説明

アンカー装置の設置方法

【課題】設置場所の地盤構造によらず、容易かつ確実に設置することが可能なアンカー装置の設置方法を提供する。
【解決手段】筒状本体16の外側面に抵抗板18が取り付けられた土圧抵抗部材12と、筒状本体16の内側に挿通可能なアンカー14とで構成されたアンカー装置10を用いる。まず、土圧抵抗部材12を地盤表層に打ち込む。次に、アンカー14を先端部14aの側から筒状本体16の内側に挿通して地盤に深く打ち込む。次に、アンカー14の後端部14cに設けられ、地表に突出したワイヤ固定部28にワイヤを固定する。アンカーを打ち込む工程で、アンカー14の先端部14aに設けた掘削ビット26で地盤を掘削しながらアンカー14を進行させる。アンカー14を打ち込んだ後、アンカー14と掘削孔38の隙間に凝固剤20充填し、硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、山肌の傾斜面に落石防止用ネットを張設するとき等に使用されるアンカー装置の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
落石防止用ネットを張設するワイヤ等を固定するアンカー装置として、例えば、筒状本体の外側面に複数の抵抗板が取り付けられた土圧抵抗部材と、土圧抵抗部材の筒状本体の内側に挿通可能なアンカーとで構成され、アンカーの後端部にワイヤ固定部が設けられたアンカー装置が知られている。このアンカー装置は、アンカーが土圧抵抗部材の筒状本体の内側に挿通して地盤に深く打ち込まれ、地表に露出したワイヤ固定部にワイヤの端部が締結等して固定される。土圧抵抗部材は、ワイヤによってアンカーが引っ張られる方向と交差する向きに抵抗板が位置決めされ、地盤表層に打ち込まれる。従って、落石などがあってワイヤに強い張力が生じたとき、地盤表層の抵抗板が土圧を受けてしっかり固定されるので、アンカーが引き抜かれたり折れ曲がったりすることなく、しっかりとワイヤを保持することができる。
【0003】
従来、この種のアンカー装置の設置方法として、例えば、特許文献1に開示されているように、まずアンカーを土中に打ち込んで定着させ、その後、土圧抵抗部材(羽根装置)の筒状本体(筒体)をアンカーの後端部に挿通しながら、土圧抵抗部材を地盤表層に打ち込む方法が用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−226961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のアンカー装置の設置方法は、例えば、粒径の細かい土砂に多くの石等が混じったような地盤に設置する場合に、土圧抵抗部材を打ち込むのが容易ではないという問題があった。土圧抵抗部材を打ち込むべき場所及び角度は、先に打ち込んで定着させたアンカーとワイヤが張られる向きによって一義的に決まる。従って、土圧抵抗部材を地盤表層に打ち込んでいる途中で抵抗板(羽根)が土中の石にぶつかっても、その石を避ける方法がなく、それ以上深く打ち込むことができない。また、やむなく設置場所をその付近の位置にずらすにしても、再度アンカーを打ち直さねばならず、極めて非効率な作業になっていた。
【0006】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、設置場所の地盤構造によらず、容易かつ確実に設置することが可能なアンカー装置の設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、筒状本体の外側面に抵抗板が取り付けられた土圧抵抗部材と、前記筒状本体の内側に挿通可能なアンカーとで構成され、前記アンカーの後端部に支持対象のワイヤが固定されるワイヤ固定部が設けられたアンカー装置の設置方法であって、
前記土圧抵抗部材を地盤表層に打ち込んだ後、前記アンカーを先端部の側から前記筒状本体の内側に挿通して地盤に深く打ち込み、地表に突出した前記ワイヤ固定部に前記ワイヤを固定するアンカー装置の設置方法である。
【0008】
前記アンカーを打ち込むとき、前記アンカーの先端部に設けた掘削ビットで地盤を掘削しながら前記アンカーを進行させてもよい。
【0009】
また、前記アンカーを打ち込んだ後、前記アンカー内側の管状部分に凝固剤を注入し、その凝固剤を前記アンカーの側面に形成した排出孔から土中に漏出させることによってアンカーと掘削孔の隙間に充填し、硬化させる工程を備えている。また、前記土圧抵抗部材を打ち込む前に、地盤表層に前記筒状本体又は前記抵抗板を誘導するガイド孔を先掘りする工程を備えている。
【発明の効果】
【0010】
この発明のアンカー装置の設置方法は、土圧抵抗部材を先に打ち込み、その後、打ち込みやすいアンカーを打ち込む、という作業順なので、当初予定していた設置場所に土圧抵抗部材が十分に打ち込めなかった場合でも、設置場所を付近の位置にずらし、再度、土圧抵抗部材を打ち直す、という臨機応変の措置が可能であり、効率的に作業を行うことができる。
【0011】
また、土圧抵抗部材を打ち込む前に所定のガイド孔を先掘りする工程を設けたり、アンカー先端部の掘削ビットで掘削しながらアンカーを進行させたりすることによって、土圧抵抗部材及びアンカーを円滑かつ確実に打ち込むことが可能になり、無理に打ち込んで各部材を破損・変形させてしまうのを防止することができる。さらに、アンカーの外側面と地盤との隙間に凝固剤を充填する工程を追加することも容易であり、アンカーの固定強度をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明のアンカー装置の設置方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
【図2】この実施形態の設置方法に使用されるアンカー装置の土圧抵抗部材を示す正面図(a)、右側面図(b)である。
【図3】この実施形態の設置方法に使用されるアンカー装置のアンカーを示す正面図(a)、部分拡大断面図(b)である。
【図4】この実施形態の設置方法におけるガイド孔を先掘りする工程を説明する模式図(a)、土圧抵抗部材を打ち込む工程を説明する模式図(b),(c)である。
【図5】この実施形態の設置方法におけるアンカーを打ち込む工程を説明する模式図(a),(b)、掘削ビットが地盤を掘削して進行する様子を示す模式図(c)である。
【図6】この実施形態の設置方法におけるアンカーの掘削孔に凝固剤を充填する工程を説明する模式図(a),(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明のアンカー装置の設置方法の一実施形態について、図面に基づいて説明する。この実施形態は、山肌の傾斜面に落石防止用ネットを張設するワイヤを固定するアンカー装置の設置方法であり、図1のフローチャートに示すように、5つの工程(工程S11〜S15)を備えている。
【0014】
先ず、この実施形態に係る設置方法に使用するアンカー装置10の構造について説明する。アンカー装置10は、別個の部材である土圧抵抗部材12とアンカー14で構成されている。土圧抵抗部材12は、図2に示すように、尖った先端部16aの側から土中に打ち込まれる筒状本体16を備えている。筒状本体16内側の中空部16bは、後述するアンカー14が先端部14aの側から挿通可能な大きさになっている。筒状本体16の外側面の後端部16c寄りの位置に、先端部16aの側が尖った略五角形の抵抗板18が、筒状本体16を軸にほぼ線対称に取り付けられている。抵抗板18の後端側の端部には鋭角に折り曲げた屈曲部18aが設けられ、これにより抵抗板18が外力を受けたときに容易に変形しない構造になっている。
【0015】
アンカー14は、図3に示すように、先端部14aの側から土中に打ち込まれる中空の筒状体であり、その外径は、土圧抵抗部材12の中空部16b内に僅かな隙間を空けて挿通可能な一律の径になっている。アンカー14内側の中空の管状部分14bは、後端部14cが開口した凝固剤20の注入口22から先端部14a付近まで連通し、側面にほぼ均等間隔に形成された複数の排出孔24を介して外側に通じている。
【0016】
アンカー14の先端部14aには、アンカー14の軸方向と略直角な掘削面26aを有する掘削ビット26が取り付けられている。掘削ビット26は、アンカー14と一体に回転して軸方向に地盤を掘削し、アンカー14を円滑に進行させる働きをする。
【0017】
さらに、アンカー14の後端部14cには、アンカー14を打ち込んだ後、落石防止用ネットを張設するワイヤの端部を固定するワイヤ固定部28が設けられている。ワイヤ固定部28の形態は特に限定されないが、ここでは、アンカー14の外側面に形成した雄ネジ部28aに螺合した一対のナット28bで構成され、ワイヤの末端を処理した金具を雄ネジ部28aに通し、ナット28bを用いて締付固定する構造になっている。
【0018】
次に、アンカー装置10を使用した本実施形態に係る設置方法について、図1、図4〜図6に基づいて説明する。まず、地盤表層に、土圧抵抗部材12の筒状本体16を土中に円滑に誘導するためのガイド孔30を先掘りする(工程S11)。この作業は、図4(a)に示すように、ロッド32aの先端に掘削ビット32bが取り付けられた一般的な削孔装置32を用いて行う。土圧抵抗部材12を打ち込む前にガイド孔30を先掘りしておくことによって、土圧抵抗部材12を打ち込んだときに、筒状本体16の先端部16aが変形したり、中空部16b内に土が侵入して目詰まりするのを防ぐことができる。さらに、設置場所の地盤が比較的硬いときは、ガイド孔30に加え、土圧抵抗部材12の抵抗板18を土中に誘導するためのスリット状の孔も先堀りしておけば、次工程で抵抗板18を打ち込みやすくなる。
【0019】
次に、土圧抵抗部材12を地盤表層に打ち込む(工程S12)。この作業は、まず、抵抗板18を、ワイヤによってアンカーが引っ張られる方向と略直角の角度に位置決めし、図4(b)に示すように、筒状本体16の先端部16aをガイド孔30に差し込む。そして、筒状本体16の後端部16cに打込装置34を取り付け、図4(c)に示すように、抵抗板18の屈曲部18aが地表に僅かに露出する深さまで打ち込む。
【0020】
例えば、設置場所が土に石が混じった地盤であると、打込む途中で土圧抵抗部材12が石にぶつかって、十分な深さまで打込むことができない場合がある。その場合は、設置場所を付近の適当な位置にずらして、再度、工程S11からやり直す。また、上述した一回目の工程S11においても、同様の理由により予定のガイド孔30を削孔できないケースがあり得るが、その場合も設置場所をずらして、再度、工程S11をやり直せばよい。工程S11,S12の段階であれば、作業をやり直したとしても、設置作業全体の作業効率にほとんど影響がなく、無駄に廃棄される部材も発生しないので、問題にはならない。
【0021】
次に、地盤表層に打ち込んだ土圧抵抗部材12の筒状本体16の中空部16bに、アンカー14を挿通して深く打ち込む(工程S13)。この作業は、まず、アンカー14の後端部14cに打込装置36を取り付け、図5(a)に示すように、アンカー14を掘削ビット26の側から筒状本体の中空部16bに差し込む。そして、図5(b),(c)に示すように、打込装置36でアンカー14及び掘削ビット26を高速回転させて掘削孔38を掘り進め、アンカー14の後端部14cが地表付近に達する深さまで進行したところで停止させる。掘削ビット26で削孔しながらアンカー14を進行させるので、中空のアンカー14の先端部14aが変形したり、管状部分14b内に土が侵入して目詰まりするのを防ぐことができる。
【0022】
次に、アンカー14と掘削孔38の隙間に液状のセメントやモルタル等の凝固剤20を充填し、硬化させる(工程S14)。この作業は、まず、アンカー14の後端部14cの注入口22に凝固剤注入装置40を取り付け、図6に示すように、管状部分14bに凝固剤20を注入し、側面の排出孔24から漏出させる。そして、アンカー14と掘削孔38の隙間が凝固剤20で満たされると、そのまま放置して硬化させる。凝固剤20を注入する作業は、上記の工程S13の作業と並行して行ってもよい。
【0023】
最後に、地表から突出しているアンカー14のワイヤ固定部28に、落石防止用ネットを張設するワイヤの端部を固定する(工程S15)。
【0024】
以上説明したように、この実施形態のアンカー装置の設置方法は、設置場所が石を多く含むような地盤のとき、打ち込みにくい土圧抵抗部材12を先に打ち込み、その後で打ち込みやすいアンカー14を打ち込む、という作業順なので、当初予定していた設置場所に土圧抵抗部材が十分に打ち込めなかった場合でも、設置場所を付近の位置にずらし、再度、土圧抵抗部材12を打ち直す、という臨機応変の措置が可能であり、作業の手戻りが小さい。
【0025】
また、土圧抵抗部材12を打ち込む前にガイド孔30を先掘りする工程S11を設けたり、アンカー14の先端部14aに設けた掘削ビット26で掘削しながらアンカー14を進行させたりするので、土圧抵抗部材12及びアンカー14を打ち込む作業を円滑かつ確実に行うことが可能になり、無理に打ち込んで各部材を破損・変形させてしまうことがない。また、アンカー14と掘削孔38との隙間に凝固剤20を充填する工程S14を容易に追加することができ、アンカー14の固定強度をさらに向上させることができる。
【0026】
なお、この発明のアンカー装置の設置方法は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、使用するアンカー装置の土圧抵抗部材の抵抗板の形態は自由であり、抵抗板の形状の形状や大きさを変更したり、筒状本体に複数枚の抵抗板を交差させるように取り付けたりしてもよい。筒状本体の形態についても同様であり、後の工程で挿通されるアンカーをガイド可能な長さと内径を有するものであればよい。
【0027】
また、土圧抵抗部材を誘導するガイド孔を先掘りする工程は、必要に応じて省略することができる。その場合、土圧抵抗部材を打ち込む工程で、筒状本体の先端部が変形したり中空部に土が侵入したりする不具合が発生するおそれがある。そこで、例えば、予め中空部にダミーの棒状部材を詰めておき、土圧抵抗部材を打ち込んだ後で棒状部材を抜き取る等の方法で対処することができる。
【0028】
また、アンカーの定着に凝固剤を用いる必要がない地盤に設置するときは、中空の管状部分を有しない高強度のアンカーを使用することができる。さらに、設置場所がアンカーを打ち込みやすい柔らかい地盤である場合、先端部に掘削ビットを有しないアンカーを使用し、後端部を撃打する方法で打ち込むようにしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
10 アンカー装置
12 土圧抵抗部材
14 アンカー
16 筒状本体
16a 先端部
16b 中空部
16c 後端部
18 抵抗板
20 凝固剤
22 注入口
24 排出孔
26 掘削ビット
28 ワイヤ固定部
30 ガイド孔
32 掘削装置
34,36 打込装置
38 掘削孔
40 凝固剤注入装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状本体の外側面に抵抗板が取り付けられた土圧抵抗部材と、前記筒状本体の内側に挿通可能なアンカーとで構成され、前記アンカーの後端部に支持対象のワイヤが固定されるワイヤ固定部が設けられたアンカー装置の設置方法において、
前記土圧抵抗部材を地盤表層に打ち込んだ後、前記アンカーを先端部の側から前記筒状本体の内側に挿通して地盤に深く打ち込み、地表に突出した前記ワイヤ固定部に前記ワイヤを固定することを特徴とするアンカー装置の設置方法。
【請求項2】
前記アンカーを打ち込むとき、前記アンカーの先端部に設けた掘削ビットで地盤を掘削しながら前記アンカーを進行させる請求項1記載のアンカー装置の設置方法。
【請求項3】
前記アンカーを打ち込んだ後、前記アンカー内側の管状部分に凝固剤を注入し、その凝固剤を前記アンカーの側面に形成した排出孔から土中に漏出させることによってアンカーと掘削孔の隙間に充填し、硬化させる請求項1又は2記載のアンカー装置の設置方法。
【請求項4】
前記土圧抵抗部材を打ち込む前に、地盤表層に前記筒状本体又は前記抵抗板を誘導するガイド孔を先掘りする請求項1記載のアンカー装置の設置方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−23873(P2013−23873A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158605(P2011−158605)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(501047173)株式会社ライテク (30)
【出願人】(508112852)株式会社トーエス (8)
【出願人】(395005402)株式会社小財スチール (4)
【Fターム(参考)】