説明

アンカーボルト耐震工法

【課題】アンカーボルトに対する地震作用を緩和して、地震によるアンカーボルトの損傷や破断を軽減ないし遅延するための耐震工法を提供する。
【解決手段】コンクリート17中に埋設されたアンカーボルト16の定着板21と、そのアンカーボルト16の定着板21より下方に螺合され、前記定着板21にアンカーボルトの引張力を伝達する下部ナット22との間に金属塑性体からなるエネルギ吸収部材23を介在し、そのエネルギ吸収部材23の塑性変形によって地震エネルギを吸収させることにより、アンカーボルト16に対する地震作用を緩和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎コンクリート中に埋設されたアンカーボルトを介してベースプレート等を締付け固定することにより、鉄骨柱を基礎コンクリートの所定位置に立設する露出型柱脚などに好適なアンカーボルト耐震工法に関する。
【背景技術】
【0002】
基礎コンクリート中に埋設したアンカーボルトを用いて鉄骨柱のベースプレートを基礎コンクリートに対して締付け固定する露出型柱脚の場合においては、アンカーボルトの上部露出部に螺合した締付けナットを用いてベースプレートの上面を直接的に締付けることにより、基礎コンクリート上の所定位置に鉄骨柱を立設するという手法が広く採用されている。
【0003】
ところで、以上の従来技術においては、アンカーボルトに螺合した締付けナットによりベースプレートの上面を直接的に締付けるという手法を採用していたことから、地震時の躯体の揺れによって柱脚部に作用する回転モーメントがアンカーボルトに引張荷重として直接的に伝達された。そして、地震に基づいて作用するアンカーボルトに対する引張荷重がアンカーボルトの降伏耐力以下であれば弾性変形の範囲で収るが、降伏耐力を超えれば塑性変形が生じ、さらに最大引張耐力に達した場合には、やがて破断することになる。したがって、地震規模が小さく弾性変形の範囲内で収れば、柱脚部や躯体に及ぼす地震の影響は少なく、あとに残る損傷もなく特に問題はないが、地震規模が大きくなるにつれて、アンカーボルトに塑性変形が生じるようになると、地震後にアンカーボルトを掘起して交換する等の厄介な修復作業が必要とされる場合も生じた。また、更に損傷が大きくなると、建直しが必要となる場合もあった。いずれにしても、地震後の対処に大きな費用負担が必要とされた。さらに、アンカーボルトが破断するような事態に至れば、建物の倒壊などによる人命等に対する被害も問題になった。
【0004】
他方、塑性変形能力の低い材質からなるアンカーボルトを使用した場合には、地震エネルギを吸収しきれずに破断して建物が倒壊する危険を伴うという問題があった。このため、例えば塑性変形能力の低い高張力鋼をアンカーボルトの素材として使用する場合には、その降伏耐力の50〜60%の強度として設計せざるを得ないのが実状であった。すなわち、高張力鋼としての優れた能力を十分に活用することはできなかった。
【0005】
そこで、アンカーボルトに螺合した締付けナットとベースプレートの上面との間に多数の開孔部を設けた円筒状の鋼板からなる塑性化部材を介在させ、その塑性化部材により地震時等に作用する振動エネルギを吸収させるという技術も公開されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−183873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような従来技術の地震に対する問題点に鑑みて開発したものであり、アンカーボルトに対する地震作用を緩和して、地震によるアンカーボルトの損傷や破断を軽減ないし遅延するための耐震工法を更に改良することを目的とする。また、高張力鋼等の塑性変形能力の低い素材をアンカーボルトに使用する場合に、その素材の有する優れた特性を十分に活用することの可能なアンカーボルト耐震工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、コンクリート中に埋設されたアンカーボルトの定着板と、前記アンカーボルトの前記定着板より下方に螺合され、前記定着板にアンカーボルトの引張力を伝達する下部ナットとの間に金属塑性体からなるエネルギ吸収部材を介在し、そのエネルギ吸収部材の塑性変形によって地震エネルギを吸収させて、アンカーボルトに対する地震作用を緩和するという技術手段を採用した。前記エネルギ吸収部材としては、前記アンカーボルトの降伏耐力より小さく、その降伏耐力の60%以上の塑性耐力を有する金属塑性体や、前記アンカーボルトの降伏耐力とほぼ同等の塑性耐力又は前記アンカーボルトの降伏耐力より大きく、最大引張耐力より小さい塑性耐力を有する金属塑性体などが用いられる。なお、ここで、塑性耐力とは、金属塑性体が塑性変形領域に至る荷重を指すものとする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以上のように、前記金属塑性体からなるエネルギ吸収部材の塑性変形によって地震エネルギが吸収されるので、アンカーボルトに対する地震作用が緩和され、耐振性を向上することができる。したがって、柱脚部等に及ぼす地震の影響が少なくなる分、建物としての損傷や倒壊が軽減される。また、高張力鋼等の塑性変形能力の低い素材をアンカーボルトとして使用する場合には、前記エネルギ吸収部材の塑性変形によって地震エネルギが吸収され、その低い塑性変形能力が補完されるので、素材の有する優れた特性を十分活用できる形態でアンカーボルトとして使用できる。例えば、高張力鋼の高い降伏耐力とエネルギ吸収部材の塑性変形能力との組合わせにより、小規模の地震では伸びが小さく、大きな地震では塑性変形による地震エネルギの吸収作用が良好な信頼性の高いアンカーボルト耐震構造を提供することができる。さらに、エネルギ吸収部材を定着板と下部ナットとの間に設置して基礎コンクリート中に埋設するようにしたので、アンカーボルトの上部露出部における締付けナットによるベースプレート等に対する締付けスペースを従来と同様の大きさに収めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例の地震作用を受ける前の状態を示した状態説明図である。
【図2】同実施例の地震作用によりエネルギ吸収部材が変形した状態を示した状態説明図である。
【図3】同実施例における要部の地震作用を受ける前の状態を拡大して示した部分拡大図である。
【図4】同実施例における要部の地震作用により変形した状態を拡大して示した部分拡大図である。
【図5】他の実施例において上部に設置されるエネルギ吸収部材の設置状態を例示した正面図である。
【図6】アンカーボルト単体に関する荷重−変位特性曲線図である。
【図7】エネルギ吸収部材単体に関する荷重−変位特性曲線図である。
【図8】アンカーボルト単体とエネルギ吸収部材単体とを組合わせて使用した場合の荷重−変位特性曲線図である。
【図9】本発明の他の実施例におけるアンカーボルト単体及びエネルギ吸収部材単体に関する荷重−変位特性曲線図である。
【図10】同実施例のアンカーボルト単体とエネルギ吸収部材単体とを組合わせて使用した場合の荷重−変位特性曲線図である。
【図11】本発明の他の実施例におけるアンカーボルト単体及びエネルギ吸収部材単体に関する荷重−変位特性曲線図である。
【図12】同実施例のアンカーボルト単体とエネルギ吸収部材単体とを組合わせて使用した場合の荷重−変位特性曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、鉄骨柱の露出型柱脚部の耐震工法として好適であるが、コンクリート中に埋設したアンカーボルトの上部露出部に螺合した締付けナットを用いて締付け固定する形態のものであれば広く適用が可能である。前記エネルギ吸収部材を構成する金属塑性体は、例えば、鉄、鋳鋼、極低降伏点鋼、銅、鉛、亜鉛、アルミニウム、真鍮、錫や、それらの合金などのアンカーボルトに比較して塑性変形によるエネルギ吸収作用の大きい材料から構成される。そして、エネルギ吸収部材としての塑性耐力の大きさに関しては、アンカーボルトの降伏耐力より小さく、その降伏耐力の60%以上の範囲内に入るように設定したり、アンカーボルトの降伏耐力とほぼ同等の塑性耐力又は前記アンカーボルトの降伏耐力より大きく、最大引張耐力より小さい塑性耐力を有するように設定したりすることができる。また、それらの特性を有する金属塑性体からなるエネルギ吸収部材を組合わせて用いることも可能である。さらに、エネルギ吸収部材の具体的形状としては、例えばアンカーボルトが挿通可能な中空部を有する円筒状のものや、その円筒部の上端部あるいは下端部にフランジ部を形成したもの、あるいは同様の中空部を有し、外形がテーパ状に形成されたものなどが使用される。また、それらの具体的寸法に関しては、アンカーボルトの材質や寸法、コンクリートに対する定着の仕方などから決るアンカーボルト側の強度との関係において、前記エネルギ吸収部材としての耐震機能を充足し得るように設定することになる。
【実施例】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施例に関して説明する。図1及び図2は本発明の実施例を示したものであり、図1は地震作用を受ける前の状態を示した状態説明図、図2は地震作用によりエネルギ吸収部材が変形した状態を示した状態説明図である。また、図3及び図4は、それらの地震作用を受ける前後の要部の状態を拡大して示した部分拡大図である。図示のように、本実施例において、アンカーボルト16は基礎コンクリート17中に埋設され、その上部露出部に締付けナット18を螺合して鉄骨19のベースプレート20を締付け固定するように構成されている。なお、図5に示したように、締付けナット18とベースプレート20の間に塑性特性の異なる別のエネルギ吸収部材を介在させ、定着板と下部ナットとの間に設置するエネルギ吸収部材と組合わせて使用する形態も可能である。
【0013】
前記アンカーボルト16としてはアンボンドタイプのものが使用され、図示のように、基礎コンクリート17中に埋設された定着板21と下部ナット22との間には、円筒状のエネルギ吸収部材23が設置される。このエネルギ吸収部材23は、所要の特性を有する金属塑性体から構成され、そのエネルギ吸収部材23の塑性変形によってアンカーボルト16に作用する地震エネルギを吸収して地震作用を緩和することになる。なお、図示のように、必要に応じて定着板21にシース管24を設けて、定着板21の下方のエネルギ吸収部材23、下部ナット22及びアンカーボルト16の下部ネジ部を囲むように構成する。これにより、それらのエネルギ吸収部材23、下部ナット22やアンカーボルト16の下部ネジ部の周囲にコンクリートが付着して、エネルギ吸収部材23による地震エネルギの吸収作用が阻害される事態は回避される。その際、前記エネルギ吸収部材23の塑性変形がシース管24によって阻害されないように構成することはいうまでもない。
【0014】
しかして、本実施例の場合には、エネルギ吸収部材23が基礎コンクリート17中に埋設されることから、前記締付けナット18によるベースプレート20の締付け部分のスペースは従来と同様の大きさで済むことになる。なお、地震規模にもよるが、エネルギ吸収部材23の塑性変形量が少ない場合には、締付けナット18による増し締めで対応することも可能である。さらに、図5に示したように、締付けナット18とベースプレート20との間にエネルギ吸収部材23より塑性耐力の小さい金属塑性体からなるエネルギ吸収部材25を設置し、前記エネルギ吸収部材23と組合わせて使用するようにすれば、地震規模が小さく、上部に露出した前記エネルギ吸収部材25の破壊で収った場合には、その交換によって簡便に対応することができ、しかも大きな地震に対しては、基礎コンクリート17中に埋設したエネルギ吸収部材23が耐震機能を奏するように構成することも可能である。
【0015】
次に、本発明に係るアンカーボルト耐震工法の耐震作用に関して説明する。図6はアンカーボルト単体の引張荷重Pと変位δとの関係を概略的に例示した荷重−変位特性曲線図である。また、図7はエネルギ吸収部材単体の圧縮荷重Pと変位δとの関係を概略的に例示した荷重−変位特性曲線図である。図6に示したように、アンカーボルト単体の荷重−変位特性から、地震によってアンカーボルトに作用する引張荷重が、降伏耐力Paに至るまでの間は弾性変形を繰返すことになる。引張荷重Pが降伏耐力Paに達すると、その荷重Pをほぼ一定に維持しながら所定の塑性変形を起す降伏状態を経由した後、前記塑性変形によるひずみ硬化によって変形抵抗が増大して荷重Pが再び上昇を開始する。そして、最大引張耐力Pbに達した後、荷重を支えきれなくなり、破断耐力Pcまで降下して破断することになる。一方、エネルギ吸収部材単体の方は、図7に理想化して例示したように、弾完全塑性体に近い特性を有し、塑性耐力Pdに至るまでの荷重Pに対しては弾性変形をし、それ以上の荷重Pに対しては降伏して塑性変形を継続することになる。因みに、それぞれの特性曲線の下方のハッチングを施した部分の面積が、その間の変形によって吸収される地震エネルギ等の外部エネルギを表している。なお、本例では、0.6×Pa<Pd<Paの場合に関して例示した。
【0016】
図8は、以上の特性を有するアンカーボルト単体とエネルギ吸収部材単体とを組合わせて使用した場合の荷重−変位特性曲線図を例示したものである。すなわち、図6の特性曲線と図7の特性曲線とを合成したものである。なお、この合成特性曲線図における荷重Pは、前記締付けナット18を介してアンカーボルト16とベースプレート20等の締付け対象部材との間に作用する荷重であり、アンカーボルト16に対しては引張荷重、エネルギ吸収部材23に対しては圧縮荷重として作用することになる。以下に示す荷重−変位特性曲線図においては、それぞれ荷重Pがゼロの点からの特性を表示しているが、アンカーボルト16には設置時の締付け力による引張荷重が初期荷重として作用していることから、地震によって発生する実際の変位δは、地震による引張荷重が前記初期荷重としての締付け力による引張荷重を超えた超過分に対して生じることになる。
【0017】
しかして、図示のように、荷重Pがエネルギ吸収部材の塑性耐力Pdに至るまでの間は、アンカーボルトの弾性引張変形とエネルギ吸収部材の弾性圧縮変形とが共存する弾性領域となる。この弾性領域で変形により吸収される吸収エネルギは、ハッチング(A)の部分の面積で表される。次に、荷重Pが塑性耐力Pdに達すると、エネルギ吸収部材の塑性領域に入り、荷重Pをほぼ一定に維持しながら塑性変形が継続されることになる。この塑性領域における吸収エネルギは、ハッチング(B)の部分の面積で表される。そして、エネルギ吸収部材の塑性変形が限界に達して、例えば前記ベースプレート20から締付けナット18を介してアンカーボルト16に荷重Pが伝達されるような状態になると、アンカーボルトの残りの特性曲線に従って推移することになる。すなわち、前記塑性変形後の降伏耐力Paまでの間は弾性変形をし、その後、荷重Pが上昇しながら塑性変形をして最大引張耐力Pbに達し、しかる後、荷重Pを支えきれなくなり、破断耐力Pcまで降下して破断することになる。この間における吸収エネルギは、ハッチング(C)の部分の面積で表される。
【0018】
図9は本発明の他の実施例における荷重Pと変位δとの関係を概略的に例示した荷重−変位特性曲線図であり、アンカーボルト単体の引張特性曲線とエネルギ吸収部材単体の圧縮特性曲線を同時に表示したものである。本実施例では、図示のように、エネルギ吸収部材単体の塑性耐力Peを前記アンカーボルト単体の降伏耐力Paより大きく、最大引張耐力Pbより小さく設定した場合を例示した。図10は、それらのアンカーボルト単体とエネルギ吸収部材単体とを組合わせて使用した場合の荷重−変位特性曲線図を例示したもので、双方の特性曲線を合成して示したものである。図示のように、荷重Pがアンカーボルトの降伏耐力Paに至るまでの間は、アンカーボルトの弾性引張変形とエネルギ吸収部材の弾性圧縮変形とが共存する弾性領域となる。この弾性領域において変形により吸収される吸収エネルギは、ハッチング(D)の部分の面積で表される。次に、荷重Pが降伏耐力Paに達すると、アンカーボルトの降伏領域に入り、その荷重Pをほぼ一定に維持しながら所定の塑性変形が生じる。この間の変形により吸収される吸収エネルギは、ハッチング(E)の部分の面積で表される。その後、塑性変形によるひずみ硬化によってアンカーボルトの変形抵抗が増大して荷重Pが再び上昇し始める。そして、エネルギ吸収部材の塑性耐力Peに至るまでは、アンカーボルトの塑性変形とエネルギ吸収部材の弾性変形とが共存する変形領域となり、この間の変形によって吸収される吸収エネルギは、ハッチング(F)の部分の面積で表される。さらに、荷重Pがエネルギ吸収部材の塑性耐力Peに達すると、エネルギ吸収部材の塑性領域に入り、荷重Pをほぼ一定に維持しながら塑性変形が継続される。この塑性領域における吸収エネルギは、ハッチング(G)の部分の面積で表される。そして、エネルギ吸収部材の塑性変形が限界に達すると、アンカーボルトの残りの特性曲線に従って推移することになる。すなわち、荷重Pを再び上昇しながら塑性変形をして最大引張耐力Pbに達した後、荷重を支えきれなくなり、破断耐力Pcまで降下して破断することになる。なお、この間における吸収エネルギは、ハッチング(H)の部分の面積で表される。
【0019】
前述のように、本発明では、基礎コンクリート17中に埋設された定着板21と下部ナット22との間にエネルギ吸収部材23を介在させたことから、図8あるいは図10に例示した荷重−変位特性を備えることになる。例えば、エネルギ吸収部材23の塑性耐力Pdを0.6×Pa<Pd<Paの条件を充足するように設定した場合には、図8の特性曲線に従い、エネルギ吸収部材23の塑性耐力Pdに至るまでの弾性領域(A)と塑性耐力Pdに達した後の塑性領域(B)において、エネルギ吸収部材23自体の変形によるエネルギ吸収が加算される。したがって、それらのエネルギ吸収部材23自体の弾性変形及び塑性変形によるエネルギ吸収が加算された分、アンカーボルト16に対して作用する地震エネルギ等の外部エネルギの影響が緩和されることになる。また、エネルギ吸収部材23の塑性耐力PeをPa≦Pe<Pbの条件を充足するように設定した場合には、図10の特性曲線に従い、ハッチング(D)及び(F)を施した領域においてエネルギ吸収部材23自体の弾性変形によるエネルギ吸収が加算されるとともに、ハッチング(G)を施した領域においてエネルギ吸収部材23自体の塑性変形によるエネルギ吸収が加算される。したがって、この場合も、エネルギ吸収部材23自体の弾性変形及び塑性変形によるエネルギ吸収が加算された分、アンカーボルト16に対して作用する地震エネルギ等の外部エネルギの影響が緩和されることになる。
【0020】
本発明によれば、以上のように、エネルギ吸収部材23自体の弾性変形及び塑性変形によるエネルギ吸収が加算され、アンカーボルト16に対して作用する地震エネルギの影響が緩和されることから、図示のようにアンカーボルト16の降伏耐力Paへの到達や、最大引張耐力Pbへの到達を遅延させることができる。したがって、延いては建物の損壊や倒壊を遅延させることができ、避難時間を増やすことも可能なことから、人命等に対する被害を低減することができる。
【0021】
図11は高張力鋼をアンカーボルトに使用する本発明の他の実施例に関する荷重Pと変位δとの関係を概略的に例示した荷重−変位特性曲線図であり、アンカーボルト単体の引張特性曲線とエネルギ吸収部材単体の圧縮特性曲線を同時に表示したものである。本実施例では、図示のように、高張力鋼から形成されたアンカーボルト単体の塑性変形の始る降伏耐力Phの近傍にエネルギ吸収部材単体の塑性耐力Piを設定した場合を例示した。図12は、それらのアンカーボルト単体とエネルギ吸収部材単体とを組合わせて使用した場合の荷重−変位特性曲線図を例示したもので、双方の特性曲線を合成して示したものである。図11に示し、また前述したように、高張力鋼から形成されたアンカーボルト単体の場合には塑性変形能力が低いため、地震エネルギを吸収しきれずに早期に最大引張耐力Pjに達して破断されてしまうという問題があった。しかし、本実施例によれば、図12に示したように、エネルギ吸収部材の塑性変形能力によって高張力鋼からなるアンカーボルトの低い塑性変形能力が補完されることから、地震エネルギの吸収能力が増大し、アンカーボルトの破断に至る事態は大幅に低減される。したがって、高張力鋼としての伸びが小さく降伏耐力Phが高いという優れた特性を十分に活用することが可能になる。すなわち、小規模の地震の範囲ではハッチング(P)で示した伸びが比較的小さい弾性領域で対応し、また大きな地震に対しては、ハッチング(Q)で示した塑性変形による地震エネルギの吸収作用が良好な塑性領域で対応することができ、しかも弾性と塑性が共存したハッチング(R)で示した領域を経て高い最大引張耐力Pjで破断するまでもちこたえることができるという信頼性の高いアンカーボルト耐震構造を提供することができる。
【符号の説明】
【0022】
16…アンカーボルト、17…基礎コンクリート、18…締付けナット、19…鉄骨、20…ベースプレート、21…定着板、22…下部ナット、23…エネルギ吸収部材、24…シース管、25…エネルギ吸収部材、Pa…アンカーボルトの降伏耐力、Pb…アンカーボルトの最大引張耐力、Pc…アンカーボルトの破断耐力、Pd〜Pg…エネルギ吸収部材の塑性耐力、Ph…アンカーボルトの降伏耐力、Pi…エネルギ吸収部材の塑性耐力、Pj…アンカーボルトの最大引張耐力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート中に埋設されたアンカーボルトの定着板と、前記アンカーボルトの前記定着板より下方に螺合され、前記定着板にアンカーボルトの引張力を伝達する下部ナットとの間に金属塑性体からなるエネルギ吸収部材を介在し、そのエネルギ吸収部材の塑性変形によって地震エネルギを吸収させて、アンカーボルトに対する地震作用を緩和することを特徴とするアンカーボルト耐震工法。
【請求項2】
前記エネルギ吸収部材として、前記アンカーボルトの降伏耐力より小さく、その降伏耐力の60%以上の塑性耐力を有する金属塑性体を用いたことを特徴とする請求項1に記載のアンカーボルト耐震工法。
【請求項3】
前記エネルギ吸収部材として、前記アンカーボルトの降伏耐力とほぼ同等の塑性耐力又は前記アンカーボルトの降伏耐力より大きく、最大引張耐力より小さい塑性耐力を有する金属塑性体を用いたことを特徴とする請求項1に記載のアンカーボルト耐震工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−287388(P2009−287388A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193848(P2009−193848)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【分割の表示】特願2000−124310(P2000−124310)の分割
【原出願日】平成12年4月25日(2000.4.25)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(500192001)
【Fターム(参考)】