説明

アルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収方法

【課題】アルミニウム合金ブレージングシートのスクラップからろう材および心材をそれぞれの品質のよい状態で、かつ効率的に回収する方法を提供する。
【解決手段】厚さ1.5mm以上のアルミニウム合金ブレージングシートのスクラップから心材とその表面に被覆したろう材とを分離してそれぞれを回収する方法であって、スクラップをろう材および心材より比重の小さい処理液が収納された回転式の炉に投入するスクラップ供給工程と、炉を回転しながら処理液をろう材の液相線温度以上心材の固相線温度未満の温度に加熱してスクラップのろう材を溶融して当該スクラップの心材から分離させるろう材溶融工程と、回転を停止して溶融したろう材を炉の外部へ排出するろう材回収工程と、炉を回転しながら処理液を心材の液相線温度以上の温度に昇温して心材を溶融する心材溶融工程と、回転を停止して溶融した心材を炉の外部へ排出する心材回収工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の熱交換器等に使用されるアルミニウム合金ブレージングシートの製造工程で生じたスクラップを再利用するための分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載されるコンデンサ、エバポレータ、ラジエータ等の熱交換器は、軽量化のためにアルミニウム合金化が進められ、熱交換器用のアルミニウム合金材として、ろう付け組立用のアルミニウム合金ブレージングシートの生産も増加している。アルミニウム合金ブレージングシートは、Al−Mn系合金等からなる心材の片面または両面に、Al−Si系合金等からなる低融点のろう材をクラッドした積層構造である。アルミニウム合金ブレージングシートは、心材用の合金とろう材用の合金とを別々に鋳造して熱間圧延等で所定の比の厚さの厚板とし、これらを重ね合わせた状態で熱間圧延により圧着し、さらに2.0〜0.2mm程度の所望の厚さの薄板となるように冷間圧延を繰り返して製造される。通常、アルミニウム合金ブレージングシートにおいて、ろう材は重量で10〜40%積層されている。
【0003】
前記のような圧延材の製造過程においては、熱間圧延、冷間圧延における各工程での前後端の不良部分を切り落としたクロップ材、また、圧延幅方向両縁の不良部分を切り落としたトリミング材、さらにはコイルでの寸法調整のために切り落としたオフゲージ部等のスクラップが多量に発生する。このようなスクラップは、省資源化およびコスト低減のために再溶融されて利用される。しかし、アルミニウム合金ブレージングシートのスクラップは心材、ろう材等の2種以上の組成の異なる合金が積層されて圧着されているので、そのまま溶融すると、それぞれの組成の合金が混合されたアルミニウム合金溶湯となる。一般に、ろう材用のAl−Si系合金はSiを4〜13質量%もの高濃度で含有しているので、このようなアルミニウム合金溶湯は、そのままでは心材としてもろう材としても不適合であり、これらの材料に再利用するためには、例えば純Al等の新たな成分を多量に投入して不要な成分を希釈する必要があって、コスト高の一因となる。したがって、アルミニウム合金ブレージングシートのスクラップは、他の低品位材料や部分的な配合材料として再利用するしかなかった。
【0004】
そのため、アルミニウム合金ブレージングシートのスクラップのすべてを一度で溶融せず、低融点のろう材のみを心材の融点未満で溶融して、心材とは個別に回収する技術が開発されている。例えば、特許文献1には、スクラップをろう材とほぼ同じ成分の合金の溶湯に浸漬してこの溶湯にろう材を溶融させて、固体状の心材のみを回収する方法が開示されている。また、特許文献2には、ろう材と比重の異なる液体をろう材の融点を超え心材の融点未満の温度に保持した中にスクラップを浸漬してろう材を溶融させて、固体状の心材と、液体と分離して沈殿あるいは浮いている溶融したろう材と、を個別に回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−34150号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2001−3121号公報(段落0009〜0014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来技術は、いずれも籠状の容器にスクラップを収納して、溶湯または処理液に浸漬してろう材のみを溶融させることで、容器内を固体状の心材のみとして容器ごと心材を引き上げることにより心材を回収するものであり、作業効率に劣る。また、この回収された心材は多数のスクラップの形状を保持しているので、重量に対してかさが多く、再利用の際だけではなく保管や搬送のためにも、別途溶融または圧縮する工程が必要となる。そして、重量に対して合計の表面積も大きいので、多量の溶湯または処理液が表面に付着している。特に特許文献1において回収された心材に付着した溶湯は、分離したろう材とほぼ同じ成分であり、このような心材を溶融するとSi等が元の心材より高濃度のアルミニウム合金となる。特許文献2において回収された心材も、そのままでは処理液の成分を多く含んだ低品位のものとなり、別途除去する工程が必要となる。また、特許文献1においては、回収するろう材に合わせて溶湯の成分を調整する必要がある上、スクラップを浸漬しても温度が降下しないように多量に用意する必要があって、コスト高となり、さらにろう材の成分によっては、これを十分に溶融した温度とすると心材まで溶出する虞がある。
【0007】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、アルミニウム合金ブレージングシートのスクラップからろう材および心材をそれぞれの品質のよい状態で、かつ効率的に分離・回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収方法は、心材とその少なくとも片面にろう材とを備え、前記心材が前記ろう材を形成する合金の液相線温度より固相線温度の高いアルミニウム合金からなるアルミニウム合金ブレージングシートのスクラップから、ろう材と心材とを分離してそれぞれを回収する方法である。すなわち、この方法は、前記スクラップを処理液が収納された回転式の炉に供給して前記処理液に浸漬するスクラップ供給工程と、前記炉を回転しながら加熱して、前記処理液を前記ろう材の液相線温度以上前記心材の固相線温度未満の温度とし、前記スクラップのろう材を溶融して当該スクラップの心材から分離させるろう材溶融工程と、前記炉の回転を停止し、前記ろう材溶融工程で溶融したろう材を前記炉の外部へ排出するろう材回収工程と、前記炉を回転しながら加熱して、前記処理液を前記心材の液相線温度以上の温度に昇温して、前記ろう材を分離されたスクラップの心材を溶融する心材溶融工程と、前記炉の回転を停止し、前記心材溶融工程で溶融した心材を前記炉の外部へ排出する心材回収工程とを行い、前記スクラップは厚さが1.5mm以上であり、前記処理液はその密度が前記溶融したろう材の密度および前記溶融した心材の密度より0.3g/cm3以上小さいことを特徴とする。
【0009】
このように、スクラップを処理液に浸漬して炉を回転させながら、ろう材のみが溶融する温度に加熱してその後に心材が溶融する温度に加熱することにより、同一の炉でろう材および心材のそれぞれを順番に効率よく溶融して回収することができる。特に、スクラップの厚さを所定以上とし、ろう材のみが溶融する温度に加熱しているときに炉を回転させることで、スクラップ同士が衝突して、その衝撃で大きく変形することなく表面に溶融しているろう材が分離し易くなる。また、ろう材および心材に対して十分に比重の軽い処理液を用いることで、溶融したろう材および心材がそれぞれ処理液から分離して炉の底に溜まるため、容易に回収できる。
【0010】
さらに、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収方法において、ろう材溶融工程および心材溶融工程における炉の回転数は、6〜30rpmであることが好ましい。このような回転数とすることで、さらにろう材が心材から分離し易くなり、それぞれをいっそう効率よく溶融することができる。
【0011】
また、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収方法において、スクラップが面積40cm2以上の板材であることが好ましい。このように、スクラップの大きさを所定以上とすることで、自重により、炉内でスクラップが十分に回転して、適度な衝撃で互いに衝突するため、ろう材が心材から分離し易くなり、それぞれをいっそう効率よく溶融することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収方法によれば、ろう材および心材のそれぞれを溶融した状態で効率よく回収して、新たなろう材および心材に再利用することができる。特に、熱間圧延時に生じる厚板状のスクラップの再利用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収に用いる回転式のアーク炉の断面模式図である。
【図2】本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収方法を説明するための、図1に示すアーク炉の炉体の断面図であり、(a)はろう材溶融工程、(b)はろう材回収工程、(c)は心材溶融工程、(d)は心材回収工程における図である。
【図3】ろう材回収工程における溶湯抜穴の開閉手段を説明するための、図1に示すアーク炉の溶湯抜穴部分の拡大断面図であり、(a)は開栓状態、(b)は閉栓状態における図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収方法(以下、適宜スクラップ分離回収方法という)を実現するための形態について説明する。
【0015】
(アルミニウム合金ブレージングシートスクラップ)
本発明に係るスクラップ分離回収方法における被処理物であるアルミニウム合金ブレージングシートスクラップ(以下、適宜スクラップという)は、アルミニウム合金ブレージングシートの製造過程で切り落とされた板材の端部等である。具体的には、熱間圧延、冷間圧延における各工程での前後端の不良部分を切り落としたクロップ材、また、圧延幅方向両縁の不良部分を切り落としたトリミング材、さらにはコイルでの寸法調整のために切り落としたオフゲージ部等が挙げられる。製造工程が進むにしたがい発生するスクラップも薄肉化されたものとなり、初期の熱間圧延(クラッド圧延)における数mmから、最終冷間圧延における0.2mm以下まで存在する。
【0016】
本発明に係るスクラップ分離回収方法にて処理されるスクラップは、主に最終冷間圧延より前の工程における厚さ1.5mm以上の板材から発生するものとする。本発明に係るスクラップ分離回収方法では、表面のろう材のみを先に溶融して、炉の回転による衝撃で心材から分離させ、炉の底部を開栓してその穴(溶湯抜穴、図1参照)から回収する。ろう材の溶融時には、スクラップは高温で軟化しているので、特に板厚が薄いと炉の回転による衝撃で変形し易く、スクラップの表面が内側に折り込まれた場合には、その部分のろう材が分離し難くなる。また、スクラップ同士が密着する場合もあり、重なった部分のろう材が分離し難くなる。また、変形したスクラップ(心材)は、溶融したろう材の回収時に溶湯抜穴に詰まったり、さらに小さく折り込まれて変形した場合は、ろう材と共に排出される虞がある。特に、ろう材がアルミニウム合金(Al−Si合金)の場合は、固体の心材(アルミニウム合金)が、溶融したろう材より比重が重いために炉内の底に沈んでいるので、前記のように変形していると、ろう材の回収の妨げになり易い。また、1枚のスクラップの面積は40cm2以上が好ましい。スクラップの面積が小さいと、ろう材を分離された心材も小さいので、変形しなくても、溶融したろう材の回収時に、溶湯抜穴に心材が詰まったり、さらに小さいと共に排出される虞があるため、最小のスクラップよりも十分に小さい溶湯抜穴とする必要がある。これに対して、ある程度の大きさおよび厚さを有するスクラップであれば、自重により、回転式の炉内でスクラップが十分に回転して効率よく溶融される。
【0017】
スクラップは、その発生源であるアルミニウム合金ブレージングシートと同様に、心材の片面または両面にろう材が被覆された積層構造である。心材およびろう材のそれぞれを構成する合金は、ろう付け組立用の一般的なアルミニウム合金ブレージングシートにおける合金の組合せであれば、特に組成を限定しない。アルミニウム合金ブレージングシートのろう材用合金としては、4000系アルミニウム合金の中でも7〜13質量%の範囲でSiを含有するAl−Si合金が挙げられる。Al−Si合金はSi濃度が高いほど液相線温度が降下し、前記Si濃度の範囲では614℃から577℃(=固相線温度)である。例えば、Si:9〜11質量%を含有する4045合金の液相線温度は約590℃で、4045合金をろう材として備えるアルミニウム合金ブレージングシートは、590〜605℃程度でろう付けされる。
【0018】
心材用アルミニウム合金の一例としては、3000系アルミニウム合金(Al−Mn合金)の一種の、Mn:1.0〜1.5質量%、Cu:0.05〜0.20質量%等を含有する3003合金が挙げられる。3003合金の固相線温度〜液相線温度は、643〜654℃であるため、前記4045合金からなるろう材の全体が溶融しても、心材はその一部も溶融することなく固体状態を維持することが可能である。このように、アルミニウム合金ブレージングシートは、心材用アルミニウム合金が溶融し始めるより低い温度でろう材用合金が溶融するような組合せからなる。
【0019】
また、アルミニウム合金ブレージングシートは、心材とろう材の他に、これらの間の中間材や、犠牲陽極材等の別の組成のアルミニウム合金が積層されていてもよい。中間材や犠牲陽極材としては、一般に、純アルミニウム(Al:99質量%以上)をベースとするアルミニウム合金、Zn:1〜7質量%程度を含有するAl−Zn系合金をベースとするアルミニウム合金が適用され、固相線温度〜液相線温度はそれぞれ、650〜660℃、620〜650℃程度である。したがって、このような中間材や犠牲陽極材を備えるアルミニウム合金ブレージングシートのスクラップの分離回収においては、当該中間材や犠牲陽極材は、主に心材と共に溶融して、混合したアルミニウム合金溶湯として回収される。
【0020】
(処理液)
処理液は、スクラップを浸漬して均一に加熱して溶融させるための媒体であり、したがって、スクラップ(ろう材、心材)の溶融温度域で液体である、すなわち、融点がろう材用合金の固相線温度(以下、ろう材固相線温度、Al−Si合金であれば577℃)未満の物質とする。また、処理液は、ろう材用合金および心材用アルミニウム合金のそれぞれに対する溶解度が十分に小さく(溶解せず)、さらに、密度がろう材用合金および心材用アルミニウム合金のそれぞれの溶融した状態における密度より小さく、その差が0.3g/cm3以上の物質とする。この密度の差は、溶融したろう材および心材のそれぞれの回収時におけるものとする。このような処理液を用いることで、溶融したろう材および心材のそれぞれが処理液から分離して沈殿(沈降)するため、溶湯として容易に処理液から分離して回収できる。これらのことから、処理液としては、金属の熱処理として一般的な塩浴に用いられる溶融塩が好ましく、NaCl−KCl−CaCl2、KCl−NaCl−BaCl2、KF−AlF3等の混合塩が挙げられる。例えば20質量%KCl−40質量%NaCl−40質量%CaCl2混合塩は、融点が約550℃で、その溶融塩の密度は700℃で約1.8g/cm3である。これに対して溶融した純アルミニウムの密度は700℃で2.36g/cm3で十分な差があり、3003合金、4045合金も同程度であるので、容易に分離可能である。
【0021】
(装置)
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収に用いる装置について、その一例を図1を参照して説明する。
図1に示す装置は回転式のアーク炉10で、正面に平行な断面図であり、水平な(図1における左右方向の)回転軸で回転する炉体1と、炉体1の一端面(図1における左側)に、開閉可能な炉蓋2を備える。また、アーク炉10は、炉体1内に棒状の一対の電極(電極棒)3,4を対向して備え、電極3,4間にアーク放電させることにより炉体1内を所定温度に加熱する。さらに、アーク炉10は、炉体1の外側に、炉体1を回転させるための回転機構および温度調節手段を備える(図示せず)。炉体1の周面には、中の溶湯を取り出すための溶湯抜穴(タップホール)5が形成されている(図1においては、溶湯抜穴5は閉栓されている)。また、炉蓋2にはガス供給口6およびガス排気管7が備えられている。スクラップおよび処理液である溶融塩は、炉蓋2を開けて炉体1内に供給され、スクラップが溶融した溶湯は溶湯抜穴5から排出される。なお、炉の加熱手段は本実施形態に限定されず、電気加熱やバーナー加熱等の公知の加熱手段が適用できる。
【0022】
〔スクラップ分離回収方法〕
次に、図1および図2を参照して、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収方法について説明する。
【0023】
(スクラップ供給工程)
スクラップの分離回収を行う前に、予め炉体1に、溶融したとき、処理するスクラップの全体を浸漬できる量の処理液となる混合塩を投入しておく。さらにこの混合塩が溶融する温度に予熱しておくことが好ましい。ただし、心材用アルミニウム合金の固相線温度(以下、心材固相線温度)以上にならないようにする。スクラップ供給工程S1は、炉蓋2を開けて、炉体1に被処理物であるスクラップを投入する工程である。このとき、電極棒3,4は炉体1内から後退させて(引き抜いて)おく。スクラップを炉体1に投入した後、炉蓋2を閉め、電極棒3,4を炉体1に挿入して所定位置で対向させる。
【0024】
(ろう材溶融工程)
ろう材溶融工程S2は、スクラップの表面のろう材を溶融する工程である。炉体1を回転させながら、電極棒3,4間にアーク放電させて、炉体1内をろう材溶融温度T1まで加熱する。ろう材溶融温度T1は、ろう材用合金の液相線温度(以下、ろう材液相線温度)以上かつ心材固相線温度未満とする。このような温度範囲であれば、ろう材のみが溶融して心材は固体状態を維持できる。なお、処理液が溶融していない状態(混合塩)から加熱する場合は、まず、ろう材固相線温度未満で混合塩を完全に溶融させてから、ろう材溶融温度T1に昇温することが好ましい。これは、液状の処理液とすることで、スクラップが局所的に高温に加熱されることを防止するためである。そして、加熱と同時に炉体1を回転させることで、処理液とスクラップがよく撹拌されて、ろう材溶融温度T1に加熱された処理液が個々のスクラップおよびその表面全体に均一に接触して、ろう材を効率よく溶融し、また、スクラップ同士が衝突するため、その衝撃で溶融したろう材がスクラップ(心材)から離脱し易い(図2(a))。ここで、炉体1の回転速度が遅いと処理液とスクラップが十分に撹拌されず、速すぎると遠心力が作用して却って撹拌されないため、回転速度は6〜30rpmであることが好ましい。なお、炉体1の回転方向は特に限定しないが、回転軸を非鉛直、好ましくは略水平として炉体1の底部が上下に移動するようにする。また、周期的に回転方向を反転させてもよい。また、スクラップ供給工程S1で炉蓋2を閉めた後、後工程も含めて、ガス供給口6から炉体1内にアルゴンガス等の不活性ガスを供給し続けることが好ましい(図1参照)。これは、電極棒3,4の酸化消耗、処理液の劣化、ならびに溶融したろう材(ろう材溶湯)および露出した心材表面の酸化、さらに後工程では溶融した心材(心材溶湯)の酸化を抑制するためである。
【0025】
(ろう材回収工程)
次に、ろう材回収工程S3にてろう材溶湯を回収する。ろう材溶融工程S2で、ろう材がスクラップ(心材)から離脱して溶融したら、炉体1の回転を停止する。このとき、炉体1を、溶湯抜穴5が下になるような位置で停止、固定する。また、アーク放電は停止してよいが、処理液の温度はろう材溶湯が凝固しないように、好ましくはろう材液相線温度を下回らないように保持する。そして、溶湯抜穴5を開栓して、炉体1内の下部に沈降したろう材溶湯を図示しない容器に回収する(図2(b))。このとき、炉体1内でろう材溶湯が処理液から完全に分離して沈降するまで炉体1を静置してから、溶湯抜穴5を開栓することが好ましい。このようにすることで、ろう材溶湯をすべて回収するために共に排出される処理液の量を最小限に抑えることができる。ろう材溶湯を炉体1内からすべて回収したら、具体的には溶湯抜穴5から処理液が排出され始めたら、速やかに溶湯抜穴5を閉栓する。なお、ろう材溶湯に付着、混入した処理液は、例えば溶湯を凝固させれば、上部に分離して凝固するため除去することができる。
【0026】
ろう材溶湯をすべて回収し、かつ共に回収される処理液の量を最小限に抑える方法の一例として、溶湯抜穴5に図3に示す開閉手段52を備えてもよい。開閉手段52は、溶湯抜穴5の開口部を塞ぐ栓51を移動させて開閉する制御装置である。ここで、炉体1は、内側の底部、図3では溶湯抜穴5の開口部近傍に、スクラップ(心材)が入ってこないように狭くした領域が形成されている。この領域に、一対の端子E,Eが互いに接触しないように設けられて、開閉手段52へ電気的に接続されている。図3(a)に示すように、溶湯抜穴5の開栓時(ろう材溶湯の回収時)において、溶湯抜穴5の開口部にろう材溶湯、すなわち導体である合金の溶湯が存在しているときは、端子E,E間が導通する(電気抵抗小)。このとき、開閉手段52は、溶湯抜穴5が「開」状態を継続するように設定されている。そして、ほとんどすべてのろう材溶湯が炉体1内から排出、回収されると、図3(b)に示すように、溶湯抜穴5の開口部には処理液が進入してくる。処理液(溶融塩)はろう材溶湯と比較すると電気抵抗が大幅に高く非導体に近いため、端子E,E間が絶縁される。端子E,E間が絶縁されると、開閉手段52は、溶湯抜穴5を「閉」状態に切り替えて、栓51を移動して溶湯抜穴5を塞ぐように設定されている。なお、この開閉手段52は、後記の心材回収工程S5においても、同様に動作させることができる。
【0027】
(心材溶融工程)
心材溶融工程S4は、スクラップからろう材を除去された心材を溶融する工程である。再び炉体1を回転させながらアーク放電により加熱して、炉体1内を心材溶融温度T2まで昇温する(図2(c))。心材溶融温度T2は、心材用アルミニウム合金の液相線温度(以下、心材液相線温度)以上とし、効率よく心材を溶融するためには(心材液相線温度)+10℃以上が好ましい。上限温度は規定しないが、装置能力等から800℃以下が好ましい。また、炉体1の回転は、ろう材溶融工程S2と同様であり、説明を省略する。
【0028】
(心材回収工程)
最後に、心材回収工程S5にて心材溶湯を回収する。心材回収工程S5は、ろう材回収工程S3とほぼ同様に行うことができる。心材溶融工程S4で心材が溶融したら、溶湯抜穴5が下になるような位置で炉体1の回転を停止、固定する。また、アーク放電も停止してよいが、処理液の温度は心材溶湯が凝固しないように、好ましくは心材液相線温度を下回らないように保持する。そして、溶湯抜穴5を開栓して、炉体1内の下部に沈降した心材溶湯を図示しない容器に回収する(図2(d))。また、ろう材回収工程S3と同様に、炉体1内で心材溶湯が処理液から完全に分離して沈降するまで炉体1を静置してから、溶湯抜穴5を開栓することが好ましい。心材溶湯を炉体1内からすべて回収したら、溶湯抜穴5を閉栓し、スクラップの分離回収を完了する。
【0029】
以上の工程により、スクラップの分離回収を行うことができる。新たにスクラップを投入して分離回収する場合は、炉体1内の処理液の温度を心材固相線温度未満に冷却してから、スクラップ供給工程S1を行う。また、スクラップを投入する前に、前回の回収工程S3,S5にてろう材溶湯および心材溶湯と共に回収されて減少した処理液の分の混合塩を追加してもよい。
【実施例】
【0030】
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と比較して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(アルミニウム合金ブレージングシートスクラップ)
心材として3003合金(固相線温度:643℃、液相線温度:654℃)を、ろう材として4045合金(液相線温度:590℃)をそれぞれ適用して、心材の片面にクラッド率10%でクラッドし、表1に示す厚さのアルミニウム合金ブレージングシートとした。これをさらに表1に示す面積の略正方形に切り出して被処理物とした。アルミニウム合金ブレージングシートとする前の3003合金および4045合金のSi含有量は、それぞれ0.2質量%、10質量%である。
【0032】
(処理液)
処理液として、KCl,NaCl,BaCl2,CaCl2を、融点が500〜570℃の範囲となるように混合比を変えて比重を異なるものとした混合塩を用いた。溶融した700℃での密度を表1に示す。
【0033】
回転式のアーク炉の炉体に混合塩を投入して、約590℃に加熱して混合塩を溶融してから、被処理物(スクラップ)を300kg投入し、アルゴンガスを供給しながら、かつ表1に示す回転速度で炉体を回転させながら590℃に加熱して20分間保持した。そして、炉体の回転を停止して10分間の静置後、アルミニウム合金溶湯を可能な限り回収した(1回目)。次に、再び同じ回転速度で炉体を回転させながら700℃に加熱して40分間保持した。そして、炉体の回転を停止して10分間の静置後、アルミニウム合金溶湯を可能な限り回収した(2回目)。
【0034】
1回目と2回目のそれぞれで回収したアルミニウム合金溶湯を冷却して凝固させたアルミニウム合金材(回収アルミニウム合金材)について、質量(回収量)を測定し、また成分を解析してSi含有量(Si濃度)を測定し、表1に示す。1回目の回収は、Si回収率で評価した。詳しくは、回収アルミニウム合金材に含まれるSiの質量Qfの、投入した300kgのアルミニウム合金ブレージングシートにおけるろう材(4045合金)に含まれるSiの質量Qf0に対する比(Qf/Qf0)の百分率をSi回収率とし、表1に示す。ここで、Qf0=300kg×10%(クラッド率)×10質量%(Si含有量)=3.0kgである。なお、ろう材と心材(3003合金)は同じ密度として計算した。合格基準は、Si回収率Qf/Qf0が50%を超えるものとした。
【0035】
2回目の回収は、回収アルミニウム合金材の、回収率、およびSi濃度の心材(3003合金)のSi含有量0.2質量%からの変化(増加)量で評価した。回収率は、回収アルミニウム合金材の回収量の、1回目の回収後のスクラップ残量(300kg−(1回目の回収量))に対する百分率であり、90%以上を合格とした。Si濃度は、増加率が200%以下(Si濃度が元の心材のSi含有量の3倍以下)である0.6質量%以下を合格とした。回収率90%以上で、Si濃度0.3質量%以下を特に優れているとして「◎」、Si濃度0.3質量%超0.4質量%以下を優れているとして「○」、Si濃度0.4質量%超0.6質量%以下を良好として「△」とし、回収率90%未満、Si濃度0.6質量%超の少なくとも一方であるものを不良として「×」で表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示すように、試験No.1〜8のすべてについて、1回目の回収アルミニウム合金材のSi濃度は元のろう材のSi含有量を下回ることがなく、ろう材溶融工程において心材の溶融はなかったといえる。なお、試験No.4〜7は、1回目の回収アルミニウム合金材のSi濃度が元のろう材のSi含有量より高いが、これらは回収アルミニウム合金材の回収量が比較的少なく、後記するように、ろう材溶融工程でろう材が完全には心材から分離しなかった試験である。これは、スクラップ(ブレージングシート)表面を被覆するろう材の中でも、クラッド圧延等でSiが濃化された、液相線温度がより低い部分から優先的に溶融、分離したことを示す。
【0038】
試験No.1〜6は、本発明の範囲の実施例であり、1回目、2回目共に合格基準を満たすアルミニウム合金材を溶湯として回収できた。中でも試験No.1,2は、スクラップが十分に大きく、炉体の回転速度が適度であったため、20分間の回転(ろう材溶融工程)でろう材が心材から十分に分離して、また処理液である溶融塩の比重がアルミニウム合金溶湯に対して十分に小さかったので、1回目、2回目共に溶湯が容易に回収できた。特に、板厚、面積が最大のスクラップによる試験No.2は、1回目の回収で元のろう材の質量(30kg)の90%以上を溶湯として回収できたため、2回目の回収アルミニウム合金材へのろう材の混入が少なく、元の心材の成分に近い状態で回収できた。このことから、本発明がこのような比較的大きいスクラップの再利用に好適であるといえる。
【0039】
また、試験No.3については、試験No.1,2と同様に、スクラップの大きさおよび炉体の回転速度が適度であったので、ろう材溶融工程でろう材が心材から十分に分離したが、溶融塩の密度が本発明の範囲内でアルミニウム合金溶湯の密度に近かったために、溶湯が処理液から完全には分離しなかった。ただし、2回の回収工程で回収できなかった溶湯は、投入したスクラップの5%未満であり、十分に回収可能である。一方、試験No.4はスクラップが小さかったために、また、試験No.5は炉体の回転が遅く、試験No.6は炉体の回転が速かったために、いずれもろう材の心材からの分離に時間を要し、20分間の回転ではろう材の一部が心材から分離しなかった。その結果、1回目の回収アルミニウム合金材の回収量が少なく、2回目の回収アルミニウム合金材にろう材の成分が混入した。
【0040】
これらの実施例に対して、試験No.7はスクラップの板厚が薄い比較例であるため、試験No.4と同様にろう材の心材からの分離に時間を要したことに加え、スクラップが変形したりスクラップ同士が密着してさらにろう材が分離し難くなったため、1回目の回収アルミニウム合金材の回収量が元のろう材の半分に満たず、回収されなかったろう材が2回目の回収アルミニウム合金材に混入した。また、試験No.8は溶融塩の比重がアルミニウム合金溶湯に近かったため、1回目、2回目共に溶湯が溶融塩からほとんど分離せず、実質的に回収不能であり、2回の回収工程による回収アルミニウム合金材の合計量が、投入したスクラップの半分に満たなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材とその少なくとも片面にろう材とを備え、前記心材が前記ろう材を形成する合金の液相線温度より固相線温度の高いアルミニウム合金からなるアルミニウム合金ブレージングシートのスクラップから、前記ろう材と前記心材とを分離してそれぞれを回収するアルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収方法であって、
前記スクラップを、処理液が収納された回転式の炉に供給して前記処理液に浸漬するスクラップ供給工程と、
前記炉を回転しながら加熱して、前記処理液を前記ろう材の液相線温度以上前記心材の固相線温度未満の温度とし、前記スクラップのろう材を溶融して当該スクラップの心材から分離させるろう材溶融工程と、
前記炉の回転を停止し、前記ろう材溶融工程で溶融したろう材を前記炉の外部へ排出するろう材回収工程と、
前記炉を回転しながら加熱して、前記処理液を前記心材の液相線温度以上の温度に昇温して、前記ろう材を分離されたスクラップの心材を溶融する心材溶融工程と、
前記炉の回転を停止し、前記心材溶融工程で溶融した心材を前記炉の外部へ排出する心材回収工程と、を行い、
前記スクラップは、厚さが1.5mm以上であり、
前記処理液は、その密度が前記溶融したろう材の密度および前記溶融した心材の密度より0.3g/cm3以上小さいことを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収方法。
【請求項2】
前記ろう材溶融工程および前記心材溶融工程において、炉の回転数が6〜30rpmであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収方法。
【請求項3】
前記スクラップが面積40cm2以上の板材であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金ブレージングシートスクラップの分離回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−242111(P2010−242111A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88531(P2009−88531)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】