説明

アルミニウム合金材およびアルミニウム合金ブレージングシート

【課題】アルミニウム合金ブレージングシートの心材として使用される高温経時強度に優れるアルミニウム合金材を提供する。
【解決手段】本発明のアルミニウム合金材は、心材Cの少なくとも片面にろう材Fを備えるアルミニウム合金ブレージングシートB31(またはB32)の心材Cとして使用されるアルミニウム合金材であって、Cu:2.5質量%を超え3.5質量%以下、Si:0.05〜1.0質量%を含有し、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金ブレージングシートの心材として使用されるアルミニウム合金材およびアルミニウム合金ブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用の熱交換器である、例えば、コンデンサ、エバポレータ、インタークーラ等は、流体通路を有する形状のチューブ材やプレート材と、コルゲート成形されたフィン材とを交互に重ね合わせ、組み合わされた状態でろう付されることによって製造される。このようなチューブ材やプレート材、フィン材は、ろう付用のアルミニウム合金材や、アルミニウム合金からなる心材の片面または両面にAl−Si系合金のろう材等をクラッドしたアルミニウム合金ブレージングシートから成形されている。
【0003】
従来のろう付用のアルミニウム合金材や、アルミニウム合金ブレージングシートの心材は、Al−Mn系合金が主流であった。そして、このようなアルミニウム合金の強度を向上させるため、Cu、さらにSiやMgを添加したろう付用のアルミニウム合金材や、これを心材とし、Al−Si系合金のろう材がクラッドされたアルミニウム合金ブレージングシートが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−291353号公報(段落0010〜0015,0025)
【特許文献2】特開平5−339666号公報(段落0005〜0013)
【特許文献3】特開平4−202735号公報(第2頁右上第12行〜同頁左下第17行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記したようなろう付用のアルミニウム合金材や、これを心材とするアルミニウム合金ブレージングシートから製造される熱交換器の使用温度は概ね100℃以下であった。したがって、使用温度が、例えば150℃以上の高温経時においては、アルミニウム合金材や、これを心材とするアルミニウム合金ブレージングシートの強度が十分でなく使用に限界があるという問題を有していた。
【0006】
また、近年、熱交換器は小型化、高性能化が要求され、熱交換器の使用条件は高圧化、高温化する方向にあり、ろう付用のアルミニウム合金材やこれを心材とするアルミニウム合金ブレージングシートについては、150℃以上の高温経時での高強度化が要求されている。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題を解決すべく、アルミニウム合金ブレージングシートの心材として使用される高温経時強度に優れるアルミニウム合金材、および、高温経時強度に優れる心材を用いるアルミニウム合金ブレージングシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明に係るアルミニウム合金材は、心材の少なくとも片面
にろう材を備え、かつ590℃で2分間のろう付加熱後に200℃で300時間保持した
後の200℃での引張強度が145MPa以上であるアルミニウム合金ブレージングシー
トの心材として使用される。そして、前記アルミニウム合金材は、Cu:2.5質量%を
超え3.5質量%以下、Si:0.05〜1.0質量%を含有し、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0009】
このようなアルミニウム合金材は、2.5質量%を超え3.5質量%以下のCuを含有することにより、Cuの固溶・析出強化による強度向上と共に、高温経時でのアルミニウム合金の強度低下を小さくすることができ、また、Siを0.05〜1.0質量%の範囲で含有することにより、Siの固溶・析出強化により強度をさらに向上させることができる。
【0010】
また、本発明に係るアルミニウム合金材は、Fe:0.05〜1.5質量%をさらに含有してもよい。このようなアルミニウム合金材は、金属間化合物の分散強化により強度をさらに向上させ、また組織を微細化させて成形加工性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係るアルミニウム合金材は、Mg:0.05〜0.6質量%をさらに含有してもよい。このようなアルミニウム合金材は、Mgの固溶・析出強化により、またSiとの金属間化合物の析出強化により、強度をさらに向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係るアルミニウム合金材は、Ni:0.05〜1.5質量%をさらに含有してもよい。このようなアルミニウム合金材は、金属間化合物の分散強化により強度をさらに向上させることができる。
【0013】
また、本発明に係るアルミニウム合金材は、Cr:0.05〜0.3質量%、Ti:0.05〜0.3質量%、Zr:0.05〜0.3質量%、V:0.05〜0.3質量%から選択される1種以上をさらに含有してもよい。このようなアルミニウム合金材は、微細な金属間化合物を生成して強度をさらに向上させることができる。
【0014】
また、本発明に係るアルミニウム合金材は、Sn:0.01〜0.1質量%、Cd:0.01〜0.1質量%、In:0.01〜0.1質量%から選択される1種以上をさらに含有してもよい。このようなアルミニウム合金材は、高温時におけるCuの析出を促進して強度をさらに向上させることができる。
【0015】
また、前記課題を解決するため本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは、前記アルミニウム合金材を心材とし、その片面または両面にアルミニウム合金からなるろう材を備えることを特徴とする。
【0016】
このようなアルミニウム合金ブレージングシートは、前記したアルミニウム合金材を心材とすることによって、高温経時での強度低下を小さくすることができ、また成形加工性を向上させることができる。また、心材の片面または両面にろう材を備えることによって、ろう付により熱交換器等に容易に加工することができる。
【0017】
また、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは、前記アルミニウム合金材を心材とし、その一方の面にアルミニウム合金からなるろう材を備え、他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる犠牲陽極材を備えることを特徴とする。
【0018】
このようなアルミニウム合金ブレージングシートは、前記したアルミニウム合金材を心材とすることによって、高温経時での強度低下を小さくすることができ、成形加工性を向上させることができる。また、心材の一方の面にろう材を備えるので、ろう付により熱交換器等に容易に加工することができる。さらに、心材の他方の面に犠牲陽極材を備えるので、犠牲陽極材の犠牲防食作用によって、その耐食性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るアルミニウム合金材は、強度向上と共に、高温経時での強度低下を小さくすることができるので高温経時強度に優れ、また成形加工性に優れている。本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは、前記アルミニウム合金材を心材とすることで高温経時強度や成形加工性に優れ少なくとも片面にろう材を備えることでろう付により熱交換器等に容易に加工することができさらに犠牲陽極材を備える場合はその耐食性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートを示す断面図であり、(a)は心材の片面にろう材を有する場合、(b)は心材の両面にろう材を有する場合を示す
【図2】本発明の第2実施形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るアルミニウム合金材およびアルミニウム合金ブレージングシートを実現するための形態について説明する。
【0022】
〔アルミニウム合金材〕
本発明に係るアルミニウム合金材は、アルミニウム合金ブレージングシートの心材として使用されるアルミニウム合金材であり、Cu:2.5質量%を超え3.5質量%以下、Si:0.05〜1.0質量%を含有し、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなる。
【0023】
本発明に係るアルミニウム合金材は、さらに、Fe:0.05〜1.5質量%、Mg:0.05〜0.6質量%、Ni:0.05〜1.5質量%、Cr:0.05〜0.3質量%、Ti:0.05〜0.3質量%、Zr:0.05〜0.3質量%、V:0.05〜0.3質量%、Sn:0.01〜0.1質量%、Cd:0.01〜0.1質量%、In:0.01〜0.1質量%から選択される1種以上を含有してもよい
【0024】
なお、本発明に係るアルミニウム合金材は、ろう付用のアルミニウム合金材としても使用することができる。
以下、本発明に係るアルミニウム合金材の添加元素の含有量を数値限定した理由について説明する。
【0025】
(Cu:2.5質量%を超え3.5質量%以下)
Cuは、アルミニウム合金中で固溶・析出強化してその強度を向上させまた、高温経時でのアルミニウム合金材の強度低下小さくる。さらに、Cuはアルミニウム合金の電位を貴とするため、アルミニウム合金ブレージングシートの心材とした場合、心材の電位をろう材の電位よりも貴とすることができるので、ろう材が心材(アルミニウム合金材)を犠牲防食し、アルミニウム合金ブレージングシートの耐食性を向上させる。
【0026】
Cuの含有量が2.5質量%以下では、十分な高温経時強度が得られない。一方、Cuの含有量が3.5質量%を超えると、アルミニウム合金の融点が低下するのでろう付時にアルミニウム合金材が溶融する虞がある。また、Cuの含有量の増加と共にアルミニウム合金材のろう付前における伸びが低下するので、成形加工性が低下する。したがって、本発明に係るアルミニウム合金材のCuの含有量は、2.5質量%を超え3.5質量%以下とする。
【0027】
(Si:0.05〜1.0質量%)
Siは、アルミニウム合金中で固溶・析出強化してその強度を向上させる。Siの含有量が0.05質量%未満では、十分な強度向上効果が得られない。一方、Siの含有量が1.0質量%を超えると、前記Cuと合わせてアルミニウム合金材の融点がさらに低下して、アルミニウム合金材がろう付時に溶融する虞がある。したがって、本発明に係るアルミニウム合金材のSi含有量は0.05〜1.0質量%とする。
【0028】
(Fe:0.05〜1.5質量%)
Feは、アルミニウム合金中で金属間化合物として晶出・析出して分散強化に寄与する。また、晶出・析出した金属間化合物は、再結晶の核となって再結晶を促進させるので、グレイン組織を微細にする効果を有し、アルミニウム合金材の成形加工性を向上させる。これらの効果を十分に得るために、Feの含有量0.05質量%以上が好ましい。一方、Feの含有量が1.5質量%を超えると、金属間化合物の晶出・析出が増加してアルミニウム合金材の成形加工性を低下させる場合がある。したがって、本発明に係るアルミニウム合金材のFeの含有量は1.5質量%以下とする。
【0029】
(Mg:0.05〜0.6質量%)
Mgは、前記Cu,Siと同様に、アルミニウム合金中で固溶・析出強化してその強度を向上させる。また、Siと金属間化合物を生成・析出して析出強化に寄与する。これらの効果を十分に得るために、Mgの含有量0.05質量%以上が好ましい。一方、Mgの含有量が0.6質量%を超えると、非腐食性フラックスを用いた雰囲気下でのろう付において、ろう付性を阻害する場合がある。また、アルミニウム合金材のろう付前における伸びが低下して成形加工性が低下する場合がある。したがって、本発明に係るアルミニウム合金材のMgの含有量は0.6質量%以下とする。
【0030】
(Ni:0.05〜1.5質量%)
Niは、アルミニウム合金中で金属間化合物として存在して分散強化に寄与する。この効果を十分に得るために、Niの含有量0.05質量%以上が好ましい。一方、Niの含有量が1.5質量%を超えると、金属間化合物が増加するのでアルミニウム合金材の成形加工性を低下させる場合がある。したがって、本発明に係るアルミニウム合金材のNiの含有量は1.5質量%以下とする。
【0031】
(Cr,Ti,Zr,V0.05〜0.3質量%)
Cr,Ti,Zr,Vは、それぞれアルミニウム合金中で微細な金属間化合物を生成して、その強度を向上させる。この効果を十分に得るために、Cr,Ti,Zr,V含有量は0.05質量%以上が好ましい。一方、これらの元素のそれぞれの含有量が0.3質量%を超えると、粗大な金属間化合物が生成するので、アルミニウム合金材の成形加工性を低下させる場合がある。したがって、本発明に係るアルミニウム合金材のCr,Ti,Zr,V含有量は0.3質量%以下とする。
【0032】
(Sn,Cd,In0.01〜0.1質量%)
Sn,Cd,Inは、それぞれアルミニウム合金中で高温時におけるCuの析出を促進して強度向上に寄与する。この効果を十分に得るために、Sn,Cd,In含有量は0.01質量%以上が好ましい。また、Sn,Cd,Inは、それぞれの含有量が0.1質量%を超えるとその効果は飽和して、それ以上添加されても変化しないので、結果としてコストアップとなる。したがって、本発明に係るアルミニウム合金材のSn,Cd,In含有量は0.1質量%以下とする。
【0033】
(不可避的不純物)
本発明に係るアルミニウム合金材は、不可避的不純物として、Mnを1.5質量%以下、Fe,Mg,Ni,Cr,Ti,Zr,Vを各0.05質量%未満、Sn,Cd,Inを各0.01質量%未満含有していてもよい。これらの元素を前記それぞれの量で含有しても、本発明に係るアルミニウム合金材の性能を何ら妨げるものではない
【0034】
〔アルミニウム合金ブレージングシート〕
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシート(以下、適宜、ブレージングシートという)は、前記した本発明に係るアルミニウム合金材を心材とする。具体的には、図1(a)に示すように、本発明の第1実施形態に係るブレージングシートB31は、前記アルミニウム合金材心材C2として、その片面にアルミニウム合金からなるろう材Fを備えている。また、図1(b)に示すように、本発明の第1実施形態に係るブレージングシートB32は、心材C2の両面それぞれにアルミニウム合金からなるろう材F,Fを備えてもよい
【0035】
さらに、図2に示すように、本発明の第2実施形態に係るブレージングシートB4は、心材Cの一方の面にアルミニウム合金からなるろう材Fを備え、他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる犠牲陽極材Sを備えている。
【0036】
(ろう材)
各実施形態に係るブレージングシートB31,B32,B4のろう材Fとしては、アルミニウム合金からなる公知のろう材を使用することができる。このようなアルミニウム合金としては、例えば、Al−Si系合金、Al−Si−Zn系合金、Al−Si−Mg(Bi)系合金等挙げられる。
【0037】
(犠牲陽極材)
第2実施形態に係るブレージングシートB4の犠牲陽極材S(以下、適宜、犠牲材という)としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる公知の犠牲材を使用することができる。前記アルミニウム合金としては、例えば、Al−Zn系合金、Al−Zn−Mg系合金、そしてこれらにMn,Si等を含有した合金等が挙げられる。
【0038】
(製造方法)
発明の実施形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法について、その一例簡単に説明する。
まず、心材(アルミニウム合金材)用アルミニウム合金およびろう材用アルミニウム合金、さらに第2実施形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートの場合は犠牲材用アルミニウム合金を、それぞれ連続鋳造により溶解、鋳造し、必要に応じて面削、均質化熱処理して、心材用鋳塊、ろう材用鋳塊、および犠牲材用鋳塊を得る。う材用鋳塊および犠牲材用鋳塊、さらに必要に応じて心材用鋳塊を、それぞれ所定の厚さに熱間圧延または切断して、ろう材用アルミニウム合金板および犠牲材用アルミニウム合金板、ならびに心材用アルミニウム合金板を得る
【0039】
次に、このようにして得られた心材用鋳塊(または心材用アルミニウム合金板)後記するように、ろう材用アルミニウム合金板、また必要に応じて犠牲材用アルミニウム合金板を所定のクラッド率になるように重ね合わせ、400℃以上の温度で加熱後、熱間圧延により圧着して板状とする。その後、粗鈍、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延により所定の板厚とし、さらに必要に応じて仕上げ焼鈍を行う。このようにして、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートを製造することができる。
【0040】
ここで、前記の、心材用鋳塊(または心材用アルミニウム合金板)、ろう材用アルミニウム合金板犠牲材用アルミニウム合金板を重ね合わせる工程において、図1(a)に示す第1実施形態に係るブレージングシートB31を製造する場合は、1枚のろう材用アルミニウム合金板と心材用鋳塊(または心材用アルミニウム合金板)とを重ね合わせる
【0041】
また、図1(b)に示す第1実施形態に係るブレージングシートB32を製造する場合は、2枚のろう材用アルミニウム合金板の間に心材用鋳塊(または心材用アルミニウム合金板)を挟むように重ね合わせる。さらに、図2に示す第2実施形態に係るブレージングシートB4を製造する場合は、ろう材用アルミニウム合金板と犠牲材用アルミニウム合金板の間に心材用鋳塊(または心材用アルミニウム合金板)を挟むように重ね合わせる
【0042】
なお、本発明に係るアルミニウム合金材ろう付用のアルミニウム合金材とする場合は、前記心材用鋳塊を所定の厚さに熱間圧延した後、必要に応じて、粗鈍、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延により所定の板厚とし、さらに仕上げ焼鈍を行うことで製造することができる。
以上の製造方法は、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートまたはアルミニウム合金材を製造するための一例であり、必ずしもこの製造方法に限定されるものではない。
【0043】
以上、説明した本発明に係るアルミニウム合金材は、CuおよびSi含有量を適切に規定することで、アルミニウム合金の強度向上と共に、高温経時での強度低下を小さくすることができるので、高温経時強度に優れまた、さらに、Fe,Mg,Ni,Cr,Ti,Zr,V,Sn,Cd,Inから選択される1種以上をその含有量を適切に規定して含有することで、強度と成形加工性にも優れている。
【0044】
また、本発明の第1実施形態および第2実施形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートB31,B32,B4は、本発明に係るアルミニウム合金材心材C2として備えることで、高温経時強度や成形加工性に優れている。また、心材Cの少なくとも片面にろう材Fを備えることで、ろう付により熱交換器等に容易に加工することができる。さらに、第2実施形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートB4のように犠牲陽極材Sを備えることで、その耐食性を向上させることができる。
【0045】
このようなアルミニウム合金ブレージングシートB31,B32,B4およびろう付用のアルミニウム合金材は、ろう付によって製造される自動車用熱交換器のプレート材やチューブ材等として好適に使用することができる。これにより、特に150℃以上の高温経時において、十分な強度を有する熱交換器を製造することができる。
【実施例1】
【0046】
以下、本発明に係るアルミニウム合金材を心材としたアルミニウム合金ブレージングシートについて、本発明で規定した添加元素の含有量の範囲を満足する実施例および参考例と、本発明で規定した添加元素の含有量の範囲を満足しない比較例とを対比して具体的に説明する。
【0047】
〔供試材の作製〕
表1に示す添加元素を含有するアルミニウム合金組成の心材用アルミニウム合金(C101〜105,201,202,204〜230,232〜240)、ろう材用アルミニウム合金()、および犠牲材用アルミニウム合金()をそれぞれ連続鋳塊により、溶解、鋳造した後、均質化熱処理および熱間圧延を実施して、心材用アルミニウム合金板、ろう材用アルミニウム合金板、および犠牲材用アルミニウム合金板を得た。
【0048】
【表1】

【0049】
次に、表2および表3に示す組合せで、心材用アルミニウム合金板の両面にろう材用アルミニウム合金板それぞれ板厚全体の10%となるように重ね合わせまたは、心材用アルミニウム合金板の一方の面にろう材用アルミニウム合金板、他方の面に犠牲材用アルミニウム合金板それぞれ板厚全体の10%となるように重ね合わせ、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を実施して、表2(供試材No.1〜6)および表3(供試材No.7,8,10〜38,40〜48)に示すアルミニウム合金ブレージングシートの供試材を作製した。これらの供試材は、板厚が1.6mmであり、O材に調質されている。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
ここで供試材No.,35,36は、本発明の第2実施形態に係る、心材Cの一方の面にろう材Fを備え、他方の面に犠牲陽極材S(犠牲材)を備えるアルミニウム合金ブレージングシートB4(図2参照)であり、それ以外の供試材は、心材C2の両面にろう材F,Fを備える本発明の第1実施形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートB32(図1(b)参照)である。
【0053】
(成形加工性の評価)
供試材からJIS Z2201に規定されている5号試験片を作製し、常温で引張試験機にて素材伸びを測定して、結果を表2および表3に示す。素材伸びが26%以上であるものを成形加工性が良好であると評価した。
【0054】
(高温経時強度の評価)
供試材から幅100mm×長さ200mmの短冊状の試験片を切り出して、市販の非腐食性フラックス(FL−7、森田化学工業株式会社)を5g/m2塗布して乾燥後、長手方向が垂直方向となるように釣り下げて、窒素雰囲気中に590℃で2分間保持してろう付加熱を行った。
【0055】
う付加熱後試験片からJIS Z2201に規定されている5号試験片を作製し、200℃で300時間保持した後、200℃で引張試験機にて引張強度を測定して、結果を高温経時強度として表2および表3に示す。高温経時強度が145MPa以上であるものを高温経時強度に優れると評価した。
【0056】
〔評価結果〕
(心材のCuの含有量による評価)
2に示す供試材No.1〜6は、高温経時強度を向上させるCuを添加したアルミニウム合金材を心材に適用し、その含有量による効果を検証したものである。供試材No.1〜4は、心材のCuの含有量が本発明に係るアルミニウム合金材の範囲を満足する参考例であり、200℃で300時間保持後(高温経時後)の200℃での引張強度が145MPa以上と高温経時強度に優れてまた素材伸びは26%以上で成形加工性も良好であった。
【0057】
これに対して供試材No.5は心材Cuの含有量が本発明範囲の下限値以下であるので、高温経時強度が120MPaと供試材No.1〜4と比較して不十分であった。
【0058】
一方供試材No.6は心材Cuの含有量が本発明範囲の上限値を超えるので、ろう付加熱(590℃、2分)にてろう材と共に心材も溶融してしまい、高温経時強度の評価用の正常な試験片が得られず測定することができなかった。また、供試材No.1〜4と比較して、素材伸びが低かった。
【0059】
(心材のSiの含有量による評価)
3に示す供試材No.7は、心材にCuおよびSiを本発明に係る範囲で添加した実施例であり、供試材No.19,25,31,34,36は、心材にさらにFe,Mg,Ni,Cr,Ti,Zr,V,Sn,Cd,Inから選択される1種以上本発明に係る範囲で添加した実施例である。これらの供試材はいずれも、高温経時後の200℃での引張強度が145MPa以上と高温経時強度に優れ素材伸びが26%以上と成形加工性が良好であった。
【0060】
これに対して供試材No.37は、心材Siの含有量が本発明範囲の上限値を超えるので、ろう付加熱(590℃、2分)にてろう材と共に心材も溶融してしまい、高温経時強度の評価用の正常な試験片が得られず測定することができなかった。
【0061】
(心材のFe,Mg,Ni,Cr,Ti,Zr,V,Sn,Cd,Inの各含有量による評価)
供試材No.8,10〜18,20〜24,26〜30,32,33,35は、心材にCu、およびFe,Mg,Ni,Cr,Ti,Zr,V,Sn,Cd,Inから選択される1種以上を本発明に係る範囲で添加した参考例である。これらの供試材はいずれも、高温経時後の200℃での引張強度が145MPa以上と高温経時強度に優れ、素材伸びが26%以上と成形加工性が良好であった。
【0062】
これに対して供試材No.38,40〜45は、それぞれ心材Fe,Mg,Ni,Cr,Ti,Zr,Vの含有量が本発明範囲の上限値を超えるので、供試材No.8,10〜15と比較して、素材伸びが21〜23%と低く成形加工性が低下していた。また、心材Mgの含有量が本発明範囲の上限値を超える供試材No.40は、さらに、ろう付加熱後のろう材の表面が茶褐色を呈すると共にろう材の流動が不均一であった。
【0063】
また供試材No.46〜48は、それぞれ心材Sn,Cd,Inの含有量が本発明範囲の上限値を超えているが、それぞれの範囲を満足する参考例の供試材No.16〜18と比較して、高温経時強度および素材伸び(成形加工性)のいずれについても顕著な変化はなく、Sn,Cd,Inを添加することによる効果が飽和していた。
【0064】
以上、本発明に係るアルミニウム合金材およびアルミニウム合金ブレージングシートについて、実施形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。具体的な構成については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
B31,B32,B4 ブレージングシート(アルミニウム合金ブレージングシート)
2 心材(アルミニウム合金材)
F ろう材
S 犠牲陽極材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材の少なくとも片面にろう材を備えて590℃で2分間のろう付加熱後に200℃で300時間保持した後の200℃での引張強度が145MPa以上であるアルミニウム合金ブレージングシートの前記心材として使用されるアルミニウム合金材であって、
Cu:2.5質量%を超え3.5質量%以下、Si:0.05〜1.0質量%を含有し、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなることを特徴とするアルミニウム合金材。
【請求項2】
e:0.05〜1.5質量%をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金材。
【請求項3】
Mg:0.05〜0.6質量%をさらに含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金材。
【請求項4】
Ni:0.05〜1.5質量%をさらに含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金材。
【請求項5】
Cr:0.05〜0.3質量%、Ti:0.05〜0.3質量%、Zr:0.05〜0.3質量%、V:0.05〜0.3質量%から選択される1種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金材。
【請求項6】
Sn:0.01〜0.1質量%、Cd:0.01〜0.1質量%、In:0.01〜0.1質量%から選択される1種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか一項に記載のアルミニウム合金材。
【請求項7】
請求項1ないし請求項のいずれか一項に記載のアルミニウム合金材を心材とし、その片面または両面にアルミニウム合金からなるろう材を備えることを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項8】
請求項1ないし請求項のいずれか一項に記載のアルミニウム合金材を心材とし、その一方の面にアルミニウム合金からなるろう材を備え、他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる犠牲陽極材を備えることを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−13732(P2010−13732A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184052(P2009−184052)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【分割の表示】特願2007−72282(P2007−72282)の分割
【原出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000222484)株式会社ティラド (289)