説明

アルミニウム合金押出材を用いた構造体とその接合方法

【課題】接合前後の寸法あるいは形状の変化が殆ど無く、また、ろう材あるいは溶加材のような接合部材を使用することなく被接合部材同士が接合するアルミニウム合金押出材を用いた構造体とその接合方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金押出材を一方の被接合部材とし、他方の被接合部材としてアルミニウム合金、純アルミニウムあるいはアルミニウム以外の金属からなる押出材、鍛造材あるいは圧延材のいずれかを用い、前記一方の被接合部材と前記他方の被接合部材とを接合部材を用いることなく接合した構造体において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材が、Si:1.5質量%〜5.0質量%(以下、質量%は単に%と記す。)を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、接合前と接合後の当該構造体の寸法及び形状が略同一であることを特徴とする構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合前後の寸法あるいは形状の変化が殆どなく、また、ろう材あるいは溶加材のような接合部材を使用することなく被接合部材同士が接合するアルミニウム合金押出材を用いた構造体とその接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1及び非特許文献1に記載されるように、自動車用熱交換器を代表とするブレージング法で製造する構造体は、Al-Si合金からなるろう材をクラッドしたブレージングシートを用いるか、ろう材を別途塗布あるいは配置して、それらをろう付加熱することにより製造されていた。しかし、ブレージングシートは、各層を別々に製造し、さらにそれを合わせる工程が必要であるため、非常に製造コストが高く、それを利用した構造体の製造も必然高価なものとなっている。また、別途ろう材を塗布したり、配置したりする場合も、構造体の製造にはやはり高いコストがかかっている。特に、押出材においては、押出機の特性から、クラッド材として製造するには、丸管などの単純な形状に限られていた。
【特許文献1】特開2008−303405公報
【非特許文献1】「アルミニウムブレージングハンドブック(改訂版)」、p.20−26、社団法人軽金属溶接構造協会 2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、押出材を接合した構造体を製造する場合、押出クラッド材を用いるか、置きろう等の方法がとられていた。しかし、押出クラッド材は、その断面が対称形でない場合、ダイス通過時のメタルフローのアンバランスからクラッド率が不均一になるため、丸管等断面形状の単純な形状に適用されてきた。このことにより、押出材が使用される構造体あるいはその部位は限定された。また、異形材同士の接合においては、別途、置きろう材を使用することがあり、接合の手間がかかり、生産性が非常に悪いものとなっていた。
【0004】
また、ブレージング法においては、接合部材であるろう材が溶融し、被接合部材の隙間に流動、充填することで接合を可能とする。また、その際に被接合部材の一部を溶融させるため、熱交換器をはじめとした構造体の設計においては、ろう材が溶融、流動することを考慮することが必要である。例えば、押出クラッド材のろう材のクラッド率が5%である場合、ろう材が流動すると最大で5%の寸法変化が生じる可能性がある。しかし、ろう材の流動はろう付加熱時の熱の分布や隙間や接合部の形状に影響されるため均一ではなく、接合前後の寸法変化を正確に予測することが困難である。従って、従来の接合方法を用いた構造体の設計において、接合後の寸法誤差を考慮する必要があるため、精密な寸法精度や清浄な表面品質が要求される構造体の製造には不向きであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下の成分を有する被接合部材であるアルミニウム合金押出材を用いた構造体を、特定の条件で接合し組み立てる場合、ろう材のような接合部材を用いることなく接合することが可能であることを見出したものである。
【0006】
請求項1に係る第1の発明は、アルミニウム合金押出材を一方の被接合部材とし、他方の被接合部材としてアルミニウム合金、純アルミニウムあるいはアルミニウム以外の金属からなる押出材、鍛造材あるいは圧延材のいずれかを用い、前記一方の被接合部材と前記他方の被接合部材とを接合部材を用いることなく接合した構造体において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材が、Si:1.5質量%〜5.0質量%(以下、質量%は単に%と記す。)を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、接合前と接合後の当該構造体の寸法及び形状が略同一であることを特徴とする構造体である。
【0007】
請求項2に係る第2の発明は、請求項1記載の構造体において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材の成分としてさらにFe:0.1%〜1.0%、Mn:0.3%〜1.8%、Zn:0.1%〜0.8%、Mg:0.1〜2.0%、Cu:0.1%〜0.8%、Cr:0.05%〜0.3%、Ti:0.05%〜0.3%、V:0.05%〜0.2%の中から1種または2種以上を含むことを特徴とする構造体である。
【0008】
請求項3に係る第3の発明は、請求項1または請求項2記載の構造体において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材の成分としてさらにBe:0.0001%〜0.05%、Sr:0.0001%〜0.05%、Sb:0.0001%〜0.05%、Bi:0.0001%〜0.05%
、Na:0.0001%〜0.05% 、Ca:0.0001%〜0.05%の中から1種または2種以上含むことを特徴とする構造体である。
【0009】
請求項4に係る第4の発明は、請求項1〜請求項3に記載の構造体において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材の接合後に長径3μm以上の球状の共晶組織が断面で3000個/mm以下存在することを特徴とする構造体である。
【0010】
請求項5に係る第5の発明は、請求項1〜請求項4に記載の構造体の接合方法において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材の全質量に対する当該アルミニウム合金押出材内に生成する液相の質量の比が0%を超え35%以下となる温度で接合することを特徴とする構造体の接合方法である。
【0011】
請求項6に係る第6の発明は、請求項5に記載の構造体の接合方法において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材の固相線温度と液相線温度の差が10℃以上であることを特徴とする構造体の接合方法である。
【0012】
請求項7に係る第7の発明は、請求項5または請求項6に記載の構造体の接合方法において、接合前に対する接合後の寸法変化が5%以下であることを特徴とする構造体の接合方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るアルミニウム合金押出材を用いた構造体は、当該アルミニウム合金押出材内部に一部生成した液相を利用して接合を行うものであり、従来困難であった、異形材同士の接合が可能となり、製造工程の簡略化とこれに伴う大幅なコスト低減が可能となる。
【0014】
また、ろう材等の接合部材を利用することなく接合を行うため、接合前後での寸法、形状変化が殆どなく、熱交換器等の設計精度が向上するとともに、精密な寸法精度が要求される構造体を量産製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】液相の染み出しのメカニズムを示す模式図である。
【図2】接合後の一方の被接合部材の押出方向に平行な断面における球状共晶組織の金属組織写真である。
【図3】実施例1に用いた押出材の形状を示す模式図である。
【図4】実施例1に用いた接合率の測定方法の説明図である。
【図5】実施例2に用いた接合率、ならびに、接合による変形率を測定するための試料を示す斜視図である。
【図6】実施例2に用いた接合率、ならびに、接合による変形率の測定方法の説明図である。
【図7】実施例3のテストピースに用いた押出チューブの形状の一部を示す斜視図である。
【図8】実施例3の3段積みのテストピース(ミニコア)の外観図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の詳細な説明を示す。
本発明に用いる被接合部材であるアルミニウム合金押出材は、Si:1.5%〜5.0%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金である。
【0017】
該アルミニウム合金を用いて対称形状もしくは複雑形状をした押出材を常法により製造する。それらを適宜組み付けた構造体を窒素雰囲気あるいは真空中で580〜620℃程度の温度に加熱すると、該アルミニウム合金押出材の内部の一部から液相が生成し、それが材料表面に染み出してきて接合が可能となる。
【0018】
図1に本発明の接合メカニズムである液相の染み出しを模式的に示す。固相線温度より高い温度を加熱されると金属間化合物の偏析の多い結晶粒界がまず溶融し、次いでマトリクス(アルミニウム合金内の金属間化合物を除いた部分)中に分散するSi粒子周辺が溶融する。Siの添加量が多いと分散するSi粒子の数が多く、マトリクス内部に多くの球状の液相が存在することになる。加熱温度が高くなると球状の液相は体積を増すが、直接粒界に触れるかあるいは固体内でのSi拡散によって粒界に液相が移動する。これが粒界を伝って表面に染み出し、他方の被接合部材との隙間に充填されて接合が可能となる。液相が外部に流出すると球状の液相は次第に収縮していき、最後は消滅する。一方、球状に溶融した液相が外部に染み出さず残存すると冷却後は図2に示すような球状の共晶組織がマトリクスの結晶粒内に多数分散した組織となる。
【0019】
材料の強度は未溶融のマトリクスと液相に寄与しない金属間化合物が担っている。そのため、本発明に係る構造体は接合の前後で寸法や形状の変化が殆どない。
【0020】
このようにSiはAl−Siの液相を生成し、接合に寄与するが、1.5%未満の場合は充分な液相の染み出しが無く、接合が不完全となる場合が多い。一方、5.0%を越えるとアルミニウム合金押出材中のSi粒子が多くなり、液相の生成量が多くなるため、加熱中の材料強度が極端に低下し、構造体の形状維持が困難となる。したがって、Si量は1.5%〜5.0%と規定する。さらにSi量を1.5%〜3.5%とすると好ましい。さらにSi量を2.0%〜2.5%とするとより好ましい。なお、染み出す液相の量は部材が厚く、加熱温度が高いほど多くなるが、加熱時に必要とする液相の量は構造体の形状に依存するので、必要に応じてSi量や接合条件(温度、時間等)を調整することが望ましい。
また、以下のFe、Mn、Zn、Mg、Cu、Cr、Ti、Vの1種又は2種以上を更に添加してもよい。これら成分の1種又は2種以上が添加される場合には、各添加成分のいずれもが請求項2に規定する成分範囲内にあることを必要とする。
【0021】
Feは、SiとともにAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化として作用する。その添加量が0.1%未満ではその効果が小さいだけでなく、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となり、1.0%を超えると粗大金属間化合物が形成されやすくなり、耐食性、押出性を低下させる。したがってFe量は0.1%〜1.0%が好ましい。
【0022】
Mnは、SiとともにAl−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化として作用し、或いはアルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。その添加量が0.3%未満ではその効果が小さく、1.8%を超えると粗大金属間化合物が形成されやすくなり、耐食性、押出性を低下させる。したがってMn量は0.3%〜1.8%が好ましい。よりこの好ましくは0.3%〜1.0%である。
【0023】
FeおよびMnはともにSiとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成する。金属間化合物となったSiは液相の生成に寄与しないため、接合性が低下することになる。そのため、Si、Fe、Mnの含有量(質量%)をそれぞれS、F、Mとしたとき、1.2≦S−0.3(F+M)≦3.5の関係式を満足することが好ましい。
【0024】
Znは、マトリクス中にほぼ均一に固溶しているが、液相が生じるとその中に溶け出して、液相のZnが濃化する。液相が表面に染み出すと、その部分はZn濃度が上昇するため、犠牲陽極作用によって耐食性が向上する。その添加量が0.1%未満ではその効果が小さく、0.8%を超えるとマトリクスに残存するZn量が多くなり、表面との電位差が不十分となり、有効な犠牲防食が働かない。したがって、Zn量は、0.1%〜0.8%とするのが好ましい。
【0025】
MgはMgSiの析出により強度を向上させる。その添加量が0.1%未満ではMgSiの析出がほとんど起こらず、2.0%を超えると、接合にフラックスを用いた場合、該フラックスと反応して、高融点の化合物を形成するため著しく接合性が低下する。なお、Mgを添加した場合は、Mgのゲッター作用によってフラックスを用いずに接合をおこなうことも可能であるが、この場合、接合部の密着性をより厳しく管理することが望ましい。Mgの添加量は0.1%〜2.0%が好ましい。より好ましくは0.1%〜0.8%である。
【0026】
Cuは固溶して強度を向上させる。その添加量が0.1%未満では強度向上効果がほとんど見られず、0.8%を超えると耐食性が低下する。したがって、Cu量は0.1%〜0.8%とするのが好ましい。
【0027】
Crは、固溶強化により強度を向上させ、またAl−Cr系の金属間化合物が析出し、接合後の結晶粒粗大化に作用する。その添加量が0.05%未満ではその効果は得られず、0.3%を超えると粗大金属間化合物が形成されやすくなり、押出性を低下させる。したがって、Cr量は0.05%〜0.3%とするのが好ましい。
【0028】
Tiは固溶強化により、強度を向上させ、また耐食性の向上が図れる。その添加量が0.05%未満ではその効果は得られず、0.3%を越えると粗大金属間化合物が形成されやすくなり、押出性、耐食性を阻害する。したがって、Ti量は0.05%〜0.3%とするのが好ましい。
【0029】
Vは固溶強化により、強度を向上させ、また耐食性の向上が図れる。その添加量が0.05%未満ではその効果は得られず、0.2%を越えると粗大金属間化合物が形成されやすくなり、押出性、耐食性を阻害する。したがって、V量は0.05%〜0.2%とするのが好ましい。
【0030】
また、必要に応じてBe:0.0001%〜0.05%、Sr:0.0001%〜0.05%、Sb:0.0001%〜0.05%、Bi:0.0001%〜0.05%
、Na:0.0001%〜0.05% 、Ca:0.0001%〜0.05%の1種又は2種以上を添加しても良いが、これらの微量元素はSi粒子の微細分散、液相流動性向上等によって接合性を改善することができる。規定範囲以下ではその効果が小さく、規定範囲を超えると耐食性の低下などの弊害が生じる。なお、Be、Sr、Sb、Bi、Na、Caの1種又は2種以上が添加される場合には、各添加成分のいずれもが上記成分範囲内にあることを必要とする。
【0031】
本発明に係るアルミニウム合金押出材を製造するにあたっては、通常のビレット鋳造、均質化処理、熱間押出をおこなえばよく、用途に応じて調質をおこなう。形状や使用方法によっては軟質材を使用しても良い。また、ビレット鋳造はホットトップ鋳造でもGDC鋳造でもよい。
【0032】
本発明に係る構造体を製造する場合、上記組成を有する一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材と他方の被接合部材を組み合わせ、加熱処理を施す。その際に加熱雰囲気は窒素で置換した非酸化性雰囲気等が好ましい。また、非腐食性フラックスを使用することでさらに良好な接合性を得ることができる。加熱条件としては、本発明に係るアルミニウム合金押出材内部に液相が生成する固相線温度以上液相線温度以下であり、かつ該アルミニウム合金押出材内部に生成する液相量が多くなり、強度が低下して形状を維持できなくなる温度以下の温度で、0〜10分間程度保持する。本発明に係る上記アルミニウム合金の場合、580℃〜620℃で3〜10分間程度とすれば良いが、組成によって加熱条件を調整し、冷却後に長径3μm以上の球状共晶組織が、断面で3000個/mm以下存在するようにするのが好ましい。
【0033】
また、Mnを0.3%以上添加すると、球状共晶組織を減少させる効果がある。すなわち、球状共晶組織の球状共晶組織が断面で500個/mm以下となる。
【0034】
本発明の場合、前述のSi粒子周辺が球状に溶融した部分がマトリクス内にある程度残存し、図2に示すような特徴的な球状の共晶組織となる。良好な接合性と接合時の材料強度のバランスが取れた場合、接合後に長径3μm以上の球状共晶組織が断面で3000個/mm以下存在するのが好ましいことを見出した。3000個/mmを超える場合、接合に寄与した液相が少なく、接合性が低下することになる。接合後の組織を観察し、球状共晶組織の数密度を測定し、断面で3000個/mm以下であるように予め被接合部材であるアルミニウム合金押出材のSi量を1.5%〜5.0%の範囲で調整することで、良好な接合性を得ることができる。なお、断面とは、アルミニウム合金材の任意の断面であり、例えば押出方向に沿った(平行な)断面でもよく、押出方向とは垂直な断面でもよい。
【0035】
本発明に係る構造体を製造するための接合方法においては、被接合部材であるアルミニウム合金押出材の全質量に対する当該アルミニウム合金押出材内に生成する液相の質量の比(以下、液相率と記す。)が0%を超え35%以下となる温度で接合する必要がある。液相率が35%を超えると、生成する液相の量が多過ぎてアルミニウム合金押出材は大きく変形してしまい形状を保てなくなる。一方、液相率が0%では生成する液相がなく、接合ができない。そこで、液相率は0%を超え35%以下とするが、より好ましい液相率は5〜35%であり、さらに好ましくは10〜20%である。また、液相率が5〜35%の範囲で30秒以上3600秒以下に保つことにより、一層確実な接合を得ることができる。
【0036】
加熱中における実際の液相率を測定することは、極めて困難である。そこで、本発明で規定する液相率は状態図を利用して組成と温度の平衡計算によって求めるものとする。具体的には、平衡状態図計算ソフト(Thermo−Calc;Thermo−Calc Software AB社製)によって合金組成と加熱時の最高到達温度から計算される。
【0037】
上記の条件を満たすことで必要な接合特性を得ることできるが、中空部があり、比較的脆弱な構造体を形成する場合においては、構造体内に発生する応力が高すぎると構造を維持できない場合がある。特に液相率が大きい場合は比較的小さな応力に留めたほうが良好な形状を維持できる。液相が生成する被接合部材内に発生する応力のうちの最大値をP(kPa)、液相率をV(%)とした場合、P≦460−12Vの条件を満たせば、非常に安定した接合が得られる。なお、両被接合部材から液相が発生する場合は、両被接合部材各々に対して、各々の応力P、液相率Vを用いてP≦460−12Vを算出し、両被接合部材ともこの式を同時に満たすように接合を行う。各被接合部材内の各部位に発生する応力は、形状と荷重から求められる。例えば、構造計算プログラムなどを用いて計算する。
【0038】
接合部の圧力と同様に接合部の表面形態も接合性に影響を与え、両面が平滑なほうがより安定した接合が得られる。本発明においては、接合前の両被接合部材の接合面の表面の凹凸から求められる算術平均うねりWa1とWa2の和が、Wa1+Wa2≦10(μm)を満たす場合には、更に十分な接合が得られる。なお、算術平均うねりWa1、Wa2は、JISB0633で規定されるものであり、波長が25〜2500μmの間で凹凸となるようカットオフ値を設定し、レーザー顕微鏡やコンフォーカル顕微鏡で測定されたうねり曲線から求められる。
【0039】
また、本発明に係る接合方法では、液相を生成するアルミニウム合金材の固相線温度と液相線温度の差を10℃以上とするのが好ましい。固相線温度を超えると液相の生成が始まるが、固相線温度と液相線温度の差が小さいと、固体と液体が共存する温度範囲が狭くなり、発生する液相の量を制御することが困難となる。従って、この差を10℃以上とするのが好ましい。例えば、この条件を満たす組成を有する2元系の合金としては、Al−Si系合金、Al−Cu系合金、Al−Mg系合金、Al−Zn系合金、Al−Ni系合金などが挙げられ、これら共晶型合金は固液共存領域を大きく有するので本接合方法に有利である。しかしながら、他の全率固溶型、包晶型、偏晶型などの合金であっても、固相線温度と液相線温度の差が5℃以上であるなら接合が可能となる。また、上記の2元系合金は主添加元素以外の添加元素を含有することができ、実質的には3元系や4元系合金、更に5元以上の多元系の合金も含まれる。例えばAl−Si−Mg系やAl−Si−Cu系、Al−Si−Zn系、Al−Si−Cu−Mg系などが挙げられる。
【0040】
なお、固相線温度と液相線温度の差は大きくなるほど適切な液相量に制御するのが容易になる。従って、固相線温度と液相線温度の差に上限は特に設けない。
【0041】
本発明においては、接合前後において構造体の寸法や形状が殆ど変化しない。これは前述のメカニズムに従い、接合に寄与する液相が被接合部材であるアルミニウム合金材内部に生成するものの、マトリクスや液相の生成に寄与しない金属間化合物により、加熱中に被接合部材の形状が維持されるためである。従って、本発明における接合前後の寸法変化は5%以下とする。5%以下であれば、寸法精度の良好な構造体を製造することが可能である。また、本発明に係る構造体の耐食性をさらに向上させるために、表面にZn溶射やZn置換フラックス塗布を行っても良く、さらに加熱処理後にクロメート処理やノンクロメート処理などの表面処理を実施して耐食性向上を図っても良い。
【0042】
本発明材を用いることによって、多くの接合部を有する構造体を得ることができる。例えば、櫛刃形状の押出材と中空部を持つ形状の異なる2つの押出材を製造し、接合することで簡便に熱交換器を作製することができる。また、これらを積層構造とし、必要サイズに見合ったオイルクーラー、ヒートシンクなどの製品にも応用することができる。
【実施例1】
【0043】
本発明は、押出可能であれば、どのような形状の押出材にも適用可能であるが、ここでは、冷却体をイメージした構造体を検討した。表1に示すNo.1〜24までの組成の材料を鋳造し、φ150mmのビレットを得る。なお、表1において、成分組成の空欄は測定限界以下であることを示す。これを直接押出により押出し、図3に示すようなφ40mm×3mm(t)の管と20mm(L)×40mm(H)×3mm(t)のチャンネル形材を押出した。供試材の算術平均うねりWaはともに約1μmであった。なお、チャンネル形材の20mm(L)部はφ40mmの曲率に合わせてある。押出性については、熱間押出した際に、健全な押出材が10m以上できた場合を○とし、鋳造時に粗大金属間化合物が発生するなどして、健全な押出材ができなかった場合を×、押出材が0〜10mできた場合を△とした。
【0044】
【表1】

【0045】
チャンネル形材を10mm(W)に切断し、φ40mmの管の周囲にあわせ冶具で固定し、それらを非腐食性の弗化物系フラックスの10%懸濁液に浸漬、乾燥後、窒素雰囲気中で580〜600℃で、3分の加熱をおこなった。ただし、発明例13、発明例14、比較例23ではフラックスを塗布せず真空中で接合した。また、発明例11では、セシウム入りの弗化物系フラックスを用いた。
【0046】
接合後、断面観察により、接合状況を確認した。評価に当たって、周囲を観察し、図4のようにφ40mmの本来接合されるべき周長に対し、接合している長さを測定し、その比率を接合率とした。接合率95%以上を◎、90%以上95%未満を○、25%以上90%未満を△、25%未満を×とした。
【0047】
また、完成した製品について耐食性評価のためにCASS試験を500hr、1000hr行った。評価にあたっては、管のみを貫通する腐食の有無を確認した。腐食がなかったものを○、腐食がおこっていたものを×とした。
更に、接合後における押出管について、押出方向に平行な断面を光学顕微鏡で観察し、長径3μm以上の球状の共晶組織の数を測定し、つぶれの有無についても観察した。
表2に結果を示す。
【0048】
【表2】

【0049】
発明例1〜15はいずれも押出性、接合性、潰れ性、耐食性ともに合格であった。
比較例16では、Si成分が規定値に満たないため、球状共晶組織の数密度も発明範囲を超えていた。また、接合性の点で劣った。
比較例17では、Si成分が規定値を超えているため、接合時に押出管が潰れてしまった。
比較例18では、Si成分が規定値に満たないため、球状共晶組織の数密度も発明範囲を超えていた。また、接合性の点で劣った。
比較例19では、Si成分が規定値を超えているため、接合時に押出管が潰れてしまった。
比較例20では、FeとCu成分がともに規定値を超えているため、CASS試験において貫通孔が発生し、耐食性の点で劣った。
比較例21では、Mn成分が規定値を超えているため、CASS試験において貫通孔が発生し、耐食性の点で劣った。
比較例22では、Zn成分が規定値を超えているため、CASS試験において貫通孔が発生し、耐食性の点で劣った。
比較例23では、Mg成分が規定値を超えているため、CASS試験において貫通孔が発生し、耐食性の点で劣った。
比較例24では、Cr、Ti、V成分が規定値を超えているため、CASS試験において貫通孔が発生し、耐食性の点で劣った。
【実施例2】
【0050】
実施例1にて製造した材料の中から、表1に示すNo.1〜17を抜粋して、その組成の材料を鋳造し、φ150mmのビレットを得る。これを直接押出により1mm×10mmの平板に押出した。供試材の算術平均うねりWaは約1μmであった。
【0051】
押出した平板を切り出し、端面をフライスにより平滑にしたものを組み合わせて、図5に示す接合試験片を作製した。試験片の上板と中板には、表1に示す組成のアルミニウム合金押出材を用い、下板には純アルミニウム板(A1070)を用いた。上板と中板のアルミニウム合金板は同一組成である。これら例は、同一組成のアルミニウム合金同士の接合である。この接合試験片の接合面には、フッ化物系の非腐食性フラックスを塗布した。ただし、発明例37、発明例38ではフラックスを塗布しなかった。また、実施例35では、セシウム入りの弗化物系フラックスを塗布した。
【0052】
図5(a)に示すように、下板に中板と上板を順次重ね、重ね合わせたものの上下に板厚1mmのステンレス板の治具を配するようにした。次いで、図5(b)に示すように、上下のステンレス板と側面に2本のステンレス線を架け渡して端部をそれぞれ縛り、下板、中板及び上板からなる試験片を固定して試料とした。なお、図5(a)に記載の数字は、部材の寸法(単位:mm)を表す。
【0053】
上記の試料を、窒素雰囲気中で所定の温度(580〜620℃)まで昇温しその温度に3分間保持した。ただし、実施例37、実施例38では真空中で所定の温度まで昇温しその温度に3分間保持した。
【0054】
接合後の試験片を、図6(a)に示す観察断面が得られるように切断した。図6(b)に示すように、上板と中板は接合部1及び接合部2で接合されている。接合部1(2)の一部拡大図を6(c)に示す。上板と中板に接合界面が見られない部分が、接合されている部分であり、接合界面(図の横線)が見られる部分が、接合されていない未接合の部分である。接合率は、下記式(1)で定義される。
接合率(%)={(L1+L2)/2L0}×100 (1)
【0055】
ここで、L1は接合部1において接合されている部分の長さ、L2は接合部2において接合されている部分の長さ、L0は接合部1と接合部2において、それぞれ接合されるべき長さである。
【0056】
図6(d)に、試験片の天井部を示す。aは試験片の天井部の接合前の長さ、a1は試験片の天井部上側の接合後における湾曲長さ、a2は試験片の天井部下側の接合後における湾曲長さを表わす。下記式(2)で定義される変形率をもって、接合前に対する接合後の寸法変化とした。
変形率(%)={(a1+a2)/2a}×100 (2)
【0057】
接合率が95%以上を◎、90%以上95%未満を○、25%以上90%未満を△、25%未満を×と判定した。また、変形率が3%以下を◎、3%を超え5%以下を○、5%を超えるものを×と判定した。
【0058】
表3に結果及び所定の温度での平衡液相率も示した。なお、平衡液相率は、Thermo−Calcによる計算値である。
【0059】
【表3】

【0060】
発明例25〜39はいずれも、接合率、変形率ともに合格であった。
比較例40では、Si成分が規定量に満たないため、液相が生成せず、接合が不十分であった。
比較例41では、Si成分が規定値を超えているため、生成する液相が過剰となり、被接合部材が形状を維持できず、大きく変形してしまった。
【実施例3】
【0061】
表4に示すNo.25〜48までの組成の材料でφ150mmのビレットを得る。なお、表4において、成分組成の空欄は測定限界以下であることを示す。これを直接押出により熱間押出を行い、図7に示す扁平形状の押出チューブとした。供試材の算術平均うねりWaは約1μmであった。押出性については、熱間押出した際に、健全な押出材が10m以上製造できた場合を○とし、鋳造時に粗大金属間化合物が発生するなどして、健全な押出材ができなかった場合を×、押出材が0〜10mは製造できた場合を△とした。
【0062】
【表4】

【0063】
この扁平形状の押出チューブに表4のF1の組成で算術平均うねりWaが0.3μm、板厚0.07mmのフィン材を高さ7mmにコルゲート成形したものと組み合わせ、ステンレス製のジグに組み込み、図8に示す3段積みのテストピース(ミニコア)を作製した。このミニコアの場合、ステンレスジグとアルミニウムの熱膨張率の差でろう付け時には約4Nの圧縮荷重が生じ、接合面積から計算すると約の接合面には約10kPaの応力が生じていることになる。
【0064】
このミニコアを非腐食性の弗化物系フラックスの10%懸濁液に浸漬、乾燥後、窒素雰囲気中で580〜600℃で、3分の加熱をおこなった。ただし、発明例54、発明例55、比較例64ではフラックスを塗布せず真空中で接合した。また、発明例52では、セシウム入りの弗化物系フラックスを用いた。その後、ミニコアの中央段のフィンとの接合部40箇所を調べ、接合率が95%以上を◎、90%以上95%未満を○、25%以上90%未満を△、25%未満を×と判定した。
【0065】
また、完成したミニコアについては耐食性評価のためにCASS試験を500h、1000h行い、チューブを貫通する腐食の有無を確認した。腐食がなかったものを○、腐食がおこっていたものを×とした。
更に、接合後における押出チューブについて、押出方向に平行な断面を光学顕微鏡で観察し、長径3μm以上の球状の共晶組織の数を測定し、つぶれの有無についても観察した。
表5に結果を示す。
【0066】
【表5】

【0067】
発明例42〜56は、いずれも押出性、接合率、チューブ潰れ性、耐食性ともに合格であった。
比較例57では、Si成分が規定値に満たないため、球状共晶組織の数密度も発明範囲を超えていた。また、接合性の点で劣った。
比較例58では、Si成分が規定値を超えているため、接合時に押出管が潰れてしまった。
比較例59では、Si成分が規定値に満たないため、球状共晶組織の数密度も発明範囲を超えていた。また、接合性の点で劣った。
比較例60では、Si成分が規定値を超えているため、接合時に押出管が潰れてしまった。
比較例61では、FeとCu成分がともに規定値を超えているため、CASS試験において貫通孔が発生し、耐食性の点で劣った。
比較例62では、Mn成分が規定値を超えているため、CASS試験において貫通孔が発生し、耐食性の点で劣った。
比較例63では、Zn成分が規定値を超えているため、CASS試験において貫通孔が発生し、耐食性の点で劣った。
比較例64では、Mg成分が規定値を超えているため、CASS試験において貫通孔が発生し、耐食性の点で劣った。
比較例65では、Cr,Ti,V成分が規定値を超えているため、CASS試験において貫通孔が発生し、耐食性の点で劣った。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明により、接合前後の寸法あるいは形状の変化が殆ど無く、また、ろう材あるいは溶加材のような接合部材を使用することなく被接合部材同士が接合するアルミニウム合金板を用いた構造体とその接合方法が達成され、工業上顕著な効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0069】
a・・試験片の天井部の接合前の長さ
a1・・試験片の天井部上側の接合後における湾曲長さ
a2・・試験片の天井部下側の接合後における湾曲長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金押出材を一方の被接合部材とし、他方の被接合部材としてアルミニウム合金、純アルミニウムあるいはアルミニウム以外の金属からなる押出材、鍛造材あるいは圧延材のいずれかを用い、前記一方の被接合部材と前記他方の被接合部材とを接合部材を用いることなく接合した構造体において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材が、Si:1.5質量%〜5.0質量%(以下、質量%は単に%と記す。)を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、接合前と接合後の当該構造体の寸法及び形状が略同一であることを特徴とする構造体。
【請求項2】
請求項1記載の構造体において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材の成分としてさらにFe:0.1%〜1.0%、Mn:0.3%〜1.8%、Zn:0.1%〜0.8%、Mg:0.1〜2.0%、Cu:0.1%〜0.8%、Cr:0.05%〜0.3%、Ti:0.05%〜0.3%、V:0.05%〜0.2%の中から1種または2種以上を含むことを特徴とする構造体。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の構造体において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材の成分としてさらにBe:0.0001%〜0.05%、Sr:0.0001%〜0.05%、Sb:0.0001%〜0.05%、Bi:0.0001%〜0.05%
、Na:0.0001%〜0.05% 、Ca:0.0001%〜0.05%の中から1種または2種以上含むことを特徴とする構造体。
【請求項4】
請求項1〜請求項3に記載の構造体において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材の接合後に長径3μm以上の球状の共晶組織が断面で3000個/mm以下存在することを特徴とする構造体。
【請求項5】
請求項1〜請求項4に記載の構造体の接合方法において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材の全質量に対する当該アルミニウム合金押出材内に生成する液相の質量の比が0%を超え35%以下となる温度で接合することを特徴とする構造体の接合方法。
【請求項6】
請求項5に記載の構造体の接合方法において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金押出材の固相線温度と液相線温度の差が10℃以上であることを特徴とする構造体の接合方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の構造体の接合方法において、接合前に対する接合後の寸法変化が5%以下であることを特徴とする構造体の接合方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−40609(P2012−40609A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157311(P2011−157311)
【出願日】平成23年7月18日(2011.7.18)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】