説明

アロエを用いた抗菌防臭性繊維素材

【要 約】
【課 題】現在一般的に使用されている人工有機系抗菌剤や無機系(金属系)抗菌剤は、安価で強力な抗菌性が付与できるものの、環境への負荷が大きい、人体への有害性がある、アレルギーの原因となりうるなどの課題を有していた。
【解決手段】繊維表面に、健康食品や化粧品として広く用いられているキダチアロエの粉末あるいは熱水抽出物を繊維表面へ塗布することで、繊維に主に抗菌防臭効果を付与させる。キダチアロエは天然物由来なので、環境への負荷や人体への副作用も小さい。さらに耐熱性もあるので、染色加工にも用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原性微生物の発生や繁殖を抑制することができる天然物由来抗菌剤であるアロエを用いた抗菌防臭効果などの効果を有する機能性繊維素材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、O−157細菌や黄色ブドウ球菌による食中毒事件など、各種の細菌が原因となる事件が多発している。この他にも、MRSAや緑膿菌、肺炎かん菌などによる院内感染による被害も恒常的に発生しており、現代医療にとっては大きな課題となっている。また、梅雨から夏場の時期には湿気が増大し、換気不足による細菌、カビ、ダニ等も発生する。このような状況下にあって、消費者の間には抗菌加工製品に対する関心が近年著しく高まっており、様々な抗菌加工製品が市場に出回っている。具体的には繊維製品のみならず、キッチン製品、バス・トイレ用品、家電製品等の多岐にわたる製品で抗菌加工が施されている。
【0003】
また、食品、医薬品、化粧品などの各種製品の品質を長期間保存するためには、微生物による腐敗およびそれに伴う悪臭の発生を防ぐ必要がある。
【0004】
従来より、繊維素材にはカビや微生物の発生や繁殖を抑制したり或いは死滅させる抗菌剤(滅菌剤)が使用されている。例えば、無機系の抗菌剤としては最も汎用的に用いられている銀系無機抗菌剤他、銅や亜鉛系の金属イオンの抗菌性を利用した抗菌剤や、有機系抗菌剤としては第4級アンモニウム塩やフェノール類やアルコール類を用いたものがある。
【0005】
特に、近年では、繊維製品の抗菌加工には、安価であること、強力な抗菌性を付与できること、人体に対する影響が少ないとされることなどから、抗菌剤として銀系の抗菌剤を用いる方法が一般的になってきている。
【0006】
銀イオンによる抗菌性繊維製品は、銀イオンが溶出することにより抗菌性が発現する溶出型薬剤が多く、この溶出型薬剤の担体として、ゼオライト、粘土鉱物、ガラス等が用いられている。また、これらの抗菌剤とバインダー樹脂とを含む混合液を繊維製品に含浸させ、乾燥させることにより抗菌性を付与させる方法や、スプレーなどを用いて、抗菌剤を含む混合液を繊維に吹き付けるという方法、さらには、プラスチックや合成繊維の溶融時にこれらの抗菌剤を練り込むことによって、抗菌効果を付与させる方法も挙げられる。
【0007】
天然物由来の抗菌剤としては、ヒノキチオール等の植物精油や、植物抽出液、甲殻類の殻を原料としたキチン、キトサンやホタテやカキの貝殻を焼成処理することによって得られる焼成貝殻粉末等が挙げられる。(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
【0008】
【特許文献1】特許公開2005−132804(請求項2)
【特許文献2】特許公開2001−329463(請求項1〜2)
【特許文献3】特許公開平5−148758
【特許文献4】特許公開2002−121554
【0009】
また、細菌、ウィルスおよび特に真菌を含む任意の微生物に対して任意の環境で有毒または成長抑制性である抗菌タンパク質をサトウダイコンより単離する方法も挙げられている。この抗菌タンパク質は、使用用途こそ限られてはいるものの、天然由来抗菌性物質の一つとして、今後の実用化が期待されている。(例えば、特許文献5)
【0010】
【特許文献5】特許公開平6−340696
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の金属系抗菌剤の抗菌性を発揮するもととなっている金属イオンは、人体への有害性や環境汚染の観点から、その使用を制限されていたり、飲料水中の基準値が設けられているものも多い。また、金属系抗菌剤の中で、比較的人体に対する有害性が低いとされている銀系抗菌剤も、塩素などのハロゲン系成分と結合してハロゲン化銀となると殺菌力が減少するという欠点を有する。さらに、銀系無機抗菌剤は、熱、光により変色し、尿硫黄化合物存在下でもその効果を失うという欠点もあるため、抗菌剤として不十分であった。
【0012】
また、第4級アンモニウム塩をはじめとした人工有機系抗菌剤についても、使用を制限されているものや基準値の設定されているものも多い。さらに、これらの抗菌剤は人体に対するアレルギー反応などの副作用、草木に対する毒性の問題などから、環境に対する負荷が大きいため、みだりに廃棄することができないという問題もある。
【0013】
また、天然系抗菌剤であるヒノキチオールのような精油成分は、熱によって容易にその効果を失い、また、揮発性であるので、十分に密閉性を有する空間内でなければその効果は低いものであった。
【0014】
一方、サトウダイコンより単離された抗菌タンパク質も、環境に対する負荷は比較的少ないものの、アミノ酸の重合体であるため、オートクレーブ等の熱処理や、極端な酸やアルカリ処理、繊維加工薬剤によって、その機能を失ってしまうなど、耐久性に問題があることから、繊維表面に吸着させる等の染色加工には適さない。以上のことから、人体や環境に対する負荷が少なく、繊維加工にも適用可能な抗菌剤が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、染色課程において織り編物、糸、不織布等の繊維原料にキダチアロエ乾燥葉の熱水抽出液あるいはアロエ乾燥葉そのものあるいはアロエ生葉を圧搾したあとの絞りかすを粉砕機等で粉末状に加工したものを繊維集合体に処理することで抗菌防臭効果、抗皮膚炎症効果、抗アレルギー効果、抗アトピー効果を付与させる。
【0016】
アロエはすでに健康食品や化粧品として利用されているため、その知名度は高く、また、植物であるので過剰な経口摂取を行わない限り人体への有害性も無く、廃棄を行っても環境への負荷は全くない。また、アロエ生葉を圧搾した後の絞りかすを用いた場合には、本来廃棄物であったもののリサイクルにも繋がるものとなる。
【0017】
さらに、アロエの中でもキダチアロエは、日本で最も一般的に栽培されている品種であるので、入手もしやすいという長所もある。
【発明の効果】
【0018】
本発明で用いるアロエは、天然物由来で水溶性成分中に抗菌成分が含まれているので、あらゆる繊維素材に適用が可能であり、さらに耐熱性もあるので染色加工工程においてもその抗菌効果を失うことが無い。また、プリント加工時に顔料あるいは染料中にキダチアロエ乾燥葉の熱水抽出液あるいはアロエ乾燥葉粉末あるいはアロエ生葉を圧搾した後の絞りかすを混合することによって、繊維表面に着色と抗菌防臭加工を同時に行うことも可能である。
【0019】
キダチアロエは昔から様々な薬効作用が報告されており、健康食品や化粧品として用いられている。さらに、このように処理した繊維集合体をマスクや枕カバー、衣服、カーテン、壁紙等として使用することによって消毒殺菌や抗菌防臭効果を生じさせ、なおかつ人体への副作用や、環境への負荷も少ない抗菌性繊維素材を提供することが可能となる。
【0020】
特に、アロエ粉末や、アロエ生葉を圧搾した後の絞りかすを用いた抗菌性繊維集合体は少なくとも、黄色ブドウ球菌、肺炎かん菌、大腸菌、緑膿菌に対して強力な抗菌性能を示し、なおかつ、少なくともアンモニアガスに対する消臭性が確認された。
【0021】
また、アロエ抽出液を用いた場合でも、少なくともグラム陽性細菌である黄色ブドウ球菌に対する抗菌性と、アンモニアガスに対する消臭性が確認された。
【0022】
従って、本発明は繊維業界のみならず、医療、食品、化粧品分野など幅広い分野への応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、具体的な加工方法および、機能性試験結果に関する記述を行うが、当然の事ながら、この記述が本特許の請求範囲を制限するものではなく、その使用用途や目的によって適宜変更することが可能である。
【0024】
まず、キダチアロエ乾燥葉を粉砕機等を用いて粉末状に加工した。次に、ノニオン系乳化増粘剤、水、ターペンよりなるレジューサーとアクリル酸エステル系樹脂エマルジョンよりなるバインダー樹脂が100:1〜3:1の間の任意の割合で混合されたものの中に重量比にして0.1〜10%となるようにキダチアロエ乾燥葉粉末を混合し、十分に攪拌した後、シルクスクリーンを用いるプリント加工技術を用いて不織布等の繊維素材上に均一に塗布する。また、上記粉末には、キダチアロエ乾燥葉を水もしくはアルコール類による抽出を行い、十分に圧搾した後の絞りかすを用いてもよい。
【0025】
キダチアロエ乾燥葉の熱水抽出液を用いる場合には、ノニオン系乳化増粘剤、水、ターペンよりなるレジューサーとアクリル酸エステル系樹脂エマルジョンよりなるバインダー樹脂が100:1〜3:1の間の任意の割合で混合されたものの中に重量比にして1%〜50%になるように上記熱水抽出液を混合し、十分に攪拌した後、アロエ粉末を用いた場合と同様にプリント加工技術を用いて不織布等の繊維素材上に均一に塗布する。
【0026】
本発明に使用するキダチアロエ熱水抽出液は、キダチアロエの乾燥葉をボールミルを用いて粉砕することで粉状にし、浴比1:10の割合で蒸留水を混合して、95℃まで加熱する。それから、95℃のまま15分間保持し、その後は自然冷却によって常温まで冷却することで得られる。3000rpm、15分間の遠心分離処理によって、キダチアロエ乾燥葉の残さを取り除いたものを用いてもよい。
【実施例1】
【0027】
キダチアロエ乾燥葉を粉砕機等を用いて粉末状に加工した。次に、ノニオン系乳化増粘剤、水、ターペンよりなるレジューサーとアクリル酸エステル系樹脂エマルジョンよりなるバインダーが8:1の割合で混合されたものの中に重量比にして10%となるようにキダチアロエ乾燥葉粉末を混合し、十分に攪拌した後、プリント加工技術を用いてレーヨン不織布に均一に塗布することによって、抗菌防臭性不織布を得た。以下、表1にJIS L1902繊維製品の抗菌性試験方法による抗菌性定量性試験の結果を、また、表2にアンモニアガスに対する消臭性試験の結果を示す。
【0028】
なお、本実施例で用いたノニオン系乳化増粘剤は、新中村化学(株)のビスコンS−500HNを用い、アクリル酸エステル系樹脂エマルジョンよりなるバインダーとして、(株)大日精化の一般捺染用バインダー353(M)を用いた。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
このように、本発明で得られた抗菌性不織布は、グラム陽性細菌である黄色ブドウ球菌、グラム陰性細菌である肺炎かん菌、大腸菌に対して高い抗菌性能を有し、なおかつアンモニアガスに対する消臭効果も有しているという結果が出た。
【実施例2】
【0032】
実施例1のキダチアロエ乾燥葉粉末の代わりに、キダチアロエ乾燥葉の熱水抽出液をレジューサーおよびバインダーの混合液中に重量比にして30%になるように混合したこと以外は実施例(1)と同様にして抗菌性レーヨン不織布を得た。以下、表3に抗菌性試験結果を、表4に消臭性試験結果を示す。
【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
このように、キダチアロエ乾燥葉粉末の熱水抽出液で処理したレーヨン不織布においても、グラム陽性細菌である黄色ブドウ球菌に対して高い抗菌性能を有し、なおかつアンモニアガスに対する消臭効果も有しているという結果が出た。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、抗菌マスクや枕カバー、紙おむつ等の医療製品のみならず、衣料製品や、例えばプラスチックシート上にアロエ粉末を塗布することによって抗菌防臭性壁紙などの産業用資材の用途にも適用することができる。また、発泡ウレタン上に直接塗布あるいは不織布等に塗布したものを接着させることによって、手すりやハンドルにも適用できるために、自動車などの機械部品として利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】キダチアロエ乾燥葉粉末を不織布上に塗布する方法を示した説明図である。(実施例1)
【図2】キダチアロエ抽出液を不織布上に塗布する方法を示した説明図である。(実施例2)
【符号の説明】
【0038】
1 レーヨン不織布
2 シルクスクリーン
3 シルクスクリーン上に均一に塗布するためのスキージ
4 レジューサー、バインダー、キダチアロエ乾燥葉粉末の混合物
5 レジューサー、バインダー、キダチアロエ熱水抽出液の混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化増粘剤、水、有機溶剤よりなるレジューサーと、バインダー樹脂とを100:1〜3:1になるように混合した混合液中にアロエ乾燥葉粉末あるいはアロエ生葉を圧搾した後の絞りかすを重量比にして、0.1%〜10%の割合になるよう混合したものを、任意の柄がデザインされたシルクスクリーンとスキージとを用いて、織物、編物、不織布などからなる繊維素材表面上に均一に塗布することにより、抗菌防臭効果を持たせる機能性加工方法。
【請求項2】
乳化増粘剤、水、有機溶剤よりなるレジューサーと、バインダー樹脂とを重量比にして100:1〜3:1になるように混合した混合液中に、アロエ抽出液が重量比にして1%〜50%の割合になるように混合したものを、任意の柄がデザインされたシルクスクリーンとスキージとを用いて織物、編物、不織布などからなる繊維素材表面上に均一に塗布することにより、抗菌防臭効果を持たせる機能性加工方法。
【請求項3】
アロエ抽出液中にアクリル酸エステル系樹脂エマルジョンよりなるバインダー樹脂を浴比5:1〜100:1になるように混合した混合溶液中に、織物、編物、不織布などからなる繊維素材表面を含浸することによって抗菌防臭効果を持たせる機能性加工方法。
【請求項4】
バインダー樹脂がウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂およびアクリル系樹脂のうち少なくとも1種類よりなることを特徴とした請求項1〜3に記載の機能性加工方法。
【請求項5】
乳化増粘剤がポリオキシエチレン系乳化増粘剤、アクリル系乳化増粘剤および天然系乳化増粘剤のうち少なくとも1種類よりなることを特徴とした請求項1〜2に記載の機能性加工方法。
【請求項6】
有機溶剤が塩素系溶剤、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤のうち少なくとも1種類よりなることを特徴とした請求項1〜2に記載の機能性加工方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の機能性加工方法を用いて作られた抗菌防臭性を有する機能性繊維素材
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の機能性加工方法を用いて作られた機能性繊維素材を少なくともその1部分に用いてなるマスク、枕カバー、紙おむつ、壁紙、手すりカバー、靴下および肌着から選ばれてなる衛生材料あるいは日用品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−231593(P2008−231593A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69875(P2007−69875)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【出願人】(593105863)株式会社 平田農園 (2)
【出願人】(507089425)野口染色株式会社 (3)
【Fターム(参考)】