説明

アルブミン測定試薬

【課題】操作が簡便で、かつ測定精度、特異性、再現性に優れたヒト及び/又はウシアルブミンの測定試薬を提供すること。
【解決手段】被験試料中のアルブミンを測定する試薬において、ヒトアルブミンを認識しウシアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体及び/又はウシアルブミンを認識しヒトアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体を構成成分とすることを特徴とするアルブミン測定試薬が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒトアルブミンとウシアルブミンを分別認識可能なモノクローナル抗体を使用する、高感度の被験試料中のアルブミンの測定試薬に関し、種々のアルブミンを使用する細胞工学分野等で有用である。
【背景技術】
【0002】
糖尿病性腎症は、糖尿病の主要な合併症の一つであり、旧来は検尿法により尿タンパク陽性で診断されている。しかし、この方法によって診断される時期には既に腎不全が進行している場合が多いため、これに代わる早期診断法の構築が望まれている。
【0003】
近年、尿中タンパクの増加に先立ち、微量のアルブミンが尿中に認められることが明らかになり、糖尿病性腎症の早期診断マーカーとしてアルブミンが注目されている。又、早期診断の測定法としては、抗原であるアルブミンに特異的に結合する抗体の利用が有利である。
【0004】
一方、ヒトやウシのアルブミンは血清から精製され、生化学実験、分子生物学実験、免疫学実験に、モデルタンパク質、キャリアタンパク質として多用される。またリコンビナント製剤の製造工程でもその安定化のために、ヒトやウシ血清アルブミンが添加されている。さらに動物細胞の培養工程においてもヒトやウシ血清アルブミンが添加され使用されている。
【0005】
このため、近年試料中のアルブミンを簡便に分別治療する技術の提供がもとめられ、2種のポリクローナル抗体を組み合わせて使用する、ヒトアルブミンやウシアルブミン測定用のエンザイムイムノアッセイ(EIA)試薬も市販されている(シバヤギ社製「レビス(登録商標)アルブミン−ウシ」、Cygnus Technologies社製「Immunoenzymetric Assay for the Measurement of Human Serum Albumin」)。
【0006】
また、特許文献1は、ヒト血清アルブミンに対する1つのモノクローナル抗体を報告している。しかしながら、特許文献1に報告されるモノクローナル抗体は、ヒト以外の動物由来のアルブミンに、ヒト由来のアルブミンの測定値の10%を超える交差反応性を示し、抗体の特異性に問題がある。さらに、アルブミンの測定限界が不明である。
【0007】
【特許文献1】特表昭63−500614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ポリクローナル抗体を用いてエンザイムイムノアッセイを行う場合は、ポリクローナル抗体中に夾雑抗原に対する抗体が含まれる可能性があり、特異性の面で課題がある。また、抗原吸収法により抗体の交差反応性を除去して測定試薬が調製されることから、一定品質の試薬を安定して製造し、供給する面でも課題があった。さらに近年、ヒトアルブミンに混入する血液介在性ウイルス(パルボウイルスB19、プリオン、輸血伝播ウイルス[TTV])、ウシ血清に混入するウシ指向性ウイルスやプリオンなど混入のリスクを算出するために、ヒト及びウシアルブミンを分別定量する技術の開発の要望が高まっている。
そこで、本発明の課題は、操作が簡便で、かつ測定精度、特異性、再現性に優れたヒト及び/又はウシアルブミンの高感度測定試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意努力を重ね、従来入手されていなかった2種の抗ヒトアルブミンモノクローナル抗体及び2種の抗ウシアルブミンモノクローナル抗体の創成に成功し、これらのモノクローナル抗体を使用することにより、従来の課題が解決されることを見出し本発明を完成させた。
【0010】
本発明の第1の発明は、被験試料中のアルブミンを測定する試薬において、ヒトアルブミンを認識しウシアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体及び/又はウシアルブミンを認識しヒトアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体を構成成分とすることを特徴とするアルブミン測定試薬に関する。
【0011】
本発明の第1の発明において、ヒトアルブミンを認識しウシアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体モノクローナル抗体が寄託番号FERM P−21371で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体hAlb 3−7A及び寄託番号FERM P−21370で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体hAlb 2−10Dであり、ウシアルブミンを認識しヒトアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体モノクローナル抗体が寄託番号FERM P−21373で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体FCS−BSA 8D−3B及び寄託番号FERM P−21374で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体FCS−BSA 10B−12であってもよい。また、測定方法としてエンザイムイムノアッセイを用いてもよく、固相抗体を使用してもよい。
【0012】
本発明の第2の発明は、本発明の第1の発明のアルブミン測定試薬を使用する被検試料中のヒト及び/又はウシアルブミンの測定方法に関する。本発明の第2の発明において、被験試料が、生体由来試料又は細胞培養由来試料から選ばれてもよい。
【0013】
本発明の第3の発明は、寄託番号FERM P−21371で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体hAlb 3−7A、寄託番号FERM P−21370で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体hAlb 2−10D、寄託番号FERM P−21373で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体FCS−BSA 8D−3B及び寄託番号FERM P−21374で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体FCS−BSA 10B−12から選択されるヒト又はウシアルブミンを認識するモノクローナル抗体に関する。
【0014】
本発明の第4の発明は、寄託番号FERM P−21371で表されるハイブリドーマ細胞、寄託番号FERM P−21370で表されるハイブリドーマ細胞、寄託番号FERM P−21373で表されるハイブリドーマ細胞及び寄託番号FERM P−21374で表されるハイブリドーマ細胞から選択される、ヒト又はウシアルブミンを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、操作が簡便で、測定精度が高く、特異性、再現性にも優れたヒト及び/又はウシアルブミンの測定試薬が安定して提供される。
本発明の試薬の態様としては、サンプル中のヒト及び/又はウシアルブミンの絶対量の変化を調べることができ、ヒト及び/又はウシアルブミンのモニタリングや製造工程での品質管理、定量の測定手法として用いることができる。さらに、本発明の試薬は、異種のアルブミンを認識しないため、異種のアルブミンが混在する可能性のあるサンプルであっても、特異的かつ正確にヒト及び/又はウシアルブミンを測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明で「アルブミン」とは血中に存在する分子量約66,000のタンパク質であり、血中には非常に高濃度で存在しており、脂肪酸をはじめ種々の物質と複合体を形成するなどして、物質運搬に一役かっている。アルブミンは、その代謝の結果、正常な状態でも、尿中に10〜50μg/mL濃度で排出されており、そのモニタリングは、健康状態を知る上で有用である。本発明により測定されるアルブミンは、血中に存在する天然のアルブミン、生体から分離された肝細胞や膵臓細胞などのアルブミンを産生しうる細胞を人為的に培養した培養上清中に遊離されるアルブミン、さらに、肝細胞のmRNAやそのcDNA等を用いて遺伝子工学的に作製したリコンビナントのアルブミンも含まれる。
【0017】
本発明で「モノクローナル抗体」とは、単一クローンの抗体生産細胞が分泌する抗体を意味し、単クローン(性)抗体ともいう。特定の抗原決定基を認識する抗体であり、アミノ酸配列の一次構造が均一である。本発明のモノクローナル抗体は、細胞融合法により調製されるハイブリドーマが産生する抗体に加えて、抗体産生細胞のmRNA等を用いて遺伝子工学的に作製された抗体も含まれる。
【0018】
本発明で、特定の種由来の「アルブミンを認識しない」とは、本発明に使用されるモノクローナル抗体が、前記特定の種由来のアルブミンと免疫反応を強く起こさないことを意味する。特に限定はされないが、例えば、本発明に使用されるモノクローナル抗体を用いて、同濃度の当該モノクローナル抗体が認識するアルブミンと認識しないアルブミンを測定した場合、認識するアルブミンの測定値に比べて、認識しないアルブミンの測定値が、極めて低値、又は実質的に測定値として意味の無い数値であり、1%以下、好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.01%以下である。最も好ましいのは、本発明に使用されるモノクローナル抗体が認識しないアルブミンの測定値が検出限界以下となることである。
【0019】
(1)本発明のアルブミン測定試薬
すなわち本発明を概説すれば、本発明は被験試料中のアルブミンを測定する試薬において、ヒトアルブミンを認識しウシアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体及び/又はウシアルブミンを認識しヒトアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体を構成成分とすることを特徴とするアルブミン測定試薬に関するものである。したがって、本発明のアルブミン測定試薬は、ヒトアルブミンとウシアルブミンが混在した試料であっても、ヒトアルブミンとウシアルブミンをそれぞれ特異的に測定することができる。本発明の一態様として、前記のヒトアルブミンを認識する2種のモノクローナル抗体及びウシアルブミンを認識する2種のモノクローナル抗体を含むアルブミン測定試薬は、ヒトアルブミン及びウシアルブミンを同時に検出することができる。
【0020】
本発明に使用されるモノクローナル抗体は、前述のヒトあるいはウシを抗原として認識し、かつそれぞれの動物種のアルブミンを特異的かつ高感度で検出できるモノクローナル抗体であればいかなるものでも良い。また、本発明に使用されるモノクローナル抗体は、ヒトあるいはウシアルブミンの異なる部位を認識する。これらの認識部位は特に限定はされないが、2種の抗体が互いに干渉しない部位であることが好ましい。本発明に使用されるモノクローナル抗体は、ヒトアルブミン及びウシアルブミンが混在した試料であっても、ヒトアルブミンとウシアルブミンをそれぞれ特異的に測定することができる。
【0021】
また、ヒトあるいはウシアルブミンを認識しうる本発明の抗体にペプシン、パパイン等のタンパク質分解酵素を作用させ、抗体のFc部分を除去して得られる、F(ab’)、Fab’、Fab等のフラグメントも本発明で使用する抗体に含まれる。
【0022】
さらに、得られたモノクローナル抗体をもとに、遺伝子工学的に製造される組換え抗体や、定常領域を他の抗体の定常領域に置換したキメラ抗体であっても良い。このような抗体は、二重特異性抗体(二価抗体)、scFv、Fab、Diabody、Triabody、Tetrabody、Minibody、Bis−scFv、(scFv)−Fc、intact−IgGが例示され、Holligerら、Nature Biotechnology、第23巻、第9号、p.1126−36(2005)に詳述される。
【0023】
本発明に使用されるモノクローナル抗体は、いわゆる細胞融合法によって作製されたハイブリドーマを使用して製造される。前記ハイブリドーマは、抗体産生細胞の集団と骨髄腫細胞と融合ハイブリドーマを形成させ、該ハイブリドーマをクローン化し、ヒト又はウシアルブミン認識する抗体を産生するクローンを取捨選択し、さらに本発明の目的に好適なクローンを選別することによって樹立される。
抗体産生細胞には、例えばヒト又はウシアルブミン又はその一部によって免疫された動物の脾細胞、リンパ節細胞、Bリンパ球等が利用できる。免疫させる動物としては、マウス、ラツト、ウマ、ヤギ、ウサギ等が挙げられる。抗原としてはウシアルブミンもしくはヒトアルブミン、及びその断片が利用可能であり、例えば次のようにして製造され、免疫に使用される。例えば免疫原として用いるウシアルブミンもしくはヒトアルブミンを天然から得る場合は、ウシアルブミンもしくはヒトアルブミンを含む血清画分あるいは血漿画分から塩析、透析やアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー等各種クロマトグラフィーを用いて精製することが可能である。また、ウシアルブミンもしくはヒトアルブミンを産生する肝細胞等、適当な細胞を培養し、その培養上清から精製することも可能である。かくして得られたウシアルブミンもしくはヒトアルブミンを、例えばKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)に代表されるキャリアタンパクと結合後、またはPVP(ポリビニルピロリドン)と混合後、フロイントのアジュバントと混合し、動物の免疫に使用する。又はウシアルブミンもしくはヒトアルブミンを直接フロイントのアジュバントと混合し、動物の免疫に使用する。免疫は動物の皮下、筋肉内あるいは腹腔内に1回に20〜200μgの抗原−アジュバント混合物を、2〜3週間に1回、3〜7回投与することにより行われる。最終免疫より約3〜5日後、免疫動物から抗体産生細胞を分取する。
骨髄腫細胞としてはマウス、ラツト、ヒト等由来のものが使用される。細胞融合は例えばG.ケラー(G.Kehler)「ネーチャー(Nature)第256巻、第495頁(1975)」に記載の方法、又はこれに準ずる方法により行われる。この際、30〜50%ポリエチレングリコール(分子量1000〜6000)を用い、抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを30〜40℃の温度下、約1〜3分間程度反応させる。細胞融合により得られたハイブリドーマはスクリーニングに付される。例えば、抗原としてウシアルブミンもしくはヒトアルブミンを用いた酵素抗体法(EIA)等により前記ウシアルブミンもしくはヒトアルブミンを認識する抗体を生産するハイブリドーマのスクリーニングが行われる。得られた抗体産生ハイブリドーマは、例えば限界希釈法によりクローン化される。得られたクローンは、次いで目的とする高感度、高特異性のモノクローナル抗体を産生するクローンを選択するため、例えば酵素抗体法等によるスクリーニングに供される。
こうして選ばれたクローンは、例えばあらかじめプリスタン(2,6,10,14,−テトラメチルペンタデカン)を投与したBALB/cマウスの腹腔内へ移植し、10〜14日後にモノクローナル抗体を高濃度に含む腹水を採取する。この腹水からのモノクローナル抗体の回収は、イムノグロブリンの精製法として従来既知の硫安分画法、ポリエチレングリコール分画法、イオン交換クロマトグラフ法、ゲルクロマトグラフ法、アフイニテイークロマトグラフ法等を応用することで達成される。
【0024】
かくして得られた抗ウシアルブミンもしくは抗ヒトアルブミンモノクローナル抗体について、それぞれ多数の組み合わせをさらにスクリーニングすることにより、高感度で再現性よくウシアルブミンもしくはヒトアルブミンを測定できるモノクローナル抗体の組み合わせが決定される。
【0025】
本発明の測定試薬は、それぞれ上記のようにして得た2種のモノクローナル抗体を構成成分とする。本発明の測定試薬は、2.5ng/mLの濃度で存在するウシアルブミンを検出することが可能である。また、2.5ng/mLの濃度で存在するヒトアルブミンを検出することが可能である。
本発明の一態様として、これらのヒトアルブミンを認識しウシアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞hAlb 3−7Aにより産生されるモノクローナル抗体hAlb 3−7A及びハイブリドーマ細胞hAlb 2−10Dにより産生されるモノクローナル抗体hAlb 2−10Dである。ハイブリドーマ細胞hAlb 3−7Aは、平成19年9月20日(原寄託日)より独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566))にFERM P−21371として寄託されている。ハイブリドーマ細胞hAlb 2−10Dは、平成19年9月20日(原寄託日)より独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566))にFERM P−21370として寄託されている。
また、ウシアルブミンを認識しヒトアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞FCS−BSA 8D−3Bにより産生されるモノクローナル抗体FCS−BSA 8D−3B及びハイブリドーマ細胞FCS−BSA 10B−12により産生されるモノクローナル抗体FCS−BSA 10B−12である。ハイブリドーマ細胞FCS−BSA 8D−3Bは、平成19年9月26日(原寄託日)より独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566))にFERM P−21373として寄託されている。ハイブリドーマ細胞FCS−BSA 10B−12は、平成19年9月26日(原寄託日)より独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566))にFERM P−21374として寄託されている。
これら2種の抗体を含有するヒトあるいはウシアルブミン測定試薬は、異種のアルブミンを認識しないことから、広くヒトあるいはウシアルブミンの測定に適用することができる。
【0026】
前記の抗体、すなわちモノクローナル抗体hAlb 3−7A、モノクローナル抗体hAlb 2−10D、モノクローナル抗体FCS−BSA 8D−3B及びモノクローナル抗体FCS−BSA 10B−12、ならびにこれらの抗体を産生するハイブリドーマハイブリドーマ細胞hAlb 3−7A、hAlb 2−10D、FCS−BSA 8D−3B、FCS−BSA 10B−12は、いずれも本発明に包含される。
【0027】
本発明の測定試薬は、測定方法として二抗体サンドイッチ法などの固相酵素免疫検定(ELISA)法を含むエンザイムイムノアッセイに用いることができる、ヒトあるいはウシアルブミンの測定試薬である。一態様として、被験試料はヒト血漿、血清などの体液又は細胞培養物等が挙げられる。
【0028】
本発明の測定試薬は、上記のようにして得たヒトあるいはウシアルブミンを認識する2種のモノクローナル抗体を構成成分とするが、これらの抗体のうち、一方は固相抗体(1次抗体)、他方は標識抗体(2次抗体)として使用することができる。ここで、固相抗体とは適切な不溶性担体に固定化された抗体を意味し、標識抗体とは適切な標識物質により標識化された抗体を意味する。固相抗体はヒトあるいはウシアルブミンとの抗原抗体反応によって、対象試料中の被検物質であるヒトあるいはウシアルブミンをトラップするために使用され、トラップされた前記の被検物質を検出するために標識抗体が使用される。本発明に使用されるモノクローナル抗体は、特に限定されるものではないが、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質、タンパク質などを用いて標識化され、標識抗体が作製される。放射性同位元素としては、特に限定されるものではないが、例えば[125I]、[131I]、[H]、[14C]などが好ましい。酵素としては、特に限定されるものではないが、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えばβ−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが挙げられる。蛍光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばフルオレスカミン、フルオレッセインイソチオシアネートなどが挙げられる。発光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが挙げられる。さらに、ビオチンのような化合物を用いることができる。本発明の測定試薬において、標識抗体は溶液又は凍結乾燥等の各種形態で提供することができる。
【0029】
固相抗体は、ビーズ、マイクロタイタープレート、試験管、ニトロセルロース膜、ナイロン膜等の担体表面に、当業者には公知の方法によって、ヒトあるいはウシアルブミンの少なくとも一部を認識する本発明の抗体を結合させることによって調製される。また、固相抗体を調製するための抗体、担体及び固相化に必要な試薬を、固定化する前の段階で提供しても良い。前記目的に使用される抗体も、本発明の固相抗体に含まれる。
【0030】
本発明の測定試薬は、ヒトあるいはウシアルブミンを認識する2種のモノクローナル抗体に加えて、様々な試薬、材料、器具等を適宜含有させることができる。本発明のモノクローナル抗体を吸着させるための吸着プレートを含んでいてもよい。また、標識した抗体を検出するための試薬、使用する際にコントロールとなる試薬を含んでいてもよい。
【0031】
(2)ヒトあるいはウシアルブミンの測定方法
本発明のヒトあるいはウシアルブミンの測定方法は、前記(1)に記載のアルブミン質測定試薬を使用することを特徴とする方法である。例えば、本発明に使用されるヒトあるいはウシアルブミンを認識し、ヒトアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体を、一方を固相抗体、他方を標識抗体とする場合、被検物質と固相抗体を接触させ、これに標識抗体をさらに接触させ、これらのモノクローナル抗体と被検物質の複合体を検出することにより、ヒトあるいはウシアルブミンを測定することができる。さらに、被検物質と接触させた後に固相抗体を洗浄する工程及び/又は被検物質と結合しなかった標識抗体を洗浄により除去する工程を含んでいてもよい。また、固相抗体及び標識抗体は、前記(1)に記載の通り固相化及び標識化の操作により調製される。本発明の一態様として、モノクローナル抗体hAlb 3−7A、hAlb 2−10D、FCS−BSA 8D−3B、FCS−BSA 10B−12の使用が好適である。さらに、ヒトアルブミンを測定する場合、固相抗体としてモノクローナル抗体hAlb 3−7A、標識抗体としてモノクローナル抗体hAlb 2−10Dの組み合わせの測定系が特に好適である。ウシアルブミンを測定する場合、固相抗体としてモノクローナル抗体FCS−BSA 8D−3B、標識抗体としてモノクローナル抗体FCS−BSA 10B−12の組み合わせの測定系が特に好適である。本発明の方法においては、定性的な測定と、定量的な測定が含まれる。一態様として、被験試料はヒト血漿、血清などの体液又は細胞培養物等が挙げられる。
【0032】
本発明の方法は、本発明のヒトアルブミン測定試薬及びウシアルブミン測定試薬でそれぞれ測定し、ヒトアルブミン及びウシアルブミンの量比を決定することができる。
【0033】
本発明の方法は、2.5ng/mLの濃度で存在するウシアルブミンを検出することが可能である。また、2.5ng/mLの濃度で存在するヒトアルブミンを検出することが可能である。本発明の方法は、ヒトあるいはウシアルブミンの異なる部位を認識する2種のモノクローナル抗体を使用することにより、極めて高い特異性を有する識別が可能である。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
【0035】
実施例1 抗体の作製
(1) 抗原免疫・細胞融合
正常動物血清由来ウシアルブミンもしくはヒトアルブミン1mg/mL溶液を抗原とし、BALBcマウス4匹に50μg/shot/bodyの投与量で、初回免疫は、フロイント完全アジュバントとエマルジョンを形成させてから腹腔投与し、2回目以降は、市販の水溶性アジュバント(RIBI Adjuvant)と混合して、2週間隔合計4回の投与を行った。その後、眼窩静脈血清中のウシアルブミンもしくはヒトアルブミンに対する抗体価の上昇を確認した上で、すべての個体に最終免疫を実施した。最終免疫3日後に、4匹のうち2個体の免疫動物の脾臓を摘出し、無血清培地で分散・洗浄した後、細胞融合用ミエローマ(P3U1)と5:1(脾臓:ミエローマ)の割合で混合し遠心上清を除いた細胞ペレットとした。この細胞混合物に適温に保温した50%PEG溶液1mLを一定速度で、軽い振とうを加えながら混合し、合計3mLまで加え、そのあとは、無血清培地7mLを同様に一定速度で加え、10mLにフィルアップし、この操作で細胞融合を実施した。約2週間の時差をつけて、残る2匹のマウスも同様の最終免疫をさらに1回追加して、3日後に細胞融合に供した。
2回のチャレンジで、多数の融合細胞を取得した。この幅広い母集団より抗原に特異的な抗体をスクリーニングした。
【0036】
(2) HAT選択
融合細胞のスクリーニングには、クローニング培地(三光純薬社製)にHAT(H:ヒポキサンチン、A:アミノプテリン、T:チミジン)を加えたものを用意し、融合日の翌日から3回の培地交換をこのHAT培地で行った。この培地交換操作で、成長してきた細胞は、脾臓由来のde novo合成系を持ちかつ不死化した融合細胞と言えた。
【0037】
(3) スクリーニング
免疫原と同様のウシアルブミンもしくはヒトアルブミンを、5μg/mL PBS、50μL/wellで、イムノプレート(ナルジェヌンク社製)上に添加し、4℃で一晩放置して物理吸着させた。ブランク用抗原として、ウシアルブミンに対してヒトアルブミン、またヒトアルブミンに対してウシアルブミンをブランク抗原として相互にスクリーニングの際の評価用タンパクとした。5μg/mL PBS、50μL/wellで、同様にコーティングした。翌日、抗原溶液を捨てて、50%Blocker Casein(ピアス社製)を200μL/wellになるように加えて、室温(20〜30℃)で1時間放置して、ブロッキング操作を行った。その後、ブロッキング溶液を捨て、上記(2)で得られた融合細胞の培養上清(原液使用)を、ナンバリングした上で抗原プレートに投入し、一次反応を室温(20〜30℃)で1時間行った。PBSで反応が終了した各ウェルを3回洗浄し、ペーパータオルで充分に液を切った。検出には、抗マウスIgGラットモノクローナル抗体カクテル−ペルオキシダーゼ標識抗体を使用した。前記抗体を1μg/mL、50μL/wellで添加し、室温(20〜30℃)で1時間行った。その後、標識抗体液を捨て、ウエルをPBSで4回洗浄した。ペーパータオルに打ち付けて、洗浄液を充分に除き、ペルオキシダーゼ基質であるABTS[2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)]溶液(ピアス社製)を50μL/wellで投入し、室温で15〜30分発色させ、強弱ある陽性株を幅広く検出した。等量の150mM シュウ酸を加えて反応を停止させた後、肉眼及びプレートリーダーで、陽性株を確認し、ブランク抗原に反応せず、目的のウシアルブミンもしくはヒトアルブミンに特異的に反応する株の選抜を試みた。
【0038】
(4) 抗ウシアルブミン抗体スクリーニング
抗ウシアルブミン抗体スクリーニングにおいて、第一回の融合−スクリーニングアッセイでは、陽性株が全く出現しなかった。抗原プレート上は、発色基質ABTSのかすかな反応が見られるぐらいで、ウシアルブミンに強陽性を示すものはなかった。しかしながら、免疫動物の抗体価は十分な上昇が見られていたことから、本発明者らは熟考し、培地中に含まれるウシ胎児血清中のアルブミンが、ハイブリドーマの産生するモノクローナル抗体をことごとく高濃度でブロックしているのではないかという考えに到達した。そのため、ハイブリドーマスクリーニングを行う前日より、スクリーニング対象である96ウェルプレート10枚分相当の各ウェルから、培養上清を細胞存在位置ぎりぎりまで吸出し、あらたに完全無タンパク培地(Ultradoma−PF、Lonza社製、code.B2727)を加え、ウシ血清成分を極力少なくし、1日経過後に前項と同様のスクリーニングアッセイを実施し、目的のウシアルブミンに特異的に反応する株の選択に初めて成功した。
【0039】
(5) 抗ヒトアルブミン抗体スクリーニング
抗ヒトアルブミン抗体のスクリーニングにおいては、(4)記載のようにウシ血清培地を無タンパク培地に置き換えることなしに、(3)記載のスクリーニングアッセイで、ヒトアルブミンの陽性株を得ることができた。しかしながら、抗ヒトアルブミンモノクローナル抗体のウシアルブミンへの交差反応性は、培地からのウシアルブミンでブロックされていたことが考えられ、実際に非交差として選抜したモノクローナル抗体が、後にウシ抗原へも交差する性質があることが判明した。そのため、目的の抗体の取得には、当初の予定より融合回数を増やし、一次スクリーニング前に培地を前項と同様に完全無タンパク培地に変換し、多数のモノクローナル抗体候補の選抜が必要であった。またさらにウシ抗原への交差反応の有無について、精製抗体に仕上げてから、充分な確認試験を実施した。
【0040】
(6) 陽性株選抜とクローニング、株樹立
(4)及び(5)に示す厳格なスクリーニングの後、目的抗原に強く反応する数種類のハイブリドーマ元株を選択し、直ちに限界希釈法によりクローニングを行った。クローニングされた抗ウシアルブミン抗体産生ハイブリドーマ2種類、抗ヒトアルブミン抗体産生ハイブリドーマ8種類について、それぞれクローンを各2種(本株・亜株)確保した。
【0041】
(7) マウス腹水採取
特異性の高い前記ハイブリドーマクローンは、本株・亜株ともに凍結細胞としてマスター細胞を保管後、ほぼ並行しながら、本株をBALBcマウスの腹腔内で大量培養し、腹水として粗精製抗体を得た。腹水は、1個体あたりおよそ3〜5mLであった。
【0042】
(8) 抗体精製
得られた腹水は、50%飽和硫安塩析・透析を行い、その画分をProtein A カラムに供した。平衡化緩衝液は、3M NaCl、1.5M glycin−NaOH緩衝液(pH8.9)の高塩濃度のものを調製し、どのサブクラスのIgGであっても良好に結合する条件を採用した。平衡化緩衝液で2倍希釈した腹水硫安塩析画分を腹水液量とほぼ等量の容積のProtein A樹脂にアプライし、吸光度A280がほぼゼロになるまで平衡化緩衝液でカラムを洗った。その後、クエン酸緩衝液(pH4.0)とクエン酸緩衝液(pH3.0)の2段階で溶出を行った。サブクラスIgG1、IgG2a、IgG3は主にpH4.0で溶出され、IgG2bは、pH3.0で溶出された。溶出画分は、ただちに1M Tris−HCl緩衝液(pH9.0)で中和し、硫安塩析もしくは、遠心限外ろ過濃縮を行った。最終抗体は、PBSで透析し、0.22μmフィルターろ過により無菌化した。抗体の純度は、10%SDS−PAGE(還元加熱条件)により分析し、H鎖とL鎖以外のものがない良好な純度の抗体であることを確認した。
【0043】
(9) 抗体修飾
得られた精製抗体のうち、一定量(試験的に各抗体1mg)を用いて、過ヨウ素酸法によるペルオキシダーゼ標識を施した。過ヨウ素酸法は、ペルオキシダーゼの糖鎖ジオールを脱水素酸化させシッフベースを形成させ、抗体側のアミノ基と結合する方法である。クローニングした10種類の抗体は、すべてペルオキシダーゼ標識体とした。いずれの抗体も抗原との結合活性を保持した状態で酵素標識体とすることができた。
【0044】
実施例2 ウシアルブミン測定系構築
(1)ウシアルブミン測定系
固相と標識とに実施例1で得られた2種類の抗体をそれぞれ用い、最も高感度にウシアルブミンを定量できる系を試験した。その結果、固相抗体にモノクローナル抗体FCS−BSA 8D−3B、標識抗体にモノクローナル抗体FCS−BSA 10B−12を用いる組み合わせの測定系が確立した。以下に、サンプルとの一次反応と標識二次抗体反応とを同時に実施する1ステップELISA法とサンプル反応と標識二次抗体反応を2段階で行う2ステップELISA法を示す。
【0045】
(2)1ステップELISA法
(A)イムノプレート器材(ナルジェヌンク製)に、PBSで10μg/mlに希釈したモノクローナル抗体FCS−BSA 8D−3B溶液を100μL/wellで投入し、4℃で一晩放置する。
翌日、抗体溶液を捨て、25%ブロックエース+0.3Mマルトース/PBS溶液(ブロッキング溶液)を200μL/wellで投入し、4℃一晩放置し、器材余剰部分をタンパク質ブロックする。
翌日、ブロッキング溶液を捨て、以下の測定に使用する。
(B)各濃度の検体を100μLずつマイクロピペットで各wellに2連ずつ加え、モノクローナル抗体FCS−BSA 10B−12標識抗体液を100μLずつ各wellに加え、室温(20〜30℃)で一時間反応させる。(第一反応)
(C)反応液を捨て、0.1%Tween20含有PBSで4回洗浄後、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMBZ)溶液(BioFX社製)を100μLずつ各wellに加え、室温(20〜30℃)で15分反応させる。(発色反応)
(D)1N 硫酸を100μLずつ、TMBZ溶液を入れた順番に各wellに加え、反応を停止させた後よく混和する。
蒸留水を対照としてマイクロプレートリーダーをブランク補正し、波長450nmで吸光度を測定する。
標準曲線を作成し、検体の吸光度から対応するウシアルブミン濃度を読み取る。
【0046】
上記測定系により、ウシアルブミン標準品を測定した結果を表1に示す。必要サンプル量は、20μl/wellであり、5.0ng/mLのウシアルブミンであっても検出可能であった。
【0047】
【表1】

【0048】
(3)2ステップELISA法
サンプル中に、アジ化ナトリウムなどの防腐剤が含まれている場合、測定系を2ステップに変更することで、サンプル溶媒の影響を受けず、より高感度にウシアルブミンを検出することができる。
(A)イムノプレート器材(ナルジェヌンク製)に、PBSで10μg/mlに希釈したモノクローナル抗体FCS−BSA 8D−3B溶液を100μL/wellで投入し、4℃で一晩放置する。
(B)翌日、抗体溶液を捨て、25%ブロックエース+0.3Mマルトース/PBS溶液(ブロッキング溶液)を200μL/wellで投入し、4℃一晩放置し、器材余剰部分をタンパク質ブロックする。
翌日、ブロッキング溶液を捨て、以下の測定に使用する。
(C)各濃度の検体を100μLずつマイクロピペットで各wellに2連ずつ加え、室温(20〜30℃)で1時間反応させる。(第一反応)
(D)反応液を捨て、0.1%Tween20含有PBSで3回洗浄後、モノクローナル抗体hIgG 13−9H標識抗体液を100μLずつ各wellに加え、室温(20〜30℃)で一時間反応させる。(第二反応)
(E)反応液を捨て、0.1%Tween20含有PBSで4回洗浄後、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMBZ)溶液(BioFX社製)を100μLずつ各wellに加え、室温(20〜30℃)で15分反応させる。(発色反応)
(F)1N 硫酸を100μLずつ、TMBZ溶液を入れた順番に各wellに加え、反応を停止させた後よく混和する。
蒸留水を対照としてマイクロプレートリーダーをブランク補正し、波長450nmで吸光度を測定する。
標準曲線を作成し、検体の吸光度から対応するウシアルブミン濃度を読み取る。
【0049】
上記測定系により、ウシアルブミン標準品を測定した結果を表2に示す。必要サンプル量は、100μl/wellであり、2.5ng/mLのウシアルブミンであっても検出可能であった。
【0050】
【表2】

【0051】
(4)同時再現性試験
実施例2−(2)記載の測定系により、ウシ血清を希釈して作成した5種類の濃度コントロールを用いて同時再現性試験を行った。表3に結果を示すように、CV値は良好な同時再現性を示した。
【0052】
【表3】

【0053】
(5)日差再現性試験
実施例2−(2)記載の測定系で、三日間にわたり5種類の濃度コントロールを定量して日差再現性試験を行った。表4に結果を示すように、良好な日差再現性を示した。
【0054】
【表4】

【0055】
(6)添加回収試験
実施例2−(2)記載の測定系でウシアルブミンの添加回収試験を行った。各種濃度のウシアルブミン検体2種を等量に混合したサンプルを測定し、実測値からウシアルブミン量の理論値との差(=回収率)を求めた。表5に結果を示すように、添加回収率86%から104%(平均値97.93%)と良好な結果が得られた。
【0056】
【表5】

【0057】
(7)交差反応性
実施例2−(2)記載の測定系で交差反応性試験を行った。各種の動物由来のアルブミンは、正常動物血清(コスモバイオ社製)を高濃度アルブミン含有物とした。56℃、30分処理して非働化した胎児ウシ血清(FCS)を10%含むRPMI1640培地(シグマ社製)を調製した。これらのアルブミン含有物を、1×10、1×10、1×10、1×10倍に希釈して使用した。表6に吸光度A450の測定結果を示す。表6に示すように、ウシ、特異的に検出可能であることが示された。
【0058】
【表6】

【0059】
(8)加熱ウシ血清サンプルの測定
ウシ血清サンプルA、B、C、Dの4種類を入手し、これらのウシ血清サンプルをそれぞれ45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃で30分加熱し、直ちに4℃で5分間冷却した。その後、各サンプルを希釈し、実施例2−(2)記載の測定系でアルブミン濃度を測定した。表7に吸光度A450の測定結果を示す。表7に示すように、60〜65℃で30分加熱したウシ血清サンプルでも、十分にアルブミン濃度を測定可能であることが示された。
【0060】
【表7】

【0061】
実施例3 ヒトアルブミン測定系構築
(1)ヒトアルブミン測定系
固相と標識とに実施例1で得られた8種類の抗体をそれぞれ用い、56通りの組み合わせについて、非特異的な結合反応がなく、他動物のアルブミンにも交差することなく高感度にウシアルブミンを定量できる系を試験した。その結果、固相抗体にモノクローナル抗体hAlb 3−7A、標識抗体にモノクローナル抗体hAlb 2−10Dを用いる組み合わせの測定系が確立した。以下に、サンプルとの一次反応後、洗浄する工程を行い、標識二次抗体反応を実施する2ステップELISA法を示す。
【0062】
(2)2ステップELISA法
(A)イムノプレート器材(ナルジェヌンク製)に、PBSで10μg/mlに希釈したモノクローナル抗体hAlb 3−7A溶液を100μL/wellで投入し、4℃で一晩放置する。
(B)翌日、抗体溶液を捨て、25%ブロックエース+0.3Mマルトース/PBS溶液(ブロッキング溶液)を200μL/wellで投入し、4℃一晩放置し、器材余剰部分をタンパク質ブロックする。
翌日、ブロッキング溶液を捨て、以下の測定に使用する。
(C)各濃度の検体を100μLずつマイクロピペットで各wellに2連ずつ加え、室温(20〜30℃)で1時間反応させる。(第一反応)
(D)反応液を捨て、0.1%Tween20含有PBSで3回洗浄後、モノクローナル抗体hAlb 2−10D標識抗体液を100μLずつ各wellに加え、室温(20〜30℃)で一時間反応させる。(第二反応)
(E)反応液を捨て、0.1%Tween20含有PBSで4回洗浄後、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMBZ)溶液(BioFX社製)を100μLずつ各wellに加え、室温(20〜30℃)で15分反応させる。(発色反応)
(F)1N 硫酸を100μLずつ、TMBZ溶液を入れた順番に各wellに加え、反応を停止させた後よく混和する。
蒸留水を対照としてマイクロプレートリーダーをブランク補正し、波長450nmで吸光度を測定する。
標準曲線を作成し、検体の吸光度から対応するヒトアルブミン濃度を読み取る。
【0063】
上記測定系により、ヒトアルブミン標準品を測定した結果を表8に示す。必要サンプル量は、100μl/wellであり、2.5ng/mLのヒトアルブミンであっても検出可能であった。
【0064】
【表8】


(3)同時再現性試験
実施例3−(2)記載の測定系により、ヒト血清を希釈して作成した3種類の濃度コントロールを用いて同時再現性試験を行った。表9に結果を示すように、CV値は良好な同時再現性を示した。
【0065】
【表9】

【0066】
(4)日差再現性試験
実施例3−(2)記載の測定系で、三日間にわたり3種類の濃度コントロールを定量して日差再現性試験を行った。表10に結果を示すように、良好な日差再現性を示した。
【0067】
【表10】

【0068】
(5)添加回収試験
実施例3−(2)記載の測定系でヒトアルブミンの添加回収試験を行った。各種濃度のヒトアルブミン検体2種を等量に混合したサンプルを測定し、実測値からヒトアルブミン量の理論値との差(=回収率)を求めた。表11に結果を示すように、添加回収率92.3%から108.8%(平均値99.14%)と良好な結果が得られた。
【0069】
【表11】

【0070】
(6)交差反応性
実施例3−(2)記載の測定系で交差反応性試験を行った。各種の動物由来のアルブミンは、正常動物血清(コスモバイオ社製)を高濃度アルブミン含有物とし、1×10、1×10倍に希釈して使用した。表12に吸光度A450の測定結果を示す。表12に示すように、ヒトアルブミン特異的に検出可能であることが示された。
【0071】
【表12】

【0072】
(7) ヒト培養細胞上清中のヒトアルブミン検出
ヒト肝癌細胞(Hep3B、大日本住友製薬社製)を、抗生物質を含む10%FCS含有RPMI1640培地(シグマ社製)で培養した。その培養上清を直接又は5倍に希釈し、実施例3−(2)記載の測定系により、ヒトアルブミン濃度を経時的に測定した。その吸光度A450の測定結果を表13に示す。表13に示すように、ヒト由来の細胞の培養上清に含まれるヒトアルブミンを測定可能であることが示された。
【0073】
【表13】

【0074】
(8) ヒト尿中アルブミン検出
インフォームドコンセントの得られたヒト健常人ドナーより採尿を実施した。まず、尿中アルブミンの測定に適した希釈倍率を決定するため、尿サンプルを様々な希釈倍率で希釈し、実施例3−(2)記載の測定系によりヒトアルブミンを測定した。その吸光度A450の測定結果を表14に示す。表14に示すように、尿のアルブミン測定には、尿サンプルを段階希釈することにより、検量線範囲内で定量できることが示された。
【0075】
【表14】

【0076】
次に、別の4人のインフォームドコンセントの得られたヒト健常人ドナーより、1日にわたり3〜5回採尿を実施した。各尿サンプルを5倍又は25倍に希釈し、実施例3−(2)記載の測定系により測定し、ヒトアルブミン量を算出した。その結果、表15に示すように、尿中アルブミンを正確に測定できた。
【0077】
【表15】

【産業上の利用可能性】
【0078】
以上の結果から、本発明の測定試薬を使用する検出系は、アルブミンを測定することにおいて高感度で性能的に安定な系であることを示している。
ウシアルブミンを測定して得られる結果は、サンプル中のウシ由来サンプルの混入履歴をモニタリングする上で、有用な情報を提供し、またヒトアルブミン測定で得られる結果は、尿中の測定においては、腎臓疾患の早期発見、病勢や薬剤による治療効果、及び予知、診断に有用な情報を提供し、また特殊培養細胞上清での検出の場合には、機能分化マーカーとして有用な情報を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験試料中のアルブミンを測定する試薬において、ヒトアルブミンを認識しウシアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体及び/又はウシアルブミンを認識しヒトアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体を構成成分とすることを特徴とするアルブミン測定試薬。
【請求項2】
ヒトアルブミンを認識しウシアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体モノクローナル抗体が寄託番号FERM P−21371で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体hAlb 3−7A及び寄託番号FERM P−21370で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体hAlb 2−10Dであり、ウシアルブミンを認識しヒトアルブミンを認識しない抗原認識部位を異にする2種のモノクローナル抗体モノクローナル抗体が寄託番号FERM P−21373で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体FCS−BSA 8D−3B及び寄託番号FERM P−21374で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体FCS−BSA 10B−12である請求項1記載のアルブミン測定試薬。
【請求項3】
測定方法としてエンザイムイムノアッセイを用いる、請求項1又は2記載のアルブミン測定試薬。
【請求項4】
固相抗体を使用する請求項3記載のアルブミン測定試薬。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載のアルブミン測定試薬を使用する被検試料中のヒト及び/又はウシアルブミンの測定方法。
【請求項6】
被験試料が、生体由来試料又は細胞培養由来試料から選ばれる請求項5記載の測定方法。
【請求項7】
寄託番号FERM P−21371で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体hAlb 3−7A、寄託番号FERM P−21370で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体hAlb 2−10D、寄託番号FERM P−21373で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体FCS−BSA 8D−3B及び寄託番号FERM P−21374で表されるハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体FCS−BSA 10B−12から選択されるヒト又はウシアルブミンを認識するモノクローナル抗体。
【請求項8】
寄託番号FERM P−21371で表されるハイブリドーマ細胞、寄託番号FERM P−21370で表されるハイブリドーマ細胞、寄託番号FERM P−21373で表されるハイブリドーマ細胞及び寄託番号FERM P−21374で表されるハイブリドーマ細胞から選択される、ヒト又はウシアルブミンを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞。

【公開番号】特開2009−145329(P2009−145329A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297663(P2008−297663)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】