説明

アルコール性カーボンブラック分散体とその製造方法

【課題】速乾性に優れたアルコール系分散媒中で優れた分散性能を有し、高速機に対応したインクジェットプリンター用黒色インクとして好適に使用されるアルコール性カーボンブラック分散体とその製造方法を提供すること。
【解決手段】カーボンブラック表面のカルボキシル基がオキシラン環の開環反応によりヒドロキシエステル化して化学修飾され、該カーボンブラックを、主成分としてアルコール性水酸基を有するアルコール性媒体中に分散してなることを特徴とするアルコール性カーボンブラック分散体。その製造方法は酸化処理したカーボンブラックとオキシラン系化合物を反応溶媒中で、触媒の存在下に還流してオキシラン環を開環反応させることにより、カーボンブラック表面のカルボキシル基をヒドロキシエステル化して化学修飾し、該カーボンブラックを、主成分としてアルコール性水酸基を有するアルコール性媒体中に分散することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットプリンターをはじめとする黒色インクなどに使用され、特に、印字速度の高速化に対応した高速機に用いられるアルコール系溶媒を主成分とする分散媒中において、分散安定性に優れたアルコール性カーボンブラック分散体とその製造方法に関する。
【0002】
更に、本発明のアルコール性カーボンブラック分散体は樹脂組成物、被覆組成物、インク、感熱転写インク、感熱転写用インクリボンコート剤、種々の熱硬化性インク組成物などとしても有効に用いることができる。
【背景技術】
【0003】
インクジェットプリンターによる記録方法は、微細なノズルヘッドからインク液滴を吐出して、文字や図形を紙などの記録媒体の表面に記録する方法であり、ランニングコストも安く、記録媒体もほとんどの場合専用紙を必要としないため、オフィス、パーソナル、産業用など応用分野が拡大している。
【0004】
インクジェットプリンターで用いる記録用インクとしては耐水性や耐光性など画像信頼性の高い顔料系インクが染料に替わり多用されており、特にビジネス用途では文字を多用するケースが多く、カーボンブラック顔料に代表される水性黒色インクが好適に用いられている。
【0005】
しかし、カーボンブラックは疎水性で水に対する分散性が低く、水中に安定に高濃度で分散させることが困難である。そこで、カーボンブラックにさまざまな親水化技術を施す技術が提案されている。例えば、特許文献1にはカーボンブラックを次亜ハロゲン酸塩水溶液で酸化処理する方法が、特許文献2には水とカーボンブラックとを含有する水性顔料インクにおいて、該カーボンブラックが1.5mmol/g以上の表面活性水素含有量を有する水性顔料インクが開示されている。
【0006】
特許文献3には吸油量100ml/100g以下のカーボンブラックを水性媒体中に微分散する工程、及び次亜ハロゲン酸塩を用いて該カーボンブラックを酸化する工程を包含する水性顔料インクの製造方法が、特許文献4には次亜ハロゲン酸塩で酸化され、該酸化カーボンブラックの表面に存在する酸性基の少なくとも一部がアミン化合物と結合したアンモニウム塩となっている水性顔料インクが開示されている。
【0007】
また、有機ラジカルによってカーボンブラックを表面変性する方法も提案されており、例えば、特許文献5にはカーボンブラックからなる色材が水系媒体中に分散された記録用インクにおいて、構造式(A1−N=N−A2)に示すアゾ化合物からなるラジカル発生剤の分解によって発生した官能基が表面に化学結合されたカーボンブラックを色材として用いた記録用インクが提案されている。
【0008】
本出願人もカーボンブラックを液相酸化して生成したカルボキシル基に、ポリエチレンイミンの末端アミンを縮合重合させたカーボンブラックを黒色顔料として水中に分散させた水分散体は、水への分散性能および印字メディアへの付着性が改善され、印字物の耐水性も向上することを確認して、特許文献6として提案した。
【0009】
更に、特許文献7には塩基性官能基を有する有機色素誘導体または塩基性官能基を有するトリアジン誘導体をカーボンブラックに水中で吸着処理してカーボンブラックの水分散体を得る工程と、この水分散体をアルコールで希釈する工程とからなるカーボンブラックのアルコール分散液の製造方法が提案されている。
【特許文献1】特開昭48−018186号公報
【特許文献2】特開平08−003498号公報
【特許文献3】特開平08−319444号公報
【特許文献4】特開平09−286938号公報
【特許文献5】特開平11−323229号公報
【特許文献6】特開2005−255705
【特許文献7】特開2005−060512
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に、水性媒体は印字後に紙がカールし易いという欠点があり、専用紙を用いる方法ではランニングコストが上がる問題を生じる。更に、近年ではプリンターの印字速度の高速化が進み、印字後の画像の裏写り防止や耐擦過性を損なわないために定着性と速乾性が重要視され、またプリンターに関しては従来のシリアルヘッドより大幅に印字速度の速いラインヘッド方式への転換が増加する見込みであり、高速印字に対応するインクの開発が要望されている。
【0011】
すなわち、高速印字への対応のためには即乾性に優れたインクの開発が有効であり、カーボンブラックに代表される黒色顔料の揮発性有機溶剤への新たな分散技術の開発が必要となってきた。
【0012】
そこで、本発明者はこれらの状況に対処するために鋭意研究を進め、その結果本発明の開発に至ったもので、その目的は速乾性に優れたアルコール系分散媒中で優れた分散性能を有し、高速機に対応したインクジェットプリンター用黒色インクとして好適に使用される、アルコール性カーボンブラック分散体とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するための本発明によるアルコール性カーボンブラック分散体は、カーボンブラック表面のカルボキシル基が、オキシラン環の開環反応によりヒドロキシエステル化して化学修飾されたカーボンブラックが、主成分としてアルコール性水酸基を有するアルコール性媒体中に分散してなることを構成上の特徴とする。
【0014】
そして、化学修飾されたヒドロキシエステル化構造は、具体的には下記(1)〜(5)の構造式の少なくとも1つの構造式を有するものが好適である。但し、R1、R3はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基 、R2は水素、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基である。
【0015】
【化1】

【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
また、このアルコール性カーボンブラック分散体の製造方法は、酸化処理したカーボンブラックとオキシラン系化合物を反応溶媒中で、触媒の存在下に還流してオキシラン環を開環反応させることにより、カーボンブラック表面のカルボキシル基をヒドロキシエステル化して化学修飾し、該カーボンブラックを、主成分としてアルコール性水酸基を有するアルコール性媒体中に分散することを構成上の特徴とする。
【0021】
なお、前記触媒は下記一般式(6)で示されるハロゲン化第4級アンモニウム化合物が好適である。
【0022】
【化6】

但し、R1 ,R2 ,R3 およびR4は、全てが同一の低級アルキル基を表すか、またはその三つが同一の低級アルキル基を表し、かつ残りの一つがフェニル基またはベンジル基を表し、X-はハロゲンイオン、OH 、またはHSO4 を表す。
【発明の効果】
【0023】
本発明のアルコール性カーボンブラック分散体によれば、即乾性に優れ、高速機に対応したインクジェットプリンター用の黒色インクとして好適に使用されるアルコール性カーボンブラック分散体を提供することができる。
【0024】
また、その製造方法によれば酸化処理したカーボンブラック表面のカルボキシル基を、オキシシラン系化合物を触媒存在下に開環反応させてヒドロキシエステル化して化学修飾し、アルコール性水酸基を有するアルコール性媒体中に分散することにより、アルコール性媒体中で分散安定性に優れるカーボンブラック分散体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明で用いるカーボンブラックは、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなど何れも用いることができ、その種類に特に制限はない。
【0026】
なお、インクジェットプリンター用などのアルコール性黒色インクとして用いる場合には、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)およびDBP吸収量などのコロイダル特性がアルコール性媒体中への分散性能およびインク性能に大きく影響するため、カーボンブラック特性としては窒素吸着比表面積(N2SA)が100m/g以上、DBP吸収量が50cm/100g以上のものを用いることが好ましい。
【0027】
これらのカーボンブラックを具体的に例示すれば、トーカブラック#8500、トーカブラック#8500F、トーカブラック#7550SB、トーカブラック#7550F〔以上東海カーボン(株)製〕、#650、#750、MA600、#44B、#44、#45B、MA7、MA11、#47、#45、#33、#45L、#47、#50、#52、MA77、MA8〔以上三菱化学(株)製〕、FW200、FW2V、FWI、FW18PS、NIpex180IQ、FW1、Special Black6、S160、S170〔以上Degussa社製〕、Black Pearls 1000M、Black Pearls 800、Black Pearls 880、Monarch 1300、Monarch 700、Monarch 880、CRX 1444、Regal 330R、Regal 660R、Regal 660、Regal 415R、Regal 415、Black Pearls 4630、Monarch 4630〔以上Cabot社製〕、Raven 7000、Raven 3500、Raven 5250、Raven 5750、Raven 5000ULTRAII、HV 3396、Raven 1255、Raven 1250、Raven 1190、Raven 1000、Raven 1020、Raven 1035、Raven 1100ULTRA、Raven 1170、Raven 1200〔以上Columbian社製〕、DB1305〔以上KOSCO社製〕、SUNBLACK700、705、710、715、720、725、300、305、320、325、X25、X45〔以上旭カーボン(株)製〕、N220、N110、N234、N121〔以上Sid Richardson社製〕、ニテロン#300〔以上新日化カーボン(株)製〕、ショウブラックN134、N110、N220、N234、N219〔以上昭和キャボット社製〕などがあげられる。
【0028】
これらのカーボンブラックは、その表面にカルボキシル基を有していることが必要であり、カルボキシル基はオキシラン環の開環反応により、ヒドロキシエステル化して化学修飾される。
【0029】
この場合、カーボンブラック表面のカルボキシル基(COO−基)を介して、以下の構造式の少なくとも1つの構造式に化学修飾されたものが好ましい。
【0030】
(1)カーボンブラック(CB)表面のカルボキシル基(COO−基)が−CHCH(OH)−構造あるいは−CHCH(OH)−CH−O−構造と結合し、末端に水素、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基にて化学修飾されたもの(化1、化2)。
【0031】
(2)カーボンブラック(CB)表面のカルボキシル基(COO−基)が−C10OHにて修飾されたもの(化4)。
【0032】
(3)カーボンブラック(CB)表面のカルボキシル基(COO−基)が−C(OH)−構造あるいは−C(OH)−CH−O−構造と結合し、末端に水素、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基にて修飾されたもの(化3、化5)。
【0033】
本発明による表面修飾カーボンブラックは、前記した構造を有するものであるが、分散体中で自己分散性を有するためには、ヒドロシル基量が35〜150μmol/g、カルボキシル基に結合する分子数が200〜1000μmol/gの範囲にあることが好ましい。
【0034】
カルボキシル基に結合する分子構造は、溶媒が主成分としてアルコール性水酸基を有する化合物中において、溶媒との親和性、分散安定性 の向上に機能し、また、ヒドロシル基は、溶媒が主成分としてアルコール性水酸基を有する化合物中において、溶媒との親和性の向上に機能する。
【0035】
溶媒との親和性は分散媒の有する官能基と化学組成に由来する分子間力に主に影響され、本発明のカルボキシル基に結合する分子構造はオキシラン環の開環で生成するアルコール性水酸基が分散媒のアルコール性溶媒の分子間力との相互作用を促し、置換基構造の選択により種々のアルコール性媒体に適合した分散体を作製することが可能である。
【0036】
カーボンブラックの表面には、カルボキシル基とともにヒドロキシル基が存在するが、ヒドロキシル基はこれらの反応に関与しないため、このように化学修飾されたカーボンブラック表面の化学構造式を化7〜化11に例示した。但し、式中のCBはカーボンブラックを表し、R1、R3はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、R2は水素、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基である。
【0037】
【化7】

【0038】
【化8】

【0039】
【化9】

【0040】
【化10】

【0041】
【化11】

【0042】
本発明のアルコール性カーボンブラック分散体は、このように化学修飾されたカーボンブラックを、主成分としてアルコール性水酸基を有するアルコール性媒体中に分散してなるものであり、カーボンブラック濃度は1〜20wt%程度に調整する。
【0043】
本発明のアルコール性カーボンブラック分散体の分散媒に主成分として用いるアルコール性水酸基を有するアルコール性媒体は、分散媒全体の中に50〜100wt%の範囲(残りの0〜50wt%は副溶媒)として含まれるのが好ましい。アルコールの種類は汎用溶剤としての低級アルコール、高級アルコール、さらにグリコール系溶剤とそのモノエーテル系などを用いることができ、また、沸点の低いアルコールと沸点の高いアルコールを混合して使用してもよく、顔料の種類に応じた選択が可能である。
【0044】
アルコール性水酸基を有するアルコール性媒体の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、3−ペンタノール、tert−アミルアルコール、n−ヘキサノール、メチルアミルアルコール、2−エチルブタノール、n−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、n−オクタノール、2−オクタノール、2−エチルヘキサノール、3,5,5−トリメチルヘキサノール、ノナノール、n−デカノール、ウンデカノール、トリメチルノニルアルコール、テトラデカノール、ヘブタデカノール、シクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、やその他多種の高級アルコールなどが挙げられる。
【0045】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、イソペンチルジオール、トリエチレングリコール、3−メチル−1,3ブタンジオール、1,3プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコールが挙げられる。
【0046】
また、グリコール系のモノエーテル系溶媒としては、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチル工−テル、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールフュニルエーテル、プロピレングリコール−tert−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。
【0047】
また副成分の溶媒としてはモノエーテルアセテート系を主成分のアルコール系溶媒と併用してもよく、具体例としてエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどが挙げられる。
【0048】
このようにカーボンブラック表面のカルボキシル基がオキシラン環の開環反応によりヒドロキシエステル化した構造をとることにより、主成分としてアルコール性水酸基を有するアルコール性媒体中に安定に分散し、このアルコール性カーボンブラック分散体をインクジェットプリンターなどの黒色インクなどに使用した場合には、インクのレベリング性の維持、向上に機能する。
【0049】
レベリング性とは、吐出されたインク液滴が記録媒体上に着弾と同時に流動し、着弾した範囲において均一、平滑な画像を形成することをいい、インクジェット方式ではインクを記録媒体に乗せる過程において、重力以外、レベリングさせる応力が働かないため、均一な画像を得るには粘度調整、インク組成(レベリング剤等)の最適化が必要である。レベリング不良時(画像形成面に凹凸がある)には画像濃度ムラや光沢度低下の要因が重なり、画像濃度の低下につながることになる。
【0050】
このアルコール性カーボンブラック分散体は、酸化処理したカーボンブラックとオキシラン系化合物を反応溶媒中で、触媒の存在下に還流してオキシラン環を開環反応させることにより、カーボンブラック表面のカルボキシル基をヒドロキシエステル化して化学修飾し、該カーボンブラックを主成分としてアルコール性水酸基を有するアルコール性媒体中に分散することにより製造される。
【0051】
カーボンブラック表面にカルボキシル基を形成させるために酸化処理したカーボンブラックが用いられ、オゾン酸化、空気酸化による気相法、あるいは、過酸化水素水、硝酸、硫酸、塩素酸塩、過硫酸塩、過炭酸塩などの酸化剤の水溶液中にカーボンブラックを入れ攪拌反応させる液相法で酸化処理する。なお、気相法で酸化処理する場合は乾燥コストがかからず、操作も液相法に比べて容易である等の利点がある。
【0052】
液相法で酸化処理する場合は、例えば、下記の手順で行う。
カーボンブラックを適宜な濃度の酸化剤水溶液中に入れ、混合攪拌槽中で適宜な温度、例えば室温〜90℃の温度で十分に攪拌混合して水分散体(スラリー)を作製する。 また、スラリー中にカーボンブラックを均一に分散させるために界面活性剤を添加することもできる。
【0053】
スラリー中には大きな未分散塊や粗粒が存在する場合があり、精製時に膜の目詰まりによる歩留りの低下や、インク化したときにインクジェットプリンター用ノズルの目詰まりなどを防止するために遠心分離や濾過などの方法により分級除去する。
【0054】
また、酸化処理により生成した還元塩は、以降のグラフト反応を阻害する要因となり、またカーボンブラックの再擬集を抑制するために除去する。還元塩の除去は、例えば、限外濾過膜(UF)、逆浸透膜(RO)、電気透析膜などの分離膜を用いて行われる。
【0055】
酸化処理したカーボンブラックはオキシラン系化合物と反応溶媒中で触媒の存在下で還流して、オキシラン環を開環反応させることによりカーボンブラック表面のカルボキシル基をヒドロキシエステル化して化学修飾する。この反応を、化1の場合を例に化12に示した。但し、式中のCBはカーボンブラックを表し、R1はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基である。
【0056】
【化12】

【0057】
オキシラン系化合物は分子末端にオキシラン環を一つ持つ化合物であって、酸化処理カーボンブラック表面のカルボキシル基量を考慮して、カルボキシ基量(μmol/g)の0.5〜5.0倍の分子数の比率となるように設定することが好ましく、比率が0.5を下回る場合には分散不良となり、比率が5.0を上回る場合には副生成物による保存安定性の悪化が顕著となる。より好ましい範囲は、1.0〜2.5である。
【0058】
また、オキシラン化合物の分子量は、最大9000が好ましい。9000を上回る場合には、化合物自身又は分子間の立体障害により反応率が低下するという不具合がある。より好ましい範囲は、60〜5000である。
【0059】
オキシラン系化合物の具体例としては、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシオクタデカン;2,3−エポキシブタン、7,8−エポキシ−2−メチルオクタデカン、1−フェニルプロピレンオキシド、スチルベンオキシド、4−クロロスチルベンオキシド、2−4−ジクロロスチルベンオキシド、1−メトキシ−2−メチルプロピレンオキシド、クロロオキシラン、エピクロロヒドリン、クロロエチルオキシラン、ヘキサフルオロプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシサイド;1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテン;グリシドール(2,3-エポキシ-1-プロパノール)、2−メチルグリシドール、3−プロピルオキシランメタノール;メチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ピヴァロイルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、トリルグリシジルエーテル、キシリルグリシジルエーテル、ニトロフェニルグリシジルエーテル、クロロフェニルグリシジルエーテル、エチルフェニルグリシジルエーテル、tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル;4−メトキシカルボニルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、プロパルギルグリシジルエーテル、メトキシカルボニルオキシラン、ステアロキシカルボニルオキシラン、グリシジルアセタート、グリシジルステアラート、グリシジル2−エチルヘキサナート、グリシジル2,2−ジメチルプロパナート、グリシジルベンゾエート、グリシジルメチルベンゾエート、グリシジルニトロベンゾエート、グリシジルクロロベンゾエート、グリシジルエチルベンゾエート、グリシジルtert−ブチルベンゾエート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、スチレンオキシド、トリルオキシラン、キシリルオキシラン、ニトロフェニルオキシラン、クロロフェニルオキシラン、エチルフェニルオキシラン、tert−ブチルフェニルオキシラン、4−メトキシカルボニルフェニルオキシラン、ベンジルオキシラン、フルフリルオキシラン、シクロヘキセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロオクテンオキシド、シクロドデカンエポキサイド、アルファピネンオキシド、エキソ−2,3,−エポキシノルボルネン、リモネンオキシド;等が挙げられる。
【0060】
また、反応溶媒としては非プロトン系溶媒が好ましく、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、メチレンクロライド、トルエン等を用いることができ、さらに好ましくはアセトニトリルまたはテトラヒドロフランが反応収率が高いので好ましい。
【0061】
触媒はハロゲン化第4級アンモニウム化合物(R1R2R3R4N+X-)が好ましく、具体的にはテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムヨーダイド、テトラプロピルアンモニウムブロマイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロキサイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート、テトラブチルアンモニウムヨーダイド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、トリラウリルメチルアンモニウムクロライド、ジ硬化牛脂アルキルジメチルアンモニウムアセテート、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムハイドロキサイド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、フェニルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられ、単独又は複数で用いることができる。なお、触媒の添加量はカーボンブラックに対して0.05〜10重量%の範囲が好ましい。
【0062】
このようにしてカーボンブラック表面のカルボキシル基をヒドロキシエステル化して化学修飾したのち、残留したオキシラン系化合物や触媒は反応溶媒を除去した後、エーテルやMEKなどの溶剤で洗浄して除去する。
【0063】
本発明のアルコール性カーボンブラック分散体は、浸透剤、界面活性剤、定着助剤としての樹脂、紫外線吸収剤、酸化防止剤、他各種レベリング剤、水溶性溶剤、非水溶性溶剤などを添加してインクジェットプリンターをはじめとする黒色インクに調製される。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0065】
実施例1
カーボンブラックとして東海カーボン社製シースト9H(商品名)(窒素吸着比表面積142m/g、DBP吸収量130cm/100g、pH6.8)を用い、オゾン発生機(ヤマト科学社製CO−101)により圧力0.02MPa、流量5リットル/分、室温の条件で8時間オゾン酸化した。この酸化カーボンブラックを、下記の方法によりカルボキシル基量およびヒドロキシル基量を測定した結果は、カルボキシル基量は480μmol/g、ヒドロキシル基量は125μmol/gであった。
【0066】
(1)カルボキシル基量の測定;
濃度0.976Nの炭酸水素ナトリウム水溶液に酸化カーボンブラックを約2〜5g添加して6時間程振とうした後、濾別し、濾液の滴定試験を行って測定した。
(2)ヒドロキシル基量の測定;
2、2′−Diphenyl−1−picrylhydrazyl(DPPH)を四塩化炭素中にて溶解し、5×10−4mol/l溶液を作製する。該溶液に酸化カーボンブラックを0.1〜0.6g添加し、60℃の恒温槽中にて6時間攪拌した後、濾別し、濾液を紫外線吸光光度計で測定して吸光度から算出した。
【0067】
この酸化カーボンブラック60gに、溶媒として無水アセトニトリル740gを加え、TKホモミキサー(プライミクス社製)を用いて、2000rpmで室温下、0.5hr攪拌して均一なスラリーとした。
【0068】
このスラリーを室温で200rpmで攪拌しながらグリシドール(C,3−ヒドロキシプロピレンオキシド)を5g添加し、さらに触媒としてテトラブチルアンモニウムブロミドを0.6g加えて90℃で5hr還流して反応させた後、減圧下に溶媒を留去し、室温で4hr真空乾燥して、カーボンブラック表面のカルボキシル基をヒドロキシエステル化した。
【0069】
このようにして化学修飾したカーボンブラック60gに、分散媒として2−プロパノールを340g加えて、TKホモミキサーで0.5hr攪拌(3000rpm、室温)してカーボンブラック濃度15wt%のアルコール性カーボンブラック分散体を製造した。
【0070】
実施例2
カーボンブラックとして東海カーボン社製シースト9H(商品名)(窒素吸着比表面積142m/g、DBP吸収量130cm/100g、pH6.8)200gを用い、オゾン発生機(ヤマト科学社製CO−101)により圧力0.02Mpa、流量5リットル/分の条件で7.5時間オゾン酸化を行い、酸化カーボンブラックを得た。
【0071】
この酸化カーボンブラック60gにアセトニトリルを740g加え、TKホモミキサーを用いて2000rpmで室温下、0.5hr攪拌して均一なスラリーとした。このスラリーを室温で攪拌しながらグリシドールを5g添加し、さらにテトラブチルアンモニウムブロミドを0.6g加えて5hr還流した。反応後、減圧下で溶媒を留去し、室温で4hr真空乾燥し、乾燥残渣にエタノールを340g加えてTKホモミキサーで0.5hr攪拌(3000rpm、室温)して、カーボンブラック濃度15wt%のアルコール性カーボンブラック分散体を製造した。
【0072】
比較例1
カーボンブラックとして東海カーボン社製シースト9H(商品名)(窒素吸着比表面積142m/g、DBP吸収量130cm/100g、pH6.8)200gを用い、オゾン発生機(ヤマト科学社製CO−101)により圧力0.02Mpa、流量5リットル/分の条件で7.5時間オゾン酸化を行った。この酸化カーボンブラック60gに2−プロパノールを340g加えて、TKホモミキサーで0.5hr攪拌(3000rpm、室温)してカーボンブラック濃度15wt%のアルコール性カーボンブラック分散体を製造した。
【0073】
比較例2
カーボンブラックとして東海カーボン社製シースト9H(商品名)(窒素吸着比表面積142m/g、DBP吸収量130cm/100g、pH6.8)を用い、オゾン発生機(ヤマト科学社製CO−101)により圧力0.02Mpa、流量5リットル/分の条件で、7.5時間オゾン酸化した。
【0074】
この酸化カーボンブラック60gに、エタノール340gとサーフィノール104E(界面活性剤)を1g加えて、TKホモミキサーで0.5hr攪拌(3000rpm、室温)してカーボンブラック濃度15wt%のアルコール性カーボンブラック分散体を製造した。
【0075】
比較例3
カーボンブラックとして東海カーボン社製シースト9H(商品名)(窒素吸着比表面積142m/g、DBP吸収量130cm/100g、pH6.8)60gに、エタノール340gとサーフィノール104E(界面活性剤)を1g加えて、TKホモミキサーで0.5hr攪拌(3000rpm、室温)してカーボンブラック濃度15wt%のアルコール性カーボンブラック分散体を製造した。
【0076】
これらのカーボンブラック分散体を用いて、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(DEGME) /水=7/3、界面活性剤(サーフィノール104E、日信化学社製)を0.3%配合し、カーボンブラック濃度が4wt%のインクを調製した。
【0077】
これらのインクについて、ノズル口径が25μm、ノズル数が512、ノズル解像度が600dpi(dpiは2.54cm当たりのドット数)となるようにアレイ状に配置したラインヘッド方式のピエゾ型記録ヘッドを搭載したラインヘッドプリンタを用いて、記録解像度600×600dpiの条件で、インク付着量が10ml/m、各インクをコニカミノルタビジネステクノロジー社製J紙(64g/m、A4サイズ)に各辺から5mmの余白が残るようベタ画像を印字した。
【0078】
このベタ印刷部分の画像濃度をマクベス濃度計で測定し、得られた結果を下記に示す基準により評価した。
A:ブラックインクのOD値:1.4以上
B:ブラックインクのOD値:1.3以上1.4未満
C:ブラックインクのOD値:1.3未満
【0079】
また、これらのカーボンブラック分散体を60℃で4週間保存した後のカーボンブラックの粒径および分散体の粘度を測定した。
粒径:マイクロトラック社製UPA(レーザー回折方式)により室温下で測定した。
粘度:E型粘度計(東機産業社製、RE−80L)により25℃で測定した。
【0080】
得られた結果を表1に示した。
【0081】
【表1】

【0082】
実施例のアルコール性カーボンブラック分散体は、比較例に比べて画像濃度、分散安定性に優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック表面のカルボキシル基がオキシラン環の開環反応によりヒドロキシエステル化して化学修飾され、該カーボンブラックを、主成分としてアルコール性水酸基を有するアルコール性媒体中に分散してなることを特徴とするアルコール性カーボンブラック分散体。
【請求項2】
化学修飾されたヒドロキシエステル化構造が、下記(1)〜(5)の構造式の少なくとも1つの構造式を有するものである、請求項1記載のアルコール性カーボンブラック分散体。
但し、R1、R3はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基 、R2は水素、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基である。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【請求項3】
酸化処理したカーボンブラックとオキシラン系化合物を反応溶媒中で、触媒の存在下に還流してオキシラン環を開環反応させることにより、カーボンブラック表面のカルボキシル基をヒドロキシエステル化して化学修飾し、該カーボンブラックを、主成分としてアルコール性水酸基を有するアルコール性媒体中に分散することを特徴とするアルコール性カーボンブラック分散体の製造方法。
【請求項4】
触媒が下記一般式(6)で示されるハロゲン化第4級アンモニウム化合物である、請求項3記載のアルコール性カーボンブラック分散体の製造方法。
【化6】

但し、R1 ,R2 ,R3 およびR4は、全てが同一の低級アルキル基を表すか、またはその三つが同一の低級アルキル基を表し、かつ残りの一つがフェニル基またはベンジル基を表し、X-はハロゲンイオン、OH 、またはHSO4 を表す。

【公開番号】特開2009−149722(P2009−149722A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327077(P2007−327077)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】