説明

アロフェン組成物及びその製造方法

【課題】不純物を含まないアロフェン組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】珪素およびアルミニウムを含む無機素材から、珪素とアルミニウムとを抽出する抽出工程と、この抽出工程で抽出された珪素とアルミニウムとを混合させた溶液を形成し、この混合溶液を中性に調整する調整工程と、調整工程による調整後の混合溶液を加熱処理する加熱処理工程と、加熱処理工程で得られた生成物を分離する分離工程を経てアロフェン組成物を生成する。抽出工程は、無機素材から珪素及びアルミニウムの両方を抽出する第1抽出工程と、無機素材からアルミニウムを抽出する第2抽出工程とを有してもよい。また、珪素およびアルミニウムを含む無機素材は、石炭灰を用いるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、環境浄化資材として利用可能なアロフェン組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アロフェンは、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)、及び水素(H)から組み立てられて、Si−O−Al結合を多数含む和水ケイ酸アルミニウムであり、天然アロフェンにあっては、X線回折図上に鋭い反射ピークを示さないことなどから、一般的には非晶質無定形であるとされている。しかしながら、実際には、直径35〜50Åの中空球状の単位粒子が多数集合したナノボール形態を有しているため、全く無定形なものではない。このため、天然アロフェンは、高い比表面積(活性炭の100倍以上の表面積)を持ち、吸着能力、浄化脱臭能力に優れていることから、フッ化物イオンやリン酸イオン等の陰イオンをも強く結合保持する特性があり、この特性を活用することで、水質の浄化、有害物質の固定と拡散防止など、様々な環境浄化資材として利用することが可能である。
【0003】
このようなアロフェンの製造方法としては、珪素およびアルミニウムを含む無機成分に、アルカリ水溶液を加えて加熱溶解した後、アルミニウムとキレート化合物を作らない酸性溶液を加え、微酸性にした後に加熱することでアロフェンを製造する方法が考えられている(特許文献1参照)。
【0004】
珪素(Si)およびアルミニウム(Al)を含む無機成分としては、SiやAlを多量に含み、成分的にアロフェンと類似した石炭灰を用いることが好ましく、上述した従来の製法を利用する場合には、同文献の図4に示されるように、石炭灰に水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液を添加し、次いで、混合溶液を加熱処理して石炭灰をアルカリ溶液に溶解させる。次に、濃塩酸等の酸性溶液を添加してpH5.0〜6.5の微酸性にし、その後、再度加熱処理してアロフェンを製造する。
【特許文献1】特開2000−178021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した製造方法においては、石炭灰をそのままアルカリ溶液に溶解させ、また、酸性溶液に溶解させるようにしているので、石炭灰中に混在する不純物がそのまま残存し、不純物を含むアロフェンが生成されることとなり、吸着能力や浄化脱臭能力等が期待するほど充分には高くならない不都合がある。
【0006】
また、天然アロフェンのような中空球状の形態を有するナノボール形態を合成することは困難であり、しかも、天然アロフェンは、ケイバン比(Si/Al原子比)が約0.5〜1.0であるため、吸着特性等も凡そ決まった特性を有しており、吸着特性等の諸機能を大きく変更することができないものであった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、不純物を含まない非定形なアロフェン組成物とその製造方法、特に、吸着能や浄化脱臭能で代表される諸機能を制御することが可能な製造方法を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、この発明にかかるアロフェン組成物は、珪素およびアルミニウムを含む無機素材から、珪素とアルミニウムとを抽出する抽出工程と、この工程で抽出された珪素とアルミニウムとを混合させた溶液を形成し、この混合溶液を中性に調整する調整工程と、前記調整工程による調整後の混合溶液を加熱処理する加熱処理工程と、前記加熱処理工程で得られた生成物を分離する分離工程とを含む製造方法より生成された組成物であることを特徴としている。
【0009】
したがって、上述したアロフェン組成物によれば、珪素とアルミニウムとを一旦抽出し、その後、これらを混合させた上で生成されるので、不純物が混在することがなくなる。しかも、合成された組成物は、ナノボール形態のような明確な形を持たない無定形なものとなるため、天然アロフェンとは構造が全く異なる。
【0010】
ここで、珪素とアルミニウムとを抽出する抽出工程は、無機素材から珪素とアルミニウムとを抽出する第1抽出工程と、前記無機素材からアルミニウムを抽出する第2抽出工程とを含むものであってもよい。
また、珪素およびアルミニウムを含む無機素材としては、珪素とアルミを多量に含み、成分的にアロフェンと類似した石炭灰を用いるとよい。
【0011】
例えば、無機素材として石炭灰が用いられる場合には、第1抽出工程として、石炭灰に水酸化ナトリウム水溶液を添加して珪素とアルミニウムとを加熱溶解し、珪素及びアルミニウムをケイ酸ナトリウム及びアルミン酸ナトリウムとして抽出する工程を採用し、また、第2抽出工程として、石炭灰に塩酸を添加してアルミニウムを加熱溶解し、アルミニウムを塩化アルミニウムとして抽出する工程を採用してもよい。
【0012】
尚、上述した方法により製造されるアロフェン組成物は、ケイバン比(Si/Al原子比)を0.1〜10の範囲で設定するとよい。0.1より低すぎるケイバン比では、和水アルミナゲルが少量のケイ素成分を強く吸着した状態の物質となり、また、10より高すぎるケイバン比では、和水シリカゲルが少量のアルミニウム成分を強く吸着した状態の物質となり、ケイ酸アルミニウム構造をとりにくくなるためである。
上述の方法によれば、抽出された珪素とアルミニウムとの混合割合を調整することでケイバン比を制御することが可能となるので、吸着能・浄化脱臭能で代表される諸機能を制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように、本発明によれば、珪素およびアルミニウムを含む無機素材から、珪素(Si)とアルミニウム(Al)とを抽出し、この抽出した珪素とアルミニウムとを混合させた混合溶液を中性に調整した上で混合溶液を加熱処理し、それによって得られた生成物を分離してアロフェン組成物を製造するようにしたので、不純物を含まない無定形なアロフェン組成物を容易に合成することが可能となり、天然アロフェンと同等の吸着能や浄化脱臭能等を備えつつも構造や組成が天然アロフェンとは異なる組成物を製造することが可能となる。
【0014】
また、上述の製法によれば、石炭灰から珪素とアルミニウムとを抽出し、それを後でアロフェンに構造を組み直すので、この組み換えの段階で珪素(Si)とアルミニウム(Al)との混合割合(ケイバン比=Si/Al原子比)を制御することが可能となり、吸着特性等の諸機能を制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の最良の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0016】
本発明にいうアロフェンは、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)、及び水素(H)を主な構成元素とし、多数のSi−O−Al結合で組み立てられた和水珪素アルミニウムであり、中空球状の壁を形成している化学構造を有している。
【0017】
このアロフェンは、図1に示すように、珪素およびアルミニウムを含む無機素材から、珪素とアルミニウムとを抽出する抽出工程と、この抽出工程で抽出された珪素とアルミニウムとを混合させた溶液を形成し、この混合溶液を中性に調整する調整工程と、調整工程による調整後の混合溶液を加熱処理する加熱処理工程と、加熱処理工程で得られた生成物を分離する分離工程とを経て生成される。
【0018】
ここで、珪素およびアルミニウムを含む無機素材とは、珪素およびアルミニウムが珪素アルミニウム塩として含まれる無機素材であって、石炭の燃料灰である石炭灰などを用いるとよい。
【0019】
この珪素およびアルミニウムを含む無機素材から、珪素とアルミニウムとを抽出する工程は、無機素材から珪素及びアルミニウムの両方を抽出する第1抽出工程、より具体的には、石炭灰に水酸化ナトリウム水溶液を添加して珪素とアルミニウムとを加熱溶解し、珪素及びアルミニウムをケイ酸ナトリウム及びアルミン酸ナトリウムとして抽出する第1抽出工程と、無機素材からアルミニウムを抽出する第2抽出工程、より具体的には、石炭灰に塩酸を添加してアルミニウムを加熱溶解し、アルミニウムを塩化アルミニウムとして抽出する第2抽出工程とを含むとよい。
【0020】
このような構成においては、第1抽出工程で珪素(Si)とアルミニウム(Al)との両方を抽出することができるが、アロフェンの合成に必要なアルミニウム(Al)の絶対量が不足するため、第2抽出工程でアルミニウム(Al)のみを抽出することで絶対量の不足を補うことができる。
【0021】
また、抽出工程で得られた珪素とアルミニウムとの混合溶液を中性に調整する調整工程は、pHを6〜7に調整する工程である。これは、アルカリ溶液のままで合成すると、後の加熱処理によりゼオライトが生成され、アロフェンが生成されなくなるためである。
【0022】
中性に調整された混合溶液の加熱は、前記抽出工程での加熱溶解処理の温度よりも高く、また、抽出工程での加熱溶解処理の加熱時間よりも長い時間行われるもので、例えば、95℃〜100℃で24時間行われる。
【0023】
加熱処理して得られた生成物を分離する分離工程は、例えば、反応生成物を遠心分離法で分離する工程であり、分離された生成物は水洗いした後に乾燥するとよい。
以下、実施例を記載する。
【実施例】
【0024】
[実験方法]
石炭灰の20gを秤り、還流冷却管を立てた1リットル容の三角フラスコに入れた。これに、濃度0.5Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を200mlほど添加し、ホットプレート上で加熱(約80℃、2時間)した。その後、上澄みを遠心分離法にて採取し、溶液Aを得た。この処理により、石炭灰から珪素(Si)とアルミニウム(Al)とを溶解し、ケイ酸ナトリウムとアルミン酸ナトリウムの溶液が生成される。
【0025】
次に、同様の方法で、三角フラスコに秤取した石炭灰に、濃度0.5Mの塩酸(HCl)を200mlほど添加し、同じ条件で加熱した。加熱後、上澄みを採取して、溶液Bとした。この処理により、石炭灰からAlを溶解し、塩化アルミニウム溶液が生成される。
【0026】
その後、溶液AとBとを混合して、pHを6〜7に調整した。この混合溶液を、還流冷却管を立てた1リットル容の三角フラスコに移し、ホットプレート上で、95〜100℃にて24時間ほど加熱反応した。この反応で得た生成物を、遠心分離法で分離した。生成物を水洗した後、乾燥して、粉末試料を得た。
【0027】
粉末試料について、X線回折測定及び赤外吸収スペクトル測定を行った。X線回折の測定は、粉末無配向法で行った。装置は、リガク製X線回折装置を用いて、X線管球(対陰極:銅、管球電圧:30kV,管球電流:15mA)、X線(CuKα)、発散スリット(変動角度)、散乱スリット(4.2°)、受光スリット(0.3mm)、スキャン速度(2°/分)、走査範囲(3〜60°)の測定条件を設定した。赤外吸収スペクトルの測定は、KBr法で行った。粉末試料の1mgを臭化カリウム粉末の200mgに加えて、乳鉢でよく混合した後、加圧式錠剤形成器で、デスク(直径13mm、厚さ0.8mm)を作成した。このデスクを、島津製作所製フーリエ変換赤外吸収スペクトル測定装置にセットして、波数(波長1cm当たりの波の数)4500cm−1から750cm−1まで、積算回数50回の測定を行った。
【0028】
[実験結果及び考察]
試料のX線回折測定結果を図2に示す。
横軸は、2θで示した回折角度、縦軸は、cpsで示した、回折角度である。どの回折角度においても、鋭い回折ピークは認められない。角度23°付近に非常にブロードな回折帯を示す。典型的な、非晶質回折パターンである。
【0029】
試料の赤外吸収スペクトル測定結果を図3に示す。
横軸には、波数を、縦軸には透過率を%で示した。試料は3つの大きな赤外吸収帯を持っていることが分かる。つまり、最大吸収波数が3446.6cm−1の大きな吸収帯、1652.9cn−1の小さな吸収帯、および、1002.9cm−1の比較的大きな吸収帯である。これら波数の値から、最初の吸収は、シラノール基(Si−OH)とアルミノール基(Al−OH)のOとHの結合間の伸縮振動に、次の小さな吸収は水分子のH−O−Hの変角振動に、最後の吸収はSi−Oの伸縮振動(OにAlが結合した)に、それぞれ由来することがわかる。
【0030】
以上のX線回折と赤外吸収スペクトルの測定結果から、試料は、非結晶無定形であり、水分子を水酸基(OH)を持っていることから和水物であって、Si−O−Al結合を含んでいることが明らかになった。このことから、試料は、天然産でないものの、非晶質和水ケイ酸アルミニウムと定義されるアロフェンであることがわかる。
【0031】
したがって、石炭灰のみを原料として、アロフェンが合成可能であることを確認できた。また、上述の製法によれば、石炭灰から珪素(Si)とアルミニウム(Al)を抽出し、それを後でアロフェンに構造を組み直すので、この組み換え段階で珪素(Si)とアルミニウム(Al)との混合割合(ケイバン比=Si/Al原子比)などを制御することで、合成物の吸着特性等の諸機能を、合成者が自由に選択することが可能となる。
【0032】
発明者らの研究によれば、上述した製法により、ケイバン比(Si/Al原子比)を0.1〜10の範囲で変化させることができることを確認しており、天然アロフェンのケイバン比が凡そ0.5〜1.0であるのに比べて、0.5以下および1.0以上を含む幅広い範囲で組成を変更させることができる。特に、ケイバン比が、0.5〜1.0の範囲を外れてくると、ナノボール状の構造を維持することが化学的に困難であるため、上述した製法は、0.5〜1.0の範囲を外れた組成のアロフェン組成物を生成する場合に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、アロフェンを合成する本発明の手法を説明するブロック図である。
【図2】図2は、X線回折測定結果を示す図である。
【図3】図3は、赤外吸収スペクトル測定結果を示す図である。
【図4】図4は、アロフェンを合成する従来の手法を説明するブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素およびアルミニウムを含む無機素材から、珪素とアルミニウムとを抽出する抽出工程と、
この工程で抽出された珪素とアルミニウムとを混合させた溶液を形成し、この混合溶液を中性に調整する調整工程と、
前記調整工程による調整後の混合溶液を加熱処理する加熱処理工程と、
前記加熱処理工程で得られた生成物を分離する分離工程と
により生成されることを特徴とするアロフェン組成物。
【請求項2】
前記抽出工程は、前記無機素材から珪素及びアルミニウムの両方を抽出する第1抽出工程と、前記無機素材からアルミニウムを抽出する第2抽出工程とを含むものであることを特徴とする請求項1記載のアロフェン組成物。
【請求項3】
前記無機素材は、石炭灰であることを特徴とする請求項1又は2記載のアロフェン組成物。
【請求項4】
前記第1抽出工程は、前記無機素材として石炭灰を用いる場合に、前記石炭灰に水酸化ナトリウム水溶液を添加して珪素とアルミニウムとを加熱溶解し、前記珪素及びアルミニウムをケイ酸ナトリウム及びアルミン酸ナトリウムとして抽出する工程であることを特徴とする請求項2記載のアロフェン組成物。
【請求項5】
前記第2抽出工程は、前記無機素材として石炭灰を用いる場合に、前記石炭灰に塩酸を添加してアルミニウムを加熱溶解し、前記アルミニウムを塩化アルミニウムとして抽出する工程であることを特徴とする請求項2記載のアロフェン組成物。
【請求項6】
ケイバン比が0.1〜10の割合であることを特徴とする請求項1乃至5記載のアロフェン組成物。
【請求項7】
珪素およびアルミニウムを含む無機素材から、珪素とアルミニウムとを抽出する抽出工程と、
この工程で抽出された珪素とアルミニウムとを混合させた溶液を形成し、この混合溶液を中性に調整する調整工程と、
前記調整工程による調整後の混合溶液を加熱処理する加熱処理工程と、
前記加熱処理工程で得られた生成物を分離する分離工程と
を含むことを特徴とするアロフェンの製造方法。
【請求項8】
前記抽出工程は、前記無機素材から珪素及びアルミニウムの両方を抽出する第1抽出工程と、前記無機素材からアルミニウムを抽出する第2抽出工程とを含むものであることを特徴とする請求項7記載のアロフェンの製造方法。
【請求項9】
前記無機素材は、石炭灰であることを特徴とする請求項7又は8記載のアロフェンの製造方法。
【請求項10】
前記第1抽出工程は、前記無機素材として石炭灰を用いる場合に、前記石炭灰に水酸化ナトリウム水溶液を添加して珪素とアルミニウムとを加熱溶解し、前記珪素及びアルミニウムをケイ酸ナトリウム及びアルミン酸ナトリウムとして抽出する工程であることを特徴とする請求項8記載のアロフェンの製造方法。
【請求項11】
前記第2抽出工程は、前記無機素材として石炭灰を用いる場合に、前記石炭灰に塩酸を添加してアルミニウムを加熱溶解し、前記アルミニウムを塩化アルミニウムとして抽出する工程であることを特徴とする請求項8記載のアロフェンの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−143721(P2008−143721A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329292(P2006−329292)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】