、対象廃液を同放電空間中に循環通過させることで、DMSOの場合には有効にジメチルスルホンにまで酸化処理を行うことが可能となる。
加えて、高圧放電ではオゾンと過酸化水素が両方発生するが、放電処理時間経過と共に発生オゾンによる発生過酸化水素の失活が進行し、対象廃液中に過酸化水素の残留が殆ど無い状態となるため、チオ硫酸ナトリウムなどによる過酸化水素の還元処理工程は不要となり、同高圧放電処理の後、生物処理を行うことが可能となる省工程化が図れる。
つまり、大量の薬品を必要とせず、省スペース且つ省段階でアルキルスルホキシド含有廃液の処理が可能となる、という顕著な効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明を実施するための第1の形態として、図2のモデルを元に説明する。
放電処理部1は、容器2と、円筒状電極3と線状電極4とからなる高圧放電空間と、被処理水タンク5と、ポンプ6と、噴射ノズルであるシャワーノズル7と、被処理水供給ホース71と、放電空間内の気体成分を調整して供給する気体供給手段8と、高圧電源であるパルスパワー発生装置9と、被処理水タンク収容ボックス10とを備えている。
容器2は、例えば、アクリル樹脂等の絶縁材料で形成され、円筒状をした容器本体21と、容器本体21の下端を、通水孔22a部分を除いて閉鎖するように設けられた下部蓋部22と、容器本体21の上端を、シャワーノズル設置孔23a部分を除いて閉鎖するように設けられた上部蓋部23とを備え、下部蓋部22が被処理水タンク収容ボックス10の開口部10aを塞いだ状態で被処理水タンク収容ボックス10の開口部10a周縁に受けられている。
【0025】
高圧放電空間を形成する円筒状電極3は、例えば、ステンレス鋼製の2.5メッシュ、線径1.1mmの金網を円筒状に加工することによって得られ、円筒状をした容器本体21内に収容されるように外径が容器本体21の内径より若干小さく形成されている。
同じく線状電極4は、例えば、直径1mmのチタン鋼線で形成され、円筒状電極3の中心軸に沿うように設けられている。
【0026】
被処理水タンク5は、下部蓋部22の通水孔22aを下方から臨むように処理水タンク収容ボックス10内に収容されている。
ポンプ6は、処理水タンク収容ボックス10内で被処理水タンク5に隣接して設けられ、被処理水タンク5内の被処理水Wを、被処理水供給ホース71を介してシャワーノズル7に送るようになっている。
【0027】
シャワーノズル7は、被処理水供給ホース71を介して送られてきた被処理水を粒径が1500μm以下の水滴からなるミスト状態にして円筒状電極3の上部開口に向かって噴射するようになっている。
また、シャワーノズル7の噴角は、噴射される被処理水ミストMの最大広がり部で放電空間の最外縁である円筒状電極3の内壁面に沿うような角度に調整されている。
【0028】
気体供給手段8は、気体供給部81と気体供給量調節器82と気体供給管83とからなり、酸素ボンベと窒素ボンベからなる気体供給部81から、気体供給量調節器82を介して気体供給管83が容器本体21壁を貫通し、放電空間に向けて気体成分を供給するように接続されている。
【0029】
パルスパワー発生装置9は、円筒状電極3が接地電極、線状電極4が電圧印加電極となるように円筒状電極3及び線状電極4に接続され、円筒状電極3と線状電極4との間にパルス状に高電圧を印加して円筒状電極3と線状電極4との間で放電を起こすようになっている。
【0030】
この放電処理部1は、上記のようになっており、被処理水タンク5にDMSOを含む被処理水Wを仕込むとともに、放電空間内の気体成分を調整して供給する手段8により処理空間の気体成分が調整された状態の下で、パルスパワー発生装置9によって、円筒状電極3と線状電極4との間に、高電圧をパルス状に連続印加し、円筒状電極3内に上下方向に円柱状となった放電空間を形成する。
そして、ポンプ6を駆動させて、被処理水タンク5内の被処理水Wを、ホース71を介してシャワーノズル7に送り、円筒状電極3の上方から円筒状電極3の中心軸方向に噴射することによって被処理水Wを循環通過させながら繰り返し処理するようになっている。
【0031】
すなわち、放電によって、オゾン、OHラジカル、Oラジカル等の活性種が放電空間内に発生し、シャワーノズル7から噴射された被処理水ミストM中の水滴が円筒状をした放電空間内を落下していく間にこれら活性種に接触し、各水滴中のDMSOが効率よく酸化分解処理される。
【0032】
上記放電処理を行い、GC−MAS測定でDMSOがジメチルスルホンまで分解されたのを確認し、pH調整を行うことなく、活性汚泥法により生物分解処理を行う。
【0033】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されない。例えば、上記の実施の形態では、パルスパワー発生装置を備えていたが、パルスパワー発生装置は市販のものを別途容易するようにしても構わない。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の具体的な実施例を比較例と対比させて説明する。
(実施例1)
図2に示す放電処理部1を用い、以下の実験条件でDMSO水溶液の処理を行った。
〔処理条件〕
被処理水初期濃度: 300ppm(DMSOを蒸留水に溶解させ調整した)
被処理水量: 7リットル
被処理水の噴射速度(循環速度): 14L/分
充電電圧: 20kV
印加速度: 0.7kV/nsec
パルス幅: 50nsec
周波数: 200Hz
円筒状電極の性状: 2.5メッシュ、線径1.1mm、開孔率79.5%、溶接金網
円筒状電極の外径: 39.5mm
円筒状電極の長さ(中心軸方向の長さ): 200mm×6本
被処理水ミストの粒径: 750〜970μm
シャワーノズルの噴射角: 30°
シャワーノズルから円筒状電極までの距離: 被処理水ミストの最外縁が最外部に位置する円筒状電極外縁の上端になるように調整した。
気体供給条件: 酸素:窒素=10:90
気体流量: 4L/分
【0035】
(実施例2)
気体供給条件を、酸素:窒素=20:80で行った以外は実施例1と同様に行った。
【0036】
(実施例3)
気体供給条件を、酸素:窒素=50:50で行った以外は実施例1と同様に行った。
【0037】
(実施例4)
気体供給条件を、酸素:窒素=80:20で行った以外は実施例1と同様に行った。
【0038】
(比較例1)
放電空間内の気体成分を調整して供給する手段8から窒素100%で気体成分を供給した以外は、実施例1と同様にしてDMSO水溶液の処理を行った。
【0039】
(比較例2)
放電空間内の気体成分を調整して供給する手段8から酸素100%で気体成分を供給した以外は、実施例1と同様にしてDMSO水溶液の処理を行った。
【0040】
実施例1から実施例4及び比較例1と比較例2については、各放電処理後にpH調整を行わずに活性汚泥法を用い、0.2g−TOC/g−MLSS・dayの負荷で処理を行った。各処理における分解反応の進行状況は、島津製作所社製の全有機炭素計を用い、TOC(全有機炭素)を測定して比較を行った。
生物処理後の悪臭の発生の有無に関しては、官能評価にて行い、10人中2人以上が臭気を感じた場合に悪臭発生とした。
試験結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
上記結果の通り、本発明の処理システムを用いることで、大量の薬品を必要とせず、省スペース且つ省段階でアルキルスルホキシド含有廃液の処理が可能となった。
生物処理前にDMSOをジメチルスルホンに酸化分解することで後段の生物処理時に悪臭の発生を抑えることが可能となった。
【0043】
また、本発明の実施例を補足するものとして、以下の参考例を示す。
(参考例1)
実施例1の処理条件において、被処理水に蒸留水を用い、気体供給条件を、以下の条件で10hr後まで処理を行った時の被処理水のpHを測定し、結果を図3に示す。
・酸素:窒素=90:10
・酸素:窒素=50:50
・酸素:窒素=10:90
対象処理水のpHが処理時間と共にpH4程度の酸性状態となる事が確認された。
【0044】
(参考例2)
実施例3での処理において、対象水溶液中のDMSO及びジメチルスルホンの濃度変化について、各処理時間で抜き取った対象水溶液に対しGC−MAS測定を行い、結果を図4に示す。
水溶液中のDMSOの分解が進み、ジメチルスルホンが生成していることが確認された。
【0045】
(参考例3)
上記参考例2処理時に同時にTOC測定の測定を行い、結果を図5示す。
TOC濃度は処理時間による変化はなく、DMSOがジメチルスルホンに酸化されたのみで、ジメチルスルホンがメタンスルホン酸や硫酸などへの酸化までは起こっていないことが確認された。
【0046】
(参考例4)
実施例1の処理条件において、被処理水に蒸留水を用い、気体供給条件を変えて各1hr処理を行った時の被処理水中の水中過酸化水素濃度と水中オゾン濃度の値を測定し、結果を図6に示す。
より高い酸化分解性を発現させるためには、過酸化水素とオゾンの両方が存在する条件で処理を行うのが好ましいが、窒素:酸素の体積成分比が20:80〜80:20であれば過酸化水素とオゾンの発生比率が安定することが確認された。
また、本発明の高圧放電では過酸化水素の発生量は3ppm程度以下と極めて微量であり、後段の生物処理を行う前にチオ硫酸ナトリウムなどによる過酸化水素の還元処理工程が不要であり、省工程で処理が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の処理方法では、大量の薬品を必要とせず、省スペース且つ省段階で処理可能なアルキルスルホキシド含有廃液の処理システムが提供され、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明で使用される高圧放電の一例である印加パルスパターンである。
【図2】本発明を実施するための、放電処理を行う部分の第1の形態図である
【図3】本発明の参考例1の結果を示すグラフである。
【図4】本発明の参考例2の結果を示すグラフである。
【図5】本発明の参考例3の結果を示すグラフである。
【図6】本発明の参考例4の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0049】
1 放電処理部
2 容器
3 円筒状電極
4 線状電極
5 被処理水タンク
6 ポンプ
7 シャワーノズル
8 気体供給手段
9 パルスパワー発生装置
10 被処理水タンク収容ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルスルホキシド含有廃液を、窒素と酸素を含む気体成分下、高圧放電空間中に通過させた後、生物処理を行うことを特徴とするアルキルスルホキシド含有廃液の処理方法
【請求項2】
上記の窒素と酸素を含む気体成分が、窒素:酸素の体積成分比が20:80〜80:20であることを特徴とする請求項1記載のアルキルスルホキシド含有廃液の処理方法
【請求項3】
上記の高圧放電が、電圧印加電極と接地電極間で発生させるストリーマ放電であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のアルキルスルホキシド含有廃液の処理方法
【請求項4】
上記のアルキルスルホキシド含有廃液を高圧放電空間中へ通過させるにあたり、ミスト状に噴霧して通過させることを特徴とする請求項1〜請求項3記載のアルキルスルホキシド含有廃液の処理方法
【請求項5】
アルキルスルホキシド含有廃液供給手段と、高圧放電発生装置と、窒素を含む気体供給手段と、高圧放電発生装置に接続した放電電極を含む放電空間からなることを特徴とするアルキルスルホキシド含有廃液の処理システム

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−35199(P2012−35199A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177822(P2010−177822)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】