説明

アルコール性水酸基含有化合物及びその製造方法

【解決手段】下記一般式(1):


(式中、Rは水素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基である。)
で表されるアルコール性水酸基含有化合物。
【効果】本発明のアルコール性水酸基含有化合物は、有機樹脂やシリコーン樹脂を変性するための出発原料として有用であり、また、その製造方法によりかかるアルコール性水酸基含有化合物を収率よく製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、有機樹脂や電子材料に用いることができるシリコーン樹脂等の樹脂を変性するための出発原料として有用なアルコール性水酸基を有する新規化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルコール性水酸基を有するビスフェノール誘導体としては、例えば、下記一般式(4):
【化1】


(式中、Rは水素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基である。)
で表されるものが知られている。これは、アルコール性水酸基を有していることで、官能基変換により新たな官能基を導入し、新たな特性を付与することが可能となるが、ビスフェノール誘導体を重合あるいは変性させることを考慮した場合、特性や反応性等の点でアリル基を有していることが望ましい。しかし、芳香環置換基にアリル基とグリセロール基を同時に有するビスフェノール化合物は知られていない。
【0003】
また、特開平8−12745号公報(特許文献1)、特開平8−67805号公報(特許文献2)等には、エポキシ樹脂組成物の硬化剤としてアリル化ビスフェノールを用いることが提案されている。しかし、アリル化ビスフェノールはエポキシ樹脂組成物の硬化剤としては有用であるが、シリコーン樹脂等の樹脂変性には不適であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−12745号公報
【特許文献2】特開平8−67805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、有機樹脂やシリコーン樹脂を変性する出発原料として有用なアルコール性水酸基とアリル基を同時に有する新規なビスフェノール及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、下記のアルコール性水酸基含有化合物及びその製造方法を提供する。
[I]下記一般式(1):
【化2】


(式中、Rは水素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基である。)
で表されるアルコール性水酸基含有化合物。
[II]下記一般式(2):
【化3】


(式中、Rは水素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基である。)
で表されるビスフェノール誘導体を、下記一般式(3):
【化4】


(式中、R1及びR2は、水素原子、アルキル基、又はアリール基を意味し、またこれらは置換基を有していてもよく、またR1同士又はR2同士が互いに結合してこれらが結合する炭素原子と共に環を形成していてもよい。R3、R4、R5及びR6は水素原子、アルキル基、又はアリール基を意味し、R4及びR5はヒドロキシメチルポリスチレンやシリカゲルなどのポリマーであってもよい。またR6は隣接するR4もしくはR5とこれらが結合する炭素原子と共に置換基を有していてもよい環を形成してもよい。Mはマンガン、鉄、コバルト、亜鉛、ニッケル、アルミニウム、クロム、ルテニウム、ロジウム、チタン、バナジウム、モリブデン、又はタングステンを意味する。)
で示される遷移金属触媒存在下、水と反応させることを特徴とする[I]に記載のアルコール性水酸基含有化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアルコール性水酸基含有化合物は、有機樹脂やシリコーン樹脂を変性するための出発原料として有用であり、また、その製造方法によりかかるアルコール性水酸基含有化合物を収率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で得られたアルコール性水酸基含有化合物の1H−NMRチャートである。
【図2】実施例1で得られたアルコール性水酸基含有化合物の13C−NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のアルコール性水酸基含有化合物は、下記一般式(1):
【化5】


(式中、Rは水素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基である。)
で表されるものである。
【0010】
上記一般式(1)で表されるアルコール性水酸基含有化合物の具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0011】
【化6】

【0012】
また、本発明の製造方法は、下記一般式(2):
【化7】


(式中、Rは水素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基である。)
で表されるエポキシ基含有ビスフェノール誘導体を、下記一般式(3):
【化8】


(式中、R1及びR2は、水素原子、アルキル基、又はアリール基を意味し、またこれらは置換基を有していてもよく、またR1同士又はR2同士が互いに結合してこれらが結合する炭素原子と共に環を形成していてもよい。R3、R4、R5及びR6は水素原子、アルキル基、又はアリール基を意味し、R4及びR5はヒドロキシメチルポリスチレンやシリカゲルなどのポリマーであってもよい。またR6は隣接するR4もしくはR5とこれらが結合する炭素原子と共に置換基を有していてもよい環を形成してもよい。Mはマンガン、鉄、コバルト、亜鉛、ニッケル、アルミニウム、クロム、ルテニウム、ロジウム、チタン、バナジウム、モリブデン、又はタングステンを意味する。)
で示される遷移金属触媒存在下、水と反応させる方法である。
【0013】
下記に反応スキームを示す。
【化9】


(式中、R、R1〜R6、Mは上記の通り。)
【0014】
ここで、一般式(2)で表されるビスフェノール誘導体の具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0015】
【化10】

【0016】
使用する金属錯体は公知のものであり、一般的には式(3)で表される。中心金属Mは特に限定はされない。例えば、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、ニッケル、アルミニウム、クロム、ルテニウム、ロジウム、チタン、バナジウム、モリブデン、タングステン等が代表的金属として挙げられるが、本発明方法に最も適しているのはコバルトである。式中のR1、R2、R3、R4、R5、R6も同様に特に限定されない。好ましい形態としてはR1、R2は水素原子、アルキル基、又はアリール基である。またこれらはアルキル基、アリール基等の置換基を有していても、またR1同士、R2同士が環を形成していてもよい。環は、これらR1、R2が形成する炭素原子と共に炭素数3〜20の飽和の非芳香環が挙げられる。R3、R4、R5、R6も同じく水素原子、アルキル基、又はアリール基である。R4、R5についてはヒドロキシメチルポリスチレンやシリカゲルなどのポリマーであってもよい。またR6は隣接するR4もしくはR5と、これらが結合する炭素原子と共にアルキル基、アリール基等の置換基を有していてもよい炭素数3〜20の環を形成していてもよい。特に好ましい触媒は下記式(5)又は(6)で示される触媒である。
【0017】
【化11】

(式中、t−Buはtert−ブチル基を示す。)
【0018】
上記式(5)及び(6)で表されるような不斉触媒では、基質内エポキシの立体配置により反応速度が異なるので、これら金属触媒の鏡像体を組み合わせて使用することが好ましい。
【0019】
式(3)、(5)及び(6)で表される触媒は、空気と酸、好ましくは有機酸によって(n)価から(n+1)価へ空気酸化されることで活性化される。そのため、本発明の製造方法においては酸、特に有機酸を触媒と共に使用することが好ましい。有機酸としては、カルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸、及びフェノールなどの酸性の官能基を有する化合物が挙げられ、例えば炭素数1〜10の脂肪族カルボン酸、炭素数7〜20の芳香族カルボン酸、炭素数1〜10の脂肪族スルホン酸、炭素数6〜20の芳香族スルホン酸、炭素数1〜10の脂肪族スルフィン酸、及び炭素数6〜20の芳香族スルフィン酸などが挙げられる。具体的には、酢酸、プロピオン酸、p−トルエンスルホン酸、及びメタンスルホン酸などが挙げられる。好ましくは、炭素数1〜5の脂肪族カルボン酸であり、特に好ましくは酢酸である。これらの酸で活性化させた触媒を用いることが、触媒安定性、活性度、及び再現性などの点で理想的である。
【0020】
本発明において使用される触媒の量は式(2)で表されるビスフェノール誘導体に対し、0.01〜10.0mol%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5.0mol%、更に好ましくは0.15〜1.5mol%、特に好ましくは0.25〜0.75mol%である。使用量が少ないと反応速度が低下するおそれがあり、また過剰に用いても反応時間は短くなるものの製造コストが高価なものになる。また、酸の量はモル比で触媒に対し0.1〜15.0であることが好ましく、より好ましくは1.0〜10.0、更に好ましくは2.0〜8.0、特に好ましく4.0〜6.0である。過剰に使用し過ぎると触媒の分解を促すおそれがある。
【0021】
本発明の製造方法は、溶媒を用いることが好ましい。溶媒の使用量は、特に限定はされないが、通常式(2)で表されるビスフェノール誘導体1molに対し10〜1,000mLであり、好ましくは50〜500mL、より好ましくは80〜250mL、特に好ましくは100〜140mLである。前記溶媒としては、前記エポキシ基含有ビスフェノール及び前記金属触媒と相溶性がある溶媒であれば特に制限はなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、ヘキサン等の有機溶媒が挙げられ、これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくはエーテル系溶媒であり、特に好ましくはテトラヒドロフランである。また反応剤として使用する水は、エポキシ基含有ビスフェノールに対しモル比で1.0〜15.0であることが好ましく、より好ましくは1.4〜10.0、更に好ましくは1.8〜5.0、特に好ましくは2.2〜3.0である。反応温度は0〜100℃、好ましくは10〜60℃、特に好ましくは15〜35℃にすることが推奨される。反応時間はそのスケールにも左右されるが、およそ50時間程度である。
【0022】
このようにして得られる本発明のアルコール性水酸基含有化合物は、特に、有機樹脂や電子材料に用いることができるシリコーン樹脂を変性するための出発原料として有用である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0024】
[実施例1]
温度計、冷却管、撹拌器を取り付けたフラスコに2,2−ビス[3−アリル−4−(グリシジロキシ)フェニル]プロパン700gをテトラヒドロフラン187gに溶解させた。更に、(R,R)及び(S,S)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト(II)を2.5gずつ、蒸留水を78g、酢酸を2g加えて72時間撹拌した。反応終了後、85℃の加熱減圧下で溶媒を留去したのち、メタノール395gを加えて1時間撹拌した。析出した触媒固体を濾過により除去し、再び85℃の加熱減圧下でメタノール等の溶媒を除去し、褐色液状の反応生成物612gを得た(収率:81%)。この反応生成物は、1H−NMR及び13C−NMR測定の結果、下記式(7)で表される2,2−ビス[3−アリル−4−(2,3−ジヒドロキシプロピロキシ)フェニル]プロパンであることが確認された。なお、1H−NMRチャートを図1に、13C−NMRチャートを図2に示す。
【0025】
【化12】

【0026】
[実施例2]
温度計、冷却管、撹拌器を取り付けたフラスコに2−[2−アリル−4−(グリシジロキシ)フェニル]−2−[3−アリル−4−(グリシジロキシ)フェニル]プロパン80gをテトラヒドロフラン19gに溶解させた。更に、(R,R)及び(S,S)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト(II)を0.29gずつ、蒸留水を9.4g、酢酸を0.23g加えて70時間撹拌した。反応終了後、85℃の加熱減圧下で溶媒を留去したのち、メタノール120gを加えて1時間撹拌した。析出した触媒固体を濾過により除去し、再び85℃の加熱減圧下でメタノール等の溶媒を除去し、褐色液状の反応生成物66gを得た(収率:76%)。この反応生成物は、1H−NMR及び13C−NMR測定の結果、下記式(8)で表される2−[2−アリル−4−(2,3−ジヒドロキシプロピロキシ)フェニル]−2−[3−アリル−4−(2,3−ジヒドロキシプロピロキシ)フェニル]プロパンであることが確認された。
【0027】
【化13】

【0028】
[実施例3]
温度計、冷却管、撹拌器を取り付けたフラスコに2,2−ビス[3−アリル−4−(グリシジロキシ)フェニル]プロパン78.5gをテトラヒドロフラン22.5gに溶解させた。更に、(R,R)及び(S,S)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト(II)を0.30gずつ、蒸留水を9.4g、酢酸を0.24g加えて72時間撹拌した。反応終了後、85℃の加熱減圧下で溶媒を留去したのち、メタノール120gを加えて1時間撹拌した。析出した触媒固体を濾過により除去し、再び85℃の加熱減圧下でメタノール等の溶媒を除去し、褐色液状の反応生成物74.1gを得た(収率:87%)。この反応生成物は、1H−NMR及び13C−NMR測定の結果、下記式(9)で表される2,2−ビス[3−アリル−4−(2,3−ジヒドロキシプロピロキシ)フェニル]プロパンであることが確認された。
【0029】
【化14】

【0030】
[実施例4]
温度計、冷却管、撹拌器を取り付けたフラスコに2,2−ビス[3−アリル−4−(グリシジロキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン10.6gをテトラヒドロフラン2.3gに溶解させた。更に、(R,R)及び(S,S)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト(II)を31mgずつ、蒸留水を1.0g、酢酸を24mg加えて72時間撹拌した。反応終了後、85℃の加熱減圧下で溶媒を留去したのち、メタノール10gを加えて1時間撹拌した。析出した触媒固体を濾過により除去し、再び85℃の加熱減圧下でメタノール等の溶媒を除去し、褐色液状の反応生成物9.2gを得た(収率:81%)。この反応生成物は、1H−NMR及び13C−NMR測定の結果、下記式(10)で表される2,2−ビス[3−アリル−4−(2,3−ジヒドロキシプロピロキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンであることが確認された。
【0031】
【化15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】


(式中、Rは水素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基である。)
で表されるアルコール性水酸基含有化合物。
【請求項2】
下記一般式(2):
【化2】


(式中、Rは水素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基である。)
で表されるビスフェノール誘導体を、下記一般式(3):
【化3】


(式中、R1及びR2は、水素原子、アルキル基、又はアリール基を意味し、またこれらは置換基を有していてもよく、またR1同士又はR2同士が互いに結合してこれらが結合する炭素原子と共に環を形成していてもよい。R3、R4、R5及びR6は水素原子、アルキル基、又はアリール基を意味し、R4及びR5はヒドロキシメチルポリスチレンやシリカゲルなどのポリマーであってもよい。またR6は隣接するR4もしくはR5とこれらが結合する炭素原子と共に置換基を有していてもよい環を形成してもよい。Mはマンガン、鉄、コバルト、亜鉛、ニッケル、アルミニウム、クロム、ルテニウム、ロジウム、チタン、バナジウム、モリブデン、又はタングステンを意味する。)
で示される遷移金属触媒存在下、水と反応させることを特徴とする請求項1に記載のアルコール性水酸基含有化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−79762(P2011−79762A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232294(P2009−232294)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】