説明

アルデヒド類の製造方法、シリンガ酸の製造方法及び3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドの製造方法

【課題】分子内にカルボキシル基と水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物からアルデヒド類を高い収率で製造することができるアルデヒド類の製造方法、バニリン酸から食品や化粧品等に香料として使用されるバニリンを高い収率で製造することができるバニリンの製造方法、並びに、没食子酸から3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドを高い収率で製造することができる3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドの製造方法の製造方法を提供する。
【解決手段】分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を亜臨界状態の水によって100〜300℃で処理するアルデヒド類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子内にカルボキシル基と水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物からアルデヒド類を高い収率で製造することができるアルデヒド類の製造方法、バニリン酸から食品や化粧品等に香料として使用されるバニリンを高い収率で製造することができるバニリンの製造方法、並びに、没食子酸から3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドを高い収率で製造することができる3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バニリン等の植物ポリフェノールは、薬物の材料や食品や化粧品の香料に使用される有用な香料である。しかし、例えば、バニリンは、本来植物バニラから抽出し製造されてきたが、このような方法では、大量の原料から微量しか採ることができないという問題があった。
【0003】
バニリンを工業的に生産する方法としては、例えば、特定の細菌を培養し抽出する方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。しかしながら、これらの方法は、複雑かつ多くの工程を要するため安価にバニリンを生産することは困難であった。
【0004】
特許文献3には、パルプの廃材等のリグニンから超臨界水処理での加水分解による有用な植物ポリフェノールを分解回収する方法が報告されている。
しかしながら、特許文献3に記載の方法により得られるバニリン等の植物ポリフェノールの収量はかなり少量であり、多量のバニリン等の植物ポリフェノールを製造する方法とは言い難く、また、目的物である植物ポリフェノール以外の化合物も多く抽出されてしまい、その中から植物ポリフェノールを精製するのに多大な手間を要するといった問題もあった。
【0005】
また、バニリン酸は、バニリンに比べて市場において容易かつ安価に入手できる物質であるため、バニリン酸を原料としてバニリンを容易に製造することができれば、有用なバニリンの製造方法になると期待される。しかしながら、バニリン酸を原料としてバニリンを製造することは非常に困難であり、未だ有用な方法は報告されていない。
【0006】
その他、タンニン酸を酸(塩酸等)によりアルデヒド化した化合物と「ふのり」と混合した組成物は、フィルム状にした防犯フィルムやガラス表面に塗布したりして利用されているが、このアルデヒド化に用いる酸は、廃棄に中和等が必要となり生成する塩が環境汚染する等の問題もあり、環境を害しない酸からアルデヒドへの転換方法が求められていた。
【特許文献1】特開平11−69990号公報
【特許文献2】特表2003−520580号公報
【特許文献3】特開平11−292799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、分子内にカルボキシル基と水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物からアルデヒド類を高い収率で製造することができるアルデヒド類の製造方法、バニリン酸から食品や化粧品等に香料として使用されるバニリンを高い収率で製造することができるバニリンの製造方法、並びに、没食子酸から3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドを高い収率で製造することができる3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を亜臨界状態の水によって100〜300℃で処理するアルデヒド類の製造方法である。
【0009】
また、本発明は、バニリン酸を亜臨界状態の水によって200〜250℃で処理する工程を有するバニリンの製造方法である。
【0010】
また、本発明は、没食子酸を亜臨界状態の水によって200〜250℃で処理する工程を有する3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、分子内にカルボキシル基と水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を所定の温度範囲内で亜臨界状態の水で処理することで、芳香族化合物が還元されてアルデヒド類が製造されることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、本発明者らは、市場において安価に入手可能なバニリン酸を原料にしてバニリンを製造する方法について鋭意検討した結果、驚くべきことに所定の温度範囲内で亜臨界状態の水を用いてバニリン酸を処理することで、バニリン酸が還元されてバニリンが製造されることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、本発明者らは、没食子酸を原料にして所定の温度範囲内で亜臨界状態の水で処理することで、分子中のカルボキシル基が還元されて3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドが製造されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明のアルデヒド類の製造方法は、分子内にカルボキシル基と水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を亜臨界状態の水によって処理する工程を有する。
上記アルコキシ基としては特に限定されず、例えば、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられ、好ましくはメトキシ基である。
【0013】
上記分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物としては特に限定されず、例えば、バニリン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、3−メトキシベンゼン酸、シリンガ酸、没食子酸(ガリック酸)等、及び、これらの誘導体、また、タンニン酸等のこれらの多量体等が挙げられる。
【0014】
本発明のアルデヒド類の製造する方法では、上記分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を亜臨界状態の水で処理をする。
本発明では、処理の媒体として水を用いるため、安価であることに加え、無毒であることから環境に悪影響を与えず、回収等のコストを抑えることができる。更に、亜臨界状態の水を用いることから、亜臨界状態の水中では雑菌やプリオン等の異常タンパク質等の分解が進むため、本発明により得られるアルデヒド類中にこれらの雑菌や異常タンパク質が混入することを防ぐことができる。
また、本発明のアルデヒド類の製造方法において、処理の媒体は、主成分が水であることが好ましい。
【0015】
上記亜臨界状態とは、超臨界状態以外の状態の水であって、反応時の圧力、温度をそれぞれP、Tとしたときに、0.1<P/Pc<1.0かつ0.5<T/Tc、又は、0.1<P/Pcかつ0.5<T/Tc<1.0の状態の水を意味する。なお、Pc及びTcは、それぞれ水の臨界圧力及び臨界温度を表し、水は、647K以上かつ22MPa以上において超臨界状態になる。
従って、圧力が0.1MPaを超えて22MPa未満かつ温度が324Kを超える場合、又は、圧力が0.1MPaを超えかつ温度が324Kを超えて647K未満である場合に、水は亜臨界状態となる。
【0016】
なお、上記亜臨界状態の水で上記分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を処理する際には、必要に応じてメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールや、二酸化炭素、窒素、酸素、ヘリウム、アルゴン、空気等の常温常圧で気体である流体等を併用してもよい。
【0017】
上記亜臨界状態の水で上記分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を処理する際の温度の下限は100℃であり、上限は300℃である。100℃未満であると、目的物であるアルデヒド類以外の物質の生成量が増加してしまい、目的物であるアルデヒド類の生成が煩雑となる。300℃を超えると、目的物であるアルデヒド類が分解又は他の物質に転換してしまう。なお、亜臨界状態の水で処理する際の温度は、上記常温常圧で気体である流体を併用する場合は、併用する流体の種類や量に合わせて適宜変更してもよい。
【0018】
上記亜臨界状態の水で上記分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を処理する際の圧力は、水が上述した亜臨界状態を保つ範囲内であれば特に限定されないが、好ましい下限2.7MPa、好ましい上限は6.0MPaである。2.7MPa未満であると、目的物であるアルデヒド類以外の生成量が増加し、目的物であるアルデヒド類の生成が煩雑となることがあり、6.0MPaを超えると、目的物であるアルデヒド類が分解又は他の物質に転換してしまうことがある。
【0019】
上記亜臨界状態の水で上記分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を処理する際の時間としては特に限定されず、使用する分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物の種類等によって適宜最適な時間が選択されるが、例えば、バニリン酸を用いた場合、好ましい下限は5分/g、好ましい上限は90分/gであり、より好ましい下限は10分/g、より好ましい上限は60分/gである。5分/g未満であると、未分解状態のバニリン酸が多く、目的物であるアルデヒド類の生成が不充分となることがあり、90分/gを超えると目的物であるアルデヒド類の分解又は他の物質に転換してしまうことがある。
【0020】
上記亜臨界状態の水を用いて上記分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を処理する方法としては、例えば、図1に示すような簡単な処理装置を用いて行うことができる。図1(a)は、本発明のアルデヒド類の製造方法で使用可能な処理装置の一例を模式的に示す正面図であり、(b)は、その側面図である。
なお、本発明のアルデヒド類の製造方法で使用可能な処理装置は、分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物と亜臨界状態の水とを上述した条件で処理することができるものであれば、図1に示す構造のものに限定されることはない。
【0021】
図1に示すように、本発明で使用可能な処理装置1は、主に管状の製造容器2と、製造容器2を収容し、半円柱状の下部容器3と上部容器4とが蝶着された構造の収容容器とから構成されている。
上記収容容器は、図1(b)に示すように、内部に製造容器2を収容できるよう下部容器3と上部容器4とが対峙する面に溝が、その長さ方向に平行な方向に設けられている。更に、該溝部分の周囲には、収納した製造容器2を加熱するヒーターと温度センサーとが埋め込まれており、上記ヒーターによる製造容器2の加熱温度の制御することができるようになっている。
【0022】
製造容器2は、原料である分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物と亜臨界状態の水とを反応させるための容器であり、これらを収容するための空間を有する中空構造の容器である。
【0023】
製造容器2は、亜臨界状態の水を用いる過酷な反応条件下で反応を行うため、このような条件に耐えられる材質及び肉厚の容器が使用される。具体的な材質としては、例えば、炭素鋼、Ni、Cr、V、Mo等の特殊鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、ハステロイ、チタン又はこれらにガラス、セラミック、カーバイト等をライニング処理した鋼材、他の金属をクラッドした鋼材等が挙げられる。
【0024】
製造容器2の形状としては特に限定されず、例えば、槽型、管型、特殊形状等任意の形状が挙げられる。なかでも、耐熱、耐圧性能が必要であるので槽型又は管型が好ましい。
なお、製造容器2が管型である場合、直線状の管であってもよく、コイル状に巻いた構造の菅や、U字型に折り曲げられた構造の管であってもよい。
【0025】
また、製造容器2内には金属ボールや所定形状の障害物が備えられていることが好ましい。内部に金属ボール等障害物が備えられていると、上記分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物と亜臨界状態の水との反応時に、亜臨界状態にある水に乱流が生じ攪拌効率が高められ、反応効率を上げることができる。更に、製造容器2が金属ボール等で充填されていると容器を振とうするだけで攪拌効率が高くなり好ましい。
【0026】
製造容器2が上記金属ボールで充填されている場合、その充填率の好ましい下限は20体積%、好ましい上限は80体積%である。この範囲外であると、上述した攪拌効率が悪くなることがある。
【0027】
上記金属ボールの材料としては特に限定されず、例えば、上述した製造容器2を構成する材料と同じ材料が挙げられる。また、その直径は、特に限定されず、例えば、製造容器2の内部空間の大きさに合わせて上述した充填率となるよう適宜調整される。なお、直径の異なる2種以上の金属ボールを用いれば、充填率を向上させることができ、攪拌効率を上げることができるため、より好ましい。
【0028】
また、製造容器2内にはオリフィスが開いている板が備えられていることが好ましい。製造容器2内にオリフィスが開いている板が備えられていると、振とうにより乱流が発生するので攪拌効率が高められ反応効率を上げることができる。
このような板の材料としては特に限定されず、例えば、上述した製造容器2を構成する材料と同じ材料が挙げられる。また、上記板の大きさ、並びに、オリフィスの数及び大きさ等は、特に限定されず、製造容器2の内部空間の大きさ等を考慮して適宜決定される。
【0029】
上記収容容器(下部容器3及び上部容器4)を構成する材料としては特に限定されず、例えば、上述した製造容器2と同様の材料や、セラミック等が挙げられる。
【0030】
図1に示した処理装置1を用いて分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を亜臨界状態の水で処理するには、まず、下部容器3と上部容器4とに設けられた溝に製造容器2を収納する。このとき、図1(a)及び(b)に示すように、製造容器2の両末端部分は、外部に突出した状態となっている。
次に、所定量の水と分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物とを製造容器2に送り込み、温度センサーで温度をモニタリングしながらヒーターで製造容器2内の水が亜臨界状態となるまで加熱する。そして、所定の時間分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物と亜臨界状態の水とを反応させた後、氷水等を用いて製造容器2を冷却し、製造容器2内を常温常圧に戻す。
【0031】
なお、本発明のアルデヒド類の製造方法では、上記分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物と水とを混合し、この混合物を加熱及び加圧して混合物中の水を亜臨界状態にしてもよいし、上記分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物に亜臨界状態にした水を加えてもよい。すなわち、上述した処理装置1を用いる場合、製造容器2中に分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物と水とを供給してから加熱及び加圧して水を亜臨界状態としてもよく、製造容器2に供給した分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物に亜臨界状態の水を供給してもよく、更に、製造容器2に収容した亜臨界状態の水中に分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を供給してもよい。
【0032】
本発明のアルデヒド類の製造方法による処理後の物質から、アルデヒド類を同定する方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、処理後の水溶液に高速クロマトグラフィー(カラム:Shim−pak CLC−ODS、島津製作所製)を行い、その後、質量分析(カラム:TSK−GELODS−80TM(4.6×150mm)、東ソー社製、分析装置:Waters社製)する方法等が挙げられる。
【0033】
また、本発明のアルデヒド類の製造方法では、上記亜臨界状態の水に代えて亜臨界又は超臨界状態の二酸化炭素を用いて上記分子内にカルボキシル基と水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を処理することにより、上記アルデヒド類を得ることができる。
上記亜臨界又は超臨界状態の二酸化炭素を用いて分子内にカルボキシル基と水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物処理する場合、その処理条件は、上述した亜臨界状態の水による処理条件と異なることとなり、例えば、処理温度は、亜臨界状態の水で処理するよりも低温での処理が可能となる。
【0034】
本発明のアルデヒド類の製造方法によると、上記分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物の上記カルボキシル基が、上記亜臨界状態の水によりアルデヒド基に還元され、アルデヒド類が製造される。従って、例えば、上記分子内にカルボキシル基と、水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物としてバニリン酸を用いた場合、バニリンが製造され、p−ヒドロキシ安息香酸を用いた場合、ヒドロキシベンズアルデヒドが製造され、3−メトキシベンゼン酸を用いた場合、m−メトキシベンズアルデヒドが製造され、シリンガ酸を用いた場合、シリンガアルデヒドが製造され、没食子酸(ガリック酸)を用いた場合、3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドが製造される。なかでも、バニリン酸を用いてバニリンを製造する方法、及び、没食子酸を用いて3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドを製造する方法が工業的に特に有用である。
これらのバニリン酸を用いてバニリンを製造する方法、及び、没食子酸を用いて3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドを製造する方法もまた、それぞれ本発明の1つである。
【0035】
本発明のバニリンの製造方法は、バニリン酸を亜臨界状態の水によって200〜250℃で処理する工程を有するものである。
このようなバニリン酸を用いた本発明のバニリンの製造方法において、上記バニリン酸としては、市場において安価に入手することができる市販のものであってよい。
【0036】
本発明のバニリンの製造方法において、反応時間としては特に限定されないが、例えば、反応温度が250℃の場合、5〜90分でほぼ100%のバニリンを得ることができる。
【0037】
また、本発明の3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドの製造方法は、没食子酸を亜臨界状態の水によって200〜250℃で処理する工程を有するものである。
このような没食子酸を用いた本発明の3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドの製造方法において、上記没食子酸としては、例えば、市販のシグマ社製のものを用いることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、分子内にカルボキシル基と水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物からアルデヒド類を高い収率で製造することができるアルデヒド類の製造方法、バニリン酸から食品や化粧品等に香料として使用されるバニリンを高い収率で製造することができるバニリンの製造方法、並びに、没食子酸から3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドを高い収率で製造することができる3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドの製造方法を提供することができる。
また、本発明のアルデヒド類の製造方法で得られたアルデヒド類は、生花を長持ちさせることができる。
また、本発明のバニリンの製造方法によると、市場において安価に入手可能なバニリン酸を用いて極めて高い収率で、高純度のバニリンを、容易かつ安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
バニリン酸1gと蒸留水4mLを製造容器(管型容器、SUS316製、Tube Bomb Reacter、内容積10mL:AKICO社製)に入れ、250℃、3MPaに加熱及び加圧して亜臨界状態とした水により60分間処理を行った。処理装置は、バッチ式を使用した。60分間反応後、氷水に容器ごとつけて冷却した。
得られた溶液をそれぞれ5倍希釈、10倍希釈し、ヒャクニチソウ(サンプル数=2)を室温18〜25℃(昼は日光あり、夜は暗い状態)に放置し、目視評価を行った。結果を表1に示した。
【0041】
得られた水溶液について、高速液体クロマトグラフィーを島津製作所製のカラム「Shim−pak CLC−ODS」を用い、移動相;H2O 2902.95mL、メタノール 31.5mL、プロパノール 5.55mL、酢酸 60mL、酢酸ナトリウム 8.17g、カラム温度50℃、流速1mL/分、検出波長280nmの条件で行った。
【0042】
化合物の同定には、質量分析を行い、東ソー社製のカラム「TSK−GELODS−80TM(4.6×150mm)」を用い、移動相;H2O 2902.95mL、メタノール 31.5mL、プロパノール 5.55mL、酢酸 60mL、酢酸アンモニウム 2.56g、カラム温度50℃、流速1mL/分、検出波長280nmの条件で行った。各ピークにについて質量分析装置(Waters社製)により分析したところ、バニリンに相当する質量の物質の存在を確認できた。
【0043】
(実施例2)
バニリン酸1gに代えて没食子酸を用い、亜臨界状態の水を用いた処理条件を250℃、3MPaとした以外は、実施例1と同様に処理を行った。その後、得られた水溶液について、実施例1と同様にして化合物の同定を行ったところ、3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドに相当する質量の物質の存在を確認できた。なお、生成された3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドのピーク面積は809であった。
【0044】
(比較例1)
80℃水で処理した以外は、実施例1と同様の条件で処理を行った。
その後、得られた水溶液について、実施例1と同様の条件で高速液体クロマトグラフィーを行い、更に、実施例1と同様にして化合物の同定を行った。
その結果、バニリンに相当する質量の物質の存在は確認できなかった。
【0045】
(比較例2)
処理条件を350℃とした超臨界水を用いた以外は、実施例1と同様の条件で処理を行った。
その後、得られた水溶液について、実施例1と同様の条件で高速液体クロマトグラフィーを行い、更に、実施例1と同様にして化合物の同定を行った。
その結果、バニリンの存在は確認できなかった。
【0046】
(比較例3)
バニリン酸1gに代えて安息香酸を用い、亜臨界状態の水を用いた処理条件を250℃、3MPaとした以外は、実施例1と同様に処理を行った。その後、得られた水溶液について、実施例1と同様にして化合物の同定を行ったところ、バニリンに相当する質量の物質の存在を確認できなかった。
【0047】
(比較例4)
亜臨界状態のエタノール(99.5%)を用いた処理条件を250℃、3MPaとした以外は、実施例1と同様に処理を行った。その後、得られた水溶液について、実施例1と同様にして化合物の同定を行ったところ、高速液体クロマトグラフィーではバニリンに相当するピークは確認できなかった。その後、質量分析を行ったところ、非常に極微量のバニリンに相当する質量の物質の存在を確認できた。また、同様にして処理条件100℃、250℃にして化合物の同定を行ったが、高速液体クロマトグラフィーではバニリンに相当するピークは確認できず、質量分析にて非常に極微量のバニリンに相当する質量の物質の存在を確認できた。
【0048】
(比較例5)
還元剤として0.125mol/Lのシュウ酸を用いた水溶液を処理条件を250℃、3MPaにて亜臨界状態としたとした以外は、実施例2と同様に処理を行った。その後、得られた水溶液について、実施例1と同様にして化合物の同定を行ったところ、3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドに相当する質量の物質の存在を示すピークが小さくなった。3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドのピーク面積は330であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、分子内にカルボキシル基と水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物からアルデヒド類を高い収率で製造することができるアルデヒド類の製造方法、バニリン酸から食品や化粧品等に香料として使用されるバニリンを高い収率で製造することができるバニリンの製造方法、並びに、没食子酸から3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドを高い収率で製造することができる3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドの製造方法法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(a)は、本発明のアルデヒド類の製造方法において使用可能な処理装置の一例を模式的に示す正面図であり、(b)は、(a)に示した処理装置の側面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 処理装置
2 製造容器
3 下部容器
4 上部容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にカルボキシル基と水酸基及び/又はアルコキシ基とを有する芳香族化合物を亜臨界状態の水によって100〜300℃で処理する工程を有することを特徴とするアルデヒド類の製造方法。
【請求項2】
バニリン酸を亜臨界状態の水によって200〜250℃で処理する工程を有することを特徴とするバニリンの製造方法。
【請求項3】
没食子酸を亜臨界状態の水によって200〜250℃で処理する工程を有することを特徴とする3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−222679(P2008−222679A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67002(P2007−67002)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(502165942)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】