説明

アルミニウム金属またはアルミニウム合金の表面に微細構造を形成する方法

【課題】簡便かつ低コストな方法で、アルミニウム金属またはアルミニウム合金上に、微細構造を形成することが可能なプロセスを提供する。
【解決手段】アルミニウム金属またはアルミニウム合金の表面に、微細構造を形成する方法であって、(a)アルミニウム金属またはアルミニウム合金を含む基材を準備するステップと、(b)水を含む液体中に、前記基材を浸漬させるステップと、(c)前記液体を、密閉空間内で80℃〜180℃に保持するステップと、を有する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム金属またはアルミニウム合金上に、微細構造を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒や電極など、化学反応または電気化学反応に利用される部材では、反応の場(サイト)を増やすため、表面積を高める工夫がなされている。
【0003】
例えば、アルミニウム金属またはアルミニウム合金製の基材を使用した電解コンデンサーやキャパシタンスの電極などの場合には、表面積を増加させるため、基材は、陽極酸化処理されることが一般的である。基材の陽極酸化処理によって、酸化皮膜中に多数のミクロポアが形成され、基材の表面積を増加させることができる。また、これらのミクロポア中に所望の物質を充填し、基材および酸化皮膜を除去した場合、微細構造体を製作することができる(特許文献1、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−132974号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chang, H.; Shi, N.; Gong, J.; Guan, Y. “Novel self-assemblednanostructured alumina array with nanoscale grooves”, Appl.Surf. Sci., 253, 4891 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような陽極酸化処理法では、再現性のある結果を得るため、すなわち、アルミニウムまたはアルミニウム合金上に、常に同様の微細構造を有する酸化皮膜を形成するためには、印加電圧、溶液の組成および濃度、撹拌速度、ならびに液流速など、処理の際に様々なプロセスパラメータを適正に制御することが必要となる。
【0007】
しかしながら、実際の製造の現場では、陽極酸化処理の度に、そのようなプロセスパラメータを高精度で、常に同じ条件に設定することは、極めて難しい。従って、同様の処理を行っても、最終的に得られる酸化皮膜の微細構造が大きく異なってしまう場合がしばしばある。また、このプロセスでは、プロセスパラメータを常に高精度で制御、監視することが必要となり、処理プロセスが煩雑となり、処理に必要なコストが高くなるという問題がある。
【0008】
そのため、陽極酸化処理法に比べて、より簡便かつ低コストな方法で、アルミニウム金属またはアルミニウム合金上に、微細構造を形成することが可能な新たなプロセスが求められている。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、より簡便かつ低コストな方法で、アルミニウム金属またはアルミニウム合金上に、微細構造を形成することが可能なプロセスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、
アルミニウム金属またはアルミニウム合金の表面に、微細構造を形成する方法であって、
(a)アルミニウム金属またはアルミニウム合金を含む基材を準備するステップと、
(b)水を含む液体中に、前記基材を浸漬させるステップと、
(c)前記液体を、密閉空間内で80℃〜180℃に保持するステップと、
を有する方法が提供される。
【0011】
本発明による方法において、前記微細構造は、前記基材表面に、複数の糸状または短冊状の生成物が相互に重なり合うことにより構成され、
前記生成物の少なくとも一部は、全長が20nm〜500nmの範囲にあり、幅が10nm〜300nmの範囲にあっても良い。
【0012】
また、本発明による方法において、前記水を含む液体は、超純水を含んでも良い。
【0013】
また、本発明による方法において、前記水を含む液体は、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、およびEDTA(エチレンジアミン四酢酸)からなる群から選定された、少なくとも一つの物質を含んでも良い。
【0014】
また、本発明による方法において、前記水を含む液体は、さらに、pH調整剤を含んでも良い。
【0015】
また、本発明による方法において、前記水を含む液体は、pHが6以上であっても良い。
【0016】
また、本発明による方法において、前記(c)のステップは、少なくとも1時間以上行われても良い。
【0017】
また、本発明による方法において、前記微細構造は、Al(OH)およびAlOOHの少なくとも一つを有しても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、より簡便かつ低コストな方法で、アルミニウム金属またはアルミニウム合金上に、微細構造を形成することが可能なプロセスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による方法のフローを示した図である。
【図2】実施例2に係るサンプルの表面のXPSスペクトルを示した図である。
【図3】実施例1〜4に係るサンプルの表面SEM写真である。
【図4】実施例4に係るサンプルの表面のX線回折結果を示した図である。
【図5】シランカップリング処理を行った実施例3に係るサンプルの、水滴との相互作用を示した図である。
【図6】実施例5〜8に係るサンプルの表面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明についてより詳しく説明する。
【0021】
前述のように、従来、アルミニウム金属またはアルミニウム合金(以下、これらをまとめて、単に「アルミニウム合金」と称する)の表面に微細構造を形成する場合、陽極酸化処理法が採用されてきた。
【0022】
しかしながら、陽極酸化処理法では、制御すべきパラメータが多くなりすぎて、得られる微細構造の再現性が悪いという問題がある。また、このような方法では、プロセスが煩雑になるとともに、微細構造の製造コストが高くなるという問題がある。
【0023】
このような問題を軽減または解消するため、本願発明者らは、より簡便で低コストな方法で、基材の表面に微細構造を形成する方法について、研究開発を重ねてきた。そして、本願発明者らは、陽極酸化処理法を利用せずに、再現性良く、アルミニウム合金の表面に微細構造を形成することが可能な、新たな製造プロセスを見出し、本願発明に至った。
【0024】
すなわち本発明では、
アルミニウム金属またはアルミニウム合金の表面に、微細構造を形成する方法であって、
(a)アルミニウム金属またはアルミニウム合金を含む基材を準備するステップと、
(b)水を含む液体中に、前記基材を浸漬させるステップと、
(c)前記液体を、密閉空間内で80℃〜180℃に保持するステップと、
を有する方法が提供される。
【0025】
本発明の方法では、陽極酸化処理法を利用しておらず、前述のような問題が軽減または解消される。
【0026】
例えば、本発明による方法は、電解等の処理を含まず、液体中に基材を浸漬させ、高温に保持するだけで、基材表面に微細構造を形成することができる。従って、プロセスパラメータ(例えば、電解電圧、電流密度、撹拌速度等)が著しく削減される上、プロセスに含まれる工程も著しく簡略化される。また、これにより、製作コストも抑制することができる。
【0027】
また、例えば、本発明による方法では、液体は、純水のみを含んでも良い。この場合、薬剤を全く使用しないため、液体の濃度、液体の供給速度等の制御も不要となる。さらに、従来の陽極酸化処理法では、処理後に廃液処理が必要となるため、環境に対する負荷が大きいという問題がある。しかしながら、この方法では、薬剤を全く使用しないため、廃液処理等が不要となり、環境に優しいプロセスを提供することができる。
【0028】
また、本発明において、液体は、後述するように、純水以外のいくつかの物質を含んでも良い。このような場合であっても、プロセスに使用される薬剤の種類は、従来の陽極酸化処理法に比べて有意に少なくすることができることに留意する必要がある。
【0029】
図6(b)には、本発明による方法によって、アルミニウム合金(A11050:99.5wt%Al)表面上に形成された、微細構造の一例を示す。この微細構造は、液体として超純水のみを使用し、150℃で48時間処理したときに得られたものである。
【0030】
この図から、基材の表面には、複数の短冊状の生成物が相互に重なり合うように緻密に形成され、これにより、基材の表面全体にわたって、微細構造が形成されていることがわかる。代表的な短冊状の生成物の全長は、250nm〜500nmであり、幅は、50nm〜300nm程度である。すなわち、本発明の方法では、数十nm〜数百nmのオーダーの微細構造が得られる。なお、後に詳細に示すように、これらの短冊状の生成物は、AlOOH、Al(OH)、およびAlOxからなり、アモルファス構造を有する。
【0031】
なお、保持時間を変えた実験から、反応時間の増加とともに、微細構造は、緻密化、密集化し、密度が徐々に大きくなっていく傾向にある。さらに、各短冊状の生成物の寸法(全長、幅、高さ)も、時間とともに徐々に大きくなっていく傾向にあることが確認されている。
【0032】
なお、後述するように、微細構造を形成する生成物の形態は、必ずしも短冊状に限られず、微細構造を形成する生成物は、絡み合った糸状の形態の場合もある。そこで、以下の記載では、微細構造を形成する各生成物を、「微細生成物」と称することにする。
【0033】
保持時間が3時間〜48時間の間では、代表的な「微細生成物」の全長は、おおよそ20nm〜500nmの範囲にあり、幅は、おおよそ10nm〜300nmの範囲にあった。
【0034】
このように、本発明の方法では、従来の陽極酸化処理法に比べて、簡便かつ低コストな方法で、基剤の表面に微細構造を形成することができる。
【0035】
(本発明による方法の詳細について)
次に、本発明による方法について、より詳しく説明する。
【0036】
図1には、本発明による方法のフロー図を概略的に示す。
【0037】
図1に示すように、本発明による方法は、アルミニウム金属またはアルミニウム合金を含む基材を準備するステップ(ステップS110)と、水を含む液体中に、前記基材を浸漬させるステップ(ステップS120)と、(c)前記液体を、密閉空間内で80℃〜180℃に保持するステップ(ステップS130)と、を有する。
【0038】
以下、各ステップについて、詳しく説明する。
【0039】
(ステップS110)
まず、基材となる「アルミニウム合金」が準備される。アルミニウム合金の組成は、特に限られない。例えば、アルミニウム合金は、アルミニウム単金属であっても良い。また、アルミニウム合金は、Al(アルミニウム)−Cu(銅)系、Al(アルミニウム)−Mn(マンガン)系、Al(アルミニウム)−Si(シリコン)系、Al(アルミニウム)−Mg(マグネシウム)系等の、アルミニウムをマトリックスとした化合物であっても良い。
【0040】
基材の形状および寸法等は、特に限られない。基材の形状は、例えば、平板状、湾曲状、粒子状、またはその他の複雑形状等であっても良い。
【0041】
基材は、使用前に、アルコール、アセトン等で洗浄されることが好ましい。
【0042】
(ステップS120)
次に、処理用の液体が調製される。
【0043】
液体は、水(純水)を含む。水は、例えば、超純水であっても良い。特に、液体は、純水のみを含んでも良い。
【0044】
また、液体は、水の他、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、および/またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等を含んでも良い。以降、これらの物質を「添加物」と称する。「添加物」を添加した場合、液体は、水溶液となる。「添加物」を添加することにより、基材表面に形成される微細構造の形態および/または成長速度を、より高精度に調整することが可能となる。
【0045】
なお、「添加物」を添加することにより、微細構造の形態および/または成長速度を制御することができる理由は、現在のところ明確ではない。しかしながら、例えば、このような添加物は、微細構造を形成する「微細生成物」の特定の結晶方位面に吸着して、その方向の結晶成長を促進または抑制する働きを示すことなどが考えられる。従って、このような観点からは、「添加物」は、上記物質に限られるものではなく、同様の働きをする(すなわち、「微細生成物」の結晶成長を促進または抑制する)他の物質を、液体中に添加しても良い。
【0046】
添加物の濃度は、特に限られないが、液体全体に対する添加物の総量は、1mM%〜1M%の範囲であっても良い。
【0047】
また、液体は、アルカリ金属の水酸化物のような、pH調整剤を含んでも良い。pH調整剤としては、例えば、Na(OH)、K(OH)等のアルカリ金属の水酸化物などが使用される。液体のpHは、6以上であることが好ましく、6.5〜10程度であることがより好ましい。なお、pHが6未満になると、生成した「微細生成物」が液体中に溶解する可能性があり、すなわち、処理後に、表面に微細構造が形成されていない場合が生じ得る。
【0048】
次に、この液体が収容された容器中に、基材が浸漬され、容器が密閉される。
【0049】
(ステップS130)
次に、基材表面で反応を生じさせるため、液体および基材を含む密閉容器が高温に保持される。処理温度は、例えば、80℃〜180℃の範囲であり、特に100℃〜150℃の範囲(例えば120℃)であることが好ましい。また、反応時間は、反応温度にもよるが、反応温度が80℃〜180℃の範囲の場合、反応時間は、少なくとも1時間以上であり、3時間〜48時間の範囲であることが好ましい。
【0050】
これにより、基材表面に、前述の写真のような微細構造が形成される。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0052】
(実施例1)
容器中で、硝酸アンモニウム(NHNO)0.4002gを超純水50ml中に溶解し、これに、さらに0.1Mの水酸化ナトリウムを1ml添加し、水溶液を調製した。水溶液のpHは、約7.5であった。
【0053】
次に、この水溶液中に、アルミニウム合金製基板(縦10mm×横10mm×厚さ3mm)を浸漬した。アルミニウム合金の組成は、Alが99.5wt%で、Siが0.1〜0.25wt%、Feが0.25〜0.40wt%であった。
【0054】
次に、この容器を密閉した状態で、電気炉内に設置した。電気炉内を150℃に保持し、3時間保持した後に、容器を取り出し、アルミニウム合金製基板を回収した。
【0055】
得られた基板を、エタノール中で10分間、超音波洗浄し、その後、アルゴンガスで乾燥させ、実施例1に係るサンプルを得た。
【0056】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、実施例2に係るサンプルを得た。ただし、実施例2では、電気炉内での保持時間を6時間とした。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0057】
(実施例3)
実施例1と同様の方法により、実施例3に係るサンプルを得た。ただし、実施例3では、電気炉内での保持時間を12時間とした。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0058】
(実施例4)
実施例1と同様の方法により、実施例4に係るサンプルを得た。ただし、実施例4では、電気炉内での保持時間を24時間とした。その他の条件は、実施例1と同様である。
【0059】
表1には、各サンプルの製作条件(溶液の種類、反応条件)をまとめて示した。
【表1】

【0060】
(評価)
実施例1〜4に係るサンプルを用いて、各種評価を行った。
【0061】
(目視観察)
実施例1〜4に係るサンプルの表面を目視により、評価した。
【0062】
各サンプルの表面は、干渉色を示したが、反応時間とともに白色が明確になる傾向にあった。これは、各サンプルにおいて、十nm〜数百nmオーダーの凹凸を有する微細構造が形成されていることによるものであると考えられる。また、白色は、微細構造に含まれる微細生成物の有する色であると考えられる。
【0063】
各サンプルにおいて、色の程度は、表面全体にわたって同等であった。このことから、微細構造は、基材の表面全体にわたって、均一に形成されているものと予想される。
【0064】
各サンプルを、エタノール中に入れ、30分間、超音波洗浄を実施した。超音波洗浄の前後で、サンプルの色や状態に変化は認められなかった。このことから、各サンプルにおいて形成された微細構造は、基材との間で、適正な密着性を呈していることがわかった。
【0065】
(X線光電子分光(XPS)測定)
実施例1〜4に係るサンプルを用いて、X線光電子分光測定を実施した。装置には、ESCA−3400(島津製作所社製)を使用した。
【0066】
図2には、実施例2に係るサンプル(反応時間:6時間)での結果を示す。この図には、参照データとして、標準的なAl、AlOOH、Al(OH)、およびAlOxの結合エネルギー(eV)の位置が同時に示されている。この図2から、実施例2に係るサンプルの表面には、AlOOH、Al(OH)、およびAlOxが形成されていることがわかった。
【0067】
なお、他のサンプルについても、同様の結果が得られた。
【0068】
(SEM観察)
実施例1〜4に係るサンプルの表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。SEM装置には、S−4300(日立ハイテクノロジー社製)を使用した。
【0069】
図3には、各サンプルの表面微細構造を示す。図3(a)は、実施例1での結果(保持時間3時間)であり、図3(b)、(c)、および(d)は、それぞれ、実施例2(保持時間6時間)、実施例3(保持時間12時間)、および実施例4(保持時間24時間)での結果である。
【0070】
この図から、いずれもサンプルにおいても、基材表面には、「微細生成物」からなる微細構造が形成されていることがわかる。実施例1および2(図3(a)、(b))の場合は、「微細生成物」は、複数の糸状生成物が相互に重なり合うことにより構成されている。一方、実施例3および4(図3(c)、(d))の場合は、「微細生成物」は、複数の短冊状生成物が相互に重なり合うことにより構成されている。
【0071】
さらに、反応時間とともに、基材の表面に形成される微細構造が緻密化、密集化し、微細構造の密度が大きくなっていくことがわかる。同様に、各「微細生成物」の寸法(全長、幅)も、時間とともに大きくなっている。
【0072】
なお、各サンプルにおいて、「微細生成物」の寸法(全長、幅)は、様々であるが、おおまかには、実施例1(図3(a))の場合、「微細生成物」の多くは、その全長が、30nm〜500nmの範囲にあり、幅は、20nm〜200nmの範囲にある。実施例2(図3(b))の場合、「微細生成物」の多くは、その全長が、30nm〜500nmの範囲にあり、幅は、20nm〜200nmの範囲にある。実施例3(図3(c))の場合、「微細生成物」の多くは、その全長が、200nm〜450nmの範囲にあり、幅は、50nm〜150nmの範囲にある。実施例4(図3(d))の場合、「微細生成物」の多くは、その全長が、250nm〜500nmの範囲にあり、幅は、100nm〜250nmの範囲にある。
【0073】
また、実施例3におけるサンプルにおける原子間力顕微鏡での評価の結果、「微細生成物」の高さは、約100nm〜約220nm程度であることがわかった。
【0074】
前述の表1には、各サンプルにおいて得られた、微細構造を形成する代表的な「微細生成物」の大まかな寸法を示した。
【0075】
(XRD回折測定)
図4には、実施例4に係るサンプルでのX線回折測定の結果を示す。この図から、得られたピークは、全て基材に含まれるAlに対応しており、微細構造に対応するピークは、認められなかった。このことから、微細構造を形成する「微細生成物」は、アモルファス構造を有しているものと考えられる。
【0076】
(超撥水表面の形成)
実施例3に係るサンプルを用いて、以下のシランカップリング処理を行い、微細構造を有する基材表面に超撥水性を発現させた。
【0077】
テフロン(登録商標)容器中に、実施例3に係るサンプルと、200μl(マイクロリットル)のオクタデシルトリメトキシシランを入れ、密封した。この容器を150℃に昇温し、この温度で3〜5時間保持した。これにより、実施例3に係るサンプルの表面に、超撥水性が付与された。
【0078】
なお、サンプル表面の超撥水性は、以下のように確認した。
【0079】
サンプル10を主表面(縦10mm、横10mmの面)が上向きとなるようにして、ステージ20の上に置載する。次に、サンプル10の主表面上に、約5μl(マイクロリットル)の水滴30を滴下し、水滴30の接触角を測定する。
【0080】
図5には、そのような超撥水性評価のときの様子を示す。この図5から、水滴30の形状は、ほぼ球形となっており、サンプル10の表面が超撥水性を有していることがわかる。水滴30の接触角は、約153゜であった。
【0081】
なお、切り出したままのアルミニウム合金基材に対して、前述のシランカップリング処理を行い、同様の評価を実施した。しかしながら、この場合、水滴は、サンプルの表面に広がってしまい、正確な接触角を測定することはできなかった。
【0082】
この結果から、表面に微細構造を有するアルミニウム合金基材では、表面に超撥水性を付与することが容易に行えることがわかった。
【0083】
(実施例5)
容器中に、抵抗率が18.2Mオームの超純水20mlを添加した。次に、この水溶液中に、アルミニウム合金製基板(縦10mm×横10mm×厚さ3mm)を浸漬した。アルミニウム合金の組成は、Alが99.5wt%で、Siが0.1〜0.25wt%、Feが0.25〜0.40wt%であった。
【0084】
次に、この容器を密閉した状態で、電気炉内に設置した。電気炉内を150℃に保持し、12時間保持した後に、容器を取り出し、アルミニウム合金製基板を回収した。
【0085】
得られた基板を、エタノール中で10分間、超音波洗浄し、その後、アルゴンガスで乾燥させ、実施例5に係るサンプルを得た。
【0086】
(実施例6)
実施例5と同様の方法により、実施例6に係るサンプルを得た。ただし、実施例6では、電気炉内での保持時間を48時間とした。その他の条件は、実施例5と同様である。
【0087】
(実施例7)
実施例5と同様の方法により、実施例7に係るサンプルを得た。ただし、実施例7では、電気炉内での保持温度を120℃とし、電気炉内での保持時間を3時間とした。その他の条件は、実施例5と同様である。
【0088】
(実施例8)
実施例5と同様の方法により、実施例8に係るサンプルを得た。ただし、実施例8では、電気炉内での保持温度を120℃とし、電気炉内での保持時間を12時間とした。その他の条件は、実施例5と同様である。
【0089】
(SEM観察)
実施例5〜8に係るサンプルの表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。
【0090】
図6には、各サンプルの表面微細構造を示す。図6(a)は、実施例5での結果(保持温度150℃、保持時間12時間)であり、図6(b)、(c)、および(d)は、それぞれ、実施例6(保持温度150℃、保持時間48時間)、実施例7(保持温度120℃、保持時間3時間)、および実施例8(保持温度120℃、保持時間12時間)での結果である。
【0091】
この図から、いずれもサンプルにおいても、基材表面には、微細構造が形成されていることがわかる。また、この微細構造は、複数の糸状(図6(c)および(d))または短冊状(図6(a)、(b))の「微細生成物」が相互に重なり合うことにより構成されていることがわかる。さらに、いずれの温度においても、反応時間とともに、基材の表面に形成される微細構造が緻密化、密集し、微細構造の密度が大きくなっていくことがわかる。同様に、「微細生成物」の寸法(全長、幅)も、時間とともに大きくなっている。
【0092】
なお、各サンプルにおいて、「微細生成物」の寸法(全長、幅)は、様々であるが、おおまかには、実施例5(図6(a))の場合、代表的な「微細生成物」は、その全長が、200nm〜400nmの範囲にあり、幅は、50nm〜250nmの範囲にある。実施例6(図6(b))の場合、代表的な「微細生成物」は、その全長が、250nm〜500nmの範囲にあり、幅は、50nm〜300nmの範囲にある。実施例7(図6(c))の場合、代表的な「微細生成物」は、その全長が、30nm〜300nmの範囲にあり、幅は、20nm〜200nmの範囲にある。実施例8(図6(d))の場合、代表的な「微細生成物」は、その全長が、50nm〜400nmの範囲にあり、幅は、20nm〜200nmの範囲にある。
【0093】
表1には、実施例5〜8に係るサンプルにおいて、微細構造を形成する「微細生成物」の寸法をまとめて示した。
【0094】
このように、本発明の方法により、アルミニウム合金の表面に、数十nm〜数百nmのオーダーの、AlOOH、およびAl(OH)等を含む微細構造が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、自動車部品、電子機器類の筐体、およびその他の構造体等、様々な分野に適用することができる。特に、本発明は、電解コンデンサーおよびキャパシタンスの電極、耐食性皮膜、ならびに超撥水性表面を有する構造体等に適用することができる。
【符号の説明】
【0096】
10 サンプル
20 ステージ
30 水滴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム金属またはアルミニウム合金の表面に、微細構造を形成する方法であって、
(a)アルミニウム金属またはアルミニウム合金を含む基材を準備するステップと、
(b)水を含む液体中に、前記基材を浸漬させるステップと、
(c)前記液体を、密閉空間内で80℃〜180℃に保持するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記微細構造は、前記基材表面に、複数の糸状または短冊状の生成物が相互に重なり合うことにより構成され、
前記生成物の少なくとも一部は、全長が20nm〜500nmの範囲にあり、幅が10nm〜300nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水を含む液体は、超純水を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記水を含む液体は、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、およびEDTA(エチレンジアミン四酢酸)からなる群から選定された、少なくとも一つの物質を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記水を含む液体は、さらに、pH調整剤を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記水を含む液体は、pHが6以上であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記(c)のステップは、少なくとも1時間以上行われることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記微細構造は、Al(OH)およびAlOOHの少なくとも一つを有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−1753(P2012−1753A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136383(P2010−136383)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】