説明

アルミニウム合金板の成形方法

【課題】成形加工後のリジングマークの発生を抑制するアルミニウム合金板の成形加工技術を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金板の圧延方向と、成形加工における最大成形方向とのなす角度が、


以内となるようにして、前記アルミニウム合金板を金型内に設置し、成形加工を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al−Mg系、Al−Mg−Cu系合金、Al−Mg−Si系、又はAl−Mg−Si−Cu系合金からなるアルミニウム合金板の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来自動車ボディシートとしては、主として冷延鋼板を使用していたが、最近では車体軽量化等の観点から、アルミニウム合金板を使用することが多くなっている。また、自動車ボディシートはプレス成形や高温高速成形を施して使用するところから、成形加工性が優れていることが要求される。
【0003】
このような自動車用ボディシート向けのアルミニウム合金としては、Al−Mg系合金、Al−Mg−Cu系合金のほか、時効性を有するAl−Mg−Si系合金、Al−Mg−Si−Cu系合金が主として使用されている。
【0004】
近年、苛酷な成形加工の必要な成形品の形状が多くなっていることから、成形加工時の温度や変形量によらずリューダースマーク、肌荒れやリジングマークの発生が問題となっている。リジングマークは、板の成形加工時に現れる圧延方向に沿う筋模様のことであり、構造体の大型化や形状の複雑化、あるいは薄肉化等成形条件が厳しくなった場合に特に生じ易い。
【0005】
最近では自動車用ボディシート用アルミニウム合金に対して、生産性や意匠性等成形加工品の表面外観品質が重視されていることから、成形加工後に発生するリジングマークの発生を抑制する材料や成形加工技術が、強く要求されている。
【0006】
リジングマークの発生は材料の再結晶挙動と深く関わっていることが明らかになっており、リジングマークの発生を抑制するためには、板製造過程での再結晶の制御が不可欠であることが知られている。このようなリジングマークの抑制方法に関して従来から幾つかの提案がなされている。
【0007】
特許文献1には、特にAl−Mg−Si系合金などにTiを添加するとともに、均質化処理後の冷却条件や熱延条件、冷間圧延条件などを複雑に制御することによって、キューブ方位密度をD1、ND回転キューブ方位密度をD2、ゴス方位密度をD3、Cu、S、Bs方位密度の合計をD4とし、D1>60、D2>5、D2/D3>1.2、D4>5を満たし、0、90°耳率が3%以上、結晶粒径ASTMNo.4.5以上となるようなアルミニウム合金板を得るという結晶制御を行うことにより、リジングマークの発生を抑制する技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、特にAl−Mg−Si系合金などにTiを添加するとともに、同様に、均質化処理後の冷却条件や熱延条件、冷間圧延条件などを複雑に制御することによって、キューブ方位密度をC、ND回転キューブ方位の密度をNとし、C<15、N<15、1/20<N/C<1を満たし、さらに耳率が7%以下、結晶粒度がASTMナンバーで5以上である成形加工用Al合金板を得るという結晶制御を行うことにより、リジングマークの発生を抑制する技術が開示されている。
【0009】
さらに、特許文献3には、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の板幅方向の集合組織における、特にGoss方位とCube方位との板幅方向に亙る平均面積率を制御することで、リジングマークを抑制する方法が示されている。また、特許文献4には、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板において、幅方向断面における集合組織の、板厚中心部におけるGoss方位と小傾角粒界との割合を抑制して、リジングマークを抑制する方法が開示されている。
【0010】
さらに、特許文献5には、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の幅方向断面における結晶粒組織の内、傾角15°以上の方位差を有する大傾角粒界による結晶粒の、粒度分布の標準偏差と平均アスペクト比を小さくすることで、リジングマークを抑制する方法が示されている。
【0011】
しかしながら、上述した従来の技術は、いずれもアルミニウム合金の圧延時において、結晶組織を制御するとの観点からの提案であって、上述した内容から明らかなように、結晶組織の制御にはアルミニウム合金板の製造に際して複雑な製造条件が求められる。
【0012】
一方、成形加工技術の観点から成形加工後のリジングマークの発生を抑制する方法に関する提案はあまりなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−108342号公報
【特許文献2】特開2009−256722号公報
【特許文献3】特開2009−173971号公報
【特許文献4】特開2009−173972号公報
【特許文献5】特開2009−173973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は以上の事情を鑑み、成形加工後のリジングマークの発生を抑制するためのアルミニウム合金板の成形加工技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成すべく、本発明者等が種々実験、検討を重ねた結果、Al−Mg系、Al−Mg−Cu系合金、Al−Mg−Si系、又はAl−Mg−Si−Cu系のアルミニウム合金板の成形加工に際し、特に板幅方向に過酷な成形が行われ、成形量が最大となって、成形加工後に肌荒れやリジングマークが発生しやすいことを見出した。つまり、リジングマークの発生を抑制するためには、成形品において成形量が最大となる方向(以後、最大成形方向と呼ぶ)とアルミニウム合金板の板幅方向を平行にしないことが重要であることを見出し、本発明を為すに至ったのである。
【0016】
すなわち請求項1に係る本発明は、アルミニウム合金板の成形方法であって、アルミニウム合金板の圧延方向と、成形加工における最大成形方向とのなす角度が、

以内となるようにして、前記アルミニウム合金板を金型内に設置し、成形加工を施すことを特徴とする、成形時のリジングマークの発生を抑制したアルミニウム合金板の成形方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、アルミニウム合金板を成形する際に、板設置方向を適切に設定することにより板幅方向のひずみを低減し、成形加工後の肌荒れやリジングマークの発生を抑制するものである。そのことにより、複雑な形状の成形加工品、特に自動車材に使用される、Al−Mg系、Al−Mg−Cu系合金、Al−Mg−Si系、又はAl−Mg−Si−Cu系のアルミニウム合金板において、外観を良好なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例における球頭張出試験のための試験片寸法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明のアルミニウム合金板の成形方法について詳細に説明する。
【0020】
(成形方法)
本発明における成形加工とは、常温での冷間プレス成形や100〜300℃の温間成形、あるいは300〜550℃の高温成形などの、自動車ボディーシートの成形に使用される種々の成形加工を対象とする。さらに高温成形は、高温の金型を用いたプレス成形や高温の加圧気体を用いる高温高速成形や超塑性成形などを含む。具体的には、高温高速成形は歪速度10−2/s以上で実施され、超塑性成形は歪速度10−3/s程度で実施される成形方法である。
【0021】
(板設置方法)
リジングマークや肌荒れは、板幅方向へのひずみの大きな部位において特に発生しやすい。特に成形時の張り出し加工等を受ける部位において、変形の方向にひずみが大きくなる。ここで、成形品内の各部位におけるひずみ量を評価したとき、成形品の形状により成形品内の局所的な主ひずみ方向は様々であるため、それら主ひずみ方向毎のひずみ量の総和が最も大きくなる方向を最大成形方向とした。
【0022】
さらに具体的には、成形加工後の外観の問題となる面において、局所的な主ひずみ方向をスクライブドサークル試験により測定し、その総和が最大となる主ひずみ方向を成形品全体での最大成形方向とした。
【0023】
ここで、スクライブドサークル試験は、試験片となる合金板の表面に予め、たとえば直径約6.35mm(1/4in)の円形模様(スクライブドサークル)をマーキングしておき、該試験片を成形した後、楕円形に変形したサークルの長軸方向のひずみと短軸方向のひずみを測定し、成形加工の変形量を評価するものである。
【0024】
成形加工時におけるリジングマークや肌荒れの発生を抑制するには、成形品全体での最大成形方向に対して、合金板の板幅方向を平行にしないことが必要である。これはアルミニウム合金板の圧延集合組織に関連している。一般に、繰り返し圧延変形を受けたアルミニウム合金板の結晶組織(圧延集合組織)は、圧延方向への変形に対しては圧延による結晶回転によって比較的安定であるのに対し、板幅方向の変形に対しては不安定な性質を持つ。成形加工時に発生する板表面のリジングマークは、変形に対する不安定性が高いほど現れやすい。
【0025】
本発明は、圧延集合組織における変形に対する安定性の異方性に着目し、変形に対して不安定な板幅方向の変形量を可能な限り低減することで、リジングマークの発生を抑制しようとするものである。
【0026】
すなわち、圧延方向と最大成形方向のなす角度を

以内(−30°以上+30°以下)となるように板を金型に設置することで、成形加工時のリジングマークや肌荒れを抑制することができる。この角度範囲内であれば、圧延方向と最大成形方向のなす角度が90°の場合に比べて板幅方向のひずみを50%以上低減することが可能となる。上記角度が30°を超えると、板幅方向のひずみを低減できず、リジングマークや肌荒れを抑制する効果は低下する。
【0027】
なお、リジングマークや肌荒れの抑制効果を最大とするためには、アルミニウム合金板の圧延方向と成形加工における最大成形方向を平行にすることが好ましい。
【0028】
(使用合金)
本発明におけるアルミニウム合金板は、基本的にはAl−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金であり、必要に応じてCuを含むAl−Mg−Cu系合金、Al−Mg−Si−Cu系合金であってもよい。
【0029】
次に、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金における成分元素及びその含有量について簡単に説明する。
【0030】
Al−Mg系合金では、Mg:2.0〜8.0%(質量%、以下同じ)、Mn:0.05〜0.4%、残部がAlおよび不可避的不純物であるような組成を有することが好ましい。また、Cuを含む場合は、0.001〜1.5%であることが好ましい。
【0031】
Mgは、Siと反応してMgSi化合物を形成することで、成形後の人工時効処理において強度を増大させたり、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させたりする効果がある。また、歪速度10−2/s以上の高速成形、歪速度10−3/s程度の超塑性成形などにおける成形性向上に寄与する。Mgの含有量は、2.0〜8.0%であり、2.0%未満では上述した効果が小さく、8.0%を超えると過度の時効硬化によって、高温での成形性が悪化する。
【0032】
Mnは、アルミニウム合金の鋳塊を得た後、この鋳塊に対する均質化熱処理時に分散粒子 (分散相) を生成する。これらの分散粒子には再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒を得ることができる効果がある。アルミニウム合金板の成形性はアルミニウム合金組織の結晶粒が微細なほど向上するので、アルミニウム合金がMnを含むことによって、アルミニウム合金板の成形加工性が向上する。Mnの含有量は、0.05〜0.4%である。0.05%未満ではその効果が小さく、0.4%を超えると、溶解、鋳造時に粗大なAl−Fe−Si−(Mn、Cr、Zr) 系の金属間化合物や晶析出物を生成しやすく、アルミニウム合金板の機械的性質を低下させる原因となる。
【0033】
Cuは、成形後の低温短時間の人工時効処理の条件で、アルミニウム合金組織の結晶粒内への強度向上に寄与する時効析出物の形成を促進させる効果がある。また、Cuが固溶することによって、アルミニウム合金板から所定の成形品を得る際の成形性を向上させる効果もある。Cu含有量は0.001〜1.5%の範囲であり、この範囲を外れると、上述した作用効果を得ることができない。
【0034】
不可避的不純物は、アルミニウム合金を鋳造する際に、地金、添加元素合金等様々な経路から混入する。特にFe及びSiはアルミニウム地金中に最も多く含まれる元素であり、それぞれ0.4%を超えると鋳造時にAl−Fe−Si系の晶出物が形成され、加工性が低下する。従って、Fe及びSiの含有量は0.4%以下とする。その他の不可避的不純物は単体で0.05%以下、総量で0.15%以下であればアルミニウム合金に対して影響はない。
【0035】
Al−Mg−Si系合金では、Mg:0.2〜1.5%(質量%、以下同じ)、Si:0.3〜2.0%、Mn:0.01〜0.65%、残部がAlおよび不可避的不純物であるような組成を有することが好ましい。また、Cuを含む場合は、0.001〜1.5%であることが好ましい。
【0036】
Mgは、Siと反応してMgSi化合物を形成することで、成形後の人工時効処理において強度を増大させたり、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させたりする効果がある。Mgの含有量は、0.2〜1.5%であり、0.2%未満では上述した効果が小さく、1.5%を超えると過度の時効硬化によって、高温での成形性が悪化する。
【0037】
Mnは、アルミニウム合金の鋳塊を得た後、この鋳塊に対する均質化熱処理時に分散粒子 (分散相) を生成する。これらの分散粒子には再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒を得ることができる効果がある。アルミニウム合金板の成形性はアルミニウム合金組織の結晶粒が微細なほど向上するので、アルミニウム合金がMnを含むことによって、アルミニウム合金板の成形加工性が向上する。Mnの含有量は、0.01〜0.65%である。0.01%未満ではその効果が小さく、0.65%を超えると、溶解、鋳造時に粗大なAl−Fe−Si−(Mn、Cr、Zr) 系の金属間化合物や晶析出物を生成しやすく、アルミニウム合金板の機械的性質を低下させる原因となる。
【0038】
Siは、Mgと反応してMgSi化合物を形成し、Mgの場合と同様に、成形後の人工時効処理において強度を増大させたり、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させたりする効果がある。また、MnやFeとともにAl−Mn−Si系またはAl−Fe−Mn−Si系の微細な金属間化合物を形成し、成形加工性を向上させる効果もある。但し、Siの含有量は、0.3〜2.0%の範囲であり、0.3%未満では上述した効果が小さく、2.0%を超えると過度の時効硬化によって、高温での成形性が悪化する。
【0039】
Cuは、成形後の低温短時間の人工時効処理の条件で、アルミニウム合金組織の結晶粒内への強度向上に寄与する時効析出物の形成を促進させる効果がある。また、Cuが固溶することによって、アルミニウム合金板から所定の成形品を得る際の成形性を向上させる効果もある。Cu含有量は0.001〜1.5%の範囲であり、この範囲を外れると、上述した作用効果を得ることができない。
【0040】
不可避的不純物は、アルミニウム合金を鋳造する際に、地金、添加元素合金等様々な経路から混入する。特にFeはアルミニウム地金中に最も多く含まれる元素であり、0.4%を超えると鋳造時にAl−Fe−Si系の晶出物が形成され、加工性が低下する。従って、Feの含有量は0.4%以下とする。その他の不可避的不純物は単体で0.05%以下、総量で0.15%以下であればアルミニウム合金に対して影響はない。
【0041】
(合金板製造方法)
本発明のアルミニウム合金板は、常法により製造される。すなわち、上記した合金系のアルミニウム合金鋳塊を、均質化熱処理後に熱間圧延を施し、熱間圧延後に、必要に応じて焼鈍を施して冷間圧延し、所要の板厚とする。必要に応じて、最終的な溶体化処理及び又は焼入れが施される。但し、高温ブロー成形のように、アルミニウム合金板が十分溶体化処理される温度で成形されるのであれば、この高温成形が溶体化処理を兼ねることができる。したがって、上述した溶体化処理は省略することができる。
【0042】
(溶解、鋳造)
先ず、溶解、鋳造工程では、上記アルミニウム合金系組成成分範囲内で溶解調整されたAl合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。
【0043】
(均質化熱処理)
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に均質化熱処理を施す。均質化熱処理の温度自体は、常法通り、450℃以上で共晶融点未満の均質化温度が適宜選択される。この均質化熱処理(均熱処理)は、組織の均質化、すなわち、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくすことを目的とする。この均質化温度が低いと結晶粒内の偏析を十分に無くすことができず、これが破壊の起点として作用するために、伸びフランジ性や曲げ加工性が低下する。
【0044】
均質化熱処理は、好ましくは、100℃〜200℃の低温で数時間保持した後、300℃/時間以上の昇温速度で450℃以上の均質化温度に加熱することが好ましい。これによって、微細な析出物を均一に分散させることができる。
【0045】
また、均質化熱処理後の冷却速度は大きい方が好ましく、例えば40℃/時間とする。これによって、Mg−Si化合物などの析出物が粗大化し、成形性を劣化させるなどの不利益を防止することができる。
【0046】
(熱間圧延)
熱間圧延は、リバース式あるいはタンデム式などの圧延機が適宜用いられ、各々複数のパスからなる圧延が施される。なお、熱間圧延開始温度は、例えば250〜550℃の温度範囲とすることが好ましい。熱間圧延を550℃を超える高温で開始すれば、熱間圧延終了後に粗大な再結晶粒を形成し耐リジング性の改善が図れず、また所要の最終板強度が得られなくなるおそれがある。一方熱間圧延開始温度250℃未満では、熱間圧延自体が困難となる。
【0047】
(冷間圧延)
冷間圧延では、上記熱延板を圧延して、所望の最終板厚の冷延板 (アルミニウム合金板)に製作する。
【0048】
(溶体化及び焼入れ処理)
溶体化処理は、アルミニウム合金板のプレス成形後の人工時効処理により強度向上に寄与する時効析出物を十分粒内に析出させるために、好ましくは500℃以上、融点以下までの温度範囲で行う。また、昇温速度は、リジングマークの発生を防止するために、100℃/分以上とすることが好ましい。
【0049】
溶体化処理温度からの焼入れ処理では、冷却速度が遅いと、粒界上にSi、Mg2 Siなどが析出しやすくなり、プレス成形や曲げ加工時の割れの起点となり易く、これら成形性が低下する。この冷却速度を確保するために、焼入れ処理は、ファンなどの空冷、ミスト、スプレー、浸漬等の水冷手段や条件を各々選択して用い、冷却速度を10℃/秒以上の急冷とすることが好ましい。
【実施例】
【0050】
成形加工に供するアルミニウム合金として、表1に示すようなものを準備した。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示す組成のアルミニウム合金の溶湯から、半連続鋳造法により厚さ500mmの鋳塊を得、上下面を10mm面削した。次いで、各鋳塊に530℃×5時間の均質化処理を施し、開始温度530℃の熱間圧延及び冷間圧延を板厚2.0mmまで施した後、温度330℃で中間焼鈍を施し、1.0mm厚のアルミニウム合金板を得た。
【0053】
(試験片採取方法)
球頭張出試験片は図1に示す寸法で作製した。成形する合金板の一辺を球頭ポンチ径と同等かそれ以下にすることで、短手方向に比して長手方向のひずみを大きくし、最大成形方向が長手方向となるよう寸法設定した。本実施例では短手方向長さを球頭ポンチ径と同等とした。そこで、短手方向に比して長手方向のひずみを大きくし、最大成形方向が長手方向となるよう寸法設定した。そこで、最大成形方向と合金板の圧延方向とのなす角が、0°、10°、20°、30°、35°、90°となるよう球頭張出試験片を採取した。
【0054】
(試験温度)
球頭張出試験は、冷間プレス成形を想定し、室温で実施した。
【0055】
(判定方法)
成形高さ35mmに張出した球頭表面に形成される圧延方向に沿う筋(凹凸)を目視で判定した。○印はリジングマークなし、肌荒れなし、△印は中程度のリジングマークの発生と肌荒れ状態を示し、×印はリジングマークの発生と肌荒れが強い状態を示す。ここでリジングマークの発生と肌荒れとが中程度でも、自動車用外板の外観として不適となるおそれがある。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2から明らかなように、本発明の要件を満足する実施例1〜4においては、リジングマークが十分に抑制され、肌荒れ性も十分に抑制されていることが分かる。特に実施例1では最も表面性状が良好であった。比較例1ではリジングマーク肌荒れが見られ、比較例2では最もリジングマークが多く発生していた。なお、合金系について比較すると、板幅方向成分の変形量が増大するにつれて表面性状が劣化する傾向に大きな差異は無かった。
【0058】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、自動車ボディシート、ボディパネルの如く各種自動車、船舶、航空機等の部材・部品、あるいは建築材料、構造材料、そのほか各種機械器具、家電製品やその部品等の素材として使用されるAl−Mg−Si系、Al−Mg−Si−Cu系、Al−Mg系、あるいはAl−Mg−Cu系のアルミニウム合金板の成形方法に関するものであり、プレス成形や高温高速成形等の成形加工時に発生するリジングマークを抑制することが可能となり、工業上顕著な効果を奏するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板の成形方法であって
アルミニウム合金板の圧延方向と、成形加工における最大成形方向とのなす角度が、

以内となるようにして、前記アルミニウム合金板を金型内に設置し、成形加工を施すことを特徴とする、成形時のリジングマークの発生を抑制したアルミニウム合金板の成形方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−36421(P2012−36421A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174904(P2010−174904)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)