説明

アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法

【課題】アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の焼結体からなるエッチング処理が不要なアルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法であって、アルミニウム及びアルミニウム合金の粉末の粒径が小さく、焼結体の厚みが大きい場合でも高い静電容量が確保されたアルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の粉末の焼結体からなるアルミニウム電解コンデンサ用電極材であって、
(1)前記粉末は、平均粒径D50が1〜10μmであり、
(2)前記焼結体は、2層以上の焼結層からなり、隣接する焼結層に含まれる前記粉末は、平均粒径D50が0.5μm以上異なる、
ことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム電解コンデンサに用いられる電極材、特に中高圧用のアルミニウム電解コンデンサに用いられる陽極用電極材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、コンデンサとして主に使用されているのは、アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ及びセラミックコンデンサである。
【0003】
セラミックコンデンサは、チタン酸バリウムを誘導体に用い、貴金属で挟んで焼結して製造する。セラミックコンデンサは、誘電体が厚いためにアルミニウム電解コンデンサやタンタル電解コンデンサよりも静電容量は劣るが、小型で発熱し難いという特性がある。
【0004】
タンタル電解コンデンサは、タンタル粉体に酸化皮膜が形成されている。タンタル電解コンデンサは、静電容量がアルミニウム電解コンデンサよりも劣りセラミックコンデンサよりも高く、信頼性がセラミックコンデンサよりも劣りアルミニウム電解コンデンサよりも高いという特性がある。
【0005】
上記特性の違いから、例えば、セラミックコンデンサは携帯電話等の小型電子機器に、タンタル電解コンデンサはテレビ等の家庭電化製品に、アルミニウム電解コンデンサはハイブリッド車のインバーター電源や風力発電の蓄電用途に使用されている。
【0006】
このように、アルミニウム電解コンデンサは、その特性からエネルギー分野で広く使用されている。そして、アルミニウム電解コンデンサ用電極材としては、一般にアルミニウム箔が使用されている。
【0007】
一般に、アルミニウム電解コンデンサ用電極材は、エッチング処理を行い、エッチングピットを形成することにより、表面積を増大させることができる。そして、その表面に陽極酸化処理を施すことにより、酸化皮膜を形成し、これが誘電体として機能する。このため、アルミニウム箔をエッチング処理し、その表面に使用電圧に応じた種々の電圧で陽極酸化皮膜を形成することにより、用途に適合する各種の電解コンデンサ用アルミニウム陽極用電極材(箔)を製造することができる。
【0008】
エッチング処理ではエッチングピットと呼ばれる孔がアルミニウム箔に形成されるが、エッチングピットは陽極酸化電圧に対応した種々の形状に処理される。
【0009】
具体的には、中高圧用のコンデンサ用途には、厚い酸化皮膜を形成する必要がある。このため、そのような厚い酸化皮膜でエッチングピットが埋まらないように、中高圧陽極用アルミニウム箔では、主に直流エッチングを行うことによりエッチングピット形状をトンネルタイプとし、電圧に応じた太さに処理される。一方、低圧用コンデンサ用途では、細かいエッチングピットが必要であり、主には交流エッチングによって海綿状のエッチングピットを形成する。また、陰極用箔についても、同様にエッチングにより表面積を拡大させている。
【0010】
しかしながら、これらのエッチング処理ではいずれも、塩酸中に硫酸、燐酸、硝酸等を含有する塩酸水溶液を使用しなければならない。即ち、塩酸は、環境面での負荷が大きく、その処理も工程上又は経済上の負担になる。このため、エッチング処理によらない新規なアルミニウム箔の表面積増大方法の開発が望まれている。
【0011】
これに対し、表面に微細なアルミニウム粉末を付着させたアルミニウム箔を用いたことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサが提案されている(例えば特許文献1)。また、箔厚が15μm以上35μm未満である平滑なアルミニウム箔の片面又は両面に、2μm〜0.01μmの長さ範囲で自己相似となるアルミニウム及び/又は表面に酸化アルミニウム層を形成したアルミニウムからなる微粒子の凝集物が付着した電極箔を用いた電解コンデンサも知られている(特許文献2)。
【0012】
しかしながら、これらの文献で開示されているメッキ及び/又は蒸着によりアルミニウム粉末をアルミニウム箔に付着させる方法では、少なくとも、中高圧用のコンデンサ用途の太いエッチングピットの代用とするには十分なものとは言えない。
【0013】
また、エッチング処理が不要なアルミニウム電解コンデンサ用電極材として、アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の焼結体からなるアルミニウム電解コンデンサ用電極材が開示されている(例えば特許文献3)。この焼結体は、アルミニウム又はアルミニウム合金の粉末粒子が互いに空隙を維持しながら焼結してなる特異な構造を持つことから、従来のエッチド箔と同等又はそれ以上の静電容量を得ることができるとされている(引用文献3の[0012]段落)。
【0014】
しかしながら、特許文献3の電極材は、使用するアルミニウム及びアルミニウム合金の粉末の粒径が小さい場合(例えば平均粒径D50が1〜10μm)には、形成される空隙の制御が難しくなり、種々の電圧で陽極酸化皮膜を形成する際に、空隙が狭まったり埋まったりして所望の静電容量が得られ難くなる場合がある。そして、この問題は、高電圧で陽極酸化皮膜を形成する場合や焼結体の厚みを大きく設定する場合に生じ易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平2−267916号公報
【特許文献2】特開2006−108159号公報
【特許文献3】特開2008−98279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の焼結体からなるエッチング処理が不要なアルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法であって、アルミニウム及びアルミニウム合金の粉末の粒径が小さく、焼結体の厚みが大きい場合でも高い静電容量が確保されたアルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を進めた結果、アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の粉末の焼結体を、特定の2層以上の焼結層から形成する場合には上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明は、下記のアルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法に関する。
1.アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の粉末の焼結体からなるアルミニウム電解コンデンサ用電極材であって、
(1)前記粉末は、平均粒径D50が1〜10μmであり、
(2)前記焼結体は、2層以上の焼結層からなり、隣接する焼結層に含まれる前記粉末は、平均粒径D50が0.5μm以上異なる、
ことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
2.前記電極材を支持する基材を更に含む、上記項1に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
3.前記基材はアルミニウム箔である、上記項2に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
4.前記基材の両面に前記焼結体が形成されており、
(1)各面の前記焼結体の厚さは、それぞれ35〜500μmであり、
(2)各面の前記焼結体に含まれる各焼結層の厚さは、それぞれ15μm以上である、
上記項2又は3に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
5.アルミニウム電解コンデンサ用電極材を製造する方法であって、
(1)アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の粉末を含む組成物からなる2層以上の皮膜を基材に積層する第1工程であって、(i)各皮膜に含まれる前記粉末は、平均粒径D50が1〜10μmであり、(ii)隣接する皮膜に含まれる前記粉末は、平均粒径D50が0.5μm以上異なる、第1工程、
(2)前記2層以上の皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する第2工程、
を含み、且つ、エッチング工程を含まないことを特徴とする製造方法。
6.前記2層以上の皮膜を、基材の両面にそれぞれ形成する、上記項5に記載の製造方法。
7.前記焼結した2層以上の皮膜を陽極酸化処理する第3工程を更に含む、上記項5又は6に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電極材は、アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の粉末の焼結体からなり、焼結体を特定の2層以上の焼結層から形成することにより、アルミニウム及びアルミニウム合金の粉末の粒径が小さく、焼結体の厚みが大きい場合でも高い静電容量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】比較例1〜2及び実施例1〜3で作製した電極材の焼結層の種類を示す図である。図中、Alはアルミニウム箔(基材)を示す。3μm及び4μmは、各焼結層に含まれるアルミニウム粉末の平均粒径D50を示す。また、No.1(比較例1)、No.2(比較例2)、No.3(実施例1)、No.4(実施例2)及びNo.5(実施例3)を示す。
【図2】比較例1〜2及び実施例3で作製した電極材の断面(Al基材よりも上方)を、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示すイメージ画像である。左から、比較例1、比較例2及び実施例3の結果を示す。上下に3分割された画像は、上からそれぞれ電極材の表面付近、中央部、基材付近を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.アルミニウム電解コンデンサ用電極材
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電極材は、アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の粉末の焼結体からなり、
(1)前記粉末は、平均粒径D50(焼結前)が1〜10μmであり、
(2)前記焼結体は、2層以上の焼結層からなり、隣接する焼結層に含まれる前記粉末は、平均粒径D50(焼結前)が0.5μm以上異なる、ことを特徴とする。
【0022】
上記特徴を有する本発明の電極材は、焼結体を特定の2層以上の焼結層から形成することにより、アルミニウム及びアルミニウム合金の粉末の粒径が小さく、焼結体の厚みが大きい場合でも高い静電容量を確保することができる。
【0023】
原料のアルミニウム粉末としては、例えば、アルミニウム純度99.8重量%以上のアルミニウム粉末が好ましい。また、原料のアルミニウム合金粉末としては、例えば、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)及びジルコニウム(Zr)等の元素の1種又は2種以上を含む合金が好ましい。アルミニウム合金中のこれらの元素の含有量は、それぞれ100重量ppm以下、特に50重量ppm以下とすることが好ましい。
【0024】
前記粉末は、平均粒径D50が1〜10μmのものを用いる。この中でも、特に平均粒径D50が3〜6μmのものが好ましい。なお、本明細書の平均粒径D50は、レーザー回折法により粒径とその粒径に該当する粒子の数を求めて得られる粒度分布曲線において全粒子数の50%目に該当する粒子の粒子径である。
【0025】
前記粉末の形状は、特に限定されず、球状、不定形状、鱗片状、繊維状等のいずれも好適に使用できる。特に、球状粒子からなる粉末が好ましい。
【0026】
前記粉末は、公知の方法によって製造されるものを使用することができる。例えば、アトマイズ法、メルトスピニング法、回転円盤法、回転電極法、急冷凝固法等が挙げられるが、工業的生産にはアトマイズ法、特にガスアトマイズ法が好ましい。即ち、溶湯をアトマイズすることにより得られる粉末を用いることが望ましい。
【0027】
本発明では、前記粉末の焼結体は2層以上の焼結層からなり、隣接する焼結層に含まれる前記粉末は、平均粒径D50が0.5μm以上(好ましくは1〜6μm)異なる。かかる焼結体の構成としては、例えば、実施例1及び2に示されるように、平均粒径D50が3μmの粉末の焼結層及び平均粒径D50が4μmの粉末の焼結層との2層からなる構成が挙げられる。また、実施例3に示されるように、平均粒径D50が3μmの粉末の焼結層と平均粒径D50が4μmの粉末の焼結層とを交互に3層積層した構成が挙げられる。
【0028】
各焼結層は、前記粉末どうしが互いに空隙を維持しながら焼結したものであることが好ましい。具体的には、各粉末どうしが空隙を維持しながら繋がり、図2の各画像に示されるように、三次元網目構造を有していることが好ましい。かかる多孔質焼結体とすることにより、エッチング処理を施さなくても、所望の静電容量を得ることが可能となる。
【0029】
各焼結層の気孔率は、通常30%以上の範囲内で所望の静電容量等に応じて適宜設定することができる。また、気孔率は、例えば出発材料のアルミニウム又はアルミニウム合金の粉末の粒径、その粉末を含むペースト組成物の組成(樹脂バインダ)等により制御することもできる。
【0030】
本発明では、当該電極材を支持する基材をさらに含んでいても良い。
【0031】
基材の材質は特に限定されず、金属、樹脂等のいずれであっても良い。特に、基材を焼結時に揮発させて焼結体のみを残す場合は、樹脂(樹脂フィルム)を用いることができる。一方、基材を残す場合は、金属箔を好適に用いることができる。金属箔としては、特にアルミニウム箔が好適に使用される。この場合、前記焼結体と実質的に同じ組成のアルミニウム箔を用いても良いし、異なる組成の箔を使用しても良い。また、前記焼結体を形成するに先立って、予めアルミニウム箔の表面を粗面化しても良い。粗面化方法は、特に限定されず、洗浄、エッチング、ブラスト等の公知の技術を用いることができる。
【0032】
基材としてのアルミニウム箔は、特に限定されず、純アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることができる。本発明で用いられるアルミニウム箔は、その組成として、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)及びホウ素(B)の少なくとも1種の合金元素を必要範囲内において添加したアルミニウム合金あるいは上記の不可避的不純物元素の含有量を限定したアルミニウムも含む。
【0033】
アルミニウム箔の厚みは、特に限定されないが、5μm以上100μm以下、特に、10μm以上50μm以下の範囲内とするのが好ましい。
【0034】
上記のアルミニウム箔は、公知の方法によって製造されるものを使用することができる。例えば、上記の所定の組成を有するアルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯を調製し、これを鋳造して得られた鋳塊を適切に均質化処理する。その後、この鋳塊に熱間圧延と冷間圧延を施すことにより、アルミニウム箔を得ることができる。
【0035】
なお、上記の冷間圧延工程の途中で、50℃以上500℃以下、特に150℃以上400℃以下の範囲内で中間焼鈍処理を施しても良い。また、上記の冷間圧延工程の後に、150℃以上650℃以下、特に350℃以上550℃以下の範囲内で焼鈍処理を施して軟質箔としても良い。
【0036】
基材を残す場合には、焼結体は基材の片面又は両面に形成することができる。両面に形成する場合には、基材を挟んで焼結体(及びそれに含まれる焼結層)を、図1のNo.3〜No.5に示されるように対称に配置することが好ましい。
【0037】
焼結体の平均厚みは、35〜500μmが好ましく、焼結体に含まれる各焼結層の平均厚みは15μm以上が好ましい。これらの数値は、基材の片面又は両面に形成するどちらの場合にも当てはまるが、両面に形成する場合には、片面の焼結体の厚さは全体厚み(基材厚みも含む)の1/3以上であることが好ましい。なお、上記焼結体の平均厚みは、マイクロメーターで任意の7点の厚みを測定し、最大値と最小値を除いた5点の平均である。また、各焼結層の平均厚みは、焼結体の断面が全て撮影範囲に収まる200倍程度の走査型電子顕微鏡断面写真(任意に撮影した3枚)において、各焼結層の界面に目視判断により直線を引いて各焼結層の厚みの比率を求め、上記焼結体の平均厚みに各比率を乗じて各焼結層の厚みを算出し、3枚分の算出値を平均したものである。
【0038】
本発明電極材は、低圧用、中圧用又は高圧用のいずれのアルミニウム電解コンデンサにも使用することができる。特に中圧又は高圧用(中高圧用)アルミニウム電解コンデンサとして好適である。
【0039】
本発明電極材は、アルミニウム電解コンデンサ用電極として使用するに当たり、当該電極材をエッチング処理せずに使用することができる。即ち、本発明電極材は、エッチング処理することなく、そのまま又は陽極酸化処理することにより電極(電極箔)として使用することができる。
【0040】
本発明の電極材を用いた陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介在させて積層し、巻回してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子を電解液に含浸させ、電解液を含んだコンデンサ素子を外装ケースに収納し、封口体でケースを封口することによって電解コンデンサが得られる。
【0041】
2.アルミニウム電解コンデンサ用電極材の製造方法
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電極材を製造する方法は、
(1)アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の粉末を含む組成物からなる2層以上の皮膜を基材に積層する第1工程であって、(i)各皮膜に含まれる前記粉末は、平均粒径D50が1〜10μmであり、(ii)隣接する皮膜に含まれる前記粉末は、平均粒径D50が0.5μm以上異なる、第1工程、
(2)前記2層以上の皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する第2工程、
を含み、且つ、エッチング工程を含まないことを特徴とする。
(第1工程)
第1工程では、アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の粉末を含む組成物からなる2層以上の皮膜を基材に形成する。ここで、(i)各皮膜に含まれる前記粉末は、平均粒径D50が1〜10μmであり、(ii)隣接する皮膜に含まれる前記粉末は、平均粒径D50が0.5μm以上(好ましくは1〜6μm)異なるものとする。
【0042】
アルミニウム及びアルミニウム合金の組成(成分)としては、前記で掲げたものを用いることができる。前記粉末として、例えばアルミニウム純度99.8重量%以上の純アルミニウム粉末を用いることが好ましい。
【0043】
前記組成物は、必要に応じて樹脂バインダ、溶剤、焼結助剤、界面活性剤等が含まれていても良い。これらはいずれも公知又は市販のものを使用することができる。特に、本発明では、樹脂バインダ及び溶剤の少なくとも1種を含有させてペースト組成物として用いることが好ましい。これにより効率よく皮膜を形成することができる。
【0044】
樹脂バインダは限定的でなく、例えばカルボキシ変性ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩酢ビ共重合樹脂、ビニルアルコール樹脂、ブチラール樹脂、フッ化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の合成樹脂又はワックス、タール、にかわ、ウルシ、松脂、ミツロウ等の天然樹脂又はワックスが好適に使用できる。これらのバインダは、分子量、樹脂の種類等により、加熱時に揮発するものと、熱分解によりその残渣がアルミニウム粉末とともに残存するものとがあり、所望の静電特性等に応じて使い分けすることができる。
【0045】
また、溶媒も公知のものが使用できる。例えば、水のほか、エタノール、トルエン、ケトン類、エステル類等の有機溶剤を使用することができる。
【0046】
皮膜の形成は、ペースト組成物を、例えばローラー、刷毛、スプレー、ディッピング等の塗布方法を用いて皮膜形成できるほか、シルクスクリーン印刷等の公知の印刷方法により形成することもできる。
【0047】
基材を用いる場合には、2層以上の皮膜は基材の片面又は両面に形成することができる。両面に形成する場合には、基材を挟んで2層以上の皮膜を対称に配置することが好ましい。
【0048】
2層以上の皮膜の平均厚みは、35〜500μmが好ましく、2層以上の皮膜に含まれる各皮膜の平均厚みは15μm以上が好ましい。これらの数値は、基材の片面又は両面に形成するどちらの場合にも当てはまるが、両面に形成する場合には、片面の2層以上の皮膜の厚さは全体厚み(基材厚みも含む)の1/3以上であることが好ましい。
【0049】
皮膜は、必要に応じて、20℃以上300℃以下の範囲内の温度で乾燥させても良い。
(第2工程)
第2工程では、前記2層以上の皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する。
【0050】
焼結温度は、560℃以上660℃以下とし、好ましくは560℃以上660℃未満、より好ましくは570℃以上659℃以下とする。焼結時間は、焼結温度等により異なるが、通常は5〜24時間程度の範囲内で適宜決定することができる。
【0051】
焼結雰囲気は、特に制限されず、例えば真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、酸化性ガス雰囲気(大気)、還元性雰囲気等のいずれであっても良いが、特に真空雰囲気又は還元性雰囲気とすることが好ましい。また、圧力条件についても、常圧、減圧又は加圧のいずれでも良い。
【0052】
なお、第1工程後第2工程に先立って予め100℃以上から600℃以下の温度範囲で保持時間が5時間以上の加熱処理(脱脂処理)を行なうことが好ましい。加熱処理雰囲気は特に限定されず、例えば真空雰囲気、不活性ガス雰囲気又は酸化性ガス雰囲気中のいずれでも良い。また、圧力条件も、常圧、減圧又は加圧のいずれでも良い。
(第3工程)
前記の第2工程において、本発明電極材を得ることができる。これは、エッチング処理を施すことなく、そのままアルミニウム電解コンデンサ用電極(電極箔)として用いることが可能である。一方、前記電極材は、必要に応じて第3工程として陽極酸化処理を施すことにより誘電体を形成させることができ、これを電極とする。
【0053】
陽極酸化処理条件は特に限定されないが、通常は濃度0.01モル以上5モル以下、温度30℃以上100℃以下のホウ酸溶液中で、10mA/cm以上400mA/cm程度の電流を5分以上印加すれば良い。
【実施例】
【0054】
以下、比較例及び実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0055】
下記手順に従って比較例及び実施例の電極材を作製した。得られた電極材の静電容量をそれぞれ測定した。静電容量は、ホウ酸水溶液(50g/L)中で電極材に対し410Vの化成処理を施した後、ホウ酸アンモニウム水溶液(3g/L)にて測定した。測定投影面積は10cmとした。
【0056】
比較例1
平均粒径D50が3μmのアルミニウム粉末(JIS A1080、東洋アルミニウム(株)製、品番AHUZ58FN)60重量部をエチルセルロース系バインダ40重量部と混合し、溶剤(エチルセロソロブ)に分散させて固形分50重量%の塗工液Aを得た。
【0057】
塗工液Aを、図1のNo.1に示すように、厚みが30μmのアルミニウム箔(JIS 1N30−H18、500mm×500mm)の両面にシルクスクリーンにより塗工し、乾燥した。塗工方法は、片面に塗工液Aを60μm塗工した後、150℃の炉内で30分乾燥し、反対側の面に同様に塗工し乾燥する工程を、3回繰り返した。
【0058】
この試料をアルゴンガス雰囲気中にて温度650℃で7時間焼結することにより、電極材を作製した。
【0059】
焼結後の電極材の厚みは約390μmであった。
【0060】
得られた電極材の静電容量を表1に示す。
【0061】
比較例2
平均粒径D50が3μmのアルミニウム粉末を平均粒径D50が4μmのアルミニウム粉末(JIS A1080、東洋アルミニウム(株)製、品番AHUZ58CN)に変えた以外は比較例1と同様にして塗工液Bを得た。
【0062】
塗工液Bを使用した以外は比較例1と同様にして電極材を作製した。
【0063】
焼結後の電極材の厚みは約390μmであった。
【0064】
得られた電極材の静電容量を表1に示す。
【0065】
実施例1
図1のNo.3に示すように、アルミニウム箔の片面に塗工液Aを90μm塗工・乾燥し、更に塗工液Bを90μm塗工・乾燥し、反対側にも同様に塗工液Aを90μm塗工・乾燥し、更に塗工液Bを90μm塗工・乾燥した以外は比較例1と同様にして電極材を作製した。
【0066】
焼結後の電極材の厚みは約390μmであった。
【0067】
得られた電極材の静電容量を表1に示す。
【0068】
実施例2
図1のNo.4に示すように、アルミニウム箔の片面に塗工液Bを90μm塗工・乾燥し、更に塗工液Aを90μm塗工・乾燥し、反対側にも同様に塗工液Bを90μm塗工・乾燥し、更に塗工液Aを90μm塗工・乾燥した以外は比較例1と同様にして電極材を作製した。
【0069】
焼結後の電極材の厚みは約390μmであった。
【0070】
得られた電極材の静電容量を表1に示す。
【0071】
実施例3
図1のNo.5に示すように、アルミニウム箔の片面に塗工液Bを60μm塗工・乾燥し、更に塗工液Aを60μm塗工・乾燥し、更に塗工液Bを60μm塗工・乾燥し、反対側にも同様に塗工液Bを60μm塗工・乾燥し、更に塗工液Aを60μm塗工し、更に塗工液Bを60μm塗工・乾燥した以外は比較例1と同様にして電極材を作製した。
【0072】
焼結後の電極材の厚みは約390μmであった。
【0073】
得られた電極材の静電容量を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1の結果から明らかなように、平均粒径D50が3μm又は4μmであるアルミニウム粉末を用いて1層の焼結層からなる焼結体を形成した場合(比較例1、2)よりも、平均粒径D50が0.5μm以上異なる2層以上の焼結層からなる焼結体を形成した場合(実施例1〜3)の方が、高い静電容量を確保できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の粉末の焼結体からなるアルミニウム電解コンデンサ用電極材であって、
(1)前記粉末は、平均粒径D50が1〜10μmであり、
(2)前記焼結体は、2層以上の焼結層からなり、隣接する焼結層に含まれる前記粉末は、平均粒径D50が0.5μm以上異なる、
ことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
【請求項2】
前記電極材を支持する基材を更に含む、請求項1に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
【請求項3】
前記基材はアルミニウム箔である、請求項2に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
【請求項4】
前記基材の両面に前記焼結体が形成されており、
(1)各面の前記焼結体の厚さは、それぞれ35〜500μmであり、
(2)各面の前記焼結体に含まれる各焼結層の厚さは、それぞれ15μm以上である、
請求項2又は3に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
【請求項5】
アルミニウム電解コンデンサ用電極材を製造する方法であって、
(1)アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の粉末を含む組成物からなる2層以上の皮膜を基材に積層する第1工程であって、(i)各皮膜に含まれる前記粉末は、平均粒径D50が1〜10μmであり、(ii)隣接する皮膜に含まれる前記粉末は、平均粒径D50が0.5μm以上異なる、第1工程、
(2)前記2層以上の皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する第2工程、
を含み、且つ、エッチング工程を含まないことを特徴とする製造方法。
【請求項6】
前記2層以上の皮膜を、基材の両面にそれぞれ形成する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記焼結した2層以上の皮膜を陽極酸化処理する第3工程を更に含む、請求項5又は6に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−142305(P2011−142305A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249502(P2010−249502)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)