説明

アルミベース基板の回収方法

【課題】アルミベース基板を備えたプリント配線板からアルミベース基板部分を分別して回収する方法を提供する。
【解決手段】本発明のアルミベース基板の回収方法は、アルミベース基板2上に、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂などのいずれかからなる絶縁層3を介して電子回路4を形成したプリント配線板1を、絶縁層3の樹脂の熱分解開始温度以上アルミの溶融温度未満で加熱する、例えば、200℃以上660℃未満で1秒以上加熱することを特徴とする。
このようにプリント配線板1を加熱すると、アルミベース基板2が絶縁層3から容易に剥離し、効率的にアルミベース基板2を回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミベース基板を備えたプリント配線板からアルミベース基板部分を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミベース基板上に絶縁層を介して、銅箔回路などの電子回路を形成したプリント配線板が開発されている。これは、電気自動車等の電子制御用などに使用され、ベース基板にアルミを使用しているため放熱性・耐熱性に優れているものである。
このようなアルミベース基板を備えたプリント配線板としては、下記特許文献1〜3に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−77631号公報
【特許文献2】特開2000−340610号公報
【特許文献3】特開2007−27618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミベース基板上に設けた電子回路には、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)などが含まれる。アルミをリサイクルするためには、アルミ中にAu、Ag、Cuなどが含まれないのが好ましく、これらを分別して回収できることが望ましい。
しかし、これまでは通常、アルミに対して価値の高いAu、Ag、Cuなどの有価金属を回収することを目的に、プリント配線板を銅製錬内の炉で溶融してAu、Ag、Cuを回収していた。ここではアルミは製錬スラグへ混入するのみで、付加価値の高いメタルのアルミとしては回収されていなかった。
また、アルミ基板のみを溶融して回収しようとした場合には、Au、Ag、Cuなどによりリサイクルしたアルミの品質が劣ってしまい、さらに、高価なAu、Ag、Cuのロスが発生するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、アルミベース基板を備えたプリント配線板からアルミベース基板部分を分別して回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアルミベース基板の回収方法は、アルミベース基板上に樹脂からなる絶縁層を介して電子回路を形成したプリント配線板を、絶縁層の樹脂の熱分解開始温度以上アルミの溶融温度未満で加熱することを特徴とする。
【0007】
このようにプリント配線板を加熱することにより、配線板の樹脂部分が燃焼することなく加熱されて収縮した箔のような形状となり、容易にアルミベース基板と絶縁層とが剥離しやすくなり、アルミベース基板を分別して回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明で用いることができるプリント配線板の一例を模式的に示した概略断面図である。
【図2】絶縁層に用いる各種樹脂の熱分解挙動をTGで測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のアルミベース基板の回収方法の一実施形態を説明する。なお、本発明の範囲は、この実施形態に限定されるものではない。
【0010】
本発明の一実施形態のアルミベース基板の回収方法は、アルミベース基板上に樹脂からなる絶縁層を介して電子回路を形成したプリント配線板を、絶縁層の樹脂の熱分解開始温度以上アルミの溶融温度未満で加熱することを特徴とする。
【0011】
本発明で用いることができる一例のプリント配線板1は、図1に示すように、アルミベース基板2の上に絶縁層3を積層し、その上に電子回路4を形成してある。
【0012】
アルミベース基板2は、アルミ板からなり、厚さは好ましくは0.2mm以上、より好ましくは1.0mm〜10.0mmである。
【0013】
絶縁層3は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ガラスエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの樹脂板からなり、厚さは、好ましくは0.1mm〜2.0mm、特に好ましくは0.1mm〜1.0mmである。絶縁層3中には、放熱フィラーなどを含ませることもできる。
絶縁層3は、アルミベース基板2上に接着剤又は接着シートなどを塗布又は貼付などして固着されている。
【0014】
電子回路4は、銅箔、銅板などからなり、厚さは、好ましくは5μm〜1mm、特に好ましくは10μm〜100μmである。電子回路4には、コンデンサ、チップなどの電子部品が実装されていてもよく、ソルダーレジストを施していてもよい。また、銅箔や銅板の表面は腐食防止のためAuメッキが施されていてもよい。
【0015】
プリント配線板1を、炉などを用いて、絶縁層の樹脂の熱分解開始温度以上アルミの溶融温度未満で加熱、つまり、絶縁層3の樹脂が燃焼しない程度に加熱することにより、アルミベース基板2と絶縁層3との接着界面における接着強度を著しく減じ、基板と2と絶縁層3とが容易に剥離し、分別しやすくなる。この際の温度は、絶縁層の樹脂の熱分解開始温度と、アルミの融点との間であって、具体的には、200℃以上660℃未満、好ましくは320℃以上660℃未満、さらに好ましくは320℃以上550℃以下であり、加熱必要時間は、1秒以上、好ましくは1〜60分間、より好ましくは5〜15分間である。
【0016】
熱分解開始温度は、熱分解挙動をTGで測定して求めることができ、絶縁層を形成する樹脂の成分によって変動する。例えば、図2は各種樹脂ポリマーの窒素雰囲気中における熱分解挙動をTGで測定したデータ(http://www.siint.com/より引用)である。この図に示した樹脂ポリマーはそれぞれ分解挙動が異なるものの、いずれも200℃以上から分解反応が開始し620℃以下で分解反応が完了する。エポキシ樹脂は430℃で分解反応が完了し、フェノール樹脂は320℃で、ポリイミド樹脂は500℃でそれぞれ分解が完了する。絶縁層3に用いる多くの樹脂の熱分解反応は、常温からAlの融点である660℃までの加熱で完了する。
よって、加熱温度については、絶縁層3の樹脂の種類に応じて変動させることができる。
なお、絶縁層3とアルミベース基板2とを接着剤で接着する場合もあるが、接着剤にはエポキシ樹脂等の樹脂を用いることが多いので、接着剤を用いない場合と同様に絶縁層3を剥離させることができる。
【0017】
加熱手段として炉を用いる場合は、電気ルツボ炉を用いることが好ましい。また、加熱手段としてバーナーや過熱蒸気、高周波加熱、レーザーや誘導加熱炉等で加熱することもできる。酸化雰囲気下であれば、分解反応がより低温から進行させることができるため、大気雰囲気下などで加熱するのが好ましい。
【0018】
加熱したプリント配線板1は、アルミベース基板2と絶縁層3とが剥がれやすくなる。この絶縁層3は、完全には焼却されず、樹脂部分が炭化や灰化して収縮した箔のような形状となり、手作業や比重選別などでアルミベース基板2と絶縁層3とを剥がして効率良く分別することができる。
【0019】
剥離および分別の効率を高めるためには、ボールミル及び渦電流選別機を用いるのが好ましい。
加熱したプリント配線板1を、ボールミルに投入し、作動させることにより、アルミベース基板2と絶縁層3とが剥離する。剥離したアルミベース基2と絶縁層3とをボールミルから取り出し、渦電流選別機にて処理すると、アルミベース基板2は遠くに飛び、絶縁層3はあまり飛ばないので、これにより、簡便に効率良く分別することができる。
【0020】
このようにして回収したアルミベース基板2は、絶縁層3がきれいに剥離し、不純物を含まないアルミ原料としてリサイクルすることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明のアルミベース基板の回収方法の実施例を説明する。ただし、本発明の範囲はこの実施例に限定されるものではない。
【0022】
(試験例1)
サイズL120mm×W70mm×T5mmのプリント配線板10枚を用いて試験を行った。この配線板のアルミベース基板の厚みは4mm、絶縁層の厚みは1mmであり、絶縁層は、ガラスエポキシ樹脂からなり、エポキシ系の接着剤でアルミベース基板上に貼付してある。また、平均重量は76.8gであった。
この配線板10枚を、電気ルツボ炉(仕様MAX1200℃、200V、4.2kW、内径200mmφ×H250mm)に入れ、400℃で15分間加熱処理を実施した。
その後、この炉から加熱したプリント配線板を取り出し、小型ボールミル(150mmφ×170mmH 3000ml、ステンレスボール30mmφ2.5kg装填)に入れ10分間処理した。ボールミル内でアルミベース基板と絶縁層とが剥離しており、これらを取り出して分別することができた。
【0023】
(試験例2)
サイズL140mm×W100mm×T2.5mmのプリント配線板10枚を用いて試験を行った。この配線板のアルミベース基板の厚みは2mm、絶縁層の厚みは0.5mmであり、配線パターンで裁断した銅薄板をシート糊で接着後、その上からソルダーレジスト樹脂をコーティングしてある。また、平均重量は119.0gであった。
この配線板10枚を、上記試験例1と同様に電気ルツボ炉に入れ、400℃で15分間加熱処理を実施した。
その後、この炉から加熱したプリント配線板を取り出し、試験例1と同様に小型ボールミルに入れ10分間処理した。ボールミル内でアルミベース基板と絶縁層とが剥離しており、これらを取り出して分別することができた。
【0024】
(試験例3)
サイズL110mm×W100mm×T2mmのプリント配線板10枚を用いて試験を行った。この配線板のアルミベース基板の厚みは2mm、絶縁層の厚みは0.1mmであり、配線パターンで裁断した銅箔をシート糊で接着しその上からソルダーレジストをコーティングしてある。また、平均重量は65.1gであった。
この配線板10枚を、上記試験例1と同様に電気ルツボ炉に入れ、400℃で15分間加熱処理を実施した。
その後、この炉から加熱したプリント配線板を取り出し、試験例1と同様に小型ボールミルに入れ10分間処理した。ボールミル内でアルミベース基板と絶縁層とが剥離しており、これらを取り出して分別することができた。
【0025】
(試験例4)
サイズL120mm×W66mm×T1mmのプリント配線板10枚を用いて試験を行った。この配線板のアルミベース基板の厚みは1mm、絶縁層の厚みは0.1mmであり、絶縁層は、ガラスエポキシ樹脂からなり、エポキシの接着剤でアルミベース基板上に貼付した。また、平均重量は15gであった。
この配線板10枚を、上記試験例1と同様に電気ルツボ炉に入れ、400℃で15分間加熱処理を実施した。
その後、この炉から加熱したプリント配線板を取り出し、試験例1と同様に小型ボールミルに入れ10分間処理した。ボールミル内でアルミベース基板と絶縁層とが剥離しており、これらを取り出して分別することができた。
【0026】
(試験例5)
試験例1と同様のプリント配線板10枚を用いて試験を行った。
この配線板10枚を、試験例1と同様に電気ルツボ炉に入れ、700℃になるまで加熱処理を実施した。ルツボ内ではアルミが溶湯になっており、これを篩(0.5mm)にて濾し、網上と網下とに分離した。
これらを冷まして確認したところ、網下にアルミ、網上に絶縁層が分別できることが確認された。
しかし、このアルミを分析したところ、Auが300ppm、Cuを0.1wt%含むものであり、品質が低下すると同時に有価物のロスとなる。
【0027】
(結果)
アルミの溶融温度未満で加熱することにより、アルミベース基板と絶縁層とが容易に剥離することが確認された。
アルミの溶融温度以上で加熱すると、分別することはできるが、不純物が入り込んでしまいアルミの品位が低下することが確認された。
【符号の説明】
【0028】
1プリント配線板 2アルミベース基板 3絶縁層 4電子回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミベース基板上に樹脂からなる絶縁層を介して電子回路を形成したプリント配線板を、絶縁層の樹脂の熱分解開始温度以上アルミの溶融温度未満で加熱するアルミベース基板の回収方法。
【請求項2】
プリント配線板を、200℃以上660℃未満で1秒以上加熱する請求項1に記載のアルミベース基板の回収方法。
【請求項3】
絶縁層は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂のいずれかからなる請求項1又は2に記載のアルミベース基板の回収方法。
【請求項4】
プリント配線板を加熱した後、ボールミルに投入してアルミベース基板を剥離する請求項1〜3のいずれかに記載のアルミベース基板の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−102383(P2012−102383A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253614(P2010−253614)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】