説明

アルミナ系不定形耐火材用原料組成物及びこれを用いた耐火材

【課題】ZrO2材料に起因して発生すると考えられる、アルミナ系不定形耐火材用原料組成物を使用して形成した炉体等の耐火材に生じる亀裂の発生の問題、該亀裂の進展の問題を克服し、該耐火材において高い耐食性を実現すること。
【解決手段】20〜80%の骨材粒子と、合量が18〜80%の中間粒子及び微粒子からなる粒子群と、1〜5%の鉱化剤とを混合し、骨材粒子は、その粒子径が1〜10mmの範囲内にあって、その化学組成が実質的にAl2O3であり、且つ、粒子群は、粒子径が1mm以下の範囲内にあって、その化学組成がCr2O3である粒子と、その化学組成が実質的にZrO2・SiO2である粒子とが少なくとも混合され、ZrO2・SiO2である粒子を10%以上の割合で含み、更に、ZrO2・SiO2/Cr2O3の比が、0.11〜1.5であるアルミナ系不定形耐火材用原料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ系不定形耐火材用原料組成物、これを用いた成形体及び焼成体に関し、更に詳しくは、各種金属精錬、ガラス溶融、或いは産業廃棄物や生活汚泥の焼却灰の溶融等を行う設備の構造材料として使用されるアルミナ系の不定形耐火材用原料組成物及びこれを用いた耐火材に関する。本発明において、アルミナ系不定形耐火材用原料組成物とは、実質的にアルミナからなる、即ち、その骨材粒子がアルミナ(Al23)を主成分とするものである不定形耐火材用原料組成物のことを意味する。
【背景技術】
【0002】
不定形耐火材は、必要な形状に現場で施工してから焼成されるため、自由な形状の炉壁や、目地のない1枚壁の構築が可能である等、定形耐火物と比較して施工性や物性面で、種々の利点がある。このため、不定形耐火材用原料組成物は、各種金属精錬、ガラス溶融、或いは産業廃棄物や生活汚泥の焼却灰の溶融等を行う設備の構造材料として、広く使用されている。これらの中でも、各種金属精錬やガラス溶融を行う設備には、高温領域で安定して使用可能な高い耐食性を有する工業炉の構築が求められる。
【0003】
近年、産業廃棄物や下水汚泥等の生活汚泥等の処理において大量に発生する焼却灰を溶融して、球状粉末スラグとして工業材料として利用することが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。上記した不定形耐火材用原料組成物は、このような、焼却灰の溶融した溶融スラグと接する炉壁及び炉床を有する流動層焼却炉等の炉体(廃棄物溶融炉)の構造材料としても利用されている。汚泥等の焼却灰の溶融スラグは、その原料が多様でありスラグ成分が変化し易いため、特に、成分変化によっても高い耐食性を保持できる工業炉の構築が求められる。
【0004】
不定形耐火材用原料組成物は、一般に、20〜80質量%の骨材粒子と、これよりも小さい粒子径の中間粒子や微粒子からなる20〜80質量%の粒子群とからなるが、その用途に応じて種々の元素を含むものが知られている。例えば、骨材に実質的にアルミナからなる粒子を用いてなるアルミナ系の不定形耐火材用原料組成物の構成元素にジルコニアを含むものが知られている。そして、この場合のジルコニア源としては、主成分がZrO2である材料が用いられている。尚、本発明において、中間粒子とは、その粒子径が、0.1〜1mmの範囲内にあるもののことであり、微粒子とは、これらの粒子よりも更に小さいもののことであるが、詳細については後述する。そして、ジルコニア源となる材料は、通常、中間粒子及び微粒子として混合されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−2413公報
【特許文献2】特開2003−254520公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、前記したような炉体の構築に用いられるアルミナ系不定形耐火材用原料組成物を構成する材料に、ジルコニア源として主成分がZrO2である材料が混合されている場合には、下記のような問題があることがわかった。即ち、このような原料組成物を用いて現場で耐火材を製造する焼成時、並びに、該耐火材からなる上記したような炉体の運転時における加熱によって、炉体に亀裂が発生し易いという問題がある。炉体に亀裂が発生すると、耐火材の寿命は著しく短くなり、経済性に劣る。そこで、本発明者らは、亀裂が発生する原因について鋭意検討を行った。その結果、ジルコニア源としてZrO2を含有してなるアルミナ系不定形耐火材用原料組成物が先述したような場合に熱を受けると、ZrO2が相転移によって異常膨張を起こし、これに起因して炉体に亀裂が発生することを見いだした。
【0007】
特に、先に述べた焼却灰を溶融して球状粉末スラグとする際に用いられる炉体等の場合には、耐火材の寿命が著しく短い場合があるという問題があった。本発明者らがこの原因について検討した結果、溶融物の成分の変動が著しく、高い耐食性を維持させることが難しいことに加えて、上記のようなジルコニア源として含有させたZrO2に起因した亀裂が、溶融スラグの通り道となり、これによって更に浸食が進むためであることを見いだした。更に、炉体に発生する亀裂は、アルミナ系不定形耐火材用原料組成物で耐火材を製造する際にも発生するが、特に、炉体の運転時に受ける耐火材の加熱/冷却等の熱履歴によって亀裂が進展し、この結果、耐火材の寿命をより短くしている場合がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、アルミナ系不定形耐火材用原料組成物の構成材料に使用するジルコニア源として加えるZrO2材料に起因して発生すると考えられる、該原料組成物を使用して形成した炉体等の耐火材に生じる亀裂の発生の問題、該亀裂の進展の問題を克服し、該耐火材において高い耐久性を実現できるアルミナ系不定形耐火材用原料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的は、下記の本発明によって達成される。即ち、本発明は、少なくとも、20〜80質量%の骨材粒子と、合量が18〜80質量%の中間粒子及び微粒子からなる粒子群と、1〜5質量%の鉱化剤とを混合してなる不定形耐火材の原料組成物において、上記骨材粒子は、その粒子径が1mmを超えて10mm以下の範囲内にあって、その化学組成が実質的にAl23であり、且つ、上記粒子群は、粒子径が1mm以下の範囲内にあって、その化学組成がCr23である粒子と、その化学組成が実質的にZrO2・SiO2である粒子とが少なくとも混合され、該ZrO2・SiO2である粒子を粒子群中に10質量%以上の割合で含み、更に、ZrO2・SiO2/Cr23の質量比が、0.11〜1.5であることを特徴とするアルミナ系不定形耐火材用原料組成物である。
【0010】
上記本発明のアルミナ系不定形耐火材用原料組成物の好ましい形態としては、上記において、骨材粒子は、その70〜90質量%を純度90%以上のAl23が占め、その30〜10質量%をクロムクリンカーが占めてなり、該クロムクリンカーが、Al23、Cr23、ZrO2及びSiO2を含む化学組成のものであるアルミナ系不定形耐火材用原料組成物が挙げられる。
【0011】
本発明の別の実施形態は、上記いずれかに記載のアルミナ系不定形耐火材用原料組成物を、成形し、乾燥してなることを特徴とする耐火材である。本発明の別の実施形態は、上記いずれかに記載のアルミナ系不定形耐火材用原料組成物を、成形し、乾燥し、その後、焼成してなることを特徴とする耐火材である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルミナ系不定形耐火材用原料組成物で形成した炉体等の耐火材に生じる亀裂の問題を克服でき、該耐火材において高い耐久性を実現できるアルミナ系不定形耐火材用原料組成物が提供される。特に、本発明によれば、高温領域で安定して使用する場合に高い耐食性が要求される工業炉や、炉体に接触する溶融物の成分の変動が著しい工業炉等の構築に最適なアルミナ系不定形耐火材用原料組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、好ましい実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明者らは、従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、アルミナ系不定形耐火材用原料組成物のジルコニア源を、従来技術のZrO2を主成分とする材料に代えてZrO2・SiO2(ジルコン)とすることが有効であることを見いだして本発明に至った。即ち、本発明者らの検討によれば、アルミナ系不定形耐火材用原料組成物を構成する中間粒子として加えていたジルコニア源となる材料を、実質的にジルコンよりなる材料に変更することで、アルミナ系不定形耐火材用原料組成物を用いて形成した耐火材の製造時等に発生していた亀裂の数を有効に減少させることが可能となる。その結果、特に炉体の運転時において熱履歴を経る際に進展する亀裂の数も少なくなり、結果的に炉体の寿命を長くすることができ、高い耐食性の実現を達成できる。
【0014】
本発明の不定形耐火材用原料組成物はアルミナ系であるので、特に、溶融スラグ用の不定形耐火材に好適に利用できる。その基本構成は、少なくとも、実質的にAl23からなる骨材粒子を20〜80質量%と、合量が18〜80質量%の中間粒子及び微粒子からなる粒子群と、1〜5質量%の鉱化剤とを混合してなる。先ず、本発明で言う骨材粒子、中間粒子及び微粒子について説明する。これらの語は、粒子の形状を区別するために使用している。即ち、骨材粒子とは、その粒子径が1mmを超えて10mm以下の範囲内にあるもののことである。そして、中間粒子及び微粒子とは、その粒子径が1mm以下のものであって、中でも、0.1〜1.0mm程度の範囲内にある比較的大きいものを中間粒子と呼び、それよりも小さいものを微粒子と呼んでいる。上記のような粒度分布を有する原料は、通常行われている篩分けによる方法で容易に得ることができる。以下、本発明で使用する各原料について説明する。
【0015】
本発明の不定形耐火材用原料組成物は、アルミナ系の骨材粒子を含んでなるものであり、実質的にAl23から構成されてなる骨材粒子(即ち、その化学組成がAl23を主成分とするもの)を使用する。より好ましくは、その70〜90質量%を、純度90%以上のAl23が占めるような骨材粒子を使用する。純度90%以上のAl23としては、例えば、市販されているRW−92(昭和電工(株)製)等を使用することができる。
【0016】
本発明で使用する上記のアルミナ系の骨材粒子は、粒子径が1mmを超えて10mm以下の範囲内のものであることを要する。骨材粒子に、粒子径が1mm以下のものを使用した場合は、このような骨材粒子を使用したアルミナ系不定形耐火材用原料組成物を用いて形成した炉体等の耐火材は耐食性に劣ったものとなる。他方、粒子径が10mmを超える場合は、アルミナ系不定形耐火材用原料組成物を用いて形成した炉体等の耐火材において、強度上の問題が生じる。
【0017】
又、本発明の不定形耐火材用原料組成物は、上記したアルミナ系の骨材粒子を20〜80質量%含有してなるが、その含有量が20質量%未満では耐食性が低下し、80質量%を超えると緻密な焼結体が得られなくなる。
【0018】
本発明で使用する上記のアルミナ系の骨材粒子は、電融アルミナを粉砕したものでも焼結アルミナを粉砕したものでも差し支えなく使用でき、アルミナを主成分とするものであればよい。他のアルミナ系の骨材粒子としては、例えば、下記のものが挙げられる。Al23、Cr23、ZrO2及びSiO2からなるクロムクリンカー、或いは中間粒子と同じ成分である、Cr23、ZrO2及びSiO2の3成分を焼成した場合に生成する、Cr23、ZrO2及びSiO2等の成分を含むアルミナ固溶体、或いは高アルミナ物質でもよい。このように、実質的にアルミナ、即ち、その主成分がアルミナである骨材であれば差し支えなく、いずれも本発明に使用できる。本発明の不定形耐火材用原料組成物におけるアルミナの含有量は、原料組成物全量中の30質量%以上を占めることが望ましく、40質量%以上を占めることがより望ましい。本発明において特に好ましい骨材粒子は、その70〜90質量%を純度90%以上のAl23が占め、且つ、その30〜10質量%をクロムクリンカーが占めてなり、該クロムクリンカーが、Al23、Cr23、ZrO2及びSiO2を含む化学組成のものである。
【0019】
次に、その合量が18〜80質量%である中間粒子及び微粒子からなる粒子群(単に粒子群ともいう)について説明する。本発明の原料組成物を構成する粒子群は、いずれも粒子径が1mm以下の範囲内にあり、且つ、Cr23を主成分とする化学組成の粒子と、ZrO2・SiO2を主成分とする化学組成の粒子とを少なくとも混合してなるものであることを要する。このように構成されているため、本発明のアルミナ系不定形耐火材用原料組成物を用いて耐火材を作成した場合には、先に説明したような組成のアルミナ系骨材粒子の間隙が、このCr23及びZrO2・SiO2を主成分とする粒子群で充填されるようになる。このようにすれば、形成した耐火材を緻密な構造にすることができ、結果として耐火材の耐食性が向上する。
【0020】
本発明者らの検討によれば、不定形耐火材用原料組成物に使用する粒子群を、上記のような構成を全て満足するものとすることで、本発明のアルミナ系の不定形耐火材用原料組成物は、多様な使用形態において、常に良好な状態で利用することが可能なものとなる。先ず、不定形耐火材用原料組成物中における該粒子群の含有量が18質量%未満では、特に耐火材として利用した場合に成形することができなかったり、成形できたとしても耐食性に劣るものとなるので好ましくない。一方、該粒子群の含有量が80質量%を超えると、焼結体とした場合に緻密な焼結体が得られず、割れが多発するため好ましくない。
【0021】
又、本発明では、中間粒子及び微粒子からなる粒子群に、耐火材とした場合に、その強度及び耐食性の向上に特に寄与する粒子径1mm以下のものを使用する。この粒子径の下限値は特に制限されない。例えば、粒子群を構成するCr23の粒子径は0.1mm以下でも差し支えない。一方、粒子群を構成するジルコン(ZrO2・SiO2)の粒子径は、このCr23の粒子径よりも大きい方がより望ましい。
【0022】
本発明のアルミナ系の不定形耐火材用原料組成物は、その化学組成がCr23である粒子と、その化学組成が実質的にZrO2・SiO2である粒子とが少なくとも混合されてなるが、その粒子群中に実質的にZrO2・SiO2の化学組成を有するジルコン粒子を10質量%以上の割合で含むものであることを特徴とする。更に、本発明の原料組成物の化学組成においてCr23とZrO2・SiO2との質量比が40〜90:10〜60の範囲(即ち、ZrO2・SiO2/Cr23の値が0.11〜1.5)となるようにする。この範囲を超えて、Cr23に対するZrO2・SiO2の量が、少な過ぎたり、多くなり過ぎると、耐火材として使用した場合に、耐火材の減肉量が多くなり、耐久に劣るものとなるので好ましくない。
【0023】
本発明において使用するジルコンとしては、例えば、市販されているジルコンフラワー(オーストラリア産)等を使用することができる。尚、ジルコンフラワーは、天然物として得られたものであり、その組成を厳格には定められない。本発明において使用するジルコン源としては、ジルコン単体の他に、ジルコンとジルコニア(ZrO2)の混合物、或いはジルコンとSiO2の混合物、或いはジルコンとジルコニアとSiO2の混合物でも差し支えない。上記したように、ジルコンの混合物の場合、実質的にジルコンが含まれていれば差し支えない。
【0024】
本発明のアルミナ系不定形耐火材用原料組成物を構成する中間粒子及び微粒子からなる粒子群に、その化学組成がZrO2である粒子と、その化学組成がSiO2である粒子とが混合されている場合には、混合比率及び加熱処理等の条件によっては、ZrO2とSiO2とが反応してジルコンに変化することがある。本発明でいう実質的にジルコンである粒子には、このような形態のものも含まれる。本発明者らの検討によれば、ZrO2とSiO2との反応によって形成されるジルコンは、その粒子径や成分比率等にもよるが、ジルコニア粒子の表面部分がSiO2と反応してジルコンに変化した状態のものになる。そして、このような表面部分がジルコンとなった形態のものであっても本発明の効果は発現される。しかし、不定形耐火材用原料組成物を加熱処理することでZrO2をジルコンに変化させ、しかも該ジルコンを良好な状態に制御して耐火材中に存在させるように構成することは非常に難しい。更に、先に述べたように、ZrO2がそのまま耐火材中に存在することとなった場合には、亀裂等の原因になる。従って、本発明の不定形耐火材用原料組成物を構成する粒子群中におけるジルコニア(ZrO2)の含有量は、48質量%未満とすることが好ましい。このようにすれば、いずれの場合においても本発明の効果が得られ、常に良好な状態で安定して使用することができる。
【0025】
本発明の不定形耐火材用原料組成物は、先に説明した平均粒子径及び化学組成を有するアルミナ系骨材粒子と、上記で説明した平均粒子径及び化学組成を有する粒子群が特定の割合で含有されてなるが、更に、原料組成物中に、鉱化剤が1〜5質量%含有されたものである。本発明で使用する鉱化剤としては、耐火材の製造において成形助剤或いは焼結助剤として用いられている一般的なものを用いることができる。本発明に用いる鉱化剤は、特に粒子径0.1mm以下のものが望ましく、0.1〜0.01mm程度、或いはそれ以下のものでも使用できる。本発明の原料組成物において、鉱化剤の含有量が1質量%未満では、焼結体とした場合に緻密な焼結体が得られず、5質量%を超えると形成した耐火材の耐食性が低下し、減肉量が増大して耐久性に劣るものとなる。
【0026】
次に、本発明の不定形耐火材用原料組成物を使用して得られる耐火材について説明する。本発明の耐火材としては、本発明の不定形耐火材用原料組成物を、成形し、乾燥してなるもの、或いは、本発明の不定形耐火材用原料組成物を、成形し、乾燥し、その後、焼成してなるものがある。本発明でいう耐火材には、本発明の不定形耐火材用原料組成物に水を加えただけの未焼成物を炉の製作時に炉体構築物として使用したり、或いは炉の補修材として使用するものも含まれる。
【0027】
本発明の耐火材を製造する方法としては、例えば、下記に挙げる方法を用いることができる。先ず、本発明の原料組成物に水を加えて混練し、型枠内で加圧成形したものを乾燥/焼成する方法、或いは本発明の原料組成物に水を加えて混練し、型に流し込み固化させた後、乾燥/焼成する方法等である。この際の焼成温度は通常1,200℃〜1,800℃の範囲、好ましくは1,400℃〜1,600℃の範囲である。上記のようにして得られる本発明の焼結体は、特に、先に説明したような、成分変化の著しい汚泥等の焼却灰を溶融する溶融炉に使用した場合に有効である。しかし、これに限定されず、溶融炉以外の一般の高温炉の炉材として適用しても何ら差し支えない。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[実施例1〜13及び比較例1〜9]
(原料組成物の作製)
アルミナ系の骨材としては、粒子径が1mmを超えて10mm以下の範囲にある純度90%のAl23[RW−92、昭和電工(株)製]を用いた。粒子群としては、粒子径が1mm以下の純度99%のCr23(日本電工(株)製)と、ZrO2・SiO2[ジルコンフラワー、美濃顔料化学(株)製]とを用いた。そして、これらの材料に鉱化剤を加えて表1−1及び表1−2に示した粒配で、合計が20kgとなるように配合してよく混合し、実施例及び比較例の各原料組成物を得た。
【0029】

【0030】

【0031】
(焼結体の作製)
上記で得た実施例及び比較例の各原料組成物を用いて、下記の方法で焼結体を得た。原料組成物20kgに、水1.5kgと減水剤として非イオン系界面活性剤を0.02kg同時に添加して、これらをオムニミキサーで十分に混合した。次に、上記混練物を並型の型枠(65×114×230mm)に流し込み、1昼夜養生した後、脱枠し、110℃で約24時間乾燥して耐火材を得た。乾燥後、得られた耐火材をガス炉にて1,500℃の温度で焼成して、実施例及び比較例の各焼結体を得た。
【0032】
(評価)
上記で得た各焼結体を用いて、下記の方法で浸食試験を行い耐食性の評価を行った。各焼結体で形成したテストプラント規模の産業廃棄物焼却炉をそれぞれ用いて、下水汚泥を1,500℃で500時間の溶融処理を行って、実施例及び比較例の焼結体を評価した。試験に用いた下水汚泥の灰分の組成を表2に示した。
【0033】

【0034】
上記した試験前後において、処理前の炉のサンプル厚みと処理後のサンプル厚みを測定した。そして、処理前の炉のサンプル厚みから処理後のサンプル厚みを引いた値を減肉量(mm)として求めた。得られた減肉量を表3にまとめて示した。表中の減肉量は、1,500℃で500時間の溶融処理をした前後における炉体を形成している焼結体の減肉幅をmm単位で計測した結果である。評価としては、この減肉量の値が小さいほど溶融試験において炉体に変化がなく、良好な焼結材であると言える。尚、表3中には、実施例及び比較例の各原料組成物の主たる構成である、骨材粒子の量、粒子群の量、鉱化剤の量、原料組成物中に含有させたジルコンの量と、Cr23に対するジルコンの質量比率[ZrO2・SiO2/Cr23]とを合わせて示した。
【0035】
減肉量が6mm以下である場合を◎とし、7mm以上15mm未満である場合を○、15mm以上であるものを△とした。減肉量を測定したサンプルは、割れや孔食はみられず、実用可能ではあった。焼結体の成形において割れや孔食が発生したものは、×として評価した。更に、比較例1の焼結体のように、割れが多発して全く使用できない状態のものや、比較例9の焼結体のように、乾燥品を作ることはできるものの、成形体を作ることができない状態のものは××として評価した。
【0036】

【0037】

【0038】
表1及び3に示したように、実施例1〜13の焼結体は、いずれも比較例の場合よりも減肉量は少なく、良好な耐食性を有することが確認できた。比較例と比べた場合に、特に、Cr23とZrO2・SiO2との比が40〜90:10〜60の範囲(即ち、ZrO2・SiO2/Cr23の値が0.11〜1.5)の範囲内であること、及びジルコン量が10質量%以上であること、によって優れた耐食性が達成されることがわかった。先ず、原料組成物中の骨材量が本発明で規定する範囲外の比較例1の不定形耐火材用原料組成物は、焼結体として耐食性試験を行った場合に、骨材量が規定する範囲よりも少な過ぎる場合には割れが多発し、骨材量が規定する範囲よりも多過ぎる場合には成形不能であり、実用に耐えないことが確認された。又、原料組成物中の鉱化剤の含有量が12質量%と、本発明で規定する範囲よりも多い不定形耐火材用原料組成物の場合は、焼結体として耐食性試験を行った場合に、減肉量が大きく、耐食性に劣ったものとなることが確認された。更に、比較例3、4及び8の不定形耐火材用原料組成物は、ジルコニア原料にジルコンを使用しない従来のものであるが、焼結体として耐食性試験を行った場合に、孔食や割れが発生し、耐食性が不十分であることが確認された。更に、原料組成中にジルコンを加えたものの、その量が本発明で規定する範囲から外れる不定形耐火材用原料組成物は、焼結体として耐食性試験を行った場合に、実施例の焼結体と比べた場合に減肉量が大きくなり、耐食性に劣ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、耐食性に優れた、各種金属精錬、ガラス溶融、或いは産業廃棄物や生活汚泥の焼却溶融等、設備を構成する炉壁及び炉床を有する炉体の構築に使用する不定形耐火材を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、20〜80質量%の骨材粒子と、合量が18〜80質量%の中間粒子及び微粒子からなる粒子群と、1〜5質量%の鉱化剤とを混合してなる不定形耐火材の原料組成物において、上記骨材粒子は、その粒子径が1mmを超えて10mm以下の範囲内にあって、その化学組成が実質的にAl23であり、且つ、上記粒子群は、粒子径が1mm以下の範囲内にあって、その化学組成がCr23である粒子と、その化学組成が実質的にZrO2・SiO2である粒子とが少なくとも混合され、該ZrO2・SiO2である粒子を粒子群中に10質量%以上の割合で含み、更に、ZrO2・SiO2/Cr23の質量比が、0.11〜1.5であることを特徴とするアルミナ系不定形耐火材用原料組成物。
【請求項2】
前記骨材粒子は、その70〜90質量%を純度90%以上のAl23が占め、その30〜10質量%をクロムクリンカーが占めてなり、該クロムクリンカーが、Al23、Cr23、ZrO2及びSiO2を含む化学組成のものである請求項1に記載のアルミナ系不定形耐火材用原料組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルミナ系不定形耐火材用原料組成物を、成形し、乾燥してなることを特徴とする耐火材。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のアルミナ系不定形耐火材用原料組成物を、成形し、乾燥し、その後、焼成してなることを特徴とする耐火材。

【公開番号】特開2008−56510(P2008−56510A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232938(P2006−232938)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【出願人】(391009419)美濃窯業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】