説明

アルミニウム合金基複合材料の製造方法

【課題】 浸透不良が発生せず、かつ、加工性を向上させた金属基複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 アルミニウム合金中にホウ酸アルミニウム粉末が複合されたアルミニウム合金基複合材料の製造方法であって、粒径100μm以上の粒子の占める割合が0〜20体積%のホウ酸アルミニウム粉末原料を充填して充填体を得る工程と、前記充填体を予熱する工程と、1〜5質量%のCuを含んでなるアルミニウム合金を700〜900℃で加熱して溶融アルミニウム合金を得る工程と、前記予熱した充填体に前記溶融アルミニウム合金を50〜200MPaの圧力で加圧浸透させる工程と、を含むことを特徴とするアルミニウム合金基複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金基複合材料の製造方法に関するもので、さらに詳しくは、加圧浸透法(高圧鋳造法とも呼ぶ。)により得られ、かつ、従来よりも加工性を向上させたアルミニウム合金基複合材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属マトリックスとセラミックスの強化相からなる金属基複合材料は、強化相が有する剛性及び耐磨耗性と金属マトリックスが有する延性及び靭性を併せ持つので、種々の用途に使用されるようになってきている。
また、このような複合材料は、ヤング率を密度で除した値である比ヤング率を大きくすることが可能なことから、大きな固有音速を有し、優れた振動減衰特性を備えている。従って、このような優れた制震性を有する複合材料を、例えば、ロボットの高速移動アームに応用することが可能である。
【0003】
しかしながら、従来の金属基複合材料は、加工性が不十分であった。これは強化材であるセラミックスとして硬度の高いアルミナ、SiC等が用いられることが多く、このため加工性が悪かった。したがって、金属基複合材料を加工するには、加工工具としてダイヤモンド砥石を用いた湿式研削加工が必要であった。
【0004】
これに対し強化材であるセラミックスとして硬度の低いホウ酸アルミ粒子を用いたアルミニウム基複合材料が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
しかしながら、上記した方法によっても、溶融金属の浸透不良による欠陥が生じる場合があった。さらには、得られた複合材料を加工するに際しても加工に用いる工具の寿命は決して長いとは言えず、更なる加工性の向上が望まれていた。
【特許文献1】特開2004-353049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記した金属基複合材料が有する課題に鑑みなされたものであって、その目的は、従来よりも、浸透不良が発生せず、かつ、加工性を向上させた金属基複合材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、アルミニウム合金基複合材料の製造方法において、粒径100μm以上の粒子の占める割合が0〜20体積%のホウ酸アルミニウム粉末原料を用いて充填体を成形し、加圧浸透法によりアルミニウム合金基複合材料となすことで、複合材料の加工性を従来よりも向上できることを見出して本発明を完成した。すなわち、本発明者らは、上記課題を解決するための手段として以下を提供する。
【0008】
(1)アルミニウム合金中にホウ酸アルミニウム粉末が複合されたアルミニウム合金基複合材料の製造方法であって、粒径100μm以上の粒子の占める割合が0〜20体積%のホウ酸アルミニウム粉末原料を充填して充填体を得る工程と、前記充填体を予熱する工程と、1〜5質量%のCuを含んでなるアルミニウム合金を700〜900℃で加熱して溶融アルミニウム合金を得る工程と、前記予熱した充填体に前記溶融アルミニウム合金を50〜200MPaの圧力で加圧浸透させる工程と、を含むことを特徴とするアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶融アルミニウム合金の浸透性を良くすることができる。かつ、粒径100μm以上の粒子の占める割合が0〜20体積%のホウ酸アルミニウム粉末原料を用いることで、加工性を向上することができる。
したがって、浸透不良を低減でき、欠陥の少ない易加工性アルミニウム合金基複合材料を歩留まり良く製造できるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について、更に詳しく説明する。
本発明では、アルミニウム合金中にホウ酸アルミニウム粉末が複合されたアルミニウム合金基複合材料の製造方法であって、粒径100μm以上の粒子の占める割合が0〜20体積%のホウ酸アルミニウム粉末原料を容器に充填して充填体を得る工程と、前記充填体を予熱する工程と、1〜5質量%のCuを含んでなるアルミニウム合金を700〜900℃で加熱して溶融アルミニウム合金を得る工程と、前記予熱した充填体に前記溶融アルミニウム合金を50〜200MPaの圧力で加圧浸透させる工程と、を含むことを特徴とするアルミニウム合金基複合材料の製造方法を提案している。
【0011】
ここで、本発明に係る金属マトリックスとしてのアルミニウム合金の原料素材としては、アルミニウムまたは公知のアルミニウム合金のインゴットまたは粉末を用いることができる。
【0012】
次に、本発明に係る強化材としてのセラミックス粉末原料としては、硬度の低いホウ酸アルミニウム粉末を用いている。ここで、ホウ酸アルミニウム粉末の形状としては、粒子状が好ましい。
また、粒径100μm以上の粒子の占める割合が0〜20体積%のホウ酸アルミニウム粉末原料を用いることが、加工性を向上させるために好ましい。
その理由は、粒径100μm以上の粒子の占める割合が20体積%を超えて多い粗いホウ酸アルミニウム粉末を用いると、細かいホウ酸アルミニウム粉末を用いた場合と比較して、加工工具面と被加工面との接触面積に占めるホウ酸アルミニウム粉末の割合が大きくなるため加工が困難となると推察される。
【0013】
次に、本発明に係る複合材料中のホウ酸アルミニウム粉末の充填率は、40〜60体積%であることが好ましい。その理由は、ホウ酸アルミニウム粉末の充填率が、40体積%より小さいと剛性が小さくなるため好ましくないからである。
また、ホウ酸アルミニウム粉末の充填率が60体積%より大きいと、加工性が低下するため好ましくないからである。
【0014】
次に、本発明に係るホウ酸アルミニウム粉末原料を充填して充填体を得る工程における粉末原料を充填する方法としては、粉末原料を容器に充填しながら振動を与える方法が好適に挙げられる。ここで、充填体におけるホウ酸アルミニウムの充填率としては、上記した理由により、40〜60体積%となることが好ましい。
また、充填体を得る工程としては、ホウ酸アルミニウム粉末原料に有機バインダー、無機バインダーを添加し、プレスにより充填体を形成する方法、水などの溶媒と粉末原料、無機バインダーを添加しフィルタープレスなどの方法により充填体を形成する方法を用いても良い。
【0015】
次に、前記充填体を加熱する工程としては、充填体の加熱温度は、500〜1000℃、好ましくは700〜800℃とすることが望ましい。
【0016】
次に、アルミニウム合金を加熱して溶融アルミニウム合金を得る工程における、加熱温度を700〜900℃とする理由は、アルミニウム合金の溶融温度が700℃より低いと溶融アルミニウム合金の粘性が高く、浸透し難くなり、浸透不良を起こし好ましくなく、また、900℃より高いとアルミニウム合金が酸化されやすくなり、複合材料中にアルミナが混入して加工性が低下するため好ましくないからである。
【0017】
ここで、1〜5質量%のCuを含んでなるアルミニウム合金を用いる理由は、アルミニウム合金中のCuの含有量が1質量%未満では加工性が悪くなるため好ましくなく、また、Cuの含有量が5質量%を超えて多いと複合材料としての延性が小さくなるため脆くなるので好ましくないからである。
【0018】
次に、前記充填体に前記溶融アルミニウム合金を加圧浸透させる工程における加圧力は、好ましくは50MPa〜200MPaとすることが望ましい。その理由は、加圧力が50MPa未満であると、浸透不良を起こし好ましくないからである。また、加圧力を200MPaを超えて大きくすることは装置設計上において好ましくない。
【0019】
次に、このようにして得られた複合材料の周りに付着した余分なアルミニウム合金の部分を加工により除去し、所望の形状のアルミニウム合金基複合材料を得る。
【0020】
以下、本発明の実施例と比較例を具体的に挙げ、本発明をより詳細に説明する。
(1) アルミニウム合金基複合材料の作製
強化材としてのホウ酸アルミニウム粉末原料は、市販品で種々の粒度分布の粉末原料を用いた。(ホウ酸アルミニウム粉末原料における粒径100μm以上の粒子の占める割合は、公知の粒度分析計により評価した。)各々の粉末原料を100×150×50mmの大きさの鉄製容器に振動をかけながら充填して、ホウ酸アルミニウム粉末の充填率が50体積%となる充填体を得た。次に、得られた充填体を700℃で予熱した。
次に、種々の含有率のCuを含んでなるアルミニウム合金を種々の温度で加熱して溶融アルミニウム合金を得た。次に、前記予熱した充填体を加圧浸透装置内の金型に設置して、前記溶融アルミニウム合金を60MPaの圧力で10min加圧浸透させて、複合化させ、冷却して複合材料を作製した。その後、周囲に付着した余剰のアルミニウム合金を切断除去し、アルミニウム合金基複合材料を得た。
【0021】
(2) 評価方法
得られた複合材料の浸透不良の発生の有無は、切断面の外観を目視観察することにより行い、浸透不良の発生が認められないものを良と、浸透不良が発生したものを不良と判定した。
次に、加工性の評価は、得られた複合材料の100×150mmの面をフライス盤(大隈豊和社製 MILLAC 415V)で面出し加工することにより行った。この際、加工工具としては、サンドビック社製の超硬工具(R245-12T3E)を4個1組で使用して、所望の面出し加工が超硬工具を交換しなくてもできる最大個数を調べた。
また、得られた複合材料の延性を評価する目的で、伸びをJIS Z 2241に準拠する方法により評価して伸びを測定した。得られた評価結果を表1にまとめて示した。
【0022】
【表1】

【0023】
(3)評価結果
表1から明らかなように、実施例1〜3においては、ホウ酸アルミニウムの粒径、アルミニウム合金の組成、溶融温度がいずれも本発明の範囲内であるので、良好な加工性を有していた。
これに対し、比較例1では100μm以上のホウ酸アルミニウムが30体積%と多いため、また、比較例2ではアルミニウム合金がCuを含有していないため、いずれも加工性が低下した。
また、比較例3ではアルミニウム合金のCuの含有量が6質量%と多いため、伸びが低下した。また、比較例4ではアルミニウム合金の溶融温度を600℃と低くしため、浸透不良が発生していた。また、比較例5ではアルミニウム合金の溶融温度が950℃と高くしため、加工性が低下した。また、比較例6では浸透圧力を30MPaと低くしため、浸透不良が発生した。
【0024】
以上より、本発明によれば、浸透不良が発生せず、かつ、加工性を向上させた金属基複合材料の製造できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金中にホウ酸アルミニウム粉末が複合されたアルミニウム合金基複合材料の製造方法であって、粒径100μm以上の粒子の占める割合が0〜20体積%のホウ酸アルミニウム粉末原料を充填して充填体を得る工程と、前記充填体を予熱する工程と、1〜5質量%のCuを含んでなるアルミニウム合金を700〜900℃で加熱して溶融アルミニウム合金を得る工程と、前記予熱した充填体に前記溶融アルミニウム合金を50〜200MPaの圧力で加圧浸透させる工程と、を含むことを特徴とするアルミニウム合金基複合材料の製造方法。