説明

アルデヒド基を備えるアミジン−カルボン酸ターフェニル会合体とその製法

【課題】
本発明は、酵素反応によらない合成二重鎖、もしくは三重鎖以上の多重鎖らせん会合体に、官能基を付加して機能性を向上させた材料を提供すること、及び、容易に種々の官能基を付加可能な会合体材料とその製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】
本発明は、保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体と、保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体との会合体、及びその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成二重鎖、あるいは多重鎖らせん高分子に、種々の官能基等を容易に付加することができる誘導体とその製造法に関する。
詳しくは、酵素反応によらない合成二重鎖、若しくは三重鎖以上の多重鎖らせん会合体は、それ自身、機能性に富む材料であるが、これらに容易に種々の官能基等を付加することが可能な材料とその製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
核酸は生体内に遍く存在し、遺伝現象や特異的蛋白質の合成にあずかる、人類にとり、最重要な生体高分子であることは疑う余地がない。核酸のような規則的で美しい相補的二重らせん構造を有する高分子物質を人工的に合成することは化学者の夢であった。最近になって、これが可能になりつつある。その一つの方法は、本発明者らが開発してきたアミジンとカルボン酸に代表される酸−塩基の塩橋を利用して相補的な二種類のらせん高分子を会合させる方法である(特許文献1参照)。もう1つの方法も本発明者らが開発してきたアミジンとカルボン酸に代表される酸−塩基の塩橋を利用して相補的な会合体を作り、これらを重合することにより、相補的二重らせんを形成する方法である(特許文献2参照)。
【0003】
こうした相補的合成二重鎖らせん高分子は、天然の核酸に一歩近づいた点で大きな意味を持つ。更に、こうした人工二重らせん高分子や人工多重らせん高分子は、天然の核酸を凌ぐ、大きな可能性を秘めていることが示唆されてきた(非特許文献1参照)。さらに、本発明者らは、こうしたらせん構造の隙間に機能性を付与する化合物、その他の物質を規則的に包含せしむることが可能であることを報告してきた(特許文献3参照)。
【0004】
もう一方の考え方は、らせん高分子そのものに官能基を付加し、この官能基に種々の機能性基、機能性材料を付加せしむることにより新たな機能性を見出そうとする試みである。しかしながら、この試みに充分に成功した例を未だ聞かない。
【0005】
【特許文献1】特願2007−61115号
【特許文献2】特願2007−266914号
【特許文献3】特願2006−238368号
【非特許文献1】G. Roelfes and B. L. Feringa, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 3230-3232.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酵素反応によらない合成二重鎖、もしくは三重鎖以上の多重鎖らせん会合体に、官能基を付加して機能性を向上させた材料を提供すること、及び、容易に種々の官能基を付加可能な会合体材料とその製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、酸−塩基による塩橋を利用した相補的ならせん分子、らせん高分子について、特に、アミジン基を有するターフェニル誘導体とカルボキシル基を有するターフェニル誘導体に、種々の機能性官能基や機能性付加物を付加することを目的に鋭意研究を続けてきた。その結果、こうした塩橋を形成する官能基の他に、アルデヒド基を導入すると、それ自身、新たな機能性を発揮するばかりでなく、任意の官能基や化合物を付加することができ、機能性の拡大が極めて容易であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体と、保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体との会合体、及びその製造方法に関する。
本発明をより詳細に説明すれば以下のとおりとなる。
(1)保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体と、保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体との会合体。
(2)保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体が、次の一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Zは保護されていてもよいアルデヒド基を表し、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜40の炭化水素基を表し、R及びRはそれぞれ独立して末端に保護基されていてもよい官能基を有する炭素数1〜30の飽和又は不飽和の炭化水素基を表す。)
で表されるターフェニル誘導体である前記(1)に記載の会合体。
(3)Zが、アミジン基のパラ位である前記(2)の会合体。
(4)保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体が、次の一般式(2)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Zは保護されていてもよいアルデヒド基を表し、R及びRはそれぞれ独立して末端に保護基されていてもよい官能基を有する炭素数1〜30の飽和又は不飽和の炭化水素基を表す。)
で表されるターフェニル誘導体である前記(1)に記載の会合体。
(5)Zが、カルボキシル基のパラ位である前記(4)の会合体。
(6)ターフェニル誘導体が、メタターフェニル誘導体である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の会合体。
(7)ターフェニル誘導体が、パラフェニレン誘導体を有するものである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の会合体。
(8)保護されていてもよいアルデヒド基が、アミジン基またはカルボキシル基に対してパラ位に結合していることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の会合体。
(9)保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体と、保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体との会合体が、らせん構造のユニットになることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の会合体。
(10)アミジン基が、光学活性な置換基を有する前記(1)〜(9)のいずれかに記載の会合体。
(11)保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体と、保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体とを、溶媒中で混合することからなる保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体と、保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体との会合体を製造する方法。
(12)保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体が、予めアルデヒド基を保護したハロゲン化ベンゼン誘導体を、強塩基の存在下で芳香族化合物とハートカップリング法によりカップリングさせ、次いでアミジン基を導入して製造されたものであり、保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体が、予めアルデヒド基を保護したハロゲン化ベンゼン誘導体を、強塩基の存在下で芳香族化合物とハートカップリング法によりカップリングさせ、次いでカルボキシル基を導入して製造されたものである前記(11)に記載の会合体を製造する方法。
(13)保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体が前記した一般式(1)であらわされるターフェニル誘導体であり、保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体が前記した一般式(2)で表されるターフェニル誘導体である前記(11)又は(12)に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の会合体は、特願2007−61115号に記載の方法や特願2007−266914号に記載の方法により、容易に酵素反応によらない合成二重鎖、もしくは三重鎖以上の多重鎖らせん会合体に変換することができ、官能基を付加して機能性を向上させた多重鎖らせん会合体構造を有する材料を提供することができる。また、本発明におけるアルデヒド基は容易に各種の官能基に変換することができるので、容易に種々の官能基を付加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の会合体の骨格を形成する分子もしくは高分子は、ターフェニル誘導体であれば何でも良いが、好ましくは、メタターフェニル誘導体が挙げられる。重合を容易にするためには、メタターフェニル構造のベンゼン環部分にパラフェニレン誘導体が結合したものが好ましい。
本発明の好ましいターフェニル誘導体としては、保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体、及び保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体が挙げられる。さらに好ましいターフェニル誘導体としては、前記一般式(1)で表されるターフェニル誘導体、及び前記一般式(2)で表されるターフェニル誘導体が挙げられる。
本発明の会合体は、これらのターフェニル誘導体からなるアミジニウム−カルボキシレート塩橋で形成された会合体である。
導入するアルデヒド基の位置は、カルボキシル基またはアミジン基に対してパラの位置が好ましい。これは、後に導入する種々の機能性付加物が立体障害を受けにくいからである。アルデヒド基の導入は、カルボキシル基あるいはアミジン基を導入した後でも良いが、カルボキシル基、もしくはアミジン基の導入に先んじて行うことができるもできる。
アルデヒド基は適宜保護されていてもよい。このような保護基としては特に制限はなく、合成化学において使用される(チオ)アセタール、オキシム、ヒドラゾンなどの各種のアルデヒド基の保護基が挙げられる。好ましい保護基としてはアセタール基が挙げられる。アセタールを形成させるためのアルコール類としては、一価又は二価若しくは多価のアルコールが挙げられる。好ましいアルコール類としては、2,2−ジメチルプロピレングリコールなどの二価アルコールが挙げられる。
【0015】
本発明における一般式(1)及び一般式(2)のR及びRにおける「炭素数1〜30の飽和又は不飽和の炭化水素基」としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数6〜30、炭素数6〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基;炭素数2〜30、好ましくは炭素数6〜30、炭素数6〜20の直鎖状又は分枝状のアルケニル基;炭素数2〜30、好ましくは炭素数6〜30、炭素数6〜20の直鎖状又は分枝状のアルキニル基;炭素数3〜30、好ましくは炭素数6〜30、炭素数6〜20の飽和又は不飽和の単環式、多環式又は縮合環式の脂環式炭化水素基;炭素数6〜30、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基;炭素数6〜30、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基(アリール基)に、前記した炭素数1〜30のアルキル基が結合した、炭素数7〜30、好ましくは炭素数7〜20、炭素数7〜15のアラルキル基(炭素環式芳香脂肪族基)などが挙げられる。好ましい基R及びRとしては、両者が同一の基であって、水素原子、炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状のアルキル基、又は炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状のアルキニル基が挙げられる。
及びRにおける「保護基されていてもよい官能基」としては、塩素原子、ヨー素原子などのハロゲン原子、保護されていてもよい水酸基、保護されていてもよいアミノ基、トリメチルシリル基などのトリアルキルシリル基などが挙げられる。
さらに好ましいR及びRとしては、2−トリメチルシリル−エチニル基が挙げられる。
【0016】
本発明の一般式(1)のR及びRにおける「炭素数1〜40の炭化水素基」としては、炭素数1〜40、好ましくは炭素数6〜40、炭素数6〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基;炭素数2〜40、好ましくは炭素数6〜40、炭素数6〜20の直鎖状又は分枝状のアルケニル基;炭素数2〜40、好ましくは炭素数6〜40、炭素数6〜20の直鎖状又は分枝状のアルキニル基;炭素数3〜40、好ましくは炭素数6〜40、炭素数6〜20の飽和又は不飽和の単環式、多環式又は縮合環式の脂環式炭化水素基;炭素数6〜40、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基;炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基(アリール基)に、前記した炭素数1〜40のアルキル基が結合した、炭素数7〜40、好ましくは炭素数7〜20、炭素数7〜15のアラルキル基(炭素環式芳香脂肪族基)などが挙げられる。好ましいアミジノ基の窒素原子における置換基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基などの炭素数7〜40、好ましくは炭素数7〜20、炭素数7〜15のアラルキル基が挙げられる。
好ましいR及びRの基としては光学活性を有する炭化水素基が挙げられる。例えば、R−フェニルエチル基が挙げられる。
【0017】
本発明のターフェニル誘導体は、公知の各種の方法により製造することができる。例えば、次に示す製造方法が挙げられる。
【0018】
【化3】

【0019】
この例について説明する。
まず、3,5−ジクロロベンズアルデヒド(3)と2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールを予め水分を除いたベンゼンに溶かし、p−トルエンスルホン酸を加えて脱水反応を行い、アルデヒド基をアセタールとして保護した2−(3,5−ジクロロフェニル)−5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン(4)を得る。
次に、(4)を用いてハート(Hart)カップリング反応を行い、二酸化炭素をバブリングして反応を停止させ、カルボキシル基を導入した2’−カルボキシ−5’−(5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−4,4”−ビス(トリメチルシリルエチニル)−1,1’:3’,1”−ターフェニル(5)とし、塩酸−THFで脱保護して目的とするアルデヒド基を有するカルボン酸(2’−カルボキシ−5’−ホルミル−4,4”−ビス(トリメチルシリルエチニル)−1,1’:3’,1”−ターフェニル)(1)を得る。
また、(4)を用いてハート(Hart)カップリング反応を行ったのちヨウ素で反応を停止させることにより、2’−ヨウ化−5’−(5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−4,4”−ビス(トリメチルシリルエチニル)−1,1’:3’,1”−ターフェニル(6)を得ることができる。
つぎに(6)をTHFに溶解させ、n−ブチルリチウムを用いてリチオ化し、(R,R)−N,N’−ビス(1−フェニルエチル)カルボジイミドと反応させることによりアミジン体((R,R)−2’−(N,N’−ビス(1−フェニルエチル)アミジノ)−5’−(5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−4,4”−ビス(トリメチルシリルエチニル)−1,1’:3’,1”−ターフェニル)(7)を得る。これを塩酸−THF混合溶媒中で処理して保護基を外すことにより、目的とするアミジン体((R,R)−2’−(N,N’−ビス(1−フェニルエチル)アミジノ)−5’ホルミル−4,4”−ビス(トリメチルシリルエチニル)−1,1’:3’,1”−ターフェニル)(2)を得ることができる。
【0020】
このようにして、両者とも、カルボキシル基またはアミジン基に対してパラの位置にアルデヒドを導入することができる。両者を溶媒中で混合すれば、容易に相補的な二重らせんのユニットとなる本発明の会合体を得ることができる。更に、これらを重合すれば、アルデヒド基、即ち、機能性付加物の導入可能な官能基を有する相補的な人工二重らせん高分子が得られる。
【0021】
反応の条件について、以下、詳述する。
アルデヒドの種類は、溶媒に溶ける物であれば何でも良いが、ジハロゲン系のものが好ましい。特に好ましくは、3,5−ジクロロベンズアルデヒドである。ジブロモフェニルアルデヒドは、好ましくない。
【0022】
アルデヒド基を持つ原料は、次の工程であるカルボキシル基やアミジン基の導入に先立ち、反応中に破壊されないように保護することが好ましい。保護の方法は、アセタール、モノチオアセタール、ジチオアセタール、ヒドラゾン、オキシムなどが好ましく、特に好ましくはアセタールである。
【0023】
溶媒は、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、等々が可能であるが、好ましくはベンゼン、トルエン、クロロベンゼンであり、特に好ましくはベンゼンである。その理由としては、沸点の低さが考えられる。アルデヒド原料の濃度は、50%以上、溶解度ぎりぎりまで可能であるが、均一な反応を進め、均一な目的物を得る為には、10%以下が望ましい。更に好ましくは0.1%〜5%の間である。これ以下では、目的物採取の効率が悪く、工業的実施には向かない。温度は、沸点以上であれば良いが、80℃〜110℃が好ましい。80℃以下では、反応の進行が遅く、工業的実施には向かない。
【0024】
次に、ハート(Hart)カップリング反応によるカルボキシル基の導入について詳述する。予め水分、溶存酸素を除いた溶媒にジクロマイド(4)を溶解させ、n−ブチルリチウムを加えた後に、4−トリメチルシリルエチニルフェニルマグネシウムブロマイドを加えて反応させる。最後に二酸化炭素ガスを吹き込んで反応を停止させ、カラムクロマトグラフィーで精製してカルボン酸(5)を得る。(5)を塩酸−THFで処理してアセタールの脱保護を行い、目的とするホルミル基を持つカルボン酸(1)を得る。
【0025】
ハート(Hart)カップリング反応を二酸化炭素ガスで停止させる際には、予め、乾燥窒素ガスで満たした反応容器に、二酸化炭素ガスを吹き込むことで調節する。二酸化炭素の分圧は、20%以上が好ましい。これ以下では、反応に時間がかかり過ぎ、工業的実施には向かない。
【0026】
更に、ハート(Hart)カップリング反応によるアミジン基の導入について詳述する。予め水分、溶存酸素を除いた溶媒に、ジクロマイド(4)を溶解させ、n−ブチルリチウムを加えた後に、4−トリメチルシリルエチニルフェニルマグネシウムブロマイドを加えて反応させる。最後にヨウ素を加えて反応を停止させ、カラムクロマトグラフィーで精製してヨウ素体(6)を得る。(6)をn−ブチルリチウムでリチオ化し、(R,R)−N,N’−ビス(1−フェニルエチル)カルボジイミドと反応させることによりアミジン(7)を得る。(7)を塩酸−THFで処理してアセタールの脱保護を行い、目的とするホルミル基を持つアミジン(2)を得る。
ハート(Hart)カップリング反応をヨウ素で停止させる際の温度は、25℃以下が望ましい。さらに望ましくは−10〜10℃である。−70℃以下では反応の進行が遅く、工業的実施には向かない。
【0027】
本発明の会合体は、アミジニウム−カルボキシレート塩橋で会合体を形成して二重鎖らせんモノマーを形成する。
二重鎖モノマーの形成は、一般に知られた方法のいずれを選択しても構わない。一般的には、水素イオン濃度が大小極端に偏った溶液中や高温条件下では生成した二重鎖モノマーが解離しやすいため、穏やかな条件が選択される。例えば、本発明の会合体はアミジニウム−カルボキシレート塩橋で会合体を形成しており、酸性条件、強塩基性条件下や、高温条件下では相補鎖(1)及び(2)は解離する。
したがって、本発明の会合体を二重鎖モノマーとして重合するためには、温和な条件で重合する必要がある。このような穏和な条件を満たすものとして、グレーサー(Glaser)カップリング反応があげられる。
Glaserカップリング反応は、末端エチニル基をカップリングさせる反応であって、触媒として少量のヨウ化銅を用い、テトラメチルエチレンジアミン存在下、室温で末端アセチレン誘導体からジアセチレン誘導体を生成する反応である。この方法の詳細については、特願2007−266914号(特許文献2)に記載されている。
本発明の会合体を二重鎖モノマーとして高分子や超分子を製造する方法について述べる。
二重鎖モノマーから高分子や超分子を製造するには、反応中に、二重鎖モノマーが解離しないような条件が必要である。二重鎖モノマーが解離しない条件として、極性の低い溶媒で重合することが望ましい。好ましくはクロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶媒や、トルエン、ベンゼン等の芳香族系溶媒である。特に好ましくは、クロロホルム、塩化メチレンである。
【0028】
また、二重鎖モノマーが解離しない条件として、低温で重合することが望ましい。好ましくは80℃以下であり、さらに好ましくは25℃以下である。二重鎖モノマーが解離しない条件での重合を行うに当たり、用いる触媒は水素結合を阻害しないものが好ましい。さらに好ましくは、水素結合を阻害しない金属触媒である。特に好ましくは、ヨウ化銅やホスフィンを配位子に有するパラジウムである。用いる添加剤についても同様に、二重鎖モノマーが解離しない、水素結合を阻害しないようなものが好ましい。さらに好ましくは、弱塩基性のアミン類である。特に好ましくは、テトラメチルエチレンジアミン等の窒素に直接水素原子が結合しないアミンである。
【0029】
得られた高分子の精製方法としては、二重鎖ポリマーが解離しないような条件が必要である。二重鎖ポリマーが解離しない方法として、反応溶液をそのまま、貧溶媒に投入し、一気にポリマーを析出させる方法が好ましい。用いる貧溶媒は、反応混合物中の触媒や添加剤を溶かし、二重鎖ポリマーが溶けないものであれば何でも良い。好ましくは、ヘキサン、アセトニトリル、メタノールが選択される。
【0030】
本発明を具体的に説明するために、以下に実施例を示す。本発明は、以下に記載する実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
(1)2−(3,5−ジクロロフェニル)−5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン(4)の合成:
ディーン−スターク装置のついたナスフラスコ中で、アルゴン雰囲気下、アルデヒド(3)(5.23g,29.9mmol)と2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(4.67g,44.8mmol)のベンゼン溶液(200ml)にp−トルエンスルホン酸一水和物(284mg,1.49mmol)を加え、24時間加熱還流させながら出てくる水分を除去する。室温まで下げてから、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過してろ液を減圧留去する。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにて精製し、目的とするアセタール(4)(7.12g,収率91%)を得る。
【0032】
(2)2’−カルボキシ−5’−(5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−4,4”−ビス(トリメチルシリルエチニル)−1,1’:3’,1”−ターフェニル(5)の合成:
アルゴン雰囲気下、ジクロリド(4)(1.00g,3.83mmol)のテトラヒドロフラン溶液(4.5ml)を−80℃に冷却し、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6mol/l,1.79ml,2.86mmol)を滴下しながら加え、その温度で1時間半撹拌する。そこへ4−トリメチルシリルエチニルブロモベンゼン(2.42g,9.57mmol)と金属マグネシウム片(0.25g,10.3mmol)から調製した4−トリメチルシリルエチニルフェニルマグネシウムブロマイド(9.57mmol)のTHF溶液(11ml)を30分以上かけてゆっくり滴下する。滴下終了後、室温で2時間撹拌し、さらに3時間半加熱還流する。その後、0℃に冷却し、二酸化炭素ガスを3時間バブリングし、室温、二酸化炭素ガス雰囲気下で一晩撹拌する。再び0℃に冷却し、1mol/lの塩酸(7ml)を加え、2時間撹拌し、酢酸エチル(2x10 ml)で抽出する。有機層を分離して水(10ml)、飽和食塩水(10ml)の順に洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過してろ液を減圧留去する。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにて精製し、目的とするカルボン酸(5)(422mg,収率19%)を得る。
【0033】
(3)2’−カルボキシ−5’−ホルミル−4,4”−ビス(トリメチルシリルエチニル)−1,1’:3’,1”−ターフェニル(1)の合成:
アセタール(5)(278mg,0.479mmol)のTHF溶液(11ml)に2mol/lの塩酸(5.5ml)を加え、50℃で3日間撹拌する。反応混合物をクロロホルム(50ml)と水(50ml)で分液し、有機層を分離して水(25ml)、飽和食塩水(25ml)の順に洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過してろ液を減圧留去する。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにて精製し、目的とするカルボン酸(1)(177mg,収率75%)を得る。
【0034】
(4)2’−ヨウ化−5’−(5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−4,4”−ビス(トリメチルシリルエチニル)−1,1’:3’,1”−ターフェニル(6)の合成:
アルゴン雰囲気下、ジクロリド(4)(1.00g,3.83mmol)のテトラヒドロフラン溶液(4.5ml)を−80℃に冷却し、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6mol/l,2.39ml,3.83mmol)を滴下しながら加え、その温度で1時間半撹拌する。そこへ4−トリメチルシリルエチニルブロモベンゼン(2.42g,9.57mmol)と金属マグネシウム片(0.25g,10.3mmol)から調製した4−トリメチルシリルエチニルフェニルマグネシウムブロマイド(9.57mmol)のTHF溶液(11ml)を30分以上かけてゆっくり滴下する。滴下終了後、室温で2時間撹拌し、さらに3時間半加熱還流する。その後、0℃に冷却し、ヨウ素(2.62g,10.3mmol)のTHF溶液(10ml)を滴下しながら加え、室温で一晩撹拌する。再び0℃に冷却し、20%亜硫酸ナトリウム水溶液(13ml)を加えて有機層を分取する。水層をジエチルエーテル(2x20ml)で抽出し、合わせた有機層を10%水酸化ナトリウム水溶液(20ml)、水(20ml)、飽和食塩水(20ml)の順に洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過してろ液を減圧留去する。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにて精製し、目的とするヨウ素体(6)(6.7mg,収率24%)を得る。
【0035】
(5)(R,R)−2’−(N,N’−ビス(1−フェニルエチル)アミジノ)−5’−(5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−4,4”−ビス(トリメチルシリルエチニル)−1,1’:3’,1”−ターフェニル(7)の合成:
アルゴン雰囲気下、ヨウ素体(6)(600mg,0.905mmol)のジエチルエーテル溶液(3.3.ml)を−80℃に冷却し、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6mol/l,0.622ml,0.996mmol)を滴下しながら加え、さらにテトラメチルエチレンジアミン(0.116g,0.996mmol)を加え、その温度で1時間半撹拌する。そこへ(R,R)−N,N’−ビス(1−フェニルエチル)カルボジイミド(0.25g,0.996mmol)のTHF溶液(1ml)を滴下しながら加え、その温度で15分撹拌する。さらに室温で一晩撹拌した後、0℃に冷却してから水(5ml)を滴下しながらゆっくり加え、ジエチルエーテル(3x5ml)で抽出する。合わせた有機層を飽和食塩水(5ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、ろ過してろ液を減圧留去する。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにて精製し、目的とするアミジン(7)(420mg,収率59%)を得る。
【0036】
(6)(R,R)−2’−(N,N’−ビス(1−フェニルエチル)アミジノ)−5’ホルミル−4,4”−ビス(トリメチルシリルエチニル)−1,1’:3’,1”−ターフェニル(2)の合成:
アセタール(7)(338mg,0.429mmol)のTHF溶液(14ml)に2 mol/lの塩酸(14ml)を加え、50℃で1日間撹拌する。反応混合物をクロロホルム(70ml)と10%水酸化ナトリウム水溶液(70ml)で分液し、有機層を分離して水(30ml)、飽和食塩水(30ml)の順に洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過してろ液を減圧留去する。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにて精製し、目的とするアミジン(2)(120mg,収率40%)を得る。
【実施例2】
【0037】
前記実施例1で製造したカルボン酸(1)(5.24mg,10.6mmol)とアミジン(2)(7.43mg,10.6mmol)をクロロホルム(3mL)中で混合し、溶媒を留去して得られた固体をベンゼンに溶解させて凍結乾燥することにより、目的とする(1)と(2)による本発明の会合体を白色固体として定量的に得た。
M.p. = 176-178 ℃;
H NMR (500 MHz, CDCl, 25 ℃, 3.5 mM): δ
13.22 (d, J = 8.5 Hz, 2H, NH), 10.21 (s, 1H, CHO),
10.06 (s, 1H, CHO), 7.96 (s, 2H, ArH), 7.87 (s, 2H, ArH),
7.71-7.61 (m, 8H, ArH), 7.37 (d, J = 8.3 Hz, 4H, ArH),
7.22-7.14 (m, 6H, ArH), 6.61-6.54 (m, 8H, ArH),
3.74-3.63 (m, 2H, CHN),
0.59 (d, J = 6.7 Hz, 6H, CHCHN),
0.31 (s, 18H, TMS), 0.27 (s, 18H, TMS);
FT−IR (KBr): ν :
2158 (C≡C), 1704 (CHO), 1651 (C=O or C=N), cm−1;
元素分析 C7678Siとして、
計算値: C,76.34; H,6.57; N,2.34.
実測値: C,76.33; H,6.52; N,2.35.
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の会合体は、これをそのまま、又は別々にして重合させることにより、酵素反応によらない合成二重鎖、もしくは三重鎖以上の多重鎖らせん会合体とすることができ、アルデヒド基のような多の官能基に変換容易な官能基を付加して機能性を向上させた材料とすることができる。したがって、本発明は、容易に種々の官能基を付加することができる会合体材料とその製造方法を提供でき、医薬品、触媒、各種工業薬品、偏光素子、その他の光学材料等々、多くの工業的な利用が可能であり、産業上の利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体と、保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体との会合体。
【請求項2】
ターフェニル誘導体が、メタターフェニル誘導体である請求項1に記載の会合体。
【請求項3】
ターフェニル誘導体が、パラフェニレン誘導体を有するものである請求項1又は2に記載の会合体。
【請求項4】
保護されていてもよいアルデヒド基が、アミジン基またはカルボキシル基に対してパラ位に結合していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の会合体。
【請求項5】
保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体と、保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体との会合体が、らせん構造のユニットになることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の会合体。
【請求項6】
アミジン基が、光学活性な置換基を有する請求項1〜5のいずれかに記載の会合体。
【請求項7】
保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体と、保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体とを、溶媒中で混合することからなる保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体と、保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体との会合体を製造する方法。
【請求項8】
保護されていてもよいアルデヒド基とアミジン基を具備するターフェニル誘導体が、予めアルデヒド基を保護したハロゲン化ベンゼン誘導体を、強塩基の存在下で芳香族化合物とハートカップリング法によりカップリングさせ、次いでアミジン基を導入して製造されたものであり、保護されていてもよいアルデヒド基とカルボキシル基を具備するターフェニル誘導体が、予めアルデヒド基を保護したハロゲン化ベンゼン誘導体を、強塩基の存在下で芳香族化合物とハートカップリング法によりカップリングさせ、次いでカルボキシル基を導入して製造されたものである請求項7に記載の会合体を製造する方法。

【公開番号】特開2009−242295(P2009−242295A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90590(P2008−90590)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】