アレーン系化合物
【課題】化学修飾が容易であるとともに、特徴的な立体構造を有し、かつ、包摂化合物等としての利用が期待される新規なアレーン系化合物を提供する。
【解決手段】p−tert−ブチルフェノールと、ジアルデヒド類とを反応させて得られる、一般式(1)で表されるアレーン系化合物である。
(一般式(1)中、nは3〜6の整数を示す。)
【解決手段】p−tert−ブチルフェノールと、ジアルデヒド類とを反応させて得られる、一般式(1)で表されるアレーン系化合物である。
(一般式(1)中、nは3〜6の整数を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包摂化合物等としての利用が期待でき、官能基の導入による機能化が可能な新規化合物(アレーン系化合物)に関する。
【背景技術】
【0002】
カリックスアレーン系化合物は、一般にはフェノール、レゾルシノール等のフェノール系化合物とアルデヒド系化合物の縮合により得られる環状オリゴマーである。近年、カリックスアレーン系化合物はホスト−ゲスト化学の分野においてクラウンエーテル、シクロデキストリンに次ぐ、第三の包接化合物として注目されている。
【0003】
カリックスアレーン系化合物は、通常一分子内に多くの水酸基を有し、熱的安定性に優れ、高いガラス転移温度と高融点を有すること、また構造によっては成膜性を有することから、優れた機能性材料として注目されている。例えば、p−メチルカリックス[6]アレーンヘキサアセテートを用いた電子線ネガ型フォトレジストへの応用(例えば、非特許文献1参照)や、カリックス[4]レゾルシンアレーン、架橋剤、光酸発生剤に基づくアルカリ現像型のネガ型フォトレジストへの応用(例えば、非特許文献2参照)等が報告されている。また、カリックスアレーン系化合物を高性能な光硬化材料へ応用することを目的とした、ラジカル重合性官能基、カチオン重合性官能基の導入、および高解像度のレジスト材料への応用を目的とした保護基の導入によるカリックスアレーン系誘導体の合成およびその光反応特性についての評価が報告されている(例えば、非特許文献3、4および5参照)。また、種々のカチオン重合性官能基を有するp−アルキルカリックス[n]アレーン誘導体の合成とその光カチオン重合についての検討が報告されている(例えば、非特許文献6参照)。
【0004】
また、カリックスアレーン系化合物の中でもレゾルシノール系化合物とアルデヒド系化合物との縮合物であるカリックスレゾルシノールアレーン系化合物については、大きなゲストの包接を目的とした検討が種々なされており、レゾルシノール環の化学修飾により空孔をより大きく、深くした誘導体が数多く合成されている。
【0005】
例えば、隣り合うレゾルシノール環の水酸基対を共有結合で架橋するとコーン配座が強固に固定されたかご型のキャビタンドが得られる。このような架橋法として、ジハロメタンを用いるアルキル化(非特許文献7参照)、ジアルキルジクロロシランを用いたシリル化(非特許文献8参照)等が報告されている。また、レゾルシノール系化合物として、CHO(非特許文献9参照)、OH(非特許文献10参照)、CO2R(非特許文献11参照)等の官能基を有する誘導体を用いた例が報告されている。更に、適当な官能基を持つ2種類以上のキャビタントをSN2反応により連結するとカプセル型のカルセランドが得られることも報告されている(非特許文献12参照)。しかし、これらのキャビタント類は反応性基が残っていないために、更なる化学修飾が困難である。
【0006】
【非特許文献1】Y.Ochiai,S.Manako,H.Yamamoto,T.Teshima,J.Fujita,E.Nomura:J.Photopolymer.Sci.Tech.13,413(2000)
【非特許文献2】T.Nakayama,M.Nomura,K.Haga,M.Ueda:Bull.Chem.Soc.Jpn.,71,2979(1998)
【非特許文献3】T.Nishikubo,A.Kameyama and H.Kudo,K,Tsutsui,:J.Polym.Sci.Part.Part A,Polym.Chem,39,1293(2002)
【非特許文献4】T.Nishikubo,A.Kameyama and H.Kudo:Polym.J.,35,213(2003)
【非特許文献5】T.Nishikubo,A.Kameyama and H.Kudo:Am.Chem.Soc,31,363
【非特許文献6】K.Tsutsui,S.Kishimoto,A.Kameyama,T.Nishikubo:Polym.Prep.Jpn.,37,1805(1999)
【非特許文献7】J.R.Moran,S.karbach and D.J.Cram,J.Am.Chem.Soc.,104,5826(1982)
【非特許文献8】D.J.Cram,K.D.Stewart,I.Goldberg and K.N.Trueblood,J,Am.Chem.Soc.,107,2574(1985)
【非特許文献9】M.L.C.Quan and D.J.Cram,J.Am.Chem.Soc.,113,2754(1991)
【非特許文献10】J.C.Sherman and D.J.Cram,J.Am.Chem.Soc.,111,4527(1989)
【非特許文献11】J.C.Sherman and D.J.Cram,J.Am.Chem.Soc.,111,4527(1989)
【非特許文献12】P. Timmerman,W.Verboom,F.C.J.M.van Veggel,W.Hoorn and D.N.Reoinhoudt,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,33,1292(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、化学修飾が容易であるとともに、特徴的な立体構造を有し、かつ、包摂化合物等としての利用が期待される新規なアレーン系化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、p−tert−ブチルフェノールとジアルデヒド化合物を反応させることによって上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、以下に示すアレーン系化合物が提供される。
【0010】
[1] p−tert−ブチルフェノールと、ジアルデヒド類と、を反応させて得られるアレーン系化合物。
【0011】
[2] ジアルデヒド類が1,4−ブタンジアール、1,5−ペンタンジアール、1,6−ヘキサンジアール、1,7−ヘプタンジアール、1,8−オクタンジアール、1,9−ノナンジアール、1,10−デカンジアール、o−フタルアルデヒド、m−フタルアルデヒド、p−フタルアルデヒドおよびビス(3−ホルミル−4−ヒドロキシフェニル)メタンからなる群から選択される少なくとも1種のジアルデヒドである上記[1]に記載のアレーン系化合物。
【0012】
[3] 下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する上記[1]または[2]に記載のアレーン系化合物。
【0013】
【化1】
【0014】
(前記一般式(I)中、nは3〜6の整数を示す)
【発明の効果】
【0015】
本発明のアレーン系化合物は、化学修飾が容易であるとともに、特徴的な立体構造を有し、かつ、包摂化合物等としての利用が期待されるものである。また、本発明のアレーン系化合物を化学修飾することにより、硬化性組成物やレジスト用組成物への応用、および包摂化合物としての利用、更には高機能を有するアレーン系化合物誘導体の中間体としての利用等、幅広い分野における利用が期待される。本発明のアレーン系化合物はまた、製造過程でゲルができにくいという特徴を有し、動的共有結合化学を利用して得られる重合体を効率よく得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0017】
本発明のアレーン系化合物は、p−tert−ブチルフェノールと、ジアルデヒド化合物、を反応させて得られるものである。以下、その詳細について説明する。
【0018】
(p−tert−ブチルフェノール)
本発明においては、原料化合物としてp−tert−ブチルフェノールを使用する。
【0019】
(ジアルデヒド類)
本発明においてはまた、もう一方の原料化合物として、ジアルデヒド類を使用する。好ましいジアルデヒド類としては、1,4−ブタンジアール、1,5−ペンタンジアール、1,6−ヘキサンジアール、1,7−ヘプタンジアール、1,8−オクタンジアール、1,9−ノナンジアール、1,10−デカンジアール、o−フタルアルデヒド、m−フタルアルデヒド、p−フタルアルデヒドまたはビス(3−ホルミル−4−ヒドロキシフェニル)メタンを挙げることができる。これらの原料化合物(B)は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
(p−tert−ブチルフェノールとジアルデヒド類との反応)
本発明のアレーン系化合物は、p−tert−ブチルフェノールとジアルデヒド類とを、例えば溶媒中、触媒の存在下で、0.05時間超、室温〜200℃の温度条件下で脱水縮合反応させることにより製造することができる。用いることのできる溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサノール等のアルコールを挙げることができる。なお、溶媒は、脱水縮合反応の温度に応じて適宜選択することが好ましい。また、用いることのできる触媒としては、塩酸等の酸触媒を挙げることができる。
【0021】
p−tert−ブチルフェノール(以下TBPと省略する場合がある)とジアルデヒド類のモル比に特に制限はないが、収率の観点から、TBP/ジアルデヒド類の値(モル比)が20/1〜20/400程度であるのが好ましい。
【0022】
(立体構造)
上述の反応により得られる本発明のアレーン系化合物の立体構造は特に限定されない。本発明のアレーン系化合物の立体構造は、例えば、図1Aに示すようなラダー型環状オリゴマー、図1Bに示すようなラダー型ポリマー、および図1Cに示すような分岐型ポリマー等であることが推測される。また、本発明のアレーン系化合物の立体構造は、例えば、これら図1A、図1B、および図1Cで表される立体構造を組み合わせた構造であることも推測される。或いは、p−tert−ブチルフェノールとジアルデヒド類とを反応させることにより、図1A、図1B、および図1Cで表されるそれぞれの立体構造を有する化合物の混合物として得られる場合が想定される。
【0023】
本発明のアレーン系化合物としてはまた、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するものも含まれる。
【0024】
【化2】
【0025】
(前記一般式(I)中、nは3〜6の整数を示す)
【0026】
本発明のアレーン系化合物は、化学修飾が可能なフェノール性水酸基(−OH基)をその分子構造中に有するものである。従って、このフェノール性水酸基には、種々の置換基を導入することが可能である。導入可能な置換基の具体例としては、tert−ブトキシカルボニル化をはじめとする保護基、重合性官能基を有する基、アルカリ可溶性基を有する基、置換又は非置換のアルキル基等を挙げることができる。
【0027】
重合性官能基の具体例としては、重合性不飽和構造を有する基、環状エーテル構造を有する基等を挙げることができる。より具体的には、ビニル基、ビニリデン基、アクリロイル基、メタクリロイル基、置換又は非置換のグリシジル基、置換又は非置換のオキセタニル基、置換又は非置換のスピロオルトエステル基等を挙げることができる。また、アルカリ可溶性基としては、カルボキシル基、アミノ基、スルホンアミド基、スルホン酸基、リン酸基等を挙げることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0029】
[赤外吸収スペクトル(IR)の測定]:サーモエレクトロン社製の商品名「Nicolet 380」を使用して赤外吸収スペクトル(IR)を測定した。
【0030】
[核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR、13C−NMR)の測定]:日本電子社製の商品名「JNM−2500」を使用して核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR、13C−NMR)を測定した。
【0031】
[数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)の測定]:合成した試料の数平均分子量(Mn)を、東ソー社製のカラム(商品名「HLC−8220」)を使用し、流量:0〜600ml/min、溶出溶媒:DMF、カラム温度:40℃の分析条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
【0032】
[示差走査熱量測定(DSC)]:セイコーインスツルメンツ社製の商品名「EXSTAR6000/DSC 6200」を使用し、窒素気流下、昇温速度10℃/minの条件で測定した。
【0033】
[質量分析(MS)]:島津製作所/Kratos社製の商品名「AXIMA−CFRplus」を使用した。レーザー条件:N2レーザー(337nm)、Accel Voltage:20kV、Refrectron−positive−mode。サンプル濃度:1mg/mL、Matrix濃度:10mg/mLとした。各溶液の比率は1:1とし、Matrixには、3,4−ジヒドロキシベンゾイックアシッド(DHBA)を用いた。
【0034】
[参考例1〜5:ジアルデヒド類の合成]
酸化剤として塩化クロム酸ピリジウム(PCC)を65g(300mmol)とセライト70gをあわせて粉砕し、塩化メチレン400mlに縣濁させた。さらに塩化メチレン100mlに溶解させたアルカンジオール類(100mmol)を加え、室温で撹拌した。反応後、ジエチルエーテル500ml以上を用いてエーテル層の回収および残渣の洗浄を行い、n−ヘキサンにて未反応のPCCを沈殿させて取り除き、溶媒を減圧留去し、減圧蒸留精製を行った。その結果、透明液体を得た。結果を表1に示す。構造確認は1H−NMRで行った。
【0035】
【表1】
【0036】
(参考例1:1,6−ヘキサンジアール)
収量(収率)2.16g(18.9%)、1H−NMR(500MHz、DMSO、TMS);δ(ppm):1.5(m,4.0H)、2.4−2.5(m,4.0H)、9.6(t,2.0H)、沸点65℃(4.0mmHg)。
【0037】
(参考例2:1,7−ヘプタンジアール)
収量(収率)2.34g(18.3%)、1H−NMR(500MHz、DMSO、TMS);δ(ppm):1.2(m,2.0H)、1.5(m,4.0H)、2.4(m,4.0H)、9.6(t,2.0H)、沸点85℃(4.0mmHg)。
【0038】
(参考例3:1,8−オクタンジアール)
収量(収率)5.23g(36.8%)、1H−NMR(500MHz、DMSO、TMS);δ(ppm):1.2(q,4.0H)、1.5(t,4.0H)、2.3−2.4(m,4.0H)、9.6(s,2.0H)、沸点87℃(4.0mmHg)。
【0039】
(参考例4:1,9−ノナンジアール)
収量(収率)3.36g(24.7%)、1H−NMR(500MHz、DMSO、TMS);δ(ppm):1.2(s,6.0H)、1.5(t,4.0H)、2.3−2.4(m,4.0H)、9.6(s,2.0H)、沸点87℃(4.0mmHg)。
【0040】
(参考例5:1,10−デカンジアール)
収量(収率)6.13g(36.0%)、1H−NMR(500MHz、DMSO、TMS);δ(ppm):1.2(s,8.0H)、1.5(t,4.0H)、2.4(m,4.0H)、9.6(t,2.0H)、沸点90℃(4.0mmHg)。
【0041】
[実施例1〜10:p−tert−ブチルフェノールとジアルデヒド類との反応]
TBP1.50g(10mmol)とジアルデヒド類(2.5mmol)とをエタノール(EtOH)中、80℃で48時間撹拌し反応させた。触媒は12NのHClを使用した。溶媒と触媒の量は、体積比でEtOH/HCl=3/2(v/v)とし、ジアルデヒドが1mol/l(フタルアルデヒドは0.5mol/l)になるよう調整した。
【0042】
反応終了後、反応溶液を塩化メチレンで希釈し、重曹水および水で洗浄した。その後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、溶媒を減圧留去し、白色〜褐色粉末を得た。得られた粉末の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPCによって測定した。結果を表2および図2、3に示す。p−フタルアルデヒドを用いた場合は、水以外の殆どの有機溶媒で膨潤するゲルが生成した。
【0043】
【表2】
【0044】
[実施例11:オリゴマー(中間体)の構造]
p−tert−ブチルフェノール(TBP)1.55g(10mmol)と1,8−オクタンジアール(以下OTAと略する場合がある)0.5mmolとを、12NのHClを触媒として、EtOH中80℃で48時間反応させた。溶媒と触媒の量は、容量比でEtOH/HCl=3/2(v/v)とし、OTAが1mol/lとなるよう調整した。
【0045】
反応終了後、反応溶液を塩化メチレンで希釈し、重曹水および水で洗浄した。その後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、溶媒を減圧留去し、白色〜褐色粉末を得た。この粉末をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;酢酸エチル:n−ヘキサン=2:1)、HPLC(溶媒;クロロホルム)によってMn=1200前後(GPC)の化合物(GPCにおける34.5分付近のピークを示す化合物)のみ単離した。クロロホルムを減圧留去し、塩化メチレンを用いて再結晶を行い、白色針状結晶を得た。構造確認をIR、1H−NMR(図4)、13C−NMR(図5)、DSC(図6)およびMALDI−TOP MS(図7)にて行った。この化合物の構造は式(II)で表される。
【0046】
【化3】
【0047】
融点、178.0〜178.8℃(DSC)、
IR(KBr,cm−1)、3293(γOH)、2959および2864(γC−H)、1498(γC=Cアロマティック)、
1H−NMR(500MHz、CDCL3、TMS)、δ(ppm):1.25(s,44.0H)、2.09−2.13(q,4.0H)、4.43−4.46(t,2.0H)、6.69−6.71(d,4.0H)、7.02−7.05(d,4.0H)、7.32−7.33(d,4.0H)、
13C−NMR(500MHz,CDCl3、TMS)、δ(ppm):27.3、28.9、31.5、33.2、34.2、34.9、115.2、123.7、124.0、130.1、144.0、150.2、
MALDI−TOF MS、Matrix:3,4−ジヒドロキシベンゾイックアシッド(DHBA)、計算値:Exact Mass:706.50、[M+K]+:745.59、[M+2K]+:784.69、[M+3K]+:823.79、実測値:[M+K]+:745.41、[M+2K]+:783.36、[M+3K]+:821.29。
【0048】
図6のDSCチャートにおいて、132.9〜133.9℃付近に発熱ピークが見られた。このことから、単離されたオリゴマー(中間体)は133℃付近において何かしらの反応を起こし別の構造に変化した可能性がある。図4の1H−NMRスペクトルから、単離したオリゴマー(中間体)には若干の不純物が混入していることが分かる。不純物の存在は、オリゴマーが比較的安定性に乏しく光や熱によって分解するという可能性を示しているものと思われる。
【0049】
図7のMSチャートにおいて、aと示されているピークは、一般式(II)の中間体(Exact Mass:706.50)にK+(原子量39.098)が1つ配位したもの、bは2つ、cは3つ配位したものの同位体の分子量にほぼ等しいものとなっている。このことからも、中間体が一般式(II)の構造を有することが裏付けられる。
【0050】
[実施例12:ポリマー(最終生成物)の構造]
原料の仕込み比を、p−tert−ブチルフェノール(TBP):1,8−オクタンジアール(OTA)=20:5とした以外、実施例11と同様にして最終生成物をHPLC(溶媒:クロロホルム)によって単離した。得られたポリマー(最終生成物)の1H−NMRを測定した。結果を図8に示す。
【0051】
図8において、メチル基のピークにはメチレン部位のピークが重なっているものと思われる。ベンゼン環のピークとアルデヒド由来のメチレン鎖のピークの積分比を比べると、オリゴマーよりもメチレン部位が多いことがわかる。
【0052】
[実施例13、14:p−tert−ブチルフェノールとBISA−Fとの反応]
p−tert−ブチルフェノール(TBP)1.50g(10.0mmol)とビス(3−ホルミル−4−ヒドロキシフェニル)メタン(以下、BISA−Fと略すことがある)0.5mmolとを、12NのHClを触媒として用いて、EtOH(EtOH/HCl=3/2、v/v、BISA−F 1mol/l)中、80℃で48時間反応させた。反応終了後、濃桃色の沈殿が生じた。沈殿をTHFまたはクロロホルムに溶解させ、n−ヘキサン中で再沈殿させた。デカンテーションにより沈殿を回収し、n−ヘキサン、THF、クロロホルムで洗浄した。溶媒を減圧留去し赤褐色の粉末固体を得た。その後、粉末の分子量および分子量分布をGPCによって確認した。結果を表3および図9に示す(実施例13)。
【0053】
原料の仕込み比を、TBP:BISA−F=20:5とした以外、実施例13と同様にした。生成物の分子量および分子量分布をGPCによって確認した。結果を表3および図9に示す(実施例14)。
【0054】
BISA−Fは、アルカンジアルデヒド類とは大きく構造が異なるジアルデヒドであり、その反応も異なるものであった。TBPとBISA−Fとの反応生成物はn−ヘキサンに不溶であり、再沈殿によりワークアップすることができた。
【0055】
【表3】
【0056】
[実施例15〜25:TBPとPTAとの反応における仕込比効果]
p−tert−ブチルフェノール(TBP)1.55g(10mmol)とグルタルアルデヒド(1,5−ペンタンジアール;以後PTAと略す場合がある)とを、12NのHCl0.75ml(EtOH/HCl=3/1 v/v)を触媒として用いて、EtOH2.25ml中、80℃で48時間撹拌し、反応させた。PTAの仕込み量を種々変化させた。結果を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
反応終了後、無色透明〜暗褐色の液体が得られた。PTAの仕込み量が増加するに伴い溶液の色が濃くなっていき、粘度が大きくなった。仕込み比20:5以降は黒色の固体部分と無色透明〜褐色の液体部分とに分かれた。仕込み比20:10以降は粘性の上昇に伴い、24時間が経過する前に撹拌が不可能となっていたが、そのまま加熱を続けた。
【0059】
反応終了後、反応溶液(および固体部分)を塩化メチレンで希釈し、飽和重曹水で洗浄した後、水で洗浄した。
【0060】
その後、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、ろ過によって硫酸マグネシウムを除去した。そして塩化メチレンを減圧留去、減圧乾燥し、白色〜褐色粉末を得た。得られた粉末の数平均分子量および分子量分布をGPC(展開溶媒:DMF)によって測定した。結果を図10に示す。
【0061】
[実施例26〜28:TBPとPTAとの反応における触媒量効果]
用いる塩酸の量をエタノールに対して体積比3:1〜3:3の間で変化させた以外は実施例16と同様にしてTBPとPTAとを反応させた。得られた粉末の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPCによって測定した。結果を図11に示す。
【0062】
図11から、35分付近の反応中間体と思われるピーク面積比はEtOH:HCl=3:1のとき、23.57%、3:2のとき30.29%、3:3のとき19.37%であった。3:2のときに最も多く中間体(オリゴマー)が生成されるものと思われる。
【0063】
[実施例29〜35、比較例:TBPとPTAとの反応における経時変化]
p−tert−ブチルフェノール(TBP)1.55g(10mmol)とグルタルアルデヒド(1,5−ペンタンジアール、PTA)0.2g(2.0mmol)とを、12NのHCl1.33mlを触媒として、EtOH2.0ml(EtOH/HCl=3/2 v/v、PTAが1mol/lになるよう調整)中、80℃で撹拌し、経時変化反応を追った。反応溶液の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPCによって測定した。結果を表5および図12に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
表5および図12から、反応時間30分〜48時間の間では、反応率は殆ど変わらないということが分かった。また、反応時間0.05時間(3分)以下では全く反応が進行していないことが分かった。
【0066】
[実施例36〜41:TBPとPTAとの反応における温度効果]
反応温度を種々変化させた以外、実施例16と同様にして(TBP10mmol、PTA2.0mmol)反応を行った。なお、溶媒は80℃以下ではエタノール、100℃以上ではn−ヘキサノールを用いた。得られた生成物のGPCを測定した。結果を表6および図13に示す。
【0067】
【表6】
【0068】
室温以下(rt、0℃、−20℃)では反応しないことが分かっている。表6および図13から、反応温度40℃〜140℃の間では反応率は殆ど変わらないということが分かった。また、溶媒に用いるアルコール類の種類を変えても反応には影響しないということが分かった。
【0069】
[実施例42〜46:TBPとOTAとの反応における仕込比効果]
p−tert−ブチルフェノール(TBP)1.55g(10mmol)と1,8−オクタンジアール(OTA)とを、12NのHClを触媒として用いて、EtOH中、80℃で48時間撹拌し、反応させた。OTAの仕込み量を種々変化させた。なお、溶媒と触媒の量はEtOH/HCl=3/2(v/v)とし、OTAが1mol/lとなるよう調整した。
【0070】
反応終了後、反応溶液を塩化メチレンで希釈し、重曹水および水で洗浄したした。その後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、溶媒を減圧留去し、白色〜褐色粉末を得た。反応母液の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPCによって測定した。結果を図14に示す。
【0071】
20:8でゲルが生成した(ゲル収率45.2%)。他の仕込み比においても、1,5−ペンタンジアール(PTA)を用いた場合に比べて粘性の高い高分子量のものが得られた。仕込むOTAの量が増加すると高分子量のものができると考えられる。35分付近のピークはいわゆる中間体(オリゴマー)のピーク(Mn=1,200GPC)であると思われる。PTAを用いた場合はTBP〜中間体の間にピークは現れなかったが、OTAの場合は、2つピークが出現している。これは中間体からTPBユニットが脱離したものである可能性がある。
【0072】
[実施例47〜50:TBPとOTAとの反応における触媒量効果]
用いる塩酸の量をエタノールに対して体積比3:0〜3:3の間で変化させた以外は実施例44(仕込み比TBP/OTA=20/5)と同様にしてTBPとOTAとを反応させた。反応母液の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPCによって測定した。結果を図15に示す。3:1〜3:3の範囲では、生成物の分子量分布に大きな違いは現れなかった。また、3:0(無触媒)でも反応が進行した。
【0073】
[実施例51〜59:TBPとOTAとの反応における経時変化]
実施例44と同様の反応を行い、経時変化反応を追った。反応溶液の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPCによって測定した。結果を図16に示す。
【0074】
図16から、反応開始直後からすぐに高分子量のものが生成していることが分かる。反応時間が長くなると、25分付近にポリマーのピーク(Mn=31,400)が出現する。
【0075】
また先の仕込み比の検討において仕込み比20:8でゲルが生成したので、仕込み比20:8における経時変化を検討した。結果を図17に示す。図17から、反応時間5〜7時間ではGPCチャートに殆ど違いが見られないのが分かる。実際には、6時間まではゲルは生成せず、7時間において初めてゲルが生成した(ゲル収率24.5%)。
【0076】
[実施例60〜64:TBPとOTAとの反応における温度効果]
反応温度を種々変化させた以外、実施例44と同様にして(仕込み比20:5)反応を行った。なお、溶媒は80℃ではエタノール、120℃および160℃ではn−ヘキサノール、200℃ではn−オクタノールをそれぞれ1.25ml用いた。200℃における反応ではオイルバスから煙が立ち上がり危険だったので、反応開始から7時間経過した時点で反応を終了した。
【0077】
反応終了後、反応溶液を塩化メチレンで希釈し、重曹水および水で洗浄した。その後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、溶媒を減圧留去した。80℃では褐色粉末、120℃から200℃では褐色粘性液体を得た。反応生成物の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPC(溶媒:DMF)によって測定した。結果を表7および図18に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
低温(0℃、−20℃)では反応しないことが分かっている。これらの温度ではTBPが溶媒であるEtOHに溶けきれなくなり析出してくる。PTAを用いた場合は、室温では反応が進行しなかったが、OTAの場合は反応が進行した。また、意外にも120℃の場合は80℃の場合よりも高分子量側にピークが拡がらなかった。この結果から、反応温度を高くすればするほど、高分子量化合物が生成しにくいということが分かった。図18における34.5分付近のピーク面積(表7の面積比、オリゴマー)は160℃で最も大きい値を示している。またTBPのピーク面積比は200℃において最も高くなっている。
【0080】
これは、反応温度が高くなると反応が進行しなくなるということを示しているのではなく、高分子量側から低分子量側への逆反応を示唆しているものと思われる。反応系中において、反応温度80℃までは速度論的制御が大きく作用し高分子量の化合物が生成する。反応温度がそれ以上になると熱力学的制御の作用が大きくなり、高分子量の化合物が生成するものの、可逆的に低分子量のものに戻っているものと推察される。
【0081】
また、図18において34.5分付近のオリゴマーのピークとTBPのピークの間に示されるピークが、反応温度の上昇とともに若干ではあるが高分子量側にシフトし、なおかつシャープになっている。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のアレーン系化合物は、特徴的な立体構造を有し、化学修飾が容易なものである。このため、本発明のアレーン系化合物は、包摂化合物等をはじめとする特殊な機能を示す化合物としての利用が期待されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1A】本発明のアレーン系化合物の立体構造の一例(ラダー型環状オリゴマー)を示す模式図である。
【図1B】本発明のアレーン系化合物の立体構造の他の例(ラダー型ポリマー)を示す模式図である。
【図1C】本発明のアレーン系化合物の立体構造の更に他の例(分岐型ポリマー)を示す模式図である。
【図2】実施例1〜7で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図3】実施例8および9で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図4】実施例11で得たオリゴマー(中間体)の核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)の測定結果を示すチャートである。
【図5】実施例11で得たオリゴマー(中間体)の核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)の測定結果を示すチャートである。
【図6】実施例11で得たオリゴマー(中間体)の示差走査熱量計(DSC)の測定結果を示すチャートである。
【図7】実施例11で得たオリゴマー(中間体)の質量分析(MALDI−TOP MS)の測定結果を示すチャートである。
【図8】実施例12で得たポリマー(最終生成物)の核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)の測定結果を示すチャートである。
【図9】実施例13および14で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図10】実施例15〜25で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図11】実施例26〜28で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図12】実施例29〜35で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図13】実施例36〜41で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図14】実施例42〜46で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図15】実施例47〜50で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図16】実施例51〜56で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図17】実施例57〜59で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図18】実施例60〜64で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、包摂化合物等としての利用が期待でき、官能基の導入による機能化が可能な新規化合物(アレーン系化合物)に関する。
【背景技術】
【0002】
カリックスアレーン系化合物は、一般にはフェノール、レゾルシノール等のフェノール系化合物とアルデヒド系化合物の縮合により得られる環状オリゴマーである。近年、カリックスアレーン系化合物はホスト−ゲスト化学の分野においてクラウンエーテル、シクロデキストリンに次ぐ、第三の包接化合物として注目されている。
【0003】
カリックスアレーン系化合物は、通常一分子内に多くの水酸基を有し、熱的安定性に優れ、高いガラス転移温度と高融点を有すること、また構造によっては成膜性を有することから、優れた機能性材料として注目されている。例えば、p−メチルカリックス[6]アレーンヘキサアセテートを用いた電子線ネガ型フォトレジストへの応用(例えば、非特許文献1参照)や、カリックス[4]レゾルシンアレーン、架橋剤、光酸発生剤に基づくアルカリ現像型のネガ型フォトレジストへの応用(例えば、非特許文献2参照)等が報告されている。また、カリックスアレーン系化合物を高性能な光硬化材料へ応用することを目的とした、ラジカル重合性官能基、カチオン重合性官能基の導入、および高解像度のレジスト材料への応用を目的とした保護基の導入によるカリックスアレーン系誘導体の合成およびその光反応特性についての評価が報告されている(例えば、非特許文献3、4および5参照)。また、種々のカチオン重合性官能基を有するp−アルキルカリックス[n]アレーン誘導体の合成とその光カチオン重合についての検討が報告されている(例えば、非特許文献6参照)。
【0004】
また、カリックスアレーン系化合物の中でもレゾルシノール系化合物とアルデヒド系化合物との縮合物であるカリックスレゾルシノールアレーン系化合物については、大きなゲストの包接を目的とした検討が種々なされており、レゾルシノール環の化学修飾により空孔をより大きく、深くした誘導体が数多く合成されている。
【0005】
例えば、隣り合うレゾルシノール環の水酸基対を共有結合で架橋するとコーン配座が強固に固定されたかご型のキャビタンドが得られる。このような架橋法として、ジハロメタンを用いるアルキル化(非特許文献7参照)、ジアルキルジクロロシランを用いたシリル化(非特許文献8参照)等が報告されている。また、レゾルシノール系化合物として、CHO(非特許文献9参照)、OH(非特許文献10参照)、CO2R(非特許文献11参照)等の官能基を有する誘導体を用いた例が報告されている。更に、適当な官能基を持つ2種類以上のキャビタントをSN2反応により連結するとカプセル型のカルセランドが得られることも報告されている(非特許文献12参照)。しかし、これらのキャビタント類は反応性基が残っていないために、更なる化学修飾が困難である。
【0006】
【非特許文献1】Y.Ochiai,S.Manako,H.Yamamoto,T.Teshima,J.Fujita,E.Nomura:J.Photopolymer.Sci.Tech.13,413(2000)
【非特許文献2】T.Nakayama,M.Nomura,K.Haga,M.Ueda:Bull.Chem.Soc.Jpn.,71,2979(1998)
【非特許文献3】T.Nishikubo,A.Kameyama and H.Kudo,K,Tsutsui,:J.Polym.Sci.Part.Part A,Polym.Chem,39,1293(2002)
【非特許文献4】T.Nishikubo,A.Kameyama and H.Kudo:Polym.J.,35,213(2003)
【非特許文献5】T.Nishikubo,A.Kameyama and H.Kudo:Am.Chem.Soc,31,363
【非特許文献6】K.Tsutsui,S.Kishimoto,A.Kameyama,T.Nishikubo:Polym.Prep.Jpn.,37,1805(1999)
【非特許文献7】J.R.Moran,S.karbach and D.J.Cram,J.Am.Chem.Soc.,104,5826(1982)
【非特許文献8】D.J.Cram,K.D.Stewart,I.Goldberg and K.N.Trueblood,J,Am.Chem.Soc.,107,2574(1985)
【非特許文献9】M.L.C.Quan and D.J.Cram,J.Am.Chem.Soc.,113,2754(1991)
【非特許文献10】J.C.Sherman and D.J.Cram,J.Am.Chem.Soc.,111,4527(1989)
【非特許文献11】J.C.Sherman and D.J.Cram,J.Am.Chem.Soc.,111,4527(1989)
【非特許文献12】P. Timmerman,W.Verboom,F.C.J.M.van Veggel,W.Hoorn and D.N.Reoinhoudt,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,33,1292(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、化学修飾が容易であるとともに、特徴的な立体構造を有し、かつ、包摂化合物等としての利用が期待される新規なアレーン系化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、p−tert−ブチルフェノールとジアルデヒド化合物を反応させることによって上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、以下に示すアレーン系化合物が提供される。
【0010】
[1] p−tert−ブチルフェノールと、ジアルデヒド類と、を反応させて得られるアレーン系化合物。
【0011】
[2] ジアルデヒド類が1,4−ブタンジアール、1,5−ペンタンジアール、1,6−ヘキサンジアール、1,7−ヘプタンジアール、1,8−オクタンジアール、1,9−ノナンジアール、1,10−デカンジアール、o−フタルアルデヒド、m−フタルアルデヒド、p−フタルアルデヒドおよびビス(3−ホルミル−4−ヒドロキシフェニル)メタンからなる群から選択される少なくとも1種のジアルデヒドである上記[1]に記載のアレーン系化合物。
【0012】
[3] 下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する上記[1]または[2]に記載のアレーン系化合物。
【0013】
【化1】
【0014】
(前記一般式(I)中、nは3〜6の整数を示す)
【発明の効果】
【0015】
本発明のアレーン系化合物は、化学修飾が容易であるとともに、特徴的な立体構造を有し、かつ、包摂化合物等としての利用が期待されるものである。また、本発明のアレーン系化合物を化学修飾することにより、硬化性組成物やレジスト用組成物への応用、および包摂化合物としての利用、更には高機能を有するアレーン系化合物誘導体の中間体としての利用等、幅広い分野における利用が期待される。本発明のアレーン系化合物はまた、製造過程でゲルができにくいという特徴を有し、動的共有結合化学を利用して得られる重合体を効率よく得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0017】
本発明のアレーン系化合物は、p−tert−ブチルフェノールと、ジアルデヒド化合物、を反応させて得られるものである。以下、その詳細について説明する。
【0018】
(p−tert−ブチルフェノール)
本発明においては、原料化合物としてp−tert−ブチルフェノールを使用する。
【0019】
(ジアルデヒド類)
本発明においてはまた、もう一方の原料化合物として、ジアルデヒド類を使用する。好ましいジアルデヒド類としては、1,4−ブタンジアール、1,5−ペンタンジアール、1,6−ヘキサンジアール、1,7−ヘプタンジアール、1,8−オクタンジアール、1,9−ノナンジアール、1,10−デカンジアール、o−フタルアルデヒド、m−フタルアルデヒド、p−フタルアルデヒドまたはビス(3−ホルミル−4−ヒドロキシフェニル)メタンを挙げることができる。これらの原料化合物(B)は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
(p−tert−ブチルフェノールとジアルデヒド類との反応)
本発明のアレーン系化合物は、p−tert−ブチルフェノールとジアルデヒド類とを、例えば溶媒中、触媒の存在下で、0.05時間超、室温〜200℃の温度条件下で脱水縮合反応させることにより製造することができる。用いることのできる溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサノール等のアルコールを挙げることができる。なお、溶媒は、脱水縮合反応の温度に応じて適宜選択することが好ましい。また、用いることのできる触媒としては、塩酸等の酸触媒を挙げることができる。
【0021】
p−tert−ブチルフェノール(以下TBPと省略する場合がある)とジアルデヒド類のモル比に特に制限はないが、収率の観点から、TBP/ジアルデヒド類の値(モル比)が20/1〜20/400程度であるのが好ましい。
【0022】
(立体構造)
上述の反応により得られる本発明のアレーン系化合物の立体構造は特に限定されない。本発明のアレーン系化合物の立体構造は、例えば、図1Aに示すようなラダー型環状オリゴマー、図1Bに示すようなラダー型ポリマー、および図1Cに示すような分岐型ポリマー等であることが推測される。また、本発明のアレーン系化合物の立体構造は、例えば、これら図1A、図1B、および図1Cで表される立体構造を組み合わせた構造であることも推測される。或いは、p−tert−ブチルフェノールとジアルデヒド類とを反応させることにより、図1A、図1B、および図1Cで表されるそれぞれの立体構造を有する化合物の混合物として得られる場合が想定される。
【0023】
本発明のアレーン系化合物としてはまた、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するものも含まれる。
【0024】
【化2】
【0025】
(前記一般式(I)中、nは3〜6の整数を示す)
【0026】
本発明のアレーン系化合物は、化学修飾が可能なフェノール性水酸基(−OH基)をその分子構造中に有するものである。従って、このフェノール性水酸基には、種々の置換基を導入することが可能である。導入可能な置換基の具体例としては、tert−ブトキシカルボニル化をはじめとする保護基、重合性官能基を有する基、アルカリ可溶性基を有する基、置換又は非置換のアルキル基等を挙げることができる。
【0027】
重合性官能基の具体例としては、重合性不飽和構造を有する基、環状エーテル構造を有する基等を挙げることができる。より具体的には、ビニル基、ビニリデン基、アクリロイル基、メタクリロイル基、置換又は非置換のグリシジル基、置換又は非置換のオキセタニル基、置換又は非置換のスピロオルトエステル基等を挙げることができる。また、アルカリ可溶性基としては、カルボキシル基、アミノ基、スルホンアミド基、スルホン酸基、リン酸基等を挙げることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0029】
[赤外吸収スペクトル(IR)の測定]:サーモエレクトロン社製の商品名「Nicolet 380」を使用して赤外吸収スペクトル(IR)を測定した。
【0030】
[核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR、13C−NMR)の測定]:日本電子社製の商品名「JNM−2500」を使用して核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR、13C−NMR)を測定した。
【0031】
[数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)の測定]:合成した試料の数平均分子量(Mn)を、東ソー社製のカラム(商品名「HLC−8220」)を使用し、流量:0〜600ml/min、溶出溶媒:DMF、カラム温度:40℃の分析条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
【0032】
[示差走査熱量測定(DSC)]:セイコーインスツルメンツ社製の商品名「EXSTAR6000/DSC 6200」を使用し、窒素気流下、昇温速度10℃/minの条件で測定した。
【0033】
[質量分析(MS)]:島津製作所/Kratos社製の商品名「AXIMA−CFRplus」を使用した。レーザー条件:N2レーザー(337nm)、Accel Voltage:20kV、Refrectron−positive−mode。サンプル濃度:1mg/mL、Matrix濃度:10mg/mLとした。各溶液の比率は1:1とし、Matrixには、3,4−ジヒドロキシベンゾイックアシッド(DHBA)を用いた。
【0034】
[参考例1〜5:ジアルデヒド類の合成]
酸化剤として塩化クロム酸ピリジウム(PCC)を65g(300mmol)とセライト70gをあわせて粉砕し、塩化メチレン400mlに縣濁させた。さらに塩化メチレン100mlに溶解させたアルカンジオール類(100mmol)を加え、室温で撹拌した。反応後、ジエチルエーテル500ml以上を用いてエーテル層の回収および残渣の洗浄を行い、n−ヘキサンにて未反応のPCCを沈殿させて取り除き、溶媒を減圧留去し、減圧蒸留精製を行った。その結果、透明液体を得た。結果を表1に示す。構造確認は1H−NMRで行った。
【0035】
【表1】
【0036】
(参考例1:1,6−ヘキサンジアール)
収量(収率)2.16g(18.9%)、1H−NMR(500MHz、DMSO、TMS);δ(ppm):1.5(m,4.0H)、2.4−2.5(m,4.0H)、9.6(t,2.0H)、沸点65℃(4.0mmHg)。
【0037】
(参考例2:1,7−ヘプタンジアール)
収量(収率)2.34g(18.3%)、1H−NMR(500MHz、DMSO、TMS);δ(ppm):1.2(m,2.0H)、1.5(m,4.0H)、2.4(m,4.0H)、9.6(t,2.0H)、沸点85℃(4.0mmHg)。
【0038】
(参考例3:1,8−オクタンジアール)
収量(収率)5.23g(36.8%)、1H−NMR(500MHz、DMSO、TMS);δ(ppm):1.2(q,4.0H)、1.5(t,4.0H)、2.3−2.4(m,4.0H)、9.6(s,2.0H)、沸点87℃(4.0mmHg)。
【0039】
(参考例4:1,9−ノナンジアール)
収量(収率)3.36g(24.7%)、1H−NMR(500MHz、DMSO、TMS);δ(ppm):1.2(s,6.0H)、1.5(t,4.0H)、2.3−2.4(m,4.0H)、9.6(s,2.0H)、沸点87℃(4.0mmHg)。
【0040】
(参考例5:1,10−デカンジアール)
収量(収率)6.13g(36.0%)、1H−NMR(500MHz、DMSO、TMS);δ(ppm):1.2(s,8.0H)、1.5(t,4.0H)、2.4(m,4.0H)、9.6(t,2.0H)、沸点90℃(4.0mmHg)。
【0041】
[実施例1〜10:p−tert−ブチルフェノールとジアルデヒド類との反応]
TBP1.50g(10mmol)とジアルデヒド類(2.5mmol)とをエタノール(EtOH)中、80℃で48時間撹拌し反応させた。触媒は12NのHClを使用した。溶媒と触媒の量は、体積比でEtOH/HCl=3/2(v/v)とし、ジアルデヒドが1mol/l(フタルアルデヒドは0.5mol/l)になるよう調整した。
【0042】
反応終了後、反応溶液を塩化メチレンで希釈し、重曹水および水で洗浄した。その後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、溶媒を減圧留去し、白色〜褐色粉末を得た。得られた粉末の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPCによって測定した。結果を表2および図2、3に示す。p−フタルアルデヒドを用いた場合は、水以外の殆どの有機溶媒で膨潤するゲルが生成した。
【0043】
【表2】
【0044】
[実施例11:オリゴマー(中間体)の構造]
p−tert−ブチルフェノール(TBP)1.55g(10mmol)と1,8−オクタンジアール(以下OTAと略する場合がある)0.5mmolとを、12NのHClを触媒として、EtOH中80℃で48時間反応させた。溶媒と触媒の量は、容量比でEtOH/HCl=3/2(v/v)とし、OTAが1mol/lとなるよう調整した。
【0045】
反応終了後、反応溶液を塩化メチレンで希釈し、重曹水および水で洗浄した。その後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、溶媒を減圧留去し、白色〜褐色粉末を得た。この粉末をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;酢酸エチル:n−ヘキサン=2:1)、HPLC(溶媒;クロロホルム)によってMn=1200前後(GPC)の化合物(GPCにおける34.5分付近のピークを示す化合物)のみ単離した。クロロホルムを減圧留去し、塩化メチレンを用いて再結晶を行い、白色針状結晶を得た。構造確認をIR、1H−NMR(図4)、13C−NMR(図5)、DSC(図6)およびMALDI−TOP MS(図7)にて行った。この化合物の構造は式(II)で表される。
【0046】
【化3】
【0047】
融点、178.0〜178.8℃(DSC)、
IR(KBr,cm−1)、3293(γOH)、2959および2864(γC−H)、1498(γC=Cアロマティック)、
1H−NMR(500MHz、CDCL3、TMS)、δ(ppm):1.25(s,44.0H)、2.09−2.13(q,4.0H)、4.43−4.46(t,2.0H)、6.69−6.71(d,4.0H)、7.02−7.05(d,4.0H)、7.32−7.33(d,4.0H)、
13C−NMR(500MHz,CDCl3、TMS)、δ(ppm):27.3、28.9、31.5、33.2、34.2、34.9、115.2、123.7、124.0、130.1、144.0、150.2、
MALDI−TOF MS、Matrix:3,4−ジヒドロキシベンゾイックアシッド(DHBA)、計算値:Exact Mass:706.50、[M+K]+:745.59、[M+2K]+:784.69、[M+3K]+:823.79、実測値:[M+K]+:745.41、[M+2K]+:783.36、[M+3K]+:821.29。
【0048】
図6のDSCチャートにおいて、132.9〜133.9℃付近に発熱ピークが見られた。このことから、単離されたオリゴマー(中間体)は133℃付近において何かしらの反応を起こし別の構造に変化した可能性がある。図4の1H−NMRスペクトルから、単離したオリゴマー(中間体)には若干の不純物が混入していることが分かる。不純物の存在は、オリゴマーが比較的安定性に乏しく光や熱によって分解するという可能性を示しているものと思われる。
【0049】
図7のMSチャートにおいて、aと示されているピークは、一般式(II)の中間体(Exact Mass:706.50)にK+(原子量39.098)が1つ配位したもの、bは2つ、cは3つ配位したものの同位体の分子量にほぼ等しいものとなっている。このことからも、中間体が一般式(II)の構造を有することが裏付けられる。
【0050】
[実施例12:ポリマー(最終生成物)の構造]
原料の仕込み比を、p−tert−ブチルフェノール(TBP):1,8−オクタンジアール(OTA)=20:5とした以外、実施例11と同様にして最終生成物をHPLC(溶媒:クロロホルム)によって単離した。得られたポリマー(最終生成物)の1H−NMRを測定した。結果を図8に示す。
【0051】
図8において、メチル基のピークにはメチレン部位のピークが重なっているものと思われる。ベンゼン環のピークとアルデヒド由来のメチレン鎖のピークの積分比を比べると、オリゴマーよりもメチレン部位が多いことがわかる。
【0052】
[実施例13、14:p−tert−ブチルフェノールとBISA−Fとの反応]
p−tert−ブチルフェノール(TBP)1.50g(10.0mmol)とビス(3−ホルミル−4−ヒドロキシフェニル)メタン(以下、BISA−Fと略すことがある)0.5mmolとを、12NのHClを触媒として用いて、EtOH(EtOH/HCl=3/2、v/v、BISA−F 1mol/l)中、80℃で48時間反応させた。反応終了後、濃桃色の沈殿が生じた。沈殿をTHFまたはクロロホルムに溶解させ、n−ヘキサン中で再沈殿させた。デカンテーションにより沈殿を回収し、n−ヘキサン、THF、クロロホルムで洗浄した。溶媒を減圧留去し赤褐色の粉末固体を得た。その後、粉末の分子量および分子量分布をGPCによって確認した。結果を表3および図9に示す(実施例13)。
【0053】
原料の仕込み比を、TBP:BISA−F=20:5とした以外、実施例13と同様にした。生成物の分子量および分子量分布をGPCによって確認した。結果を表3および図9に示す(実施例14)。
【0054】
BISA−Fは、アルカンジアルデヒド類とは大きく構造が異なるジアルデヒドであり、その反応も異なるものであった。TBPとBISA−Fとの反応生成物はn−ヘキサンに不溶であり、再沈殿によりワークアップすることができた。
【0055】
【表3】
【0056】
[実施例15〜25:TBPとPTAとの反応における仕込比効果]
p−tert−ブチルフェノール(TBP)1.55g(10mmol)とグルタルアルデヒド(1,5−ペンタンジアール;以後PTAと略す場合がある)とを、12NのHCl0.75ml(EtOH/HCl=3/1 v/v)を触媒として用いて、EtOH2.25ml中、80℃で48時間撹拌し、反応させた。PTAの仕込み量を種々変化させた。結果を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
反応終了後、無色透明〜暗褐色の液体が得られた。PTAの仕込み量が増加するに伴い溶液の色が濃くなっていき、粘度が大きくなった。仕込み比20:5以降は黒色の固体部分と無色透明〜褐色の液体部分とに分かれた。仕込み比20:10以降は粘性の上昇に伴い、24時間が経過する前に撹拌が不可能となっていたが、そのまま加熱を続けた。
【0059】
反応終了後、反応溶液(および固体部分)を塩化メチレンで希釈し、飽和重曹水で洗浄した後、水で洗浄した。
【0060】
その後、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、ろ過によって硫酸マグネシウムを除去した。そして塩化メチレンを減圧留去、減圧乾燥し、白色〜褐色粉末を得た。得られた粉末の数平均分子量および分子量分布をGPC(展開溶媒:DMF)によって測定した。結果を図10に示す。
【0061】
[実施例26〜28:TBPとPTAとの反応における触媒量効果]
用いる塩酸の量をエタノールに対して体積比3:1〜3:3の間で変化させた以外は実施例16と同様にしてTBPとPTAとを反応させた。得られた粉末の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPCによって測定した。結果を図11に示す。
【0062】
図11から、35分付近の反応中間体と思われるピーク面積比はEtOH:HCl=3:1のとき、23.57%、3:2のとき30.29%、3:3のとき19.37%であった。3:2のときに最も多く中間体(オリゴマー)が生成されるものと思われる。
【0063】
[実施例29〜35、比較例:TBPとPTAとの反応における経時変化]
p−tert−ブチルフェノール(TBP)1.55g(10mmol)とグルタルアルデヒド(1,5−ペンタンジアール、PTA)0.2g(2.0mmol)とを、12NのHCl1.33mlを触媒として、EtOH2.0ml(EtOH/HCl=3/2 v/v、PTAが1mol/lになるよう調整)中、80℃で撹拌し、経時変化反応を追った。反応溶液の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPCによって測定した。結果を表5および図12に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
表5および図12から、反応時間30分〜48時間の間では、反応率は殆ど変わらないということが分かった。また、反応時間0.05時間(3分)以下では全く反応が進行していないことが分かった。
【0066】
[実施例36〜41:TBPとPTAとの反応における温度効果]
反応温度を種々変化させた以外、実施例16と同様にして(TBP10mmol、PTA2.0mmol)反応を行った。なお、溶媒は80℃以下ではエタノール、100℃以上ではn−ヘキサノールを用いた。得られた生成物のGPCを測定した。結果を表6および図13に示す。
【0067】
【表6】
【0068】
室温以下(rt、0℃、−20℃)では反応しないことが分かっている。表6および図13から、反応温度40℃〜140℃の間では反応率は殆ど変わらないということが分かった。また、溶媒に用いるアルコール類の種類を変えても反応には影響しないということが分かった。
【0069】
[実施例42〜46:TBPとOTAとの反応における仕込比効果]
p−tert−ブチルフェノール(TBP)1.55g(10mmol)と1,8−オクタンジアール(OTA)とを、12NのHClを触媒として用いて、EtOH中、80℃で48時間撹拌し、反応させた。OTAの仕込み量を種々変化させた。なお、溶媒と触媒の量はEtOH/HCl=3/2(v/v)とし、OTAが1mol/lとなるよう調整した。
【0070】
反応終了後、反応溶液を塩化メチレンで希釈し、重曹水および水で洗浄したした。その後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、溶媒を減圧留去し、白色〜褐色粉末を得た。反応母液の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPCによって測定した。結果を図14に示す。
【0071】
20:8でゲルが生成した(ゲル収率45.2%)。他の仕込み比においても、1,5−ペンタンジアール(PTA)を用いた場合に比べて粘性の高い高分子量のものが得られた。仕込むOTAの量が増加すると高分子量のものができると考えられる。35分付近のピークはいわゆる中間体(オリゴマー)のピーク(Mn=1,200GPC)であると思われる。PTAを用いた場合はTBP〜中間体の間にピークは現れなかったが、OTAの場合は、2つピークが出現している。これは中間体からTPBユニットが脱離したものである可能性がある。
【0072】
[実施例47〜50:TBPとOTAとの反応における触媒量効果]
用いる塩酸の量をエタノールに対して体積比3:0〜3:3の間で変化させた以外は実施例44(仕込み比TBP/OTA=20/5)と同様にしてTBPとOTAとを反応させた。反応母液の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPCによって測定した。結果を図15に示す。3:1〜3:3の範囲では、生成物の分子量分布に大きな違いは現れなかった。また、3:0(無触媒)でも反応が進行した。
【0073】
[実施例51〜59:TBPとOTAとの反応における経時変化]
実施例44と同様の反応を行い、経時変化反応を追った。反応溶液の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPCによって測定した。結果を図16に示す。
【0074】
図16から、反応開始直後からすぐに高分子量のものが生成していることが分かる。反応時間が長くなると、25分付近にポリマーのピーク(Mn=31,400)が出現する。
【0075】
また先の仕込み比の検討において仕込み比20:8でゲルが生成したので、仕込み比20:8における経時変化を検討した。結果を図17に示す。図17から、反応時間5〜7時間ではGPCチャートに殆ど違いが見られないのが分かる。実際には、6時間まではゲルは生成せず、7時間において初めてゲルが生成した(ゲル収率24.5%)。
【0076】
[実施例60〜64:TBPとOTAとの反応における温度効果]
反応温度を種々変化させた以外、実施例44と同様にして(仕込み比20:5)反応を行った。なお、溶媒は80℃ではエタノール、120℃および160℃ではn−ヘキサノール、200℃ではn−オクタノールをそれぞれ1.25ml用いた。200℃における反応ではオイルバスから煙が立ち上がり危険だったので、反応開始から7時間経過した時点で反応を終了した。
【0077】
反応終了後、反応溶液を塩化メチレンで希釈し、重曹水および水で洗浄した。その後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、溶媒を減圧留去した。80℃では褐色粉末、120℃から200℃では褐色粘性液体を得た。反応生成物の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPC(溶媒:DMF)によって測定した。結果を表7および図18に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
低温(0℃、−20℃)では反応しないことが分かっている。これらの温度ではTBPが溶媒であるEtOHに溶けきれなくなり析出してくる。PTAを用いた場合は、室温では反応が進行しなかったが、OTAの場合は反応が進行した。また、意外にも120℃の場合は80℃の場合よりも高分子量側にピークが拡がらなかった。この結果から、反応温度を高くすればするほど、高分子量化合物が生成しにくいということが分かった。図18における34.5分付近のピーク面積(表7の面積比、オリゴマー)は160℃で最も大きい値を示している。またTBPのピーク面積比は200℃において最も高くなっている。
【0080】
これは、反応温度が高くなると反応が進行しなくなるということを示しているのではなく、高分子量側から低分子量側への逆反応を示唆しているものと思われる。反応系中において、反応温度80℃までは速度論的制御が大きく作用し高分子量の化合物が生成する。反応温度がそれ以上になると熱力学的制御の作用が大きくなり、高分子量の化合物が生成するものの、可逆的に低分子量のものに戻っているものと推察される。
【0081】
また、図18において34.5分付近のオリゴマーのピークとTBPのピークの間に示されるピークが、反応温度の上昇とともに若干ではあるが高分子量側にシフトし、なおかつシャープになっている。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のアレーン系化合物は、特徴的な立体構造を有し、化学修飾が容易なものである。このため、本発明のアレーン系化合物は、包摂化合物等をはじめとする特殊な機能を示す化合物としての利用が期待されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1A】本発明のアレーン系化合物の立体構造の一例(ラダー型環状オリゴマー)を示す模式図である。
【図1B】本発明のアレーン系化合物の立体構造の他の例(ラダー型ポリマー)を示す模式図である。
【図1C】本発明のアレーン系化合物の立体構造の更に他の例(分岐型ポリマー)を示す模式図である。
【図2】実施例1〜7で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図3】実施例8および9で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図4】実施例11で得たオリゴマー(中間体)の核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)の測定結果を示すチャートである。
【図5】実施例11で得たオリゴマー(中間体)の核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)の測定結果を示すチャートである。
【図6】実施例11で得たオリゴマー(中間体)の示差走査熱量計(DSC)の測定結果を示すチャートである。
【図7】実施例11で得たオリゴマー(中間体)の質量分析(MALDI−TOP MS)の測定結果を示すチャートである。
【図8】実施例12で得たポリマー(最終生成物)の核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)の測定結果を示すチャートである。
【図9】実施例13および14で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図10】実施例15〜25で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図11】実施例26〜28で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図12】実施例29〜35で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図13】実施例36〜41で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図14】実施例42〜46で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図15】実施例47〜50で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図16】実施例51〜56で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図17】実施例57〜59で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【図18】実施例60〜64で得た生成物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すクロマトグラム(溶出チャート)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
p−tert−ブチルフェノールと、ジアルデヒド類と、を反応させて得られるアレーン系化合物。
【請求項2】
ジアルデヒド類が1,4−ブタンジアール、1,5−ペンタンジアール、1,6−ヘキサンジアール、1,7−ヘプタンジアール、1,8−オクタンジアール、1,9−ノナンジアール、1,10−デカンジアール、o−フタルアルデヒド、m−フタルアルデヒド、p−フタルアルデヒドおよびビス(3−ホルミル−4−ヒドロキシフェニル)メタンからなる群から選択される少なくとも1種のジアルデヒドである請求項1に記載のアレーン系化合物。
【請求項3】
下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する請求項1または2に記載のアレーン系化合物。
【化1】
(前記一般式(I)中、nは3〜6の整数を示す)
【請求項1】
p−tert−ブチルフェノールと、ジアルデヒド類と、を反応させて得られるアレーン系化合物。
【請求項2】
ジアルデヒド類が1,4−ブタンジアール、1,5−ペンタンジアール、1,6−ヘキサンジアール、1,7−ヘプタンジアール、1,8−オクタンジアール、1,9−ノナンジアール、1,10−デカンジアール、o−フタルアルデヒド、m−フタルアルデヒド、p−フタルアルデヒドおよびビス(3−ホルミル−4−ヒドロキシフェニル)メタンからなる群から選択される少なくとも1種のジアルデヒドである請求項1に記載のアレーン系化合物。
【請求項3】
下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する請求項1または2に記載のアレーン系化合物。
【化1】
(前記一般式(I)中、nは3〜6の整数を示す)
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−196918(P2009−196918A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39024(P2008−39024)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】
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