説明

アレイアンテナの軸調整方法及び軸調整システム

【課題】FMCWレーダ用のアレイアンテナの取付軸の調整を容易かつ安価に行うことができる軸調整方法及び装置を提供する。
【解決手段】少なくとも1個の送信アンテナ12及び複数の受信アンテナ14を備えたアレイアンテナ10を鉛直方向に複数は位置したFMCWレーダ用の車載アレイアンテナ7の軸調整システム1であって、発振装置20から2以上の変調周波数の電波を送信アンテナ12に順次供給し、電波強度測定装置30で、その電波の電波強度を測定する。測定した2以上の変調周波数の電波の電波強度の差分に基づいて、制御処理部50において、電波強度測定装置30の中心軸に対するアレイアンテナ10の中心軸の仰角を算出し、算出した仰角を0にするように電動工具44のモータ46を作動させ、モータ46の回転軸に連結されたボルト48を軸方向に動かすことによりアレイアンテナ10の仰角を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信アンテナと複数の受信アンテナを直線上に配列したFMCWレーダ用のアレイアンテナの軸調整方法及び軸調整システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送信アンテナと複数の受信アンテナを水平方向の直線上に配置したアレイアンテナを有するレーダを車両などに取り付ける場合に、レーダの送受信方向の調整を行うためのレーダ取付方向調整装置を用いてレーダの送受信方向を正確に調整していた。
【0003】
このレーダ取付方向調整装置によるレーダの送受信方向の調整では、レーダの送受信方向の基準となる基準位置にレーダからの送信電波を反射する電波反射物標を設置し、レーダが有する電波反射物標との相対角度を検出する相対角度検出手段、つまり、レーダからの送信電波と、電波反射物標から反射されて、レーダで受信される受信電波の相対角度を検出する手段で相対角度を検出し、検出した相対角度を利用して、レーダの送受信方向を調整する必要があった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−243837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、送信アンテナと複数の受信アンテナが水平方向の直線上に配置されているアレイアンテナでは、各受信アンテナの間隔と受信電波の位相角に基づいて水平方向の方位(相対角度)を検出することはできるが、垂直方向の受信電波の位相角が検出できない。したがって、仰角方向の相対角度は検出できない。
【0006】
よって、仰角方向の軸調整を行うためには、送信アンテナから電波を放射させた状態で、アレイアンテナ全体を仰角方向に回転させ、アレイアンテナの電波中心軸である受信電力のピーク値を検出し、ピーク値が仰角の0°となるようにレーダの仰角を調整する必要があるため、レーダの取付方向の調整に時間が掛かるという問題があった。
【0007】
また、受信電力のピーク値を検出するには、複数の電波反射物標を垂直方向に並べたり、1つの反射物標を垂直方向に自動的に移動させたりして、受信電力のピーク値を検出することも考えられるが、その場合には、レーダ取付方向調整装置が大掛かりで、高価になるという問題もあった。
【0008】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、FMCWレーダ用のアレイアンテナの取付軸の調整を短時間で容易かつ安価に行うことができる軸調整方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための形態」欄において用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。
【0010】
上記「発明が解決しようとする課題」において述べた問題を解決するためになされた発明は、取付部材(15)に、変調周波数の違いによって出力電波の放射方向の中心軸に対する放射方向が変化する送信アンテナ(12)又は変調周波数の違いによって出力電波の放射方向の中心軸上の出力値が変化する送信アンテナ(12)と、複数の受信アンテナ(14)と、を水平方向の直線上に配置したFMCWレーダ用のアレイアンテナ(10)において、取付部材(15)の仰角方向の角度を変化させることにより、アレイアンテナ(10)の中心軸の仰角方向のずれを調整するためのアレイアンテナ(10)の軸調整方法であって、以下の工程によりアレイアンテナ(10)の軸調整を行うことを特徴としている。
【0011】
発振手段(20)から2以上の変調周波数のFMCW送信信号を送信アンテナ(12)に順次供給する電波供給工程。
電波供給工程において、送信アンテナ(12)から出力される、2以上の変調周波数の電波の電波強度を、中心軸が水平方向となるように設置された電波強度測定手段(30)で測定する測定工程。
【0012】
測定工程において測定した、2以上の変調周波数の電波の電波強度の差分に基づいて、電波強度測定手段(30)の中心軸に対するアレイアンテナ(10)の中心軸の仰角を算出する仰角算出工程。
【0013】
取付部材(15)の仰角方向の角度を変化させることによって、仰角算出手段において算出した電波強度測定手段(30)の中心軸に対するアレイアンテナ(10)の中心軸の仰角を0にするように、アレイアンテナ(10)の仰角方向の軸調整を行う軸調整工程。
【0014】
このような、アレイアンテナ(10)の軸調整方法によれば、FMCWレーダ用のアレイアンテナ(10)の取付軸の調整を短時間で容易かつ安価に行うことができる。以下説明する。
【0015】
請求項1に記載の軸調整方法におけるFMCWレーダ用アレイアンテナ(10)を構成する送信アンテナ(12)は、変調周波数の違いによって出力電波の放射方向の中心軸に対する放射方向が変化したり、変調周波数の違いによって出力電波の放射方向の中心軸上の出力値が変化したりする。
【0016】
そこで、2以上の変調周波数のFMCW送信信号を送信アンテナ(12)に順次供給し、送信アンテナ(12)から出力される電波の電波強度を電波強度測定手段(30)で測定する。すると、電波強度測定手段(30)で測定した電波強度に差が生じる(図6及び図7参照)。
【0017】
このとき、FMCW送信信号の変調周波数が変化すると、送信アンテナ(12)から出力される電波のビーム方向が、送信アンテナ(12)の中心軸に対して仰角方向のプラス方向又はマイナス方向にいずれに変化するかは、送信アンテナ(12)の特性として予め分かっている。
【0018】
ここで「送信アンテナ(12)の中心軸」とは、送信アンテナ(12)の機械的中心位置から電波放射方向への軸を意味している。
また、FMCW送信信号の変調周波数が変化すると、送信アンテナ(12)の中心軸上の電波強度のピークが増加するのか減少するのかは、送信アンテナ(12)の特性として予め分かっている。
【0019】
したがって、電波強度測定手段(30)で測定した差とその符号(プラスかマイナスか)によって、送信アンテナ(12)の中心軸の仰角が電波強度測定手段(30)の中心軸に対してどちらにずれているかが分かる。
【0020】
よって、送信アンテナ(12)の仰角、つまり、アレイアンテナ(10)の仰角を、電波強度測定手段(30)で測定した差が最小となるように調整すれば、アレイアンテナ(10)の仰角方向の軸調整ができる。
【0021】
なお、「アレイアンテナ(10)の中心軸」とは、送信アンテナ(12)及び複数の受信アンテナ(14)の配置の機械的な中心位置における電波送受信方向の軸を意味している。
【0022】
なお、アレイアンテナ(10)は、少なくとも1個の送信アンテナ(12)及び複数の受信アンテナ(14)を水平方向の直線上に配置しているので、送信アンテナ(12)とアレイアンテナ(10)の仰角方向の中心軸は一致する。
【0023】
また、「送信アンテナ(12)の仰角」とは、水平方向と送信アンテナ(12)の中心軸とがなす角を意味しており、アレイアンテナ(10)の仰角と一致している。
このように、請求項1に記載のアレイアンテナ(10)の軸調整方法によれば、アレイアンテナ(10)から出力する電波の変調周波数を変化させるだけで、その仰角を検出できるので、レーダの仰角方向の取付方向の調整を容易に行うことができる。
【0024】
つまり、従来のように、仰角方向の軸調整のためにアレイアンテナ(10)全体を仰角方向に回転させる必要がないため、レーダの取付方向の調整の時間を短縮することができる。
【0025】
また、仰角を検出するために、複数の電波反射物標を並べたり、1つの反射物標を仰角方向に移動させたりして受信電力のピーク値を検出したりする必要がなくなるため、レーダ取付方向調整装置が大掛かりで、高価になるということもなくなる。
【0026】
つまり、FMCWレーダ用のアレイアンテナ(10)の取付軸の調整を短時間で容易かつ安価に行うことができるようになる。
特に、請求項2に記載のように、送信アンテナ(12)が、複数のアンテナ素子(13)を直線上に配列し、直線上に配列したアンテナ素子(13)の配列端からFMCW送信信号を供給することにより、複数のアンテナ素子(13)の配列方向と垂直方向に電波を放射するアンテナの場合、送信アンテナ(12)に供給するFMCW送信信号の変調周波数を変化させると、送信アンテナ(12)から出力される電波の仰角方向のビーム角の変化が比較的大きくなる。
【0027】
したがって、送信アンテナ(10)の中心軸が電波強度測定手段(30)の中心軸、つまり、水平方向からずれていると、電波強度測定手段(30)により測定される電波強度の差が大きくなるので、より正確な軸調整が可能となる。
【0028】
また、請求項3に記載のように、送信アンテナ(12)が、複数のアンテナ素子(13)を直線上に配列し、直線上に配列したアンテナ素子(13)の配列中央部分からFMCW送信信号を供給することにより、配列方向と垂直方向に電波を放射するアンテナの場合、送信アンテナ(12)に供給するFMCW送信信号の変調周波数を変化させると、送信アンテナ(12)から出力される電波の中心軸上の電波強度のピーク値の変化が比較的大きくなる。
【0029】
したがって、送信アンテナ(10)の中心軸が電波強度測定手段(30)の中心軸、つまり、水平方向からずれていると、電波強度測定手段(30)により測定される電波強度の差が大きくなるので、より正確な軸調整が可能となる。
【0030】
また、発振手段(20)から送信アンテナ(12)に供給されるFMCW送信信号の変調周波数は、任意の値でよいが、請求項4に記載のように、2以上の変調周波数のうち1つの周波数は、FMCWレーダ用のアレイアンテナ(10)の作動時に使用される変調周波数であるようにするとよい。
【0031】
このようにすると、発振手段(20)として、レーダに装備されている発振器を使用して、2以上の変調周波数の少なくとも1つの変調周波数の電波を発生させることができるので、発振手段(20)を簡易なものとすることができる。
【0032】
また、請求項5に記載のように、電波強度測定手段(30)で測定したアレイアンテナ(10)の仰角に対するビームパターンを記憶するための記憶手段(60)を備え、アレイアンテナ(10)の中心軸と電波強度測定手段(30)の中心軸とを一致させた場合の、2つ以上の変調周波数ごとのビームパターンを予め記憶手段(60)に記憶させておく。
【0033】
そして、仰角算出工程において、記憶手段(60)に記憶させたビームパターンとの差分に基づいて、電波強度測定手段(30)の中心軸に対するアレイアンテナ(10)の中心軸の仰角を算出するようにするとよい。
【0034】
このようにすると、送信アンテナ(12)から出力される電波の電波強度は、2つ以上の変調周波数の電波に対して測定される。
したがって、例えば、送信アンテナ(12)の中心軸(つまり、アレイアンテナ(10)の中心軸)の仰角方向が電波強度測定手段(30)の中心軸に一致している場合(換言すれば、送信アンテナ(12)の仰角が水平方向である場合)には、すべての変調周波数の電波において測定された電波強度が記憶手段(60)に記憶されたビームパターンの値と一致する。
【0035】
逆に、軸がずれていれば、電波強度がビームパターンからずれることになる。つまり、仰角が水平方向からずれていると、測定された電波強度と記憶手段(60)に記憶されたビームパターンとの間に差ができる。この差が仰角の水平方向とのずれになるとともに、どの方向(差分がプラス側かマイナス側か)にずれているかも分かる。
【0036】
よって、各変調周波数の電波の電波強度を測定するたびに仰角のずれを計算する必要がなくなるので、容易に軸調整ができる。
請求項6に記載の発明は、取付部材(15)に、変調周波数の違いによって出力電波の放射方向の中心軸に対する放射方向が変化する送信アンテナ(12)又は変調周波数の違いによって出力電波の放射方向の中心軸上の出力値が変化する送信アンテナ(12)と、複数の受信アンテナ(14)と、を水平方向の直線上に配置したFMCWレーダ用のアレイアンテナ(10)において、取付部材(15)の仰角方向の角度を変化させることにより、アレイアンテナ(10)の中心軸の仰角方向のずれを調整するためのアレイアンテナ(10)の軸調整システムであって、発振手段(20)、電波強度測定手段(30)、仰角変更手段(40)、仰角算出手段(50)及び制御手段(50)を備えたことを特徴とする。
【0037】
発振手段(20)は、2以上の変調周波数のFMCW送信信号を送信アンテナ(12)に順次供給するためのものであり、電波強度測定手段(30)は、中心軸が水平方向になるように設置され、送信アンテナ(12)から出力される、2以上の変調周波数の電波の電波強度を測定するためのものである。
【0038】
仰角変更手段(40)は、取付部材(15)の仰角方向の角度を変化させることによって、アレイアンテナ(10)の仰角を変更するためのものである。
仰角算出手段(50)は、発振手段(20)で、2以上の変調周波数のFMCW送信信号を送信アンテナ(12)に順次供給させたときに、電波強度測定手段(30)で測定された、2以上の変調周波数の電波の電波強度の差分に基づいて、電波強度測定手段(30)の中心軸に対するアレイアンテナ(10)の中心軸の仰角を算出する。
【0039】
制御手段(50)は、仰角算出手段(50)で算出した、電波強度測定手段(30)の中心軸に対するアレイアンテナ(10)の中心軸の仰角を0にするように仰角変更手段(40)を制御する。
【0040】
このような、アレイアンテナ(10)の軸調整システム(1)では、仰角算出手段(50)において、請求項1に記載の仰角算出方法で電波強度測定手段(30)の中心軸に対するアレイアンテナ(10)の中心軸の仰角が算出される。
【0041】
したがって、算出された仰角が0になるように、制御手段(50)によって仰角変更手段(40)を制御すれば、容易にアレイアンテナ(10)の中心軸の軸調整、つまりアレイアンテナ(10)の仰角を水平にすることができる。
【0042】
また、請求項7に記載のように、送信アンテナ(12)を、複数のアンテナ素子(13)を直線上に配列し、直線上に配列したアンテナ素子(13)の配列端からFMCW送信信号を供給することにより、複数のアンテナ素子(13)の配列方向と垂直方向に電波を放射するアンテナとすると、請求項2と同様に、送信アンテナ(12)に供給するFMCW送信信号の変調周波数の変化に伴って、送信アンテナ(12)から出力される電波の仰角方向のビーム角の変化が比較的大きくなる。
【0043】
したがって、電波強度測定手段(30)により測定される電波強度の差が大きくなるので、より正確な軸調整が可能となる。
また、請求項8に記載のように、送信アンテナ(12)を、複数のアンテナ素子(13)を直線上に配列し、直線上に配列したアンテナ素子(13)の配列中央部分からFMCW送信信号を供給することにより、配列方向と垂直方向に電波を放射するアンテナとすると、請求項3と同様に、送信アンテナ(12)に供給するFMCW送信信号の変調周波数の変化に伴って、送信アンテナ(12)から出力される電波の中心軸上の電波強度のピーク値の変化が大きくなる。
【0044】
したがって、電波強度測定手段(30)により測定される電波強度の差が大きくなるので、より正確な軸調整が可能となる。
また、請求項9に記載のように、発振手段(20)は、送信アンテナ(12)に供給されるFMCW送信信号の2以上の変調周波数のうち1つの変調周波数は、FMCWレーダ用のアレイアンテナ(10)の作動時に使用される変調周波数を用いるようにすると、請求項4に記載のように、発振手段(20)として、レーダに装備されている発振器を使用して、2つの変調周波数のうち少なくとも1つの変調周波数の電波を発生させることができるので、発振手段(20)を簡易なものとすることができる。
【0045】
また、請求項10に記載のように、アレイアンテナ(10)の中心軸と電波強度測定手段(30)の中心軸とを一致させた場合の、アレイアンテナ(10)の仰角に対する、2つ以上の変調周波数ごとのビームパターンを予め記憶させた記憶手段(60)を備え、仰角算出手段(50)は、発振手段(20)で、2以上の変調周波数のFMCW送信信号を送信アンテナ(12)に供給させたときに、電波強度測定手段(30)で測定した電波強度と記憶手段(60)に記憶させたビームパターンとの差分に基づいて、電波強度測定手段(30)の中心軸に対するアレイアンテナ(10)の中心軸の仰角を算出するようにするとよい。
【0046】
このようにすると、請求項5に記載の軸調整方法と同様に、仰角算出手段(50)において、各変調周波数の電波の電波強度を測定するたびに仰角のずれを計算する必要がなくなるので、仰角算出手段(50)における処理が容易となる。
【0047】
さらに、請求項11に記載のように、仰角変更手段(40)は、アレイアンテナ(10)を車体に装着するとともに、ボルト(48)の軸方向の移動によりアレイアンテナ(10)の仰角を変更可能に構成されたブラケット(42)と、ブラケット(42)に取り付けられ、制御手段(50)からの信号によりモータ(46)を作動させ、モータ(46)の回転軸に連結されているボルト(48)を回転させて軸方向に移動させることにより、アレイアンテナ(10)の仰角を変更する電動工具(44)と、を設ける。
【0048】
また、制御手段(50)は、仰角算出手段(50)で算出した、電波強度測定手段(30)の中心軸に対するアレイアンテナ(10)の中心軸の仰角を0にするための信号を電動工具(44)に出力することによりアレイアンテナ(10)の中心軸を電波強度測定手段(30)の中心軸に一致させるようにするとよい。
【0049】
このようにすると、ブラケット(42)によって車体にアレイアンテナ(10)を装着できるとともに、装着したときの、電波強度測定手段(30)の中心軸に対するアレイアンテナ(10)の中心軸の仰角のずれを0にするための信号が制御手段(50)からブラケット(42)に取り付けられたモータ(46)に入力される。
【0050】
すると、モータ(46)によりボルト(48)が回転して軸方向に移動し、アレイアンテナ(10)の仰角が変更され、アレイアンテナ(10)の中心軸を電波強度測定手段(30)の中心軸に一致させることができる。つまり、アレイアンテナ(10)の仰角方向の軸調整を自動的に行うことができる。
【0051】
さらに、請求項12に記載のように、ブラケット(42)は、電動工具(44)を装着したことを検出する工具検出手段(70)を備え、制御手段(50)は、工具検出手段(70)により電動工具(44)がブラケット(42)に装着されたことを検出したときに、アレイアンテナ(10)の仰角方向の軸調整を行うようにするとよい。
【0052】
このようにすると、電動工具(44)がブラケット(42)に装着されてからしかアレイアンテナ(10)の軸調整が行われないので、軸調整時の作業の安全性を高めることができる。
【0053】
さらに、請求項13に記載のように、電動工具(44)は、使用者が作動を開始させるための操作をしたことを検出する作動開始検出手段(80)を備え、制御手段(50)は、工具検出手段(70)により電動工具(44)がブラケット(42)に装着されたことを検出し、かつ、作動開始検出手段(80)により使用者が電動工具(44)の作動開始の操作を検出したときに、アレイアンテナ(10)の仰角方向の軸調整を行うようにするとよい。
【0054】
このようにすると、電動工具(44)をブラケット(42)に装着した後、さらに、使用者の作動開始操作があった場合にのみ、アレイアンテナ(10)の軸調整が行われるため、軸調整時の作業の安全性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】FMCWレーダ用のアレイアンテナの軸調整システムの概略の構成を示すブロック図である。
【図2】送信アンテナの概略の構造を示す図である。
【図3】車載アレイアンテナ及び仰角変更部の概略の構成を示す外観図である。
【図4】軸調整システムの使用時の各構成品の配置を示す図である。
【図5】制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】送信アンテナがシリーズ給電型のアンテナの場合の仰角の算出方法を説明するための説明図である。
【図7】送信アンテナが中央給電型のアンテナの場合の仰角の算出方法を説明するための説明図である。
【図8】第2実施形態の制御処理部で実行される制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】第4実施形態におけるFMCWレーダ用のアレイアンテナの軸調整システムの概略の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
[第1実施形態]
図1は、本発明が適用されたFMCWレーダ用の車載アレイアンテナ7の軸調整システム1(以下、単に軸調整システム1と呼ぶ)の概略の構成を示すブロック図であり、図2は、送信アンテナ12の概略の構造を示す図であり、図3は、車載アレイアンテナ7及び仰角変更部40の概略の構成を示す外観図である。
【0057】
軸調整システム1は、図1に示すように、車載アレイアンテナ7、発振装置20、電波強度測定装置30、仰角変更部40及び制御処理部50を備えている。なお、後述のように、車載アレイアンテナ7は、複数のアレイアンテナ10が配置されて構成されているので、図1においては、複数のアレイアンテナ10のうち1個のみを示している。
【0058】
車載アレイアンテナ7は、図3に示すように、複数のアレイアンテナ10をケース15内に、鉛直方向に複数配列したアンテナである。また、車載アレイアンテナ7の前面には、車載アレイアンテナ7を保護するためのカバーとして、電波透過材で形成されたレドーム18が取り付けられている。
【0059】
アレイアンテナ10は、図1及び図3に示すように、送信アンテナ12と複数の受信アンテナ14を、ケース15内に水平方向に直線上に配置したものである。
送信アンテナ12は、図2(a)に示すように、複数のアンテナエレメント13を直線上に配列し、直線上に配列したアンテナエレメント13の配列端の給電点からFMCW送信信号を供給することにより、配列方向と垂直方向に電波を放射する、いわゆるシリーズ給電型のアンテナである。また、複数の受信アンテナ14の各アンテナも送信アンテナ12と同じシリーズ給電型のアンテナである。
【0060】
増幅器16は、いわゆる高周波増幅器であり、発振装置20から出力され、送信アンテナ12に供給されるFMCW送信信号を増幅し、必要な電力を確保するための装置であり、図1に示すように、発振装置20と送信アンテナ12の間に配置されている。
【0061】
発振装置20は、2以上の変調周波数のFMCW送信信号を送信アンテナ12に順次供給するための装置であり、クライストロン、進行波管、マグネトロン、ガンダイオードなどで発振した高周波信号を、自動周波数制御回路を用いて、レーダに適した数GHz〜数10GHzの安定した周波数を有するFMCW送信信号として出力する。
【0062】
なお、発振装置20から送信アンテナ12に供給するFMCW送信信号の2以上の変調周波数のうち1つの変調周波数は、FMCWレーダ用の車載アレイアンテナ7の作動時に使用される変調周波数である。
【0063】
電波強度測定装置30は、送信アンテナ12から出力される、2以上の変調周波数の電波の電波強度を測定するための装置であり、測定用受信アンテナ32、受信機34から構成されている。
【0064】
また、電波強度測定装置30は、測定した電波強度をCAN(Controller Area Networkの略)ケーブルなどのデータ伝送ラインを介して制御処理部50に出力する。
【0065】
測定用受信アンテナ32は、送信アンテナ12から出力された電波を受信するアンテナであり、受信機34は、測定用受信アンテナ32で受信した電波の電波強度を検出してデータとして制御処理部50に出力する装置である。
【0066】
仰角変更部40は、車載アレイアンテナ7の仰角を変更するための装置であり、ブラケット42と電動工具44を備えている。
ブラケット42は、図3に示すように、車載アレイアンテナ7のケース15を正面から見て、右上と対角の左下部分を固定して取り付けるとともに、車載アレイアンテナ7を取り付けたブラケット42を車体に固定することによって、車載アレイアンテナ7を車体に取り付けるものである。
【0067】
なお、「車載アレイアンテナ7」の仰角とは、水平方向と車載アレイアンテナ7の中心軸とがなす角を意味しており、仰角が0の場合、車載アレイアンテナ7の中心軸が水平方向であることを意味している。
【0068】
また、車載アレイアンテナ7は、前述のように、複数のアレイアンテナ10をケース15内に、鉛直方向に複数配列したアンテナであるため、車載アレイアンテナ7とアレイアンテナ10の仰角方向の中心軸は一致している。
【0069】
したがって、アレイアンテナ10の仰角の調整を行えば、車載アレイアンテナ7の仰角の調整を行うことができる。
また、ブラケット42は、ボルト48が回転して軸方向に移動することにより、ケース15の仰角方向の角度を変化させて、車載アレイアンテナ7の仰角を変更可能に構成されており、モータ軸の先端に図示しないギアが装着された電動工具44のモータ軸が、図3に示すように、車載アレイアンテナ7の中心軸と略直角方向となるように、ブラケット42の電動工具装着部49に装着される。
【0070】
なお、「アレイアンテナ10の中心軸」とは、送信アンテナ12及び複数の受信アンテナ14の配置の機械的な中心位置における電波送受信方向の軸を意味しており、アレイアンテナ10では、1個の送信アンテナ12及び複数の受信アンテナ14を水平方向の直線上に配置されている。よって、送信アンテナ12とアレイアンテナ10の仰角方向の中心軸は一致する。
【0071】
したがって、送信アンテナ12の仰角の調整を行えば、アレイアンテナ10の中心軸の仰角の調整を行うことができる。
また、ボルト48後端にはボルト48の軸中心と同心のギア43が取り付けられ、そのギア43と電動工具44のモータ軸先端のギアとが勘合することにより、電動工具44のモータ軸が回転するとボルト48が回転する。したがって、ボルト48が軸方向に移動するようになっている。
【0072】
また、ブラケット42の電動工具装着部49には、電動工具44を装着したことを検出する図示しない工具検出スイッチ70が設けられている。この工具検出スイッチ70は、押ボタン型のモーメンタリスイッチ型スイッチであり、電動工具44が電動工具装着部49に挿入されると、電動工具44のボディ先端でボタン部分が押下され、オンとなる。逆に、電動工具44が取り外された状態では、オフとなる。
【0073】
このようにして、ブラケット42に装着された電動工具44は、制御処理部50からの信号によりモータ46を作動させ、ボルト48を回転させることにより、ケース15の仰角方向の角度を変化させて、車載アレイアンテナ7の仰角、すなわち、アレイアンテナ10の仰角を変更する。
【0074】
また、電動工具44には、使用者が作動を開始させるための操作をしたことを検出する作動開始スイッチ80が設けられている。この作動開始スイッチ80は、押ボタン式のモーメンタリ型のスイッチであり、使用者がボタンを押下したときにだけオンとなり、押下されないときはオフとなっている。
【0075】
制御処理部50は、図示しないCPU、ROM、RAM及びI/Oを備えており、ROMに格納された制御処理プログラムにより後述する制御処理を実行する。
また、FMCWレーダ用の車載アレイアンテナ7の軸調整時には、軸調整システム1の各構成品を図4に示すように配置する。つまり、車載アレイアンテナ7を、仰角変更部40に取り付け、仰角変更部40を、車両5の車体前面下部に取り付ける。また、仰角変更部40と制御処理部50とを、CANケーブルによって接続する。
【0076】
さらに、電波強度測定装置30の測定用受信アンテナ32の中心軸と車載アレイアンテナ7(アレイアンテナ10)の中心軸とが可能な限り一致するように配置する。
(制御処理の内容)
次に、図5に基づき、制御処理部50で実行される制御処理について説明する。図5は、制御処理の流れを示すフローチャートである。なお、この制御処理は、軸調整システム1の電源オンとともに、CPUがROMからプログラムを読み出して実行することにより開始される。
【0077】
制御処理では、まず図5に示すように、S100において、CPUが、工具検出スイッチ70の状態を取得する。つまり、電動工具44がブラケット42に装着されていれば、工具検出スイッチ70がオンである状態が取得され、装着されていなければオフの状態が取得される。
【0078】
続くS105では、CPUが、S100において取得した電動工具44の装着状態を判定する。そして、電動工具44が装着されている(工具検出スイッチ70がオン)と判定した場合(S105:Yes)、処理をS110へ移行させ、装着されていない(工具検出スイッチ70がオフ)と判定した場合(S105:No)、処理をS100へ戻し、電動工具44がブラケット42に装着される(工具検出スイッチ70がオンとなる)まで待機状態となる。
【0079】
S110において、CPUが、作動開始スイッチ80の状態(作動開始スイッチ80がオンかオフか)、つまり、使用者が作動開始スイッチ80を押下しているか否かを取得する。
【0080】
続くS115では、CPUが、S105において取得した作動開始スイッチ80の装着状態を判定する。そして、作動開始スイッチ80が押下されている(作動開始スイッチ80がオン)と判定した場合(S115:Yes)、処理をS120へ移行させ、押下されていない(作動開始スイッチ80がオフ)と判定した場合(S115:No)、処理をS110へ戻し、作動開始スイッチ80が押下されるまで待機状態となる。
【0081】
S120では、CPUが、発振装置20に、レーダとして使用する変調周波数のFMCW送信信号を出力させ、続くS125では、CPUが、電波強度測定装置30から電波強度を取得し、取得した電波強度の値をRAMに記憶させる。
【0082】
続くS130では、CPUが、全部の変調周波数でS120及びS125の処理を実行したか否かを判定する。本実施形態では、電波の変調周波数として3つの変調周波数を使用するため、3つの変調周波数の電波の電波強度を計測したか否かを判定する。
【0083】
そして、全部の変調周波数で実行したと判定した場合(S130:Yes)、処理をS140へ移行させ、全部の変調周波数では実行していないと判定した場合(S130:No)、処理をS135へ移行させる。
【0084】
S135では、CPUが、変調周波数を変更し、処理をS120へ戻し、発振装置20から送信アンテナ12へFMCW送信信号を供給させ、送信アンテナ12から出力される電波の電波強度を計測し、RAMに記憶させる。
【0085】
このように、S120〜S135において、すべての変調周波数において、送信アンテナ12から出力させた電波の電波強度を計測し、RAMに記憶させる。
そして、S140において、CPUが、電波強度測定装置30の測定用受信アンテナ32の中心軸に対するアレイアンテナ10の中心軸の仰角(以下、単に仰角とも呼ぶ)を算出する。
【0086】
ここで、図6に基づいて、仰角の算出方法を説明する。図6は、送信アンテナ12がシリーズ給電型のアンテナの場合の仰角の算出方法を説明するための説明図である。なお、説明を分かりやすくするため、図6においては、送信アンテナ12のビームパターンのメインローブのみを表示している。
【0087】
アレイアンテナ10を構成する送信アンテナ12がシリーズ給電型のアンテナの場合、異なる変調周波数のFMCW送信信号を送信アンテナ12に供給すると、出力される電波の仰角方向のビーム方向が送信アンテナ12の中心軸に対して大きく変化する。
【0088】
ここで「送信アンテナ12の中心軸」とは、送信アンテナ12の機械的中心位置から電波放射方向への軸を意味している。
変調周波数の違いによる仰角方向のビーム方向の違いの一例を図6(a)に示す。図6(a)に示すように、1つの変調周波数(図中「A」で示す76.5GHz)を中心として、プラスとマイナスに同じ差分(0.5GHz)の変調周波数(図中「B」で示す76GHz、「C」で示す77GHz)の電波のビーム方向が得られる。
【0089】
ここで、電波強度測定装置30の中心軸(水平方向)と送信アンテナ12の中心軸方向が一致していれば、図6(a)に示すように、仰角0°の位置をピークとする「A」に示すビームパターン、仰角がマイナスの位置をピークとする「B」に示すビームパターン及び仰角がプラスの位置をピークとする「C」に示すビームパターンが得られる。
【0090】
したがって、仰角が0°の位置における、変調周波数(76.5GHz)に対する電波強度と、0.5GHzプラスとマイナスの変調周波数(76GHzと77GHz)の電波の電波強度の差が小さくなる。
【0091】
一方、電波強度測定装置30の中心軸と送信アンテナ12の中心軸との仰角方向の角度がプラス側にずれていれば、つまり、仰角がプラスの場合には、図6(b)に示すように、各変調周波数のビームパターンが、図6(a)に示すビームパターンをプラスの向きにずらしたようになる。
【0092】
すると、変調周波数(76.5GHz)の周波数の電波に対する76GHzの電波の電波強度の差は、変調周波数(76.5GHz)の周波数の電波に対する77GHzの電波の電波強度の差よりも小さくなる。
【0093】
さらに、電波強度測定装置30の中心軸と送信アンテナ12の中心軸との仰角方向の角度がマイナス側にずれていれば、つまり、仰角がマイナスの場合には、図6(c)に示すように、各変調周波数のビームパターンが図6(a)に示すビームパターンをマイナスの向きにずらしたようになる。
【0094】
すると、変調周波数(76.5GHz)の周波数の電波に対する76GHzの電波の電波強度の差は、変調周波数(76.5GHz)の周波数の電波に対する77GHzの電波の電波強度の差よりも大きくなる。
【0095】
したがって、変調周波数(76.5GHz)の電波の電波強度に対して、76GHzと77GHzの電波の差分が図6(a)に示す値と同じになるように周波数の電波強度の差を算出すれば、その値が仰角に対応する値となる。
【0096】
続くS145では、CPUが、S140において算出した仰角が0°であるか否かを判定する。そして、仰角が0°であると判定した場合(S145:Yes)、処理を終了し、仰角が0°でないと判定した場合(S145:No)、処理をS150に移行させる。
【0097】
S150では、CPUが、電動工具44のモータにS140において算出した仰角を0°にする信号を出力した後、処理をS120へ戻し、S120〜S150を実行することにより、仰角を変更した後の仰角のずれを算出し、ずれがあれば、そのずれが0°になるようにする。
(軸調整システム1の特徴)
以上に説明した、車載アレイアンテナ7の軸調整システム1によれば、従来のように、仰角方向の軸調整のために、車載アレイアンテナ7を仰角方向に回転させる必要がないため、レーダの取付方向の調整の時間を短縮することができる。
【0098】
また、仰角を検出するため、複数のリフレクタを並べたり、1つのリフレクタを仰角方向に移動させたりして受信電力のピーク値を検出したりする必要がなくなるため、レーダ調整装置が大掛かりで、高価になるということもなくなる。
【0099】
つまり、FMCWレーダ用の車載アレイアンテナ7の取付軸の調整を短時間で容易かつ安価に行うことができるようになる。
また、送信アンテナ12がシリーズ供給型のアンテナであるので、FMCW送信信号の変調周波数を変化させると、送信アンテナ12から出力される電波の仰角方向のビーム角の変化が比較的大きくなる。したがって、電波強度測定装置30により測定される電波強度の差が大きくなるので、より正確な軸調整が可能となる。
【0100】
また、2以上の変調周波数のうち1つの変調周波数として、FMCWレーダ用の車載アレイアンテナ7の作動時に使用される変調周波数を用いているので、レーダに装備されている発振装置20を使用して、複数の変調周波数のうち少なくとも1つの変調周波数のFMCW送信信号を発生させることができるので、発振装置20を簡易なものとすることができる。
【0101】
さらに、ブラケット42によって車体に車載アレイアンテナ7を装着できるとともに、装着したときの、電波強度測定装置30の中心軸に対する車載アレイアンテナ7の中心軸の仰角のずれを0にするための信号が制御処理部50からブラケット42に取り付けられたモータ46に入力される。
【0102】
したがって、モータ46によりボルト48が回転し、車載アレイアンテナ7の仰角が変更され、車載アレイアンテナ7の中心軸を電波強度測定装置30の中心軸に一致させることができる。つまり、車載アレイアンテナ7の仰角方向の軸調整を自動的に行うことができる。
【0103】
また、電動工具44のモータ46の軸が、車載アレイアンテナ7(アレイアンテナ10)の中心軸及び仰角方向に略直角方向となるように、電動工具44に装着可能に構成されている。
【0104】
したがって、車載アレイアンテナ7の仰角方向の軸調整の際に、電動工具44がアレイアンテナ10の送信アンテナ12から出力される電波を遮蔽することがないので、正確な軸調整が可能となる。また、電動工具44をブラケット42に装着しやすくなり、便利である。
【0105】
さらに、工具検出スイッチ70により電動工具44がブラケット42に装着されたことを検出し、かつ、作動開始スイッチ80により使用者が電動工具44の作動開始の操作を検出したときに、車載アレイアンテナ7の仰角方向の軸調整を行うようになっている。
【0106】
したがって、電動工具44をブラケット42に装着した後、さらに、使用者の作動開始操作があった場合にのみ、車載アレイアンテナ7の軸調整が行われるため、軸調整時の作業の安全性をより高めることができる。
[第2実施形態]
次に、第1実施形態の軸調整システム1において、送信アンテナ12を中央給電型とした第2実施形態について図2、図7及び図8に基づいて説明する。図7は、送信アンテナが中央給電型のアンテナの場合の仰角の算出方法を説明するための説明図であり、図8は、第2実施形態の制御処理部50で実行される制御処理の流れを示すフローチャートである。
なお、説明を分かりやすくするため、図7においては、送信アンテナ12のビームパターンのメインローブのみを表示している。
また、第2実施形態における軸調整システム1では、第1実施形態における軸調整システム1と同じ構成であるので、同じ構成品には同じ符号を付し、その説明を省略する。また、制御処理においても、同じ処理については同じステップ番号を付してその説明を省略する。
【0107】
第2実施形態における軸調整システム1では、送信アンテナ12として、図2(b)に示すように、複数のアンテナエレメント13を直線上に配列し、直線上に配列したアンテナエレメント13の配列中央の給電点からFMCW送信信号を供給することにより、配列方向と垂直方向に電波を放射する、いわゆる中央給電型のアンテナを用いる。
【0108】
中央給電型のアンテナの場合、そのビームパターンは、図7(a)に示すように、変調周波数によって、送信アンテナ12の中心軸を中心に軸対称にピーク強度が変化する。
本第2実施形態の場合、変調周波数76.5GHzにおいて(図中「A」に示す)にピーク強度か最も大きく、76GHz及び77GHzにおいて、76.5GHzのときに比べ、ピーク強度が小さくなる(図中「B,C」で示す)。また、軸がマイナスにずれたときには、図7(b)に示すようになる。
【0109】
ここで、送信アンテナ12のビームパターンは、中心軸を対称軸としてプラス又はマイナスとなるがその増減率は非線形となる。つまり、プラス側又はマイナス側にずれるに従って、76.5GHzの電波強度と76GHz(77GHz)の電波強度の差が異なったものとなる(中心軸に近いほど差が大きくなる)。
【0110】
したがって、制御処理部50で実行される制御処理のS140において、76.5GHzのときの電波強度と76GHz(又は77GHz)のときの電波強度との差が最大であれば、その点が、仰角が0°となっている点であり、最大でなければ、プラス側又はマイナス側に送信アンテナ12の中心軸(つまり、アレイアンテナ10の中心軸)がずれていることになる。
【0111】
また、送信アンテナ12が中央給電型の場合、変調周波数が異なっても、ビームパターンが軸対称に近い形状となるので、プラス側、マイナス側のいずれ側にずれているかが正確に判別できないことがある。したがって、S146及びS147の処理を追加することにより、軸ずれを補正する。
【0112】
つまり、S146において、差分が増加したか否かを判定する。そして、差分が増加していると判定した場合(S146:Yes)、処理をS150に移行させ、差分が減少していると判定した場合(S146:No)、処理をS147に移行させる。
【0113】
S147では、S150において電動工具44に出力する仰角の移動方向を反対にする。つまり、仰角をプラス側にしていた場合にはマイナス側にし、マイナス側にしていた場合にはプラス側にする。その後、処理をS150へ移行する。
【0114】
このようにすると、第1実施形態の軸調整システム1と同様の効果が得られる。
[第3実施形態]
次に、上記実施形態の軸調整システム1に対し、記憶装置60を備えた第3実施形態の軸調整システム1について説明する。第3実施形態の軸調整システム1の構成は、第1実施形態の軸調整システム1の制御処理部50に記憶装置60を接続したのみであり、他の構成は同じであるので、同じ構成品には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0115】
記憶装置60は、ハードディスク装置、DVD装置、CD−ROM装置やUSBメモリなどの記憶装置である。
また、アレイアンテナ10の中心軸と電波強度測定装置30の中心軸とを一致させ、76GHz、76.5GHz、77GHzの3つの変調周波数ごとのビームパターンを予め電波強度測定装置30で測定し、記憶装置60に記憶させておく。
【0116】
つまり、送信アンテナ12がシリーズ給電型であれば、図6(a)に示すビームパターンが記憶装置60に記憶され、中央給電型であれば図7(a)に示すビームパターンが記憶されることになる。
【0117】
そして、第1実施形態及び第2実施形態のS140において、CPUが、電波強度測定装置30で測定した、76GHz、76.5GHz、77GHzの変調周波数における電波強度と記憶装置60に記憶させたビームパターンとの差を算出する。
【0118】
つまり、図6(a)及び図7(a)における仰角0°の値と76GHz、76.5GHz、77GHzにおける電波強度の測定値との差が算出される。
ここで、送信アンテナ12がシリーズ給電型の場合には、図6(a)に示すように、中心軸が一致していれば、76GHz、77GHzにおける電波強度の差が0となる。よって、算出した、76GHz、77GHzにおける測定値との差分が仰角のずれとなる。
【0119】
また、送信アンテナ12が中央給電型の場合には、図7(a)に示すように、中心軸が一致していれば、76.5GHzと76GHz又は76.5GHzと77GHzにおける電波強度の差が最大となる。
【0120】
よって、算出した、76.5GHzと76GHz又は76.5GHzと77GHzにおける電波強度の差と電波強度の最大差との差分に対応する角度が仰角のずれとなる。このようにして、仰角を算出することができる。
【0121】
したがって、制御処理部50において、各変調周波数の電波強度を測定するたびに仰角のずれを計算する必要がなくなるので、容易に軸調整ができる。
[第4実施形態]
次に、図9に基づき、リフレクタ36を用いて仰角の調整を行うようにした軸調整システム3について説明する。
【0122】
第4実施形態における軸調整システム3は、図9に示すように、測定用受信アンテナ32と受信機34により構成されている電波強度測定装置30の代わりに、電波を反射させるリフレクタ36を用いる。
【0123】
電波強度測定装置30の位置に、リフレクタ36を、その中心軸(リフレクタ36の電波の反射方向の機械的中心軸)が水平になるように設置する。
そして、第1実施形態と同じように、送信アンテナ12から電波を放射し、リフレクタ36で反射した電波(反射波)を複数の受信アンテナ14で受信する。
【0124】
すると、反射波は、複数の受信アンテナ14において、各受信アンテナ14の合成波として受信される。したがって、合成波のピーク値をビーム中心とすれば、第1実施形態及び第2実施形態と同じように、各変調周波数のFMCW信号により仰角を算出することができ、算出した仰角に基づいて、アレイアンテナ10(つまり、車載アレイアンテナ7)の仰角が水平になるように調整することができる。
【0125】
このようにすると、電波強度測定装置30をリフレクタ36のみとすることができるので、電波強度測定装置30の構成を簡易にすることができる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【0126】
(1)上記実施形態では、自動的に軸調整を行っていたが、仰角のずれを表示する表示装置を設け、制御処理部50で算出した仰角のずれを表示装置に表示させるようにする。 さらに、使用者が仰角を調整するための入力装置を設けるとともに、制御処理部50を、入力装置からの入力に応じて仰角変更部40に対する仰角変更信号を出力するように構成する。
【0127】
そして、使用者が表示装置に表示される仰角のずれを見ながら、そのずれが0になるように、仰角の変更値を入力するようにしてもよい。
(2)上記第4実施形態では、リフレクタ36からの反射波を複数の受信アンテナ14で受信していたが、反射波を測定用受信アンテナ32で受信し、受信した反射波の電波強度を受信機34により測定するようにしてもよい。
【0128】
この場合、測定用受信アンテナ32の中心軸と、アレイアンテナ10の受信アンテナ14の中心軸とが一致するように、車載アレイアンテナ7に取り付けることが必要となるが、電波強度測定装置30をリフレクタのみとすることができるので、電波強度測定装置30の構成を簡易にすることができる。
(3)上記実施形態では、1つの送信アンテナ12の場合を説明したが、送信アンテナ12が複数あってもよい。この場合、複数の送信アンテナ12によって形成されるビームパターンの形状が図6及び図7に示すパターンと異なるだけであり、軸調整方法は、上記実施形態と同じである。
(4)上記実施形態では、電動工具44のモータ軸が、アレイアンテナ10の中心軸と略直角方向となるように、ブラケット42の電動工具装着部49に装着されるようになっていたが、ブラケット42を、電動工具44のモータ軸が、アレイアンテナ10の中心軸に略直角方向で、かつ、仰角方向に略直角方向となるように、電動工具装着部49に装着可能に構成してもよい。
【0129】
このようにすると、車載アレイアンテナ7の仰角方向の軸調整の際に、電動工具44がアレイアンテナ10の送信アンテナ12から出力される電波を遮蔽することがない。したがって、正確な軸調整が可能となる。また、電動工具44をブラケット42に装着しやすくなり、便利である。
(5)また、電動工具44のモータ軸が、車載アレイアンテナ7の前面からボルト48を直接回転させることができるようになっていてもよい。この場合、電動工具44は、作業者等が手動で作動させ、仰角の調整を行うたびに、電動工具44で直接ボルト48を回転させることとなるが、作業はし易い構造とすることができる。
【符号の説明】
【0130】
1,3…軸調整システム、5…車両、7…車載アレイアンテナ、10…アレイアンテナ、12…送信アンテナ、13…アンテナエレメント、14…受信アンテナ、15…ケース、16…増幅器、18…レドーム、20…発振装置、30…電波強度測定装置、32…測定用受信アンテナ、34…受信機、36…リフレクタ、40…仰角変更部、42…ブラケット、43…ギア、44…電動工具、46…モータ、48…ボルト、49…電動工具装着部、50…制御処理部、60…記憶装置、70…工具検出スイッチ、80…作動開始スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付部材に、変調周波数の違いによって出力電波の放射方向の中心軸に対する放射方向が変化する送信アンテナ又は変調周波数の違いによって出力電波の放射方向の中心軸上の出力値が変化する送信アンテナと、複数の受信アンテナと、を水平方向の直線上に配置したFMCWレーダ用のアレイアンテナにおいて、前記取付部材の仰角方向の角度を変化させることにより、前記アレイアンテナの中心軸の仰角方向のずれを調整するためのアレイアンテナの軸調整方法であって、
発振手段から2以上の変調周波数のFMCW送信信号を前記送信アンテナに順次供給する電波供給工程と、
前記電波供給工程において、前記送信アンテナから出力される、前記2以上の変調周波数の電波の電波強度を、中心軸が水平方向となるように設置された電波強度測定手段で測定する測定工程と、
前記測定工程において測定した、前記2以上の変調周波数の電波の電波強度の差分に基づいて、前記電波強度測定手段の中心軸に対する前記アレイアンテナの中心軸の仰角を算出する仰角算出工程と、
前記取付部材の仰角方向の角度を変化させることによって、前記仰角算出工程において算出した前記電波強度測定手段の中心軸に対する前記アレイアンテナの中心軸の仰角を0にするように、前記アレイアンテナの仰角方向の軸調整を行う軸調整工程と、
を備えたことを特徴とするアレイアンテナの軸調整方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアレイアンテナの軸調整方法において、
前記送信アンテナは、複数のアンテナ素子を直線上に配列し、該直線上に配列したアンテナ素子の配列端からFMCW送信信号を供給することにより、前記複数のアンテナ素子の配列方向と垂直方向に電波を放射することを特徴とするアレイアンテナの軸調整方法。
【請求項3】
請求項1に記載のアレイアンテナの軸調整方法において、
前記送信アンテナは、複数のアンテナ素子を直線上に配列し、該直線上に配列したアンテナ素子の配列中央部分からFMCW送信信号を供給することにより、前記配列方向と垂直方向に電波を放射することを特徴とするアレイアンテナの軸調整方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のずれか1項に記載のアレイアンテナの軸調整方法において、
前記発振手段から前記送信アンテナに供給されるFMCW送信信号の前記2以上の変調周波数のうち1つの変調周波数は、前記FMCWレーダ用のアレイアンテナの作動時に使用される変調周波数であることを特徴とするアレイアンテナの軸調整方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のアレイアンテナの軸調整方法において、
前記アレイアンテナの仰角に対するビームパターンを記憶するための記憶手段を備え、
前記アレイアンテナの中心軸と前記電波強度測定手段の中心軸とを一致させた場合の、前記アレイアンテナの仰角に対する、前記2つ以上の変調周波数ごとのビームパターンを予め前記記憶手段に記憶させておき、
前記仰角算出工程において、前記記憶手段に記憶させた前記ビームパターンとの差分に基づいて、前記電波強度測定手段の中心軸に対する前記アレイアンテナの中心軸の仰角を算出することを特徴とするアレイアンテナの軸調整方法。
【請求項6】
取付部材に、変調周波数の違いによって出力電波の放射方向の中心軸に対する放射方向が変化する送信アンテナ又は変調周波数の違いによって出力電波の放射方向の中心軸上の出力値が変化する送信アンテナと、複数の受信アンテナと、を水平方向の直線上に配置したFMCWレーダ用のアレイアンテナにおいて、前記取付部材の仰角方向の角度を変化させることにより、前記アレイアンテナの中心軸の仰角方向のずれを調整するためのアレイアンテナの軸調整システムであって、
2以上の変調周波数のFMCW送信信号を前記送信アンテナに供給するための発振手段と、
中心軸が水平方向になるように設置され、前記送信アンテナから出力される、前記2以上の変調周波数の電波の電波強度を測定するための電波強度測定手段と、
前記取付部材の仰角方向の角度を変化させることによって、前記アレイアンテナの仰角を変更するための仰角変更手段と、
前記発振手段で、前記2以上の変調周波数のFMCW送信信号を前記送信アンテナに順次供給させたときに、前記電波強度測定手段で測定された、前記2以上の変調周波数の電波の電波強度の差分に基づいて、前記電波強度測定手段の中心軸に対する前記アレイアンテナの中心軸の仰角を算出する仰角算出手段と、
前記仰角算出手段で算出した、前記電波強度測定手段の中心軸に対する前記アレイアンテナの中心軸の仰角を0にするように前記仰角変更手段を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とするアレイアンテナの軸調整システム。
【請求項7】
請求項6に記載のアレイアンテナの軸調整システムにおいて、
前記送信アンテナは、複数のアンテナ素子を直線上に配列し、該直線上に配列したアンテナ素子の配列端からFMCW送信信号を供給することにより、前記複数のアンテナ素子の配列方向と垂直方向に電波を放射することを特徴とするアレイアンテナの軸調整システム。
【請求項8】
請求項6に記載のアレイアンテナの軸調整システムにおいて、
前記送信アンテナは、複数のアンテナ素子を直線上に配列し、該直線上に配列したアンテナ素子の配列中央部分からFMCW送信信号を供給することにより、前記配列方向と垂直方向に電波を放射することを特徴とするアレイアンテナの軸調整システム。
【請求項9】
請求項6〜請求項8のずれか1項に記載のアレイアンテナの軸調整システムにおいて、
前記発振手段は、
前記送信アンテナに供給されるFMCW送信信号の前記2以上の変調周波数のうち1つの変調周波数として、前記FMCWレーダ用のアレイアンテナの作動時に使用される変調周波数を用いることを特徴とするアレイアンテナの軸調整システム。
【請求項10】
請求項6〜請求項9のいずれか1項に記載のアレイアンテナの軸調整システムにおいて、
前記アレイアンテナの中心軸と前記電波強度測定手段の中心軸とを一致させた場合の、前記アレイアンテナの仰角に対する、前記2つ以上の変調周波数ごとのビームパターンを予め記憶させた記憶手段を備え、
前記仰角算出手段は、
前記発振手段で、前記2以上の変調周波数のFMCW送信信号を前記送信アンテナに順次供給させたときに、前記電波強度測定手段で測定した電波強度と前記記憶手段に記憶させた前記ビームパターンとの差分に基づいて、前記電波強度測定手段の中心軸に対する前記アレイアンテナの中心軸の仰角を算出することを特徴とするアレイアンテナの軸調整システム。
【請求項11】
請求項10に記載のアレイアンテナの軸調整システムにおいて、
前記仰角変更手段は、
前記アレイアンテナを車体に装着するとともに、ボルトの軸方向の移動により前記アレイアンテナの仰角を変更可能に構成されたブラケットと、
前記ブラケットに取り付けられ、前記制御手段からの信号によりモータを作動させ、前記モータの回転軸に連結されている前記ボルトを回転させて軸方向に移動させることにより、前記アレイアンテナの仰角を変更する電動工具と、
を備え、
前記制御手段は、
前記仰角算出手段で算出した、前記電波強度測定手段の中心軸に対する前記アレイアンテナの中心軸の仰角を0にするための信号を前記電動工具に出力することにより前記アレイアンテナの中心軸を前記電波強度測定手段の中心軸に一致させることを特徴とするアレイアンテナの軸調整システム。
【請求項12】
請求項11に記載のアレイアンテナの軸調整システムにおいて、
前記ブラケットは、
前記電動工具を装着したことを検出する工具検出手段を備え、
前記制御手段は、
前記工具検出手段により前記電動工具が前記ブラケットに装着されたことを検出したときに、前記アレイアンテナの仰角方向の軸調整を行うことを特徴とするアレイアンテナの軸調整システム。
【請求項13】
請求項12に記載のアレイアンテナの軸調整システムにおいて、
前記電動工具は、
使用者が作動を開始させるための操作をしたことを検出する作動開始検出手段を備え、 前記制御手段は、
前記工具検出手段により前記電動工具が前記ブラケットに装着されたことを検出し、かつ、前記作動開始検出手段により使用者が前記電動工具の作動開始の操作を検出したときに、前記アレイアンテナの仰角方向の軸調整を行うことを特徴とするアレイアンテナの軸調整システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図4】
image rotate