説明

アルミニウムまたはアルミニウム合金の精製のためのNaClおよびMgCl2の二成分塩フラックスの使用、ならびにその方法

アルミニウムおよびアルミニウム合金から成る群から選択される金属の精製のための使用および方法であって、前記金属は液相の状態であり、NaClおよびMgClの二成分混合物から成る塩フラックスと接触させられる使用および方法。好ましくは、22重量%を超える二成分混合物量はNaClから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムおよびアルミニウム合金から成る群から選択される金属の精製のための、より具体的にはアルカリおよびアルカリ土類金属の除去のための、NaClおよびMgClを含む二成分塩フラックスの使用に関する。本発明は、また、前記二成分塩フラックスにより前記金属を精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラックスの使用は冶金学の分野で周知であり、これらのフラックスは様々な機能を果たす。
【0003】
酸化を防ぐための保護層を合金の表面に形成するために、フラックスを使用することができる。フラックスが化学的に活性な薬剤を含む場合、それらは、蓄積されたコランダムの層を柔らかくすることによる炉壁の清浄化に使用することができる。幾つかの発熱性フラックスもまた、ドロスを取り除き、酸化被膜に閉じ込められたアルミニウムを除去するために使用される。
【0004】
アルカリ塩化物およびアルカリ土類塩化物に基づくフラックスも合金の精製に使用される。当業者は、一般に、精製を、合金からのアルカリおよびアルカリ土類金属、非金属介在物および水素の除去と定義する。
【0005】
ホール−エルー法によって得られるアルミニウムには、ナトリウムおよびカルシウムが不純物として常に存在する。フッ化リチウムは、槽の効率を向上させるために電解槽にしばしば添加される。しかしながら、少量が金属の状態でアルミニウムに溶解していることが見受けられる。これらの不純物は質の問題を伴う。例えば、マグネシウムを含む合金において、ナトリウムの存在は熱間圧延プロセスの際の妨げになる可能性がある。アルミニウムおよびケイ素の合金におけるナトリウムの存在は、結晶の微細化に使用されたリンの効果を中和する。上記のような理由のため、ナトリウムを含むフラックスの使用は、アルミニウムおよびその合金、特に3重量%を超えるマグネシウム分または10重量%を超えるケイ素分を含むアルミニウム合金では推奨されない。
【0006】
また、高すぎる濃度の水素の存在は、アルミニウムが凝固する際に、高すぎる孔隙率をもたらす可能性がある。アルミニウムのリサイクルの際、非金属介在物の存在は重要である。
【0007】
アルミニウム合金中のカルシウムおよびナトリウムの回収についての反応の動力学は十分に研究されている。本来、これらの合金において、不純物はともに、低濃度の場合オーダー1および高濃度の場合オーダー0の動力学にしたがって消失する。蒸気圧が高いため、ナトリウムは、カルシウムよりも早く自身を酸化させるが、このため、カルシウムは洗浄試験に使用される。フラックスの添加は、反応定数の上昇をもたらし、それにより不純物の含有量のより速い減少をもたらす。混合もまた、不純物の低下において無視できない効果を有する。混合は、不純物と塩フラックスとの間の接触の増大により不純物の回収を促進する。
【0008】
MgClは、合金中の不純物の回収に使用される化学的に活性な薬剤の1つである。その濃度はカルシウムおよびナトリウムの回収の動力学に対して直接的な効果を有する。その融点は714℃であるが、一般的なフラックスでは、その他の塩類と混合され、400℃から550℃の間の融点とされる。しかしながら、MgClは吸湿性であり、周囲の大気に長い間暴露させることはできない。塩化マグネシウムを含む塩類の溶解によって得られたフラックスは吸湿性を有する。それゆえ、パッケージングは、そのようなフラックスの生産の際に湿度の吸収を制限する重要な要素である。
【0009】
塩化マグネシウムに基づくフラックスの例が存在する。米国特許第1,377,374号は、マンガンまたはマグネシウムの合金の生産のための、塩化ナトリウムおよび塩化マグネシウムの等モルの組成物を有するフラックスの使用に関する。米国特許第1,754,788号は、マグネシウムの洗浄のプロセスにおけるこの同様のフラックスの使用に関する。米国特許第1,519,128号はこの組成物への塩化カルシウムの添加に関し、米国特許第2,262,105号は塩化カルシウムに加えて塩化カリウムおよび酸化マグネシウムの添加に関する。米国特許第5,405,427号は、金属の処理のための塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムおよび炭素に基づいたフラックスを記述している。
【0010】
David H. DeYoungによる「Salt Fluxes for Alkali and Alkali and Alkaline Earth Element Removal from Molten Aluminum」と題された記事では、アルミニウム合金からのナトリウム、カルシウムおよびリチウムの除去のための塩化マグネシウム、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムに基づく三成分塩の使用が示されている。しかしながら、Gruzleskiらによる「The Treatment of Liquid Aluminum−Silicon Alloys」と題された記事(204−205頁)では、ナトリウム塩を含んでいるフラックスを使用しないことは、当業者にとって重要であると示されている。したがって、低い含有量のナトリウム塩を有する三成分フラックス塩が許容される可能性があるものの、当業者はナトリウム塩を使用しないことが特に推奨される。
【0011】
最初に、アルミニウムの精製は、液体金属中で塩素およびアルゴンの通気により実行された。しかしながら、これは、懸濁液中の塩素、塩化水素酸および粒子の放出による環境問題をもたらした。その後、塩フラックスの使用が、より環境に配慮された溶液として採用された。
【0012】
精製フラックスは、通常、アルカリ塩化物またはアルカリ土類塩化物から成り、これらは混合され、合金の作業温度よりも低い融点が得られる−−純粋な化合物の融点は、通常、非常に高い。
【0013】
合金に塩フラックスを組込むために、いくつかの方法を使用することができる。米国特許第4,099,965号は、アルミニウムの添加の前に、あらかじめ熱せられた容器の底に、KClおよびMgClのフラックスを固体の形態で添加する方法に関する。さらに現在では、フラックスは、金属表面の下のパイプ中の不活性ガスによって添加される(ランスフラクシング)。近年、中空軸により、ガスキャリアーとともに塩フラックスを合金に導入し、塩フラックスを撹拌器によって分散する方法が開発されている(回転式フラックス注入)。この方法は、合金におけるこの塩フラックスの分散を増大する一方、精製を行うために必要な塩フラックスの量を減らす。金属への塩フラックスの添加の後、不純物および塩類が液体金属の表面に浮遊し、容易に除去することができる。
【0014】
好都合に、塩類の融解により得られた固体物質の使用はグラニュロメトリーを制御する。粒子はバッチ操作または連続工程において使用されてもよい。
【0015】
しかしながら、塩化マグネシウムおよび塩化カリウムの二成分混合物のような塩フラックスに関するコストは高い。その上、かなりの含有量の塩化ナトリウムを有している塩フラックスの使用は、得られたアルミニウムまたはアルミニウム合金におけるナトリウム分による負の効果が認識されているため、当業者には推奨されていない。実際、塩化ナトリウムがアルミニウムまたはアルミニウム合金の精製のためのフラックスに存在する場合、当業者は現在塩化ナトリウムの使用を回避するか、または制限するだろう。特に、例えば、10重量%を超えるケイ素分を有するアルミニウム合金、より具体的には3重量%を超えるマグネシウム分を有するアルミニウム合金といった特定の種の合金の場合、当業者は、現在、塩フラックスにおいて塩化ナトリウムを使用しないことを推奨する。
【0016】
精製の問題に対するより有効な溶液についての出願人の調査において、驚くべきことに、当業者の現在の懸念および確信に反し、MgClを含む塩フラックスにおいて、高価なKClを安価なNaClに交換できることがわかった。それゆえ、本発明は、現在使用されている方法と等価な精製効率を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金の処理のための経済的な溶液を提供する。実際、当業者の懸念に反し、ここに記載される本発明の精製方法を使用する場合、得られたアルミニウムまたはアルミニウム合金中には、著しい量のナトリウムは存在しない。
【0017】
本発明の実施形態は、以下の利益を示す:
−経済的利益
・フラックスの融点がより低いことによる、より低い生産コスト
・原材料のより低いコスト
−Promag(40重量%のKCl−60重量%のMgCl)の商標を有する従来の周知の塩フラックス固体を使用する精製方法に相当する効率
−アルミニウムまたはアルミニウム合金内におけるナトリウムの著しい蓄積を行うことのない、Promagの商標を有する従来の製品固体の経済的な代替。
【発明の概要】
【0018】
本発明の第1の好ましい側面は、アルミニウムおよびアルミニウム合金から成る群から選択される金属の精製のための塩フラックスの使用であって、前記金属は液相の状態であり、前記塩フラックスはNaClおよびMgClの二成分混合物である使用に関する。
【0019】
本発明の第2の好ましい側面は、アルミニウムおよびアルミニウム合金から成る群から選択される金属の精製のための方法であって、前記方法は
・前記金属を液相まで加熱すること、および
・前記液体金属と、NaClおよびMgClの二成分混合物から成る塩フラックスとを接触させること
を含む方法に関する。
【0020】
本発明の別の実施形態は、前記二成分混合物の22重量%超がNaClから成る、上記の通り定義される使用または方法に関する。
【0021】
本発明の別の実施形態は、前記塩フラックスが、
・NaClの粒子とMgClの粒子との二成分混合物であるか、または
・固体状態のNaClおよびMgClの融解塩の粉砕により得られる粒子から成るか、または
・NaClおよびMgClの液体混合物である
上記の通り定義される使用または方法に関する。
【0022】
本発明の別の実施形態は、前記二成分混合物はa)40から50重量%のNaClおよびb)50から60重量%のMgClを含む上述の実施形態の何れか1つに定義された使用または方法に関する。より具体的には、この二成分混合物は、45重量%のNaClおよび55重量%のMgClを含み、約439℃の融点を有する共晶混合物を形成する。
【0023】
本発明の別の実施形態は、前記塩フラックスは粒子の形態である上述の実施形態の何れか1つに定義された使用または方法に関し、これらの粒子は100μmから3.35mmの平均粒径を有する。好ましくは、前記粒子は0.85mmから3.15mmのまたは100μmから1mmの平均粒径を有する。
【0024】
本発明の別の実施形態は、前記粒子は、ガス注入装置による注入によって、前記液体金属と接触させられる上述の実施形態の何れか1つに定義された使用または方法に関する。ガス注入装置の非限定的な例は、本願の出願人から市販されるSNIF PHD−50という商標で知られるロータリーインジェクターから成ってよい。
【0025】
本発明の別の実施形態は、前記金属は3重量%を超えるマグネシウム分を有するアルミニウム合金である上述の実施形態の何れか1つに定義された使用または方法に関する。
【0026】
本発明の別の実施形態は、前記金属は10重量%を超えるケイ素分を有するアルミニウム合金である上述の実施形態の何れか1つに定義された使用または方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、融解塩KCl/NaCl/MgClの状態図である。図1から3の状態図は、factsageウェブサイト(http://factsage.com)から抽出した。
【図2】図2は、融解塩KCl/MgClの状態図である。図1から3の状態図は、factsageウェブサイト(http://factsage.com)から抽出した。
【図3】図3は、融解塩NaCl/MgClの状態図である。図1から3の状態図は、factsageウェブサイト(http://factsage.com)から抽出した。
【図4】図4は、例5から8に関する比較図である。
【発明の詳細な説明】
【0028】
以下の例では、出願人は、当業者の懸念に反し、NaClおよびMgClの二成分混合物を含む塩フラックスの配合物は、マグネシウム分を有するアルミニウム合金における金属ナトリウムの濃度の増大を伴わないことに注目した。そのようなアルミニウム合金の非限定的な例は、5重量%の含有量のマグネシウムを有するアルミニウム合金から成ってよい。したがって、特に高いマグネシウム分を有するアルミニウム合金の場合における、アルミニウムの洗浄のためのNaClおよびMgClを含む二成分塩フラックスの使用に対する反対の示唆は存在しないようである。
【0029】
本発明に関して提案されるNaClおよびMgClに基づく配合物は、不純物の回収のための化学的に活性な薬剤であるMgClの等価な量について、出願人によって商標Promag(40重量%のKCl、60重量%のMgCl)のもと市販される塩フラックス組成物の融点よりも低い融点を示す。融点の低下は、固体塩フラックスを融解するときのエネルギーコストの低下を意味する。
【0030】
2つの融解塩、すなわち以下の二成分系塩フラックスおよび三成分系塩フラックス(先行技術)(重量に基づく)を、後述の例において評価した:
・45%のNaClおよび55%のMgCl、439℃の融点;並びに
・20%のNaCl、20%のKClおよび60%のMgCl、396℃の融点。
【0031】
また、例1は、液体アルミニウム合金にNaClを添加したときのアルミニウム合金中のナトリウム濃度に関する予想を超える効果、すなわち、合金中のナトリウム分は増大しないことを示している。
【0032】
それぞれの塩フラックスの製造は、適した炉において、無水固体相の塩を混合することにより行った。次に、炉の温度を上げることにより、液体の形態における溶融した化合物を得た。次に、液体を急速に冷却し、破砕し、ふるいにかけることで、選択した方法に適したグラニュロメトリーを得た。後述の例7では、無水固体相の塩を混合することのみにより塩フラックスを得た。
【0033】
塩フラックスは、出願人(Pyrotek)から市販されるSNIF PHD−50(商標)といったロータリーインジェクターを使用した場合に、Ca、NaおよびLiの回収について最適な効率を示した。当然、当業者に周知であり、従来の精製方法に関する使用について既に記述されているその他の添加の方法を、精製を行うために使用することができる。精製を行うために必要な塩フラックスの濃度は、選択される方法に依存して異なってもよい。
【0034】
例1
グラファイトから成るるつぼの中で、5重量%のマグネシウムが添加された1.5kgの液体AA1100アルミニウム合金(商標Alcanのもと市販される)中で、商標SIFTO INDUSTRIALのもとで市販される粉末形態の100グラムのNaClを撹拌した。全試験期間中るつぼを850℃に維持した。7日間毎日、サンプルを取得した。これらの毎日の分析によると、得られたアルミニウム合金のナトリウム分は全試験の間、2ppmの最小レベルであり、このことは、当業者の懸念に反して、NaClの添加は、マグネシウム分の高いアルミニウム合金中におけるナトリウムの吸着を伴わないことを示している。
【0035】
例2
グラファイトのるつぼの中で、5重量%のマグネシウムが添加された1.5kgの液体AA1100アルミニウム合金(商標Alcanのもと市販される)中で、45重量%のNaClおよび55重量%のMgClの二成分混合物から成る15グラムの塩フラックスを撹拌した。るつぼを720℃に90分間維持し、30分ごとにサンプルを取得した。るつぼ中のナトリウムレベルは、全実験の間、3ppmの最小レベルに維持され、NaClを含むフラックスの添加は、マグネシウム分の高いアルミニウム合金中におけるナトリウムの吸着を伴わないことが示された。塩フラックスは、商標SIFTO INDUSTRIALのもとで市販される粉末形態のNaClおよび商標SKYLINEのもとで市販されるフレーク状のMgClから作製した。
【0036】
例3(先行技術)
グラファイトるつぼの中で、20重量%のNaCl、20重量%のKClおよび60重量%のMgClの三成分混合物から成る15グラムの塩フラックスを撹拌し、5重量%のマグネシウムが添加された1.5kgの液体AA1100アルミニウム合金(商標Alcanのもと市販される)に添加した。るつぼを720℃に90分間維持し、30分ごとにサンプルを取得した。るつぼ中のナトリウムレベルは、全実験の間、3ppmの最小レベルに維持され、少量のNaClの添加は、マグネシウム分の高いアルミニウム合金中におけるナトリウムの吸着を伴わないことが示された。塩フラックスは、商標SIFTO INDUSTRIALのもとで市販される粉末形態のNaCl、商標IMC KALIUMのもとで市販される粉末形態のKClおよび商標SKYLINEのもとで市販されるフレーク状のMgClから作製した。
【0037】
例4
約75kgのA356合金を、炭化ケイ素で作られたるつぼの中で、700℃で溶融し、液体状態に維持した。その後、10重量%のカルシウムを含む535gのアルミニウム合金を、直線状のブレードを有した撹拌器により混合しながら、液体A356合金に添加した。次に、るつぼに含まれる生成されたアルミニウム合金を、撹拌することなく、5時間放置した。この間、生成されたアルミニウム合金のカルシウム分は、350ppmから150ppmに減少した。次に、更なる精製のために、45重量%のNaClおよび55重量%のMgClから成る360グラムの塩フラックスを、撹拌しながら、生成された合金に添加した。塩フラックスを、商標SIFTO INDUSTRIALのもとで市販される粉末形態のNaClおよび商標SKYLINEのもとで市販されるフレーク状のMgClから作製した。
【0038】
精製されたアルミニウム合金において行われた分析から、塩フラックスの添加の直後において、Ca分が150ppmから70ppmに減少したこと、すなわち53%減少したこと、および、添加から3時間後において、このCa分が25ppmに減少したことが示された。また、分析から、ナトリウム分は、2ppmのオーダーであることが示された。
【0039】
例5
商標SIFTO INDUSTRIALのもとで市販される粉末形態の22.5グラムのNaClと、商標SKYLINEのもとで市販されるフレーク状の27.5グラムのMgClとを小さなアルミニウムるつぼの中で混合することで、50グラムのフラックスを作製した。混合物を、550℃の温度に45分間さらした。その後、得られる液体混合物を、迅速な凝固のために、エナメルコートされたボールに注いだ。得られた塩フラックスを乳鉢により破砕し、ふるいにかけた。3150ミクロンより小さく105ミクロンより大きい粒径を有する画分を回収した。
【0040】
2kgのAA1100アルミニウム合金(商標Alcanのもとで市販される)をグラファイトるつぼの中で、700℃で溶解し、液体状態を維持した。この合金に対し、液体金属中で撹拌器により形成される渦の中で、90重量%のアルミニウムおよび10重量%のカルシウムから成るアルミニウム合金(商標KB Alloysの下で市販される)を2グラム添加した。この撹拌器は直線状のブレードを有する。撹拌を2分間維持した。金属のサンプルを分析のために取得した。上記の通り形成した2グラムのフラックスを、2分間撹拌しながら、カルシウムがドープされた液体アルミニウム合金に添加した。撹拌終了直後並びに30、60および90分後において、サンプルを取得した。
【0041】
サンプルの分析から、塩フラックスの添加後、Caレベルが115ppmから3ppmに減少することが示された。30分後、カルシウムレベルは2ppm未満となった。ナトリウム分の増大は試験において記述されなかった。合金中のナトリウムのレベルは2ppmのオーダーであった。
【0042】
例6(先行技術)
商標SIFTO INDUSTRIALのもとで市販される粉末形態の10グラムのNaCl、商標IMC KALIUMのもとで市販される粉末形態の10グラムのKClおよび商標SKYLINEのもとで市販されるフレーク状の30グラムのMgClを小さなアルミニウムるつぼの中で混合することで、50グラムの塩フラックスを作製した。混合物を、550℃の温度に45分間さらした。その後、得られる液体混合物をエナメルコートされたボールに注ぎ、急速に凝固させた。得られた塩フラックスを乳鉢により破砕し、ふるいにかけた。3150ミクロンより小さく105ミクロンより大きい粒径を有する画分を回収した。
【0043】
2kgのAA1100アルミニウム合金(商標Alcanのもとで市販される)をグラファイトるつぼの中で、700℃で溶解し、液体状態を維持した。この合金に対し、液体金属中で撹拌器により形成される渦の中で、90重量%のアルミニウムおよび10重量%のカルシウムから成るアルミニウム合金(商標KB Alloysの下で市販される)を2グラム添加した。この撹拌器は直線状のブレードを有する。撹拌を2分間維持した。金属のサンプルを分析のために使用した。上記の通り形成した2グラムの塩フラックスを、2分間撹拌しながら、カルシウムがドープされた液体アルミニウム合金に添加した。撹拌を停止し、撹拌終了直後並びに30、60および90分後において、サンプルを取得した。
【0044】
サンプルの分析から、塩フラックスの添加後、Caレベルが108ppmから7ppmに減少することが示された。30分後、カルシウムレベルは2ppmとなり、60分後、カルシウムレベルは1ppm未満となった。ナトリウム分の増大は試験において認められなかった。ナトリウムレベルは2ppmのオーダーであった。この例から、低い含有量のNaClを有する三成分フラックスは、合金中のナトリウムのレベルを増大させないことが示される。
【0045】
例7
粒度分析において95%が840ミクロン未満であり、95%が300ミクロンより大きく、商標SIFTO INDUSTRIALのもとで市販される22.5グラムの粉末形態のNaClと、粒度分析において90%が4.7mm未満であり、85%が1mmより高く、商標SKYLINEのもとで市販される27.5グラムのフレーク状のMgClとを混合することのみにより、50グラムの塩フラックスを作製した。
【0046】
2kgのAA1100アルミニウム合金(商標Alcanのもとで市販される)をグラファイトるつぼの中で、700℃で溶解し、液相を維持した。この合金に対し、液体金属中で撹拌器により形成される渦の中で、90重量%のアルミニウムおよび10重量%のカルシウムから成るアルミニウム合金(商標KB Alloysの下で市販される)を2グラム添加した。この撹拌器は直線状のブレードを有する。撹拌を2分間維持した。金属のサンプルを分析のために使用した。上記の通り形成した2グラムの塩フラックスを、2分間撹拌しながら、カルシウムがドープされた液体アルミニウム合金に添加した。撹拌を停止し、撹拌終了直後並びに30、60および90分後において、サンプルを取得した。
【0047】
サンプルの分析から、塩フラックスの添加後、Caレベルが77ppmから2ppmに減少することが示された。30分後、カルシウムレベルは1ppm未満となった。ナトリウム分の増大は試験において記述されなかった。ナトリウムレベルは2ppmのオーダーであった。
【0048】
例8
2kgのAA1100アルミニウム合金(商標Alcanのもとで市販される)をグラファイトるつぼの中で、700℃で溶解し、液体状態を維持した。この合金に対し、液体金属中で撹拌器により形成される渦の中で、90重量%のアルミニウムおよび10重量%のカルシウムから成るアルミニウム合金(商標KB Alloysの下で市販される)を2グラム添加した。この撹拌器は直線状のブレードを有する。撹拌を2分間維持した。金属のサンプルを分析のために使用した。40重量%のKClおよび60重量%のMgClから形成され、粒度分析において99%が3150ミクロン未満であり、95%が850ミクロンを超える2グラムのPROMAG SI(商標)を、2分間撹拌しながら、カルシウムがドープされた合金に添加した。撹拌を停止し、撹拌終了直後並びに30、60および90分後において、サンプルを取得した。
【0049】
サンプルの分析から、塩フラックスの添加後、Caレベルが75ppmから7ppmに減少することが示された。30分後、カルシウムレベルは5ppm未満となった(図4参照)。これらの分析は、NaClおよびMgClの二成分フラックスが、NaCl、KClおよびMgClの三成分フラックスまたはKClおよびMgClの二成分フラックスよりも効率的であることを示している。
【表1】

【0050】
本発明は、その好ましい実施形態に関して記述されている。明細書および図面は、本発明の理解を助けることのみが意図されており、その範囲を限定することは意図されていない。本発明の範囲を逸脱することなく、本発明の実施において多数の変更および修正することが可能であることは当業者に明らかであるだろう。そのような変化および修正は本発明の範囲である。本発明は、特許請求の範囲に記載されるだろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムおよびアルミニウム合金から成る群から選択される金属の精製のための塩フラックスの使用であって、前記金属は液相の状態であり、前記塩フラックスはNaClおよびMgClの二成分混合物である使用。
【請求項2】
前記二成分混合物の22重量%超がNaClから成る請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記塩フラックスはNaClの粒子とMgClの粒子との混合物である請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
記塩フラックスはNaClおよびMgClの融解塩の粉砕によって得られる粒子の形態である請求項1から3の何れか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記二成分混合物は、
a)40から50重量%のNaCl、および
b)50から60重量%のMgCl
を含む請求項1から4の何れか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記二成分混合物は、
a)45重量%のNaCl、および
b)55重量%のMgCl
を含み、439℃の融点を有する共晶二成分混合物を形成する請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記粒子は100μmから3.35mmの平均粒径を有する請求項1から6の何れか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記粒子は0.85mmから3.15mmの平均粒径を有する請求項1から6の何れか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記粒子は100μmから1mmの平均粒径を有する請求項1から6の何れか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記粒子は、ガス注入装置による注入によって、液相の状態にある前記金属と接触させられる請求項3から9の何れか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記塩フラックスはNaClおよびMgClの液体二成分混合物である請求項1または2に記載の使用。
【請求項12】
前記液体二成分混合物は、
a)40から50重量%のNaCl、および
b)50から60重量%のMgCl
を含む請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記液体二成分混合物は、
a)45重量%のNaCl、および
b)55重量%のMgCl
を含む請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記金属は3重量%を超えるマグネシウム分を有するアルミニウム合金である請求項1から13の何れか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記金属は10重量%を超えるケイ素分を有するアルミニウム合金である請求項1から13の何れか1項に記載の使用。
【請求項16】
アルミニウムおよびアルミニウム合金から成る群から選択される金属を精製する方法であって、
・前記金属を液相まで加熱すること、および
・前記液体金属とNaClおよびMgClの二成分混合物から成る塩フラックスとを接触させること
を含む方法。
【請求項17】
前記二成分混合物の22重量%超がNaClから成る請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記塩フラックスはNaClの粒子とMgClの粒子との二成分混合物である請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記塩フラックスはNaClおよびMgClの融解塩の粉砕によって得られる粒子の形態である請求項16または17に記載の方法。
【請求項20】
前記粒子は100μmから3.35mmの平均粒径を有する請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記粒子は0.85mmから3.15mmの平均粒径を有する請求項18または19に記載の方法。
【請求項22】
前記粒子は100μmから1mmの平均粒径を有する請求項18または19に記載の方法。
【請求項23】
前記粒子は、ガス注入装置による注入よって、前記液体金属と接触させられる請求項18から22の何れか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記塩フラックスはNaClおよびMgClの液体二成分混合物である請求項16または17に記載の方法。
【請求項25】
前記二成分混合物は、
a)40から50重量%のNaCl、および
b)50から60重量%のMgCl
を含む請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記二成分混合物は、
a)45重量%のNaCl、および
b)55重量%のMgCl
を含み、約439℃の融点を有する共晶二成分混合物を形成する請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記金属は3重量%を超えるマグネシウム分を有するアルミニウム合金である請求項16から26の何れか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記金属は10重量%を超えるケイ素分を有するアルミニウム合金である請求項16から26の何れか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−529565(P2012−529565A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514304(P2012−514304)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【国際出願番号】PCT/CA2010/000866
【国際公開番号】WO2010/142025
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511299285)ピロテック・インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】