説明

アンテナ回路

【課題】 十分な負荷変調度を得ることができるアンテナ回路を実現する。
【解決手段】 アンテナ回路100では、アンテナコイルL2の接地側に近接した位置にタップTpを設け、当該タップに負荷変調用抵抗R2およびスイッチング素子Trを直列接続する。これにより、負荷変調時にアンテナコイルL2のインダクタンス成分が減少する為、負荷変調時のアンテナ回路の共振周波数が高く設定される。したがって、リーダ・ライタ装置10側のアンテナコイルL1とアンテナ回路100のアンテナコイルL2との間の結合度が高く(結合状態が密)なり、アンテナ回路100の共振周波数が下がったとしても、負荷変調時にそれを補うように強制的に共振周波数を上げ、搬送周波数(13.56MHz)におけるインピーダンス変化(負荷変調度)を大きくとることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触ICカード等のウェアラブル情報通信機器に用いて好適なアンテナ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子マネーや電子乗車券等の機能を備えるウェアラブル情報通信機器として非接触ICカードが実用化されている。図7は、電磁結合方式による非接触ICカードシステムの構成を示すブロック図である。この図において、リーダ・ライタ装置10(読み取り装置)は、キャリア発生部Eが発生するデータやコマンドを振幅変調(ASK変調)してなる13.56MHzのキャリア(搬送波)を、負荷抵抗R1およびインピーダンス整合用の容量C1が並列接続されるアンテナコイルL1を介して無線送信する。つまり、リーダ・ライタ装置10は電力伝送とデータ送信とを同時に行う13.56MHzの搬送波を出力する。
【0003】
電磁結合方式でリーダ・ライタ装置10とデータ授受する非接触ICカード20は、アンテナ回路100およびICチップ200を備える。アンテナ回路100は、共振部101、整流部102および負荷変調部103を備える。共振部101は、アンテナコイルL2および同調容量C2から構成され、リーダ・ライタ装置10からのキャリア電波(磁界)に同調して誘起電圧を発生する。整流部102は、整流素子Dおよび平滑コンデンサC3から構成され、上記共振部101が発生する誘起電圧を整流して整流電圧を出力する。負荷変調部103は、共振部101に並列接続される負荷変調用抵抗R2およびスイッチング素子Trから構成され、後述する変調回路の出力によりスイッチング素子Trをオンオフ駆動することで上記共振部101の負荷を変化させ、これにより受信したキャリアを再変調(負荷変調)して共振部101のアンテナコイルL2から送信する。
【0004】
ICチップ200は、電源回路201、復調回路202、クロック再生回路203、変調回路204、CPU205およびメモリ206を備える。電源回路201では、上記整流部102が発生する整流電圧を一定の駆動電圧に変換してチップ内部の各回路に電力供給する。復調回路202は、受信したキャリアを復調検波および波形整形して当該キャリアに含まれるデータやコマンド検出をする。クロック再生回路203は、受信したキャリアから伝送クロックを抽出する。
【0005】
CPU205は、復調されたデータやコマンドに従ってメモリ(例えばEEPROM等の不揮発性メモリ)にデータ書き込み又はデータ読み出しを行う。変調回路204は、CPU205が読み出すデータを所定の符号化方式で変調して出力する。この変調回路204の出力によりスイッチング素子Trがオンオフ駆動されてキャリアが負荷変調されてリーダ・ライタ装置側へ送信される。なお、こうした非接触ICカードシステムについては、例えば特許文献1又は特許文献2に開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−145987号公報
【特許文献2】特開平11−355186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記構成による非接触ICカードシステムでは、リーダ・ライタ装置10側のアンテナコイルL1と非接触ICカード20側のアンテナコイルL2との相互インダクタンスがアンテナコイルL1、L2間の結合度で決まる。アンテナコイルL1、L2間の結合度は、両コイルの離間距離やコイルサイズ等によって変化し、概ね「0.05」〜「0.5」程度の範囲で変化することが知られている。非接触ICカード20側では、アンテナコイルL1、L2間の結合度が変化しても、リーダ・ライタ装置10に対して安定した応答をするためになるべく大きなインピーダンス変化(負荷変調度)が要求されるが、上述した従来のアンテナ回路100では、負荷変調用抵抗R2によるインピーダンス変化だけなので、十分な負荷変調度を得ることが出来ず、非接触ICカード20がリーダ・ライタ装置10に応答できない弊害も起こり得る。
【0008】
そこで本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、十分な負荷変調度を得ることができるアンテナ回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、第1のアンテナコイルを備えた外部からのキャリア信号に共振し、このキャリア信号に応答して負荷変調信号を出力する第2のアンテナコイルと同調容量からなる共振部を備えるアンテナ回路において、
前記キャリア信号に応答して負荷変調信号を出力する際の負荷変調時に前記共振部の共振周波数を変化させて大きなインピーダンス変移を発生するインピーダンス変移部を具備することを特徴とする。
【0010】
上記請求項1に従属する請求項2に記載の発明では、前記インピーダンス変移部は、前記第2のアンテナコイルの接地側に設けたタップと、このタップに直列接続された抵抗およびスイッチング素子とからなることを特徴とする。
【0011】
上記請求項1に従属する請求項3に記載の発明では、前記インピーダンス変移部は、前記共振部に並列接続されるコイルと、このコイルに直列接続された抵抗およびスイッチング素子とからなることを特徴とする。
【0012】
上記請求項1に従属する請求項4に記載の発明では、前記インピーダンス変移部は、前記共振部に並列接続されるコンデンサと、このコンデンサに直列接続された抵抗およびスイッチング素子と、このスイッチング素子をオンオフ駆動させる駆動信号を極性反転させるインバータとからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、キャリア信号に応答して負荷変調信号を出力する際の負荷変調時に前記共振部の共振周波数を変化させて大きなインピーダンス変移を発生するので、十分な負荷変調度を得ることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、第2のアンテナコイルの接地側の所定位置に設けたタップに、少なくとも抵抗およびスイッチング素子を直列接続することによって、負荷変調時に第2のアンテナコイルのインダクタンス成分が減少する為、負荷変調時のアンテナ回路の共振周波数が高く設定される。したがって、リーダ・ライタ装置10側の第1のアンテナコイルとアンテナ回路の第2のアンテナコイルとの間の結合度が高く(結合状態が密)なり、アンテナ回路の共振周波数が下がったとしても、負荷変調時にそれを補うように強制的に共振周波数を上げ、搬送周波数におけるインピーダンス変化を大きくする結果、十分な負荷変調度を得ることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明では、前記共振部に並列接続されるコイルを設け、このコイルに少なくとも抵抗およびスイッチング素子を直列接続することによって、負荷変調時に共振部の合成インダクタンス成分が減少する為、負荷変調時のアンテナ回路の共振周波数が高く設定される。したがって、リーダ・ライタ装置10側の第1のアンテナコイルLとアンテナ回路の第2のアンテナコイルとの間の結合度が高く(結合状態が密)なり、アンテナ回路の共振周波数が下がったとしても、負荷変調時にそれを補うように強制的に共振周波数を上げ、搬送周波数におけるインピーダンス変化を大きくする結果、十分な負荷変調度を得ることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明では、前記共振部に並列接続されるコンデンサを設け、このコンデンサに負荷変調用の抵抗およびスイッチング素子を直列接続すると共に、当該スイッチング素子をオンオフ駆動させる駆動信号を極性反転させるインバータを備えることによって、スイッチング素子の状態によって共振部の合成キャパシタンス成分を増減することにより、アンテナ回路の共振周波数を変化させることができる。つまり、負荷変調時(スイッチング素子がオン/オフ)により共振周波数を変化させ、搬送周波数におけるインピーダンス変化を大きくする結果、スイッチング素子がオン状態に設定されている時に共振部の合成キャパシタンス成分の増加によりアンテナ回路の共振周波数が低くなるが、インバータにて変調極性を反転させる為、相対的に負荷変調時(スイッチング素子がオフ状態)の共振周波数が高く設定される。つまり、負荷変調時(スイッチング素子がオフ状態)に共振周波数が上がり、搬送周波数におけるインピーダンス変化を大きくする結果、十分な負荷変調度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下では、最初に本発明の原理について述べた後、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
(1)発明の原理
前述したように、非接触ICカード20のアンテナ回路100では、アンテナコイルL1とリーダ・ライタ装置10側のアンテナコイルL2間の結合度が変化しても、リーダ・ライタ装置に対して安定した応答をするためになるべく大きなインピーダンス変化(負荷変調度)が要求される。しかしながら、アンテナコイルL1、L2間の結合度が変化すると、それに応じて共振特性が変化する為、負荷変調用抵抗R2によるインピーダンス変化だけでは十分な負荷変調度が得られなくなる。具体的には、アンテナコイルL1、L2間の結合度が高く(結合状態が密)なると、アンテナ回路100の共振周波数が下がり、これにより搬送周波数におけるインピーダンス変化が低下する。その為、本発明では、負荷変調時にアンテナ回路100の共振周波数を変化させて大きなインピーダンス変移を発生させ、十分な負荷変調度を得るように制御する。
【0018】
(2)第1実施形態
次に、図1〜図2を参照して第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態によるアンテナ回路100の構成を示すブロック図である。この図において、図7に図示した従来例と共通する回路要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。図1に示すアンテナ回路100が図7に図示した従来例と相違する点は、負荷変調部104として、共振部101のアンテナコイルL2の接地側に近接した位置にタップTpと、このタップTpに負荷変調用抵抗R2およびスイッチング素子Trを直列接続した構成を備えるところにある。このような構成によれば、負荷変調時にアンテナコイルL2のインダクタンス成分が減少する為、負荷変調時のアンテナ回路100の共振周波数が高く設定されるよう制御される。
【0019】
こうしたアンテナ回路100を用いた実験結果を図2に図示する。図2は、図1に図示した構成のアンテナ回路100が負荷変調した時にリーダ・ライタ装置10側に生じる電位V1を、アンテナ間結合度(k=0.1,0.2,0.5)別に計測した結果を表す。なお、この実験では、リーダ・ライタ装置10側のキャリア発生部Eから±15Vの振幅で13.56MHzのキャリアを出力させ、一方、アンテナ回路100のスイッチング素子Trを実際にオンオフ駆動させる替わりに、スイッチング素子Trのオン状態に対応させて負荷変調用抵抗R2を10Ω、スイッチング素子Trのオフ状態に対応させて負荷変調用抵抗R2を1MΩに設定した時のリーダ・ライタ装置10側の電位V1を計測している。また、スイッチング素子Trのオン設定に対応した負荷変調度を括弧内に併記している。
【0020】
図2に示す実験結果から明らかなように、アンテナ間結合度が上がる程、負荷変調度が高まる。つまり、アンテナコイルL1、L2間の結合度が高く(結合状態が密)なり、アンテナ回路100の共振周波数が下がったとしても、負荷変調時にそれを補うように強制的に共振周波数を上げ、搬送周波数(13.56MHz)におけるインピーダンス変化を大きくする。この結果、十分な負荷変調度が得られずに非接触ICカードがリーダ・ライタ装置に応答できなくなる弊害を回避し得る。また、アンテナコイルL2の接地側に近接した位置に設けたタップTpに負荷変調用抵抗R2およびスイッチング素子Trを直列接続する構成なので、回路素子を増やすことなく極めて簡便に実現できるという利点も得られる。なお、本実施形態では、負荷変調用抵抗R2を設けているが、これは必須ではなく、アンテナコイルL2の接地側に近接した位置に設けたタップTpにスイッチング素子Trを直接接続する態様としても構わない。
【0021】
(2)第2実施形態
次に、図3〜図4を参照して第2実施形態について説明する。図3は、第2実施形態によるアンテナ回路100の構成を示す回路図である。この図に示すアンテナ回路100が図7に図示した従来例と相違する点は、負荷変調部105として、アンテナコイルL2および同調容量C2からなる共振部101に並列接続されるコイルL3と、このコイルL3に負荷変調用抵抗R2およびスイッチング素子Trを直列接続した構成を備えるところにある。この構成によれば、負荷変調時に共振部101の合成インダクタンス成分が減少する為、負荷変調時のアンテナ回路100の共振周波数が高く設定されるよう制御される。
【0022】
こうした第2実施形態においても、図4に示す実験結果から明らかなように、アンテナコイルL1、L2間の結合度が高く(結合状態が密)なり、アンテナ回路100の共振周波数が下がったとしても、負荷変調時にそれを補うように強制的に共振周波数を上げ、搬送周波数(13.56MHz)におけるインピーダンス変化を大きくする為、十分な負荷変調度が得られずに非接触ICカードがリーダ・ライタ装置に応答できなくなる弊害を回避し得る。なお、本実施形態では、負荷変調用抵抗R2を設けているが、これは必須ではなく、アンテナコイルL3の接地側一端にスイッチング素子Trを直接接続する態様としても構わない。
【0023】
(3)第3実施形態
次に、図5〜図6を参照して第3実施形態について説明する。図5は、第3実施形態によるアンテナ回路100の構成を示す回路図である。この図に示すアンテナ回路100が図7に図示した従来例と相違する点は、負荷変調部106として、アンテナコイルL2および同調容量C2からなる共振部101に並列接続されるコンデンサC3と、このコンデンサ3に負荷変調用抵抗R2およびスイッチング素子Trを直列接続し、さらにスイッチング素子をオンオフ駆動させる駆動信号を極性反転させるインバータを備えるところにある。
【0024】
上記構成では、スイッチング素子Trがオン状態に設定されている時に共振部101の合成キャパシタンス成分の増加によりアンテナ回路100の共振周波数が低くなるが、インバータINVにて変調極性を反転させる為、相対的に負荷変調時(スイッチング素子Trがオフ状態)のアンテナ回路100の共振周波数が高く設定されるよう制御される。したがって、図6に示す実験結果から明らかなように、アンテナコイルL1、L2間の結合度が高く(結合状態が密)なり、アンテナ回路100の共振周波数が下がったとしても、負荷変調時(スイッチング素子Trがオフ状態)に共振周波数が上がり、搬送周波数(13.56MHz)におけるインピーダンス変化を大きくとれる。この結果、十分な負荷変調度が得られずに非接触ICカードがリーダ・ライタ装置に応答できなくなる弊害を回避し得る。
【0025】
以上説明したように、本発明では、アンテナコイルL1、L2間の結合度が高くなり、搬送周波数におけるインピーダンス変化が低下しても、負荷変調時にアンテナ回路100の共振周波数を高めるので、十分な負荷変調度を得ることができ、これ故、十分な負荷変調度が得られずに非接触ICカードがリーダ・ライタ装置に応答できなくなるという従来の弊害を防止できる。
なお、上述した各実施形態では、非接触ICカードのアンテナ回路100について述べたが、本発明の要旨はこれに限定されず、例えばRFID(無線タグ)等の電磁結合方式でリーダ・ライタ装置10とデータ授受するデータキャリア全般に適用可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態の構成を示す回路図である。
【図2】第1実施形態の実験結果を示す図である。
【図3】第2実施形態の構成を示す回路図である。
【図4】第2実施形態の実験結果を示す図である。
【図5】第3実施形態の構成を示す回路図である。
【図6】第3実施形態の実験結果を示す図である。
【図7】従来例の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0027】
10 リーダ・ライタ装置
20 非接触ICカード
100 アンテナ回路
101 共振部
104、105、106 負荷変調部(制御部)
200 ICチップ
L1 アンテナコイル(第1のアンテナコイル)
L2 アンテナコイル(第2のアンテナコイル)
C2 コンデンサ(同調容量)
Tp タップ
Tr スイッチング素子
L3 コイル
C4 コンデンサ
INV インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のアンテナコイルを備えた外部からのキャリア信号に共振し、このキャリア信号に応答して負荷変調信号を出力する第2のアンテナコイルと同調容量からなる共振部を備えるアンテナ回路において、
前記キャリア信号に応答して負荷変調信号を出力する際の負荷変調時に前記共振部の共振周波数を変化させて大きなインピーダンス変移を発生するインピーダンス変移部を具備することを特徴とするアンテナ回路。
【請求項2】
前記インピーダンス変移部は、前記第2のアンテナコイルの接地側に設けたタップと、このタップに直列接続された抵抗およびスイッチング素子とからなることを特徴とする請求項1記載のアンテナ回路。
【請求項3】
前記インピーダンス変移部は、前記共振部に並列接続されるコイルと、このコイルに直列接続された抵抗およびスイッチング素子とからなることを特徴とする請求項1記載のアンテナ回路。
【請求項4】
前記インピーダンス変移部は、前記共振部に並列接続されるコンデンサと、このコンデンサに直列接続された抵抗およびスイッチング素子と、このスイッチング素子をオンオフ駆動させる駆動信号を極性反転させるインバータとからことを特徴とする請求項1記載のアンテナ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−58381(P2007−58381A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240785(P2005−240785)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(504149100)株式会社カシオ日立モバイルコミュニケーションズ (893)
【Fターム(参考)】