説明

アルコールの製造方法

【課題】 イオン交換樹脂を触媒としたオレフィンの水和反応を利用して、アルコールを生産性良く製造する方法を提供する。
【解決手段】 イオン交換樹脂を触媒とする固定床式反応器を使用して、オレフィンの水和反応によりアルコールを製造する方法において、該水和反応の前処理として、純水と充分に接触した状態のイオン交換樹脂に反応溶媒および/または該水和反応の生成物と同種のアルコールを接触させた後、オレフィンを供給し該水和反応を開始することを特徴とするアルコールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換樹脂を触媒としてオレフィンの水和反応によりアルコー
ルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換樹脂を触媒としてオレフィンの水和反応によりアルコールを製造する方法としては、例えば特許文献1〜6等にイソブチレンの水和反応による第3級ブチルアルコール(以下、TBAという。)の製造方法が記載されている。
【0003】
イソブチレンの水和反応では、原料であるイソブチレンと水の相互溶解性が低く、反応液が有機相と水相の二相を形成するため、一般に反応速度が遅い。そこで反応溶媒を工夫して反応液を均一にすることにより反応速度を向上させる方法が提案されている。このような溶媒を工夫した方法としては、例えば特許文献2、特許文献3、特許文献6、および特許文献7ではアルコールを用いる方法、特許文献4では極性溶媒を用いる方法、特許文献1では有機酸を用いる方法、特許文献5ではグライコールを用いる方法等が挙げられる。
【0004】
オレフィンの水和反応の触媒として使用されるイオン交換樹脂は、強度の問題から通常は水で湿潤した状態で取り扱われ、その際の含水率は通常45〜65重量%である。イオン交換樹脂と水に関して、特許文献2および特許文献3では、使用するイオン交換樹脂は初めに水で充分膨潤させてから水和反応に使用することが好ましいと記載されており、その効果としてイソブチレン重合体の副生が抑制されること、および触媒の活性劣化が大幅に改善されることを挙げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭60−051451号公報
【特許文献2】特開昭55−085529号公報
【特許文献3】特開昭55−108825号公報
【特許文献4】特開昭56−034643号公報
【特許文献5】特開昭56−087526号公報
【特許文献6】特公平03−042250号公報
【特許文献7】特開昭56−010124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、オレフィンの水和によるアルコールの製造に水で湿潤させたイオン交換樹脂を触媒として使用すると、回分操作および連続操作の何れの場合も所定の転化率が得られるまでに長時間を要するので生産性が低いという問題があった。
【0007】
従って本発明の目的は、イオン交換樹脂を触媒としてオレフィンの水和反応によりアルコールを生産性良く製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、イオン交換樹脂を触媒とする固定床式反応器を使用して、オレフィンの水和反応によりアルコールを製造する方法において、該水和反応の前処理として、純水と充分に接触した状態のイオン交換樹脂に反応溶媒および/または該水和反応の生成物と同種のアルコールを接触させた後、オレフィンを供給し該水和反応を開始することを特徴とするアルコールの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、オレフィンの水和によりアルコールを製造する場合、生産性良くアルコールを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、オレフィンの水和反応によりアルコールを製造する方法としては、例えばイソブチレンからTBAを製造する方法、ノルマルブテンから第2級ブチルアルコールを製造する方法等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0011】
本発明で触媒として使用するイオン交換樹脂としては、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体を骨格とする多孔性の強酸性型陽イオン交換樹脂が好ましい。特に、80℃で7時間真空乾燥させたものをBET法により窒素を用いて測定した表面積が10〜100m/g、「化学と工業」第21巻第11号1465(1968)記載の方法に従って測定した細孔容積が0.1〜1.0ml/g、JIS Z 8801−1981(標準網ふるい)のふるいを用いて測定した粒径が0.1〜2mm、見掛け密度が水銀圧入法により測定した値で500〜1000g/l、触媒乾燥粒子1g当たりのスルホン酸基のミリグラム当量を表した交換容量が1.0meq/g以上、架橋剤であるジビニルベンゼンの添加量を単量体スチレンに対する質量比で表した架橋度が8〜18%の強酸性型陽イオン交換樹脂が好ましい。このような強酸性型陽イオン交換樹脂としては、例えばバイエル社製の「レバチット」(商品名)やローム・アンド・ハース社製の「アンバーリスト」(商品名)等が挙げられる。
【0012】
本発明では、イオン交換樹脂を水和反応に使用する前に反応溶媒および/または生成物と同種のアルコール(以下、前処理剤という。)と接触させる(以下、前処理という。)。この際、前処理剤は水溶液で使用することが好ましい。また、イオン交換樹脂の細孔内に存在する不純物を除去するためには、前処理の前にイオン交換樹脂と純水を充分接触させておくことが好ましい。
【0013】
イオン交換樹脂を前処理する方法としては、例えばイオン交換樹脂を前処理剤に浸す方法、イオン交換樹脂を充填した反応器等に前処理剤を通液する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に、水和反応を実施する反応器内で前処理を行うことは、前処理から反応までの一連の操作を単純化できるので好ましい。
【0014】
通常、前処理は20〜70℃の温度範囲で、その温度において前処理剤が気化しない圧力で実施する。
【0015】
本発明では、触媒としてこのように前処理されたイオン交換樹脂を使用してオレフィンの水和反応によりアルコールを製造する。ここで原料のオレフィンとしては、例えばイソブチレンおよびノルマルブテン等が挙げられる。オレフィンとしてイソブチレンを用いる場合、イソブチレン源としてはイソブチレン単独およびイソブチレン含有炭化水素からなる液化ガス(以下、液化ガスという。)等を使用することができる。イソブチレン含有炭化水素としては、例えばイソブチレンを含むブテン類、ブタン類等の混合物等が挙げられる。このようなイソブチレン源として、工業的には石油類の熱分解、水蒸気分解、接触分解等により得られるC4炭化水素混合物が用いられるが、これからブタジエンを分離除去したものが好ましい。このような工業的に入手できるイソブチレン含有炭化水素は通常80重量%以下のイソブチレンの濃度であるが、本発明では入手が容易な15〜50重量%のイソブチレン含有炭化水素が好ましい。
【0016】
本発明において、水和反応は回分操作でも連続操作でも実施できる。この際に用いる反応器の構造形式は、管型、塔型等の固液接触が可能なものであればよく、その構造形式は特に限定されない(以下、固定床式反応器という)。また、反応器は1基でも2基以上連結したものでもよい。このような反応器としては、例えば連続流通方式の固定床式反応器を直列多段に配置したもの等が挙げられる。
【0017】
本発明において、水和反応で用いる反応溶媒としては、有機酸、スルホン、スルホランおよびスルホレン等の極性溶媒、炭素数1〜8の脂肪族アルコール、グライコール等が使用できる。また、反応溶媒として生成物のアルコールを使用してもよく、この場合は別途用意したアルコールでもよいが、本発明の水和反応で生成したアルコールを利用することが簡便である。
【0018】
直列多段反応器を用いる場合、第一反応器へ生成物であるアルコールを溶媒として加えることは、第二反応器以降の反応器における断熱温度上昇を抑制する効果があるので好ましい。また直列多段反応器では、第一反応器の出口反応物の一部を第一反応器の入口部へ循環することにより第一反応器で生成したアルコールの一部を溶媒として利用することができる。第一反応器の出口反応物の一部を第一反応器の入口部へ循環する際の循環比は次式のように定義される。
循環比=(循環量)/(原料供給量+TBA供給量+循環量)
ここで、循環量とは単位時間当たりの第一反応器の出口反応物の循環量、原料供給量とは単位時間当たりのイソブチレンまたはイソブチレン含有炭化水素および水の供給量、TBA供給量とは単位時間当たりの外部から新たに加えられるTBA供給量であり循環液に含まれるTBAは含まない。これらは全て重量基準である。
【0019】
イソブチレンからTBAを製造する場合、上記の循環比は、1.8〜10が好ましく、特に2〜5が好ましい。このような循環比を採用することにより、外部から新たに加えるTBAが少量またはゼロであっても、第一反応器の入口部の反応液を均一に近づけることができる。また、第一反応器の出口反応物を循環させることは、発熱反応である水和反応による第一反応器の断熱温度上昇を抑える効果があるので好ましい。
【0020】
さらに、直列多段反応器を用いてイソブチレンからTBAを製造する場合、本第一反応器の入口部における液化ガスに対するTBAの重量比は0.5〜3.5が好ましく、特に0.8〜3が好ましい。このような重量比になるように循環比や外部から新たに加えるTBAの量を調節すると、反応液が不均一であっても工業的に十分満足のできる反応速度が得られる。第一反応器の入口部における液化ガスに対するTBAの重量比は、第一反応器を循環せずに外部から新たに加えるTBAだけでも好ましい範囲に調整することができるが、イソブチレンと水の水和反応によるTBA合成反応は平衡反応であり、生成物であるTBAを外部より多量に反応系へ添加することは平衡上問題がある。
【0021】
本発明において、水和反応の反応温度は、使用する原料の種類や量、溶媒、反応器の形式等の条件により異なるので一概に言えないが、例えば直列多段反応器を用いてイソブチレンからTBAを製造する場合、全ての反応器の反応温度は通常65℃以下で行うことが好ましい。なお、反応温度とは反応器内の一番温度の高い部分の温度を指すものとする。
【0022】
本発明において、水和反応の反応圧力は、その反応温度において原料であるオレフィンおよび水が液状を呈する圧力が採用され、この圧力は通常200〜5000kPaである。
【0023】
本発明によれば、前処理を施したイオン交換樹脂を使用してオレフィンの水和反応によりアルコールを製造すると、前処理を行わない場合と比較して、短い時間で所定の転化率が得られる。このような効果が得られる理由を、本発明者らは次のように推定している。すなわち、前処理においてイオン交換樹脂の細孔内部では、予め存在していた水の一部または全部が相互拡散作用により前処理剤と置換される。その結果、原料であるオレフィンと細孔内部の液との相互溶解性が向上し、イオン交換樹脂の細孔内部にある活性点へのオレフィンの拡散が容易になるものと推定している。
【実施例】
【0024】
以下に本発明を実施例および比較例を用いて説明する。なお、原料のイソブチレン含有炭化水素、水、および生成したTBA、並びに不純物であるイソブチレン2量体、第2級ブチルアルコール等の定量分析にはキャピラリーカラムを装着したガスクロマトグラフィーを使用した。
【0025】
イソブチレンのTBAへの転化率(以下、単に転化率という。)は次式により算出した。
転化率(%)=(A−B)/A
ここで、反応を回分操作で実施した実施例1および比較例1において、Aは反応前に反応系内に仕込んだイソブチレンのモル数、Bは反応後に反応系内に残存していたイソブチレンのモル数を表す。また、反応を連続操作で実施した実施例2、実施例3および比較例2において、Aは反応系内に供給したイソブチレンのモル数、Bは反応系内から排出されたイソブチレンのモル数を表す。
【0026】
また、各化合物の生成速度(g/h)とは、1時間当たりの当該化合物のg単位の平均生成量をいう。
【0027】
[実施例1]
図1に示した反応装置を用いてイソブチレンの水和反応によるTBAの製造を行った。反応器3は内径40mm、内容積400mlの円筒型反応器である。反応器3にはジャケットが備えられており、所定の反応温度になるように熱媒を循環させることができる構造となっている。
【0028】
反応器3にはローム・アンド・ハース社製の強酸性型イオン交換樹脂「アンバーリスト15WET」(商品名)を350mlを充填し、水和反応を実施する前に、30℃の純水1750mlを反応器に通液してイオン交換樹脂を洗浄した。さらに30℃の40重量%TBA水溶液1750mlを通液した。通液後のイオン交換樹脂に含まれるTBA水溶液の濃度は20重量%であった。
【0029】
次に、予め原料タンク1に仕込んでおいた表1に示した組成のイソブチレン含有炭化水素480g、水231gおよびTBA316gからなる反応液を、反応器内空塔基準の線速度が10mm/sで反応器3に供給し、反応温度65℃、反応圧力1160kPaで反応を行った。反応開始5時間後のイソブチレン転化率は65%で、このときのTBAの生成量は198gであった。
【0030】
【表1】

【0031】
[比較例1]
水和反応を実施する前のイオン交換樹脂にTBA水溶液を通液しなかった以外は実施例1と同様にしてTBAの製造を行ったところ、反応開始5時間後のイソブチレン転化率は35%で、このときのTBAの生成量は105.5gであった。
【0032】
[実施例2]
図2に示した反応装置を用いてイソブチレンの水和反応によるTBAの製造を行った。各反応器は直径52.7mm、内容積12Lの円筒型反応器であり、この反応器3基を直列に並べ使用した。
各反応器にはバイエル社製の強酸性型陽イオン交換樹脂「K−2621」(商品名)を12L充填し、純水をLHSV=1h−1で2時間通液して洗浄した。この操作と同時に、反応器の温度を室温から反応温度に昇温する操作を開始した。
純水の通液に続いて、86.5重量%のTBA水溶液をLHSV=1h−1で4時間通液した。通液後のイオン交換樹脂に含まれるTBA水溶液の濃度は20重量%であった。
【0033】
続いて、表2に示した組成のイソブチレン含有炭化水素を2.8kg/h、水を0.6kg/hで第一反応器4に供給し、第一反応器4から第三反応器10の反応温度をそれぞれ59℃、62℃、59℃として反応を行った。また、反応生成物であるTBAを第一反応器4へ添加して第一反応器4の入口部における液化ガスに対するTBAの重量比を0.8、第一反応器4の出口反応物の一部を第一反応器4へ循環する際の循環比を3.2とした。
【0034】
反応開始8時間後の転化率は84.4%で、このときのTBAの生成速度は1403g/h、イソブチレン2量体の生成速度は0.2g/h、第2級ブチルアルコールの生成速度は0.6g/hであり、イソブチレン2量体や第2級ブチルアルコールの生成量はきわめて少なかった。
【0035】
【表2】

【0036】
[比較例2]
水和反応を実施する前のイオン交換樹脂に純水で洗浄する時間を6時間とし、TBA水溶液の通液を行わなかったこと以外は実施例2と同様にしてTBAの製造を行ったところ、反応開始8時間後の転化率は75%で、このときのTBAの生成速度は1247g/h、イソブチレン2量体の生成速度は0.2g/h、第2級ブチルアルコールの生成速度は0.4g/hであり、転化率およびイソブチレン生成速度が低く生産性が悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を回分操作で実施する際に用いられる反応装置の一例
【図2】本発明を連続操作で実施する際に用いられる反応装置の一例
【符号の説明】
【0038】
1 原料タンク
2 循環ポンプ
3 反応器
4 第一反応器
5 ポンプ
6 熱交換器
7 熱交換器
8 第二反応器
9 熱交換器
10 第三反応器
11 オレフィン源供給管
12 水供給管
13 溶媒供給管
14 第一反応器入口
15 第一反応器出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂を触媒とする固定床式反応器を使用して、オレフィンの水和反応によりアルコールを製造する方法において、該水和反応の前処理として、純水と充分に接触した状態のイオン交換樹脂に反応溶媒および/または該水和反応の生成物と同種のアルコールを接触させた後、オレフィンを供給し該水和反応を開始することを特徴とするアルコールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−43122(P2010−43122A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261007(P2009−261007)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【分割の表示】特願平10−370505の分割
【原出願日】平成10年12月25日(1998.12.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】