説明

アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法

【課題】第2級炭素を含有するアルキル基を含有しないアルキルベンゼン(「原料アルキルベンゼン」)をアルカリ水溶液の存在下、反応器内のアルカリ水層のpHが7.5〜10.0になるように、含酸素ガスで酸化することによるアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを製造する方法であって、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを高収率で得られるという優れた効果を有するアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法を提供する。
【解決手段】原料アルキルベンゼンを含有する原料液中の第2級炭素を含有するアルキル基を含有するアルキルベンゼン(「不純物アルキルベンゼン」)の濃度が2重量%以下であるアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、第2級炭素を含有するアルキル基を含有しないアルキルベンゼン(「原料アルキルベンゼン」)をアルカリ水溶液の存在下、反応器内のアルカリ水層のpHが7.5〜10.0になるように、含酸素ガスで酸化することによるアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを製造する方法であって、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを高収率で得られるという優れた効果を有するアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法としては、特許文献1にイソプロピルベンゼンを酸化して、イソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドを製造するに際し、エチルベンゼンが共存すると反応速度が低下することが開示されている。しかしながら、従来の方法においては、エチルベンゼン以外の第2級炭素を含有するアルキル基を含有するアルキルベンゼンに関する詳細な記載が無い。
【0003】
【特許文献1】特開2001−270872公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる現状において、本発明が解決しようとする課題は、第2級炭素を含有するアルキル基を含有しないアルキルベンゼン(「原料アルキルベンゼン」)をアルカリ水溶液の存在下、反応器内のアルカリ水層のpHが7.5〜10.0になるように、含酸素ガスで酸化することによるアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを製造する方法であって、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを高収率で得られるという優れた効果を有するアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、第2級炭素を含有するアルキル基を含有しないアルキルベンゼン(「原料アルキルベンゼン」)を酸化することによるアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法であって、原料アルキルベンゼンを含有する原料液中の第2級炭素を含有するアルキル基を含有するアルキルベンゼン(「不純物アルキルベンゼン」)の濃度が2重量%以下であるアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、第2級炭素を含有するアルキル基を含有しないアルキルベンゼン(「原料アルキルベンゼン」)をアルカリ水溶液の存在下、反応器内のアルカリ水層のpHが7.5〜10.0になるように、含酸素ガスで酸化することによるアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを製造する方法であって、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを高収率で得られるという優れた効果を有するアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の第2級炭素を含有するアルキル基を含有しないアルキルベンゼン(「原料アルキルベンゼン」)としては、イソプロピルベンゼン、イソプロピルメチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。原料アルキルベンゼンを含有する原料液は、酸化反応に供されていないフレッシュなものでも、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを含む溶液から回収された未反応原料アルキルベンゼンを含有する原料液でも、また、これらの混合物でも良い。原料アルキルベンゼンの酸化は、アルカリ水溶液の存在下、反応器内のアルカリ水層のpHが7.5〜10.0になるように、空気や酸素濃縮空気等の含酸素ガスによる自動酸化で行われる。アルカリ水溶液は、アルカリ水溶液ならばいかなるものでも良いが、フレッシュアルカリ水溶液や酸化工程から回収されるアルカリ水溶液等が挙げられる。フレッシュアルカリ水溶液としては、NaOH、KOHのようなアルカリ金属化合物や、アルカリ土類金属化合物又はNa2CO3、NaHCO3のようなアルカリ金属炭酸塩又はアンモニア及び(NH42CO3、アルカリ金属炭酸アンモニウム塩等を水に溶解させたものが用いられ、酸化反応に供していないものである。反応器へ供給される酸化工程から回収されるアルカリ水溶液としては、酸化工程から回収されるアルカリ水溶液であればいかなるものでも良いが、酸化反応器からのアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを含む溶液を油層と水層に分離して得られた該水層等が例示できる。反応器内のアルカリ水層のpHは7.5〜10.0が好ましく、この範囲外ではアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの収率が低下することがある。通常の反応温度は50〜200℃であり、反応圧力は大気圧から5MPaの間、液滞留時間は0.1〜50時間である。反応器は、1段反応器でも多段反応器でも良い。ここで述べる多段反応器とは、2器以上のことであり、2〜20器であることが好ましい。該器数が多すぎると、反応器及び該反応器に伴う配管等の費用が高くなり、経済性の観点から好ましくないことがある。また、多段反応器の場合においては、各反応器の連結方法は、直列でも並列でも、または、それらの組み合わせでも良い。
【0008】
本発明において、原料アルキルベンゼンを含有する原料液中の第2級炭素を含有するアルキル基を含有するアルキルベンゼン(「不純物アルキルベンゼン」)の濃度が2重量%以下である必要がある。ここで述べる不純物アルキルベンゼンとは、第2級炭素を含有するアルキル基を含有するアルキルベンゼンならばいかなるもので良く、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、sec−ブチルベンゼン等が例示できる。原料アルキルベンゼンを含有する原料液中の不純物アルキルベンゼンの濃度が2重量%以下であることが好ましい。更に好ましくは、1重量%以下である。原料アルキルベンゼンを含有する原料液中の不純物アルキルベンゼンの濃度を低下させると、反応速度が劇的に向上し、かつ選択率も向上することで、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドが高収率で得られる。
【0009】
また、本発明においては、原料アルキルベンゼンを含有する原料液中の不純物アルキルベンゼンの濃度を低くする方法としては、フレッシュな原料アルキルベンゼンを含有する溶液として、不純物アルキルベンゼンの濃度が低いものを用いる方法や、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを含む溶液から回収された未反応原料アルキルベンゼンを含有する溶液中の不純物アルキルベンゼンの濃度を低減する方法等が例示できる。フレッシュな原料アルキルベンゼンを含有する溶液中の不純物アルキルベンゼンの濃度は0.5重量%以下であることが好ましい。このことにより、原料アルキルベンゼンを含有する原料液中の不純物アルキルベンゼンの濃度を低くすることができる。また、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを含む溶液から回収された未反応原料アルキルベンゼンを含有する溶液中の不純物アルキルベンゼンの濃度を低減する方法として、通常の蒸留や抽出法等が例示できる。
【0010】
更に、本発明においては、フレッシュな原料アルキルベンゼンを含有する溶液中のフェノール化合物の濃度は0.1重量%以下であることが好ましい。このことにより、原料アルキルベンゼンを含有する原料液中のフェノール化合物の濃度を低下させることができ、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを高収率で得ることができる。ここで述べるフェノール化合物とは、フェノール化合物であればいかなるもので良く、フェノール、メチルフェノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール等が例示できる。
【0011】
更に、本発明においては、フレッシュな原料アルキルベンゼンを含有する溶液中のα−メチルスチレンの濃度は0.1重量%以下であることが好ましい。このことにより、原料アルキルベンゼンを含有する原料液中のα−メチルスチレンの濃度を低下させることができ、アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドを高収率で得ることができる。
【0012】
本発明において得られるアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドは、フェノール類とアセトンの製造用原料として用いることができる。一例として、得られるクメンハイドロパーオキサイドを酸触媒に接触させ、フェノールとアセトンを得、このものを分離・精製することにより、フェノールとアセトンを製造する方法等が挙げられる。酸触媒としては、硫酸、過塩素酸、塩酸、弗化水素酸、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、イオン交換樹脂やシリカアルミナ等が挙げられる。
【0013】
また、本発明において得られるアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドは、アルキレンオキサイドの製造用原料として用いることができる。一例として、得られるクメンハイドロパーオキサイドをチタン含有触媒の存在下、プロピレンと作用させ、プロピレンオキサイドとクミルアルコールを得、このものを分離した後、該クミルアルコールは脱水触媒の存在下α−メチルスチレンとし、更には、該α−メチルスチレンを水添触媒の存在下、水素と作用させてクメンを得、該クメンを酸化工程の原料として再利用する方法等が挙げられる。
【0014】
なお、本発明において得られるアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドをフェノール類やアルキレンオキサイドの製造用原料として用いる場合、濃縮した後に用いることもできる。
【実施例】
【0015】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例より限定されるものではない。
実施例1
1Lガラスオートクレーブを反応釜とした連続流通反応器を用い、原料アルキルベンゼンとしてイソプロピルベンゼンを含有する原料液(イソプロピルベンゼン:95重量%)を141g/h、炭酸ナトリウム水溶液を3.6g/h及び空気を409Nml/minで供給し、圧力0.65MPa−G、温度112℃、液滞留時間3.2h、反応器内のアルカリ水層pH9.7の条件下、連続流通反応させた。その時の不純物アルキルベンゼンはエチルベンゼンとn−プロピルベンゼンとsec−ブチルベンゼンの合計で1.25重量%であった。その結果、定常化した状態では、排ガス中の酸素濃度は2体積%となり、23.5h目から24.5h目の反応液の油層147gを分析すると、油層中のイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドは17重量%であった。
【0016】
実施例2
イソプロピルベンゼンを含有する原料液(イソプロピルベンゼン:99重量%以上)を142g/h、炭酸ナトリウム水溶液を3.3g/h及び空気を421Nml/minで供給し、温度110℃、不純物アルキルベンゼンはエチルベンゼンとn−プロピルベンゼンとsec−ブチルベンゼンの合計で0.02重量%である以外は、実施例1と同様な条件で連続流通反応させた。その結果、定常化した状態では、排ガス中の酸素濃度は2体積%となり、22.0h目から23.0h目の反応液の油層150gを分析すると、油層中のイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドは18重量%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2級炭素を含有するアルキル基を含有しないアルキルベンゼン(「原料アルキルベンゼン」)をアルカリ水溶液の存在下、反応器内のアルカリ水層のpHが7.5〜10.0になるように、含酸素ガスで酸化してアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドに変換するアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法であって、原料アルキルベンゼンを含有する原料液中の第2級炭素を含有するアルキル基を含有するアルキルベンゼン(「不純物アルキルベンゼン」)の濃度が2重量%以下であるアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法。
【請求項2】
原料アルキルベンゼンを含有する原料液中の不純物アルキルベンゼンの濃度が1重量%以下である請求項1記載のアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法。
【請求項3】
原料アルキルベンゼンがクメンかつアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドがクメンハイドロパーオキサイドである請求項1記載のアルキルベンゼンハイドロパーオキサイドの製造方法。