説明

アルコール脱水素反応用触媒、及びこれを用いたアルデヒドの製造方法

【課題】高い触媒活性と反応選択性を有する新規なアルコール脱水素反応触媒と、これを用いたアルデヒドの製造方法を提供する。アルデヒドは、有機化学品、医薬、農薬等の精密化学品などの原料として有用であるばかりでなく、水蒸気改質反応により効率よく水素ガスを生成することができ、得られた水素ガスは石油の代替燃料として有用である。
【解決手段】本発明のアルコール脱水素反応触媒は、銅化合物がメソポーラスシリカ多孔体等の多孔体に担持されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアルコール脱水素反応用触媒と、これを用いたアルデヒドの製造方法に関する。アルデヒドは、有機化学品、医薬、農薬等の精密化学品などの原料として有用であるばかりでなく、水蒸気改質反応により効率よく水素ガスを生成することができ、得られた水素ガスは石油の代替燃料として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、アルデヒドはヘキスト−ワッカー法により、触媒としてのPdCl2と助触媒としてのCuCl2の二元触媒の存在下、エチレンを酸化して製造されていたが、この製造方法が効果的に機能するためには高い塩素イオン濃度および多量のCuCl2が必要であり、製造装置の腐食性が強く、実用には高価な耐腐食性機器を用いる必要があった。また、この製造方法は塩酸などの塩素化副生成物が多量に発生するため、それらを適切に分離・処分する必要があり、コストが上がる点が問題であった。
【0003】
そこで、触媒としてCuCl2の代わりにMoやVを含むヘテロポリ酸をパラジウムと組み合わせて用いる脱塩酸プロセスが開発された。このプロセスによれば製造装置の腐食及び廃液処理の問題を解決することができるが、アルデヒドの収率及び反応選択性の点で問題があった。
【0004】
一方、アルコールを脱水素してアルデヒドを生成する反応には銅系触媒が活性を示すことが知られている(特許文献1等)。近年、バイオマスから簡単に且つ安価に製造されるバイオエタノールは、石油のような枯渇性資源を代替しうる非枯渇性資源として注目されている。バイオエタノールから得られるアルデヒドは有機化学品、医薬、農薬等の精密化学品などの原料として有用であるばかりでなく、さらに水蒸気改質反応により水素ガスを生成することができる。そして、得られた水素ガスは、例えばエンジンに利用すると従来のガソリンエンジンに比べ3倍以上のエネルギー効率があり、その上、バイオエタノールはその起源が植物由来であり、元をたどれば二酸化炭素が原料として利用されているために二酸化炭素の総排出量が増えないと言われていることから、地球温暖化抑制へ向けた二酸化炭素の排出抑制効果も期待でき、主に自動車や航空機を動かす石油燃料の代替物としての利用が検討されている。しかし、従来のアルコール脱水素反応触媒は、反応の選択性が十分でなく、水の共存下では活性が低い等の問題があり、必ずしも工業的に十分満足できるものではなかった。
【0005】
すなわち、アルコールから、有機化学品、医薬、農薬等の精密化学品などの原料として有用であるばかりでなく、更に水蒸気改質反応により得られる水素ガスを石油燃料の代替物として利用することができるアルデヒドを合成するアルコール脱水素反応を促進する触媒であって、水の共存下でも高い活性と高い反応選択性を有し、工業的に効率よくアルデヒドを製造することができる触媒が見いだされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−342675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち、本発明の目的は、新規なアルコール脱水素反応用触媒を提供することにある。
本発明の他の目的は、エタノール等のアルコールからアルデヒドを工業的に効率よく製造する方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、水の共存下でもアルコールからアルデヒドを収率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、銅化合物を多孔体に担持させた触媒は特殊な細孔構造を有する多孔体に触媒活性を有する銅化合物が高分散された構成により、反応が進行しても触媒の活性が低下することなく、アルコールの脱水素反応を選択的に、且つ、円滑に促進することができ、対応するアルデヒドを効率よく生成できることを見出し本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、銅化合物が多孔体に担持されたアルコール脱水素反応触媒を提供する。
【0010】
多孔体としてはメソ多孔体が好ましく、特にメソポーラスシリカが好ましい。
【0011】
本発明は、また、前記のアルコール脱水素反応用触媒とアルコールとを接触させて対応するアルデヒドを生成することを特徴とするアルデヒドの製造方法を提供する。
【0012】
アルコールとしてはエタノールが好ましく、アルデヒドとしてはアセトアルデヒドが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアルコール脱水素反応触媒は、銅化合物が多孔体に担持された構造を有するため、水の存在下でも銅化合物が高分散された状態を維持することができ、反応に与る銅化合物の表面をより多く露出することができ、それにより高い触媒活性を発揮し続けることができる。その上、担体の細孔内の立体構造により優れた反応選択性を発揮することができるため、副反応であるエタノールからエチレンを生成する脱水反応を抑制することができ、エチレンが高分子化することによるコークの生成を最小限にとどめることができる。そのため、触媒表面のコーキングによる劣化を防ぐことができ、反応後に触媒を分離・回収し、繰り返しの再使用が可能である。本発明に係るアルコール脱水素反応触媒を使用すると、アルコールから有機化学品、医薬、農薬等の精密化学品などの原料として有用であるばかりでなく、更に水蒸気改質反応により水素ガスを製造することができるアルデヒドを効率よく、且つ、安価に製造することができる。また、得られた水素ガスは石油燃料の代替物として利用できるため、地球温暖化抑制効果が期待されている。本発明のアルデヒドの製造方法は、上記アルコール脱水素反応触媒を使用するため、工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】MCM−41及びCu−MCM−41のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[アルコール脱水素反応用触媒]
本発明のアルコール脱水素反応用触媒は、銅化合物が多孔体に担持された構造を有することを特徴とする。多孔体を担体として用いることにより、脱水素反応に対する触媒活性が大きく向上する。なお、本明細書では、銅単体も銅化合物に含まれるものとする。
【0016】
銅化合物を担持させる多孔体としては、例えば、ミクロ多孔体、メソ多孔体、マクロ多孔体を挙げることができる。これらの中でもメソ多孔体が好ましく、特に、規則性メソ多孔体が好ましい。
【0017】
メソ多孔体の細孔径(開口径)としては、0.8nm〜10nm、好ましくは0.8nm〜5.0nm、さらに好ましくは1.0nm〜3.0nmである。ここで、メソ多孔体の開口径が0.8nmを下回ると、反応分子や生成分子の拡散性が低下して反応効率が低下する恐れがある。一方、メソ多孔体の開口径が10nmを上回ると、細孔の効果すなわち活性成分である銅化合物の良好な担持が得られ難くなり、高い収率が得られにくくなる恐れがある。
【0018】
メソ多孔体の細孔容積としては、例えば、200〜1200mm3/g程度であり、好ましくは、300〜1000mm3/g程度である。細孔容積が200mm3/gを下回ると、反応分子や生成分子の拡散性が低下して反応効率が低下する恐れがある。一方、細孔容積が1200mm3/gを上回ると、細孔の効果すなわち活性成分である銅化合物の良好な担持が得られ難くなり、高い収率が得られにくくなる恐れがある。
【0019】
多孔体を構成する材料としては、特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ホウ素、又は複合酸化物(例えば、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、ホウ素から選択された2種以上の元素の複合酸化物等)、ゼオライト、活性炭などが挙げられる。本発明においては、規則性の細孔を有する構造が容易に得られ、強度などの物性も良好であるとともに、銅化合物の安定した担持が容易に得られる点で、シリカを主成分(例えば、シリカ含有率が50重量%以上)とする多孔体、すなわちメソポーラスシリカが好ましい。
【0020】
メソポーラスシリカは直径1〜10nmの円筒状細孔が独特な構造(例えば、ヘキサゴナル構造、キュービック構造等)に規則的に配列した骨格を有する。そのため、反応物の細孔内拡散速度が大きく、その結果、反応速度が大きくなるという長所がある。メソポーラスシリカの代表的な例としては、例えば、MCM−41、MCM−48、SBA−15、FSM−16、HMS、KIT−6、SBA−16、KIT−5などを挙げることができる。
【0021】
メソポーラスシリカの比表面積(BET比表面積)としては、例えば、50〜1200m2/g、好ましくは200〜1000m2/g、さらに好ましくは500〜900m2/gである。比表面積(BET比表面積)が50m2/gを下回ると、触媒活性を十分に促進することが困難となる傾向があり、一方、比表面積(BET比表面積)が1200m2/gを上回ると、強度が低下して水熱条件下で壊れやすくなる。メソポーラスシリカは上記のように大きな比表面積を有するため、触媒活性を有する銅化合物を高分散に担持することができ、優れた触媒活性促進作用を発揮することができる。
【0022】
メソポーラスシリカの合成法としては、例えば、界面活性剤等によって水溶液中に形成されたシリンダー状ミセルを細孔のテンプレート(鋳型)として用い、ミセル(テンプレート)とシリカの前駆体によりナノコンポジットを形成し、これを規則正しく配列することによって独特の構造を構築する方法などが挙げられる。
【0023】
シリカの前駆体の種類としては、例えば、コロイダルシリカ、シリカゲル、フュームドシリカなどの非晶質シリカ;珪酸ナトリウムや珪酸カリウムなどの珪酸アルカリ;テトラメチルオルソシリケート、テトラエチルオルソシリケートなどのアルコキサイド等を挙げることができる。これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0024】
テンプレートとしては、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性系界面活性剤等のいずれを用いてもよく、これらを必要とする細孔径に合わせて適宜選択することができる。テンプレートとしては、メソポーラスシリカ合成時の強塩基性条件下で分解、変性しないものが好ましい。
【0025】
陽イオン系界面活性剤としては、例えばアルキルアンモニウム塩が挙げられ、中でも、下記式(1)
CH3(CH2)nN(CH33・X (1)
(式中、nは7〜21の整数を示し、Xはハロゲンイオンあるいは水酸化イオンを示す)
で表されるハロゲン化アルキルトリメチルアンモニウム系陽イオン界面活性剤等が好ましい。具体的には、n−オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、n−デシルトリメチルアンモニウムブロミド、n−ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、n−テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、n−オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミドなどが例示できる。また、パーフルオロアルキル基を有する4級アンモニウム塩を用いることもできる。
【0026】
陰イオン系界面活性剤としては、例えば、C1123COONa等の脂肪酸塩、C1021CH(SO3Na)COOCH3等のアルファスルホ脂肪酸エステル塩、C1225(C64)SO3Na等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、C1225OSO3Na等のアルキル硫酸塩、C1225O(CH2CH2O)3SO3Na等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、C1225OSO3-+NH(CH2CH2OH)3等のアルキル硫酸トリエタノールアミン等を挙げることができる。
【0027】
非イオン系界面活性剤としては、例えば、C1123CON(CH2CH2OH)2等の脂肪酸ジエタノールアミド、C1225O(CH2CH2O)8H等のボリオキシエチレンアルキルエーテル、C919(C64)O(CH2CH2O)8H等のボリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等を挙げることができる。
【0028】
両性系界面活性剤としては、例えば、C1225+(CH32・CH2COO-等のアルキルカルボキシベタイン等を挙げることができる。
【0029】
その他、テンプレートとしては、アルキルアミン、例えば、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン等の1級アルキルアミン(好ましくは、炭素数8〜20の1級アルキルアミン);N−メチルヘキシルアミン等の2級アルキルアミン(好ましくは、主鎖の炭素数が6〜20で、N−アルキル基の炭素数が1〜6の2級アルキルアミン);N,N−ジメチルドデシルアミン等の3級アルキルアミン(好ましくは、主鎖の炭素数が8〜20で、N−アルキル基の炭素数が1〜6の3級アルキルアミン)などを用いることもできる。
【0030】
本発明のアルコール脱水素反応用触媒は、担持触媒を調製する際に通常用いられる方法(例えば、含浸法、気相蒸着法、担持錯体分解法等)により調製することができるが、多孔体として特にメソ多孔体を使用する場合は、メソ多孔体を合成する際に使用し、細孔内に吸蔵されているテンプレートと銅化合物の溶液とを接触させて水溶媒中で銅イオンとテンプレートイオンとを交換するテンプレートイオン交換法を採用することが製造性の点で好ましい。銅化合物の溶液に用いる溶媒としては、例えば、水、アセトン、アルコール、又はこれらの混合液等を使用できる。
【0031】
銅化合物としては、特に限定されず、例えば、銅単体、銅の硫酸塩、硝酸塩、塩化物等が使用できる。
【0032】
また、テンプレートイオン交換法により銅化合物を担持させたメソ多孔体(特に、規則性メソ多孔体)は、残存するテンプレートを焼成によって除去するために、酸素が存在する雰囲気下で加熱処理を施すことが好ましい。ここで、加熱処理の温度は、例えば、200℃以上800℃以下、好ましくは300℃以上700℃以下である。加熱処理の温度が200℃より低くなると、テンプレートの焼成に長時間を要し作業性が低下する恐れがある。一方、加熱処理の温度が800℃より高くなると、細孔を構成しているシリカ等の崩壊が生じ十分な触媒活性が得られなくなる恐れがある。
【0033】
銅化合物の多孔体への担持量としては、例えば、多孔体100重量部に対して、0.1〜50重量部、好ましくは1〜40重量部である。また、多孔体としてシリカを骨格の主成分として構成されたメソポーラスシリカを用いる場合、十分な触媒活性や選択性及び経済性などの観点から、銅化合物の担持量は、Si/Cu(原子比)が15〜300、なかでも20〜200、特に、25〜100であることが好ましい。Si/Cu(原子比)が15を下回ると、担持するCuの割合が多すぎるためにメソポーラスシリカの細孔の入り口が塞がれて比表面積が低下し、触媒活性を促進することが困難となる傾向がある。一方、Si/Cu(原子比)が300を上回ると、触媒活性を有するCuが少なすぎるため、触媒活性が低下する傾向がある。
【0034】
銅化合物が担持された多孔体の比表面積(BET比表面積)としては、例えば、50〜1200m2/g、好ましくは200〜1000m2/g、さらに好ましくは500〜900m2/gである。比表面積(BET比表面積)が50m2/gを下回ると、触媒活性を十分に促進することが困難となる傾向があり、一方、比表面積(BET比表面積)が1200m2/gを上回ると、強度が低下して使用時に壊れやすくなる。
【0035】
また、銅化合物が担持された多孔体の細孔容積としては、例えば、200〜1200mm3/g程度であり、好ましくは、300〜1000mm3/g程度である。細孔容積が200mm3/gを下回ると、反応分子や生成分子の拡散性が低下して反応効率が低下する恐れがある。一方、細孔容積が1200mm3/gを上回ると、細孔の効果、すなわち活性成分である銅化合物の良好な担持が得られ難くなり、高い収率が得られにくくなる恐れがある。
【0036】
銅化合物が担持された多孔体の形状は特に制限はなく、粉粒体や塊状物、いわゆるハニカム構造物など各種形態で利用できる。アルデヒドの製造方法に使用する際は、平均粒径が100〜900μm程度(特に、300〜600μm程度)の粒状が、反応管に充填しやすく、その上、反応促進効果を向上させることができる点で好ましい。
【0037】
こうして得られる銅化合物が担持された多孔体は、水の存在下でも、高温環境下でもアルコール脱水素反応に対して高い触媒活性を維持することができ、アルコールから対応するカルボニル化合物(アルデヒド又はケトン)、とりわけアルデヒドを製造するための触媒として有用である。また、規則的な細孔構造を有する多孔体を担体とするため、反応選択性に優れ、副反応である脱水反応を抑制することができる。そのため、副生成物であるエチレンの生成を抑制することができ、エチレンが高分子化することによるコークの生成をも抑制し、コークによる触媒の劣化を防ぐことができる。
【0038】
[アルデヒドの製造方法]
本発明のアルデヒドの製造方法では、前記本発明に係るアルコール脱水素反応用触媒とアルコール(特に、第1級アルコール)とを接触させて対応するアルデヒドを生成することを特徴とする。
【0039】
原料として用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、1−デカノール等の脂肪族アルコール;シクロペンチルメチルアルコール、2−シクロヘキシルエチルアルコール等の脂環を有する脂環式アルコール;ベンジルアルコール等の芳香族アルコールなどが挙げられる。アルコールの炭素数としては、例えば1〜12、好ましくは1〜10、さらに好ましくは2〜6程度である。
【0040】
これらのアルコールの中でも、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノールなどの炭素数1〜10程度の脂肪族アルコールが好ましく、特にエタノールが好ましい。また、エタノールとしては特に限定されないが、バイオエタノールを用いることが石油のような枯渇性資源に代わりバイオマスを非枯渇性資源として有効利用することができ、二酸化炭素放出量の抑制、環境汚染および資源枯渇の問題解決の観点から有益である。アルコールは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。原料アルコールには水が混合されていてもよく、また、反応を損なわない範囲でその他の成分を含んでいてもよい。
【0041】
本発明のアルデヒドの製造方法は、上記アルコール脱水素反応触媒とアルコールとを接触させる方法であればよく、懸濁床方式、流動床方式、固定床方式等の何れの方法で行うこともできる。また、気相法、液相法の何れであってもよい。本発明においては、なかでも、高圧反応を必要としないため安全面に優れ、その上、触媒の寿命を長くすることができる点で気相法が好ましく、特に、触媒を充填して内部に触媒層を有し、原料アルコールガスが流通可能な反応器である固定床式気相流通反応装置や、流動床として原料アルコールガスと触媒とを接触させる反応器である流動床式気相反応装置を用いた方法が好ましい。
【0042】
気相法で反応を行う場合、原料アルコールガスは、希釈することなく反応器に供給してもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガスなどの不活性ガスにより適宜希釈して反応器に供給してもよい。
【0043】
反応温度としては、原料アルコールの種類や反応の方式等により異なるが、例えば、400K以上900K以下、好ましくは500K以上700K以下、特に好ましくは500K以上650K以下である。反応温度が400Kを下回ると、触媒活性が十分に得られなくなって反応速度が低下し製造効率が低下する恐れがある。一方、反応温度が900Kを上回ると、例えばコークが生成するなどして触媒活性が劣化する恐れがある。
【0044】
反応圧力は、常圧から高圧までの広い範囲で適宜設定することができるが、安全性、製造性や装置構成などの観点から、常圧から1.0MPa程度に設定することが好ましい。
【0045】
原料アルコールとアルコール脱水素反応触媒との接触時間は、例えば原料アルコールを気相として供給する場合、一般に、0.001〜50秒、好ましくは0.01〜10秒程度である。触媒との接触時間が0.001秒より短くなると、アルコールの転化率およびアルデヒドの選択率の向上が望めず、アルデヒドを高い収率で製造できなくなる恐れがある。一方、アルコール脱水素反応触媒との接触時間が50秒より長くなると、重合などの副反応が生じて、高い収率でアルデヒドが得られなくなる恐れがある。
【0046】
本発明に係るアルデヒドの製造方法においては、原料アルコールとアルコール脱水素反応触媒との接触により、アルコールの脱水素反応が速やかに進行し、対応するアルデヒドが工業的に効率よく製造される。例えば、エタノールからアセトアルデヒドが、1−プロパノールからはプロピオンアルデヒドが効率よく得られる。そして、得られたアルデヒドは有機化学品、医薬、農薬等の精密化学品などの原料として有用であるばかりでなく、アルデヒドからは水蒸気改質反応により効率よく水素ガスを得ることができ、得られた水素ガスは石油の代替燃料として有用である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0048】
調製例1[MCM−41の合成]
シリカ源としてコロイダルシリカ(商品名「スノーテックス20」、日産化学工業製、
SiO2:20wt%、粒子径:10〜20nm)、界面活性剤としてドデシルトリメチルアンモニウムブロミド[C1225N(CH33Br]を用い、以下の要領でMCM−41を合成した。
まず、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド225.06gを、642.70mLのイオン交換水に溶解させ、強く撹拌した。そこに、「スノーテックス20」を306.51g及び水酸化ナトリウム水溶液(11.65gの水酸化ナトリウムを127.33mLの水に溶解させたもの)を交互に少量ずつ滴下した。全量滴下後、313Kで2時間撹拌した。この時の溶液のpHは11.57であった。この溶液をオートクレーブ中413Kで2日間水熱処理し、得られた白色固体を濾過分別し、イオン交換水で洗浄後、353Kで1晩乾燥させて「未焼成のMCM−41」を得た。
得られた「未焼成のMCM−41」10gをビーカーに量りとり、30gのイオン交換水に懸濁させ、撹拌しながら、2NのHClを加え、懸濁液のpHを6.5±0.5に調整した。室温(25℃)で1時間撹拌後、353Kの水浴で20時間静置した。その後、濾過分別し、20倍重量のイオン交換水で洗浄、濾過分別し、353Kで1晩乾燥し、「pHスイング後MCM−41」を得た。
得られた「pHスイング後MCM−41」をメノウ乳鉢で粉砕し磁性皿に薄く広げ、空気中で焼成して「MCM−41」を得た。焼成は昇温速度5K/minで873Kまで昇温し、そのまま6時間保持して行った。
【0049】
実施例1[Cu担持MCM−41(Cu−MCM−41)の調製]
調製例1で得られた「未焼成のMCM−41」1gに10gのイオン交換水を加え撹拌し、懸濁液を得た。また、硝酸銅を10mLのイオン交換水で溶解し、「未焼成のMCM−41」懸濁液中に投入し、室温(25℃)で1時間激しく撹拌した。この時、「未焼成のMCM−41」に含まれるSiと加えたCuの原子比(Si/Cu)は50であった。
その後容器をラップで覆い、予め353Kに設定した水浴中に浸し、20時間静置した。溶液を室温(25℃)まで冷却し、吸引ろ過によって固体を分離し、300mLのイオン交換水で洗浄し、その後353Kで一晩乾燥した。乾燥後、昇温速度5K/minで773Kまで昇温し、6時間、空気中で焼成し、Cu−MCM−41を得た。
【0050】
調製例1で得られたMCM−41及び実施例1で得られたCu−MCM−41について下記の方法により物理性状及び化学性状を分析した。
【0051】
(1)物理性状の分析(比表面積、細孔構造、細孔径、細孔容積)
測定方法及び使用機器:
触媒の細孔構造の評価、比表面積、細孔径及び細孔容積の測定は窒素吸着装置(商品名「Belsorp−mini」、日本ベル(株)製)による窒素吸着等温線測定を用いた。測定条件は以下の通りである。また、比表面積はBET法、細孔径分布はBJH法により求めた。
測定条件
吸着ガス:N2
空気恒温槽温度(K):273
吸着温度(K):77
初期導入圧力(Torr):10.0
導入圧力(Torr):50.0
吸着質断面積(nm2):0.162
最大吸着圧(P・P0-1):0.985
最小吸着圧(P・P0-1):0.011
平衡時間(sec):300
脱着測定:ON
試料管内径(mm):6.00
前処理:423K、2時間排気
【0052】
MCM−41及びCu−MCM−41の窒素吸着等温線はIV型の窒素吸着等温線を示した。これにより、メソ孔(2〜50nmの細孔)が存在する可能性が示された。
【0053】
触媒の細孔構造は、粉末・薄膜X線回折装置(XRD)(商品名「RIGAKU RINT−2000」、株式会社リガク製)を使用してX線回折パターンを測定することにより分析した。試料板にはガラスプレートを使用し、FT法(fixed time 法)及び連続法により測定した。測定条件は以下のとおりである。
測定条件
線源:CuKa(λ=1.5405Å)
菅電圧40kV
菅電流40mA
〈FT法〉
走査モード:FT
計数時間:1.0sec
ステップ幅:0.004°
走査軸:2θ/θ
走査範囲:1.000〜10.000°
θオフセット:0.000°
積算回数:1
発散スリット:1/4°
縦制限スリット:1.20mm
散乱スリット:自動
受光スリット:0.15mm
〈連続法〉
走査モード:連続
スキャンスピード:4.0°/min
サンプリング幅:0.020°
走査軸:2θ/θ
走査範囲:1〜60°
θオフセット:0.000°
積算回数:1
発散スリット:1/2°
縦制限スリット:1.20mm
スリットモード:固定
散乱スリット:1/2°
受光スリット:0.15mm
【0054】
MCM−41及びCu−MCM−41のX線回折パターンを図1に示す。図1より、金属担持後も担体であるMCM−41のメソ孔のヘキサゴナル構造に帰属するピークが見られることから、規則性構造が維持された状態で金属が担持されていることがわかる。また、高角度側に金属担持に由来するピークが見られないことから、金属が高分散状態で担持されていることがわかる。
【0055】
(2)化学性状の分析(金属担持量)
測定方法及び使用機器:
ICP Mass Spectrometer(商品名「ELAN DRC−e」、PerkinElmer社製)を使用して金属担持量を測定した。分析前に、MCM−41約20mgを9wt%のHF水溶液約0.3gに、Cu−MCM−41を9wt%のHF水溶液約0.3gに溶解させ、測定濃度に合わせてメスアップした水溶液を測定に用いた。Cuの検量線は3種類の濃度の標準溶液を調製して作成した。
【0056】
上記物理性状の分析及び化学性状の分析結果を下記表1にまとめて示す。尚、表1において、θは回折角、dは面間隔、cpsは回折強度の単位であり、カウント/秒を示す。
【表1】

【0057】
実施例2(エタノールの脱水素反応)
実施例1で得られたCu−MCM−41を触媒としてエタノールの脱水素反応を行った。固定床常圧流通系反応装置の石英製反応管(外径14.0mm、内径9.0mm)の底部に石英ウールを約0.03g詰め、その上に実施例1で得られたCu−MCM−41に9.8MPaの圧力を10分間かけて粉砕し、その後篩にかけ、平均粒径300〜600μmに整粒したものを0.2g充填した。
反応に先立ち、触媒の前処理として、窒素50ml/min流通下、673Kまで74分で昇温し、同温度で2時間保持し、その後室温(25℃)まで冷却した。
触媒の温度として523〜973Kの所定の温度に設定した反応管に、エタノールと水の混合物に窒素を加えた混合ガス[エタノール分圧:2.9%、水/エタノール(分圧比):5]を64.4mL/min(SV=6900/h)で供給して反応を行った。尚、反応ラインはエタノールや水の凝縮を防ぐためリボンヒーターで413K程度に保温した。
【0058】
比較例1
触媒としてCu−MCM−41の代わりにMCM−41を使用した以外は実施例2と同様にしてエタノールの脱水素反応を行った。
【0059】
実施例2及び比較例1より、MCM−41単独ではアルコール脱水素反応における触媒活性を示さなかった。実施例2における反応生成物の分析には自動ガスクロマトグラフ(商品名「AG−1(TTF)型」、ラウンドサイエンス社製)を使用した。尚、ガスクロマトグラフィーの測定条件は下記の通りである。
測定条件
カラム温度:423K
検出器温度:TCD 373K
FID 384K
検出電流:TCD 100mA
カラム仕様及びキャリアガスについては表2にまとめて示す。表中、「AA」はアセトアルデヒド、「DEE」はジエチルエーテルを示す。
【表2】

【0060】
エタノール転化率は、ガスクロマトグラフにて検出された反応前のエタノールのピーク面積を基準として、下記式により算出した。
エタノール転化率(%)={(反応前のエタノールのピーク面積−反応後のエタノールのピーク面積)/反応前のエタノールのピーク面積}×100
また、反応生成物の収率は、ガスクロマトグラフにて検出された反応前のエタノールのピーク面積を基準として、下記式により算出した。
含炭素生成物の収率(%)={各生成物のピーク面積/(反応前のエタノールのピーク面積×各生成物の相対感度係数)}×100
尚、相対感度係数は、内部標準ガスとして用いた窒素との比の関係から検量線を作成し,次式により求めたものを使用した。
相対感度係数=(エタノールの検量線の傾き/エタノール1分子中の炭素数)/(各生成物の検量線の傾き/各生成物1分子中の炭素数)
さらに、アセトアルデヒドの反応選択率は、下記式により算出した。
アセトアルデヒドの反応選択率(%)=100×(アセトアルデヒド収率/エタノール転化率)
【0061】
実施例2の結果を表3に示す。表中、「AA」はアセトアルデヒド、「DEE」はジエチルエーテルを示す。
【0062】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅化合物が多孔体に担持されたアルコール脱水素反応触媒。
【請求項2】
多孔体がメソ多孔体である請求項1に記載のアルコール脱水素反応触媒。
【請求項3】
多孔体がメソポーラスシリカである請求項1に記載のアルコール脱水素反応触媒。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかの項に記載のアルコール脱水素反応用触媒とアルコールとを接触させて対応するアルデヒドを生成することを特徴とするアルデヒドの製造方法。
【請求項5】
アルコールがエタノールであり、アルデヒドがアセトアルデヒドである請求項4に記載のアルデヒドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−532(P2011−532A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145199(P2009−145199)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】