説明

アルキル錫化合物、その製造方法、および該化合物を含有する、導電性および赤外反射性のフッ素ド―プした酸化錫層をガラス、ガラスセラミックおよびほうろう表面に製造するための薬剤

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はアセテートおよびトリフルオロアセテート基を有する新規のアルキル錫化合物ならびにその製造方法に関する。さらに本発明は、該新規のアルキル錫化合物を含有する、導電性および赤外反射性の層をガラス、ガラスセラミックまたはほうろうの表面に形成するための薬剤に関する。
【0002】
【従来の技術】ガラス表面の導電性のフッ素をドープした酸化錫層がこのように被覆した表面の電気抵抗を低下しかつまた赤外反射性を高めることは公知である。この種の層を製造するためには、適切な錫化合物(ベース化合物)をフッ素を放出する化合物(ドーピング剤)と同時に400〜800℃に加熱したガラス表面と接触させる。該ベース錫化合物は密着した酸化錫層をガラス、ガラスセラミックまたはほうろう引きの表面に形成する。該ドーピング剤からのフッ素は導電性を向上させかつ高い赤外反射性をひき起す。
【0003】適当な錫およびフッ素含有溶液の吹付が、フッ素をドープした酸化錫層を表面に塗布するためには製造技術的に特に簡単である。
【0004】西ドイツ特許出願公開第2246193号明細書には、透明の、導電性酸化錫フィルムをガラス表面に製造する方法が記載されている。該方法では、トリフルオロ酢酸の有機錫塩のメチルエチルケトン中の溶液を使用する。その溶液の製造のためには、多くの費用のかかる工程が必要である。この方法により製造された錫カルボキシレートは、分子構造により特定されるが、余りに高いフッ素成分を持っている。しかし、フッ素の過剰のドーピングは赤外反射および導電性に明白な劣化をひき起す。
【0005】西ドイツ特許出願公開第39 15 232号明細書には、トリフルオロ酢酸とアルキル錫オキシドとの反応生成物の有機溶液を400〜700℃に加熱した表面に塗布することにより導電性、IR反射性のフッ素をドープした酸化錫層を製造する方法が記載されている。該方法は、溶剤として酢酸エチルエステルおよび/またはメチルエチルケトンを使用する。しかし、その生じた付加生成物は貯蔵性がない。当業者には公知であるような、光学的に欠陥のない、均一の層を生じる、極性の低級アルコール、例えばエタノールまたはイソプロパノールの、溶剤としての好ましい使用は、これらの化合物の場合には不可能である。
【0006】ヨーロッパ特許公開第0 318 486号明細書には、クロロ錫アセテートトリフルオロアセテートが記載されている。これらの化合物は多工程の、費用のかかる方法で製造される。それによって製造される200nm厚さの酸化錫層の機能値はIR反射率70%および電気面積抵抗40Ω/□にある。しかし、この物質の主要欠点は塩素の存在である。熱分解の際はとりわけ塩化水素ガスが生成し、これが材質を腐食または損傷するかまたは健康危険を引き起すことがある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の課題は、極性有機溶剤、有利には低分子脂肪族アルコールまたはケトンに溶け、付加的ドーピング剤なしにそれによってガラス、ガラスセラミックおよびほうろう表面に製造した酸化錫層の面積抵抗を減じIR反射率を最大にする新種のアルキル錫化合物を開発することであった。該生成物は長期間安定でなければならない。該生成物は塩素不含でなければならない。
【0008】
【課題を解決するための手段】前記課題は、意外にも本発明により一般式:Sn1a2b3c[式中、R1は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、R2はアセテート基、R3はトリフルオロアセテート基であり、かつaは1または2の値、bは1または2の値、cは1または2の値を持ち、但しその和a+b+c=4である]で示される新規の錫化合物で解決される。
【0009】R1は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、有利にはブチル基である。
【0010】本発明による化合物の例は、C49−Sn(CH3COO)2CF3COO、(C492−Sn(CH3COO)CF3COO、(C37)−Sn(CH3COO)2CF3COOである。
【0011】有利であるのは、Snに結合したアルキル基1個だけを有する化合物である。
【0012】本発明のもう1つの対象は、本発明による化合物の製造方法であり、該方法は、常法でアルキル錫オキシドに無水酢酸および無水トリフルオロ酢酸を所望のモル比で冷却しながら、反応温度が90℃を越えないように添加し、かつ反応体の添加終了後該反応を約80〜90°の温度で2〜6時間で間完了させることを特徴とする。
【0013】さらに本発明は、導電性および赤外反射性のフッ素をドープした酸化錫層をガラス、ガラスセラミックおよび/またはほうろう表面に製造するための薬剤に関し、該薬剤は前記式:Sn1a2b3cの錫化合物または該化合物の混合物を極性有機溶剤に溶解して含有し、その際前記混合物は平均的一般式:Sn1x2y3zに相応し、該式中xは1〜2の数値、yは0.1〜2.9の数値およびzは0.1〜2.9の数値でありかつその和はx+y+z=4であることを特徴とする。
【0014】有利には該薬剤は、xが1の数値、yが0.5〜2.0の数値およびzが0.5〜2.0の数値でその和がx+y+z=4である前記錫化合物の混合物を含有する。
【0015】この場合、本発明によれば概念“混合物”とは、本発明による化合物の製造の際そのモル比に相応して新規の本発明による化合物の単に唯一の化学種だけでなく、本発明による新規の化合物の2種以上の混合物が本発明による薬剤に含有されているものと解すべきである。そうすれば、指数x、yおよびzはアルキル基、アセテート基およびトリフルオロアセテート基の平均値を示し、従って分数を採ることができる。
【0016】本発明による化合物は、本発明による薬剤では極性有機溶剤に溶解している。その際該本発明による薬剤は、極性有機溶剤として1〜4個の炭素原子を有する脂肪族アルコールまたは2〜8個の炭素原子を有するケトンを含有する。特に有利な溶剤はエタノール、イソプロパノールおよびアセトンである。
【0017】本発明による薬剤は、有利には1種以上の本発明による錫化合物(類)40〜60重量%および有機溶剤60〜40重量%を含有する。
【0018】所望の導電性および赤外反射層を形成させるためには、本発明による薬剤を常法でスプレー噴霧法で圧縮空気を使用してスプレーガンで400〜800℃に加熱したガラス、ガラスセラミックまたはほうろう表面にスプレーする。熱分解によりこの表面上にフッ素をドープした酸化錫層が製造される。この被覆層の厚さは100nmと2μmの間に変化させることができる。本発明による方法で製造された層は高い透明度で優れている。2.5〜15μmの波長領域での積分赤外反射率は80%以上である。
【0019】以下の例で本製造および適用法を詳細に説明する。
【0020】
【実施例】
例 1KPG撹拌機を装備した1 l多口フラスコにジブチル錫オキシド248.9gを秤り取った。緩慢に撹拌しながら無水酢酸51.1gおよび無水トリフルオロ酢酸105gを滴加した(x=2、y=1、z=1)。該反応は強い発熱性で、その際その反応温度が90℃を越えないように注意すべきである。滴加終了後、後反応させるためになおさらに80〜90℃に4時間加温した。
【0021】このようにして得られた、殆ど透明な生成物を若干の濾過助剤および活性炭と混ぜ合せ、AF−2000フィルタープレートを介しフィルタープレスで濾過した。
【0022】該透明な生成物を50%のエタノール溶液として、前もって5分間約700℃の炉温で加熱した平面ガラス板(160mm×180mm×6mm)に吹付けた。該被覆したガラス板は7mlのスプレー量の際は次の値を示した。
【0023】面積抵抗 11Ω/□IR反射率 87%被覆厚 750nm例 2KPG撹拌機を装備した250ml−多口フラスコにジブチル錫オキシド149.4gを秤り取った。緩慢に撹拌しながら、無水酢酸21.5gおよび無水トリフルオロ酢酸84.0gを滴加した(x=2、y=1.3、z=0.7)。この反応は激しい発熱性で、その際反応温度が90℃を越えないよう注意すべきである。滴加終了後、後反応のためになおさらに80〜90℃に4時間加温した。こうして得られた、殆ど透明な生成物を若干の濾過助剤および活性炭と混ぜ合せ、AF−2000フィルタープレートを介しフィルタープレスで濾過した。該透明の生成物を50%のエタノール溶液として、前もって5分間約700℃の炉温で加熱した平面ガラス板(160mm×180mm×6mm)に吹付けた。
【0024】該被覆したガラス板は7mlのスプレー量の際は以下の値を示した。
【0025】面積抵抗 26Ω/□IR反射率 75%被覆厚 1130nm例 3KPG撹拌機を装備した250ml多口フラスコにジブチル錫オキシド149.4gを秤り取った。緩慢に撹拌しながら無水酢酸40.8gおよび無水トリフルオロ酢酸42.0gを滴加した(x=2、y=0.7、z=1.3)。この反応は激しい発熱性で、その際、反応温度が90℃を越えないよう注意すべきである。滴加終了後、後反応のためになおさらに80〜90℃に4時間加温した。
【0026】こうして得られた、殆ど透明の生成物を若干の濾過助剤および活性炭と混ぜ合せ、AF−2000フィルタープレートを介してフィルタープレスで濾過した。
【0027】該透明の生成物を50%のエタノール溶液として、前もって5分間約700℃の炉温で加熱した、平面ガラス(160mm×180mm×6mm)に吹き付けた。
【0028】該被覆したガラス板は10mlのスプレー量の際は以下の値を示した。
【0029】面積抵抗 53Ω/□IR反射率 60%被覆厚 1100nm例 4KPG撹拌機を装備した250ml多口フラスコにモノブチル錫オキシド104.4gを秤り取った。緩慢に撹拌しながら無水酢酸40.3gおよび無水トリフルオロ酢酸78.8gを滴加した(x=1、y=1.5、z=1.5)。この反応は激しい発熱性で、その際、反応温度が90℃を越えないよう注意すべきである。滴加終了後、後反応のためになおさらに80〜90℃に4時間加温した。
【0030】こうして得られた、殆ど透明の生成物を若干の濾過助剤および活性炭と混ぜ合せ、AF−2000フィルタープレートを介してフィルタープレスで濾過した。
【0031】該透明の生成物を50%のエタノール溶液として、前もって5分間約700℃の炉温で加熱した平面ガラス(160mm×180mm×6mm)に吹き付けた。
【0032】該被覆したガラス板は7mlのスプレー量の際は以下の値を示した。
【0033】面積抵抗 79Ω/□IR反射率 51%被覆厚 840nm例 5KPG撹拌機を装備した250ml多口フラスコにモノブチル錫オキシド104.4gを秤り取った。緩慢な撹拌をしながら、無水酢酸26.9gおよび無水トリフルオロ酢酸105.0gを滴加した(x=1、y=1、z=2)。この反応は激しい発熱性で、その際、反応温度が90℃を越えないよう注意すべきである。滴加終了後、後反応のためになおさらに80〜90℃に4時間加温した。
【0034】こうして得られた、殆ど透明の生成物を若干の濾過助剤および活性炭と混ぜ合せ、AF−2000フィルタープレートを介してフィルタープレスで濾過した。
【0035】該透明の生成物を50%のイソプロパノール溶液として、前もって5分間約700℃の濾温で加熱した平面ガラス板(160mm×180mm×6m)に吹付けた。
【0036】該被覆したガラス板は7mlのスプレー量の際は以下の値を示した。
【0037】面積抵抗 75Ω/□IR反射率 50%被覆厚 840nm例 6KPG撹拌機を装備した250ml多口フラスコにモノブチル錫オキシド104.4gを秤り取った。緩慢な撹拌をしながら無水酢酸53.7gおよび無水トリフルオロ酢酸52.5gを滴加した(x=1、y=2、z=1)。本反応は激しい発熱性で、その際、反応温度が90℃を越えないよう注意すべきである。滴加終了の後、後反応のためになおさらに80〜90℃に4時間加温度した。
【0038】こうして得られた、殆ど透明の生成物を若干の濾過助剤および活性炭と混ぜ合せ、AF−2000フィルタープレートを介してフィルタープレスで濾過した。
【0039】該透明の生成物を70%のアセトンの溶液として、前もって5分間約700℃の濾温で加熱した平板ガラス板(160mm×180mm×6mm)に吹付けた。
【0040】該被覆したガラス板は5mlのスプレー量の際は以下の値を示した。
【0041】面積抵抗 87Ω/□IR反射率 49%被覆厚 1100nm

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式:Sn1a2b3c[式中、R1は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、R2はアセテート基、R3はトリフルオロアセテート基であり、かつaは1または2の値、bは1または2の値、cは1または2の値を持ち、但しその和a+b+c=4である]で示されるアルキル錫化合物。
【請求項2】 請求項1記載のアルキル錫化合物またはその混合物の製造方法において、常法でアルキル錫オキシドに無水酢酸および無水トリフルオロ酢酸を所望のモル比で冷却しながら、反応温度が90℃を越えないように添加し、かつ反応体の添加終了後該反応を約80〜90℃の温度で2〜6時間で完了させることを特徴とする、アルキル錫化合物の製造方法。
【請求項3】 前記式:Sn1a2b3cの錫化合物または該錫化合物の混合物を極性有機溶剤に溶解して含有し、その際前記混合物は一般式:Sn1x2y3zに相応し、該式中xは1〜2の数値、yは0.1〜2.9の数値をzは0.1〜2.9の数値でありかつその和x+y+z=4であることを特徴とする、導電性および赤外反射性のフッ素ドープした酸化錫層をガラス、ガラスセラミックおよびほうろう表面に製造するための薬剤。
【請求項4】 xが1の数値、yが0.5〜2.0の数値、Zが0.5〜2.0の数値でありかつその和x+y+z=4である前記錫化合物の混合物を含有する請求項3記載の薬剤。
【請求項5】 極性有機溶剤として1〜4個の炭素原子を有する脂肪族アルコールまたは2〜8個の炭素原子を有するケトンを含有する請求項3または4記載の薬剤。
【請求項6】 前記錫化合物または該錫化合物の混合物40〜60重量%および有機溶剤60〜40重量%を含有する請求項3から5までのいずれか1項記載の薬剤。

【特許番号】第2524096号
【登録日】平成8年(1996)5月31日
【発行日】平成8年(1996)8月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−177015
【出願日】平成6年(1994)7月28日
【公開番号】特開平7−70154
【公開日】平成7年(1995)3月14日
【出願人】(390009368)テー ハー ゴルトシユミツト アクチエンゲゼルシヤフト (6)
【氏名又は名称原語表記】TH.GOLDSCHMIDT AG
【参考文献】
【文献】特開昭48−38319(JP,A)
【文献】特開昭62−70247(JP,A)
【文献】特開平2−500974(JP,A)
【文献】米国特許5043186(US,A)
【文献】米国特許5085805(US,A)