説明

アルギン酸又はその塩の精製方法

【課題】水溶性有機溶媒の含有量が低減された低分子化アルギン酸(塩)の精製方法の提供。
【解決手段】重量平均分子量5,000〜350,000のアルギン酸又はその塩を含有する水溶液を、pH9〜12に調整し、10〜80℃の条件で処理する、該アルギン酸又はその塩の精製方法。その際、水溶性有機溶媒で沈澱させる工程を含む製造方法で得られた重量平均分子量5,000〜350,000のアルギン酸又はその塩を含有する水溶液を使用しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子化アルギン酸又はその塩の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギン酸は、コンブ、ワカメ、ヒジキ等の褐藻類に含まれ、D−マンヌロン酸及びL−グルロン酸を構成単位とする、天然の酸性多糖類である。アルギン酸は、増粘剤、ゲル化剤として、食品、染料、歯科材料、化粧品などに使用されている。また、アルギン酸は種々の優れた生理活性機能を有することが知られ、その効果が期待されている。しかし、天然物から抽出したアルギン酸は、水に溶解すると高粘性を示すため、飲食品、医薬品等の素材としての利用が制限されている。
【0003】
そこで、アルギン酸を低分子化することにより、水溶液の粘度を低下させ、飲食品や医薬品の素材としての用途を拡大する試みがなされている。
【0004】
アルギン酸の低分子化方法としては、例えば、酸(特許文献1)、アルカリ(特許文献2)、加圧(特許文献3)、又は酵素を用いてアルギン酸又はその塩(以下、アルギン酸(塩)とも記載する)を加水分解する方法が知られている。
また、特許文献1によれば、分解物をいったん水に溶解した後に、メタノール等の水溶性有機溶媒中で再沈澱することによりアルギン酸分解物の精製物が得られることが開示されている。
【特許文献1】特開平11−80204号公報
【特許文献2】特開2000−93125号公報
【特許文献3】特開平6−7093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、低分子化アルギン酸(塩)の製造の際には、低分子化アルギン酸(塩)を析出させるために水溶性有機溶媒中で再沈澱を行うことがある。その結果、得られる低分子化アルギン酸(塩)には微量の水溶性有機溶媒が残留することがある。また、低分子化アルギン酸(塩)に凍結乾燥等による水溶性有機溶媒の除去操作を行っても、低分子化アルギン酸(塩)を配合した組成物において水溶性有機溶媒が微量検出されることがある。これは低分子化アルギン酸(塩)と水溶性有機溶媒がなんらかの結合をしているためではないかと推定される。検出される水溶性有機溶媒の量は微量であり、人体には影響のないレベルの量である。しかしながら、より高純度の低分子化アルギン酸(塩)が求められている。
【0006】
すなわち、本発明は、水溶性有機溶媒の含有量が低減された低分子化アルギン酸(塩)の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定のpH条件において低分子化アルギン酸(塩)水溶液を処理することにより、処理前と処理後のアルギン酸(塩)の風味や色の変化を抑制しながら、低分子化アルギン酸(塩)中の水溶性有機溶媒を低減する方法を見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、重量平均分子量5,000〜350,000のアルギン酸(塩)を含有する水溶液を、pH9〜12に調整し、10〜80℃の条件で処理する、該アルギン酸(塩)の精製方法、及び水溶性有機溶媒の含有量が20mg/kg以下である該アルギン酸(塩)を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によれば、低分子化アルギン酸(塩)の風味や色の変化を抑制しながら、水溶性有機溶媒含有量を低減させた低分子化アルギン酸(塩)が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用する原料のアルギン酸(塩)は、低分子化アルギン酸(塩)、すなわち重量平均分子量5,000〜350,000のアルギン酸(塩)である。ここで、アルギン酸(塩)を構成するβ−D−マンヌロン酸とα−L−グルロン酸の割合や配列順序は特に制限されない。したがって、β−D−マンヌロン酸のみからなるブロック、α−L−グルロン酸のみからなるブロック、両者が混合しているブロックの全てを有するアルギン酸(塩)を使用してもよいし、そのいずれか1種又は2種からなるアルギン酸(塩)を使用してもよい。より好ましいアルギン酸(塩)の重量平均分子量は粘度が低く、飲食品への配合性等が良好な点から、10,000〜100,000である。
【0011】
本発明に使用する重量平均分子量が5,000〜350,000のアルギン酸(塩)は、公知の方法で得ることができ、その方法は特に限定されない。例えば天然物由来のアルギン酸(塩)を酸性条件にて加水分解し、その後、メタノール等の水溶性有機溶媒を添加することによりゲル化させ、計算量の炭酸カリウム又は水酸化カリウム(アルギン酸ナトリウムの場合は炭酸ナトリウム又は水酸化ナトリウム)を加えて中和した後、圧搾してメタノールを除去し、乾燥、粉砕して得ることができる。
【0012】
本発明の精製方法は、低分子化処理後、沈澱の際に水溶性有機溶媒を用いて製造された低分子化アルギン酸(塩)に対して適用するのが好ましい。ここで、水溶性有機溶媒とは、20℃において水と任意の割合で溶解する有機溶媒を指し、具体的には、低級アルコール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。
【0013】
本発明の精製方法は、水溶性有機溶媒を21mg/kg以上、特に22mg/kg以上含有する低分子化アルギン酸(塩)に対して適用するのが好ましい。
【0014】
低分子化アルギン酸(塩)の処理は、水溶液において行う。その濃度は特に限定されないが、1〜50重量%、さらに2〜20重量%、特に5〜15重量%とするのが、水溶性有機溶媒を効率的に減少させる点から好ましい。
【0015】
本発明方法においては、低分子化アルギン酸(塩)含有水溶液をpH9〜12かつ10〜80℃の条件で処理する。pHは9〜12の範囲であるが、より好ましくはpH10〜11である。pHを9以上にすることにより、短時間の処理で水溶性有機溶媒が効果的に減少する。またpH12以下にすることにより、風味評価を行った際に、苦味なども感じない食品として好ましい特性を有する低分子化アルギン酸(塩)を得ることができる。
pHの調整は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩等を用いることができるが、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムが好ましい。
【0016】
処理温度は、10〜80℃であり、15〜70℃以下が好ましく、20〜60℃以下がより好ましい。水溶性有機溶媒の除去という観点からは高温が望ましいが、処理後の低分子化アルギン酸(塩)の着色という観点からは、加熱温度は低い方が好ましい。
【0017】
処理時間は、水溶性有機溶媒の除去効果及び着色等の点から4時間以下が好ましく、10分〜4時間がより好ましく、20分〜3時間がさらに好ましく、30分〜2時間が特に好ましい。
【0018】
処理後は、塩酸等の酸により中和を行ってもよい。また、凍結乾燥機等により乾燥を行うことで粉末形態の低分子化アルギン酸(塩)を得ることができる。
【0019】
こうして得た精製された低分子化アルギン酸(塩)は、水溶性有機溶媒の含有率が未処理のアルギン酸(塩)と比べて減少する。例えば、メタノールが25mg/kg程度の未処理の低分子化アルギン酸(塩)が、本発明方法で精製することで、20mg/kg以下、さらには検出限界以下(検出限界:5mg/kg)にまで減少し、より高純度な低分子化アルギン酸(塩)を得ることができる。また、アルカリ処理にもかかわらず、未処理の低分子化アルギン酸(塩)と精製された低分子化アルギン酸(塩)では重量平均分子量、風味や色などのその他の物性に大きな影響を与えないで、低分子化アルギン酸(塩)としての機能を維持したままの低分子化アルギン酸(塩)を得ることができる。すなわち、重量平均分子量5,000〜350,000のアルギン酸(塩)を得ることができる。
【実施例】
【0020】
次に実施例を挙げて、本発明を説明する。
(水溶性有機溶媒含有量の測定方法)
1.前処理(ガスクロマトグラフィー(GC)用試験溶液の調製)
アルギン酸(塩)5gに水50mLを加え、約100℃で蒸留を行い、留液約20mLを得る。加熱は30〜40分程度で留出が完了するように調整する。水を加えて25mLに定容し、試験溶液を得る。
2.水溶性有機溶媒の定量
試験溶液をGCで定量する。なお、GC操作条件は以下の通りである。
(GC操作条件)
機種:GC−14B(株式会社島津製作所)
検出器:FID
カラム:Gaskuropack55,80〜100mesh,φ3.2mm×3.1m
温度:注入口及び検出器250℃,カラム130℃
ガス流量:ヘリウム(キャリヤーガス)150kPa,水素60kPa,空気50kPa
注入量:2μL
【0021】
(測色値の測定方法)
1.前処理(測色値測定用試験溶液の調整)
アルギン酸(塩)1gに蒸留水を加えて、1%アルギン酸(塩)溶液になるように調整し、試験溶液を得る。
2.測色値の測定
試験溶液を角セルにいれて、分光式色彩計でLabを測定する。L値は明るさを、a値は赤みを、b値は黄みを表す。溶液が着色すると、L値、b値ともに下がる。そのため、着色の指標としてはL値とb値の値を比較するのがよい。なお、条件は以下の通りである。
機種:SE2000(日本電色工業株式会社)
測定条件:透過測定
【0022】
(重量平均分子量の測定方法)
1.前処理(分析試料の作成)
アルギン酸(塩)を0.1g取り、蒸留水で0.1%溶液になるように定容して得られたものを分析試料とする。
2.分析試料を100μLをゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定する。GPC操作条件は以下の通りである。分子量算出用の検量線には、標準プルラン(Shodex STANDARD P−82(昭和電工株式会社)を用いる。これより、試料中のアルギン酸(塩)の重量平均分子量を測定する。
カラム:(1)Super AW−L(東ソー株式会社)
(2)TSK−GEL Super AW4000(東ソー株式会社)
TSK−GEL Super AW2500(東ソー株式会社)
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折計
移動相:0.2mol/L硝酸ナトリウム水溶液
流速:0.6mL/min
注入量:100μL
【0023】
(風味・食感の評価方法)
本発明の実施例及び比較例のアルギン酸(塩)を1g取り、蒸留水で1%溶液になるように定容したものを試飲サンプルとして、専門パネル1名が以下の判断基準に従い評価した。
風味:1苦塩味ほとんどなし、2苦塩味弱い、3苦塩味強い
食感:1粘度感ほとんどなし、2粘度感弱い、3粘度感強い
【0024】
(外観の評価方法)
本発明の実施例及び比較例のアルギン酸(塩)を1g取り、蒸留水で1%溶液になるように定容したものを、専門パネル1名が以下の判断基準に従い外観の評価した
外観:1良好、2許容範囲内、3着色あり
【0025】
調製例1 分子量32,000のアルギン酸カリウムの調製
アルギン酸カリウム(カリアルギンK−300:株式会社紀文フードケミファ)を出発原料として、酸性条件下で加温した後、メタノールに懸濁し、水酸化カリウムを加えて中和した後、メタノールを除去し、乾燥し、粉砕して分子量32,000のアルギン酸カリウム得た。
水溶性有機溶媒としてメタノールを25mg/kg含有するものであった。
【0026】
調製例2 分子量32万のアルギン酸カリウムの調製
調製例1と同様にして、分子量32万のアルギン酸カリウムを得た。
水溶性有機溶媒としてメタノールを22mg/kg含有するものであった。
【0027】
実施例1
分子量32,000のアルギン酸カリウム25gを水225gに溶解し、水酸化カリウム水溶液にてpHを9に調整した。18℃において60分間攪拌し、その後、塩酸を加えてpHが7になるよう調整し、凍結乾燥機により十分に乾燥して、精製アルギン酸カリウムを得た。
【0028】
実施例2〜8
実施例1と同様にして、但しpH、反応温度、及び反応時間を表のようにして、精製アルギン酸カリウムを得た。
【0029】
実施例9
実施例3と同様にして、但し、水酸化カリウムの変わりに水酸化ナトリウムを用いて、精製アルギン酸カリウムを得た。
【0030】
実施例10
実施例5と同様にして、但し、分子量32万のアルギン酸カリウムを用い、反応時間を60分として、精製アルギン酸カリウムを得た。
【0031】
比較例1〜4
実施例1と同様にして、但しpH、反応温度、及び反応時間を表のようにして、アルギン酸カリウムを処理した。
【0032】
得られたアルギン酸カリウム中のメタノール量、測色値、重量平均分子量、及び官能評価(風味、食感、及び外観)を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、水溶性有機溶媒を22mg/kg以上含有する低分子化アルギン酸が、本発明の処理方法により、水溶性有機溶媒含有量が20mg/kg以下の高純度の低分子化アルギン酸(塩)になる。また、pHを13と高くしたり、処理温度を100℃と高くすると、得られる低分子化アルギン酸(塩)の風味や外観が悪化する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量5,000〜350,000のアルギン酸又はその塩を含有する水溶液を、pH9〜12に調整し、10〜80℃の条件で処理する、該アルギン酸又はその塩の精製方法。
【請求項2】
水溶性有機溶媒で沈澱させる工程を含む製造方法で得られた重量平均分子量5,000〜350,000のアルギン酸又はその塩を含有する水溶液を、pH9〜12に調整し、10〜80℃の条件で処理する、該アルギン酸又はその塩の精製方法。
【請求項3】
pH調整を水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムで行う、請求項1又は2記載の精製方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の精製方法により得られる、アルギン酸又はその塩。
【請求項5】
水溶性有機溶媒の含有量が20mg/kg以下である請求項4記載のアルギン酸又はその塩。
【請求項6】
メタノールの含有量が20mg/kg以下である請求項4記載のアルギン酸又はその塩。

【公開番号】特開2010−37469(P2010−37469A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203802(P2008−203802)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】